説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】本発明の課題は、駆動耐久性が改良された有機電界発光素子および表示装置を提供することである。
【解決手段】少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層が少なくとも電子親和力(Ea値と略記する)の異なる2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、Ea値がより大きい発光材料を該発光層の前記正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さい発光材料を該発光層の前記電子輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルカラ−ディスプレイ、バックライト、照明光源等の面光源やプリンタ−等の光源アレイ等に有効に利用できる有機電界発光素子および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(以後の説明に於いて、有機EL素子と標記する。)は、発光層もしくは発光層を含む複数の有機層と、有機層を挟んだ対向電極とから構成されている。有機EL素子は、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが有機層において再結合し、生成した励起子からの発光及び前記励起子からエネルギー移動して生成した他の分子の励起子からの発光の少なくとも一方を利用した、発光を得るための素子である。
【0003】
これまで有機EL素子は、機能を分離した積層構造を用いることにより、輝度及び素子効率が大きく改善され発展してきた。例えば、正孔輸送層と発光兼電子輸送層を積層した二層積層型素子や正孔輸送層と発光層と電子輸送層とを積層した三層積層型素子や、正孔輸送層と発光層と正孔阻止層と電子輸送層とを積層した四層積層型素子がよく用いられる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
従来、これらの発光層と電極間に配置される層は、正孔および電子がそれぞれ陽極および陰極からスムーズに移動するように界面のエネルギー障壁を低くするように設計するのが一般的であった。例えば、陽極から供給される正孔が正孔輸送層と発光層との界面で受けるバリアーを低くするため発光層にはIp値(イオン化ポテンシャル)が相対的に低い発光材料が好ましいとされた。一方、陰極から供給される電子が電子輸送層と発光層との界面で受けるバリアーを低くするため発光層にはEa値(電子親和力)が相対的に大きい発光材料が好ましいとされた。このような設計は、或る程度の駆動電圧の低減および発光効率の向上をもたらした。しかしながら、これらの手段では飛躍的な発光効率の向上は望めなかった。
【0005】
発光輝度を高める手段として、同一の発光材料もしくは同系色の発光を示す蛍光発光材料を用いた複数の発光層を直列に積層した構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。素子耐久性が改良されることが開示されている。しかしながら、発光効率の飛躍的な向上は望めない。
【0006】
一方、有機EL素子の発光材料として、燐光を放射する材料を用いることにより、理論発光効率が約4倍に向上することが知られている。例えば、燐光発光材料を用いた白色発光素子が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特に、残像効果を利用したパッシブマトリックス型有機EL表示装置用の発光素子として、燐光放射型発光材料を用いた有機EL素子が注目されている。しかしながら、燐光放射型発光材料を用いた有機EL素子は、高電流密度の領域で急激に発光効率が低下するRoll−offと呼ばれる特異な現象を引き起こすことが判明した。原因解明と対策手段の開発があらゆる方面より試みられているが、未だ十分有効な手段がなく、さらなる改良手段の開発が望まれている。
【非特許文献1】サイエンス(Science),267巻,3号,1995年,1332頁
【特許文献1】特開2005−38763号公報
【特許文献2】特表2004−522276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高輝度領域の発光効率が改良された有機電界発光素子および表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段によって解決する事を見出された。
<1> 少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
<2> 前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
<3> 少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ip値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ip値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
<4> 前記2種の発光材料のIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする<3>に記載の有機電界発光素子。
<5> 少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きく、かつIp値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さく、かつIp値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
<6> 前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下であり、かつIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする<5>に記載の有機電界発光素子。
<7> 前記2種の発光材料による発光ピーク波長の差が30nm以下であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<8> 前記発光層の前記正孔輸送層に近い領域の発光材料が白金化合物であり、前記発光層の前記電子輸送層に近い領域の発光材料がイリジウム化合物であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<9> 前記発光層が少なくとも2層より成り、前記正孔輸送層に近い第1の発光層が前記白金化合物を含有し、前記電子輸送層に近い第2の発光層が前記イリジウム化合物を含有することを特徴とする<8>に記載の有機電界発光素子。
<10> 前記白金化合物が白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする<8>または<9>に記載の有機電界発光素子。
<11> 前記イリジウム化合物がイリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする<8>〜<10>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<12> 前記白金化合物が3座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする<8>〜<11>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<13> 前記イリジウム化合物が2座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする<8>〜<12>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<14> <1>〜<13>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を用いたパッシブ型マトリックス駆動の表示装置。
<15> 電流密度10mA/cm以上で駆動される<14>に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高輝度使用時の発光効率が改良された有機電界発光素子および表示装置が提供される。特に、パッシブ型マトリックス駆動の有機電界発光素子および表示装置において、高電流密度でのロールオフが改良され、高効率高輝度発光が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有機EL素子は、少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有する。
好ましくは、前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下である。より好ましくは、Ea値の差が0.2eV以上0.4eV以下である。
Ea値の差がこの範囲より小さいと、電子トラップ性に差が無さ過ぎるために高電流密度時に漏れる電子を捕捉することが難しくなり、またこの範囲より大きいと低電流密度時に効率が非常に低くなるという問題があり好ましくない。
本発明の第2の態様は、少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ip値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ip値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有する。
好ましくは、前記2種の発光材料のIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下である。より好ましくは、Ip値の差が0.2eV以上0.4eV以下である。
Ip値の差がこの範囲より小さいと、正孔トラップ性に差が無さ過ぎるために高電流密度時に漏れる正孔を捕捉することが難しくなり、またこの範囲より大きいと低電流密度時に効率が非常に低くなるという問題があり好ましくない。
本発明の第3の態様は、少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層がすくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きく、かつIp値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さく、かつIp値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有する。
好ましくは、前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下であり、かつIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下である。より好ましくは、前記2種の発光材料のEa値の差が0.2eV以上0.4eV以下であり、かつIp値の差が0.2eV以上0.4eV以下である。
Ea値の差およびIp値の差がこの範囲より小さい電荷トラップ性に差が無さ過ぎるために高電流密度時に漏れる両電荷を捕捉することが難しくなり、またこの範囲より大きいと低電流密度時に効率が非常に低くなるという問題があり好ましくない。
【0011】
上記の第1〜第3の態様において、該発光層の正孔輸送層に近接した領域、および該発光層の電子輸送層に近接した領域における発光材料の密度がより大きいとは、該発光材料を100質量%含有するか、あるいは他の発光材料と共存する場合は、発光材料の総量の内該発光材料を55質量%以上、好ましくは80質量%以上含有することを意味する。
【0012】
好ましくは、前記2種の発光材料による発光ピーク波長の差が30nm以下である。より好ましくは、20nm以下である。
【0013】
好ましくは、前記発光層の前記正孔輸送層に近い領域の発光材料が白金化合物であり、前記発光層の前記電子輸送層に近い領域の発光材料がイリジウム化合物である。
好ましくは、前記発光層が少なくとも2層より成り、前記正孔輸送層に近い第1の発光層が前記白金化合物を含有し、前記電子輸送層に近い第2の発光層が前記イリジウム化合物を含有する。
好ましくは、前記白金化合物が白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であり、前記イリジウム化合物がイリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体である。より好ましくは、前記白金化合物が3座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体であり、前記イリジウム化合物が2座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体である。
本発明に於いては、発光層に白金化合物およびイリジウム化合物が混在しても良いが、該発光層の正孔輸送層に近い領域により多量に白金化合物が存在し、一方、該発光層の電子輸送層に近い領域にイリジウム化合物がより多量に存在する。本発明に於いて、より多量に存在するとは、発光層の該当領域に含まれる全ての発光材料の中で、該発光材料が発光層の該当する領域に単独で含有されるか、あるいは他の発光材料と共存する場合は、発光材料の該当領域における総量に対して該発光材料が55質量%以上、好ましくは80質量%以上含有されていることを意味する。例えば発光層の正孔輸送層に近い領域においては、白金化合物のみが発光材料として含有されるか、イリジウム化合物が共存する場合には、白金化合物の含有率が発光材料の総量に対して55質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれていることを示す。
【0014】
本発明に於いては、白金化合物とイリジウム化合物の発光層内の厚み方向の濃度分布は、連続的、あるいは階段状のいずれのパターンで変化しても構わない。一つの好ましいパターンでは、前記発光層が少なくとも2層の発光層を有し、前記正孔輸送層に近い第1の発光層が白金化合物を含有し、前記電子輸送層に近い第2の発光層がイリジウム化合物を含有する。
好ましくは、前記白金化合物が白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であり、前記イリジウム化合物がイリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体である。
【0015】
本発明の表示装置の態様の一つは、高電流密度で高輝度の単色発光を与える表示装置である。本発明の表示装置の別の態様は、互いに発光色の異なる白金化合物およびイリジウム化合物を用いることによる高輝度の白色発光を与える表示装置である。
【0016】
本発明の有機電界発光素子を用いた表示装置は、特に高い電流密度10mA/cm以上で駆動した場合に、特に高発光効率で高輝度光を実現できる。
特に、パッシブ型マトリックス駆動の表示装置とした場合、高電流密度でのロールオフが改良され、高効率高輝度発光が実現される。
【0017】
次に、本発明の有機El素子および表示装置について詳細に説明する。
【0018】
1.有機EL素子
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極(陽極と陰極)間に少なくとも発光層を含む有機化合物層を有し、更に、好ましくは、陽極と該発光層との間に正孔注入層を、また陰極と該発光層との間に電子輸送層を有する。
【0019】
1)層構成
<電極>
本発明の有機電界発光素子の一対の電極は、少なくとも一方は透明電極であり、もう一方は背面電極となる。背面電極は透明であっても、非透明であっても良い。
<有機化合物層の構成>
前記有機化合物層の層構成としては、特に制限はなく、有機電界発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、前記透明電極上に又は前記背面電極上に形成されるのが好ましい。この場合、有機化合物層は、前記透明電極又は前記背面電極上の前面又は一面に形成される。
有機化合物層の形状、大きさ、および厚み等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
具体的な層構成として、下記が挙げられるが本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
・陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極。
【0021】
以下に各層について詳細に説明する。
2)正孔輸送層
本発明に用いられる正孔輸送層は正孔輸送材を含む。前記正孔輸送材としては正孔を輸送する機能、もしくは陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているもので有れば特に制限されることはなく用いることが出来る。本発明に用いられる正孔輸送材としては、低分子正孔輸送材、および高分子正孔輸送材のいずれも用いることができる。
本発明に用いられる正孔輸送材の具体例として、例えば以下の材料を挙げることができる。
【0022】
カルバゾ−ル誘導体、イミダゾ−ル誘導体、ポリアリ−ルアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリ−ルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾ−ル)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマ−、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマ−、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、およびポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。
これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
正孔輸送層の厚みとしては、10nm〜200nmが好ましく、20nm〜80nmがより好ましい。前記厚みが、200nmを越えると駆動電圧が上昇することがあり、10nm未満であると該発光素子が短絡することがあるので好ましくない。
【0024】
3)正孔注入層
本発明おいては、正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層を設けることができる。
正孔注入層とは、陽極から正孔輸送層に正孔を注入しやすくする層であり、具体的には前記正孔輸送材の中でイオン化ポテンシャルの小さな材料が好適用いられる。例えばフタロシアニン化合物、ポルフィリン化合物、およびスターバースト型トリアリールアミン化合物等を挙げることができ、好適に用いることができる。
正孔注入層の膜厚は、1nm〜30nmが好ましい。
【0025】
本発明の有機EL素子の正孔注入層あるいは正孔輸送層には、電子受容性ドーパントを含有させることができる。正孔注入層、あるいは正孔輸送層に導入する電子受容性ドーパントとしては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、無機化合物でも有機化合物でも使用できる。
【0026】
具体的には、無機化合物は塩化第二鉄や塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモンなどのハロゲン化金属、五酸化バナジウム、三酸化モリブデンなどの金属酸化物などが挙げられる。
【0027】
有機化合物の場合は、置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基などを有する化合物、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどを好適に用いることができる。
この他にも、特開平6−212153、特開平11−111463、特開平11−251067、特開2000−196140、特開2000−286054、特開2000−315580、特開2001−102175、特開2001−160493、特開2002−252085、特開2002−56985、特開2003−157981、特開2003−217862、特開2003−229278、特開2004−342614、特開2005−72012、特開2005−166637、特開2005−209643等に記載の化合物を好適に用いることが出来る。
【0028】
これらの電子受容性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。電子受容性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、正孔輸送層材料に対して0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.05質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
【0029】
4)発光層
本発明における発光層は、すくなくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有する。本発明の第1の態様では、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有する。本発明の第2の態様では、該2種の発光材料の内、Ip値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ip値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有する。本発明の第3の態様では、該2種の発光材料の内、Ea値がより大きく、かつIp値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さく、かつIp値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有する。
【0030】
好ましくは、本発明における発光層は、正孔輸送層に近い領域に白金化合物を含有し、前記発光層の前記電子輸送層に近い領域にイリジウム化合物を含有する。
【0031】
本発明における発光層の構成は、複数の発光層の積層体であっても、厚み方向に連続的に発光材料の組成が変化した構成であってもよい。
発光層を複数の発光層からなる積層体とする場合、好ましい積層構成の例として下記が挙げられる。
・陽極/正孔輸送層/Ea値がより大きい発光材料をより高密度で含有する発光層/Ea値がより小さい発光材料をより高密度で含有する発光層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔輸送層/Ip値がより大きい発光材料をより高密度で含有する発光層/Ip値がより小さい発光材料をより高密度で含有する発光層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔輸送層/Ea値およびIp値がともにより大きい発光材料をより高密度で含有する発光層/Ea値またはIp値がより小さい発光材料またはEa値およびIp値がともにより小さい発光材料をより高密度で含有する発光層/電子輸送層/陰極
【0032】
さらに好ましい積層構成の例として下記が挙げられる。
・陽極/正孔輸送層/白金化合物をより高密度で含有する発光層/イリジウム化合物をより高密度で含有する発光層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔輸送層/白金化合物をより高密度で含有する発光層/白金化合物とイリジウム化合物を含有する発光層/イリジウム化合物をより高密度で含有する発光層/電子輸送層/陰極
【0033】
さらに、上記2つの発光層の間に、これらの発光層の発光材料組成の中間組成を有する第3の発光層、および第4の発光層を介在させてもよい。
【0034】
厚み方向に連続的に発光材料の組成が変化した構成とする場合、例えば、蒸着法で発光層を形成する場合に、複数の発光材料の蒸着ステーションからの蒸着速度をそれぞれ連続的に変化させて、複数の発光材料を異なる組成で沈着させる手段によって作製することが出来る。あるいは塗布法によって発光層を形成する場合は、第1の発光材料を含有する塗布層の上に、該塗布層を溶解もしくは膨潤させる溶剤を溶媒とした第2の発光材料を含有する塗布液を塗布し、発光材料を層間混合させることによって形成することが出来る。
【0035】
本発明における発光層は、発光材料の他に必要に応じて正孔輸送材、電子輸送材、ホスト材を含んでもよい。
【0036】
(発光材料)
本発明における発光層は、少なくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有する。好ましくは、前記2種の発光材料による発光ピーク波長の差が30nm以下であり、より好ましくは20nn以下である。
【0037】
燐光発光材料としては特に限定されることはないが、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体を挙げることができる。
例えば、該遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金であり、更に好ましくはイリジウム、白金である。
ランタノイド原子としては、例えばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0038】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、芳香族炭素環配位子(例えば、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、またはナフチルアニオンなど)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、またはフェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、アルコラト配位子(例えば、フェノラト配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。
上記錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0039】
具体例としては、例えば、US6303238B1、US6097147、WO00/57676、WO00/70655、WO01/08230、WO01/39234A2、WO01/41512A1、WO02/02714A2、WO02/15645A1、WO02/44189A1、特開2001−247859、特開2002−302671、特開2002−117978、特開2003−133074、特開2002−235076、特開2003−123982、特開2002−170684、EP1211257、特開2002−226495、特開2002−234894、特開2001−247859、特開2001−298470、特開2002−173674、特開2002−203678、特開2002−203679、特開2004−357791、特開2006−256999、特開2007−19462等の特許文献に記載の燐光発光化合物などが挙げられ、中でも、更に具体的には、Ir錯体、Pt錯体、Cu錯体、Re錯体、W錯体、Rh錯体、Ru錯体、Pd錯体、Os錯体、Eu錯体、Tb錯体、Gd錯体、Dy錯体、Ce錯体が挙げられる。
【0040】
燐光発光材料として好ましくは、オルトメタル化金属錯体、又はポルフィリン金属錯体である。
【0041】
上記オルトメタル化金属錯体とは、例えば山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」150頁〜232頁、裳華房社(1982年発行)やH.Yersin著「Photochemistry and Photophisics of Coodination Compounds」、71頁〜77頁、135頁〜146頁、Springer−Verlag社(1987年発行)等に記載されている化合物群の総称である。該オルトメタル化金属錯体を発光材料として発光層に用いることは、高輝度で発光効率に優れる点で有利である。
【0042】
上記オルトメタル化金属錯体を形成する配位子としては、種々のものがあり、上記文献にも記載されているが、その中でも好ましい配位子としては、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体、および2−フェニルキノリン誘導体等が挙げられる。これらの誘導体は必要に応じて置換基を有してもよい。また、上記オルトメタル化金属錯体は、上記配位子のほかに、他の配位子を有していてもよい。
【0043】
本発明で用いるオルトメタル化金属錯体は、Inorg Chem.,1991年,30号,1685頁、同1988年,27号,3464頁、同1994年,33号,545頁、Inorg.Chim.Acta,1991年,181号,245頁、J.Organomet.Chem.,1987年,335号,293頁、J.Am.Chem.Soc.1985年,107号,1431頁等、種々の公知の手法で合成することができる。
上記オルトメタル化錯体の中でも、三重項励起子から発光する化合物が本発明においては発光効率向上の観点から好適に使用することができる。
【0044】
本発明における特に好ましい発光材料は、発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有される発光材料として白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であり、発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有される発光材料としては、イリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体である。
【0045】
《白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体》
白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体として、下記の具体的化合物を挙げることが出来る。
【0046】
【化1】

【0047】
白金錯体Pt−1は緑色発光白金錯体であり、白金錯体Pt−2は青緑色発光白金錯体、白金錯体Pt−3は青色発光白金錯体、そして白金錯体PtOEPは赤色発光白金錯体である。
【0048】
《イリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体》
本発明に用いられるイリジウム化合物は、好ましくは2座以上の多座配位子を含むイリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体である。
イリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体として、下記の具体的化合物を挙げることが出来る。
【0049】
【化2】

【0050】
Ir(piq)および(btp)Ir(acac)は赤色発光イリジウム錯体であり、Ir(ppy)およびIr(ppy)(ppz)は緑色発光イリジウム錯体であり、Flrpicは青緑色発光イリジウム錯体である。
【0051】
本発明における発光層は、発光材料の他に必要に応じて正孔輸送材、電子輸送材、ホスト材を含んでもよい。
【0052】
これらの金属錯体のEa値およびIp値をもとに本発明の好ましい組合せの例を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
ホスト材とは、その励起状態から、燐光発光材料へエネルギー移動を起こし、その結果、蛍光発光材料または燐光発光材料を発光させる機能を有する材料のことである。
【0055】
ホスト材としては、励起子エネルギーを発光材料にエネルギー移動させることのできる化合物ならば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、具体的にはカルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾ−ル)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、およびポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ホスト材の発光層における含有量としては0質量%〜99.9質量%が好ましく、さらに好ましくは0質量%〜99.0質量%である。
【0056】
5)電荷発生層
本発明の有機EL素子は、発光効率を向上させるため、複数の発光層の間に電荷発生層が設けた構成をとることができる。
前記電荷発生層は、電界印加時に電荷(正孔及び電子)を発生する機能を有すると共に、発生した電荷を電荷発生層と隣接する層に注入させる機能を有する層である。
【0057】
前記電荷発生層を形成する材料は、上記の機能を有する材料であれば何でもよく、単一化合物で形成されていても、複数の化合物で形成されていてもよい。
具体的には、導電性を有するものであっても、ドープされた有機層のように半導電性を有するものであっても、また、電気絶縁性を有するものであってもよく、特開平11−329748や、特開2003−272860や、特開2004−39617に記載の材料が挙げられる。
【0058】
更に具体的には、ITO、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などの透明導電材料、C60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等などの導電性有機物、Ca、Ag、Al、Mg:Ag合金、Al:Li合金、Mg:Li合金などの金属材料、正孔伝導性材料、電子伝導性材料、及びそれらを混合させたものを用いてもよい。
【0059】
前記正孔伝導性材料は、例えば2−TNATA、NPDなどの正孔輸送有機材料にF4−TCNQ、TCNQ、FeClなどの電子求引性を有する酸化剤をドープさせたものや、P型導電性高分子、P型半導体などが挙げられ、前記電子伝導性材料は電子輸送有機材料に4.0eV未満の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物をドープしたものや、N型導電性高分子、N型半導体が挙げられる。N型半導体としては、N型Si、N型CdS、N型ZnSなどが挙げられ、P型半導体としては、P型Si、P型CdTe、P型CuOなどが挙げられる。
また、前記電荷発生層として、Vなどの電気絶縁性材料を用いることもできる。
【0060】
前記電荷発生層は、単層でも複数積層させたものでもよい。複数積層させた構造としては、透明伝導材料や金属材料などの導電性を有する材料と正孔伝導性材料、または、電子伝導性材料を積層させた構造、上記の正孔伝導性材料と電子伝導性材料を積層させた構造の層などが挙げられる。
【0061】
前記電荷発生層は、一般に、可視光の透過率が50%以上になるよう、膜厚・材料を選択することが好ましい。また膜厚は、特に限定されるものではないが、0.5〜200nmが好ましく、1〜100nmがより好ましく、3〜50nmがさらに好ましく、5〜30nmが特に好ましい。
電荷発生層の形成方法は、特に限定されるものではなく、前述した有機化合物層の形成方法を用いることができる。
【0062】
電荷発生層は前記二層以上の発光層間に形成するが、電荷発生層の陽極側および陰極側には、隣接する層に電荷を注入する機能を有する材料を含んでいても良い。陽極側に隣接する層への電子の注入性を上げるため、例えば、BaO、SrO、LiO、LiCl、LiF、MgF、MgO、CaFなどの電子注入性化合物を電荷発生層の陽極側に積層させてもよい。
【0063】
以上で挙げられた内容以外にも、特開2003−45676号公報、米国特許第6337492号、同第6107734号、同第6872472号等に記載を元にして、電荷発生層の材料を選択することができる。
【0064】
6)ブロック層
本発明においては、発光層と電子輸送層との間にブロック層を設けることができる。ブロック層とは発光層で生成した励起子の拡散抑制する層であり、また正孔が陰極側に突き抜けることを抑制する層である。
【0065】
ブロック層に用いられる材料は、電子輸送層より電子を受け取り、発光層にわたす事のできる材料で有れば特に限定されることはなく、一般的な電子輸送材を用いることができる。例えば以下の材料を挙げることができる。トリアゾ−ル誘導体、オキサゾ−ル誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマ−、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマ−、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、およびポリフルオレン誘導体等の高分子化合物を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
7)電子輸送層
本発明においては電子輸送材を含む電子輸送層を設けることができる。
電子輸送材としては電子を輸送する機能、もしくは陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているもので有れば制限されることはなく、前記ブロック層の説明時に挙げた電子輸送材を好適に用いることができる。
前記電子輸送層の厚みとしては、10nm〜200nmが好ましく、20nm〜80nmがより好ましい。
【0067】
前記厚みが、200nmを越えると駆動電圧が上昇することがあり、10nm未満であると該発光素子が短絡することがあり好ましくない。
【0068】
8)電子注入層
本発明おいては、電子輸送層と陰極の間に電子注入層を設けることができる。
電子注入層とは、陰極から電子輸送層に電子を注入しやすくする層であり、具体的にはフッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム等のリチウム塩、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属塩、酸化リチウム、酸化アルミニウム、酸化インジウム、または酸化マグネシウム等の絶縁性金属酸化物等を好適に用いることができる。
電子注入層の膜厚は0.1nm〜5nmが好ましい。
【0069】
本発明の有機EL素子の電子注入層あるいは電子輸送層には、電子供与性ドーパントを含有させることができる。電子注入層、あるいは電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントとしては、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していればよく、Liなどのアルカリ金属、Mgなどのアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属や還元性有機化合物などが好適に用いられる。金属としては、特に仕事関数が4.2eV以下の金属が好適に使用でき、具体的には、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、およびYbなどが挙げられる。また、還元性有機化合物としては、例えば、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物などが挙げられる。
この他にも、特開平6−212153、特開2000−196140、特開2003−68468、特開2003−229278、特開2004−342614等に記載の材料を用いることが出来る。
【0070】
これらの電子供与性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。電子供与性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料に対して0.1質量%〜99質量%であることが好ましく、1.0質量%〜80質量%であることが更に好ましく、2.0質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0071】
前記厚みが、200nmを越えると駆動電圧が上昇することがあり、10nm未満であると該発光素子が短絡することがあり好ましくない。
【0072】
9)有機化合物層の形成方法
前記有機化合物層は、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、ディッピング、スピンコ−ト法、ディップコ−ト法、キャスト法、ダイコ−ト法、ロ−ルコ−ト法、バ−コ−ト法、またはグラビアコ−ト法等の湿式製膜法いずれによっても好適に製膜することができる。
中でも発光効率、耐久性の点から乾式法が好ましい。
【0073】
次に、本発明の有機電界発光素子に用いられる基板と電極について説明する。
10)基板
本発明に用いられる基板の材料としては、第一の基板および第二の基板ともに水分を透過させない材料又は水分透過率の極めて低い材料が好ましく、また、前記有機化合物層から発せられる光を散乱乃至減衰等のさせることのない材料が好ましい。具体的例として、例えばYSZ(ジルコニア安定化イットリウム)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカ−ボネ−ト、ポリエ−テルスルホン、ポリアリレ−ト、アリルジグリコ−ルカ−ボネ−ト、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の合成樹脂等の有機材料、などが挙げられる。
前記有機材料の場合、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、低通気性、低吸湿性等に優れていることが好ましい。これらの中でも、前記透明電極の材料が該透明電極の材料として好適に使用される酸化錫インジウム(ITO)である場合には、該酸化錫インジウム(ITO)との格子定数の差が小さい材料が好ましい。これらの材料は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。一般的には、前記形状としては、板状である。前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。
【0075】
基板は、無色透明であってもよいし、有色透明であってもよいが、前記発光層から発せられる光を散乱あるいは減衰等させることがない点で、無色透明であるのが好ましい。
【0076】
基板には、その表面又は裏面(前記透明電極側)に透湿防止層(ガスバリア層)を設けるのが好ましい。前記透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、窒化珪素、酸化珪素などの無機物が好適に用いられる。該透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば、高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
基板には、さらに必要に応じて、ハ−ドコ−ト層、およびアンダ−コ−ト層などを設けてもよい。
【0077】
11)陽極
本発明に用いられる陽極としては、通常、前記有機化合物層に正孔を供給する陽極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極の中から適宜選択することができる。
【0078】
陽極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、有機導電性化合物、またはこれらの混合物を好適に挙げられ、仕事関数が4.0eV以上の材料が好ましい。具体例としては、アンチモンやフッ素等をド−プした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の半導性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロ−ルなどの有機導電性材料、およびこれらとITOとの積層物などが挙げられる。
【0079】
陽極は例えば、印刷方式、コ−ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。例えば、陽極の材料として、ITOを選択する場合には、該陽極の形成は、直流あるいは高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレ−ティング法等に従って行うことができる。また陽極の材料として有機導電性化合物を選択する場合には湿式製膜法に従って行うことができる。
【0080】
陽極の前記発光素子における形成位置としては、特に制限はなく、該発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、前記基板上に形成されるのが好ましい。この場合、該陽極は、前記基板における一方の表面の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
【0081】
なお、前記陽極のパタ−ニングは、フォトリソグラフィ−などによる化学的エッチングにより行ってもよいし、レ−ザ−などによる物理的エッチングにより行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法により行ってもよい。
【0082】
陽極の厚みとしては、前記材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜50μmであり、50nm〜20μmが好ましい。
陽極の抵抗値としては、10Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましい。
【0083】
陽極は、無色透明であっても、有色透明であってもよく、該陽極側から発光を取り出すためには、その透過率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。この透過率は、分光光度計を用いた公知の方法に従って測定することができる。
本発明においては、生じた発光を導光部材となる透明基板に効率良く導光させるために、透明基板にあらかじめ設けられる電極は光透過性電極であることが好ましい。特に好ましい陽極電極はITOである。
【0084】
陽極については、沢田豊監修「透明電極膜の新展開」シ−エムシ−刊(1999)に詳述があり、これらを本発明に適用することができる。耐熱性の低いプラスティック基材を用いる場合は、ITOまたはIZOを使用し、150℃以下の低温で製膜した陽極が好ましい。
【0085】
12)陰極
本発明に用いることの出来る陰極としては、通常、前記有機化合物層に電子を注入する陰極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極の中から適宜選択することができる。
【0086】
陰極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、および電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられ、仕事関数が4.5eV以下のものが好ましい。具体例としてはアルカリ金属(たとえば、Li、Na、K、またはCs等)、アルカリ土類金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、およびイッテルビウム等の希土類金属、などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
【0087】
これらの中でも、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ度類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、又はアルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属との合金若しくは混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、またはマグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0088】
陰極の材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報に詳述されていて、これらを本発明に適用することができる。
【0089】
陰極の形成法は、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、印刷方式、コ−ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。例えば、前記陰極の材料として、金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次にスパッタ法等に従って行うことができる。
【0090】
陰極のパタ−ニングは、フォトリソグラフィ−などによる化学的エッチングにより行ってもよいし、レ−ザ−などによる物理的エッチングにより行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法により行ってもよい。
【0091】
陰極の有機電界発光素子における形成位置としては、特に制限はなく、該発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、有機化合物層上に形成されるのが好ましい。この場合、該陰極は、前記有機化合物層上の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
また、陰極と有機化合物層との間に前記アルカリ金属又は前記アルカリ土類金属のフッ化物等による誘電体層を0.1nm〜5nmの厚みで挿入してもよい。
なお、該誘電体層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、またはイオンプレ−ティング法等により形成することができる。
【0092】
陰極の厚みとしては、前記材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μmであり、50nm〜1μmが好ましい。
陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。なお、透明な陰極は、前記陰極の材料を1nm〜10nmの厚みに薄く製膜し、更に前記ITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0093】
2.その他の素子構成部材
(樹脂封止層)
本発明の機能素子は樹脂封止層により大気との接触により、酸素や水分による素子性能の劣化を抑制することが好ましい。
<素材>
樹脂封止層の樹脂素材としては、特に限定されることはなく、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ゴム系樹脂、またはエステル系樹脂等を用いることができるが、中でも水分防止機能の点からエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の中でも熱硬化型エポキシ樹脂、または光硬化型エポキシ樹脂が好ましい。
<作製方法>
樹脂封止層の作製方法は特に限定されることはなく、例えば、樹脂溶液を塗布する方法、樹脂シートを圧着または熱圧着する方法、蒸着やスパッタリング等により乾式重合する方法が挙げられる。
<膜厚み>
樹脂封止層の厚みは1μm以上、1mm以下が好ましい。更に好ましくは5μm以上、100μm以下であり、最も好ましくは10μm以上50μm以下である。これよりも薄いと、第2の基板を装着時に上記無機膜を損傷する恐れがある。またこれよりも厚いと電界発光素子自体の厚みが厚くなり、有機電界発光素子の特徴である薄膜性を損なうことになる。
【0094】
(封止接着剤)
本発明に用いられる封止接着剤は、端部よりの水分や酸素の侵入を防止する機能を有する。
<素材>
前記封止接着剤の材料としては、前記樹脂封止層で用いる材料と同じものを用いることができる。中でも、水分防止の点からエポキシ系の接着剤が好ましく、中でも光硬化型接着剤あるいは熱硬化型接着剤が好ましい。
【0095】
また、上記材料にフィラーを添加することも好ましい。
封止剤に添加されているフィラーとしては、SiO、SiO(酸化ケイ素)、SiON(酸窒化ケイ素)またはSiN(窒化ケイ素)等の無機材料が好ましい。フィラーの添加により、封止剤の粘度が上昇し、加工適正が向上し、および耐湿性が向上する。
【0096】
<乾燥剤>
封止接着剤は乾燥剤を含有しても良い。乾燥剤としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、または酸化ストロンチウムが好ましい。
封止接着剤に対する乾燥剤の添加量は、0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上15質量%以下である。これよりも少ないと、乾燥剤の添加効果が薄れることになる。またこれよりも多い場合には封止接着剤中に乾燥剤を均一分散させることが困難になり好ましくない。
<封止接着剤の処方>
・ポリマー組成、濃度、
封止接着剤としては特に限定されることはなく、前記のものを用いることができる。例えば光硬化型エポキシ系接着剤としては長瀬ケムテック(株)製のXNR5516を挙げることができる。そこに直接前記乾燥剤を添加し、分散せしめれば良い。
・厚み
封止接着剤の塗布厚みは1μm以上1mm以下であることが好ましい。これよりも薄いと封止接着剤を均一に塗れなくなり好ましくない。またこれよりも厚いと、水分が侵入する道筋が広くなり好ましくない。
<封止方法>
本発明においては、上記乾燥剤の入った封止接着剤をディスペンサー等により任意量塗布し、塗布後第2基板を重ねて、硬化させることにより機能素子を得ることができる。
【0097】
3.表示装置
本発明の有機EL素子は、パッシブマトリックス型駆動の表示装置およびアクティブマトリックス型駆動の表示装置のいずれにも好ましく用いることが出来る。本発明の有機EL素子の特徴がより好ましく発揮される表示装置は、パッシブマトリックス型駆動の表示装置である。本発明の有機EL素子は高電流密度領域で高発光効率の高輝度発光を得ることができ、高い耐久性を有していて、燐光発光材料を用いたパッシブマトリックス型駆動の表示装置においても十分に高輝度を安定して得ることができる。
特に、本発明の有機EL素子は、電流密度10mA/cm以上で駆動される表示装置で高い発光効率で高輝度である。
【0098】
本発明の発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜20ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
【0099】
この発光素子の重要な特性値として、外部量子効率がある。外部量子効率は、「外部量子効率φ=素子から放出されたフォトン数/素子に注入された電子数」で算出され、この値が大きいほど消費電力の点で有利な素子と言える。
【0100】
また、発光素子の外部量子効率は、「外部量子効率φ=内部量子効率×光取り出し効率」で決まる。有機化合物からの蛍光発光を利用する有機EL素子においては、内部量子効率の限界値が25%であり、光取り出し効率が約20%であることから、外部量子効率の限界値は約5%とされている。また、有機金属錯体からの燐光発光を利用する有機EL素子においては、内部量子効率の限界値が100%であり、光取り出し効率が約20%であることからEL外部量子効率の限界値は20%とされている。
【0101】
素子の外部量子効率としては、消費電力を下げられる点、駆動耐久性を上げられる点で、6%以上が好ましく、12%以上が特に好ましい。
本発明においては、東陽テクニカ製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流定電圧をEL素子に印加し発光させ、その輝度をトプコン社製輝度計BM−8を用いて測定し、200cd/mにおける外部量子効率を算出した値を用いる。
【0102】
また、発光素子の外部量子効率は、発光輝度、発光スペクトル、電流密度を測定し、その結果と比視感度曲線から算出することができる。すなわち、電流密度値を用い、入力した電子数を算出することができる。そして、発光スペクトルと比視感度曲線(スペクトル)を用いた積分計算により、発光輝度を発光したフォトン数に換算することができる。これらから外部量子効率(%)は、「(発光したフォトン数/素子に入力した電子数)×100」で計算することができる。
【0103】
本発明の発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
【0104】
(本発明の発光素子の用途)
本発明の発光素子は、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、または光通信等に好適に利用できる。特に、パッシブマトリックス型駆動の表示装置等の発光輝度が高い領域で駆動されるデバイスに好ましく用いられる。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明の発光素子の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0106】
実施例1
1.発光材料のEa値、Ip値、および発光スペクトルの測定
(発光材料のEa値、およびIp値の測定)
3種の発光材料、mCP、Ir(ppy)、および白金錯体Pt−1について下記に従ってEa値、およびIp値を測定した。
真空蒸着法により、各試料をガラス基板上に100nmの厚みに蒸着して測定用試料を作製した。得られた試料を理研計器(株)製の大気中電子分光装置AC−2により光量が20nWにおけるIp値を測定した。
また、真空蒸着法により石英基板上に100nnの厚みに蒸着して測定用試料を作製し、得られた試料を日立製作所製の日立分光光度計U3310型で波長180nm〜700nmの分光吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルの最も長波側の吸収端からエネルギーギャップ値(Eg(ev))を算出した。得られたEg値とIp値から下記式(1)によりEaを算出した。
Ea(ev)=Eg(eV)−Ip(eV) (1)
【0107】
得られた値を表2に示した。Ir(ppy)が測定した燐光発光材料の中でIp値が最も小さく、また、白金錯体Pt−1が最もEa値が大きかった。
【0108】
【表2】

【0109】
(発光材料の発光スペクトルの測定)
測定試料A:真空蒸着法により、mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした発光層を50nmの厚みに石英基板上に蒸着した。
測定用試料B:真空蒸着法により、mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした発光層を50nmの厚みに石英基板上に蒸着した。
得られた試料に365nmの励起光を照射して、ミノルタ社製CS−1000にて発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルを図1に示した。横軸は波長、縦軸は発光強度をピーク波長における強度を1.0としてノーマライズして示した。試料Aの発光ピーク波長は513nm、試料Bの発光ピーク波長は504nmであった。発光ピーク波長の差は9nmであり、実質的に同系色であった。
【0110】
2.有機EL素子の作製
1)比較の有機EL素子A1の作製
0.5mm厚み、2.5cm角のガラス基板を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。この透明陽極上に真空蒸着法にて以下の層を蒸着した。本発明の実施例における蒸着速度は特に断りのない場合は0.2nm/秒である。蒸着速度は水晶振動子を用いて測定した。以下に記載の膜厚も水晶振動子を用いて測定したものである。
【0111】
陽極:ガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)を膜厚100nmに蒸着した。
正孔注入層:陽極(ITO)の上に、2−TNATAを膜厚140nmに蒸着した。
正孔輸送層:正孔注入層の上に、α−NPDを膜厚7nmに蒸着した。
第二正孔輸送層:正孔輸送層の上にアミン化合物AM−1を厚み3nmに蒸着した。
発光層:第二正孔輸送層の上にmCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした発光層を30nmの厚みに蒸着した。
電子輸送層:発光層の上にBAlqを厚み40nmに蒸着した。
電子注入層:電子輸送層の上にLiFを厚み1nmに蒸着した。
陰極:電子輸送層の上にパタ−ニングしたマスク(発光領域が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、金属アルミニウムを100nm蒸着し陰極とした。
【0112】
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。こうして、比較の有機EL素子A1を得た。
【0113】
2)比較の有機EL素子A2の作製
有機EL素子A1の作製において、発光層として、mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み30nmの発光層を用いた以外は有機EL素子A1と同様にして比較の有機EL素子A2を作製した。
【0114】
3)比較の有機EL素子A3の作製
有機EL素子A1の作製において、発光層として、下記の2層の発光層を用いた以外は有機EL素子A1と同様にして比較の有機EL素子A3を作製した。
発光層1(正孔輸送層に近接):mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした厚み15nmの発光層。
発光層2(電子輸送層に近接):mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み15nmの発光層。
【0115】
4)比較の有機EL素子A4の作製
有機EL素子A1の作製において、発光層として、下記の発光層を用いた以外は有機EL素子A1と同様にして比較の有機EL素子A4を作製した。
発光層:mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)、および15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み30nmの発光層。
【0116】
5)本発明の有機EL素子1の作製
有機EL素子A1の作製において、発光層として、下記の2層の発光層を用いた以外は有機EL素子A1と同様にして本発明の有機EL素子1を作製した。
発光層1(正孔輸送層に近接):mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み15nmの発光層。
発光層2(電子輸送層に近接):mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした厚み15nmの発光層。
【0117】
6)本発明の有機EL素子2の作製
有機EL素子A1の作製において、発光層として、下記の3層の発光層を用いた以外は有機EL素子A1と同様にして本発明の有機EL素子2を作製した。
発光層1(正孔輸送層に近接):mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み10nmの発光層。
発光層2(中間の発光層):mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)、および15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした厚み10nmの発光層。
発光層3(電子輸送層に近接):mCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした厚み10nmの発光層。
【0118】
前記の発光素子に用いた化合物の構造を下記に示す。
【0119】
【化3】

【0120】
【化4】

【0121】
3.性能評価
(評価項目)
(1)外部発光量子効率
駆動電流密度を変化させて、輝度1,000cd/mと30,000cd/mにおける外部発光量子効率を測定した。測定方法としては、有機EL素子の正面における分光放射輝度を分光放射輝度計(コニカミノルタ(株)製CS−1000)を用いて測定し、放射強度の角度依存性をLambertian性と仮定し、波長ごとの放射強度を放出フォトン数に換算し、駆動電流密度との比から外部発光量子効率を求めた。
【0122】
(評価結果)
得られた結果を表3に示した。
表3のデータより明らかに、本発明の有機EL素子は、電流密度を高くして30,000cd/mの輝度の発光をさせた場合の外部量子効率が極めて高い。さらに1,000cd/mの低い輝度における外部量子効率に対して、高輝度にして外部量子効率は低下せず、むしろ増加した。また、表には示さなかったが、発光色は30,000cd/mの高輝度でも1,000cd/mの低輝度でも殆ど変化が認められなかった。
それに対して、比較の有機EL素子はいずれも30,000cd/mの輝度の発光をさせた場合に外部量子効率が著しく低下した。
【0123】
パッシブマトリックス型駆動の表示装置の場合、各画素部では高い電流密度を通じて瞬間的に高輝度発光させる必要があり、本発明の発光素子はそのような場合に発光効率が高くなるように設計されているため、有利に利用することができる。
【0124】
【表3】

【0125】
実施例2
1.有機EL素子の作製
1)比較の有機EL素子B1の作製
0.5mm厚み、2.5cm角のガラス基板を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。この透明陽極上に真空蒸着法にて以下の層を蒸着した。本発明の実施例における蒸着速度は特に断りのない場合は0.2nm/秒である。蒸着速度は水晶振動子を用いて測定した。以下に記載の膜厚も水晶振動子を用いて測定したものである。
【0126】
陽極:ガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)を膜厚100nmに蒸着した。
正孔注入層:陽極(ITO)の上に、2−TNATAを膜厚100nmに蒸着した。
正孔輸送層:正孔注入層の上に、α−NPDを膜厚7nmに蒸着した。
第二正孔輸送層:正孔輸送層の上にアミン化合物AM−1を厚み3nmに蒸着した。
発光層:第二正孔輸送層の上に下記の発光層を2層蒸着した。
発光層1:mCPとmCPに対して8.0質量%のFIrpicをドープした発光層を15nmの厚みに蒸着した。
発光層2:mCPとmCPに対して8.0質量%の(btp)Ir(acac)をドープした発光層を15nmの厚みに蒸着した。
電子輸送層:発光層の上にBAlqを厚み40nmに蒸着した。
電子注入層:電子輸送層の上にLiFを厚み1nmに蒸着した。
陰極:電子輸送層の上にパタ−ニングしたマスク(発光領域が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、金属アルミニウムを100nm蒸着し陰極とした。
【0127】
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。こうして、比較の有機EL素子A1を得た。
【0128】
2)本発明の有機EL素子3の作製
比較の有機EL素子B1の作製において、発光層として、下記の2層の発光層を用いた以外は有機EL素子B1と同様にして本発明の有機EL素子3を作製した。
発光層1(正孔輸送層に近接):mCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−2をドープした厚み15nmの発光層。
発光層2(電子輸送層に近接):mCPとmCPに対して8.0質量%の(btp)Ir(acac)をドープした厚み15nmの発光層。
【0129】
2.性能評価
実施例1と同様に輝度1,000cd/mと10,000cd/mにおける外部発光量子効率を測定した。
【0130】
得られた結果を表4に示した。
比較試料および本発明の試料とも白色発光を示した。
また、表4のデータより明らかに、本発明の有機EL素子3は、電流密度を高くして10,000cd/mの輝度の発光をさせた場合に高い外部量子効率を示した。1,000cd/mの低い輝度における外部量子効率に対して、高輝度にして外部量子効率は低下せず、むしろ増加することが極めて特徴的挙動であった。また、表には示さなかったが、発光色は10,000cd/mの高輝度でも1,000cd/mの低輝度でも殆ど変化が認められなかった。
それに対して、比較の有機EL素子B1は、10,000cd/mの輝度の発光をさせた場合に外部量子効率が著しく低下した。
【0131】
【表4】

【0132】
実施例3
本発明の試料3において、発光層の層構成および各その組成を表5に示すように変更し、その他は試料3と同様にして有機EL素子4〜12を作製、実施例2と同様に評価した。
表5に示された結果から明らかなように、本発明の有機EL素子は高輝度において高い発光効率を実現でき、高電流密度で駆動されるデバイスで消費電力を小さくすることが可能である。
【0133】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】発光材料の発光スペクトルを示す図である。試料AはmCPとmCPに対して6.0質量%のIr(ppy)をドープした発光層、測定用試料BはmCPとmCPに対して15.0質量%の白金錯体Pt−1をドープした発光層である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層が少なくとも電子親和力(Ea値と略記する)の異なる2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、Ea値がより大きい発光材料を該発光層の前記正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さい発光材料を該発光層の前記電子輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層が少なくともイオン化ポテンシャル(Ip値と略記する)の異なる2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、Ip値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ip値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
前記2種の発光材料のIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
少なくとも一対の電極間に少なくとも正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を挟持してなる有機電界発光素子であって、該発光層が電子親和力(Ea値と略記する)およびイオン化ポテンシャル(Ip値と略記する)の異なる少なくとも2種の同系色の燐光を発生する発光材料を含有し、Ea値がより大きく、かつIp値がより大きい発光材料を該発光層の正孔輸送層に近接した領域により高密度に含有し、Ea値がより小さく、かつIp値がより小さい発光材料を該発光層の電子輸送層に近接した領域により高密度に含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
前記2種の発光材料のEa値の差が0.1eV以上0.5eV以下であり、かつIp値の差が0.1eV以上0.5eV以下であることを特徴とする請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記2種の発光材料による発光ピーク波長の差が30nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層の前記正孔輸送層に近い領域の発光材料が白金化合物であり、前記発光層の前記電子輸送層に近い領域の発光材料がイリジウム化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記発光層が少なくとも2層より成り、前記正孔輸送層に近い第1の発光層が前記白金化合物を含有し、前記電子輸送層に近い第2の発光層が前記イリジウム化合物を含有することを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記白金化合物が白金を中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記イリジウム化合物がイリジウムを中心金属とした燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記白金化合物が3座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記イリジウム化合物が2座以上の多座配位子を含む燐光発光性有機金属錯体であることを特徴とする請求項8〜請求項12のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を用いたパッシブ型マトリックス駆動の表示装置。
【請求項15】
電流密度10mA/cm以上で駆動される請求項14に記載の表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−91860(P2008−91860A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131640(P2007−131640)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】