説明

有機電界発光素子の製造方法、有機電界発光素子、有機EL照明並びに有機EL表示装置

【課題】 製造プロセスにおいて、発光層形成後、上層形成までに一定以上の時間が経過してしまった場合にも、得られる素子の性能低下を招くことがなく、安定的に高性能な有機電界発光素子を製造することができる有機電界発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 第一の電極、発光層、及び第二の電極をこの順に設けてなる有機電界発光素子の製造方法であり、該発光層形成後、6時間以上経過後に該発光層に対して加熱処理を施した後、該発光層の上層にあたる層を形成することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子の製造方法、及びこれを用いた有機電界発光素子とその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機層を用いた電界発光素子(有機電界発光素子;以下、適宜「有機EL素子」ともいう。)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機層の形成方法としては、真空蒸着法及び湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極および/または陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。一方、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−257409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に有機電界発光素子は、一対の電極間に複数の有機層を有しているが、工業的プロセスにて有機電界発光素子を製造する場合、様々な事情により、積層プロセスの途中で一定以上の時間作業を中断せざるを得ない場合が生じると予想される。例えば発光層を形成した後、一定以上の時間が経過した後で上層(すなわち着目している層(ここでは発光層)と接して直上に設ける層の意。以下同様。)を形成する場合、放置された(すなわち形成後一定以上の時間経過後の)発光層は、該層に含まれる化合物の結晶化その他の理由により、層表面が荒れたり凹凸が発生する等、平坦性が損なわれる場合がある。
このような発光層を有する素子は、均一な発光が得られず、また発光効率や駆動寿命の低下を生じる傾向がある。本発明者らの検討によると、通常、発光層形成から6時間以上経過した場合に、発光層表面に上述の現象が見られることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の問題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、形成後、一定以上の時間が経過した発光層につき、加熱処理を施した後で上層を設けることにより、上記問題が解決することを見出した。加熱処理を行うことにより、発光層表面に生じていた凹凸が軽減され、結果として得られる素子の駆動寿命低下を免れることができる。
すなわち本発明は 第一の電極、発光層、及び第二の電極をこの順に設けてなる有機電界発光素子の製造方法であり、該発光層形成後、6時間以上経過後に該発光層に対して加熱処理を施した後、該発光層の上層にあたる層を形成することを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法に存する。
【0006】
また本発明の別の要旨は、上記有機電界発光素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機電界発光素子に存する。
本発明のさらに別の要旨は、上記有機電界発光素子の製造方法により製造された有機電界発光素子を有することを特徴とする有機EL照明及び有機EL表示装置に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機電界発光素子の製造プロセスにおいて、発光層形成後、上層形成までに一定以上の時間が経過してしまった場合にも、得られる素子の性能低下を招くことがなく、安定的に高性能な有機電界発光素子を製造することができる。結果、プロセスのマージンが広がり、有機電界発光素子の工業的生産において非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の構造の他の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更して実施することができる。
本発明の有機電界発光素子(以下、適宜「有機EL素子」ともいう。)の製造方法は、第一の電極と、発光層と、第二の電極とをこの順に有する有機電界発光素子を製造する方法である。
なお、「第一の電極」及び「第二の電極」は、各々一方が「陽極」、他方が「陰極」を表す。所望の素子構成に応じて、適宜選択することができる。
すなわち本発明により製造される有機電界発光素子は、陽極と、該陽極に対向するように形成された陰極と、該陽極及び該陰極の間に形成された発光層とを備える。なお通常、陽極と陰極との間には、発光層以外にも、例えば正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、及び電子輸送層等を備えていてもよい。これらの層(以下「有機層」と称することがある)の形成方法には特に制限はなく、例えば蒸着法や湿式成膜法等、いずれの方法によっても形成することもできる。
【0010】
本発明の有機EL素子の製造方法では、上記陽極及び陰極間に形成される有機層のうち、発光層を特定の方法にて処理することを特徴とする。すなわち発光層を形成後、一定以上の時間経過後に、該発光層に加熱処理を施す方法である。なお、発光層の成膜方法には特に制限はなく、例えば蒸着法や湿式成膜法等、いずれの方法によっても形成することができる。
【0011】
発光層を形成した後、一定以上の時間が経過した後で上層を形成する場合、放置された発光層は、該層に含まれる化合物の結晶化その他の理由により、層表面が荒れたり凹凸が発生する等、平坦性が損なわれる場合がある。このような発光層を有する素子は、均一な発光が得られず、また発光効率や駆動寿命の低下を生じる傾向がある。本発明者らの検討によると、通常、発光層形成から6時間以上経過した場合に、発光層表面に上述の現象が見られることが多い。
【0012】
これに対し、形成後、一定以上の時間が経過した発光層につき、加熱処理を施した後に上層を設けることにより、上記問題が解決することを見出した。加熱処理を行うことにより、発光層表面に生じていた凹凸が軽減され、結果として得られる素子の駆動寿命低減を免れることができる。
効果発現メカニズムの詳細は不明であるが、加熱により層中の各成分が均一に再分散されることにより、平坦化が進むと推測される。
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における発光層形成・処理方法について説明し、その後、本発明により製造される有機EL素子について説明する。
【0013】
1.発光層形成・処理方法
本発明における発光層形成・処理方法は、該発光層形成後、6時間以上経過後、上層形成前に、該発光層の加熱処理工程を設けることを特徴とする。
該発光層形成・処理方法では、以下に詳述する成膜工程、保管工程、及び加熱処理工程
に加えて、適宜他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば以下で説明する前処理工程や乾燥工程、冷却工程等が挙げられる。
以下、発光層形成・処理方法における各工程について説明するが、前処理工程、及び冷却工程は必要に応じて行なうものとされる。
【0014】
1−1.前処理工程
発光層を形成する前に、形成面(例えば第一の電極等)に付着した不純物を除去する前処理工程を行なうことができる。これにより、イオン化ポテンシャルを調整して、発光層への正孔あるいは電子注入性を向上させること等ができる。前処理方法としては、例えば発光層を第一の電極上に形成する場合等には、表面をアルコール等を用いて溶剤洗浄をしたり、紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりする方法が好適である。
【0015】
なお、発光層の形成面となる層、すなわち発光層と隣接して形成される下層の種類は、有機EL素子の構造等に応じて適宜選択され、この層の形成方法は特に制限がない。例えば蒸着法により形成される層であってもよく、また湿式成膜法により形成される層であってもよい。
【0016】
1−2.成膜工程
成膜工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に手段を選択して実施することができ、例えば真空蒸着法や湿式成膜法等とすることができる。
真空蒸着法により発光層を形成する方法としては、まず、発光層を形成する材料の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、次いで、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気する。その後、るつぼを加熱し(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱し)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板上に該材料の薄膜を形成させることができる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて混合物からなる発光層を形成することもできる。
【0017】
一方、湿式成膜法により発光層を形成する場合には、発光層の材料及び溶剤を含有する組成物(以下、適宜「塗布用組成物」ということがある。)を、膜状に塗布形成することによって成膜し、乾燥させる。以下、発光層を湿式成膜法により成膜する場合に用いられる溶剤や、成膜方法、成膜条件(成膜湿度、酸素濃度、パーティクル数等)、及び乾燥方法等について説明する。
【0018】
(1−2−1)溶剤
塗布用組成物に用いられる溶剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエ
ーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0019】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
溶剤の沸点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。通常沸点270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0020】
また、塗布用組成物中における発光層の材料の濃度としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上である。また通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0021】
なお、有機EL素子は、通常、多数の有機化合物からなる層(有機層)を積層して形成するため、各層が何れも均一な層であることが好ましい。ここで、湿式成膜法で層を形成する場合、各有機層の形成用の組成物中にある程度以上の水分が存在すると、塗膜に水分が混入して膜の耐久性が損なわれるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また、一般に有機EL素子は、陰極等の水分により著しく機能が低下する材料が多く使用されているため、素子の機能低下の観点からも水分の存在はできるだけ少ない方が好ましい。以上の理由から、塗布用組成物中に含まれる水分量は、通常1重量%以下、中でも0.1重量%以下に抑えることが好ましい。
【0022】
(1−2−2)成膜方法
発光層を湿式成膜法により形成する場合における成膜方法は、目的とする領域に均一に塗布可能な方法であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、ノズルコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、等が挙げられる。
これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルコート法が好ましい。有機EL素子に用いられる塗布用組成物に特有の液性に合うためである。
【0023】
(1−2−3)成膜条件
(成膜温度)
湿式成膜法により成膜工程を行なう環境における成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、乾燥速度の制御を容易とする点で、10℃以上が好ましく、13℃以上がより好ましく、16℃以上がさらに好ましい。また50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0024】
(成膜湿度)
成膜工程を行なう環境における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、また、通常80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは1%以下、特に好ましくは100ppm以下である。相対湿度が小さすぎると、湿式成膜時における成膜条件の制御が困難となる可能性がある。また、大きすぎると有機層への水分吸着が影響しやすくなる可能性がある。
【0025】
(酸素濃度)
湿式成膜法により成膜工程を行なう環境における酸素の体積濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは0.01ppm以上、また、好ましくは50%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは100ppm以下である。酸素濃度が低すぎる環境は制御が難しく、また酸素濃度が高すぎると、発光層内部に酸素が拡散することで、素子特性に影響を与える可能性がある。
【0026】
(1−2−4)乾燥
通常、湿式成膜法による成膜後、発光層を乾燥させる。発光層の乾燥は本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に変更して実施することができる。但し、乾燥とは上記湿式成膜法により成膜された塗布用組成物中の溶剤を除去する工程をいう。
【0027】
(乾燥方式)
乾燥の際の乾燥方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、例えば、熱処理、減圧処理、不活性ガス処理、スパッタ処理、等が挙げられる。そのなかでも、膜中の残存溶剤を低減させやすい点で、熱処理が好ましい。
上記の処理は、単独で行なってもよく、また複数組み合わせて行ってもよい。複数の処理を組み合わせる場合には任意の順で処理を行ってもよいし、全部又は処理の一部を並行して行ってもよい。ただし、乾燥ムラが少なくなる条件で乾燥を行うことが好ましい。
【0028】
(乾燥温度)
乾燥の際の乾燥温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、熱処理を行なう場合、発光層を構成する材料(固形分)の内、最もガラス転移点(Tg)が低い化合物のTgに対し、通常(Tg−80)℃以上、好ましくは(Tg−50)℃以上とする。また通常(Tg+100)℃以下、好ましくは(Tg+50)℃以下とする。上限値以下とすることにより、層中に含まれる化合物の分解や変質を十分に回避することができ、また下限値以上とすることにより、膜中の溶剤を効果的に除去することができる。
【0029】
一方、膜中の溶剤除去の観点からは、当該溶剤の沸点以上の温度で乾燥させることが好ましい。従って、熱処理により乾燥させる場合には、前述した発光層形成用(塗布用)組成物に使用する溶剤は、その沸点が上記乾燥温度の上限値より低いものから選択することが好ましい。
なお、乾燥温度とは、炉内ベーク方式の場合には環境温度、ホットプレート方式の場合にはプレート温度、ヒーターを用いる方式の場合には環境温度をいう。
熱処理にて乾燥を行う場合、必要に応じて、その後冷却工程を設けても良い。
【0030】
(乾燥時間)
乾燥を行なう際の乾燥時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは2分以上である。また好ましくは5時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。乾燥時間が長すぎると発光層以外の層の成分が拡散する傾向があり、また、短すぎると膜が不均質になる傾向がある。
【0031】
(相対湿度)
乾燥を行なう際の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、また、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは15重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは100ppm以下である。相対湿度が高すぎると膜中に水分が残存する傾向がある。
【0032】
(真空度)
乾燥を行なう際の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、減圧処理を行なう場合には、好ましくは1000Pa以下、より好ましくは500Pa以下、さらに好ましくは300Pa以下である。また下限値に制限はないが、通常1×10−5Pa以上である。真空度が高すぎると、真空度を高くするために時間を要し、その間の環境制御が困難になる傾向があり、また、低すぎると膜中に溶剤が残存しやすくなる傾向がある。
【0033】
1−3.保管工程
本発明は、形成後、一定以上の時間が経過した後の発光層を用いて有機電界発光素子を製造する方法であるが、以下の説明において、この一定以上の時間の経過を、便宜上「保管工程」と称す。つまり保管工程とは、上記成膜工程で成膜後、必要に応じて冷却工程等を行なった発光層上に、上層(別の有機層、若しくは電極)を成膜するまでの時間を意味し、静置された状態での保管だけではなく、運搬等の輸送状態での保管も含む。また、発光層を保管するとは、発光層が形成された基板全体を保管することも含む。
【0034】
(1−3−1)保管期間
保管工程における保管期間は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、通常6時間以上、好ましくは16時間以上、より好ましくは1日以上である。また、通常30日以下、好ましくは10日以下、より好ましくは4日以下である。この上限値を上回ると、該発光層に含まれる化合物の結晶化その他の理由以外に、発光層に吸着される湿気や揮発性の有機物の量が多くなり、後述する加熱処理工程に必要とされる加熱時間が長くなり、発光層を構成する材料に影響を及ぼす可能性がある。また、上記下限値以上とした場合に、本発明の効果が得られやすい。
【0035】
(1−3−2)保管湿度
保管工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、通常0.01ppm以上、また、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは15重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは100ppm以下である。上記上限を上回る場合には、発光層に吸着される湿気の量が多くなることから、後述する加熱処理工程に必要とされる加熱時間が長くなり、発光層を構成する材料に影響を及ぼす可能性がある。
【0036】
(1−3−3)保管環境
保管工程における環境は、本発明の効果を著しく損なわない限りは特に制限はなく、保管時の温度は通常4℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上とすることができる。また通常90℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下である。これにより安定した環境で素子を保管することができる。また雰囲気としては、通常不活性ガス環境とするが、真空環境、乾燥空気環境又は大気中等としてもよい。
【0037】
1−4.加熱処理工程
本発明における加熱処理工程は、保管工程後、発光層上に新たな有機層、若しくは電極を形成する前に、発光層を加熱処理する工程である。加熱処理は、本発明の効果を損なわない限り、任意に変更して行なうことができる。
【0038】
(1−4−1.加熱手段)
加熱手段の具体的な方式としては、例えば、プレート(ホットプレート)上に発光層が形成された基板を搭載しそのプレートを介して発光層を加熱させるホットプレート方式、発光層の上面側及び/又は下面側(基材側)にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して発光層を加熱する方式、等が挙げられる。中でも、プレート(ホットプレート)方式が好ましい。発光層を均一に加熱することができ、発光層内に吸着
された水分や揮発性の有機物等を除去することが可能となるからである。加熱手段は1つでもよく、また2つ以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0039】
(1−4−2)加熱温度
加熱処理工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、発光層を構成する材料(固形分)の内、最もガラス転移点(Tg)が低い化合物のTgに対し、通常(Tg−30)℃以上、好ましくは(Tg−20)℃以上とする。また通常(Tg+50)℃以下、好ましくは(Tg+40)℃以下とする。上限値以下とすることにより、発光層に含まれる化合物の分解や変質を十分回避することができ、また下限値以上とすることにより、発光層の表面平坦化効果が十分に顕れるため好ましい。
【0040】
(1−4−3)加熱時間
加熱処理工程における加熱処理時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はされないが、好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上である。また好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。平坦化を促す目的では、加熱時間に上限はないが、上限値以下とすることにより、他層の成分の発光層への拡散を抑制することができ、また下限値以上とすることにより、発光層表面の平坦化がより顕著となるため好ましい。
【0041】
(1−4−4)湿度
加熱処理工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、また、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは15重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは100ppm以下である。相対湿度が高すぎると発光層中に水分が残存し、本発明の効果が十分に得られない可能性がある。
【0042】
(1−4−5)真空度
加熱処理工程における真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、減圧処理を行なう場合には、好ましくは1000Pa以下、より好ましくは500Pa以下、さらに好ましくは300Pa以下である。また下限値に制限はないが、通常1×10−5Pa以上である。真空度が高すぎると、真空度を高くするために時間を要し、その間の環境制御が困難になる傾向があり、また、低すぎると発光層中に溶媒や湿気等が残存しやすくなる傾向がある。
【0043】
1−6.その他の工程
発光層形成・処理方法においては、上記各工程の前後、または工程中に、必要に応じて上記以外の工程を有していてもよい。
2.有機電界発光素子
以下、本発明に係る有機EL素子について説明する。本発明に係る有機EL素子は、その製造過程に、少なくとも上記発光層形成・処理方法を含む。このような方法により製造される有機EL素子としては、通常は基板を備え、当該基板上に第一の電極が形成され、その上に1層以上の有機層が形成され、さらにその有機層上に第二の電極が形成された積層型の構成を有するものである。ここで、第一の電極、及び第二の電極は、何れかが陽極であり、他方が陰極である。有機層のうち少なくとも一層は発光層であり、その他の有機層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層等の層が挙げられる。
【0044】
また、正孔あるいは電子注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体と第一の電極との接着力を改善させる目的で、第一の電極と有機層との間に公知のバッファ層等が形成されていてもよい。
以下、第一の電極が陽極、第二の電極が陰極である場合について、基板側から積層される順に説明する。図1は、本発明により製造される有機EL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す有機EL素子10aは、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、発光層5、電子輸送層7、電子注入層8、及び陰極9を、この順に積層して構成される。
以下、これらの各構成について、それぞれ説明する。
【0045】
2−1.基板
基板1は有機EL素子10aの支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板等、汎用材料からなる透明基板を用いることが好ましい。
【0046】
基板1の材料の例としては、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2などの各種ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤガラス、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス、TFTが形成されたガラス、高分子材料としては、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレートなどのアクリル樹脂、ピスフェノールAポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィンなどの非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などの合成樹脂、等が挙げられる。また、これらのうち2種以上の積層体であってもよい。目的と用途に応じて、これらの基板の上に反射防止フィルム、円偏光フィルム、位相差フィルムなどの光学フィルムを形成、若しくは張り合わせてもよい。
【0047】
ただし、合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意することが好ましい。基板1のガスバリア性が小さすぎると、基板1を通過した外気により有機EL素子10aの性能が低下する可能性があるからである。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0048】
2−2.陽極
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は、発光層5側の層(正孔注入層3または発光層5等)への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/またはスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。なお、陽極2の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0049】
陽極2の形成方法に制限は無いが、通常、スパッタリング法、蒸着法等により行われる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダ樹脂溶液にそれらを分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0050】
また、陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、中でも80%以上とすることが好ましく、この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常1000nm以下、中でも500nm以下が好ましい。一方、陽極2が不透明でよい場合、陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。さらに、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0051】
また、陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極2の表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
またさらに、上述したように、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔注入層3と陽極2との間に公知の陽極バッファ層を挿入してもよい。
【0052】
2−3.正孔注入層
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層である。通常はこの正孔注入層3が、陽極2上に形成される。よって、正孔注入層3は、好ましくは正孔注入性化合物及び電子受容性化合物を含有して構成されることになる。更に、正孔注入層3は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。
【0053】
正孔注入層3を陽極2上に形成する手法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点から、湿式成膜法が好ましい。上記陽極2として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面が10nm程度の表面粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があった。陽極2の上の正孔注入層3を湿式成膜法により形成することは、真空蒸着法で形成する場合と比較して、陽極2表面の凹凸に起因する素子の欠陥の発生を低減するという利点をも有する。
【0054】
(正孔注入性化合物)
正孔注入性化合物としては、例えば芳香族アミン化合物等が挙げられ、中でもトリアリールアミン構造を含む化合物が好ましいが、従来有機電界発光素子における正孔注入層の形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択してもよい。芳香族アミン化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されるビナフチル系化合物が挙げられる。
【0055】
【化1】

【0056】
一般式(1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基であり、ArとAr、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。W1及びW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。X及びXは各々独立に、直接結合または2価の連結基を表す。また、一般式(1)中のナフタレン環は、−(XNArAr)及び−(XNArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。
【0057】
一般式(1)中、Ar〜Arの置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基としては、各々独立に、例えば5または6員環の単環または2〜3縮合環であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素環由来の基;ピリジル基、チエニル基等の芳香族複素環由来の基が挙げられる。これらはいずれも置換基を有していてもよい。
【0058】
Ar〜Arの有することがある置換基としては、Ar〜Arが有することがある置換基として後述するもの、及び、アリールアミノ基(即ち、後述の−(NArAr),−(NArAr)に相当する)が挙げられる。
また、ArとAr及び/またはArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。この場合、形成する環の具体例としては、それぞれ、置換基を有することがあるカルバゾール環、フェノキサジン環、イミノスチルベン環、フェノチアジン環、アクリドン環、アクリジン環、イミノジベンジル環等が挙げられる。中でもカルバゾール環が好ましい。
【0059】
一般式(1)において、W1及びW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。特に好ましいものは、W1=1かつW2=1である。なお、W1及び/またはW2が2以上の場合のアリールアミノ基は、各々同一であっても異なっていてもよい。
及びXは各々独立に直接結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては特に制限はないが、例えば、下記に示すもの等が挙げられる。X及びXとして、直接結合が特に好ましい。
【0060】
【化2】

【0061】
一般式(1)におけるナフタレン環は、−(XNArAr)及び−(XNArAr)に加えて、任意の位置に任意の置換基を1個または2個以上有していてもよい。このような置換基として好ましいものは、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基である。これらのうち、アルキル基が特に好ましい。
【0062】
一般式(1)で表されるビナフチル系化合物として、下記一般式(1−1)で表されるように、Ar及びArが、更にそれぞれアリールアミノ基で置換されたビナフチル系
化合物が好ましい。
【0063】
【化3】

【0064】
(一般式(1−1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基を表し、ArとAr、ArとArは各々結合して環を形成していてもよい。W1及びW2は一般式(1)におけるものと同義である。X及びXは一般式(1)におけるものと同義である。)
【0065】
一般式(1−1)中のナフタレン環は、ナフタレン環にそれぞれ結合したアリールアミノ基を含む置換基−(XNArArNArAr)及び−(XNArArNArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。また、これらの置換基−(XNArArNArAr)及び−(XNArArNArAr)は、ナフタレン環のいずれの置換位置に置換基を有していてもよい。中でも、一般式(1−1)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
【0066】
また、正孔注入性化合物として使用する、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(2)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入性化合物が挙げられる。
【0067】
【化4】

【0068】
(式(2)中、Ar44〜Ar48は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ra31及びRa32は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Qは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」及び「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。)
【0069】
【化5】

【0070】
(式(3)中、Ar49は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar50は置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
一般式(2)において、Ar44〜Ar48は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基またはビフェニル基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。Ar44〜Ar48がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、特に好ましい。
【0071】
a31及びRa32として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0072】
一般式(3)において、Ar49は、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基、及びターフェニレン基等が挙げられる。また、該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0073】
Ar50は、置換基を有していてもよい芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは
芳香族炭化水素環基であり、具体的には、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、及びビフェニル基等が挙げられる。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0074】
一般式(3)において、Ar49及びAr50がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、特に好ましい。
芳香族三級アミノ基を側鎖として含む正孔注入性化合物としては、例えば、以下の一般式(4)及び(5)で表される構造を有する繰り返し単位として有する化合物が挙げられる。
【0075】
【化6】

【0076】
(式(4)中、Ar51は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar52〜Ar53は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Ra33〜Ra35は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0077】
【化7】

【0078】
(式(5)中、Ar54〜Ar58は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R36及びR37は、各々独立して置換基を有していてもよい芳香族環基を示し、Yは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
【0079】
【化8】

【0080】
一般式(4)において、Ar51は、好ましくは、各々置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、また、置換基としては、例えば、前述した一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
Ar52及びAr53として、好ましくは、各々独立してフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、及びビフェニル基が挙げられ、これらは置換基を有することがある。該置換基としては例えば、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0081】
a33〜Ra35は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェニル基;またはトリル基である。
一般式(5)において、Ar54〜Ar58は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0082】
36及びR37は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0083】
一般式(2)〜(5)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
【0084】
【化9】

【0085】
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入性化合物は、一般式(2)〜(5)のいずれかで表される構造のホモポリマーであることが特に好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体である場合、一般式(2)〜(5)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。なお、高分子化合物である正孔注入性材料は、一化合物中に、一般式(2)〜(5)で表される構造を複数種含有していてもよい。また、一般式(2)〜(5)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いてもよい。一般式(2)〜(5)のうち、特に好ましくは、一般式(2)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである。
【0086】
高分子化合物からなる正孔注入性材料としては、さらに、共役系高分子が挙げられる。この目的のために、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポ
リパラフェニレンビニレンが好適である。
【0087】
(電子受容性化合物)
正孔注入層の材料として用いられる電子受容性化合物の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その例としては、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩;塩化鉄(III)(特開平
11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物が好ましく、種々の溶剤に可溶である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物が好ましい。さらに、強い酸化力と高い溶解性とを両立する点から、有機基の置換したオニウム塩が特に好ましく、下記式(II−1)〜(II−3)で表わされる化合物であることが特に好ましい。
【0088】
【化10】

【0089】
(上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A〜Aと炭素原子で結合する有機基を表わす。R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していてもよい。A〜Aは何れも長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第3周期以降の元素であって、Aは周期表の第17族に属する元素を表わし、Aは周期表の第16族に属する元素を表わし、Aは周期表の第15族に属する元素を表わす。Zn1−〜Z3−は、各々独立に、対アニオンを表わす。n〜nは、各々独立に、
対アニオンのイオン価を表わす。)
上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A〜Aと炭素原子で結合する有機基を表わす。したがって、R11、R21及びR31としては、A〜Aとの結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に反しない限り、その種類は特に制限されない。
【0090】
11、R21及びR31の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
11、R21及びR31の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0091】
アルキル基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0092】
アルキニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0093】
芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0094】
上記式(II−1)〜(II−3)中、R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の置換基を表わす。したがって、R12、R22、R23及びR32〜R34の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。
12、R22、R23及びR32〜R34の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0095】
12、R22、R23及びR32〜R34の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキ
ルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。中でも、R11、R21及びR31と同様、電子受容性が大きい点から、A〜Aとの結合部分に炭素原子を有する有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11、R21及びR31について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0096】
以上、R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。なお、前記の更に置換する置換基は、1個のみで置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
また、上記式(II−1)〜(II−3)中、R11〜R34のうち隣接する2以上の基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0097】
式(II−1)〜(II−3)中、A〜Aは、何れも周期表第3周期以降(第3〜第6周期)の元素であって、Aは、長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、Aは、第16族に属する元素を表わし、Aは、第15族に属する元素を表わす。
【0098】
中でも、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、Aとしてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好ましく、Aとしてはテルル原子、セレン原子、硫黄原子のうち何れかが好ましく、Aとしてはアンチモン原子、ヒ素原子、リン原子のうち何れかが好ましい。
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(II−1)におけるAが臭素原子又はヨウ素原子である化合物、又は、式(II−2)におけるAがセレン原子又は硫黄原子である化合物が好ましく、中でも、式(II−1)におけるAがヨウ素原子である化合物が特に好ましい。
【0099】
式(II−1)〜(II−3)中、Zn1−〜Zn3−は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
【0100】
式(II−1)〜(II−3)中、n〜nは、各々独立に、対アニオンZn1−〜Zn3−のイオン価に相当する任意の正の整数である。n〜nの値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
n1−〜Zn3−の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオ
ン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられる。
【0101】
特に、対アニオンZn1−〜Zn3−としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、下記式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンが好ましく、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、下記式(II−6)で表わされる錯イオンが更に好ましい。
【0102】
【化11】

【0103】
式(II−4)及び(II−6)中、E及びEは、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
式(II−5)中、Eは、長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。中でもリン原子、ヒ素原子、アンチモン原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さ、毒性の点から、リン原子が好ましい。
【0104】
式(II−4)及び(II−5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表わし、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点からフッ素原子、塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
式(II−6)中、Ar61〜Ar64は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11、R21及びR31について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0105】
Ar61〜Ar64として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
Ar61〜Ar64が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホル
ミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0106】
中でも、Ar61〜Ar64のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar61〜Ar64の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが特に好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
なお、前記の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0107】
式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンの式量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100以上、好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下の範囲である。該錯イオンの式量が小さ過ぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下する場合があり、また、該錯イオンの式量が大き過ぎると、該化合物自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0108】
正孔注入層の材料としては、上に説明した各種の電子受容性化合物のうち、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。2種以上の電子受容性化合物を用いる場合には、上記式(II−1)〜(II−3)のうち何れか1つの式に該当する電子受容性化合物を2種以上組み合わせてもよく、それぞれ異なる式に該当する2種以上の電子受容性化合物を組み合わせてもよい。
【0109】
正孔注入層3及び正孔注入層用組成物中における電子受容性化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記正孔輸送性を有するポリマー及び後述の正孔輸送性化合物に対する値で、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。電子受容性化合物の量は多い方が不溶化しやすいため好ましく、加熱時間が短時間で不溶化することができる。なお、2種以上の電子受容性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0110】
なお、正孔注入層3の形成時或いは形成後に、上記の正孔輸送性を有するポリマー或いは下記の正孔輸送性化合物が、この電子受容性化合物と反応することにより、形成後の正孔注入層3中では、正孔輸送性ポリマー或いは正孔輸送性化合物のカチオンラジカル及びイオン化合物が生成している場合がある。
【0111】
(低分子量の正孔輸送性化合物)
正孔注入層の材料としては、必要に応じて低分子量の正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。低分子量の正孔輸送性化合物は、従来、有機EL素子における正孔注入・輸送性の薄膜精製材料として利用されてきた各種の化合物の中から、適宜選択することが可能である。中でも、溶剤溶解性の高いものが好ましい。
低分子量の正孔輸送性化合物の好ましい例としては、芳香族アミン化合物が挙げられる。中でも、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。
【0112】
なお、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下の範囲である。分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる傾向がある一方で、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難となる傾向がある。
なお、低分子量の正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
(その他の成分)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した正孔輸送性を有するポリマー、電子受容性化合物及び正孔輸送性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダ樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0114】
(正孔注入層の形成)
正孔注入層の形成方法に特に制限は無く、湿式成膜法や真空蒸着法にて形成される。湿式成膜法により形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製し、それを用いて成膜する。以下、湿式成膜法を用いる場合を例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0115】
正孔注入層用組成物に含有させる正孔注入層用溶剤としては、正孔注入層3の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述のポリマー、電子受容性化合物及び低分子量の正孔輸送性化合物のうち、少なくとも1種、中でも2種以上、特には3種全てを、溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、ポリマーを通常0.005重量%以上、中でも0.5重量%以上、特には1重量%以上溶解することが好ましく、電子受容性化合物を通常0.001重量%以上、中でも0.1重量%以上、特には0.2重量%以上溶解することが好ましい。
【0116】
また、正孔注入層用溶剤としては、ポリマー、電子受容性化合物、低分子量の正孔輸送性化合物及びそれらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させる可能性のある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まない溶剤が好ましい。
正孔注入層用溶剤の好適な例は、「1.発光層形成・処理方法」で説明したものと同一である。ただし、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、酸化剤とポリマーを溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0117】
正孔注入層用組成物に対する正孔注入層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、更に好ましくは99.9重量%以下の範囲である。なお、正孔注入層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0118】
正孔注入層用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、正孔注入層用溶剤を除去することにより、正孔注入層3が形成される。
なお、正孔注入層3の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0119】
2−4.発光層
正孔注入層3の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極9から電子注入層8を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0120】
(発光層の材料)
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。(以下、正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物を、合わせて「電荷輸送性化合物」と称することがある。)発光物質については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。また、電荷輸送性化合物を2成分以上含有していることが好ましい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。
【0121】
なお、発光層に含まれる発光材料および電荷輸送性化合物は、何れも低分子化合物であることが好ましい。これらが低分子化合物である場合、発光効率が高く駆動寿命が長い点、材料設計の自由度が高い点、材料の選択肢が広い点などからは好ましい。が、分子が小さいため層中で移動しやすく、また一般に多成分系となるため、各成分が層中で各々凝集しやすく、層表面の平坦性維持がより困難であると考えられる。そのため、本発明の効果が一層顕著に現れる。なお、本発明における低分子化合物とは、重量平均分子量が、通常6000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは1500以下の化合物をいう。
【0122】
(発光材料)
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
【0123】
以下、発光材料のうち蛍光色素の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光色素(青色蛍光色素)としては、例えば、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0124】
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光色素(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光色素(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0125】
次に、発光材料のうち、燐光発光材料について説明する。燐光発光材料としては、例え
ば、周期表第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましいもの例を挙げると、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(V)又は式(VI)で表わされる化合物が挙げられる。
【0126】
【化12】

【0127】
{式(V)中、Mは金属を表わし、qは上記金属の価数を表わす。また、L及びL’は二座配位子を表わす。jは0、1又は2の数を表わす。}
【0128】
【化13】

【0129】
{式(VI)中、Mは金属を表わし、Tは炭素原子又は窒素原子を表わす。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表わす。但し、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。}
以下、まず、式(V)で表わされる化合物について説明する。
式(V)中、Mは任意の金属を表わし、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0130】
また、式(V)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0131】
【化14】

【0132】
上記Lの部分構造において、環A1”は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
環A1”を構成する芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0133】
環A1”を構成する芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表わす。
【0134】
環A2を構成する含窒素芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0135】
環A1”又は環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等
のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0136】
なお、前記置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
また、式(V)中、二座配位子L’は、以下の部分構造のうちの少なくともいずれかを有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表わす。
【0137】
【化15】

【0138】
中でも、L’としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0139】
【化16】

【0140】
式(V)で表わされる化合物として、更に好ましくは、下記式(Va)、(Vb)及び(Vc)の少なくともいずれかで表わされる化合物が挙げられる。
【0141】
【化17】

【0142】
{式(Va)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0143】
【化18】

【0144】
{式(Vb)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0145】
【化19】

【0146】
{式(Vc)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、jは、0、1又は2を表わし、環A1”及び環A1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2及び環A2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A1”及び環A1’の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0147】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A2及び環A2’の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで表わされる化合物が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0148】
また、前記置換基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。また、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合、その炭素数は通常12以上28以下である。また、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
【0149】
なお、前記の置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1”
が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、例えば7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
上述した置換基の中でも、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。なお、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0150】
また、式(Va)、(Vb)及び(Vc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
上記式(V)、(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで示される有機金属錯体の具体例を以下に示す。但し、下記の化合物に限定されるものではない。
【0151】
【化20】

【0152】
【化21】

【0153】
さらに、上記式(V)で表わされる有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL’として2−アリールピリジン系配位子(即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるもの)を有する化合物が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0154】
次に、式(VI)で表わされる化合物について説明する。
式(VI)中、Mは金属を表わす。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0155】
また、式(VI)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表わす。なお、各R92及びR93はそれぞれ同じでもよく異なっていてもよい。
【0156】
更に、式(VI)においてTが炭素原子である場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表わす。また、式(VI)においてTが窒素原子である場合は、R94及びR95は無い。なお、各Tは同じでもよく異なっていてもよい。
また、式(VI)においてR92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。また、その置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0157】
さらに、式(VI)においてR92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
式(VI)で表わされる有機金属錯体の具体例(T−1〜T−7)を以下に示す。但し、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表わし、Etはエチル基を表わす。
【0158】
【化22】

【0159】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、層を形成した際の層の質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機EL素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0160】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み
合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層5における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常35重量%以下、好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0161】
(正孔輸送性化合物)
また、発光層5には、構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の(低分子量の正孔輸送性化合物)の欄で例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。なお、発光層5において、正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0162】
発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0163】
(電子輸送性化合物)
発光層5には、構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。なお、発光層5において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0164】
発光層5における電子輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0165】
(発光層の形成)
発光層5の成膜方法は、「1.発光層形成・処理方法」で説明したように特に制限されず、真空蒸着法や湿式成膜法など、任意に選択して採用することができるが、湿式成膜の場合、一見、組成物中に各成分が均一に分散されている場合でも、極微視的な領域でわずかに組成比が異なる箇所が核となって、保管時の凝集を引き起こす可能性がある。したがって、湿式成膜法を採用した際に、本発明の効果はより顕著である。
以下、湿式成膜法の場合を例に説明するが、成膜方法はこれに限定されない。
【0166】
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、上述の各種材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。なお、「1.発光層形成・処理方法」に記載したように、形成された発光層は、6時間以上経過後に加熱処理を施され、更に別の層を積層される。
【0167】
発光層5を形成するための、塗布用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層5の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述の発光材料、正孔輸送性化合物、及び、電子輸送性化合物を溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、発光材料、正孔輸送性化合物、あるいは電子輸送性化合物を、通常0.01重量%以上、中でも0.05重量%以上、特には0.1重量%以上溶解することが好ましい。
発光層用溶剤の好適な例は、「1.発光層形成・処理方法」で説明した溶剤と同様である。
【0168】
発光層5を製造するための塗布用組成物に対する発光層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下の範囲である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0169】
発光層5を製造するための塗布用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、発光層用溶剤を除去することにより、発光層5が形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、「1.発光層形成・処理方法」の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると発光層に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると有機EL素子の駆動電圧が上昇する可能性がある。
なお本発明においては、このように発光層5が形成され、6時間以上経過した後、「1.発光層形成・処理方法」の欄で説明したように加熱処理工程を施してから、更に電子輸送層など他の層を積層し、有機電界発光素子を製造する。
【0170】
2−5.電子輸送層
発光層5上には電子輸送層7を形成することができる。電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0171】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8
−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0172】
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、真空蒸着法など公知の方法にて形成することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0173】
2−6.電子注入層
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0174】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はなく、真空蒸着法など公知の方法にて形成することができる。
【0175】
2−7.陰極
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0176】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使
われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0177】
2−8.その他の層
以上、図1に示す層構成の有機EL素子を中心に説明してきたが、本発明に係る有機EL素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0178】
図2は、本発明の有機EL素子の構造の別の例を模式的に示す断面図である。なお、図2において、図1と同様の構成要素については同一の符号を付して表わし、その説明は省略する。
図2に示す有機EL素子10bは、図1の有機EL素子10aと同様の構成に加えて、発光層5と電子輸送層7との間に正孔阻止層6を有している。また正孔注入層3と発光層5との間に正孔輸送層4を有している。
【0179】
(2−8−1)正孔輸送層
正孔輸送層4を形成する材料としては、上記正孔注入層3に混合して用いてもよい正孔輸送化合物として例示した化合物と同様なものが挙げられる。また、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン等の高分子材料も用いることができる。なお、正孔輸送層4の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0180】
正孔輸送層4の形成方法に制限はなく、真空蒸着法や湿式成膜法など公知の方法にて形成することができる。
なお、正孔輸送層4の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0181】
(2−8−2)正孔阻止層
正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0182】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で
併用してもよい。
【0183】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、真空蒸着法など公知の方法にて形成することができる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0184】
(2−8−3)電子阻止層
また、電子阻止層を正孔注入層3(正孔輸送層4が形成される場合には正孔輸送層4)と発光層5との間に設けてもよい。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3側に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を上げ、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は効果的である。
【0185】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット記載)等が挙げられる。なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はなく、真空蒸着法や湿式成膜法など公知の方法にて形成することができる。
【0186】
(2−8−4)その他
陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE
Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0187】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、発光層5、正孔注入層3、陽極2の順に設けることになる。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明の有機EL素子を構成することも可能である。
【0188】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0189】
更には、本発明の有機EL素子は、単一の有機EL素子として構成してもよく、複数の有機EL素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0190】
3.有機EL表示装置
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0191】
4.有機EL照明
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0192】
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これら実施例の記載に限定されるものではない。
[実施例1]
図2に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作成した。
【0193】
<陽極2>
ガラス基板1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を70nmの厚さに堆積したもの(スパッタ製膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。陽極2を形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0194】
<正孔注入層3>
次に、正孔注入層形成用組成物の調製を行った。下記繰り返し構造を有するポリマー(HI−1)(重量平均分子量60000)2重量%と、下記式(A1)で表される電子受容性化合物0.4重量%を、溶剤として安息香酸エチルに溶解し、固形分濃度2.4重量%の正孔注入層形成用組成物とした。
【0195】
【化23】

【0196】
【化24】

【0197】
上記陽極2を形成した基板上に、上記正孔注入層形成用組成物を用いてスピンコート法にて成膜した。スピンコートは、気温23℃、相対湿度50%の大気中で行ない、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。成膜後、ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥した後、オーブン大気中で、230℃1時間ベークして上記ポリマーを架橋させ、膜厚30nmの正孔注入層3を形成した。
【0198】
<正孔輸送層4>
次に、正孔輸送層形成用組成物の調製を行った。下記繰り返し構造を有するポリマー(HT−1)(重量平均分子量95000)1.4重量%を、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンに溶解し、正孔輸送層形成用組成物とした。シクロヘキシルベンゼンは、市販品にモレキュラーシーブを入れて脱水したものを用い、正孔輸送層形成用組成物の調製は、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で行った。
【0199】
【化25】

【0200】
上記正孔注入層3を形成した基板を窒素グローブボックスに入れ、正孔注入層3上に、上記正孔輸送層形成用組成物を用いてスピンコート法にて成膜した。スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は120秒とした。成膜後、ホットプレート上で230℃1時間ベークして上記ポリマーを架橋させ、膜厚15nmの正孔輸送層4を形成した。
【0201】
<発光層5>
次に、発光層形成用組成物の調製を行った。以下に示す化合物(BH−1)1.1重量%と化合物(BD-1)0.1重量%を、溶剤としてキシレンに溶解し、発光層形成用組
成物とした。キシレンは、市販品の脱水グレードのものを用い、発光層形成用組成物の調製は、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で行った。
【0202】
【化26】

【0203】
上記正孔輸送層4上に、上記発光層形成用組成物を用いてスピンコート法にて成膜した。スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は50秒とした。成膜後、ホットプレート上で130℃60分間ベークして乾燥させ、膜厚40nmの発光層5を形成した。
【0204】
(発光層形成基板の保管)
上記発光層5を形成した基板を、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中に18時間保管した。
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))
上記保管後の基板を、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中、ホットプレート上で130℃30分間加熱した。
【0205】
その後、この基板を大気暴露させずに真空蒸着装置のチャンバー内に配置した。チャンバー内の真空度は、1.0×10−5Paであった。基板には、所定の領域に、蒸着用マスクを配置し、チャンバーにはあらかじめ必要な蒸着材料をそれぞれ別のモリブデン製ボートに入れて配置しておいた。
【0206】
<正孔阻止層6>
次いで、発光層5が形成され、保管後、加熱処理された基板上に、下記構造式で表される化合物を入れたモリブデン製ボートを通電加熱することにより蒸着し、正孔阻止層6を形成した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は1.0×10−5Pa、蒸着速度1.0Å/sとし、正孔阻止層6を膜厚10nmで形成した。
【0207】
【化27】

【0208】
<電子輸送層7>
次に、下記構造式で表される化合物(Alq)を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、正孔阻止層6上に蒸着し、電子輸送層7を形成した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は1.0×10−5Pa、蒸着速度1.0Å/sとし、電子輸送層7を膜厚20nmで形成した。
【0209】
【化28】

【0210】
<電子注入層8>
次に、正孔阻止層7まで積層した基板を、大気暴露させずに別の真空チャンバーに設置し、陰極9蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように配置した。チャンバー内の真空度は1×10-5Pa
であった。フッ化リチウム(LiF)を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、電子輸送層7の上に蒸着し、電子注入層8を形成した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は1.0×10−5Pa、蒸着速度0.1Å/sとし、電子注入層8を膜厚0.5nmで形成した。
<陰極9>
次に、アルミニウムを入れたモリブデン製ボートを通電加熱して陰極9を蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度は3.0×10−5Pa、蒸着速度5.0Å/sとし、陰極9を膜厚80nmで形成した。
【0211】
<封止>
陰極まで設けた基板を、大気暴露させずに窒素置換されたグローブボックスに移した。窒素置換されたグローブボックス中で、封止ガラス板の凹部に吸湿剤シートを貼り付け、封止ガラス板の凹部の周囲にUV硬化樹脂塗をディスペンサーにて塗布し、蒸着を行なった基板の蒸着部を封止ガラス板で密封するように密着させ、UVランプにてUV光を照射してUV硬化樹脂を硬化させた。
以上の様にして、有機電界発光素子を作製した。
【0212】
[素子評価]
得られた素子に48mA/cmとなるように連続通電し、フォトダイオードにて輝度変化を測定し、初期輝度の70%に劣化するまで時間を測定した。その結果を表−1に示す。
[発光層表面確認]
正孔阻止層6を形成する前の発光層5の表面粗さを、VertScan(菱化システム社製)にて測定した。その結果を表−2および表−3に示す。なお表−2、表−3中の評価結果は、同じ面内を3箇所測定した結果の平均値である。なお、測定面積は250μm×188μmであった。
なお、表中のSa及びSbはそれぞれ表面粗さを表す指標であり、Saは算術平均粗さ、Stは最大断面高さ粗さを表す。各々、JIS B0601:2001に記載の表面粗さRa及びRtを、測定面である三次元に拡張し適用したものである。
【0213】
[比較例1]
(発光層形成基板の保管)及び(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
[比較例2]
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0214】
【表1】

【0215】
【表2】

【0216】
[実施例2]
(発光層形成基板の保管)及び(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製し、発光層表面を確認した。結果を表−3に示す。
(発光層形成基板の保管)
上記発光層5を形成した基板を、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中に7日間保管した。
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))
上記保管後の基板を、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中、ホットプレート上で130℃30分間加熱した。
[実施例3]
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))を以下のように変更した以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製し、発光層表面を確認した。結果を表−3に示す。
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))
上記保管後の基板を、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中、ホットプレート上で130℃3時間加熱した。
[比較例3]
(保管後の発光層形成基板のベーク(加熱処理工程))を行わなかった点以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製し、発光層表面を確認した。結果を表−3に示す。
【0217】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明によれば、有機電界発光素子の製造プロセスにおいて、発光層形成後、上層形成までに一定以上の時間が経過してしまった場合にも、得られる素子の性能低下を招くことがなく、安定的に高性能な有機電界発光素子を製造することができる。結果、プロセスのマージンが広がり、有機電界発光素子の工業的生産において非常に有益である。
本発明の製造方法により得られた有機電界発光素子は、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯、照明機器等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0219】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極、発光層、及び第二の電極をこの順に設けてなる有機電界発光素子の製造方法であり、
該発光層形成後、6時間以上経過後に該発光層に対して加熱処理を施した後、該発光層の上層にあたる層を形成することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記発光層を湿式成膜法にて形成する、請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記発光層が、低分子化合物である発光材料と、低分子化合物である電荷輸送性化合物を含有する、請求項1または2に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第一の電極と前記発光層との間に、少なくとも一層の電荷輸送層を湿式成膜法にて形成する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の製造方法
【請求項5】
前記加熱処理工程における加熱温度が、発光層を構成する材料のうち、最もガラス転移点(Tg)が低い化合物のTgに対し、(Tg−30)℃以上(Tg+50)℃以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法にて得られた有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の有機電界発光素子を備えた有機EL照明。
【請求項8】
請求項6に記載の有機電界発光素子を備えた有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−22884(P2012−22884A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159744(P2010−159744)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】