説明

有機電界発光素子の製造方法、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】発光材料、トリアリールアミンの部分構造及び/又はカルバゾール環を含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて形成される発光層を有する有機電界発光素子の製造方法において、駆動寿命の長い素子を提供する。
【解決手段】第一の電極と、該第一の電極に対向して形成される第二の電極との間に、発光層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、該発光層が、発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を分子内に含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で塗布膜を形成する工程と該塗布膜を不活性ガス中で加熱する工程を含むことを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光効率及び駆動安定性が高い有機電界発光素子の製造方法、該製造された有機電界発光素子、並びに該有機電界発光素子を含む有機EL表示装置及び有機EL照明に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と湿式製膜法が挙げられる。このうち、湿式製膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
湿式製膜法によって形成された発光層の材料としては、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体やポリフルオレン誘導体等の高分子材料が主に用いられているが、高分子材料には以下のような問題がある。
【0003】
・高分子材料は重合度や分子量分布を制御することが困難である。
・連続駆動時に、活性部位である高分子材料の分子末端の残基による劣化が起こる。
・材料自体の高純度化が困難で、不純物を含む。
上記問題のために、湿式製膜法による有機電界発光素子は、真空蒸着法による有機電界発光素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。
【0004】
以上のような問題を解決する試みとして、特許文献1には高分子化合物ではなく、複数の低分子材料(電荷輸送材料、発光材料)を混合して湿式製膜法により形成した有機薄膜を用いた有機電界発光素子が記載されている。
また、湿式製膜法により形成された複数の低分子材料からなる有機薄膜を用いた有機電界発光素子において、非特許文献1、特許文献2では、有機電界発光素子の発光効率を高めるために、燐光発光材料を用いた素子が記載されている。特に、特許文献2では、アリールアミンとカルバゾール環とを含む化合物を用いて素子を形成しているが、駆動寿命が短いとの問題があった。 また、特許文献3及び4に記載されているように、湿式成膜法を用いて製造される有機電界発光素子においては、塗布環境における、酸素や水分が素子に悪影響を与えるために、乾燥窒素などの不活性ガス中で製造するのが望ましいとされていた。しかしながら、製造コストで問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−273859号公報
【特許文献2】特開2007−110093号公報
【特許文献3】特開2002−170676号公報
【特許文献4】特許4112800号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol.44, No.1B, 2005, pp. 626-629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、発光材料、トリアリールアミン分構造及び/又はカルバゾール環を含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて形成される発光層を有する有機電界発光素子の製造方法において、駆動寿命の長い素子を提供することを課題とする。
本発明はまた、安価な製造コストで、駆動寿命の長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を分子内に含む電荷輸送材料、及び溶剤を含む組成物を用いて、湿式成膜法で有機層を形成する工程を含む有機電界発光素子の製造方法において、湿式成膜で塗布膜を形成する環境と、該塗布膜を加熱する環境とを、特定の条件とすることで、上記課題を解決することを見出して、本発明に到達した。
【0009】
即ち、第一の電極と、該第一の電極に対向して形成される第二の電極との間に、発光層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、該発光層が、発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を分子内に含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で塗布膜を形成する工程と該塗布膜を不活性ガス中で加熱する工程を含むことを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法、該製造方法で製造された有機電界発光素子、並びに該素子を含む有機EL表示装置及び有機EL照明に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を有する電荷輸送材料及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で発光層を成膜することにより、駆動安定性が高く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子を製造することが可能である。
更に、本発明においては、発光層を湿式成膜法で形成する環境を、窒素雰囲気や、低酸素の環境にする必要がないため、安価な製造コストで有機電界発光素子の製造が可能となる。
【0011】
従って、本発明の製造方法によって製造される有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えば、OA コンピュータ用や薄型テレビ)、車載表示素子、携帯電話
表示や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
<有機電界発光素子の製造方法>
本発明の有機電界発光素子の製造方法は、第一の電極と、該第一の電極に対向して形成される第二の電極との間に、発光層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、該発光層が、燐光発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で塗布膜を形成する工程と該塗布膜を不活性ガス中で加熱する工程を含むことを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法である。
【0014】
[発光層]
本発明の発光層は、発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で塗布膜を形成後、該塗布膜を不活性ガスの環境下で加熱して成膜される。
【0015】
[発光材料]
発光材料としては、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でも、任意の公知の材料を適用可能であるが、下記の点で、燐光発光材料であることが好ましい。
燐光発光材料は原理上、有機電界発光素子の発光効率が非常に高いが、励起一重項状態のエネルギーギャップが同一発光波長の蛍光材料よりも大きく、更に励起子寿命がマイクロ秒からミリ秒オーダーと長いため、蛍光発光材料と比較して駆動寿命は長くなりやすい。したがって、寿命よりも発光効率を重視する用途には、燐光発光材料を使用することが好ましい。
【0016】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウムまたは白金である。
【0017】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0018】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0019】
特に、燐光発光材料の燐光性有機金属錯体としては、好ましくは下記式(III)または
式(IV)で表される化合物が挙げられる。
ML(q−j)L′ (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL′は二
座配位子を表す。jは0、1または2の数を表す。)
【0020】
【化1】

【0021】
(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子または窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。)
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜
11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0022】
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0023】
【化2】

【0024】
上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
該芳香族炭化水素基としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0025】
該芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロー
ル環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0026】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表す。
該含窒素芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0027】
環A1または環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
また、式(III)中、二座配位子L′は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し
、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0028】
【化3】

【0029】
中でも、L′としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa),(IIIb),
(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【化5】

【0033】
(式(IIIa)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0034】
【化6】

【0035】
(式(IIIb)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0036】
【化7】

【0037】
(式(IIIc)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、jは
、0、1または2を表し、環A1および環A1′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2および環A2′は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
上記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)において、環A1および環A1′の好ましい
例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0038】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2および環A2′の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
上記式(IIIa)〜(IIIc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0039】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1′が有する置換基と環A2′が有する置換基とが結合することにより、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1、環A1′、環A2および環A2′の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0040】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
上記式(III)および(IIIa)〜(IIIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に
示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL′
として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、および、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0044】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0045】
また、式(IV)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0046】
更に、Tが炭素原子の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は、R94およびR95は無い。
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
【0047】
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
式(IV)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、「Me」はメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0048】
【化10】

【0049】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。 なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
発光層における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上
の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0051】
[電荷輸送材料]
本発明における電荷輸送材料は、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を含む化合物である。
トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を含む化合物は、更に、下記式(2)又は(3)で表される化合物であることが、本発明の効果がより得られる点で好ましい。
【0052】
【化11】

【0053】
(上記式中、Ar21及びAr26は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表し、Ar22〜Ar25、及びAr27〜Ar31は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
尚、Ar21〜Ar31は、互いに隣接するAr21〜Ar31と結合して、環を形成していてもよい。)
[式(2)について]
Ar21は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表し、Ar22〜Ar25は、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
【0054】
アルキル基としては、炭素数1〜20が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましく、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基は非極性溶剤に高い溶解性を持つために好ましい。
【0055】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜25が好ましく、6員環の単環、又は2〜5縮合環由来の芳香族炭化水素基が好ましい。 例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アント
ラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等の由来の基が挙げられる。
芳香族環基としては、芳香族炭化水素基と芳香族複素環基が挙げられる。
【0056】
芳香族複素環基としては、炭素数3〜20が好ましく、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール
環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等が由来の基が挙げられる。
【0057】
上記アルキル基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、本発明の効果を損なわない限り任意であるが、例えば、炭素数3〜10の芳香族環が1〜5個連結した基などが挙げられる。
(式(3)で表される化合物について)
式(3)におけるAr26は、式(2)におけるAr21と同様の環由来の基が挙げられ、またAr27〜Ar31は式(2)におけるAr22〜Ar25はと同義である。具体例及び好ましい例も同様である。
【0058】
[具体例]
本発明における電荷輸送材料の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
【化19】

【0067】
【化20】

【0068】
【化21】

【0069】
尚、本発明において、電荷輸送材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以である。
上記範囲内であると、耐熱性が良好で、ガス発生の原因となりにくく、また膜を形成した際の膜質が良好である点で好ましい。更に、精製が容易なことから純度を高め易いなども挙げられる。
【0070】
[溶剤]
本発明における発光層形成用組成物は溶剤を含有する。ここで、本発明における溶剤とは、20℃、1気圧の雰囲気において液体であり、本発明における発光層形成用組成物に含有される発光材料や電荷輸送材料を溶解することが可能な化合物である。
溶剤としては、一般的に市販されている極性または無極性の溶剤であれば特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の置換又は無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、水、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、ベンゼン、トルエン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼンが好ましい。
【0071】
本発明における発光層形成用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、好ましくは2種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。
[その他の成分]
本発明における発光層形成用組成物は、その他、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物や電子供与性化合物などの電荷輸送補助剤、バインダー樹脂などを含有していてもよい。これらのその他の成分の発光層形成用組成物中の含有量は、薄膜の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、薄膜の膜質を低下させないことなどの観点から、通常50重量%以下である。
【0072】
[溶剤濃度・固形分濃度]
本発明における発光層形成用組成物を、後述の本発明の有機電界発光素子の発光層を形成するための発光層形成用組成物として用いる場合、発光層形成用組成物中の溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50重量%以上、通常99.9999重量%以下、である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0073】
また、発光材料、電荷輸送材料等の全固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
[成膜方法]
本発明に係る湿式成膜法により有機薄膜を形成する場合は、前記発光材料、前記電荷輸送材料及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を調製し、それを用いて成膜する。
【0074】
有機薄膜を形成するための発光層形成用組成物に対する溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30重量%以上、通常99.99重量%以下、である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
また、発光層形成用組成物中の電荷輸送材料、発光材料等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0075】
発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより、有機薄膜が形成される。
本発明における湿式成膜法としては、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルプリンティング法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷等の、溶剤を含有するインクを用いて成膜する方法をいう。パターニングのし易さという点で、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法、またはフレキソ印刷法が好ましい。
【0076】
湿式成膜法で塗布膜を形成(以下、「塗布工程」と称する場合がある)する環境の酸素濃度は、通常18体積%以上、より好ましくは19体積%以上、また、通常22体積%以下、より好ましくは21体積%以下、である。
上記範囲内であると、発光層に適度に酸素が取り込まれ、本発明の効果が得られる点で好ましく、また、発光層の下層が有機層である場合は、該有機層の内部に過剰に酸素が取り込まれ難い点で好ましい。
【0077】
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
また塗布工程の清浄度は、FED規格で、通常クラス100,000以下、好ましくはクラス10,000以下、さらに好ましくはクラス1000以下、また通常クラス100以上、好ましくはクラス10以上である。
【0078】
上記範囲内であると、欠陥が少ない塗布膜が成膜できるため、駆動耐久性の高い素子が製造できる、歩留まりが向上する点で好ましい。
尚、上記清浄度の測定は、例えば、パーティクルカウンターKR−12A(リオン社製)を用いて測定することができるが、同様の測定が可能であればこれらに限定されるものではない。
【0079】
塗布工程における圧力は、通常110000Pa以下、好ましくは105000Pa以下、また通常90000Pa以上、好ましくは950000Pa以上である。
上記範囲内は、一般的な大気圧であり、真空環境にするための設備や時間などが必要でないため、より大面積を容易に塗布できる点で好ましい。
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0080】
上記、湿式成膜法により塗布膜を形成後、加熱する工程(以下、「加熱工程」と称する場合がある)を行う。
加熱工程の環境は、通常不活性ガスを用いる。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどの希ガス類、フロンガスなどの不燃性ガス類等が挙げられ、好ましくは窒素ガスである。
【0081】
これらの不活性ガスは1種、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0082】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、発光層形成用組成物に用いた電荷輸送材料または燐光発光材料のガラス転移温度以下の温度で加熱することが好ましい。また、発光層形成用組成物に用いた電荷輸送材料または発光材料が2種類以上含まれている場合、少なくとも1種類がその電荷輸送材料または発光材料のガラス転移温度以下の温度で加熱されるのが好ましい。
【0083】
加熱工程において、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると発光効率が低下する傾向があり、短すぎると発光層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
有機薄膜の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、有機薄膜が発光層である場合には、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。有機薄膜の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると発光層とし駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0084】
[本発明が効果を奏する理由]
本発明が効果を奏する理由を以下の通り推測する。
真空蒸着法で形成した膜よりも、湿式成膜法で形成した膜の方が、膜の密度が低い。つまり、湿式成膜法で形成した膜の方が、蒸着法で形成した膜より、間隙が多く、これが電
荷をトラップするサイトとなる。
【0085】
また、湿式成膜法で膜を形成する場合、真空蒸着法よりも、酸素を膜中に取り込み易い。
つまり、湿式成膜法の場合、電荷をトラップするサイトに、更に酸素が吸着することで、電荷の移動が妨げられ易い。より具体的には、酸素が吸着することで、特に電子の移動がトラップされるものと推測される。
【0086】
一方、本発明は、発光層を形成する材料として、前記式(1)で表される部分構造又はカルバゾール環を含む化合物を用いると、発光層の発光サイトが陽極側によると考えられる。陽極側によった場合は、駆動による界面付近の劣化が促進される為、高い駆動安定性が得られない場合がある。
しかしながら、酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で成膜することにより、酸素が膜に取り込まれ、発光サイトが、陰極側にシフトする。
【0087】
また、塗布膜を形成後、該塗布膜を加熱することによって成膜するが、不活性ガス中で加熱を行うことで、熱に不安定な酸素が酸化や分解などの化学反応が置き難く、有機層中に、分子としてとりこまれた状態になる。
これより、本発明の製造方法で形成された有機電界発光素子は、駆動寿命が長いものと推測される。
【0088】
<有機電界発光素子>
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成及びその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0089】
(基板)
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0090】
(陽極)
陽極は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0091】
陽極の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより陽極を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,
2711頁,1992年)。
【0092】
陽極は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極の厚みは任意であり、陽極は基板と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0093】
陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極から発光層へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極上に形成される。
【0094】
本発明に係る正孔注入層の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0095】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層を形成する場合、通常は、正孔注入層を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
【0096】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0097】
正孔輸送性化合物としては、陽極から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0098】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れ
か1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0099】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0100】
【化22】

【0101】
(式(I)中、Ar及びArは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Zは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0102】
【化23】

【0103】
(上記各式中、Ar〜Ar16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R及びRは、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。))
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0104】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
及びRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0105】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端を
メタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0106】
尚、正孔輸送性化合物は、下記[正孔輸送層]の項に記載の架橋性重合体であってもよい。該架橋性重合体を用いた場合の成膜方法についても同様である。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる
可能性がある。
【0107】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0108】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アン
モニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0109】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0110】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0111】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0112】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0113】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
【0114】
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
【0115】
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0116】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0117】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0118】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層を形成する場合には、正孔注入層の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0119】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1
×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない
限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0120】
[正孔輸送層]
本発明に係る正孔輸送層の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層は、正孔注入層がある場合には正孔注入層の上に、正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成することができる。 また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層
を省いた構成であってもよい。
【0121】
正孔輸送層を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0122】
このような正孔輸送層の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0123】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0124】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ar又はArが異なっているものであってもよい。
【0125】
【化24】

【0126】
(式(II)中、Ar及びArは、各々独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0127】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0128】
有機溶剤に対する溶解性及び耐熱性の点から、Ar及びArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基(ビフェニル基)やターフェニレン基(ターフェニレン基))が好ましい。
【0129】
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
Ar及びArにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0130】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)及び/又は下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0131】
【化25】

【0132】
(式(III−1)中、Ra、Rb、R及びRは、各々独立に、アルキル基、アルコキ
シ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRa又はRb同士で環を形成していてもよい。)
【0133】
【化26】

【0134】
(式(III−2)中、R及びRは、各々独立に、上記式(III−1)におけるRa、Rb、R又はRと同義である。r及びuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のR及びRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR―、―PR―、―SR―、―CR―又はこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0135】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(III−1)及び/又は前記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0136】
【化27】

【0137】
(式(III−3)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。v及びwは、各々独立に0又は1を表す。)
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、Ar及びArと同様である。
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008-98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0138】
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、上記正孔注入層の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾
燥条件等も正孔注入層の形成の場合と同様である。
【0139】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層の形成の場合と同様である。
正孔輸送層は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0140】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。 架橋性
化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0141】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(III−1)〜(III−3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0142】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0143】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
【0144】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0145】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入
層)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
【0146】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0147】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
[発光層]
正孔注入層の上、又は正孔輸送層を設けた場合には正孔輸送層の上には発光層が設けられる。
【0148】
本発明における発光層は、前記[発光層]の項で記載の材料及び方法を用いて形成する。
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
[正孔阻止層]
発光層と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
【0149】
この正孔阻止層は、陽極から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なく
とも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0150】
なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0151】
[電子輸送層]
発光層と後述の電子注入層の間に、電子輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0152】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0153】
なお、電子輸送層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子輸送層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0154】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率良く発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0155】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0156】
なお、電子注入層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
[陰極]
陰極は、発光層側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0157】
陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0158】
なお、陰極の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極の膜厚は、通常、陽極と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0159】
[その他の層]
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
[電子阻止層]
有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0160】
電子阻止層は、正孔注入層又は正孔輸送層と発光層との間に設けられ、発光層から移動してくる電子が正孔注入層に到達するのを阻止することで、発光層内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層内に閉じこめる役割と、正孔注入層から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0161】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0162】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに陰極と発光層又は電子輸送層との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フ
ッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を
向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE
Transactions on Electron Devices, 1 997
年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0163】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板上に他の構成要素を陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0164】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0165】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0166】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0167】
<有機EL照明>
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0168】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗
浄を行った。
【0169】
次いで、正孔注入層3を以下のように湿式製膜法によって形成した。正孔注入層3の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1(重量平均分子量:52000,数平均分子量:32500))と下記に示す構造式の電子受容性化合物(A−2)とを用い、下記の条件でスピンコートした。
【0170】
【化28】

【0171】
<正孔注入層用組成物>
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 PB−1 2.0重量%
A−2 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 2250rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 酸素濃度が20体積%の環境中
ベーク条件 230℃×60分 (大気中)
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜が形成された。
続いて、正孔輸送層を以下のように湿式製膜法によって形成した。正孔輸送層の材料として、下記に示す構造式の電荷輸送材料(PB−2)を、溶媒としてシクロヘキシルベンゼンを用いた有機電界発光素子用組成物を調製し、この有機電界発光素子用組成物を用いて下記の条件でスピンコートした。
【0172】
【化29】

【0173】
<正孔輸送層用組成物>
溶剤 シクロヘキシルベンゼン
塗布液濃度 PB−2 1.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 酸素濃度が20体積%の環境中
ベーク条件 230℃×60分 (乾燥窒素下)
上記のスピンコートにより膜厚20nmの均一な薄膜が形成された。
【0174】
次に、発光層を形成するにあたり、本発明における電荷輸送材料として、以下に示す、有機化合物(HO−1)及び有機化合物(HO−2)、又、発光材料として、以下に示す、有機化合物(DO−1)及び有機化合物(DO−2)を用いて下記に示す発光層形成用組成物を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層上にスピンコートして膜厚50nmで発光層を得た。
【0175】
【化30】

【0176】
<発光層用組成物>
溶剤 シクロヘキシルベンゼン
組成物中濃度 HO−1 2.5重量%
HO−2 2.5重量%
DO−1 0.25重量%
DO−2 0.35重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 2000rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 酸素濃度が20体積%の環境中、25℃、1.01×
10Pa、
FED規格クラス100
ベーク条件 130℃×60分 (乾燥窒素下)
次に、正孔阻止層として下記に示すピリジン誘導体(HB−1)をるつぼ温度251〜252℃として、蒸着速度0.08〜0.12nm/秒で10nmの膜厚で蒸着し、積層した。蒸着時の真空度は2.1〜2.4×10−4Pa(約1.6〜1.8×10−6Torr)であった。
【0177】
【化31】

【0178】
次に、正孔阻止層の上に、電子輸送層として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のるつぼ温度は222〜239℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.7〜2.0×10−4Pa(約1.3〜1.5×10−6Torr)、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は30nmとした。
【0179】
【化32】

【0180】
上記の正孔阻止層及び電子輸送層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.3×10−6Torr(約3.0×10−4Pa)以下になるまで排気した。
【0181】
次に、電子輸送層の上に、電子注入層として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.015nm/秒、真空度2.5×10−6Torr(約3.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層の上に成膜した。
次に、電子注入層の上に、陰極として、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5〜3.0nm/秒、真空度3.3〜7.5×10−6Torr(約4.4〜10.0×10−4Pa)で製膜して膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を完成させた。
【0182】
以上の電子注入層、陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
素子の発光スペクトルの極大波長は628nmであり、イリジウム錯体(DO−2)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.680,0.317)であった。
【0183】
(実施例2)
実施例1において、電荷輸送材料(HO−2)を下記構造式で表される有機化合物(HO−3)に変更した他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
尚、スピンコートにより膜厚50nmの均一な薄膜(発光層)が形成された。
【0184】
【化33】

【0185】
(実施例3)
実施例1において、電荷輸送材料(HO−2)を下記構造式で表される有機化合物(HO−4)に変更した他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
尚、スピンコートにより膜厚50nmの均一な薄膜(発光層)が形成された。
【0186】
【化34】

【0187】
(実施例4)
実施例1において、電荷輸送材料(HO−2)を下記構造式で表される有機化合物(HO−5)に変更した他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
尚、スピンコートにより膜厚50nmの均一な薄膜(発光層)が形成された。
【0188】
【化35】

【0189】
(比較例1)
実施例1において、正孔輸送層のスピンコート雰囲気を、酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に、また発光層のスピンコート雰囲気を酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に変更した他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
(比較例2)
実施例2において、正孔輸送層のスピンコート雰囲気を、酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に、また発光層のスピンコート雰囲気を酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に変更した他は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0190】
(比較例3)
実施例3において、正孔輸送層のスピンコート雰囲気を、酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に、また発光層のスピンコート雰囲気を酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に変更した他は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。
(比較例4)
実施例4において、正孔輸送層のスピンコート雰囲気を、酸素濃度が20体積%の環境
から窒素中に、また発光層のスピンコート雰囲気を酸素濃度が20体積%の環境から窒素中に変更した他は、実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0191】
実施例1〜4、及び比較例1〜4において作製した有機電界発光素子の特性を表1に、また初期輝度3000cd/mとして直流駆動試験を行い、輝度1500cd/mまで減少するまでの時間(輝度50%減衰寿命)を表2にまとめる。
【0192】
【表1】

【0193】
【表2】

【0194】
表2に示すが如く、本発明の有機電界発光素子の製造方法で製造された素子は、駆動寿命が長いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0196】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、該第一の電極に対向して形成される第二の電極との間に、発光層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、
該発光層が、
発光材料、トリアリールアミン構造及び/又はカルバゾール環を分子内に含む電荷輸送材料、及び溶剤を含有する発光層形成用組成物を用いて、
酸素濃度が18〜22体積%の環境下、湿式成膜法で塗布膜を形成する工程と
該塗布膜を不活性ガス中で加熱する工程を含むことを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記電荷輸送材料が、下記式(2)又は(3)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【化1】

(上記式中、Ar21及びAr26は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表し、Ar22〜Ar25、及びAr27〜Ar31は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。
尚、Ar21〜Ar31は、互いに隣接するAr21〜Ar31と結合して、環を形成していてもよい。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で形成されたことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機ELディスプレイ。
【請求項5】
請求項3に記載の有機電界発光素子を含むことを特徴とする、有機EL照明。

【図1】
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【公開番号】特開2011−129275(P2011−129275A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284385(P2009−284385)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】