説明

有機電界発光素子及び発光装置

【課題】発光特性が優れ、長時間駆動した後も発光特性が大きく損なわれない有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、X線光電子分光法により測定されるCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eV±0.5eVのピークAとO1s軌道に相応する結合エネルギー531.0eV±0.5eVのピークBの面積比から算出される元素比率A/Bが3.1乃至7.3の範囲内にあるセシウムサブオキサイドを含む有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子及びそれを利用した発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は液晶ディスプレイと比較して(1)消費電力が小さい、(2)視野角が良い、(3)更に薄くできる、(4)フレキシブル基板が利用できる等の特長を有することから次世代の表示素子として実用化が期待されている。
【0003】
しかしながら、発光特性の低さ、短寿命、数十ナノレベルの薄膜プロセスの困難さ等、実用化するための改善すべき課題がまだ多く残されている。特に発光特性の低さ、短寿命を解決する為には電極から有機化合物層への電荷注入の改善が必須とされている。
【0004】
それを解決する為に有機化合物層にアルカリ金属あるいはその酸化物、過酸化物、塩等をドーピングすることが知られている(特許文献1乃至3)。また、セシウムサブオキサイドに関しては種々の化合物が知られている(非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特許第3529543号公報
【特許文献2】特開平10−2701712号公報
【特許文献3】特開2004−192842号公報
【非特許文献1】Coordination Chemistry Reviews 163(1997) 253−270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電荷の注入性の改善により発光特性の低さは幾分解決してきているが、寿命に関しての課題は未だ不十分である。
【0007】
本発明は発光特性が優れ、長時間駆動した後も発光特性が大きく損なわれない有機電界発光素子及びそれを利用した発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、X線光電子分光法により測定されるCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eV±0.5eVのピークAとO1s軌道に相応する結合エネルギー531.0eV±0.5eVのピークBの面積比から算出される元素比率A/Bが3.1乃至7.3の範囲内にあるセシウムサブオキサイドを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光特性及び寿命に優れ、生産性の高い有機電界発光素子を提供することができる。また、その素子を利用することでディスプレイの情報表示部に好適に用い得る発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0011】
図1(a)は金基板上に0.3L(1L=10-6torr・s)の酸素導入下、金属セシウムディスペンサー(SAES Getters社製)を抵抗加熱により真空蒸着した膜のX線光電子分光法による結合エネルギーチャートの代表的な一例である。また、図1(b)及び(c)はそれぞれ、図1(a)中のCs3d5軌道に相応する結合エネルギーのピークを含む部分とO1s軌道に相応する結合エネルギーのピークを含む部分を拡大した図である。
【0012】
図1(b)ではピークAが1種類、図1(c)ではピークB、Cの2種類のピークが確認される。即ち、蒸着膜中には結合状態の異なるセシウム原子が少なくとも1種類以上、また酸素原子が少なくとも2種類以上存在することを意味している。本発明はこれらのうち、ピークA及びBに着目し鋭意検討したところ、ピークA及びピークBの面積比から算出される元素比率A/Bが発光特性及び寿命の改善に大きく影響することを見出したものである。
【0013】
図1は金の基板上に成膜したセシウムサブオキサイドの測定例であるが、蒸着物の成分は不活性な基板上では変化しない。従って、本発明の素子中に存在するセシウムサブオキサイドも有機化合物との相互作用を除けば、それに順ずるものであると推測される。元素比率A/Bが3.1より小さいと発光効率が低下し、7.3より大きくなると寿命が悪くなる。また、本発明の効果をより顕著化する為には前記元素比率A/Bが3.1乃至4.2であるものが好ましい。セシウムサブオキサイドの構造は明確には同定できていないが、Cs113、(Cs113)Cs、(Cs113)Cs10等が推測される。
【0014】
本発明の有機電界発光素子は発光した光を基板側から取り出すボトムエミッション型(BE型)、あるいは基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型(TE型)のどちらの構造においても有効である。図2及び図3を用いて本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
図2,3は本発明の有機電界発光素子を示した断面模式図の一例である。図2では、基板1上に陽極2が配置され、その上にホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、セシウムサブオキサイド層8、陰極9が順に配置されている。本発明の有機電界発光素子は、図3に示すように、基板1上に陰極9が配置され、その上にセシウムサブオキサイド層8、電子注入層7、電子輸送層6、発光層5、ホール輸送層4、ホール注入層3、陽極2が順に配置されていても良い。
【0016】
また、図中、セシウムサブオキサイド層8は陰極9と電子注入層7の間に位置しているが、発光素子中のどこに位置していても良い。また、セシウムサブオキサイドは単独で、例えば電子注入層、電子輸送層を形成していても良いが、例えば電子注入層、電子輸送層等の有機化合物層の少なくとも一層以上に混合層として含まれていることが本発明の効果をより顕著化する為にも好ましい。本発明の必須な構成要素はセシウムサブオキサイドを含んでいること、及び陽極2、陰極9、発光層5であり、ホール注入層3及びホール輸送層4、電子輸送層6、電子注入層7の少なくとも1層はプロセスを簡略化する為に除くことが可能である。
【0017】
また、電極から有機化合物層への電荷注入を改善する為に、セシウムサブオキサイドを含む層、即ちセシウムサブオキサイドのみからなる層あるいはセシウムサブオキサイドを含む有機化合物層は、陰極9と電気的に実質接しているものが好ましい。電気的に実質接しているとは陰極9とセシウムサブオキサイドを含む層の間に、有機化合物層、あるいは無機化合物層あるいは有機・無機の混合層といった別な層が設けられていたとしても電子注入性が改善される場合を言う。
【0018】
セシウムサブオキサイドは、酸素導入下で金属セシウムを蒸着することにより、有機電界発光素子に含有させることが可能である。この場合、酸素導入量は本発明のセシウムサブオキサイドが得られる範囲であれば特に限定はされないが、0.1L乃至0.5Lが有効である。金属セシウムは反応性が非常に高く、取扱が困難である為に金属セシウムの変わりに金属セシウムのみを発生させるとされるSAES Getters社製の金属セシウムディスペンサーを用いることは有効である。また、酸化セシウム、炭酸セシウム等のセシウム化合物の分解物により製造することも可能である。また、成膜速度はセシウムサブオキサイドが安定に蒸着される範囲であれば特に限定はされない。例えば水晶振動子で測定した場合0.001nm/sec乃至1nm/secの範囲である。該有機化合物とセシウムサブオキサイドの成膜速度比に関しても特に限定されないが、例えば(有機化合物との成膜速度)/(セシウムサブオキサイドの成膜速度)は100乃至0.1の範囲である。
【0019】
以下、本発明で用いる有機化合物層について説明する。
【0020】
ホール輸送層は、トリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体等の低分子化合物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリピリジン誘導体等の共役高分子化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。本発明の低分子化合物とは分子量3,000以下の化合物を示す。特に好ましい構造を以下に示す。
【0021】
【化1】

【0022】
電子輸送層は、アルミキノリノール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体等、が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。特に好ましい構造を以下に示す。
【0023】
【化2】

【0024】
発光層は、前記したホール輸送層で用いた材料および電子輸送層で用いた材料、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン誘導体、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、これらのオリゴ体あるいは複合オリゴ体、Al錯体、Mg錯体、亜鉛錯体、Ir錯体、Au錯体、Ru錯体、Re錯体、Os錯体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。蒸着プロセスが利用できる観点から低分子化合物が好ましい。また、これらの発光材料の一種以上をホール輸送層または電子輸送層にドーピングすることで得られる混合層を発光層として用いても良い。特に好ましい構造を以下に示す。
【0025】
【化3】

【0026】
本発明で用いる基板としては特に限定されないが、例えばガラス、石英等の無機材料のほかアクリル系、ビニル系、エステル系、イミド系、ウレタン系、ジアゾ系、シンナモイル系等の感光性高分子化合物、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の有機材料、有機無機ハイブリッド材料を用いることができる。また、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。また、TFT等のアクティブ素子を備えていても良い。
【0027】
本発明で用いる陽極は、例えばAl、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料も好適であるが、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。図2で示される有機電界発光素子の場合、BE型では好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。TE型では反射率の高いAg、Cr等の金属材料が好ましい。また、Al/ITO、Ag/IZO、ITO/Al/ITOといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。
【0028】
本発明で用いる陰極は、例えばAl、Mg、Ca、Cu、Ti、Au、Pt、Ag、Cr、Pd、Se、Ir等の金属材料およびそれらの合金材料、ポリシリコン、シリサイド、ITO(Indium Tin Oxide)、ITZO(Indium Tin Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO2等の無機材料、ハイドープされたポリピリジン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンに代表される導電性高分子および炭素粒子、銀粒子等を分散した導電性インク等が挙げられる。また、Ag/Mg、Al/Mg、Ag/Mg/Agといった、これらの材料を2層以上積層させて用いることもできる。発光を効率よく取り出す為には好ましくは透明性の高いITO、ITZOまたはIZO等の透明電極が好ましい。
【0029】
本発明で用いる陰極、陽極及び有機化合物層、セシウムサブオキサイドを含む層の形成方法は特に限定はされない。有機材料の場合、電解重合法、キャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等で形成することができる。また、用いる材料により真空蒸着法、CVD法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等も有効な形成方法である。また、これらはフォトリソグラフおよびエッチング処理により所望の形状にパターニングすることができる。その他、ソフトリソグラフ、インクジェット法も有効なパターニング方法である。
【0030】
本発明の陽極及び陰極、有機化合物層、セシウムサブオキサイドを含む層の膜厚は特に限定はされないが0.1nm以上10μm以下の範囲が好ましい。更に本発明の有機電界発光素子は少なくとも陰極側から光を取り出すものが好ましい。
【0031】
本発明の発光装置は、上記本発明の有機電界発光素子を面内に複数有することを特徴とし、好ましくはディスプレイの情報表示部に用いられる。ディスプレイのサイズは特に制限されないが、例えば1インチから30インチまでが好ましい。画素数は制限はなく、例えばQVGA(320×240画素)、VGA(640×480画素)、XGA(1024×728画素)、SXGA(1280×1024画素)、UXGA(1600×1200画素)、QXGA(2048×1536画素)が挙げられる。また、カラー表示できることが好ましく、その場合、赤、青、緑の発光素子を独立に配列させることで表示する方法、またはカラーフィルターを用いる方法、何れにおいても有効である。また、駆動方法としては単純マトリックス方法、アクティブマトリックス方法、何れにおいても有効である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
図4は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0034】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−9、発光層5としてE−1、電子輸送層6としてE−2、電子注入層7としてセシウムサブオキサイド、陰極47としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0035】
ガラス基板1上にスパッタ法にてITOを膜厚50nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0036】
次に真空蒸着装置を用いて下記条件で、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6を連続蒸着し積層膜を得る。
【0037】
ホール輸送層4:H−9を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚50nm
発光層5:E−1を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚30nm
電子輸送層6:E−2を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で膜厚30nm
【0038】
次に0.3Lの酸素導入下、金属セシウムディスペンサー(SAES Getters社製)を抵抗加熱により真空蒸着し、成膜速度0.05nm/sec以上0.06nm/sec以下にて膜厚3nmで成膜する(電子注入層7)。
【0039】
その後、アルミニウムを成膜速度1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下にて膜厚150nmで成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0040】
次に直流電圧を10V印加した時の電流効率を測定し初期値とする。次に、この有機電界発光素子を室温にて200時間連続発光させた後、同様にして電流効率を測定する。また変化率[(電流効率の初期値−200時間連続発光後の値)×100/電流効率の初期値(%)]を算出することで寿命を評価する。以下に結果を示す。
【0041】
200時間連続発光後の電流効率 4.9cd/A
変化率 6.8%
【0042】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて(測定装置:ESCALAB 220i−XLVG /Scientific社製)測定した。その結果、Cs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.2eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.1eV、532.7eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.2eV)とピークB(531.1eV)の面積比から元素比率A/Bを算出したところ4.2であった。
【0043】
<比較例1>
電子注入層7を成膜する際に、1.0Lの酸素導入下で成膜する以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0044】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0045】
200時間連続発光後の電流効率 3.3cd/A
変化率 15.0%
【0046】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー725.5eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー530.5eV、532.5eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(725.5eV)とピークB(530.5eV)の面積比から元素比率A/Bを算出したところ2.3であった。
【0047】
<比較例2>
電子注入層7を成膜する際に、酸素を導入しないで成膜する以外は実施例1と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0048】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0049】
200時間連続発光後の電流効率 2.3cd/A
変化率 54.0%
【0050】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.3eVのピークは得られたが、O1s軌道に相応する結合エネルギーのピークは得られなかった。
【0051】
<実施例2>
図5は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0052】
基板1としてガラス、陽極2としてITO,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてE−1とA−3との混合物、電子輸送層6としてE−1とセシウムサブオキサイドとの混合物、陰極9としてアルミニウムを用いる。以下に製造手順を示す。
【0053】
ガラス基板1上にスパッタ法にてITOを膜厚80nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、ITO表面をUV/オゾン処理を行う。
【0054】
次に真空蒸着装置を用いてH−2を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で蒸着し、膜厚40nmに成膜する(ホール輸送層4)。次にE−1とA−3を共蒸着し、混合膜厚30nmに成膜する(発光層5)。このときのそれぞれの成膜速度はE−1が0.20nm/sec以上0.23nm/sec以下、A−3が0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下である。
【0055】
次に0.1Lの酸素導入下、金属セシウムディスペンサー(SAES Getters社製)とE−1を共蒸着し、混合膜厚40nmに成膜する(電子輸送層6)。このときのそれぞれの成膜速度はセシウムサブオキサイドが0.05nm/sec以上0.06nm/sec以下、E−1が0.20nm/sec以上0.23nm/sec以下である。
【0056】
その後、アルミニウムを成膜速度1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下で膜厚150nmに成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0057】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0058】
200時間連続発光後の電流効率 9.3cd/A
変化率 9.8%
【0059】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子輸送層6と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.2eV、532.8eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.2eV)とピークB(531.2eV)の面積比から元素比率A/Bを算出したところ7.3であった。
【0060】
<比較例3>
金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により真空蒸着する際に、3.0Lの酸素導入下で電子輸送層6を成膜する以外は実施例2と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0061】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0062】
200時間連続発光後の電流効率 4.6cd/A
変化率 13.4%
【0063】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子輸送層6と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー725.0eVのピークが得られ、726.0±0.5eVの範囲に入るピークは得られなかった。
【0064】
<実施例3>
図4は本実施例で製造した有機電界発光素子を示す断面模式図である。
【0065】
基板1としてガラス、陽極2としてクロム,ホール輸送層4としてH−2、発光層5としてH−1とA−9の混合物、電子輸送層6としてE−12、電子注入層7としてE−12とセシウムサブオキサイドとの混合物、陰極9としてIZOを用いる。以下に製造手順を示す。
【0066】
ガラス基板1上にスパッタ法にてクロムを膜厚100nm成膜する(陽極2)。その後、アセトン、イソプロピルアルコールで洗浄し、真空乾燥した後、クロム表面をUV/オゾン処理を行う。
【0067】
次に真空蒸着装置を用いてH−2を成膜速度0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下で膜厚50nmに成膜する(ホール輸送層4)。次にH−1とA−9を共蒸着し、混合膜厚30nmに成膜する(発光層5)。このときのそれぞれの成膜速度はH−1が0.50nm/sec以上0.52nm/sec以下、A−9が0.05nm/sec以上0.07nm/sec以下である。更にE−12を成膜速度0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下で蒸着し、膜厚10nmに成膜する(電子輸送層6)。
【0068】
その上に0.5Lの酸素導入下、金属セシウムディスペンサー(SAES Getters社製)とE−12を共蒸着し、混合膜厚50nmに成膜する(電子注入層7)。このときのそれぞれの成膜速度はセシウムサブオキサイドが0.15nm/sec以上0.18nm/sec以下、E−12が0.30nm/sec以上0.32nm/sec以下である。
【0069】
その後、スパッタ法によりIZOを膜厚150nm成膜する(陰極9)。最後に窒素雰囲気下、水分ゲッター剤を含むガラスキャップを用いて素子を封止し有機電界発光素子を得る。
【0070】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0071】
200時間連続発光後の電流効率 7.8cd/A
変化率 9.7%
【0072】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.3eV、532.9eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.1eV)とピークB(531.1eV)の面積比から元素比率A/Bを算出したところ3.1であった。
【0073】
<実施例4>
金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により真空蒸着する際に、0.3Lの酸素導入下で電子注入層7を成膜する以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0074】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0075】
200時間連続発光後の電流効率 8.0cd/A
変化率 5.3%
【0076】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.2eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.1eV、532.7eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.2eV)とピークB(531.1eV)の元素比率A/Bを算出したところ4.2であった。
【0077】
<実施例5>
金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により真空蒸着する際に、0.1Lの酸素導入下で電子注入層7を成膜する以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0078】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0079】
200時間連続発光後の電流効率 7.4cd/A
変化率 8.1%
【0080】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.1eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.2eV、532.8eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.2eV)とピークB(531.2eV)の元素比率A/Bを算出したところ7.3であった。
【0081】
<比較例4>
金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により真空蒸着する際に、0.05Lの酸素導入下で電子注入層7を成膜する以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0082】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0083】
200時間連続発光後の電流効率 5.3cd/A
変化率 32.0%
【0084】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.2eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー531.5eV、532.7eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(726.3eV)とピークB(531.2eV)の元素比率A/Bを算出したところ12.5であった。
【0085】
<比較例5>
金属セシウムディスペンサーを抵抗加熱により真空蒸着する際に、1.0Lの酸素導入下で電子注入層7を成膜する以外は実施例3と同様の手法により有機電界発光素子を製造する。
【0086】
次に実施例1と同様の手法により素子の電流効率、寿命を評価する。その結果を以下に示す。
【0087】
200時間連続発光後の電流効率 4.6cd/A
変化率 18.0%
【0088】
また、別に用意したガラス基板上にクロムを膜厚5nm、次に金を膜厚50nmで成膜し、その上に電子注入層7と同じ条件で成膜した。得られた膜をX線光電子分光法にて測定したところCs3d5軌道に相応する結合エネルギー725.5eVのピーク、O1s軌道に相応する結合エネルギー530.5eV、532.5eVの2種類のピークが得られた。その中のピークA(725.5eV)とピークB(530.5eV)の元素比率A/Bを算出したところ2.3であった。
【0089】
以上の結果から実施例1と比較例1、2、実施例2と比較例3,実施例3乃至5と比較例4,5それぞれを比較することで明らかなように本発明の有機電界発光素子は発光特性および寿命が優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】0.3Lの酸素導入下、金属セシウムディスペンサーを真空蒸着した膜のX線光電子分光法による結合エネルギーチャートの代表的な一例である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の断面模式図の一例である。
【図4】実施例1、3乃至5で製造する有機電界発光素子の断面模式図である。
【図5】実施例2で製造する有機電界発光素子の断面模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 セシウムサブオキサイド層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に備えられている一層または複数層の有機化合物層とから少なくとも構成されている発光素子であって、X線光電子分光法により測定されるCs3d5軌道に相応する結合エネルギー726.0eV±0.5eVのピークAとO1s軌道に相応する結合エネルギー531.0eV±0.5eVのピークBの面積比から算出される元素比率A/Bが3.1乃至7.3の範囲内にあるセシウムサブオキサイドを含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記元素比率A/Bが3.1乃至4.2の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記セシウムサブオキサイドが前記有機化合物層の少なくとも一層以上に含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記セシウムサブオキサイドが前記陰極と電気的に実質接している層に含まれることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記陰極が透明電極であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層が低分子化合物であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
少なくとも前記陰極側から光を取り出すことを特徴とする請求項1乃至6記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の有機電界発光素子を面内に複数有することを特徴とする発光装置。
【請求項9】
ディスプレイの情報表示部であることを特徴とする請求項8記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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