説明

有機電界発光素子

【課題】 発光寿命が長く、消費エネルギーが低い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子10は、陽極2と陰極6との間に、(A)エナミン骨格におけるα位の炭素原子に水素原子が結合しているとともに、(B)α位の炭素原子に結合する窒素原子に、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基が結合しているか、または、α位の炭素原子に結合する窒素原子が、複素環を形成し、かつ、(C)上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基、からなる群より選ばれる何れか一種の置換基が結合しているか、または、β位の炭素原子が、5員環または6員環を形成しているエナミン化合物を少なくとも1種含有する層を少なくとも1層備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関するものであり、より詳しくは、特定のエナミン化合物を用いた有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、バックライト等のパネル型光源としては、主に、無機電界発光素子が用いられている。しかしながら、無機発光素子の駆動には、高電圧の交流を必要とする。
【0003】
そこで、近年、発光材料に有機材料を用いた有機電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子:有機EL素子)の開発が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
有機電界発光素子は、蛍光性有機化合物を含む薄膜を、陽極と陰極との間に挟持する構造を有している。有機電界発光素子においては、電子および正孔(ホール)が上記薄膜に注入され、上記薄膜内で電子と正孔とが再結合することにより、励起子(エキシトン)が生成され、この励起子が失活する際に放出される光を利用して発光が起こる。このため、有機電界発光素子の発光では、数V〜数十V程度の低電圧の直流を印加することによって発光が可能である。また、有機電界発光素子に用いる蛍光性有機化合物の種類を選択することにより、例えば、赤色、青色、緑色等の各種発光色を得ることができる。このため、有機電界発光素子は、種々の発光素子、表示素子等への応用が期待されている。
【0005】
これまで、上記有機電界発光素子に使用される蛍光性有機化合物としては、例えば、正孔注入輸送材料として、4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(3’’−メチルフェニル)アミノ〕ビフェニル(以下、「TPD」と略す)を用いることが提案されている(非特許文献2参照)。また、2−〔4’−[N−フェニル−N−(4’’−メチルフェニル)アミノ]フェニル〕−3,4,5−トリフェニルチオフェンや2,5−ビス〔4’−[N−フェニル−N−(3’’−メチルフェニル)アミノ]フェニル〕−3,4−ジフェニルチオフェン)を、正孔注入輸送材料として用いることが提案されている(特許文献1参照)。さらに、特定の芳香族ジアミン化合物を青色発光材料として用いることが提案されている(特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開平10−125468公報(1998年5月15日公開)
【特許文献2】特開2004−210785公報(2004年7月29日公開)
【特許文献3】特開2004−210786公報(2004年7月29日公開)
【特許文献4】特開昭59−194393公報(1984年11月5日公開)
【特許文献5】特開平6−322362公報(1994年11月22日公開)
【特許文献6】特開平5−198377公報(1993年8月6日公開)
【特許文献7】特開平1−256584公報(1989年10月13日公開)
【特許文献8】特開平8−315983公報(1996年11月29日公開)
【特許文献9】特開平5−214332公報(1993年8月24日公開)
【非特許文献1】C.W.Tang、他1名,Applied Physics Letter, 51, 1987, p.913
【非特許文献2】C.Adachi、他3名,Jpn. Journal of Applied Physics, 27, L269, 1988, p.269
【非特許文献3】Journal of Applied Physics, 65, 1989, p.3610
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に、有機電界発光素子は、発光素子としての安定性並びに耐久性に乏しく、寿命が短いという問題点を有している。このような問題点の大きな要因としては、上記有機電界発光素子、特に、該有機電界発光素子に用いられる、蛍光性有機化合物の熱に対する安定性が低いことが挙げられる。また、低消費エネルギーの観点から、さらなる発光効率の向上および発光開始電圧の省力化が求められている。
【0007】
具体的には、上記非特許文献2に示すように、TPDを正孔注入輸送材料として用いてなる有機電界発光素子は、発光素子としての安定性、耐久性に乏しく、発光寿命が短い。また、上記TPOは、正孔(ホール)の輸送効率が十分ではない。このため、消費エネルギーを抑えるべく、さらなる輸送効率の向上が求められている。
【0008】
また、上記特許文献1に示すチオフェン誘導体のアミン化合物を正孔注入輸送材料として用いた有機電界発光素子は、安定性、耐久性の向上が見られるものの、発光効率が十分であるとは言い難い。したがって、低消費エネルギーを抑えるためには、発光効率のさらなる改良が望まれる。
【0009】
さらに、上記特許文献2、3に示す芳香族ジアミン化合物は、青色発光性を有するものの、電子輸送性並びに正孔輸送性があまり高くない。このため、発光効率が十分ではなく、該芳香族ジアミン化合物を青色発光材料として用いても、輝度(輝度強度)が低い発光素子しか得ることができない。これは、上記芳香族ジアミン化合物が、構造上、高い立体障害性を有していることから、合成が困難であることに加えて、整合性不良が生じやすいためであると考えられる。
【0010】
このため、発光寿命が長く、消費エネルギーが低い有機電界発光素子の開発が求められている。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、発光寿命が長く、消費エネルギーが低い有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一対の電極間に、特定のエナミン化合物を少なくとも一種含有する層を少なくとも一層設けることで、発光寿命が長く、消費エネルギーが低い有機電界EL素子を得ることができることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明にかかる有機電界発光素子は、一対の電極間に、(A)一般式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
で表されるエナミン骨格におけるα位の炭素原子に水素原子が結合しているとともに、(B)上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子が、複素環を形成し、かつ、(C)上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基、からなる群より選ばれる何れか一種の置換基が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子が、5員環または6員環を形成しているエナミン化合物を、少なくとも1種含有する層を少なくとも1層挟持してなることを特徴としている。
【0016】
上記有機電界発光素子において、上記エナミン化合物は、一般式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、RおよびRは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)で表される化合物であることが好ましい。
【0019】
このようなエナミン化合物のなかでも、より好適なエナミン化合物としては、例えば、一般式(3)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、R、Rは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)で表される化合物、一般式(4)
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)で表される化合物、一般式(5)
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または、置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)で表される化合物等が挙げられる。
【0026】
上記例示のエナミン化合物において、上記置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基は、置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。特に、上記例示のエナミン化合物は、これらエナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する置換基、および、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に結合する置換基のうち少なくとも1つの置換基が、置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。つまり、上記エナミン化合物を構成する環式炭化水素、より具体的には、上記一般式単環式炭化水素残基は、置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。
【0027】
また、上記例示の各エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する置換基のうち少なくとも一方の置換基は、単環式炭化水素残基であることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、Ar、Arで示される置換基のうち少なくとも一方の置換基は、単環式炭化水素残基であることが好ましい。
【0028】
また、上記例示の各エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子には、単環式炭化水素残基と、ペンテニル基、インデニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フロオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、およびアセアントリル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、Arは単環式炭化水素残基であり、Arはペンテニル基、インデニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フロオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、またはアセアントリル基であることが好ましい。
【0029】
あるいは、上記例示の各エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子には、単環式炭化水素残基と、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、およびシクロヘキシルフェニル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、Arは単環式炭化水素残基であり、Arはビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。
【0030】
また、上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基は、それぞれ独立して、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、上記Ar、Arで示される置換基は、それぞれ独立して、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。
【0031】
また、上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基は、それぞれ独立して、ビフェニル基またはテルフェニル基であることが好ましく、双方ともに、ビフェニル基またはテルフェニル基であることがより好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、上記Ar、Arで示される置換基は、それぞれ独立して、ビフェニル基またはテルフェニル基であることが好ましく、双方ともに、ビフェニル基またはテルフェニル基であることがより好ましい。
【0032】
より具体的には、上記エナミン化合物は、
【0033】
【化6】

【0034】
からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
【0035】
また、上記有機電界発光素子は、上記一対の電極間に、上記一方の電極から発光層に正孔を輸送する正孔注入輸送層を備え、該正孔注入輸送層が上記エナミン化合物を含有していることが好ましい。
【0036】
また、上記有機電界発光素子は、発光層が上記エナミン化合物を含有していることが好ましい。
【0037】
上記エナミン化合物は、何れも、正孔輸送性(電荷輸送性)並びに熱安定性に特に優れている。したがって、上記の各構成によれば、上記有機電界発光素子が、上記エナミン化合物を含むことで、該有機電界発光素子の発光効率の向上並びに発光開始電圧の省力化を図ることができるとともに、輝度の半減期が長く、耐久性に優れ、発光寿命が長い有機電界発光素子を提供することができるという効果を奏する。しかも、上記エナミン化合物は、合成および精製が容易であるため、上記の構成によれば、本発明にかかる上記有機電界発光素子を、工業的に効率良く製造することができるという効果を併せて奏する。
【0038】
また、発光層に上記エナミン化合物を含有させることにより、上記効果に加えて、輝度に優れた青色発光素子を実現することができるという効果も併せて奏する。
【0039】
さらに、上記有機電界発光素子は、上記一対の電極間に、上記エナミン化合物を含有している発光層に接して、金属錯体を含有する層が設けられていることが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、上記一対の電極間に、上記発光層に接して、電子輸送性の強いアルミニウム錯体(具体的には、例えば発光性有機アルミニウム錯体)等の金属錯体を含有する層が設けられていることで、発光層でのキャリアバランス(すなわち、電子と正孔とのバランス)が向上し、より強いエナミン化合物の発光性が得られるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0041】
本発明にかかる有機電界発光素子は、以上のように、一対の電極間に、特定のエナミン化合物を少なくとも一種含有する層を少なくとも一層設けることで、発光効率を高め、発光開始電圧の省力化を図ることができるとともに、輝度の半減期が長く、耐久性に優れ、発光寿命が長い有機電界発光素子を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の実施の一形態について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0043】
図1は、本発明の実施の一形態にかかる有機電界発光素子の概略構成を模式的に示す断面図である。
【0044】
図1に示すように、本実施の形態にかかる有機電界発光素子(以下、有機EL素子と記す)10は、基板1上に、陽極2、正孔注入輸送層3、発光層4(有機電界発光層)、電子注入輸送層5、および陰極6が、この順に積層された積層構造を有している。
【0045】
上記基板1は、上記有機EL素子10の基台として用いられる。上記陽極2は、陰極6とともに一対の電極として電源7に接続されて用いられる。該陽極2は、上記発光層4に正孔(ホール)を供給するための電極であり、該陽極2に電圧が印加されることで、正孔を放出する。本実施の形態では、上記陽極2は、上記正孔注入輸送層3を介して上記発光層4に正孔を供給する。すなわち、図1に示す有機EL素子10においては、上記陽極2は、正孔注入輸送層3および発光層4に正孔を供給する。
【0046】
一方、上記陰極6は、上記発光層4に電子を供給するための電極である。該陰極6は、上記陽極2とともに上記電源7に接続されて用いられ、該陰極6に電圧が印加されることで、電子を放出する。本実施の形態では、上記陰極6は、上記電子注入輸送層5を介して上記発光層4に電子を供給する。すなわち、図1に示す有機EL素子10においては、上記陰極6は、電子注入輸送層5および発光層4に電子を供給する。
【0047】
また、上記正孔注入輸送層3は、陽極2と発光層4との間に形成され、陽極2から放出された正孔を受け入れ、この正孔(つまり、該正孔注入輸送層3に注入された正孔)を、発光層4に輸送する。電子注入輸送層5は、陰極6と発光層4との間に形成され、陰極6から放出された電子を受け入れ、この電子(つまり、該電子注入輸送層5に注入された電子)を、発光層4に輸送する。
【0048】
発光層4では、上記有機EL素子10に電圧(電界)が印加されると、上記陽極2から注入された正孔と、上記陰極6から注入された電子とが再結合して光を発する。上記一対の電極から注入された正孔と電子とが再結合すると、励起子(エキシトン)が生成される。発光層4は、この励起子が失活する際に放出される光を利用して発光する。
【0049】
以下に、上記各層の層構成について、それぞれ詳細に説明する。
【0050】
(基板1)
上記基板1の材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、従来、有機電界発光素子の基台に使用されている材料と同様の材料を使用することができる。上記基板1の材料としては、具体的には、例えば、ジルコニア安定化イットリウム、ガラス等の無機材料;ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の高分子材料;等が挙げられる。
【0051】
上記基板1としては、主には透明基板が用いられるが、これに限定されるものではない。上記基板1は、上記例示の材料を組み合わせてなる複合シートからなるものであってもよく、金属基板表面に、絶縁材料からなるバリアコートが形成されてなる基板、あるいは、金属基板表面を陽極酸化等の方法で絶縁化処理してなる基板であってもよい。さらに、上記基板1としては、例えば、これら各種材料からなるベース基板表面に、例えば、カラーフィルタ膜、色変換膜、誘電体反射膜等の各種機能膜が積層されてなる構造を有していてもよい。このように、ベース基板に上記例示の各種機能膜を組み合わせて使用することで、容易に発光色のコントロールを行うことができる。
【0052】
(陽極2)
陽極2を構成する材料(電極材料)としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、もしくはこれらの混合物等の電極材料を用いることができる。これら電極材料のなかでも、上記陽極2を構成する材料としては、上記発光層4に正孔を注入し易いように、仕事関数が比較的大きい材料を用いることが好ましい。具体的には、上記陽極2を構成する材料としては、上記した電極材料(例えば金属、合金、または電気電導性化合物等の材料)のなかでも、仕事関数が4eV以上の材料を用いることが好ましい。また、該陽極2に隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を総合的に考慮すると、上記陽極2を構成する材料としては、具体的には、例えば、金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、バナジウム、タングステン、酸化錫、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリチオフェン、ポリピロールから選ばれる少なくとも一種の材料であることが好ましい。これら電極材料は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0053】
上記陽極2のシート電気抵抗は、低いほうが好ましく、具体的には数百Ω/□以下、好ましくは、5〜50Ω/□の範囲内である。
【0054】
(陰極6)
陰極6を構成する材料(電極)は、電子注入輸送層5および発光層4等の上記陰極6と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択される。上記陰極6を構成する電極材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、もしくはこれらの混合物等を用いることができる。より具体的には、例えば、アルカリ金属(例えばLi、Na、K、Cs等)、もしくはそのフッ化物;ナフトール等の有機塩;アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)、もしくはそのフッ化物;金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、もしくはそれらの混合金属;リチウム−アルミニウム合金、もしくはそれらの混合金属;マグネシウム−銀合金、もしくはそれらの混合金属;インジウム、イッテルビウム等の希土類金属;等を用いることができる。
【0055】
これら電極材料のなかでも、上記陰極6を構成する材料としては、上記発光層4に電子を注入し易いように、仕事関数が比較的小さい材料、具体的には、仕事関数が4eV以下の材料を用いることが好ましく、アルミニウム、リチウム−アルミニウム合金、もしくはそれらの混合金属;マグネシウム−銀合金、もしくはそれらの混合金属;等を用いることがより好ましい。上記陰極6もまた、単層構造を有していてもよく、積層構造(多層構造)を有していてもよい。
【0056】
上記陰極6のシート抵抗もまた前記陽極2と同様に、低いほうが好ましく、具体的には数百Ω/□以下、より具体的には、5〜50Ω/□の範囲内であることが好ましい。
【0057】
(正孔注入輸送層3)
正孔注入輸送層3は、正孔注入輸送成分として、正孔注入輸送機能を有する化合物、つまり、陽極2から放出された正孔を受け入れ、この正孔を発光層4へ輸送する機能を有する化合物(以下、正孔注入輸送性化合物と記す)を少なくとも一種用いて形成することができる。すなわち、上記正孔注入輸送層3は、少なくとも一種の正孔注入輸送性化合物を含有してなる。
【0058】
上記正孔注入輸送性化合物としては、例えば、エナミン化合物、フタロシアニン誘導体、トリアリールメタン誘導体、トリアリールアミン誘導体、オキサゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ビニルカルバゾールおよびその誘導体等が挙げられる。これら正孔注入輸送性化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0059】
本発明にかかる有機電界発光素子においては、上記正孔注入輸送層3はエナミン化合物を含有していることが好ましい。エナミン化合物は下記一般式(1)
【0060】
【化7】

【0061】
で表されるエナミン骨格を少なくとも1つ含有する化合物である。
【0062】
本実施の形態にかかる有機EL素子10においては、上記正孔注入輸送層3が、上記エナミン化合物のなかでも、特定のエナミン化合物(以下、「エナミン化合物A」と記す)を含有していることが、当該有機EL素子10の長寿命化、省エネルギー化の観点から好ましい。なお、上記エナミン化合物Aについては後で詳述する。
【0063】
上記正孔注入輸送層3において、上記エナミン化合物(特に上記エナミン化合物A)以外に用いられる正孔輸送性化合物、特に、上記正孔注入輸送層3が上記エナミン化合物を含む場合に、上記エナミン化合物と併用する正孔輸送性化合物としては、前記例示の化合物のなかでも、4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(4’’−メチルフェニル)アミノ〕ビフェニル、4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(3’’−メチルフェニル)アミノ〕ビフェニル(TPD)、4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(3’’−メトキシフェニル)アミノ〕ビフェニル、4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(1’’−ナフチル)アミノ〕ビフェニル(NPD)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビス〔N−フェニル−N−(3’’−メチルフェニル)アミノ〕ビフェニル、1,1−ビス〔4’−[N,N−ジ(4’’−メチルフェニル)アミノ]フェニル〕シクロヘキサン、9,10−ビス〔N−(4’−メチルフェニル)−N−(4’’−n−ブチルフェニル)アミノ〕フェナントレン、3,8−ビス(N,N−ジフェニルアミノ)−6−フェニルフェナントリジン、4−メチル−N,N−ビス〔4’’,4’’’−ビス[N’,N’−ジ(4−メチルフェニル)アミノ]ビフェニル−4−イル〕アニリン、N,N’−ビス〔4−(ジフェニルアミノ)フェニル〕−N,N’−ジフェニル−1,3−ジアミノベンゼン、N,N’−ビス〔4−(ジフェニルアミノ)フェニル〕−N,N’−ジフェニル−1,4−ジアミノベンゼン、5,5’’−ビス〔4−(ビス[4−メチルフェニル]アミノ)フェニル〕−2,2’:5’,2’’−ターチオフェン、1,3,5−トリス(ジフェニルアミノ)ベンゼン、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリイル)トリフェニルアミン、4,4’,4’’−トリス〔N−(3’’’−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン、4,4’,4’’−トリス〔N,N−ビス(4’’’−tert−ブチルビフェニル−4’’’’−イル)アミノ〕トリフェニルアミン、1,3,5−トリス〔N−(4’−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ〕ベンゼン等のトリアリールアミン誘導体;ポリチオフェンおよびその誘導体;ビニルカルバゾールおよびその誘導体;アセナフチレン等の単独重合体;並びにこれら化合物からなる共重合体を用いることが好ましい。
【0064】
上記正孔注入輸送層3が上記エナミン化合物を含有する場合、上記正孔注入輸送層3において、上記エナミン化合物(特にエナミン化合物A)が占める割合は、0.1重量%以上であることが好ましい。上記正孔注入輸送層3において、上記エナミン化合物Aと他の正孔注入輸送性化合物とを併用する場合、上記正孔注入輸送層3中に占める上記エナミン化合物Aの割合は、好ましくは0.1重量%以上、100重量%未満の範囲内であり、より好ましくは、0.1〜99.9重量%の範囲内、さらに好ましくは、1〜99重量%の範囲内、特に好ましくは、5〜95重量%の範囲内となるように調整すればよい。勿論、上記正孔注入輸送層3は、エナミン化合物、特に、上記エナミン化合物Aのみからなっていてもよい。上記エナミン化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。また、上記エナミン化合物以外の正孔輸送性化合物も単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0065】
(発光層4)
発光層4は、発光成分として、発光機能を有する化合物、つまり、電界印加時に、上記陽極2および陰極6から放出された正孔および電子を受け入れ、輸送する機能、並びに、これら正孔と電子とが再結合する場を提供して励起子を生成させ、発光させる機能を有する化合物(以下、発光性化合物と記す)を少なくとも一種用いて形成することができる。すなわち、上記発光層4は、少なくとも一種の発光性化合物を含有してなる。
【0066】
上記発光層4に含まれる発光性化合物としては、例えば、エナミン化合物、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、多環芳香族化合物、トリアリールアミン誘導体、有機金属錯体、スチルベン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、オキサゾン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ピラジン誘導体、ケイ皮酸エステル誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリフェニレンおよびその誘導体、ポリフルオレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリビフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリターフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリナフチレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体等が挙げられる。これら発光性化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0067】
上記多環芳香族化合物としては、具体的には、例えば、ルブレン、アントラセン、テトラセン、ピレン、ペリレン、クリセン、デカシクレン、コロネン、テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、1,4−ビス(9’−エチニルアントラセニル)ベンゼン、4,4’−ビス(9’’−エチニルアントラセニル)ビフェニル等が挙げられる。
【0068】
また、上記トリアリールアミン誘導体としては、例えば、前記正孔注入輸送性化合物の説明において例示した化合物等が挙げられる。
【0069】
上記有機金属錯体としては、具体的には、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(10−ベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム、2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキゾールの亜鉛塩、2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの亜鉛塩、4−ヒドロキシアクリジンの亜鉛塩、3−ヒドロキシフラボンの亜鉛塩、5−ヒドロキシフラボンのベリリウム塩、5−ヒドロキシフラボンのアルミニウム塩)等が挙げられる。
【0070】
上記スチルベン誘導体としては、具体的には、例えば、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル、4,4’−ビス[(1,1,2−トリフェニル)エテニル]ビフェニル等が挙げられる。
【0071】
また、上記クマリン誘導体としては、具体的には、例えば、クマリン1、クマリン6、クマリン7、クマリン30、クマリン106、クマリン138、クマリン151、クマリン152、クマリン153、クマリン307、クマリン311、クマリン314、クマリン334、クマリン338、クマリン343、クマリン500等が挙げられる。
【0072】
さらに、上記ピラン誘導体としては、具体的には、例えば、特開発平10−308281、特開2003−347058等に記載される4−シアノメチレン−4H−ピラン等が挙げられる。
【0073】
上記発光性化合物のなかでも、特に、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特許文献4参照)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体(特許文献5参照)、混合配位子アルミニウムキレート錯体(特許文献6参照)、希土類錯体(特許文献7参照)、(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体(特許文献8参照)等の有機金属錯体化合物は、電子輸送効率が高い化合物が多いため、上記発光層4の材料としてのみならず電子注入輸送層5の原料としても好ましい。
【0074】
本実施の形態にかかる有機EL素子10においては、上記発光層4がエナミン化合物を含有していることが好ましく、エナミン化合物のなかでも、エナミン化合物Aを含有していることが、当該有機EL素子10の長寿命化、省エネルギー化の観点から好ましい。上記発光層4においても、上記エナミン化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0075】
上記発光層4がエナミン化合物を含有する場合、上記発光層4において、上記エナミン化合物(特にエナミン化合物A)が占める割合は、0.001重量%以上であることが好ましい。上記発光層4において、上記エナミン化合物Aと他の発光性化合物とを併用する場合、上記上記発光層4中に占める上記エナミン化合物Aの割合は、好ましくは0.001重量%以上、100重量%未満の範囲内であり、より好ましくは、0.001〜99.999重量%の範囲内、さらに好ましくは、50〜95重量%の範囲内となるように調整すればよい。勿論、上記発光層4は、エナミン化合物、特に、上記エナミン化合物Aのみからなっていてもよい。
【0076】
上記発光層4がエナミン化合物(特にエナミン化合物A)を含む場合に、該エナミン化合物と併用する発光性化合物としては、多環芳香族化合物、金属錯体(発光性有機金属錯体)が好ましい。
【0077】
上記エナミン化合物と併用する多環芳香族化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ルブレン、アントラセン、テトラセン、ピレン、ペリレン、クリセン、デカシクレン、コロネン、テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、1,4−ビス(9’−エチニルアントラセニル)ベンゼン、4,4’−ビス(9’’−エチニルアントラセニル)ビフェニル等が挙げられる。勿論、上記多環芳香族化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0078】
また、上記エナミン化合物と併用する金属錯体(発光性有機金属錯体)としては、特に限定されるものではないが、発光性有機アルミニウム錯体が好ましく、そのなかでも特に、置換(つまり、8−キノリラート配位子の炭素原子に結合している水素原子の少なくとも1つが他の置換基に置換された)もしくは非置換の8−キノリノラート配位子を有する発光性有機アルミニウム錯体が好ましい。
【0079】
このような金属錯体、つまり、好適な発光性有機金属錯体(発光性有機アルミニウム錯体)としては、例えば、下記一般式(6)〜(8)
−Al ・・・(6)
(式中、Qは置換または非置換の8−キノリノラート配位子を示す)
−Al−O−L ・・・(7)
(式中、Qは置換8−キノリノラート配位子を表し、O−Lはフェノラート配位子を示し、Lはフェニル部分を含む炭素数6〜24の炭化水素残基を示す)
−Al−O−Al−Q ・・・(8)
(式中、Q、Qは、それぞれ独立して置換8−キノリノラート配位子を示す)
で表される発光性有機アルミニウム錯体が挙げられる。
【0080】
上記一般式(6)で表される発光性有機金属錯体としては、具体的には、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(3,4−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4,5−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム等が挙げられる。
【0081】
また、上記一般式(7)で表される発光性有機金属錯体としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(フェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2−メチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3−メチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(4−メチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(4−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,3−ジメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,6−ジメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3,4−ジメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3,5−ジメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3,5−ジ−tert−ブチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,6−ジフェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,4,6−トリフェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,4,6−トリメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2,4,5,6−テトラメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(2−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)(2−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)(3−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)(4−フェニルフェノラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)(3,5−ジメチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)(3,5−ジ−tert−ブチルフェノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−4−エチル−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2−メチル−4−エチル−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−4−メトキシ−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2−メチル−4−メトキシ−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム−μ−オキソ−ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム等が挙げられる。
【0082】
また、上記一般式(8)で表される発光性有機金属錯体としては、例えば、テトラキス(2−メチル−8−キノリノラート)ジアルミニウムオキサイド、テトラキス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)ジアルミニウムオキサイド等が挙げられる。勿論、上記発光性有機金属錯体は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0083】
また、上記発光層4は、非特許文献3および特許文献9に記載のように、ホスト化合物とゲスト化合物(ドーパント)とによって構成することもできる。上記発光層4において、エナミン化合物は、ホスト化合物としてもゲスト化合物としても用いることができる。上記エナミン化合物、特に上記エナミン化合物Aをホスト化合物として用いる場合、ゲスト化合物としては、例えば、該エナミン化合物以外の、その他の発光性化合物を用いることができ、そのなかでも、上記多環芳香族化合物が好適に用いられる。
【0084】
上記エナミン化合物Aをホスト化合物として用いる場合に、上記ゲスト化合物として多環芳香族化合物を用いることで、該ゲスト化合物(すなわち多環芳香族化合物)による色変換が可能となり、他の色調による発光が可能となる。
【0085】
このように上記エナミン化合物Aをホスト化合物として使用し、該エナミン化合物A以外のその他の発光性化合物をゲスト化合物として使用する場合、上記エナミン化合物Aに対するその他の発光性化合物の割合は、好ましくは、0.001〜40重量%の範囲内であり、より好ましくは、0.01〜30重量%の範囲内、さらに好ましくは、0.1〜20重量%の範囲内である。
【0086】
一方、上記エナミン化合物、特に上記エナミン化合物Aをゲスト化合物として用いて上記発光層4を形成する場合、ホスト化合物としては、上記金属錯体(発光性有機金属錯体)を用いることが好ましい。
【0087】
上記エナミン化合物Aをゲスト化合物として用いる場合に、上記ホスト化合物として上記金属錯体(発光性有機金属錯体)を用いることで、上記ゲスト化合物(すなわち上記エナミン化合物A)による色変換が可能となり、他の色調による発光が可能となる。
【0088】
このように上記エナミン化合物Aをゲスト化合物として使用し、該エナミン化合物以外のその他の発光性化合物をホスト化合物として使用する場合、該ホスト化合物に対する上記エナミン化合物Aの割合は、上記ホスト化合物の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、上記したように発光性有機金属錯体をホスト化合物として使用し、上記エナミン化合物をゲスト化合物として使用する場合、上記発光性有機金属錯体に対する上記エナミン化合物の割合は、好ましくは、0.001〜40重量%の範囲内であり、より好ましくは、0.01〜30重量%の範囲内、さらに好ましくは、0.1〜20重量%の範囲内に設定される。
【0089】
(電子注入輸送層5)
電子注入輸送層5は、電子注入輸送成分として、電子注入輸送機能を有する化合物、つまり、陰極6から放出された電子を受け入れ、この電子を発光層4へ輸送する機能を有する化合物(以下、電子注入輸送性化合物と記す)を少なくとも一種用いて形成することができる。すなわち、上記電子注入輸送層5は、少なくとも一種の電子注入輸送性化合物を含有してなる。
【0090】
上記電子注入輸送性化合物としては、例えば、金属錯体(発光性有機金属錯体)、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体等が挙げられる。
【0091】
上記金属錯体(発光性有機金属錯体)としては、例えば、前記例示の発光性有機金属錯体、具体的には、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(10−ベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム、5−ヒドロキシフラボンのベリリウム塩、5−ヒドロキシフラボンのアルミニウム塩等が挙げられる。
【0092】
また、上記オキサジアゾール誘導体としては、具体的には、例えば、1,3−ビス[5’−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2’−イル]ベンゼン)等が挙げられる。
【0093】
上記トリアゾール誘導体としては、具体的には、例えば、3−(4’−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4’’−ビフェニル)−1,2,4−トリアゾール)等が挙げられる。
【0094】
これら電子注入輸送性化合物は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。但し、前記発光層4が、特に、エナミン化合物Aを含有している場合、上記電子注入輸送層5としては、金属錯体(発光性有機金属錯体)を含んでいることが望ましい。前記したように、金属錯体(有機金属錯体化合物)は、電子輸送効率が高い化合物が多く、上記電子注入輸送層が金属錯体(有機金属錯体化合物)を含有することで、上記陰極6から発光層4に、電子を効率良く輸送することができるが、特に、上記電子注入輸送性化合物、あるいは、前記ホスト化合物のように、エナミン化合物Aを含む発光層に接して、電子輸送性の強い、アルミニウム錯体(例えば前記発光性有機アルミニウム錯体)等の金属錯体(発光性有機金属錯体)を含有する層が設けられていることで、発光層4でのキャリアバランス(電子と正孔とのバランス)が向上し、より強いエナミン化合物の発光性がもたらされる。
【0095】
次に、本実施の形態において用いられる特定のエナミン化合物Aについて以下に説明する。
【0096】
本実施の形態において用いられる上記特定のエナミン化合物Aは、エナミン骨格(上記一般式(1)参照)におけるα位の炭素原子(すなわち、ビニレン基を構成する炭素原子のうち、置換アミノ基が結合した炭素原子)に水素原子が結合しているエナミン化合物であり、該エナミン化合物のなかでも、下記条件(A)〜(C)を満足するエナミン化合物、すなわち、
(A)エナミン骨格におけるα位の炭素原子に水素原子が結合しているとともに、
(B)エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に、それぞれ独立して、環式炭化水素残基(具体的には、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、および、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基から選ばれる何れか一種の置換基)が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子が、複素環(具体的には、含窒素5員環または含窒素6員環)を形成し、かつ、
(C)エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に、それぞれ独立して、低級アルキル基および環式炭化水素残基(具体的には、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、および、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基から選ばれる何れか一種の置換基)からなる群より選ばれる何れか一種の置換基が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子が、5員環または6員環(環式炭化水素残基であってもよく、複素環であってもよい)を形成しているエナミン化合物が好適に用いられる。
【0097】
より具体的には、本実施の形態において好適に用いられる上記特定のエナミン化合物Aとしては、例えば、下記一般式(2)
【0098】
【化8】

【0099】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、RおよびRは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表されるエナミン化合物が挙げられる。
【0100】
すなわち、本発明において、上記環式炭化水素残基としては、上記したように、具体的には、例えば、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基が挙げられる。
【0101】
また、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子によって形成される環構造(5員環または6員環)は、上記RおよびRで示される、低級アルキル基、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基置換基が環化することにより形成されるものであってもよい。上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子によって形成される環構造(5員環または6員環)は、環式炭化水素残基であってもよく、複素環であってもよい。
【0102】
さらに、上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子によって形成される複素環(含窒素5員環または含窒素6員環)は、上記ArおよびArで示される、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基置換基が環化することにより形成されるものであってもよい。
【0103】
すなわち、上記一般式(2)において、上記R、Rで示される置換基は、低級アルキル基、置換されていてもよい1価または2価以上の単環式炭化水素残基、置換されていてもよい1価または2価以上の縮合多環式炭化水素残基、または、置換されていてもよい1価または2回以上の環集合炭化水素残基を示す。また、上記Ar、Arで示される置換基は、置換されていてもよい1価または2価以上の単環式炭化水素残基、置換されていてもよい1価または2価以上の縮合多環式炭化水素残基、または、置換されていてもよい1価または2回以上の環集合炭化水素残基を示す。
【0104】
上記環式炭化水素残基としては、環構造を有していれば、特に限定されるものではないが、合成上の理由により、環数が4以下であることが好ましい。
【0105】
上記置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基としては、飽和炭化水素残基であってもよく、不飽和炭化水素残基であってもよい。上記単環式炭化水素残基としては、5員環もしくは6員環構造を有するものが、その立体構造から好ましく、また、キャリア移動を考慮すれば、環数は多いほど好ましいが、合成上の理由から、該単環式炭化水素残基における環数は、6以下であることがより好ましい。
【0106】
上記単環式炭化水素残基の置換基、つまり、上記単環式炭化水素残基を構成する少なくとも1つの炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子を置換する置換基としては、例えば、低級アルキル基、低級アルコキシ基等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0107】
上記飽和炭化水素残基の例としては、例えば、シクロヘキシル基が挙げられる。また、例えば下記一般式(5)
【0108】
【化9】

【0109】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または、置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表されるエナミン化合物で例示されるように、好適な不飽和炭化水素残基の例としては、代表的にはフェニル基が挙げられるが、上記不飽和炭化水素残基としては、これに限定されるものではない。該不飽和炭化水素残基としては、上記フェニル基以外にも、例えば、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、ベンジル基、スチリル基、トリチル基等が挙げられる。さらに、2,4−シクロペンタジエン−1−イル基等の5員環も、不飽和炭化水素残基の例として挙げることができる。
【0110】
なお、上記一般式(5)においては、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基を含有するエナミン化合物の例として、上記RおよびRで示される置換基が、それぞれ独立して置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基であるエナミン化合物を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記一般式(1)に示すように、上記RおよびRで示される置換基の何れか一方の置換基が、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基であってもよい。
【0111】
また、上記した置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基としては、2−インデニル基、1−ナフチル基、テトラヒドロ−2−ナフチル基、2−アントリル基、2−アセアントリル基、2−フェナントリル基、9−フェナントリル基、2−ペンタテニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、下記構造式(a)
【0112】
【化10】

【0113】
で表される2−フロレニル基、下記構造式(b)
【0114】
【化11】

【0115】
で表される1−アセナフテニル基、下記構造式(c)
【0116】
【化12】

【0117】
で表される2−トリフェニレニル基等が挙げられる。
【0118】
上記縮合多環式炭化水素残基としては、縮合環を含有していれば特に限定されるものではないが、原料の入手並びに合成が容易であることから、縮合環数が4個以下であることが好ましい。これら縮合多環式炭化水素残基における置換基としては、低級アルキル基、低級アルコキシ基、等が挙げられる。
【0119】
また、上記置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基としては、例えば、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基、p−テルフェニル基、m−テルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−(m−トリル)フェニル基、下記構造式(d)
【0120】
【化13】

【0121】
で表される4−(p−トリル)フェニル基等が挙げられる。なお、これら環集合炭化水素残基としては、合成上の理由から、環数が4以下であることが好ましい。
【0122】
また、本実施の形態において、上記Ar、Arで示される置換基は、前記したように、これらAr、Arで示される置換基が環化することにより、これらAr、Arで示される置換基が結合している炭素原子とともに、含窒素5員環もしくは含窒素6員環を形成していてもよい。これら含窒素5員環または含窒素6員環としては、例えば、カルバゾリル基、カルボリニル基、下記構造式(e)
【0123】
【化14】

【0124】
で表されるフェノキサジニル基、下記構造式(f)
【0125】
【化15】

【0126】
で表されるインドリニル基等が挙げられる。
【0127】
本実施の形態において、例えば上記一般式(5)で表されるエナミン化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、後述する「化合物−1」、「化合物−6」、「化合物−9」、「化合物−16」、「化合物−17」等が挙げられる。また、上記一般式(5)において、Ar、Arで示される置換基が、これらAr、Arで示される置換基が結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成している化合物としては、具体的には、例えば、後述する「化合物−5」、「化合物−7」等が挙げられる。
【0128】
また、前記したように、上記R、Rで示される置換基もまた、環化することにより、これらR、Rで示される置換基が結合している炭素原子とともに5員環もしくは6員環を形成していてもよい。このような構造を有するエナミン化合物Aとしては、具体的には、例えば、下記一般式(3)
【0129】
【化16】

【0130】
(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、R、Rは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表されるエナミン化合物、下記一般式(4)
【0131】
【化17】

【0132】
(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表されるエナミン化合物等が挙げられる。
【0133】
上記エナミン化合物Aとしては、具体的には、例えば、下記構造式(g)
【0134】
【化18】

【0135】
で表される1,2,3,4‐テトラヒドロナフタレン‐1‐イル基、または、1,2,3,4‐テトラヒドロナフタレン‐2‐イル基を含有するエナミン化合物が挙げられる。
【0136】
また、上記エナミン化合物Aとしては、具体的には、例えば、インダン‐1‐イル基、下記構造式(h)
【0137】
【化19】

【0138】
で表されるクロマン‐4‐イル基、下記構造式(i)
【0139】
【化20】

【0140】
で表されるフロレン‐9‐イル基、あるいは、これら構造式(g)〜(i)で示される官能基を構成する少なくとも1つの炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子が、低級アルキル基または低級アルコキシ基で置換された基を含有するエナミン化合物が挙げられる。
【0141】
また、上記一般式(3)、一般式(4)において、結合手とは、例えば単結合等の結合を示す。すなわち、上記一般式(3)、一般式(4)で表されるエナミン化合物は、例えば、下記一般式(9)
【0142】
【化21】

【0143】
または下記一般式(10)
【0144】
【化22】

【0145】
で表される構造を有していてもよい。なお、上記一般式(9)および一般式(10)において、R、R、R、R、Ar、Arは、一般式(3)および一般式(4)におけるR、R、R、R、Ar、Arと同義である。
【0146】
本実施の形態において、上記一般式(3)で表されるエナミン化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、後述する「化合物−2」、「化合物−4」、「化合物−8」、「化合物−10」、「化合物−13」等が挙げられる。また、上記一般式(3)において、Ar、Arで示される置換基が、これらAr、Arで示される置換基が結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成している化合物としては、具体的には、例えば、後述する「化合物−11」等が挙げられる。
【0147】
さらに、本実施の形態において、上記一般式(4)で表されるエナミン化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、後述する「化合物−3」等が挙げられる。また、上記一般式(4)において、Ar、Arで示される置換基が、これらAr、Arで示される置換基が結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成している化合物としては、具体的には、例えば、後述する「化合物−12」等が挙げられる。
【0148】
また、上記エナミン化合物Aとしては、上記一般式(3)において、R、Rで示される置換基が、これらR、Rで示される置換基が結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成しているものであってもよく、さらに、上記一般式(3)において、Ar、Arで示される置換基が、これらAr、Arで示される置換基が結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成しているものであってもよい。
【0149】
上記一般式(3)において、R、Rで示される置換基が、これらR、Rで示される置換基が結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成しているエナミン化合物の一例としては、例えば、上記一般式(4)で表されるエナミン化合物が挙げられる。また、前記一般式(2)あるいは上記一般式(3)で表されるエナミン化合物としては、例えば、下記構造式(j)
【0150】
【化23】

【0151】
で表されるように、上記一般式(3)において、Rで示される置換基が環化することにより、Rで示される置換基が、Rで示される置換基が結合している炭素原子とともに6員環を形成してなるメチレンジオキシ基を含有するエナミン化合物であってもよい。なお、上記Rで示される置換基は、6員環にのみ限定されるものではなく、例えば5員環を形成するものであってもよい。すなわち、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に結合した環式炭化水素残基は、該環式炭化水素残基を構成する少なくとも1つの炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子が、低級アルキル基、低級アルコキシ基等の置換基によって置換されていてもよく、該置換基が、該置換基が結合している炭素原子とともに環を形成していてもよい。このようなエナミン化合物Aとしては、より具体的には、例えば、後述する「化合物−14」等が挙げられる。
【0152】
なお、本実施の形態において、低級アルキル基または低級アルコキシ基とは、炭素数が1〜4のアルキル基またはアルコシキ基(鎖式アルキル基または鎖式アルコシキ基)を示す。これら低級アルキル基または低級アルコシキ基、特に、前記R、Rで示される置換基が低級アルキル基である場合に、これらアルキル基またはアルコシキ基における炭素数が5以上になると、正孔および/または電子の輸送効率の低下、さらには熱に対する安定性の低下が起こり易くなる傾向にある。
【0153】
エナミン化合物Aとして上記した各種エナミン化合物のなかでも、上記Rおよび/またはRで示される置換基、もしくは、これらR、Rで示される置換基とこれらR、Rで示される置換基が結合している炭素原子とで形成される5員環または6員環構造を有する基が、フェニル基;1−ナフチル基;1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル基;クロマン−4−イル基;もしくはこれらの基に電子供与性を与えるために、その一部、つまり、これらの基を構成する少なくとも1つの炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子が、例えば、メチル基、メトキシ基、もしくはメチレンジオキシ基で置換された基;から選ばれる何れか一種であるエナミン化合物が、本実施の形態にかかる有機EL素子10における、正孔および/または電子の輸送効率、熱に対する安定性、発光波長(青色発光)の合成面等から総合的に判断して好ましい。
【0154】
また、上記エナミン化合物Aにおいて、上記Arおよび/またはArで示される置換基としては、縮合多環式炭化水素残基および環集合炭化水素残基からなる群より選ばれる何れか一種であることが好ましい。但し、上記Ar、Arで示される置換基が、双方ともに縮合多環式炭化水素残基もしくは環集合炭化水素残基となるように合成することは、立体構造的に容易ではない。よって、上記Ar、Arで示される置換基としては、少なくとも一方、例えば何れか一方が、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、より具体的には、例えば、置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。
【0155】
例えば、上記例示の各エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子には、単環式炭化水素残基と、ペンテニル基、インデニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フロオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、およびアセアントリル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、Arは単環式炭化水素残基であり、Arはペンテニル基、インデニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フロオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、またはアセアントリル基であることが好ましい。
【0156】
あるいは、上記例示の各エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子には、単環式炭化水素残基と、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、およびシクロヘキシルフェニル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、Arは単環式炭化水素残基であり、Arはビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。
【0157】
但し、本実施の形態にかかるエナミン化合物はこれに限定されるものではなく、例えば、上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基は、それぞれ独立して、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、上記Ar、Arで示される置換基は、それぞれ独立して、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることが好ましい。
【0158】
また、上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基は、それぞれ独立して、ビフェニル基またはテルフェニル基であることが好ましく、双方ともに、ビフェニル基またはテルフェニル基であることがより好ましい。例えば、上記一般式(2)〜(5)において、上記Ar、Arで示される置換基は、それぞれ独立して、ビフェニル基またはテルフェニル基であることが好ましく、双方ともに、ビフェニル基またはテルフェニル基であることがより好ましい。
【0159】
具体的には、上記エナミン化合物Aは、上記ArおよびArで示される置換基の双方が環集合炭化水素残基である、下記構造式(k)または(l)
【0160】
【化24】

【0161】
で表されるN,N―ジ(ビフェニル)アミノ基、および、下記構造式(m)
【0162】
【化25】

【0163】
で表されるN,N―ジ(テルフェニル)アミノ基等からなる群より選ばれる何れか一種の基を含有するエナミン化合物が、本実施の形態にかかる有機EL素子10における、正孔および/または電子の輸送効率、熱に対する安定性、発光波長(青色発光)の合成面等から総合的に判断して好ましく、そのなかでも、上記ArおよびArで示される置換基の双方がビフェニル基であるエナミン化合物が、輝度強度が相対的に大きいことから、特に好ましい。
【0164】
本実施の形態にかかるエナミン化合物Aの好適な具体例としては、例えば、以下に示す化合物(「化合物1」〜「化合物17」)
【0165】
【化26】

【0166】
が挙げられる。
【0167】
本実施の形態において用いられる上記エナミン化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0168】
例えば、上記エナミン化合物Aは、下記反応式
【0169】
【化27】

【0170】
で表されるように、原料となるアミン化合物とアセトアルデヒド化合物とを、適当な非水系溶剤中で、酸触媒を加えて加熱還流させ、生成する水を反応系外に取り除くことにより、容易に合成することができる。
【0171】
原料となるアミン化合物としては、上記反応式に示すように、下記一般式(11)
【0172】
【化28】

【0173】
で表される化合物が用いられる。また、原料となるアセトアルデヒド化合物としては、上記反応式に示すように、下記一般式(12)
【0174】
【化29】

【0175】
で表される化合物が用いられる。なお、上記反応式、並びに、上記一般式(11)、一般式(12)において、R、R、Ar、Arで示される置換基は、前記した通りである。
【0176】
また、上記非水系溶剤としては、具体的には、例えば、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。また、上記酸触媒としては、具体的には、例えば、トルエンスルホン酸、トリフロロ酢酸等が挙げられる。これらアミン化合物、アセトアルデヒド化合物、非水系溶剤、酸触媒等の化合物は、それぞれ、単独の化合物を用いてもよく、適宜、二種類以上の化合物を併用してもよい。また、反応温度、反応時間、反応圧力等の条件は、使用する原料、およびその組み合せ等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0177】
また、上記エナミン化合物の精製方法もまた、特に限定されるものではない。例えば、反応液中の非水系溶剤を、減圧または水蒸気蒸留により取り除き、次いで、固化した反応混合物を、アルコール洗浄後、酢酸エチル等で再結晶化することによって精製することができる。場合によっては、さらに昇華精製を行ってもよい。
【0178】
上記エナミン化合物Aは、正孔輸送性並びに熱安定性に特に優れ、上記有機EL素子10が、上記エナミン化合物Aを含むことで、該有機EL素子10の発光効率の向上並びに発光開始電圧の省力化を図ることができるとともに、半減期が長く、耐久性に優れ、発光寿命が長い有機EL素子10を提供することができる。しかも、上記エナミン化合物は、合成および精製が容易であるため、上記有機EL素子10を、工業的に効率良く製造することができる。
【0179】
次に、上記基板1上に形成される各層の形成方法について以下に説明する。
【0180】
基板1上に上記陽極2を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記した電極材料を、基板1上に、蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法により積層する方法を用いることができる。上記陽極2は、単層で形成されていてもよく、二層以上の層が積層された積層構造、例えば多層構造を有していてもよい。
【0181】
上記陽極2の膜厚は、用いる電極材料の種類にもよるが、通常、5〜1000nmの範囲内、より好ましくは、10〜500nmの範囲内に設定される。
【0182】
上記陰極6を形成する方法も特に限定されるものではなく、例えば、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法等、従来公知の各種方法を用いることができる。また、上記陰極6を蒸着法により形成する場合、金属等の上記陰極材料を単体で蒸着させることも、2成分以上の材料を同時に蒸着させることもできる。さらに、複数の金属を同時に蒸着させて合金電極を形成させることも可能であり、また、予め調製した合金を蒸着させてもよい。
【0183】
上記陰極6の膜厚は、用いる電極材料に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、10nm〜5μmの範囲内とすることが好ましく、50nm〜1μmの範囲内とすることがより好ましく、100nm〜1μmの範囲内とすることがさらに好ましい。
【0184】
また、正孔注入輸送層3、発光層4、および電子注入輸送層5を形成する方法も特に限定するものではなく、例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、もしくは溶液塗布法等、従来公知の各種方法により薄膜を形成させることにより、上記各層を形成することができる。
【0185】
真空蒸着法により、上記各層を形成する場合、真空蒸着の条件は、特に限定するものではないが、例えば、真空下(1.3×10−3Pa以下)で、ボート温度(蒸着源温度)が50〜600℃、基板温度が−50〜300℃、蒸着速度が0.005〜50nm/secの条件下で真空蒸着することが好ましい。この場合、上記陽極2と陰極6との間の各層(図1に示す有機EL素子10においては、正孔注入輸送層3、発光層4、電子注入輸送層5)を、真空下で、連続して形成させることにより、より一層優れた有機EL素子10を製造することができる。
【0186】
真空蒸着法により、正孔注入輸送層3、発光層4、電子注入輸送層5等の各層を、複数の化合物を併用して形成する場合、各化合物を入れた各ボートを個別に温度制御し、共蒸着することが好ましい。
【0187】
また、イオン化蒸着法により、上記各層を形成させる場合、イオン化蒸着の条件は、特に限定されるものではないが、真空下(1.3×10−3Pa以下)、イオン加速電圧5V以上の条件下でイオン化蒸着することが好ましい。なお、上記各層をイオン化蒸着法により形成する場合にも、上記陽極2と陰極6との間の各層を、連続して形成させることにより、より一層優れた有機EL素子10を製造することができる。
【0188】
また、上記溶液塗布法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、キャスト法、ディップコート法、バーコート法、ロールコート法、ラングミュア・ブロゼット法、インクジェット法等の各種方法を用いることができる。
【0189】
溶液塗布法により、上記各層を形成する場合、各層を形成する成分、あるいは該成分とバインダー樹脂等とを、溶媒に溶解または分散させて塗布液とすればよい。
【0190】
上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラキシレン、ポリエチレン、ポリエチレンエーテル、ポリプロピレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリフルオレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体等の高分子化合物が挙げられる。これらバインダー樹脂は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0191】
また、溶液塗布法において用いられる上記溶媒としては、有機溶媒および/または水を使用することができる。上記有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルフォキサイド等の極性溶媒;が挙げられる。これら有機溶媒は、単独で用いてもよく、あるいは、複数併用してもよい。
【0192】
上記溶媒に、上記各層を形成する成分、あるいは該成分とバインダー樹脂等とを、溶解または微粒子状に分散させる方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、アトライター、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0193】
また、上記塗布液の濃度は、特に限定すされるものではなく、実施する塗布法により、所望の厚みを作製するに適した濃度範囲に設定することができる。一般的には、上記塗布液の濃度が、0.1〜50重量%の範囲内、好ましくは、1〜30重量%の範囲内となるように設定される。
【0194】
また、バインダー樹脂を用いる場合、その使用量は、特に限定するものではないが、一般的には、各層を形成する成分(なお、後述するように一層型の素子を形成する場合には、各成分の総量)に対して、5〜99.9重量%の範囲内、好ましくは、10〜99重量%の範囲内、より好ましくは、15〜90重量%の範囲内に設定される。
【0195】
上記陽極2と陰極6との間に形成される各層(図1に示す有機EL素子10においては、正孔注入輸送層3、発光層4および電子注入輸送層5)の膜厚は、特に限定するものではないが、何れも、5nm〜5μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0196】
なお、本実施の形態では、主に、図1に示すように、基板1上に、陽極2、正孔注入輸送層3、発光層4、電子注入輸送層5、および陰極6が、この順に積層された積層構造を有する有機EL素子10を例に挙げて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。上記正孔注入輸送層3、発光層4、電子注入輸送層5は、それぞれ、一層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。また、正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5は、それぞれの層において、注入機能を有する層と輸送機能を有する層とを別々に設けて構成することも、一体化して構成することもできる。すなわち、本実施の形態にかかる有機EL素子10は、図2に示すように、正孔注入輸送層3に代えて、正孔注入層3aと正孔輸送層3bとを備えていてもよく、電子注入輸送層5に代えて、電子注入層5aと電子輸送層5bとを備えていてもよい。
【0197】
ここで、正孔注入層3aと正孔輸送層3bとは、基本的に同じ機能を有すると考えてよいが、このように上記正孔注入輸送層3を、正孔注入層3aと正孔輸送層3bとの二層構造とする場合、これら二つの層は、エネルギーダイアグラムでのエネルギー準位が相対的に低い方の層を正孔輸送層3b、高い方の層を正孔注入層3aとして区別される。なお、電子輸送層5bと電子注入層5aとについても、同様に区別される。
【0198】
このように上記正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5の少なくとも一方を二層構造とすることにより、上記正孔注入層3aおよび/または電子注入層5aを設けて上記発光層4内への正孔および/または電子の注入機能を高めることにより、高い確率で、上記発光層4内での電子と正孔との再結合を生じさせることができる。これにより、より高効率な発光を得ることができる。但し、上記発光層4内への正孔および/または電子の注入機能が良好であれば、上記正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5を、それぞれ、上記した二層構造とする必要はない。
【0199】
また、発光層4に使用する化合物の正孔注入輸送機能(正孔注入機能および正孔輸送機能)、並びに、電子注入輸送機能(電子注入機能および電子輸送機能)の少なくとも一方の機能が良好な場合には、発光層4が、正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5の少なくとも一方の層を兼ねている構成としてもよい。勿論、場合によっては、上記発光層4が、正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5の両方の層を兼ねている構成としてもよく、本実施の形態にかかる上記有機EL素子は、正孔注入輸送層3および電子注入輸送層5の両方の層が設けられていない一層型の素子であってもよい。
【0200】
すなわち、正孔注入輸送成分を含有する正孔注入輸送層3および/または電子注入輸送成分を含有する電子注入輸送層5は、発光層4に用いられる化合物の正孔注入機能および正孔輸送機能、並びに、電子注入機能および電子輸送機能の各機能レベルを考慮して所望に応じて設けられていればよく、本実施の形態にかかる有機EL素子10は、陽極2と陰極6との間に、少なくとも一種の発光成分を含有する発光層4を少なくとも一層挟持してなる構成を有していればよい。
【0201】
本実施の形態にかかる有機EL素子10の層構成としては、例えば、以下の(I)〜(IX)に示す層構成を採用することができる。
(I) 陽極2/正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層4/電子輸送層5b/電子注入層5a/陰極6
(II) 陽極2/正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層4/電子注入輸送層5/陰極6
(III) 陽極2/正孔注入輸送層3/発光層4/電子輸送層5b/電子注入層5a/陰極6
(IV) 陽極2/正孔注入輸送層3/発光層4/電子注入輸送層5/陰極6
(V) 陽極2/正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層4/陰極6
(VI) 陽極2/発光層4/電子輸送層5b/電子注入層5a/陰極6
(VII) 陽極2/正孔注入輸送層3/発光層4/陰極6
(VIII)陽極2/発光層4/電子注入輸送層5/陰極6
(IX) 陽極2/発光層4/陰極6
また、上記各構成において、正孔注入輸送層3と発光層4との間に、正孔注入輸送成分と発光成分との混合層を設けてもよい。また、上記発光層4と電子注入輸送層5との間に、発光成分と電子注入輸送成分との混合層を設けてもよい。具体的には、例えば、前記図1に示す有機EL素子10、つまり、上記(IV)の層構成を有する有機EL素子10は、上記(IV)に示す層構成に代えて、図3に示す層構成(IV-A):
(IV-A)陽極2/正孔注入輸送層3/正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8/発光層4/電子注入輸送成分と発光成分との混合層9/電子注入輸送層5/陰極6
を有していてもよく、以下の(IV-B)または(IV-C)に示す何れかの層構成:
(IV-B)陽極2/正孔注入輸送層3/正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8/発光層4/電子注入輸送層5/陰極6
(IV-C)陽極2/正孔注入輸送層3/発光層4/電子注入輸送成分と発光成分との混合層9/電子注入輸送層5/陰極6
を有していてもよい。上記各層構成において、上記正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8、電子注入輸送成分と発光成分との混合層9は、それぞれ、正孔輸送層3b、電子輸送層5bとして機能する。
【0202】
また、上記したように、上記発光層4と、上記正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8とは、上記したように、それぞれ別個に形成されていてもよいが、上記発光層4として、上記正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8が設けられていてもよい。すなわち、上記発光層4は、上記正孔輸送層3bあるいは正孔注入輸送層3を兼ねていてもよい。
【0203】
同様に、上記発光層4と、上記電子注入輸送成分と発光成分との混合層9とは、上記したように、それぞれ別個に形成されていてもよいが、上記発光層4として、上記電子注入輸送成分と発光成分との混合層9が設けられていてもよい。すなわち、上記発光層4は、上記電子輸送層5bあるいは電子注入輸送層5を兼ねていてもよい。
【0204】
上記正孔注入層3a、正孔輸送層3b、電子注入層5a、電子輸送層5b、正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8、および、電子注入輸送成分と発光成分との混合層9を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、上記正孔注入輸送層3、発光層4、および電子注入輸送層5の形成方法、つまり、上記陽極2と陰極6とで挟持される他の層を形成する方法と同様の方法を用いて形成することができる。
【0205】
これら正孔注入層3a、正孔輸送層3b、電子注入層5a、電子輸送層5b、正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8、および、電子注入輸送成分と発光成分との混合層9の膜厚は、特に限定するものではないが、何れも、5nm〜5μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0206】
上記した各層構成を有する有機EL素子10のなかでも、より好ましい有機EL素子としては、上記(I)〜(IV)および(VII)で示される層構成から選ばれる何れか1つのの層構成を有する有機EL素子(以下、層構成の型により、それぞれ、(I)型素子、(II)型素子、(III)型素子、(IV)型素子、(VII)型素子と記す)であり、そのなかでも、さらに好ましくは、(I)型素子、(III)型素子、もしくは(IV)型素子である。
【0207】
本実施の形態にかかる有機EL素子10において、前記特定のエナミン化合物Aは、正孔注入輸送成分および/または発光成分に使用することが好ましい。すなわち、本実施の形態において、上記エナミン化合物Aを含有する層は、前記したように正孔注入輸送層3および/または発光層4であってもよく、正孔注入輸送層3、正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8、および発光層4からなる群より選ばれる少なくとも一層であってもよい。
【0208】
さらに、本実施の形態にかかる有機EL素子10においては、その少なくとも一層に、一重項酸素クエンチャーが含有されていてもよい。一重項酸素クエンチャーとしては、特に限定するものではなく、例えば、ルブレン、ニッケル錯体、ジフェニルイソベンゾフラン等が挙げられる。そのなかでも、特に好ましくはルブレンである。一重項酸素クエンチャーが含有されている層は、特に限定されるものではないが、好ましくは、発光層4または正孔注入輸送層3であり、より好ましくは、正孔注入輸送層3である。
【0209】
上記一重項酸素クエンチャーを、例えば正孔注入輸送層3に含有させる場合、上記一重項酸素クエンチャーは、正孔注入輸送層3中に均一に含有させてもよく、正孔注入輸送層3と隣接する層(例えば、発光層4、電子注入機能を有する発光層4、正孔注入輸送成分と発光成分との混合層8等)に含有させてもよい。一重項酸素クエンチャーの含有量としては、該一重項酸素クエンチャーを含有する層(例えば、正孔注入輸送層3)を構成する成分(材料)全体の0.01〜50重量%の範囲内において設定することが好ましく、より好ましくは、0.05〜30重量%の範囲内、さらに好ましくは、0.1〜20重量%の範囲内である。
【0210】
また、本実施の形態にかかる有機EL素子10は、当該有機EL素子10を酸素や水分等から保護する目的で、上記した各層に加えて、さらに保護層(封止層)を備えている構成を有していてもよい。また、上記有機EL素子10は、該有機EL素子10、つまり、上記した層構造を有する有機EL素子10を、例えば、パラフィン、流動パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボン油、ゼオライト含有フルオロカーボン油等の不活性物質中に封入することにより、保護することもできる。
【0211】
上記保護層に用いられる材料としては、例えば、フッ素化樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エポキシシリコーン樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラキシレン、ポリエチレン、ポリフェニレンオキサイド等の有機高分子材料;ダイヤモンド薄膜、アモルファスシリカ、電気絶縁性ガラス、金属酸化物、金属窒化物、金属炭素化物、金属硫化物等の無機材料;等が挙げられる。また、上記保護層に用いられる材料としては、さらに、光硬化性樹脂等が挙げられる。上記保護層の材料は、単独で用いてもよく、あるいは複数併用してもよい。
【0212】
また、上記保護層は、一層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記保護層(封止層)は、電極(陽極2、陰極6)の外側、および/または、上記陽極2と陰極6とで挟持される層(正孔注入輸送層3、発光層4、電子注入輸送層5)の側面に設けることが好ましい。
【0213】
また、上記電極(陽極2、陰極6)に、保護膜として、例えば、酸化アルミニウム膜等の金属酸化膜、金属フッ化膜等を設けることもできる。
【0214】
また、例えば、陽極2の表面に、銅フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体、有機リン化合物、ポリシラン、芳香族アミン誘導体、カーボンからなる界面層(中間層)を設けることもできる。さらに、電極、例えば陽極2は、その表面を、例えば、酸、アンモニア/過酸化水素、あるいはプラズマで処理して使用することもできる。
【0215】
さらに、本実施の形態にかかる有機EL素子10は、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工(例えば微細な凹凸パターンを形成)したり、上記基板1と、電極(陽極2、陰極6)と、一対の電極(陽極2、陰極6)間に挟持された層とにおける屈折率(例えば基板・ITO層・有機層の屈折率)を制御したり、これら各層(例えば基板・ITO層・有機層)の膜厚を制御したりすること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
【0216】
また、本発明にかかる有機電界発光素子は、陽極側から発光を取り出す、いわゆる、トップエミッション方式であってもよい。
【0217】
本実施の形態にかかる有機EL素子10は、一般的に、直流駆動型の素子として用いられるが、パルス駆動型または交流駆動型の素子としても使用することができる。印加電圧は、一般的に、2〜30V程度である。
【0218】
上記有機EL素子10は、例えば、パネル型光源、各種の発光素子、各種の表示素子、各種の標識、各種のセンサ等に好適に使用することができる。
【0219】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各特性は、以下に示す方法により測定した。
【0220】
〔発光開始電位〕
各実施例で作製した有機EL素子に、10Vの直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたときの発光開始電位(V)を、Keithley社製のソースメータ「Model 2400」を用いて測定した。
【0221】
〔輝度〕
輝度(cd/m)は、各実施例で作製した有機EL素子を、Minolta社製の輝度計「CS−1000」を用いて測定した。
【0222】
〔半減期〕
輝度の半減期(h)は、各実施例で作製した有機EL素子を、ニューポート社製のパワーメータ「1835−C」を用いて測定した。
【0223】
〔実施例1〕
ガラス基板からなる基板1上に、陽極2として、予め、ITOからなる200nmの厚さの透明電極を形成した。次いで、上記陽極2が形成された基板1を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した後、該基板1を、窒素ガスにて乾燥させた。続いて、この基板1を、さらにUV/オゾン洗浄した後、蒸着装置の基板ホルダーに固定した。その後、蒸着槽を4×10-4Paに減圧した。
【0224】
次に、上記陽極2(ITO透明電極)上に、エナミン化合物Aとして、前記「化合物−1」で示されるN、N−[ジ−(m−ビフェニルイル)−1,1−ジフェニルエナミン]を、蒸着速度0.2nm/secで75nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層3とした。次いで、その上に、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを、蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送層5を兼ねた発光層4(つまり、電子注入輸送機能を有する発光層4)とした。さらにその上に、マグネシウムおよび銀を、蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)して陰極6を形成することにより、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。なお、上記蒸着は、蒸着槽の減圧状態を保ったまま実施した。
【0225】
作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させた。前記した方法により測定した発光開始電位は6.5Vであり、印加電圧10V時で輝度540cd/m2 の緑色の発光が確認された。また、この輝度の半減期は640時間であった。この結果を、まとめて表1に示す。
【0226】
〔実施例2〜10〕
実施例1において、正孔注入輸送層3の形成に際して、エナミン化合物Aとして、前記「化合物−1」に代えて、「化合物−2」(実施例2)、「化合物−3」(実施例3)、「化合物−4」(実施例4)、「化合物−6」(実施例5)、「化合物−7」(実施例6)、「化合物−11」(実施例7)、「化合物−14」(実施例8)、「化合物−15」(実施例9)、「化合物−17」(実施例10)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。これら有機EL素子からは、何れも、緑色の発光が確認された。これら有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。これらの結果を、まとめて表1に示す。
【0227】
【表1】

【0228】
表1に示す結果から、本実施の形態にかかるエナミン化合物Aは、正孔輸送材料として優れた特性を有していることがわかる。特に、上記「化合物−2」(実施例2)、「化合物−4」(実施例4)、「化合物−14」(実施例8)、「化合物−17」(実施例10)のように、エナミン骨格を形成するアミノ基が、ビフェニル基に置換されたエナミン化合物を用いた場合の輝度強度は、相対的に大きいことがわかる。さらに、正孔注入輸送層3に、エナミン化合物Aとして、ビニレン基の1位が2個のビフェニル基により置換された「化合物−6」(実施例5)を用いた場合も、輝度強度が相対的に大きいことがわかる。これに対し、「化合物−1」(実施例1)と「化合物−15」(実施例9)との比較から、エナミン化合物Aとして、一部がメチル基で置換されたエナミン化合物を用いると、輝度および半減期の低下が認められることがわかった。特に、実施例10のようにビフェニル基が対象的に4個置換したエナミン化合物(「化合物−17」)を用いると、輝度強度が相対的大きく、さらに、半減期が長いという特性を有することがわかった。これは、高い熱特性(ガラス転移点:250度以上)と皮膜性が良いことによるものと推定される。
【0229】
〔実施例11〕
まず、ガラス基板からなる基板1上に、陽極2として、予め、ITOからなる200nmの厚さの透明電極を形成した。次いで、上記陽極2が形成された基板1を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した後、該基板1を、窒素ガスにて乾燥させた。続いて、この基板1を、さらにUV/オゾン洗浄した後、蒸着装置の基板ホルダーに固定した。その後、蒸着槽を4×10-4Paに減圧した。
【0230】
次に、上記陽極2(ITO透明電極)上に、正孔注入輸送性化合物として、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)を、蒸着速度0.1nm/secで20nmの厚さに蒸着し、正孔注入層3a(第1正孔注入輸送層)とした。次いで、この正孔注入層3a上に、エナミン化合物Aとしての前記「化合物−16」を、蒸着速度0.2nm/secで55nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層3b(第2正孔注入輸送層)とした。その上に、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを、蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送層5を兼ねた発光層4(つまり、電子注入輸送機能を有する発光層4)とした。さらにその上に、マグネシウムおよび銀を、蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)して陰極6を形成することにより、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。なお、上記蒸着は、蒸着槽の減圧状態を保ったまま実施した。
【0231】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、初期には、6.5V、輝度870cd/m2の緑色の発光が確認された。また、輝度の半減期は1250時間であった。ポリチオフェン層を正孔注入層3a(第1正孔注入輸送層)として積層することにより輝度の改善が認められた。
【0232】
〔実施例12〕
まず、ガラス基板からなる基板1上に、陽極2として、予め、ITOからなる200nmの厚さの透明電極を形成した。次いで、上記陽極2が形成された基板1を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した後、該基板1を、窒素ガスにて乾燥させた。続いて、この基板1を、さらにUV/オゾン洗浄した後、蒸着装置の基板ホルダーに固定した。その後、蒸着槽を4×10-4Paに減圧した。
【0233】
次に、上記陽極2(ITO透明電極)上に、正孔注入輸送性化合物として、4,4’,4’’−トリス〔N−(3’’’−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミンを、蒸着速度0.1nm/secで、50nmの厚さに蒸着し、正孔注入層3a(第1正孔注入輸送層)とした。次いで、この正孔注入層3a上に、エナミン化合物Aとしての前記「化合物−16」と、発光性化合物としてのルブレン(多環芳香族化合物)とを、異なる蒸発源から、蒸着速度0.2nm/secで20nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)し、正孔輸送層3b(第2正孔注入輸送層)を兼ねた発光層4(つまり、正孔注入輸送機能を有する発光層4)とした。次いで、その上に、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを、蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送層5とした。さらにその上に、マグネシウムおよび銀を、蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)して陰極6を形成することにより、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。なお、上記蒸着は、蒸着槽の減圧状態を保ったまま実施した。
【0234】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、初期には、6.1V、輝度660cd/m2の黄色の発光が確認された。また、輝度の半減期は750時間であった。
【0235】
〔実施例13〕
まず、ガラス基板からなる基板1上に、陽極2として、予め、ITOからなる200nmの厚さの透明電極を形成した。次いで、上記陽極2が形成された基板1を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した後、該基板1を、窒素ガスにて乾燥させた。続いて、この基板1を、さらにUV/オゾン洗浄した後、蒸着装置の基板ホルダーに固定した。その後、蒸着槽を4×10-4Paに減圧した。
【0236】
次に、上記陽極2(ITO透明電極)上に、エナミン化合物Aとして、前記「化合物−1」を、蒸着速度0.1nm/secで、20nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層3とした。次いで、この上に、エナミン化合物Aとしての前記「化合物−16」と、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウムとを、異なる蒸発源から、蒸着速度0.2nm/secで55nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)し、電子輸送層5bを兼ねた発光層4(つまり、電子輸送機能を有する発光層4)とした。さらに、その上に、トリス(8−キノリノラート)アルミニウムを、蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送層5とした。さらにその上に、マグネシウムおよび銀を、蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)して陰極6を形成することにより、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。なお、上記蒸着は、蒸着槽の減圧状態を保ったまま実施した。
【0237】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、初期には、6.1V、輝度650cd/m2の445nmの青色発光が確認された。また、輝度の半減期は700時間であった。
【0238】
〔実施例14〕
実施例13において、正孔注入輸送層3の形成に際して、エナミン化合物Aとして、前記「化合物−1」に代えて、「化合物−16」を用いた以外は、実施例13と同様の方法により、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。すなわち、本実施例においては、正孔注入輸送層3と発光層4とに同じエナミン化合物を用いた有機EL素子を作成した。
【0239】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、輝度は450cd/m2で、実施例13と同じ445nmの青色発光が確認された。また、輝度の半減期は300時間であった。
【0240】
〔実施例15〕
実施例14において、トリス(8−キノリノラート)アルミニウムの代わりに、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるビス(2−メチル−8−キノリノラート)(3,4−ジメチルフェノラート)アルミニウムを、上記発光層4に用いた以外は、実施例14と同様の方法により、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。
【0241】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、輝度は380cd/m2で、実施例13と同じ445nmの青色発光が確認された。また、輝度の半減期は400時間であった。本実施例で作製した有機EL素子の青色発光は、実施例14で作製した有機EL素子の青色発光よりも、より鮮明な青色発光であった。
【0242】
〔実施例16〕
まず、ガラス基板からなる基板1上に、陽極2として、予め、ITOからなる200nmの厚さの透明電極を形成した。次いで、上記陽極2が形成された基板1を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄した後、該基板1を、窒素ガスにて乾燥させた。続いて、この基板1を、さらにUV/オゾン洗浄した。
【0243】
一方、バインダー樹脂としてのポリカーボネート(重量平均分子量50000)と、エナミン化合物Aとしての前記「化合物−7」とを、重量比100:50の割合で含有する3重量%ジクロロエタン溶液を調製した。
【0244】
次いで、この3重量%ジクロロエタン溶液を用いて、上記陽極2(ITO透明電極)上に、ディップコート法により、40nmの正孔注入輸送層3を形成した。
【0245】
次に、この正孔注入輸送層3が形成された上記基板1を、蒸着装置の基板ホルダーに固定し、その後、蒸着槽を4×10−4Paに減圧した。
【0246】
次いで、上記正孔注入輸送層3上に、金属錯体(発光性有機金属錯体)であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを、蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着し、電子注入輸送層5を兼ねた発光層4(つまり、電子注入輸送機能を有する発光層4)とした。さらにその上に、マグネシウムおよび銀を、蒸着速度0.2nm/secで200nmの厚さに共蒸着(重量比10:1)して陰極6を形成することにより、本実施の形態にかかる有機EL素子を作製した。
【0247】
作製した有機EL素子の特性を実施例1と同様にして測定した。作製した有機EL素子に直流電圧を印加し、50℃、乾燥雰囲気下、10mA/cmの定電流密度で連続駆動させたところ、95mA/cm2 の電流が流れた。輝度は650cd/m2で、緑色の発光が確認された。また、輝度の半減期は280時間であった。
【0248】
以上の結果から、本発明によれば、上記陽極2と陰極6との間に、エナミン化合物Aを少なくとも一種含有する層を少なくとも一層設けることで、発光効率を高め、発光開始電圧の省力化を図ることができるとともに、輝度の半減期が長く、耐久性に優れ、発光寿命が長い有機EL素子を得ることができることがわかる。また、発光層4に上記エナミン化合物Aを含有させることにより、輝度に優れた青色発光素子を実現することができることがわかる。
【0249】
なお、本発明は、以上例示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明にかかる有機電界発光素子は、発光効率および耐久性に優れ、消費エネルギーが低く、発光寿命が長い。このため、例えば、パネル型光源、各種の発光素子、各種の表示素子、各種の標識、各種センサ等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0251】
【図1】本発明の実施の一形態にかかる有機電界発光素子の概略構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の一形態にかかる他の有機電界発光素子の概略構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態にかかるさらに他の有機電界発光素子の概略構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0252】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入輸送層
3a 正孔注入層
3b 正孔輸送層
4 発光層
5 電子注入輸送層
5a 電子注入層
5b 電子輸送層
6 陰極
7 電源
8 正孔注入輸送成分と発光成分との混合層
9 電子注入輸送成分と発光成分との混合層
10 有機EL素子(有機電界発光素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、(A)一般式(1)
【化1】

で表されるエナミン骨格におけるα位の炭素原子に水素原子が結合しているとともに、(B)上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子が、複素環を形成し、かつ、(C)上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子に、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の環式炭化水素残基、からなる群より選ばれる何れか一種の置換基が結合しているか、または、上記エナミン骨格におけるβ位の炭素原子が、5員環または6員環を形成しているエナミン化合物を、少なくとも1種含有する層を少なくとも1層挟持してなることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
上記エナミン化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、低級アルキル基、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、RおよびRは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
上記エナミン化合物が、一般式(3)
【化3】

(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、R、Rは、これらR、Rが結合している炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよく、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
上記エナミン化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、Xは結合手、メチレン基、または酸素原子を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
上記エナミン化合物が、一般式(5)
【化5】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、または、置換もしくは非置換のフェニル基を示し、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基、置換もしくは非置換の縮合多環式炭化水素残基、または、置換もしくは非置換の環集合炭化水素残基を示し、Ar、Arは、これらAr、Arが結合している炭素原子とともに含窒素5員環または含窒素6員環を形成していてもよい)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
上記置換もしくは非置換の単環式炭化水素残基が、置換もしくは非置換のフェニル基であることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する置換基のうち少なくとも一方の置換基が、単環式炭化水素残基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に、単環式炭化水素残基と、ペンテニル基、インデニル基、ナフチル基、ビフェニレニル基、アセナフテニル基、フロオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、およびアセアントリル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に、単環式炭化水素残基と、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、およびシクロヘキシルフェニル基からなる群より選ばれる何れか一種の置換基とが結合していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基が、それぞれ独立して、ビナフチル基、ビフェニル基、テルフェニル基、フェニルナフチル基、またはシクロへキシルフェニル基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
上記エナミン化合物のエナミン骨格におけるα位の炭素原子に結合する窒素原子に結合する各置換基が、それぞれ独立して、ビフェニル基またはテルフェニル基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
上記エナミン化合物が、
【化6】

からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
上記一対の電極間に、上記一方の電極から発光層に正孔を輸送する正孔注入輸送層を備え、該正孔注入輸送層が上記エナミン化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
発光層が上記エナミン化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
上記一対の電極間に、上記発光層に接して、金属錯体を含有する層が設けられていることを特徴とする請求項14記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−269834(P2006−269834A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87242(P2005−87242)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】