説明

有機電界素子材料とその製法および用途

【課題】特により低い駆動開始電圧で駆動可能な有機EL素子とそれを達成しうる有機EL材料が求められている。Inq3は、その類縁体であるAlq3より駆動開始電圧が低い材料であることは既に知られているが、本発明は、より低い駆動開始電圧を与え、安定かつ安価に工業的規模で製造できるInq3を提供することを目的とする。
【解決手段】常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であることを特徴とするトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムからなる有機エレクトロルミネッセンス材料。
原料として、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.5g/Lより大であるトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムを、窒素もしくはアルゴン雰囲気下、360℃以上、420℃未満の温度にて5分間以上保持する第1工程、その後昇華する第2工程からなることを特徴とする上記有機エレクトロルミネッセンス材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平面光源や表示に使用される有機エレクトロルミネッセンス素子の構成材料となる新規なトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムからなる有機エレクトロルミネッセンス材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と表記する)は、発光成分を含む有機化合物層とこの有機化合物層を挟持する一対の電極から構成され、具体的には陽極/有機発光層/陰極の構成を基本とし、これに正孔注入層や電子注入層を適宜設けたものが知られている。そのような有機化合物層の材料(以下、有機EL材料と表記する)の一つとして、コダック社のC. W. Tangと S. A. VanSlykeによりAppl. Phys. Lett., 51巻, 913頁(1987年)に発表されたトリス(8-オキシキノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3と表記する)は代表的な有機EL材料として良く知られている。このAlq3は、フェイシャル(facial)型とメリジオナル(meridional)型の2種類の立体異性体が存在することは古くから知られており(例えば Anal. Chem., 40巻, 1945頁(1968年)、Talanta, 14巻, 1213頁(1967年)、Acta. Chem. Scand., 22巻, 1067頁(1968年)など)、その後Alq3が有機EL素子用材料として有用であることが分かってから、Alq3はこれら2種類の異性体に加えて、いくつかの結晶形をとりうることが明らかとなってきた(例えば、J. Chem. Phys., 114巻, 9625頁(2001年)、 Chem. Commun., 2908頁(2002年)、Adv. Mater., 16巻, 861頁(2004年)など)。
【0003】
ところで、Alq3のインジウム類縁体に相当するトリス(8-オキシキノリノラト)インジウム(以下、Inq3と表記する)を用いた有機EL素子に関しては、特開平5-214333、特開平7-62526号公報が開示されている。また、B. J. ChenらによりAppl. Phys. Lett., 82巻, 3017頁(2003年)に発表されたN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)1,1'-ビフェニル4,4'-ジアミン(TPD)を正孔輸送材料に、ルブレンをドーピングしたTPDを発光層に用いた3層型素子において、Inq3を電子輸送性発光層として使用して作成した素子は、Alq3を使用した場合に比べて、低い駆動開始電圧(Turn-on Voltage)および高い電流効率を示すことが報告されている。同様に、P. E. BurrowsらによりAppl. Phys. Lett., 64巻, 2718頁(1994年)に発表されたN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)1,1'-ビフェニル4,4'-ジアミン(TPD)を正孔輸送材料に用いた2層型素子において、Inq3を電子輸送性発光層として使用して作成した素子は、Alq3を使用した場合に比べて、抵抗が低く、約1V低い駆動開始電圧(Turn-on Voltage)を示すことが報告されている。他にも同様な結果は、P. E. Burrows, J. Appl. Phys.., 79巻, 7991頁(1996年)に報告されており、低電圧で素子が駆動するという優れた特性を持つことが明らかにされている。
【0004】
Inq3の異性体、特に結晶形に関する研究例は報告されていないものの、Alq3と同様Inq3も立体異性体や複数の結晶系が存在することが予想されるが、これ以前の報告は上述の異性体や結晶形の違いを考慮せずに行われてきた。Alq3は製造方法や製造ロットなどの違いによって、しばしば有機EL素子の特性に差異が認められることは業界で知られており、その要因として、上述した異性体や結晶形の含有率に加え、不純物や水分などの影響も推測されている。これは、学術的には興味ある研究対象であるが、産業への利用といった実用的見知では、これらの異性体や結晶形と有機EL素子の性能との関連性の解明よりもむしろ、簡便な方法で良好な特性を与えるInq3とその判別方法およびそのようなInq3の工業的規模での製造方法が重要な課題といえる。しかし、これら異性体や結晶形を、工業的規模で選択的に合成したり、分離したりすることは非常に難しく、加えて、これら異性体や結晶形の含有比率を分析的に定量する方法がいまだ確立されていなというのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平5-214333号広報
【特許文献2】特開平7-62526号公報
【非特許文献1】B. J. Chen, Appl. Phys. Lett., 82巻, 3017頁(2003年)
【非特許文献2】P. E. Burrows, Appl. Phys. Lett., 64巻, 2718頁(1994年)
【非特許文献3】P. E. Burrows, J. Appl. Phys., 79巻, 7991頁(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、良好なEL素子特性、特により低い駆動開始電圧で駆動可能な有機EL素子とそれを達成しうる有機EL材料が求められている。上述したとおり、Inq3は、その類縁体であるAlq3より駆動開始電圧が低い材料であることは既に知られているが、Alq3と同様、その製造方法や製造ロットなどの違いによって、有機EL素子の特性に差異が現れることが予測される。そこで、より低い駆動開始電圧を与えうるInq3を安定かつ安価に工業的規模で製造できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上の諸問題を考慮し解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であることを特徴とするトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムからなる有機エレクトロルミネッセンス材料に関する。
【0008】
また、本発明は、原料として、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.5g/Lより大であるトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムを、窒素もしくはアルゴン雰囲気下、360℃以上、420℃未満の温度にて5分間以上保持する第1工程、その後昇華する第2工程からなることを特徴とする上記有機エレクトロルミネッセンス材料の製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、一対の電極間に挟持された有機発光層、あるいは有機発光層を含む多層の有機層有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層の少なくとも一層が、上記有機エレクトロルミネッセンス材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機EL材料を用いて作製した有機EL素子は、特に低い駆動開始電圧で発光することが可能であり、素子構成における電子注入層、電子輸送層、電子注入性発光層、発光層に好適に使用することができる。よって、テレビや携帯電話等のフラットパネルディスプレイや発光体として、さらには複写機やプリンター等の光源、液晶ディスプレイや計器類等の光源、表示板、標識灯、照明等への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、有機EL素子の性能を左右するInq3の品位を把握するため各種の化学的および物理的分析を行った結果、Inq3の溶解度が、それを用いて作成した有機EL素子の特性に関連していることを見出した。すなわち、従来の技術で製造したInq3 (以下、従来品)及び本発明者らが開発したInq3(以下、本発明品)の両者について、トルエンに対する溶解度と有機EL素子の特性との関連性を調べた結果、有機EL素子の特性の指標である駆動開始電圧において、本発明品を用いて作製した素子は、公知のInq3の場合に比べて、より低い駆動電圧で発光することを確認した。本発明は上記事実に基づいて完成されたものである。
【0012】
まず、本発明の有機EL材料について説明する。本発明の有機EL材料は、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であるInq3からなる有機EL材料である。本発明の有機EL材料は、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であるが、0.01g/L以下であることがより好ましく、0.005g/L以下であることがさらに好ましい。この理由については定かでないが、Inq3に立体異性体や結晶形の違いが存在し、その含有率などの違いによるものではないかと推察される。
【0013】
本明細書において、Inq3のトルエンに対する溶解度の測定方法は、所定量のInq3を秤量し、トルエン中で激しく振とうして、直ちに目視で観察するという簡便な方法である。この際、トルエンとInq3を混合して長時間(例えば30分間以上)振とうすると、Inq3の結晶状態が変化してしまう可能性があるため避ける必要があり、振とうと溶解度の確認は、通常5分以内で行う必要がある。溶解度測定の一例としては、25℃の環境下、トルエン100mLにInq3を5mg加えて1分間激しく振とうする。ここで、完全にInq3が溶解したか否かで本発明の有機EL材料であるか否かを判断することができる。ここで使用するトルエンは、JIS試薬一級以上の純度のものであれば十分使用可能である。
【0014】
次に、本発明の有機EL材料の製造方法について説明する。原料として用いる粗製Inq3の合成は従来公知の方法を用いて差し支えない。例えば、8-オキシキノリンとインジウム源である硫酸インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、酢酸インジウム、インジウムtertブトキシドなどのインジウムアルコキシド、その他の有機インジウム化合物とを適当な溶媒中で反応させることで、容易に調製することができる。このようにして調製した粗製Inq3を有機EL素子に使用する場合、前もって昇華を行うのが通常である。本発明の有機EL材料の製造に際しては、上述した粗製Inq3、昇華したInq3のいずれを使用しても構わない。また市販品を使用しても差し支えない。
【0015】
本発明の有機EL材料の製造方法は、原料として、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.5g/Lより大であるInq3を用いて、窒素もしくはアルゴン雰囲気下、360℃以上、420℃未満の温度にて5分間以上保持する第1工程と、その後昇華する第2工程からなる。まず第1工程で、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であるInq3が形成する。この工程を、大気下で行うとInq3の酸化が起こり、本発明の有機EL材料は得られない。また真空下で行うと、360℃に満たない温度でInq3の昇華が起こるため、所望とする温度である360℃以上、420℃未満の温度に保持することができず、やはり本発明の有機EL材料は得られない。すなわち第1工程では、窒素もしくはアルゴン雰囲気下でInq3を360℃以上、420℃未満の温度にて5分間以上保持する必要があり、好ましくは10分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上保持する。また温度範囲は、360℃以上、420℃未満であるが、380℃以上、420℃未満が好ましく、390℃以上、410℃未満がさらに好ましい。使用する窒素もしくはアルゴンは、99重量%以上の純度であれば構わないが、99.9重量%以上であることが好ましく、99.99重量%以上であることがより好ましく、99.999重量%以上であることがさらに好ましい。また、これら使用する窒素もしくはアルゴンに含有する酸素濃度は1%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましく、0.01重量%以下であることがさらに好ましく、0.001重量%以下であることが特に好ましい。
【0016】
次いで第2工程で、Inq3を昇華して本発明の有機EL材料を得ることができる。ここで、第1工程と第2工程は、同一の装置を用いても構わないし、個別の装置を使用しても構わない。また断続的に昇華を行っても、連続的に昇華を行っても構わない。しかし、製造工程の効率化とコンタミ防止のために、同一の昇華装置を用いて連続的に昇華を行うのが望ましい。
【0017】
この第2工程で用いる昇華装置は、公知の昇華精製装置を用いることが可能で、一般に昇華部(原料仕込み部)と析出部(昇華物回収部)からなり、真空ポンプと接続されている。昇華部は温度制御できる必要があるが、析出部は温度制御を行っても行わなくても良いものの、温度制御できるものが好ましい。これら昇華部と析出部は、±10℃以内、好ましくは±5℃、より好ましくは±2℃以内に温度制御できることが望ましい。昇華精製装置の材質は、ガラス製であっても、金属製であってもよい。この場合、外側は鉄等の金属とし、内面はステンレス、アルミニウム等の金属の他、硬質ガラス、石英ガラスやアルミナ等のセラミックス製としてもよい。昇華部温度は420℃以上まで自由に設定できることが好ましく、加熱方法は抵抗加熱、誘導加熱等の電気加熱、熱媒体を使用する間接加熱など公知の方法が採用できる。昇華部や析出部は、外側にジャケットを設け、そこに一定温度の熱媒体を流す間接加熱方式や抵抗加熱や誘導加熱等の電熱加熱を採っても良い。
第2工程では、第1工程で得たInq3を、10Torr以下の減圧下、好ましくは3Torr以下の減圧下、かつ昇華部の温度を300℃以上、420℃未満、析出部の主帯域の温度を100℃以上、250℃未満に保持して昇華精製することが望ましい。昇華部温度については、420℃以上に上げるとInq3の分解を促進するため好ましくない。また300℃未満では、原料Inq3が充分な速度で昇華しないため生産性が低下して好ましくない。析出部の温度については、250℃以上ではInq3の析出効率が低下するし、100℃未満ではInq3以外の不純物の析出が同時に起こる可能性が生じやすい。
【0018】
また、厳密には昇華部温度と析出部温度は、蒸気圧に関係するため、圧力によって変動する。すなわち、圧力を低くすれば、原料昇華部温度と製品析出部温度共に下げることができるので、原料、製品共に熱による変性を抑制することができて有利である。なお、本発明でいう析出物とは、精製されたInq3を析出させる帯域であり、ここで析出したInq3を回収するためのものである。
【0019】
本発明の有機EL材料は、遮光下、外気から遮断された密封容器内で、50℃以下(より好ましくは30℃以下)、湿度80%以下(より好ましくは60%以下)の環境下で保存されるのが望ましい。
【0020】
ところで、有機EL素子は、陽極と陰極間に一層または多層の有機層を形成した素子から構成されるが、ここで、一層型有機EL素子とは、陽極と陰極との間に発光層のみからなる素子を指す。一方、多層型有機EL素子とは、発光層の他に、発光層への正孔や電子の注入を容易にしたり、発光層内での正孔と電子との再結合を円滑に行わせたりすることを目的として、正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層などを積層させたものを指す。したがって、多層型有機EL素子の代表的な素子構成としては、(1)陽極/正孔注入層/発光層/陰極、(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極、(3)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極、(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極、(5)陽極/正孔注入層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(7)陽極/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、(8)陽極/発光層/電子注入層/陰極等の多層構成で積層した素子構成が考えられる。
【0021】
また、上述した各有機層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されても良く、いくつかの層が繰り返し積層されていても良い。そのような例として、近年、光取り出し効率の向上を目的に、上述の多層型有機EL素子の一部の層を多層化する「マルチ・フォトン・エミッション」と呼ばれる素子構成が提案されている。これは例えば、ガラス基板/陽極/正孔輸送層/電子輸送性発光層/電子注入層/電荷発生層/発光ユニット/陰極から構成される有機EL素子に於いて、電荷発生層と発光ユニットの部分を複数層積層するといった方法があげられる。
【0022】
本発明の有機EL素子の各層の形成方法としては、真空蒸着、電子線ビーム照射、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法、もしくはスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれかの方法を適用することができる。有機層は、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで分子堆積膜とは、気相状態の材料化合物から沈着され形成された薄膜や、溶液状態または液相状態の材料化合物から固体化され形成された膜のことであり、通常この分子堆積膜は、LB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区分することができる。また特開昭57−51781号公報に開示されているように、樹脂等の結着剤と材料化合物とを溶剤に溶かして溶液とした後、これをスピンコート法等により薄膜化することによっても、有機層を形成することができる。各層の膜厚は特に限定されるものではないが、膜厚が厚すぎると一定の光出力を得るために大きな印加電圧が必要となり効率が悪くなり、逆に膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生し、電界を印加しても充分な発光輝度が得にくくなる。したがって、各層の膜厚は、1nmから1μmの範囲が適しているが、10nmから0.2μmの範囲がより好ましい。
【0023】
本発明の有機EL素子を作製する方法については、上記の材料および方法によって、陽極から、順次必要な有機層、陰極の順に形成しても良いし、陰極から陽極へ、前記と逆の順序で有機EL素子を作製しても良い。
【0024】
本発明の有機EL材料は、上述の有機層の内、特に電子注入層、電子輸送層、電子輸送性発光層、発光層に好適に使用することができる。また、本発明の有機EL材料は、単一の化合物での使用はもちろんのこと、他の材料と組み合わせて、すなわち混合、共蒸着、積層するなどして使用することが可能である。
【0025】
以下、上述した各有機層で用いられる材料について説明する。まず、正孔注入層には、発光層に対して優れた正孔注入効果を示し、かつ陽極界面との密着性と薄膜形成性に優れた正孔注入層を形成できる正孔注入材料が用いられる。また、このような材料を多層積層させ、正孔注入効果の高い材料と正孔輸送効果の高い材料とを多層積層させた場合、それぞれに用いる材料を正孔注入材料、正孔輸送材料と呼ぶことがある。これら正孔注入材料や正孔輸送材料は、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい必要がある。このような正孔注入層としては、より低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、さらに正孔の移動度が、例えば104 〜106 V/cmの電界印加時に、少なくとも10-6cm2 /V・秒であるものが好ましい。正孔注入材料および正孔輸送材料としては、上記の好ましい性質を有するものであれば特に制限はなく、従来、光導伝材料において正孔の電荷輸送材料として慣用されているものや、有機EL素子の正孔注入層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0026】
このような正孔注入材料や正孔輸送材料としては、具体的には、例えばトリアゾール誘導体(米国特許3,112,197号明細書等参照)、オキサジアゾール誘導体(米国特許3,189,447号明細書等参照)、イミダゾール誘導体(特公昭37−16096号公報等参照)、ポリアリールアルカン誘導体(米国特許3,615,402号明細書、同第3,820,989号明細書、同第3,542,544号明細書、特公昭45−555号公報、同51−10983号公報、特開昭51−93224号公報、同55−17105号公報、同56−4148号公報、同55−108667号公報、同55−156953号公報、同56−36656号公報等参照)、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体(米国特許第3,180,729号明細書、同第4,278,746号明細書、特開昭55−88064号公報、同55−88065号公報、同49−105537号公報、同55−51086号公報、同56−80051号公報、同56−88141号公報、同57−45545号公報、同54−112637号公報、同55−74546号公報等参照)、フェニレンジアミン誘導体(米国特許第3,615,404号明細書、特公昭51−10105号公報、同46−3712号公報、同47−25336号公報、特開昭54−53435号公報、同54−110536号公報、同54−119925号公報等参照)、アリールアミン誘導体(米国特許第3,567,450号明細書、同第3,180,703号明細書、同第3,240,597号明細書、同第3,658,520号明細書、同第4,232,103号明細書、同第4,175,961号明細書、同第4,012,376号明細書、特公昭49−35702号公報、同39−27577号公報、特開昭55−144250号公報、同56−119132号公報、同56−22437号公報、西独特許第1,110,518号明細書等参照)、アミノ置換カルコン誘導体(米国特許第3,526,501号明細書等参照)、オキサゾール誘導体(米国特許第3,257,203号明細書等に開示のもの)、スチリルアントラセン誘導体(特開昭56−46234号公報等参照)、フルオレノン誘導体(特開昭54−110837号公報等参照)、ヒドラゾン誘導体(米国特許第3,717,462号明細書、特開昭54−59143号公報、同55−52063号公報、同55−52064号公報、同55−46760号公報、同55−85495号公報、同57−11350号公報、同57−148749号公報、特開平2−311591号公報等参照)、スチルベン誘導体(特開昭61−210363号公報、同第61−228451号公報、同61−14642号公報、同61−72255号公報、同62−47646号公報、同62−36674号公報、同62−10652号公報、同62−30255号公報、同60−93455号公報、同60−94462号公報、同60−174749号公報、同60−175052号公報等参照)、シラザン誘導体(米国特許第4,950,950号明細書)、ポリシラン系(特開平2−204996号公報)、アニリン系共重合体(特開平2−282263号公報)、特開平1−211399号公報に開示されている導電性高分子オリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)等を挙げることができる。
【0027】
正孔注入材料や正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物(特開昭63−2956965号公報)、芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物(米国特許第4,127,412号明細書、特開昭53−27033号公報、同54−58445号公報、同54−149634号公報、同54−64299号公報、同55−79450号公報、同55−144250号公報、同56−119132号公報、同61−295558号公報、同61−98353号公報、同63−295695号公報等参照)を用いることもできる。例えば、米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有する4,4'−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル等や、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4',4"−トリス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン等を挙げることができる。また、正孔注入材料として銅フタロシアニンや水素フタロシアニン等のフタロシアニン誘導体もあげられる。さらに、その他、芳香族ジメチリデン系化合物、p型Si、p型SiC等の無機化合物も正孔注入材料や正孔輸送材料の材料として使用することができる。
【0028】
芳香族三級アミン誘導体の具体例としては、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−フェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−(メチルフェニル)−N,N’−(4−n−ブチルフェニル)−フェナントレン−9,10−ジアミン、N,N−ビス(4−ジ−4−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサン、N,N’−ビス(4’−ジフェニルアミノ−4−ビフェニリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、N,N’−ビス(4’−ジフェニルアミノ−4−フェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、N,N’−ビス(4’−ジフェニルアミノ−4−フェニル)−N,N’−ジ(1−ナフチル)ベンジジン、N,N’−ビス(4’−フェニル(1−ナフチル)アミノ−4−フェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、N,N’−ビス(4’−フェニル(1−ナフチル)アミノ−4−フェニル)−N,N’−ジ(1−ナフチル)ベンジジン等があげられ、これらは正孔注入材料、正孔輸送材料いずれにも使用することができる。
【0029】
次に、電子注入層には、発光層に対して優れた電子注入効果を示し、かつ陰極界面との密着性と薄膜形成性に優れた電子注入層を形成できる電子注入材料が用いられる。そのような電子注入材料の例としては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体、カルシウムアセチルアセトナート、酢酸ナトリウムなどがあげられる。また、セシウム(Cs)等の金属をバソフェナントロリンにドープした無機/有機複合材料(高分子学会予稿集,第50巻,4号,660頁,2001年発行)や、第50回応用物理学関連連合講演会講演予稿集、No.3、1402頁、2003年発行記載のBCP、TPP、T5MPyTZ等も電子注入材料の例としてあげられるが、素子作成に必要な薄膜を形成し、陰極からの電子を注入できて、電子を輸送できる材料が求められる。
【0030】
本発明の有機EL材料は、電子注入材料として好適に使用することができる。また、本発明の有機EL材料は、単独で電子注入材料としても用いることができるが、さらなる特性向上のため、他の電子注入材料と併用しても構わない。
【0031】
本発明の有機EL材料と併用可能な他の電子注入材料としては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、シロール誘導体、トリアリールホスフィンオキシド誘導体があげられる。本発明に使用可能な好ましい金属錯体化合物としては、特定の8−ヒドロキシキノリンまたはその誘導体の金属錯体が好適である。8−ヒドロキシキノリンまたはその誘導体の金属錯体の具体例としては、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(5−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(4−シアノ−1−ナフトラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物の他、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)マンガン、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛等の金属錯体化合物があげられる。
【0032】
また、本発明の有機EL材料と併用可能な含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体があげられ、具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5 −フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)−4−tert−ブチルベンゼン]、2−(4’−tert− ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−トリアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル)]ベンゼン等があげられる。
また、また、本発明の有機EL材料と併用可能なシロール誘導体としては、例えば、下記に示すシロール誘導体があげられる。
【0033】
【化1】

【0034】
また、また、本発明の有機EL材料と併用可能なトリアリールホスフィンオキシド誘導体としては、特開2002−63989号公報、特開2004−95221号公報、特開2004−203828号公報、特開2004−204140号公報記載の、例えば下記に示すトリアリールホスフィンオキシド誘導体があげられる。
【0035】
【化2】


【0036】
【化3】

【0037】
さらに、正孔阻止層には、発光層を経由した正孔が電子注入層に達するのを防ぎ、薄膜形成性に優れた層を形成できる正孔阻止材料が用いられる。そのような正孔阻止材料の例としては、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(4−フェニルフェノラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物や、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(4−フェニルフェノラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等の含窒素縮合芳香族化合物があげられる。
【0038】
本発明の有機EL素子の発光層としては、以下の機能を併せ持つものが好適である。
注入機能;電界印加時に陽極または正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極または電子注入層より電子を注入することができる機能
輸送機能;注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能
発光機能;電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能
ただし、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさには、違いがあってもよく、また正孔と電子の移動度で表される輸送能に大小があってもよいが、どちらか一方の電荷を移動することが好ましい。
【0039】
有機EL素子の発光材料は主に有機化合物であり、具体的には所望の色調により、次のような化合物が用いられる。
【0040】
たとえば、紫外域から紫色の発光を得る場合には、下記一般式[1]で表される化合物が好適に用いられる。
【0041】
一般式[1]
【化4】

【0042】
〔式中、X1は下記一般式[2]、で表される基を示し、X2は、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基のいずれかを示す。〕
【0043】
一般式[2]
【化5】

【0044】
(式中、mは2〜5の整数を示す)
【0045】
この一般式[1]のX1、X2で表されるフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フェニレン基は、単数または複数の炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、水酸基、スルホニル基、カルボニル基、アミノ基、ジメチルアミノ基またはジフェニルアミノ基等の置換基で置換されていてもよい。また、これら置換基が複数ある場合には、それらが互いに結合し、環を形成していてもよい。さらに、X1で表されるフェニレン基は、パラ位で結合したものが、結合性が良く、かつ平滑な蒸着膜が形成し易いことから好ましい。上記一般式[1]で表される化合物の具体例を示せば、下記のとおりである(ただし、Phはフェニル基を表す)。
【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
これら化合物の中では、特にp−クォーターフェニル誘導体、p−クインクフェニル誘導体が好ましい。
【0049】
また、可視域、特に青色から緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤、金属キレート化オキシノイド化合物、スチリルベンゼン系化合物を用いることができる。これら化合物の具体例としては、例えば特開昭59−194393号公報に開示されている化合物を挙げることができる。さらに他の有用な化合物は、ケミストリー・オブ・シンセティック・ダイズ(1971)628〜637頁および640頁に列挙されている。
【0050】
前記金属キレート化オキシノイド化合物としては、例えば、特開昭63−295695号公報に開示されている化合物を用いることができる。その代表例としては、トリス(8−キノリノール)アルミニウム等の8−ヒドロキシキノリン系金属錯体や、ジリチウムエピントリジオン等が好適な化合物として挙げることができる。
【0051】
また、前記スチリルベンゼン系化合物としては、例えば、欧州特許第0319881号明細書や欧州特許第0373582号明細書に開示されているものを用いることができる。そして、特開平2−252793号公報に開示されているジスチリルピラジン誘導体も、発光層の材料として用いることができる。このほか、欧州特許第0387715号明細書に開示されているポリフェニル系化合物も発光層の材料として用いることができる。
さらに、上述した蛍光増白剤、金属キレート化オキシノイド化合物およびスチリルベンゼン系化合物等以外に、例えば12−フタロペリノン(J. Appl. Phys.,第27巻,L713(1988年))、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(以上Appl. Phys. Lett.,第56巻,L799(1990年))、ナフタルイミド誘導体(特開平2−305886号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報、または第38回応用物理学関係連合講演会で浜田らによって開示されたオキサジアゾール誘導体)、アルダジン誘導体(特開平2−220393号公報)、ピラジリン誘導体(特開平2−220394号公報)、シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ピロロピロール誘導体(特開平2−296891号公報)、スチリルアミン誘導体(Appl. Phys. Lett.,第56巻,L799(1990年)、クマリン系化合物(特開平2−191694号公報)、国際特許公報WO90/13148やAppl. Phys. Lett.,vol58,18,P1982(1991)に記載されているような高分子化合物、9,9’,10,10’−テトラフェニル−2,2’−ビアントラセン、PPV(ポリパラフェニレンビニレン)誘導体、ポリフルオレン誘導体やそれら共重合体等、例えば、下記一般式[3]〜一般式[5]の構造をもつものや、
【0052】
一般式[3]
【化8】

【0053】
[式中、RX1およびRX2は、それぞれ独立に、1価の脂肪族炭化水素基を、n1は、3〜100の整数を表す。]
【0054】
一般式[4]
【化9】

【0055】
[式中、RX3およびRX4は、それぞれ独立に、1価の脂肪族炭化水素基を、n2およびn3は、それぞれ独立に、3〜100の整数を表す。]
【0056】
一般式[5]
【化10】

【0057】
[式中、RX5およびRX6は、それぞれ独立に、1価の脂肪族炭化水素基を、n4およびn5は、それぞれ独立に、3〜100の整数を表す。Phはフェニル基を表す。]
9,10−ビス(N−(4−(2−フェニルビニル−1−イル)フェニル)−N−フェニルアミノ)アントラセン等も発光層の材料として用いることができる。さらには、特開平8−12600号公報に開示されているような下記一般式[6]で示されるフェニルアントラセン誘導体も発光材料として用いることができる。
【0058】
一般式[6]
【化11】

【0059】
[式中、A1及びA2は、それぞれ独立に、モノフェニルアントリル基またはジフェニルアントリル基を示し、これらは同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または2価の連結基を表す。]
【0060】
ここで、Lで示される2価の連結基としては、置換基を有しても良い2価の単環もしくは縮合環芳香族炭化水素基が好ましい。特に、以下の一般式[7]ないし一般式[8]で表されるフェニルアントラセン誘導体は好適である。
【0061】
一般式[7]
【化12】

【0062】
[式中、RZ1〜RZ4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。r1〜r4は、それぞれ独立に、0又は1〜5の整数を表す。r1〜r4が、それぞれ独立に、2以上の整数であるとき、RZ1同士、RZ2同士、RZ3同士、RZ4同士は各々同一でも異なるものであってもよく、RZ1同士、RZ2同士、RZ3同士、RZ4同士は結合して環を形成してもよい。L1は単結合又は置換基を有しても良い2価の単環もしくは縮合環芳香族炭化水素基を表し、置換基を有しても良い2価の単環もしくは縮合環芳香族炭化水素基は、アルキレン基、−O−、−S−又は−NR−(ここでRはアルキル基又はアリール基を表す)が介在するものであってもよい。]
【0063】
一般式[8]
【化13】

【0064】
[式中、RZ5及びRZ6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。r5及びr6は、それぞれ独立に、0又は1〜5の整数を表す。r5及びr6が、それぞれ独立に、2以上の整数であるとき、RZ5同士及びRZ6同士は各々同一でも異なるものであってもよく、RZ5同士及びRZ6同士は結合して環を形成してもよい。L2は単結合又は置換基を有しても良い2価の単環もしくは縮合環芳香族炭化水素基を表し、置換基を有しても良い2価の単環もしくは縮合環芳香族炭化水素基は、アルキレン基、−O−、−S−又は−NR−(ここでRはアルキル基又はアリール基を表す)が介在するものであってもよい。]
【0065】
前記一般式[7]の内、下記一般式[9]ないし一般式[10]で表されるフェニルアントラセン誘導体がさらに好適である。
【0066】
一般式[9]
【化14】

【0067】
[式中、RZ11〜RZ30は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。また、RZ11〜RZ30は、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。k1は、0〜3の整数を表す。]
【0068】
一般式[10]
【化15】

【0069】
[式中、RZ31〜RZ50は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。また、RZ31〜RZ50は、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。k2は、0〜3の整数を表す。]
【0070】
また、前記一般式[8]の内、下記一般式[11]で表されるフェニルアントラセン誘導体はさらに好適である。
【0071】
一般式[11]
【化16】

【0072】
[式中、RZ51〜RZ60は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基を表し、これらは同一でも異なるものであってもよい。また、RZ51〜RZ60は、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。k3は、0〜3の整数を表す。]
【0073】
上記一般式[9]〜一般式[11]の具体例としては、下記化合物があげられる。
【0074】
【化17】

【0075】
さらには、以下の化合物も具体例として挙げられる。
【0076】
【化18】

【0077】
また、下記一般式[12]で示されるアミン化合物も発光材料として有用である。
【0078】
一般式[12]
【化19】

【0079】
[式中、hは、価数であり1〜6の整数を表す。E1は、n価の芳香族炭化水素基、E2は、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。]
【0080】
ここで、E1で示されるn価の芳香族炭化水素基の母体構造としては、ナフタレン、アントラセン、9−フェニルアントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレン、ビフェニル、ビナフチル、ビアンスリルが好ましく、E1で示されるアミノ基としては、ジアリールアミノ基が好ましい。また、nは、1〜4が好ましく、特に2であることが最も好ましい。一般式[12]の内、特に以下の一般式[13]〜一般式[22]で表されるアミン化合物は好適である。
【0081】
一般式[13]
【化20】

【0082】
[式中、Ry1〜Ry8は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry1〜Ry8の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry1〜Ry8は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0083】
一般式[14]
【化21】

【0084】
[式中、Ry11〜Ry20は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry11〜Ry20の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry11〜Ry20は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0085】
一般式[15]
【化22】

【0086】
[式中、Ry21〜Ry34は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry21〜Ry34の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry21〜Ry34は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0087】
一般式[16]
【化23】

【0088】
[式中、Ry35〜Ry52は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry35〜Ry52の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry35〜Ry52は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0089】
一般式[17]
【化24】

【0090】
[式中、Ry53〜Ry64は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry53〜Ry64の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry53〜Ry64は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0091】
一般式[18]
【化25】

【0092】
[式中、Ry65〜Ry74は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry65〜Ry74の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry65〜Ry74は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0093】
一般式[19]
【化26】

【0094】
[式中、Ry75〜Ry86は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry75〜Ry86の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry75〜Ry86は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0095】
一般式[20]
【化27】

【0096】
[式中、Ry87〜Ry96は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry87〜Ry96の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry87〜Ry96は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0097】
一般式[21]
【化28】

【0098】
[式中、Ry97〜Ry110は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry97〜Ry110の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry97〜Ry110は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0099】
一般式[22]
【化29】

【0100】
[式中、Ry111〜Ry128は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、1価の脂肪族複素環基、1価の芳香族複素環基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry111〜Ry128の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表す。Ry111〜Ry128は同一でも異なるもので良く、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0101】
上述した一般式[17]および一般式[19]のアミン化合物は、黄色〜赤色発光を得る場合、好適に用いることができる。以上述べた一般式[12]〜一般式[22]で表されるアミン化合物の具体例として下記構造の化合物をあげることができる(ただし、Phはフェニル基を表す)。
【0102】
【化30】

【0103】
【化31】

【0104】
【化32】

【0105】
【化33】

【0106】
【化34】

【0107】
また、上記一般式[12]〜一般式[22]において、アミノ基の代わりに、下記一般式[23]ないし一般式[24]で表されるスチリル基を少なくとも一つ含有する化合物(例えば、欧州特許第0388768号明細書、特開平3−231970号公報などに開示のものを含む)も発光材料として好適に用いることができる。
【0108】
一般式[23]
【化35】

【0109】
[式中、Ry129〜Ry131は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基を表す。Ry129〜Ry131は、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0110】
一般式[24]
【化36】

【0111】
[式中、Ry132〜Ry138は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基を表す。Ry134〜Ry138は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、1価の芳香族炭化水素基、もしくは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基を表すが、Ry134〜Ry138の内、少なくとも一つは、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基から選ばれるアミノ基である。Ry132〜Ry138は、隣り合う基同士が連結し、環を形成していても良い。]
【0112】
以上述べた一般式[23]ないし一般式[24]で表されるスチリル基を少なくとも一つ含有する化合物の具体例として下記構造の化合物をあげることができる(ただし、Phはフェニル基を表す)。
【0113】
【化37】

【0114】
【化38】

【0115】
【化39】

【0116】
【化40】

【0117】
【化41】

【0118】
【化42】

【0119】
また、特開平5−258862号公報等に記載されている一般式(Rs−Q)2 −Al−O−L〔式中、Lはフェニル部分を含んでなる炭素原子6〜24個の炭化水素であり、O−Lはフェノラート配位子であり、Qは置換8−キノリノラート配位子を示し、Rsはアルミニウム原子に置換8−キノリノラート配位子が2個を上回り結合するのを立体的に妨害するように選ばれた8−キノリノラート環置換基を示す〕で表される化合物も挙げられる。具体的には、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(パラ−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(1−ナフトラート)アルミニウム(III)等が挙げられる。
【0120】
このほか、特開平6−9953号公報等によるドーピングを用いた高効率の青色と緑色の混合発光を得る方法が挙げられる。この場合、ホストとしては、上記の発光材料、ドーパントとしては青色から緑色までの強い蛍光色素、例えばクマリン系あるいは上記のホストとして用いられているものと同様な蛍光色素を挙げることができる。具体的には、ホストとしてジスチリルアリーレン骨格の発光材料、特に好ましくは4,4'−ビス(2,2−ジフエニルビニル)ビフェニル、ドーパントとしてはジフェニルアミノビニルアリーレン、特に好ましくは例えばN,N−ジフェニルアミノビニルベンゼンを挙げることができる。
【0121】
白色の発光を得る発光層としては特に制限はないが、下記のものを用いることができる。
有機EL積層構造体の各層のエネルギー準位を規定し、トンネル注入を利用して発光させるもの(欧州特許第0390551号公報)。
同じくトンネル注入を利用する素子で実施例として白色発光素子が記載されているもの(特開平3−230584号公報)。
二層構造の発光層が記載されているもの(特開平2−220390号公報および特開平2−216790号公報)。
発光層を複数に分割してそれぞれ発光波長の異なる材料で構成されたもの(特開平4−51491号公報)。
青色発光体(蛍光ピーク380〜480nm)と緑色発光体(480〜580nm)とを積層させ、さらに赤色蛍光体を含有させた構成のもの(特開平6−207170号公報)。
青色発光層が青色蛍光色素を含有し、緑色発光層が赤色蛍光色素を含有した領域を有し、さらに緑色蛍光体を含有する構成のもの(特開平7−142169号公報)。
これらの中では、上記の構成のものが特に好ましい。
さらに、発光材料として、例えば、下記に示す公知の化合物が好適に用いられる(ただし、Phはフェニル基を表す)。
【0122】
【化43】

【0123】
【化44】

【0124】
【化45】

【0125】
【化46】

【0126】
【化47】

【0127】
【化48】

【0128】
【化49】

【0129】
【化50】

【0130】
【化51】

【0131】
また、本発明の有機EL素子では、リン光発光材料を用いることができる。本発明の有機EL素子に使用できるリン光発光材料またはドーピング材料としては、例えば有機金属錯体があげられ、ここで金属原子は通常、遷移金属であり、好ましくは周期では第5周期または第6周期、族では6族から11族、さらに好ましくは8族から10族の元素が対象となる。具体的にはイリジウムや白金などである。また、配位子としては2−フェニルピリジンや2−(2'―ベンゾチエニル)ピリジンなどがあり、これらの配位子上の炭素原子が金属と直接結合しているのが特徴である。別の例としてはポルフィリンまたはテトラアザポルフィリン環錯体などがあり、中心金属としては白金などがあげられる。例えば、下記に示す公知の化合物がリン光発光材料として好適に用いられる(ただし、Phはフェニル基を表す)。
【0132】
【化52】

【0133】
【化53】

【0134】
さらに、本発明の有機EL素子の陽極に使用される材料は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物またはこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au、Ag、Al、Cr等の金属、CuI、ITO(Indium tin oxide)、IZO(Indium zinc oxide)、SnO2 、ZnO、In23−ZnO等の導電性材料が挙げられる。この陽極を形成するには、これらの電極物質を、蒸着法やスパッタリング法等の方法で薄膜を形成させることができる。この陽極は、上記発光層からの発光を陽極から取り出す場合、陽極の発光に対する透過率が10%より大きくなるような特性を有していることが望ましい。また、陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下としてあるものが好ましい。さらに、陽極の膜厚は、材料にもよるが通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選択される。
【0135】
また、本発明の有機EL素子の陰極に使用される材料は、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム・銀合金、アルミニウム/酸化アルミニウム、アルミニウム・リチウム合金、インジウム、希土類金属などが挙げられる。この陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、形成することができる。ここで、発光層からの発光を陰極から取り出す場合、陰極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、さらに、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmである。
【0136】
有機EL素子は、透光性の基板上に作製する。この透光性基板は有機EL素子を支持する基板であり、その透光性については、400〜700nmの可視領域の光の透過率が50%以上、好ましくは90%以上であるものが望ましく、さらに平滑な基板を用いるのが好ましい。これら基板は、機械的、熱的強度を有し、透明であれば特に限定されるものではないが、例えば、ガラス板、合成樹脂板などが好適に用いられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英などで成形された板が挙げられる。また、合成樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂などの板が挙げられる。これら樹脂板の中でも柔軟性を持ったフレキシブル基板は、空気中の酸素や湿度の透過を防ぐ目的でガスガリア性を高めるため、無機系の酸化物や窒化物を積層したものも用いることができる。
【0137】
また、有機EL素子の温度、湿度、雰囲気等に対する安定性向上のために、素子の表面に保護層を設けたり、樹脂等により素子全体を被覆や封止を施したりしても良い。特に素子全体を被覆や封止する際には、光によって硬化する光硬化性樹脂が好適に使用される。
本発明の有機EL素子に印加する電流は通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子破壊しない範囲内であれば特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
【0138】
本発明の有機EL素子の駆動方法は、パッシブマトリクス法のみならず、アクティブマトリックス法での駆動も可能である。また、本発明の有機EL素子から光を取り出す方法としては、陽極側から光を取り出すボトム・エミッションという方法のみならず、陰極側から光を取り出すトップ・エミッションという方法にも適用可能である。これらの方法や技術は、城戸淳二著、「有機ELのすべて」、日本実業出版社(2003年発行)に記載されている。
【0139】
さらに、本発明の有機EL素子は、マイクロキャビティ構造を採用しても構わない。これは、有機EL素子は、発光層が陽極と陰極との間に挟持された構造であり、発光した光は陽極と陰極との間で多重干渉を生じるが、陽極及び陰極の反射率、透過率などの光学的な特性と、これらに挟持された有機層の膜厚とを適当に選ぶことにより、多重干渉効果を積極的に利用し、素子より取り出される発光波長を制御するという技術である。これにより、発光色度を改善することも可能となる。この多重干渉効果のメカニズムについては、J.Yamada等によるAM−LCD Digest of Technical Papers, OD−2,p.77〜80(2002)に記載されている。
【0140】
本発明の有機EL素子のフルカラー化方式の主な方式としては、3色塗り分け方式、色変換方式、カラーフィルター方式があげられる。3色塗り分け方式では、シャドウマスクを使った蒸着法や、インクジェット法や印刷法があげられる。また、特表2002−534782やS.T.Lee, et al., Proceedings of SID'02, p.784(2002)に記載されているレーザー熱転写法(Laser Induced Thermal Imaging、LITI法ともいわれる)も用いることができる。色変換方式では、青色発光の発光層を使って、蛍光色素を分散した色変換(CCM)層を通して、青色より長波長の緑色と赤色に変換する方法である。カラーフィルター方式では、白色発光の有機EL素子を使って、液晶用カラーフィルターを通して3原色の光を取り出す方法であるが、これら3原色に加えて、一部白色光をそのまま取り出して発光に利用することで、素子全体の発光効率をあげることもできる。
【実施例】
【0141】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。まず実施例に先だって原料に用いるInq3の合成例を示す。
【0142】
(原料の合成)
合成例1
硝酸インジウム5水和物3.909gと純度99%の8−オキシキノリン4.355gとを酢酸アンモニウム緩衝液(関東化学社製)200mL中で1時間撹拌した。析出した固形物を濾過、メタノールで洗浄し、乾燥して粗製Inq3を5.78g得た。次に、この粗製Inq3 2.58gを昇華部温度330℃、析出部温度220℃、圧力5×10-3Paにて昇華してInq3を2.12g得た。
【0143】
(有機EL材料の製造方法)
実施例1
合成例1で得たInq3 1gを、昇華装置の昇華部に仕込んだ。次いで、昇華装置内を真空ポンプで排気した後、純度99.99%の窒素を吸気した。この排気と吸気を3回繰り返し、昇華装置内部の圧力を760Torrにした。次いで、昇華部の温度を365℃±5℃にて5分間保持した後、50℃になるまで放冷した。次いで、昇華装置内部の圧力を2Torrまで減圧し、昇華部温度を400℃、析出部温度を50℃に設定し、昇華を行った。室温になるまで放冷した後、昇華装置内部の圧力を大気圧にし、析出部に付着した析出物を回収した。その後、25℃の環境下で、回収物5mgにトルエン(JIS試薬一級)100mLを加え、3分間激しく振とうしたところ、回収物は完全にトルエンに溶解しないことを確認した。
【0144】
実施例2〜実施例8
以下に示す表1の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして有機EL材料を製造した。尚、表1中の温度は相当する部分での温度を表し、いずれも±5℃以内の温度範囲で制御されている。得られた有機EL材料について、25℃、トルエンに対する溶解度を併せて表1に示したが、いずれの有機EL材料も溶解度が0.05g/L以下であった。
【0145】
表1
【表1】

【0146】
比較例1
合成例1で得たInq3 5mgにトルエン(JIS試薬一級)100mLを加え、3分間激しく振とうしたところ、Inq3は完全にトルエンに溶解した。
【0147】
比較例2
第1工程での昇華部の温度を345℃±5℃に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られたInq3は、25℃にて、トルエンに対する溶解度は0.05g/Lより大であった。
【0148】
実施例9
合成例1で得たInq3 2gを、昇華装置の昇華部に仕込んだ。次いで、昇華装置内を真空ポンプで排気した後、純度99.99%の窒素を吸気した。この排気と吸気を3回繰り返した。この時点での昇華装置内部の圧力は760Torrであった。次いで、昇華部の温度を395℃±5℃にて0.5時間保持した後、50℃になるまで放冷した。次いで、昇華装置内部の圧力を0.1Torrまで減圧し、昇華部温度を350℃、析出部温度を70℃に設定し、昇華を行った。室温になるまで放冷した後、昇華装置内部の圧力を大気圧にし、析出部に付着した析出物を回収した。その後、25℃の環境下で、回収物5mgにトルエン(JIS試薬一級)100mLを加え、3分間激しく振とうしたところ、回収物は完全にトルエンに溶解しないことを確認した。
【0149】
実施例10〜実施例12
以下の表2に示すように、第1工程での昇華部の温度を変更した以外は、実施例9と同様にして有機EL材料を製造した。得られた有機EL材料は、いずれも25℃にて、トルエンに対する溶解度が0.05g/L以下であった。
【0150】
表2
【表2】

【0151】
(有機EL素子の特性)
以下の実施例では有機EL素子の特性評価結果を示す。有機EL素子の特性評価は、B. J. Chenら著Appl. Phys. Lett., 82巻, 3017頁(2003年)に記載された方法を用いて、素子の電流−電圧(I−V)特性における駆動開始電圧(Turn-on Voltage)により評価した。また正孔輸送材料には、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)を使用した。
【0152】
実施例15
ITO電極付きガラス板上に、TPDを蒸着して膜厚80nmの正孔輸送層を形成した後、実施例1で製造した有機EL材料を蒸着して膜厚80nmの電子注入性発光層を形成し、その上に、マグネシウムと銀を10:1の組成比(重量比)を200nm共蒸着して電極を形成し、有機EL素子を作成した。この素子の電流−電圧特性を測定したところ駆動開始電圧は12.3Vであった。
【0153】
実施例16〜実施例26および比較例3〜比較例5
以下の表3に示すように、実施例15で使用した有機EL材料を変更した以外は、実施例15と同様にして有機EL素子を作製した。この素子の電流−電圧特性における駆動開始電圧を表3に示す。表3より明らかなように、本発明の有機EL材料を用いて作製した有機EL素子は、いずれも比較例1〜比較例3の有機EL材料を用いて作製した有機EL素子より2V以上低い駆動開始電圧を示した。
【0154】
表3
【表3】

【0155】
実施例27
ITO電極付きガラス板上に、TPDを蒸着して膜厚60nmの正孔輸送層を形成した後、実施例1で製造したTPDと下記に示す公知化合物であるrubreneとを20:1の組成比(重量比)で共蒸着して共蒸着して膜厚20nmの発光層を形成した。さらに、実施例1で製造した有機EL材料を蒸着して膜厚80nmの電子注入層を形成し、その上に、マグネシウムと銀を10:1の組成比(重量比)を200nm共蒸着して電極を形成し、有機EL素子を作成した。この素子の電流−電圧特性を測定したところ駆動開始電圧は12.4Vであった。
【0156】
【化54】

【0157】
実施例28〜実施例38および比較例6〜比較例8
以下の表4に示すように、実施例27で使用した有機EL材料を変更した以外は、実施例27と同様にして有機EL素子を作製した。この素子の電流−電圧特性における駆動開始電圧を表4に示す。表4より明らかなように、本発明の有機EL材料を用いて作製した有機EL素子は、いずれも比較例1〜比較例3の有機EL材料を用いて作製した有機EL素子より2V以上低い駆動開始電圧を示した。
【0158】
表4
【表4】

【0159】
実施例39
ITO電極付きガラス板上に、公知のN,N’−ビス(4’−ジフェニルアミノ−4−フェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジンを蒸着して膜厚60nmの正孔注入層を形成した後、実施例1で製造した有機EL材料と下記に示す公知化合物であるDCJTBとを20:1の組成比(重量比)で共蒸着して共蒸着して膜厚35nmの発光層を形成した。さらに、実施例1で製造した有機EL材料を蒸着して膜厚30nmの電子注入層を形成した。その上に、フッ化リチウム(LiF)を1nm、さらにアルミニウム(Al)を200nm蒸着によって電極を形成して有機EL素子を作成した。この素子は、直流電圧2.5Vでの発光効率は3.7(lm/W)を示した。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は5000時間以上であった。
【0160】
【化55】

【0161】
実施例40
ITO電極付きガラス板上に、TPDを蒸着して膜厚60nmの正孔注入層を形成した。次に以下にrubreneと以下に示す化合物DBPとを50:1の組成比で共蒸着して膜厚35nmの発光層を形成した。さらに、実施例1で製造した有機EL材料を蒸着して膜厚30nmの電子注入層を形成した。その上に、フッ化リチウム(LiF)を1nm、さらにアルミニウム(Al)を200nm真空蒸着によって電極を形成して素子を得た。この素子は、直流電圧2.5Vでの発光効率は4.0(lm/W)を示した。また、発光輝度550(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は5000時間以上であった。
【0162】
【化56】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.05g/L以下であることを特徴とするトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムからなる有機エレクトロルミネッセンス材料。
【請求項2】
原料として、常圧下、25℃にて、トルエンに対する溶解度が、0.5g/Lより大であるトリス(8-オキシキノリノラト)インジウムを、窒素もしくはアルゴン雰囲気下、360℃以上、420℃未満の温度にて5分間以上保持する第1工程、その後昇華する第2工程からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス材料の製造方法。
【請求項3】
一対の電極間に挟持された有機発光層、あるいは有機発光層を含む多層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層の少なくとも一層が、請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。


【公開番号】特開2008−37981(P2008−37981A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212943(P2006−212943)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】