説明

有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液

【課題】粒子サイズが小さくかつ粒径分布ピークがシャープであり、分散安定性、保存安定性に優れ、しかも劣化や腐食を起こしにくい有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液を提供する。
【解決手段】有機顔料を溶解させた溶液及び水性媒体の少なくとも一方に下記一般式(1)で表される重合性化合物を含有させ、前記両液を混合して前記有機顔料を微粒子として析出させたのち、前記重合性化合物を重合させる有機顔料微粒子分散液の製造方法。


[一般式(1)中、Aは水素原子、典型金属原子、アンモニウム基、及びアルキルアンモニウム基のいずれかを表し、XはC=C結合を含む置換基を表す。Bは炭素原子もしくは芳香族環を表す。Lは2価の連結基を表し、m1は0以上の整数を表す。R及びRは所定の置換基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液に関する。より詳しくは、重合性化合物の共存下で有機顔料微粒子を析出させ、その重合性化合物を重合させて得る有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液に関する。さらにその微粒子析出をマイクロ反応場で行う有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料は鮮明な色調と高い着色力とを示し多くの分野で広く使用されている。例えば、塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルター等を用途として挙げることができ、今や生活上欠くことができない重要な化合物である。顔料については非特許文献1等に記載されているが、その用途の中でも高性能が要求され実用上特に重要なものとしては、インクジェットインク用顔料およびカラーフィルター用顔料が挙げられる。
【0003】
インクジェット用インクの色材には染料が用いられてきたが、耐水性や耐光性の面で難点があり、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。顔料インクにより得られた画像は、染料系のインクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという利点を有する。しかしながら、紙表面の空隙に染み込むことが可能なナノメートルサイズに均一に微細化し、単分散化することは難しく、紙への密着性に劣り、この改善が求められている。
【0004】
また、顔料の重要な用途としてCCDセンサーに用いるカラーフィルターが挙げられ、特に近年デジタルカメラの高画素化に伴いその薄層化が望まれている。カラーフィルターには有機顔料が用いられているが、フィルターの厚さはその粒子径に大きく依存するため、この分野においてもナノメートルサイズレベルの単分散で安定な微粒子を制御して製造することが求められている。
【0005】
有機顔料微粒子の製造方法は、バルク物質から粉砕などにより製造するブレイクダウン法、気相中または液相中からの粒子成長により製造するビルドアップ法に大別される(非特許文献2等参照)。一般にブレイクダウン法(粉砕法)が広く用いられているが、この方法では有機物質をナノメートルサイズで得ることは難しく、また極めて生産性が低く、適用できる物質も限定されてしまう。
【0006】
この欠点を補う手法として、樹脂で顔料微粒子を包み込みカプセル化することが提案されている(非特許文献3〜6等参照)。この方法により、耐水性、耐光性を向上し、印字に関しては光沢を増すことが試みられているが、近年の高画質化要求に応えられる程度には到底及ばない。これらの方法は、ブレイクダウン法によるもので、やはり微粒子を所望の微小なサイズに整えることができないためである。また、少しでも粉砕により微小化し、かつ別途完全に樹脂を吸着させることを要し、生産性の点においても多大な時間とエネルギーとが必要となる。
【0007】
一方、顔料を分散剤により分散させることも行われている。このとき、単に分散剤を顔料表面に吸着しただけでは、長期安定性、耐水性、粘度安定性に欠き、さらにはインクジェットインクとして使用する際、ノズルから吐出されるときの強いせん断力によって該分散剤の離脱、劣化、さらにはノズルの閉塞などが生じてしまう。
これに対しこれまで多くの方法が検討されてきた。例えば、酸化処理等による顔料表面の化学的改質、グラフト化等による顔料表面と溶解性基の化学的結合形成などがある(特許文献1参照)。しかしながら、いずれも完全に反応を行うことが難しく、その結果分散液としたときの性質が向上しない。その他、安定性の確保のために、分散剤の含有量を増やすことも考えうるが、これでは印字性能の低下を招く、あるいは過剰に粘度を上昇させてしまうなどの別の課題を抱えることとなる。
【0008】
また、ブレイクダウン法で得られた顔料に、重合性界面活性剤を加えて乳化重合する方法が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、ここで開示された乳化重合においては、モノマーを顔料微粒子表面に完全に吸着させるために、多量のモノマーが必要とされる。また、やはりブレイクダウン法によるため、顔料のサイズも大きく、より微細な範囲で均一化する必要がある。さらに、この方法では、粉砕工程を要しエネルギー消費量が大きく、しかも重合反応をさせるため工程設備の切り替えを要し生産性も低い。
【0009】
これに対し、近年ビルドアップ法によりナノメートルサイズの有機微粒子を製造する方法が検討されている。例えば、マイクロ化学プロセスによる製造方法が挙げられる(特許文献3、4参照)。しかしながら、インクジェット用インクなど、近年の高い要求に応えるには未だ十分ではなく、さらなる改良開発が望まれている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−316909号公報
【特許文献2】特開2005−97517号公報
【特許文献3】欧州公開特許1516896A1号公報
【特許文献4】特開2005−307154号公報
【非特許文献1】「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」2001年、123〜224頁、(株)技術情報協会。
【非特許文献2】日本化学会編「第4版実験化学講座」第12巻、年、411〜488頁、(株)丸善。
【非特許文献3】「ナノ微粒子の調製および分散・凝集コントロールとその評価」、 第1章、第4節 高分子ナノ微粒子の各種合成法および問題点、(株)技術情報協会、2003年。
【非特許文献4】「水性顔料インキでの高画質化」安井健悟,須之内こず恵(大日本インキ化学工業)DIC Tech Rev、No.10;11〜18頁、2004年。
【非特許文献5】「マイクロカプセル化顔料ジェットインキ」原田寛、井上定広(大日本インキ化学工業)DIC Tech Rev、No.9;1〜7頁、2003年。
【非特許文献6】「マイクロ/ナノカプセル技術 顔料マイクロカプセル化とインクジェットへの応用」田中正夫(大日本インキ化学工業)工業材料、第52巻、6号、42〜45頁、2004年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、粒子サイズが小さくかつ粒径分布ピークがシャープであり、分散安定性、保存安定性に優れ、しかも塗料に加工して金属基板上に塗布した際に、硫酸エステル型等の分散剤で起こりうる腐食、劣化などの懸念がない有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液の提供を目的とする。また、上記の優れた有機顔料微粒子分散液を連続的かつ効率的に製造することができ、大量生産にも適した有機顔料微粒子分散液の製造方法、それにより得られる有機顔料微粒子およびその分散液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は下記の手段により達成された。
(1)有機顔料を溶解させた溶液及び水性媒体の少なくとも一方に下記一般式(1)で表される重合性化合物を含有させ、前記両液を混合して前記有機顔料を微粒子として析出させたのち、前記重合性化合物を重合させることを特徴とする有機顔料微粒子分散液の製造方法。

[一般式(1)中、Aは水素原子、典型金属原子、アンモニウム基、及びアルキルアンモニウム基のいずれかを表し、XはC=C結合を含む置換基を表す。Bは炭素原子もしくは芳香族環を表す。Lは2価の連結基を表し、m1は0以上の整数を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素原子数8以上のアルキル基を有する置換基である。Bは炭素原子もしくは芳香族環を表す。]
(2)前記有機顔料溶液と水性媒体とを流路中に層流として流通させ、その層流過程で互いに接触させて混合することを特徴とする(1)に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(3)前記有機顔料溶液と水性媒体とを等価直径が1mm以下である流路中で互いに接触させて混合することを特徴とする(1)または(2)に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(4)一般式(1)において、前記置換基Xが、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、スチリル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基からなる群より選ばれた基を含む置換基であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(5)一般式(1)において、前記置換基Xがアリルオキシ基を含む置換基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(6)一般式(1)において、前記連結基Lがエチレンオキシ基を繰り返し単位として含む連結基であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(7)前記有機顔料溶液が、前記有機顔料をアルカリの存在下で溶解させた溶液であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(8)前記重合反応が、アゾ基を有する化合物の存在下、50℃以上に加熱して行うラジカル重合反応であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(9)一般式(1)で表される化合物と共重合するモノマーの1種以上を前記有機顔料溶液及び水性媒体の少なくとも一方に含有させることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の製造方法により得られた、モード径1μm以下の有機顔料微粒子を含有する有機顔料微粒子分散液。
(11)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の製造方法により得られた、モード径1μm以下の有機顔料微粒子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法によれば、小サイズで、かつ粒径分布ピークがシャープであり、分散安定性、保存安定性に優れ、しかも塗料に加工して金属基板上に塗布した際に、硫酸エステル型等の分散剤で起こりうる腐食、劣化などの懸念がない有機顔料微粒子を得ることができる。また本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法によれば、上記の優れた有機顔料微粒子分散液を一曹で連続して、効率よくかつ純度よく、しかも必要に応じて大量に(スケールアップして)製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法においては、有機顔料を溶解した溶液と水性媒体とを混合させ、その過程で該顔料を微粒子として析出させる。混合させる方法は、有機顔料溶液に水性媒体を注ぐ方法、水性媒体に有機顔料溶液を注ぐ方法、有機顔料溶液と水性媒体を同時に混合するなどが挙げられる。その際、攪拌により混合を促進することが好ましい。
流路を用いて混合させる場合、有機顔料溶液と水性媒体とを流路中に流通させて接触混合させる方法、すなわち連続フロー法で行うことができる。このとき両者を流路中で層流とし、その層流過程で互いに接触させ、層流界面で接触させることが好ましい。用いられる装置は、層流を形成しうる流路を有するものであればよく、その流路はマイクロ反応場を形成しうる等価直径の流路であることが好ましい。
【0015】
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/31/2、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0016】
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ、水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。レイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
Re=D<υ>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υ>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶ。臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000>Re>2300 過渡状態
【0017】
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
【0018】
すなわち、等価直径がマイクロメートルスケールであるマイクロサイズ空間ではレイノルズ数が小さいので安定な層流支配のもとでフロー反応を行うことができる。そして層流間の界面表面積が非常に大きいので、層流を保ったまま、界面間の分子拡散により高速で精密な成分分子の混合が可能となる。また、大きな表面積を有する流路壁の利用により精密温度制御、フロー反応の流速コントロールによる反応時間の精密制御なども可能となる。したがって、本発明においては、層流を形成する流路のうち、上述のような高度に反応制御可能な場である等価直径を有するマイクロスケールの流路を、マイクロ反応場と定義する。
【0019】
前記レイノルズ数の説明で示したように、層流の形成は等価直径の大きさだけでなく粘度および密度という液物性を含めた流動条件にも大きく影響される。よって、本発明では流路を層流にできれば、流路の等価直径は限定されないが、容易に層流が形成できるサイズが好ましい。好ましくは10mm以下であり、より好ましくはマイクロ反応場を形成する1mm以下である。更に好ましくは10μm〜1mmであり、特に好ましくは20〜300μmである。
【0020】
マイクロメートルスケールのサイズの流路(チャンネル)を有する反応装置の代表的なものは一般に「マイクロリアクター」と総称され、最近大きな発展を遂げている(例えば、W.Ehrfeld,V.Hessel,H.Loewe,“Microreactor”,1Ed(2000)WILEY−VCH 参照)。
【0021】
前記一般のマイクロリアクターには、その断面を円形に換算した場合の等価直径が数μm〜数百μm程度の複数本のマイクロ流路、及びこれらのマイクロ流路と繋がる混合空間が設けられており、このようなマイクロリアクターでは、複数本のマイクロ流路を通して複数の溶液をそれぞれ混合空間へ導入することで、複数の溶液を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。
【0022】
次に、マイクロリアクターによる反応がタンク等を用いたバッチ方式と異なる主な点を説明する。液相の化学反応、二相系の液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって反応が起こるので、微小空間(マイクロ流路)内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、スケールを小さくするに従って、反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味している。また、微小空間においては、レイノルズ数(流れを特徴づける無次元の数)が小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となっている界面でそれぞれの溶液内に存在する分子の交換が起こり、移動した分子により析出や反応が引き起こされる。
【0023】
このような特徴を有するマイクロリアクターを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまう場合があるから、生成物が不均一になったり、混合容器内で生成物の結晶が必要以上に成長したりして粗大化してしまうおそれがある。これに対して、マイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通するので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止でき、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での結晶の凝集や粗大化も生じ難くなる。
【0024】
また、実験的な製造設備により製造された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造(スケールアップ)する際には、従来、実験的な製造設備に対し、バッチ方式による大規模の製造設備での再現性を得るために多大の労力及び時間を要していたが、必要となる製造量に応じてマイクロリアクーを用いた製造ラインを並列化(ナンバリングアップ)することにより、このような再現性を得るための労力及び時間を大幅に減少できる可能性がある。
【0025】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法に用いることができる層流流路の作製方法を以下に説明する。流路が1mm以上のサイズの場合は通常の機械加工技術を用いることで比較的容易に作製可能であるが、サイズが1mm以下のマイクロメートルサイズ、特に500μm以下になると格段に作製が難しくなる。マイクロメートルサイズの流路(マイクロ流路)は固体基板上に微細加工技術を用いて作製される場合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でもよい。例えば、金属(例えば、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、プラスチック、シリコーン、テフロン(登録商標)またはセラミックスなどである。
【0026】
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
【0027】
マイクロ流路を作製する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
【0028】
マイクロ流路は、固体基板上に微細加工技術を用いて作製されたものに限らず、例えば、入手可能な数μm〜数百μmの内径を有する各種ヒューズドシリカキャピラリーチューブでもよい。高速液体クロマトグラフ用、ガスクロマトグラフ用部品として市販されている数μm〜数百μmの内径を有する各種シリコンチューブ、フッ素樹脂製管、ステンレス管、PEEK管(ポリエーテルエーテルケトン管)も同様に利用可能である。
【0029】
これまでにマイクロリアクターに関しては、反応の効率向上などを目指したデバイスに関する報告がなされている。例えば、特開2003−210960、特開2003−210963、特開2003−210959、特開2005−46650、特開2005−46651、特開2005−46652、特開2005−288254はマイクロミキサー、およびマイクロリアクターに関するものであり、本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法においては、上記のマイクロデバイスなどを使用することもできる。
【0030】
マイクロ流路は目的に応じて表面処理してもよい。特に水溶液を操作する場合、ガラスやシリコンへの試料の吸着が問題になることがあるので表面処理は重要である。複雑な製作プロセスを要する可動部品を組み込むことなく、マイクロサイズの流路内における流体制御を実現することが望ましい。例えば、流路内に表面処理により親水性と疎水性の領域を作製し、その境界に働く表面張力差を利用して流体を操作することが可能である。ガラスやシリコンの表面処理する方法として多用されるのはシランカップリング剤を用いた疎水または親水表面処理である。
【0031】
流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するためには、流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
【0032】
これらの方式を以下に詳しく説明する。流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
【0033】
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
【0034】
流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用いて流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式を行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
【0035】
流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
【0036】
流路中の流通過程で微粒子を析出させる場合、その反応時間は流路中に滞留する時間で制御することができる。滞留する時間は等価直径が一定である場合、流路の長さと反応液の導入速度で決まる。流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、より好ましくは5mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。
【0037】
本発明の製造方法において、用いられる流路の数量に特に限定はなく適宜定められればよく、1つでも構わないが、必要に応じて流路を何本も並列化(ナンバリングアップ)し、その処理量を増大させることができる。
【0038】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法に好ましく用いられる反応装置を図1−1〜図8に示す。尚、本発明がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0039】
図1−1はY字型流路を有する反応装置10の説明図であり、図1−2はそのI−I線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は使用される微細加工技術により異なるが、台形または矩形に近い形であることが好ましい。また流路幅C・深さHがマイクロメートルサイズであることが好ましい。導入口11及び導入口12からポンプなどにより注入された溶液は導入流路13aまたは導入流路13bを経由して流体合流点13dにて接触し、好ましくは安定な層流を形成して、反応流路13cを流れる。そして層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの液体に含まれる溶質が混合され、反応が進行しうる。拡散の極めて遅い溶質のときは、層流間での拡散混合が起きず、排出口14に達した後に初めて混合する場合もある。注入される2つの液体がフラスコ中で容易に混合するような場合には、流路長Fを長く取れば排出口では液の流れは均一な流れになりうるが、流路長Fが短い時には排出口まで層流が保たれる。注入される2つの溶液がフラスコ中で混合せず層分離する場合は、2つの液体は層流として流れて排出口14に到達しうる。
【0040】
図2−1は片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置20の説明図であり、図2−2は同装置のIIa−IIa線の断面図であり、図2−3は同装置のIIb−IIb線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は円かそれに近い形であることが好ましい。このとき円筒管の流路直径(D,E)がマイクロメートルサイズであることが好ましい。導入口21及び導入口22からポンプなどにより注入された液体は導入流路23aと導入流路23bを通じて流体合流点23dにて接触し、好ましくは安定な円筒層流を形成して、反応流路23cを流れる。そして円筒層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質が混合され、反応が進行しうるのは上記図1−1の装置と同じである。円筒管型流路をもつ本装置は、上記図1−1の装置に比べて2液の接触界面を大きく取れること、更に接触界面が装置壁面に接触する部分がないため、固体(結晶)が反応により生成する場合など壁面との接触部分からの結晶成長などがなく、流路を閉塞する可能性が低いのが特徴である。
【0041】
図3−1および図4は、2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように図1−1および図2−1の装置に改良を加えたものである。これらの装置を用いると反応と分離が同時にできる。また、最終的に2液が混合してしまって反応が進みすぎたり、結晶が粗大化したりすることを避けることができる。一方の液中に選択的に生成物や結晶が存在する場合には、生成物や結晶を2液が混合してしまう場合に比べて高濃度の状態で得ることができる。また、これらの装置を幾つか連結することにより、抽出操作が効率的に行われるなどのメリットがある。
【0042】
図5に示すマイクロリアクター装置50は、液体A(図中、液体をその流れの方向を示す矢印で示している。このことは液体B,Cについても同様である。)を供給する1本の供給流路51の途中から分岐して液体Aを2つに分割できるようにした2本の分割供給流路51A,51Bと、液体Bを供給する分割していない1本の供給流路52と、液体Aと液体Bとの反応を行うマイクロ流路53とが、1つの合流領域54で連通するように形成されるものである。また、これら分割供給流路51A,51B、供給流路52、及びマイクロ流路53は、実質的に同一の平面内で合流領域54の周りに90°の等間隔で配置される。即ち、各流路51A,51B,52、53の中心軸(一点鎖線)は合流領域54において十文字状(交差角度α=90°)に交差する。尚、図5では液体Bに比べて供給量を多くできるよう液体Aの供給流路51のみを分割したが、液体Bの供給流路52も複数に分割してもよい。また、合流領域54の周りに配置する各流路51A,51B,52,53の交差角度αは、90°に限らず適宜設定できる。また、供給流路51、52の分割数は、特に限定されるものではないが、数が多すぎてマイクロリアクター装置50の構造が複雑になることを考慮し、分割数を2〜10とすることが好ましく、2〜5とすることがより好ましい。
図6は、平面型のマイクロリアクター装置の別の態様であり、供給流路62の中心軸に対して分割供給流路61A,61Bの中心軸の成す交差角度βは図5の90°よりも小さく45°に形成される。また、分割供給流路61A,61Bの中心軸に対してマイクロ流路63の中心軸の成す交差角度αが135°になるように形成される。
図7は、平面型のマイクロリアクター装置の更に別の態様であり、液体Bが流れる供給流路72の中心軸に対して液体Aが流れる分割供給流路71A,71Bの中心軸の成す交差角度βは図5の90°よりも大きく135°に形成される。また、分割供給流路71A,71Bの中心軸に対してマイクロ流路73の中心軸の成す交差角度αが45°になるように形成される。供給流路72、分割供給流路71A,71B、及びマイクロ流路73の互いの交差角度α、βは適宜設定できるが、合流された液体Bと液体Aの全ての液体の厚み方向の断面積の総和をS1とし、マイクロ流路73の径方向の断面積をS2としたときに、S1>S2を満足するように交差角度α、βを設定することが好ましい。これにより、液体A,B同士の接触面積の一層の増大と拡散混合距離の一層の縮小を図ることができるので、より瞬時混合が生じ易くなるからである。
図8は、立体型のマイクロリアクター装置の一実施態様であり、マイクロリアクター装置80を構成する3つのパーツを分解して模式的に示した分解斜視図である。本実施態様の立体型のマイクロリアクター装置80は、主として、それぞれが円柱状の形状をした供給ブロック81、合流ブロック82、及び反応ブロック83により構成される。そして、マイクロリアクター装置80を組み立てるには、円柱状をしたこれらのブロック81、82、83を、この順番で互いの側面同士を合わせて円柱状になるようにし、例えばこの状態で各ブロックをボルト・ナット等により一体的に締結する。
供給ブロック81の合流ブロック82に対向する側面84には、2本の環状溝85、86が同芯状に穿設されており、マイクロリアクター装置80を組み立て状態において、2本の環状溝86、85は液体Bと液体Aとがそれぞれ流れるリング状流路を形成する。そして、供給ブロック81の合流ブロック82に対向しない反対側の側面94から外側環状溝86と内側環状溝85に達する貫通孔88、87がそれぞれ形成される。かかる2本の貫通孔88、87のうち、外側の環状溝86に連通する貫通穴88には、液体Aを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結され、内側環状溝85に連通する貫通孔87には、液体Bを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結される。図8では、外側環状溝86に液体Aを流し、内側環状溝85に液体Bを流すようにしたが、逆にしてもよい。
合流ブロック82の反応ブロック83に対向する側面89の中心には円形状の合流部90が形成され、この合流部90から放射状に4本の長尺放射状溝91と4本の短尺放射状溝92が交互に穿設される。これら合流穴90や放射状溝91,92はマイクロリアクター装置80を組み立て状態において、合流領域90となる円形状空間と液体A,Bが流れる放射状流路とを形成する。また、8本の放射状溝91,92のうち、長尺放射状溝91の先端から合流ブロック82の厚み方向にそれぞれ貫通穴95が形成され、これらの貫通穴95は供給ブロック81に形成されている前述の外側環状溝86に連通される。同様に、短尺放射状溝92の先端から合流ブロック82の厚み方向にそれぞれ貫通穴96が形成され、これらの貫通穴96は供給ブロック81に形成されている内側環状溝85に連通される。
また、反応ブロック83の中心には、反応ブロック83の厚み方向に合流部90に連通する1本の貫通孔93が形成され、この貫通孔93がマイクロ流路となる。
これにより、液体Aは供給ブロック81の貫通孔88から外側環状溝86を経て合流ブロック82の貫通孔95を通り、長尺放射溝91の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部90に至る。一方、液体Bは供給ブロック81の貫通孔87から内側環状溝85を経て合流ブロック82の貫通孔96を通り短尺放射溝92の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部90に至る。合流部90において液体Aの分割流と液体Bの分割流とがそれぞれの運動エネルギーを有して合流した後、90°流れ方向を変えてマイクロ流路93に流入する。
【0043】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法においては、有機顔料溶液および水性媒体の少なくとも一方に後述する一般式(1)で表される重合性化合物を含有させ、その両液を混合する過程で該顔料を微粒子化し、その後、前記重合性化合物を重合させる。
【0044】
本発明の製造方法に用いられる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、及びシアン顔料のいずれであってもよい。詳しくは、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0045】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメントレッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメントバイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメントレッド194(C.I.番号71100)等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(C.I.番号73900)、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメントレッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメントレッド209(C.I.番号73905)のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメントオレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメントバイオレット32(C.I.番号12517)、C.I.ピグメントイエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメントイエロー181(C.I.番号11777)、C.I.ピグメントオレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメントレッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメントイエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメントイエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメントイエロー128(C.I.番号20037)、C.I.ピグメントイエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメントオレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメントオレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメントオレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166(C.I.番号20730)、C.I.ピグメントレッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメントレッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメントレッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメントイエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメントイエロー188(C.I.番号21094)等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメントレッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメントイエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメントレッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメントレッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメントオレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメントレッド247(C.I.番号15915)等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメントグリーン36(C.I.番号74265)、ピグメントグリーン37(C.I.番号74255)、ピグメントブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメントブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくは15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメントブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメントレッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメントオレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメントレッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31(60010)等のイソビオラントロン化合物顔料である。
【0046】
中でも、キナクリドン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、またはフタロシアニン化合物が好ましく、キナクリドン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、またはフタロシアニン化合物顔料がより好ましい。
本発明の製造方法において用いられる有機顔料は、1種類であっても、2種類以上であっても、それらの固溶体であっても、有機顔料と無機顔料を組み合わせたものであってもよい。
【0047】
本発明の製造方法において用いられる有機顔料溶液は、有機顔料を均一に溶解させたものであることが好ましく、その方法は特に限定されないが酸性あるいはアルカリ性の溶液として溶解させることが好ましい。
酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは、顔料がどちらの条件でより均一に溶解するかで選択することができる。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性を、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性を用いることができる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合化合物顔料はアルカリ性で、フタロシアニン化合物顔料は酸性でより均一に溶解することができる。
【0048】
アルカリ性で溶解させる場合に用いられるアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基が挙げられ、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシド(NaOCH、KOC)などの有機塩基が挙げられる。
【0049】
使用される塩基の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは2.0〜25モル当量であり、特に好ましくは3.0〜20モル当量である。有機塩基の場合は好ましくは顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは5.0〜100モル当量であり、さらに好ましくは20〜100モル当量である。
【0050】
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸が挙げられ、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸が挙げられるが、好ましくは無機酸でありより好ましくは硫酸である。
【0051】
使用される酸の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、好ましくは顔料に対して3〜500モル当量であり、より好ましくは10〜500モル当量であり、特に好ましくは30〜200モル当量である。
【0052】
有機顔料溶液を調製する際の溶媒としては、アルカリ性の場合はアミド化合物溶媒または含イオウ化合物溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸化合物溶媒、イオウ化合物溶媒またはスルホン酸化合物溶媒であるが、更に好ましくはアルカリ性の場合は含イオウ化合物溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸化合物溶媒である。特に好ましくは、アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)、酸性の場合はメタンスルホン酸である。
【0053】
次に水性媒体について説明する。本発明において「水性媒体」とは、水単独、無機化合物の水溶液(例えば塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、水に可溶な有機溶媒と水との混合溶媒、及びそれらの組み合わせを含む。上記水に可溶な有機溶媒は、例えば、(i)顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、(ii)流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみでは不十分な場合、(iii)層流の形成に必要な場合などに用いることが好ましい。
【0054】
水性媒体に有機溶媒を添加するとき、その有機溶媒としては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール化合物溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル化合物溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル化合物溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド化合物溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ化合物溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸化合物溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸化合物溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0055】
水性媒体中に有機溶媒を混合するときの混合比は均一溶解に適した比率であればよく、特に限定は無い。水性媒体がアルカリ性のときには例えば水/有機溶媒=0.05〜10(質量比)とすることが好ましい。水性媒体が酸性のときで無機酸を用いる場合は、有機溶媒を使わず、例えば硫酸単独で用いるのが好ましい。有機酸を用いるときは有機酸自身が有機溶媒であり、粘性と溶解性を調整するために複数の酸を混合したり、水を添加したりしてもよい。好ましくは水/有機溶媒(有機酸)=0.005〜0.1(質量比)である。
【0056】
本発明の製造方法において、流路を用いて有機顔料溶液と水性媒体とを接触混合させる場合、均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になったりし、流路を閉塞する場合がある。本発明において、「均一に溶解」とは、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない状態をさし、その溶液は1μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または1μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液をいう。
【0057】
次に水素イオン指数(pH)について説明する。水素イオン指数(pH)は、水素イオン濃度(モル濃度)の逆数の常用対数であり、水素指数と呼ばれることもある。水素イオン濃度とは、溶液中の水素イオンHの濃度であり、1Lの溶液中に存在する水素イオンのモル数を意味する。水素イオン濃度は非常に広い範囲で変化するので通常は水素イオン指数(pH)を用いて表す。例えば、純粋な水は1気圧、25℃では10−7モルの水素イオンを含むため、そのpHは7で中性である。pH<7の水溶液は酸性、pH>7の水溶液はアルカリ性である。pHの値を測定する方法としては、電位差測定法および比色測定法がある。
【0058】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法において、流路を用いて有機顔料溶液と水性媒体とを接触混合させる場合、流路中を流通する過程で水素イオン指数(pH)を変化させ、顔料微粒子を製造することができ、その方法は有機顔料の均一溶液の導入口とは異なる導入口を有する流路、例えば、図1−1又は図2−1に示されるような少なくとも2つの導入口を有する流路を用いて行うことができ、図1−1の導入口11または図2−1の導入口21に有機顔料の均一溶液を導入し、図1−1の導入口12または図2−1の導入口22に水性媒体を導入し、両液を流路13c又は23c中で接触させることにより有機顔料を含む溶液の水素イオン濃度、すなわち水素イオン指数(pH)を中性(pH7)の方向に変化させることができる。流路の等価直径がマイクロスケールの場合は、レイノルズ数が小さいため安定な層流(図2−1では円筒層流)を形成し、両液の層間の安定界面を介して水やイオンが拡散移動して徐々に有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)を中性方向に変化させることができる。顔料は低いアルカリ性または低い酸性では水性媒体に溶解しにくくなるため、有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化するに従い、徐々に微粒子として析出させることができる。
【0059】
水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリ性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を析出させるときには、おおむねpH16.0〜5.0の範囲内でpHを下げることが好ましく、pH16.0〜10.0の範囲内でpHを下げることがより好ましい。酸性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を析出させるときには、おおむねpH1.5〜9.0の範囲内でpHを上げることが好ましく、pH1.5〜4.0の範囲内でpHを上げることがより好ましい。変化の幅は有機顔料溶液のpHの値によるが、有機顔料の析出をうながすのに十分な幅でよい。
【0060】
顔料微粒子を製造する場合の反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20〜90℃、より好ましくは0〜50℃である。特に好ましくは5〜15℃である。
【0061】
流路内での流体の速度(流速)は0.1mL〜300L/hrが好ましく、0.2mL〜30L/hrがより好ましく、0.5mL〜15L/hrが更に好ましく、1.0mL〜6L/hrが特に好ましい。
本発明の製造方法において、有機顔料の有機顔料溶液における濃度範囲は、0.5〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%であることがより好ましい。
【0062】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法においては、有機顔料溶液および水性媒体の少なくとも一方に下記一般式(1)で表される重合性化合物を添加する。なかでも下記一般式(1)で表される重合性化合物を有機顔料溶液中に含有させることが好ましい。本化合物は分子内に親・疎水性の機能を分離して有しており、分散剤としての機能を果たす。すなわち析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつこれらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有する。さらにC=C結合を含む反応性基を有しており、この基を重合させてポリマー中に顔料微粒子を包含固定化する。これにより分散剤の機能を有する本化合物を脱離しにくくし、高い分散安定性を実現することができる。
【化2】

一般式(1)中、Aは水素原子、典型金属原子、アンモニウム基、またはアルキルアンモニウム基を表し、XはC=C結合を含む置換基を表す。Bは炭素原子もしくは芳香族環を表す。Lは2価の連結基を表し、m1は0以上の整数を表す。R,Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R,Rの少なくとも一方は炭素数8以上のアルキル基を有する置換基である。
【0063】
一般式(1)で表される化合物の添加量は化合物の構造や、顔料、溶媒などの種類によって適宜選択することができるが、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、特に好ましくは10〜250質量部の範囲である。
【0064】
一般式(1)において、Aは、水素原子、典型金属原子(例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子など)、アンモニウム基(NH)、またはテトラメチルアンモニウムなどのアルキルアンモニウムを表し、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子、及びアンモニウム原子のいずれかであることが好ましい。
XはC=C結合を含む置換基を表し、重合処理過程で重合して(単独重合でも他の重合性化合物との共重合でもよい)ポリマーとなる機能を有する。Xとしてはビニルオキシ基(CH=CH−O−)、アリルオキシ基(CH=CH−CH−O−)、スチリル基(CH=CH−C−などのベンゼン環上にC=C結合を有する置換基であってもよい)、アクリロイル基(CH=CH−CO−)、メタクリロイル基(CH=CCH−CO−)のいずれかを有していることが好ましく、アリルオキシ基を有することが特に好ましい。
【0065】
一般式(1)において、Lは2価の連結基であるが、Lが単結合となり、RXCとCOAとが直結していてもよい(このときm1=0となる)。Lはエチレンオキシユニット(−CH−CH−O−)を繰り返し単位として含んでいることが好ましく、1分子あたり平均5個以上のエチレンオキシユニットを有していることが特に好ましい。
,Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。そしてR及びRの少なくとも一方が炭素原子数8以上(好ましくは炭素原子数8〜20)のアルキル基を有する置換基である。アルキル基を有する置換基としては、アルキル基のみからなる基、アルキル基とフェニレン基(−C−)とからなる基、アルキル基とエーテル基(−O−)とからなる基、アルキル基とフェニレン基とエーテル基とからなる基などが挙げられる。このとき、R及びRのもう一方が炭素原子数8以上のアルキル基(直鎖、分岐、環状のいずれでもよい)、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ、または水素原子であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
一般式(1)中、Bが芳香族環であるとき、R、R、X、及びLもしくはCOA以外の芳香族環上の置換基は、任意の置換基もしくは水素原子であればよく、水素原子であることが好ましい。芳香族環Bとしては炭素原子数6〜18のものであることが好ましく、炭素原子数6〜12のものであることがより好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、ベンゼン環であることが好ましい。
【0066】
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。m,nは繰り返し単位の数の平均値を表す。
【0067】
【化3】

【0068】
これらの化合物は通常の有機合成の手法を用いて種々の方法で合成することが可能であるが、水酸基を有する前駆体化合物から合成することが好ましく、例えば特開平7−18009に記載の手法、すなわち水酸基を有する前駆体とクロロ酢酸ナトリウムとの反応が代表例として挙げられる。水酸基の酸化によりカルボキシル基に変換することも可能であり、6価クロムを酸化剤として用いるジョーンズ酸化や、J.Org.Chem. 1999, 64, 2564に記載の亜塩素酸ナトリウムを用いる手法などが挙げられる。
【0069】
本発明の製造方法においては必要に応じてさらに別種の分散剤を加えてもよく、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の、低分子または高分子分散剤を使用が可能である。例えば、花王(株)社、三洋化成(株)社、第一工業製薬(株)社、旭電化工業(株)社、日本乳化剤(株)社、日本油脂(株)社等より市販されているものが挙げられ、具体的には「微粒子・粉体の最先端技術、第1章3反応乳化剤を用いる微粒子設計、pp23−31」(2000年(株)シーエムシー)、特開2005−307154号明細書に記載されている分散剤が好ましく用いられる。
【0070】
本発明の製造方法においては一般式(1)で表される重合性化合物に加えて、さらに別の重合性化合物(モノマー)を添加してもよく、一般式(1)で表される重合性化合物と共重合しうるモノマーを添加することが好ましい。モノマーとしては水溶性および非水溶性重合性化合物のいずれも用いることができ、C=C結合を有するものが好ましい。具体的には、例えば(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、γ−ヒドロキシアクリル酸プロピル、δ−ヒドロキシアクリル酸ブチル、β−ヒドロキシメタクリル酸エチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、ジエチレングリコールメタクリル酸メチル、エチレングリコールジメタクリル酸エチル、テトラエチレングリコールジメタクリル酸メチル等、およびその誘導体)、ビニル芳香族単量体(例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、p−エチルスチレン、p−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−ヘキシルスチレン、p−オクチルスチレン、p−ノニルスチレン、p−デシルスチレン、p−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等、およびその誘導体)、ビニルエステル化合物(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等、およびその誘導体)、N−ビニルアミド化合物(例えばN−ビニルピロリドン)、(メタ)アクリル酸アミド類、アルキル置換(メタ)アクリルアミド化合物、メタクリルアミド化合物、N−置換マレイミド化合物、ビニルエーテル化合物(ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ジビニルエーテル等、およびその誘導体)、オレフィン化合物(エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等、およびその誘導体)フタル酸ジアリル、無水マレイン酸、(メタ)アクリロニトリル、メチルビニルケトン、塩化ビニリデン等が使用できる。
【0071】
さらに、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を有する水溶性単量体も用いられ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、p−ビニル安息香酸などのカルボキシル基を有する単量体、もしくはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。さらには、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシメチルメタクリロイルホスフェート、2−ヒドロキシエチルメタクリロイルホスフェート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリロイルホスフェートも具体例として挙げられる。これらは単独で用いても、互いに併用して用いてもよい。
【0072】
これらの重合性化合物(モノマー)は有機顔料溶液あるいは水性媒体に2液混合前に溶解させておいてもよく、2液混合後重合処理前に添加してもよい。また2液混合時に同時に添加(すなわち3液以上の同時添加)してもよい。
【0073】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法に用いられる重合方法は、有機顔料分散液中で重合できる方法であれば特に限定されないが、重合開始剤を用いてラジカルを発生させて重合させる方法が好ましい。重合を開始するきっかけは種々あるが、熱、光、超音波、マイクロ波等を用いることが好ましい。重合開始剤としては、水溶性、または油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾ基を有する化合物等を使用することができ、アゾ基を有する化合物を用いることが好ましい。具体的には、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシド、2,2‘−アゾビスイソブチロにトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2‘−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−N−(2−ヒドロキシエチル)アミジノプロパン]二塩酸塩等を挙げることができ、例えば、和光純薬工業(株)社のホームページ(www.wako−chem.co.jp)には、各種水溶性アゾ重合開始剤、油溶性アゾ重合開始剤、高分子アゾ重合開始剤が10時間半減期温度とその構造式と共に記載され入手可能である。重合開始剤の添加量は特に限定されないが、全モノマー成分に対して0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは2〜10質量%である。
【0074】
これらの重合開始剤は、有機顔料溶液あるいは水性媒体に2液混合前に溶解させておいてもよく、2液混合後重合処理前に添加してもよい。また2液混合時に同時に添加(すなわち3液以上の同時添加)してもよい。
【0075】
本発明の製造方法において重合反応温度は特に限定されないが、40℃〜100℃とすることが好ましく、50℃〜90℃で行うことがより好ましい。重合反応時間については、10分〜24時間とすることが好ましく、1〜12時間で行うことがより好ましい。重合の程度(分子量)を調整するために、各種の連鎖移動剤(例えば、カテコール化合物、アルコール化合物、チオール化合物、メルカプタン化合物)を用いてもよい。重合反応は窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で行い、酸素の進入を防ぐことが好ましい。
【0076】
本発明の有機顔料微粒子分散液の製造方法においては、分散液中に共重合するか否かにかかわらず種々の無機、または有機の機能性添加剤を共存させてもよい。機能性添加剤は、微粒子析出や分散液の安定化を妨げなければ特に限定されず、例えば、金属封鎖剤、殺菌剤、防カビ剤、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、水溶性樹脂、pH調整剤、尿素などが挙げられる。これらの機能性添加剤を含有させる時期は特に限定されず、有機顔料溶液あるいは水性媒体に混合前に添加、2液混合時に同時に添加(すなわち3液以上の同時添加)、2液混合後に重合処理前に添加、重合処理後に添加など適宜選択することができる。
【0077】
本発明の製造方法で得られた顔料微粒子分散液は、重合処理の前および/またはその後に濾過あるいは遠心分離などにより精製、濃縮、分級を行うことができる。さらに使用目的に応じて、溶剤(湿潤剤等)や前項で述べた機能性添加剤などを加えて液物性を調整してもよい。
【0078】
本発明の有機顔料微粒子分散液は、例えば、好適なインクジェット用インクとすることができる。その方法は、例えば、本発明の有機顔料微粒子分散液を、遠心分離及び/または限外ろ過により精製、濃縮をおこなう。これに、グリセリン類、グリコール類等のような水溶性高沸点有機溶剤を添加、pHを7〜9程度に調整し、さらに表面張力、粘度、防腐等のための添加物を添加することでインクジェットインクの調製が可能である。インクジェットインクとして調製したときに好ましい粘度は、顔料種、濃度により異なるが、一般的に例えば、5質量%の時は、20mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以下であることがより好ましく、特にこのましくは5mPa・s以下である。その他、前述した、分離、濃縮、液物性の調製などを適宜行って、カラーフィルター等に広く用いることができる。
【0079】
このとき、前記一般式(1)で表される化合物は親油性部分としての有機残基と親水性官能基であるカルボン酸基とをあわせ持つため、良好な界面活性作用を示し、有機顔料微粒子を分散安定化することは先にも述べたとおりである。そして、上記官能基をカルボン酸基としたため、硫酸根に耐性の低い精密化学製品に適用したときにも腐食や劣化を抑制し長期間良好な品質が維持される。
【0080】
次に、本発明の製造方法で得られる有機顔料微粒子について説明する。
微粒子の計測法において、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均、個数平均、体積平均など)がある。本発明の製造方法で製造される有機顔料微粒子の粒径サイズは流路を閉塞しない範囲で任意であるが、モード径で1μm以下が好ましい。好ましくは3nm〜800nmであり、特に好ましくは5nm〜500nmである。また、高画質のインクジェト用インクなどで要求される、ナノメートルサイズの微粒子分散液とする場合は、有機顔料微粒子のモード径を80nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましく、特に好ましくは30nm以下である。
【0081】
微粒子の粒子サイズが揃っていること、すなわち単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを意味し、粒子の性能を決める重要な要素である。特に粒子サイズがナノメートルの超微粒子においてはその粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の製造方法は、粒径の小さい微粒子とするだけではなく、その大きさをコントロールし、そのサイズを揃えることも可能である。サイズが揃っていることを表す指標として算術標準偏差値が用いられるが、本発明の製造方法により製造される顔料微粒子の算術標準偏差値は、好ましくは130nm以下であり、特に好ましくは80nm以下であり、粒度分布のピークをシャープにすることができる。算術標準偏差値は、粒度分布を正規分布とみなして標準偏差を求める方法で、積算分布の84%粒子径から、16%粒子径を減じた値を2で除した値である。
また、体積平均粒径Mvを個数平均粒径Mnで除した値(Mv/Mn)を単分散性の指標として表すことも有り、本発明において、特に断らない限り、微粒子の単分散性を上記Mv/Mnの値で示し、この値が小さく1に近いほど単分散性が高く、本発明の有機顔料微粒子においては、1.80以下であることが好ましく、1.60以下であることがより好ましく、1.40以下であることが特に好ましい。なお、体積平均粒径Mv、個数平均粒径Mnは、動的光散乱法などによって測定することができる。
さらにまた、本発明の有機顔料微粒子は分散・保存安定性が高いことが好ましく、この安定性を示す指標として加熱保存処理による粒径の変化率で表すことができ、具体的には「体積平均粒径Mvの変化率」(体積平均粒径Mvの変化率:加熱保存処理後の体積平均粒径Mvを加熱保存処理前の体積平均粒径Mvで除し1を減じた値)で表すことができる。本発明の有機顔料微粒子は、60〜80℃、50〜300時間の加熱保存処理したときの体積平均粒径Mvの変化率が6.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、4.0%以下であることが特に好ましい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0083】
実施例に示すpHは、東亜電波工業(株)社製のガラス電極式水素イオン濃度計HM−40V(測定範囲pH0〜14)で測定した。粒径分布は日機装(株)社製のマイクロトラックUPA150で測定した。粘度はAnton Parr社製AMVn Automated Microviscometer(落球式キャピラリー粘度計)を用いて測定した。
【0084】
(合成例1)
下記反応式1に示す酸化反応(Jones 酸化)にて化合物1−1を合成した。原料であるアルコール体1−Aは特開平7−18009に報告されている手法と同様にして合成した。
(反応式1)

【0085】
酸化クロム(VI)6.8g(和光純薬工業(株)社製68mmol)の水7ml懸濁液を氷冷し、濃硫酸6mlを内温を25℃以下に保って滴下、室温で20分間攪拌した後水を20ml加えた。この懸濁液をアルコール体1−A19.0g(27mmol)のアセトン120mlに水冷しながら内温を25℃以下に保って添加した。室温で2時間攪拌した後、懸濁液をろ過し、エバポレーターにてアセトンの大部分を減圧留去したのち酢酸エチル500ml、メタノール50ml、飽和食塩水500mlを加えて分液した。この有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、活性炭処理、セライトろ過後、エバポレーターにて溶媒を留去し、化合物1−1 12.6g(収率65%)を無色透明なオイルとして得た。
[化合物1−1のH−NMR(300MHz,CDCl)δ0.8−1.6(m,25H程度),δ3.3−4.1(m,40H程度),δ4.16(s,2H),δ5.1−5.4(m,2H),δ5.8−6.0(m,1H)]
【0086】
(合成例2)
同じく1−Aを酸化する反応で、J.Org.Chem. 1999,64,2564に記載の亜塩素酸ナトリウムを用いる手法でも同様に化合物1−1を合成した。収率は62%であった。本法は重金属である6価クロムを用いる方法に比べ、環境面で優れている。
【0087】
(実施例1)
ピグメントイエロー128(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP)6.0g、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(和光純薬(株)社製)7.8mL、化合物(1−1) 9.6g、N−ビニルピロリドン1.2g(和光純薬(株)社製,減圧蒸留にて精製して使用)、ポリビニルピロリドンK30(東京化成工業(株)社製)0.3g、VPE−0201(和光純薬(株)社製)3.0gをジメチルスルホキシド135mLに室温で溶解した(IE液)。IE液のpHは測定限界(pH14)を超えており、測定不能であった。蒸留水をIIE液とした。これらを0.45μmのミクロフィルター(ザルトリウス社製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。マイクロリアクター装置として、以下の分割数(流路本数)等を有する図8の立体型のマイクロリアクター装置を使用した。
【0088】
(i)供給流路本数(n)・・・2種類の反応液それぞれについて5本に分割(合計10本の流路が合流する。なお図8の装置は各4本合計8本流路が合流する装置である。)
(ii)供給流路91、92の幅(W)・・・各400μm
(iii)供給流路91、92の深さ(H)・・・各400μm
(iv)合流部90の直径(D)・・・800μm
(v)マイクロ流路93の直径(R)・・・800μm
(vi)合流領域90において各供給流路91、92とマイクロ流路93との中心軸同士の交差角度…90°
(vii)装置の材質・・・ステンレス(SUS304)
(viii)流路加工法・・・マイクロ放電加工で行い、供給ブロック81、合流ブロック82、反応ブロック83の3つのパーツの封止方法は鏡面研磨による金属面シールで行った。二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクターを用いて接続し、その先にそれぞれIE液とIIE液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクターの出口には長さ1.5m、等価直径2mmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IE液を150mL/min、IIE液を600mL/minの送液速度にて送り出した。チューブ出口先端よりピグメントイエロー128の微粒子の分散液が得られたのでこれを捕集し試料1aとした。試料1aのpHは約13.2、有機顔料微粒子の体積平均粒径Mvは33.7nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.67であった。
【0089】
さらに、この液を窒素ガスのバブリングによる脱気処理を施した後80℃で5時間加熱し試料1bを得た。試料1bの有機顔料微粒子の体積平均粒径Mvは39.4nmであり、単分散性の指標である体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.68であった。
次に、試料1a、試料1bそれぞれを限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−62K、分画分子量5万)により液量を保持するよう蒸留水を加えながら精製し、続いて、60℃で100時間、加熱保存処理をした。試料1aの体積平均粒径の変化率は4.3%、試料1bの体積平均粒径の変化率は2.3%であった。この結果より、重合処理により安定性が向上していることが分かる。
【0090】
さらに、試料1bを限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−62K、分画分子量5万)によりろ液を排除ながら精製濃縮し、その後、濃度を調整して5.0質量%とした分散液の粘度は3.8mPa.sであった。続いて、60℃で100時間、さらに240時間加熱保存処理したところ、粘度はともに3.9mPa.sで変化はほとんど見られなかった。一方、試料1aを同様に5.0質量%に濃縮したところ、粘度は8.9mPa.sであった。さらに同様に60℃で加熱保存処理したところ、100時間保存の時点で既に沈降がみられた。このように、加熱保存処理おいても一定の粘度を維持できる優れた粘度安定性は、例えば、インクジェット用インクとして用いたとき、長期保存安定性を保証することであり、インクとしてより好適であることを示している。
【0091】
(比較例1)
実施例1で用いた化合物1−1を、カルボン酸型界面活性剤として一般に知られているポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム(化合物2−1)に変更し、その他は試料1a,1bと同様の方法でそれぞれ試料2a,2bを得た。試料2a中の微粒子の体積平均粒径Mvは39.7nmであり、体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.87であった。試料2b中の微粒子の体積平均粒径Mvは40.5nmであり、体積平均粒径Mv/個数平均粒径Mnの比は1.88であった。試料2a、2bを同様に限外ろ過装置にて5.0質量%に濃縮した分散液の粘度はそれぞれ、7.7mPa.s,7.5mPa.sで、これらを60℃で加熱保存したところ、100時間保存の時点でいずれも沈降が見られた。すなわち、化合物2−1では加熱処理によっても1bのような分散・保存安定化効果はみられなかった。
【0092】
【化4】

【0093】
(実施例2)
ピグメントイエロー128を同量のピグメントレッド254(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL RED 2030)に変更し、その他は試料1bと同様の方法で試料3bを得た。この試料3bについて、試料1bと同様の操作、測定法で同種の試験を行い、その結果を表1に記載した。
【0094】
(比較例2)
ピグメントイエロー128を同量のピグメントレッド254(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL RED 2030)に変更し、さらに分散剤1−1を同量の2−1に変更し、その他は試料1bと同様の方法で試料4bを得た。この試料4bについて、1bと同様の操作、測定法で同種の試験を行い、その結果を表1に記載した。
【0095】
【表1】

この結果から、本発明の製造方法によれば、異なる種類の有機顔料であっても、ナノメートルサイズでしかも粒径分布ピークがシャープな微粒子を製造することができ、その分散液は高い分散安定性を示すことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1−1】片側にY字型流路を有する反応装置を模式的に示す平面図である。
【図1−2】図1−1のI−I線の断面図である。
【図2−1】片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置を模式的に示す縦断面図である。
【図2−2】図2−1のIIa−IIa線の横断面図である。
【図2−3】図2−1のIIb−IIb線の横断面図である。
【図3−1】両側にY字型流路を有する反応装置を模式的に示す平面図である。
【図3−2】図3−1のIII−III線の断面図である。
【図4】両側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置を模式的に示す縦断面図である。
【図5】平面型のマイクロリアクター装置の態様を模式的に示す平断面図である。
【図6】平面型のマイクロリアクター装置の別の態様を模式的に示す平断面図である。
【図7】平面型のマイクロリアクター装置のさらに別の態様を模式的に示す平断面図である。
【図8】立体型のマイクロリアクター装置の一実施態様を模式的に示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0097】
10、20、30、40 反応装置本体
11、12、21、22、31、32、41、42 導入口
13、33 流路
13a、13b、23a、23b、33a、33b、43a、43b 導入流路
13c、23c、33c、43c 反応流路
13d、23d、33d、43d 流体合流点
33e、43e 流体分流点
33f、33g、43f、43g 排出流路
14、24、34、35、44、45 排出口
50、60、70、80 マイクロリアクター装置
51、52、61、62、71、72 溶液の供給流路
51A、61A、71A 分割供給流路
53、63、73 マイクロ流路
54、64、74 合流領域
81 供給ブロック
82 合流ブロック
83 反応ブロック
86 外側環状溝
85 内側環状溝
87、88 供給ブロックの貫通孔
90 合流部(合流領域)
91 長尺放射状溝
92 短尺放射状溝
95、96 合流ブロックの貫通孔
93 反応ブロックの貫通孔(マイクロ流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料を溶解させた溶液及び水性媒体の少なくとも一方に下記一般式(1)で表される重合性化合物を含有させ、前記両液を混合して前記有機顔料を微粒子として析出させたのち、前記重合性化合物を重合させることを特徴とする有機顔料微粒子分散液の製造方法。

[一般式(1)中、Aは水素原子、典型金属原子、アンモニウム基、及びアルキルアンモニウム基のいずれかを表し、XはC=C結合を含む置換基を表す。Bは炭素原子もしくは芳香族環を表す。Lは2価の連結基を表し、m1は0以上の整数を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素原子数8以上のアルキル基を有する置換基である。]
【請求項2】
前記有機顔料溶液と水性媒体とを流路中に層流として流通させ、その層流過程で互いに接触させて混合することを特徴とする請求項1に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記有機顔料溶液と水性媒体とを等価直径が1mm以下である流路中で互いに接触させて混合することを特徴とする請求項1または2に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)において、前記置換基Xが、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、スチリル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基からなる群より選ばれた基を含む置換基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)において、前記置換基Xがアリルオキシ基を含む置換基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)において、前記連結基Lがエチレンオキシ基を繰り返し単位として含む連結基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記有機顔料溶液が、前記有機顔料をアルカリの存在下で溶解させた溶液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記重合反応が、アゾ基を有する化合物の存在下、50℃以上に加熱して行うラジカル重合反応であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
一般式(1)で表される化合物と共重合するモノマーの1種以上を前記有機顔料溶液及び水性媒体の少なくとも一方に含有させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機顔料微粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られた、モード径1μm以下の有機顔料微粒子を含有する有機顔料微粒子分散液。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られた、モード径1μm以下の有機顔料微粒子。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−169335(P2008−169335A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5168(P2007−5168)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】