説明

有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】輝度ムラの発生が抑制され、表示品質の高い有機ELディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】基板100と、基板100上に配列されて画像表示領域900を構成する複数の画素電極210と、塗布法で形成された発光材料からなる発光層600を含む、画素電極上に配置された有機機能層650と、有機機能層650上に配置され、複数の画素電極210に対して共有する対向電極220と、画像表示領域900の外周を囲むように基板100上に配置された壁状の封止部750と、封止部750上に配置された封止板700と、を備えた有機ELディスプレイパネル10である。対向電極220が、封止部の内壁面770上にも配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイパネルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイパネルとは、有機化合物の電界発光を利用した発光素子(有機EL素子)を有するディスプレイパネルである。有機ELディスプレイパネルは、画素電極と、画素電極上に配置された有機発光層と、有機発光層上に配置された対向電極を含む有機EL素子を有する。有機発光層に含まれる有機EL材料は、低分子有機化合物の組み合わせ(ホスト材料とドーパント材料)と、高分子有機化合物とに大別される。高分子有機化合物の例には、PPVと称されるポリフェニレンビニレンやその誘導体などが含まれる。高分子有機化合物を利用した有機ELディスプレイパネルは、比較的低電圧で駆動でき、消費電力が少なく、ディスプレイパネルの大型化に対応し易いとされている。
【0003】
また、高分子有機化合物は、キシレンやトルエン等の芳香族系の有機溶剤に溶解させた溶液の状態とすることができる。このため、インクジェット法などの印刷法で高分子有機化合物の溶液(以下、単に「インク」とも記す)を所定の箇所に塗布し、有機発光層を形成することが可能である。即ち、高分子化合物を適正な箇所に配置する方法として、簡便かつ処理能力の高いインクジェット法を採用することで、ディスプレイパネルの大画面化により対応し易いとされている。
【0004】
有機EL素子は、画素電極、正孔注入層、および有機発光層等の複数のレイヤーからなる積層デバイスである。そして、それぞれのレイヤーの膜厚は、有機EL素子の発光特性を左右する重要な要素であるといえる。なかでも、発光に直接寄与する有機発光層の膜厚に対しては高度な均一性が要求される。有機発光層の膜厚のバラつきは有機ELディスプレイパネルに「輝度ムラ」を生じさせるため、有機ELディスプレイパネルの表示品質欠陥につながる。
【0005】
インクジェット法などの印刷法で有機発光層を形成する場合には、先ず、バンクと呼ばれる画素を規定する隔壁の内側にインクを塗布する。次いで、インクに含まれる有機溶剤を蒸発させ、インクを乾燥させることで100nm程度の膜厚の有機発光層を形成することができる。形成される有機発光層の膜厚や膜形状は、インクの乾燥工程により左右されることが知られている。
【0006】
例えば、基板上の同一の画素領域内に配置された画素であっても、形成される有機発光層の形状にバラつきが発生する場合がある。具体的には、画素表示領域の周縁部に配置された画素における有機発光層は、基板の外側に向かって傾斜した形状となる場合がある。これは、画素領域の周縁部における有機溶剤の蒸気濃度は中央部に比して低く、画素領域の周縁部ほどインクの乾燥速度が高くなるためである。そして、ディスプレイパネルの大型化に伴い、乾燥速度の相違に起因して発生する有機発光層の形状のバラつきは特に顕著となる傾向にある。
【0007】
上記のような問題を解決すべく、発光には寄与しないダミーの画素を発光に寄与する画素表示領域の周囲に設け、膜厚が均一な画素のみを発光させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、インク塗布領域の周囲に着脱可能な仕切り用の囲いを一時的に設けて乾燥させることにより、塗布領域端部における乾燥速度の上昇を抑制し、塗布領域面内でムラなく均一に乾燥させて均一な膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3628997号公報
【特許文献2】特開2007−90200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、引用文献1に記載された方法ではパネル面積に占める発光領域の面積の割合が小さくなってしまうため、パネルの表示性能が低下するという問題がある。また、発光に寄与しない部分にもインクを塗布する必要があるため、材料の使用効率が低下し、パネルの製造コストが嵩むという問題もある。
【0010】
また、引用文献2に記載された方法では、仕切り用の囲いを基板に装着させる必要があるとともに、インクの乾燥後には仕切り用の囲いを基板から取り外す必要がある。このため、仕切り用の囲いの装着時および取り外し時に微細なパーティクル(ゴミ)が発生し易い。従って、発生したパーティクルが基板に付着した場合にはディスプレイパネルの表示品質が低下してしまい、製造歩留まりが低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、輝度ムラの発生が抑制され、表示品質の高い有機ELディスプレイパネル、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、以下に示す有機ELディスプレイパネル、および有機ELディスプレイパネルの製造方法が提供される。
【0013】
[1]基板と、前記基板上に配列されて画像表示領域を構成する複数の画素電極と、
塗布法で形成された発光材料からなる発光層を含む、前記画素電極上に配置された有機機能層と、前記有機機能層上に配置され、前記複数の画素電極に対して共有する対向電極と、前記画像表示領域の外周を囲むように前記基板上に配置された壁状の封止部と、前記封止部上に配置された封止板と、を備え、前記対向電極が、前記封止部の内壁面上にも配置されている有機ELディスプレイパネル。
【0014】
[2]前記封止部が、ガラスフリットの焼成物により形成されている前記[1]に記載の有機ELディスプレイパネル。
【0015】
[3]前記封止部の内部に空隙が形成されている前記[1]又は[2]に記載の有機ELディスプレイパネル。
【0016】
[4]基板上に画像表示領域を構成する複数の画素電極を配列するステップと、発光材料および揮発性の有機溶媒を含有するインクを前記画素電極上に塗布するステップと、前記画像表示領域の外周を囲む高さ3mm以上の外周壁を前記基板上に形成するステップと、前記画素電極上に塗布した前記インクを乾燥させて発光層を形成するステップと、前記発光層上および前記外周壁の内壁面上に対向電極を形成するステップと、前記外周壁上に封止板を配置するとともに前記外周壁を押し潰し、前記画像表示領域の外周を囲むように配置された壁状の封止部を形成するステップと、を有する有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0017】
[5]押し潰した前記外周壁を、レーザーにより焼成して前記封止部を形成する前記[4]に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0018】
[6]ガラスフリット材料を用いて前記外周壁を形成する前記[4]又は[5]に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0019】
[7]前記ガラスフリット材料には、前記インクに含有される前記有機溶媒と同一種類の有機溶媒が含有されている前記[6]に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0020】
[8]前記外周壁を、前記画像表示領域の端縁から100μm以上離隔させて前記基板上に形成する前記[4]〜[7]のいずれかに記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0021】
[9]前記外周壁は、その上部が前記基板の外周方向に傾斜している前記[4]〜[8]のいずれかに記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【0022】
[10]前記外周壁は、内側に比して外側が高い階段状である前記[4]〜[9]のいずれかに記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機ELディスプレイパネルは発光層の膜厚が均一であるため、輝度ムラの発生が抑制されており、表示品質が極めて高いものである。
【0024】
本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法によれば、所定高さの外周壁を画像表示領域の外周を囲むように形成した状態で、所定の箇所に塗布した発光材料を含有するインクを乾燥させるため、インクの乾燥速度を均一にして、形成される発光層の膜厚を均一にすることができる。このため、本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法によれば、輝度ムラの発生が抑制され、表示品質の高い有機ELディスプレイパネルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の有機ELディスプレイパネルの一実施形態を模式的に示す上面図である。
【図2】本発明の有機ELディスプレイパネルの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3A】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3B】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3C】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3D】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3E】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3F】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3G】本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】外周壁の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】外周壁の構造の他の例を模式的示す断面図である。
【図6】外周壁の構造の更に他の例を模式的に示す断面図である。
【図7】流体解析により計算された、外周壁がない場合における基板上の蒸気濃度を示すグラフである。
【図8】流体解析により計算された、外周壁がある場合とない場合における基板上の蒸気濃度を示すグラフである。
【図9】参考例1で形成した発光層(乾燥膜)の膜プロファイルの測定結果を示すグラフである。
【図10】比較参考例1で形成した発光層(乾燥膜)の膜プロファイルの測定結果を示すグラフである。
【図11】比較参考例2で形成した発光層(乾燥膜)の膜プロファイルの測定結果を示すグラフである。
【図12A】参考例1でガラス基板上に形成した発光層、バンクおよび外周壁のパターンを模式的に示す上面図である。
【図12B】図12AのX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.有機ELディスプレイパネルの製造方法
本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法は、(1)基板上に複数の画素電極を配列するステップ(以下、「第1ステップ」とも記す)と、(2)発光材料を含有するインクを画素電極上に塗布するステップ(以下、「第2ステップ」とも記す)と、(3)画像表示領域の外周を囲む所定高さの外周壁を基板上に形成するステップ(以下、「第3ステップ」とも記す)と、(4)インクを乾燥させて発光層を形成するステップ(以下、「第4ステップ」とも記す)と、(5)対向電極を形成するステップ(以下、「第5ステップ」とも記す)と、(6)外周壁上に封止板を配置するステップ(以下、「第6ステップ」とも記す)と、を有する。
【0027】
本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法では、(i)発光材料を含有するインクを塗布するステップ、(ii)インクが塗布される領域(画像表示領域)の外周を囲むように所定高さの外周壁を基板上に形成するステップ、および(iii)インクを乾燥させて発光層を形成するステップ、を含むことを特徴の一つとしている。このように、本発明の製造方法においては塗布したインクの周りを外周壁で囲った状態で乾燥させるため、画像表示領域の端部における局所的なインク乾燥速度の上昇を抑制することができる。このため、形成される発光層の膜厚を均一にすることができる。
【0028】
なお、上記(i)のステップと、上記(ii)のステップの実施順序は特に限定されず、いずれのステップを先に実施してもよい。但し、(i)のステップの後に(ii)のステップを実施することが、外周壁の存在に制約されることなく、より正確な箇所にインクを容易に塗布することができるために好ましい。
【0029】
インクの乾燥速度(流束)は、Fickの法則より下記式(1)で表すことができる。
J=−D・(dc/dx) ・・・(1)
(J:流束、D:拡散係数、c:蒸気濃度、x:位置)
【0030】
上記式(1)式から、インクの乾燥速度はインクに含まれる有機溶媒の蒸気濃度の関数として表すことが可能であり、蒸気濃度が異なると乾燥速度も異なることがわかる。このため、塗布領域内でインクを均一に乾燥させるには、蒸気濃度が塗布領域の上で均一であることが必要である。なお、塗布領域の外側部分では蒸気の相互作用が小さいため、インクが拡散し易く、蒸気濃度は小さくなる傾向にある。
【0031】
図7は、流体解析により計算された、外周壁がない場合における基板上の蒸気濃度を示すグラフである。図7においては、インク塗布後、大気圧条件下で120秒放置後のシクロヘキシルベンゼン(CHB)の蒸気濃度の分布が示されている。なお、この流体解析は、汎用の数値流体力学ソフトウェアである商品名「FLUENT」(フルーエント・アジアパシフィック社製)を用いて行なったものである。
【0032】
図7に示すように、基板の中心から離れるに従って蒸気濃度は徐々に低下しており、塗布領域の端部で急激に蒸気濃度は低下している。これにより、基板の中心部では蒸気濃度が比較的高く、インクの乾燥速度が遅いことが分かる。一方、基板の端部ではインクの乾燥速度が速いと考えられる。これにより基板面内でインクの乾燥ムラが生じ、形成される乾燥膜(発光層)の形状にバラつきが発生するものと推測される。発光層の形状のバラつきは輝度ムラにつながり、有機ELディスプレイパネルの表示特性が低下する要因となる。
【0033】
図8は、流体解析により計算された、「外周壁がある場合」と「外周壁がない場合」における基板上の蒸気濃度を示すグラフである。図8に示すように、外周壁の高さが1mmの場合には、外周壁がない場合と同等の蒸気濃度分布となることが分かる。一方、外周壁の高さ3mmの場合には、基板の端部における蒸気濃度の低下が抑制されていることが明らかである。従って、単に外周壁を設けるだけでなく、設ける外周壁を所定の高さ以上とすることでインクの乾燥ムラを抑制可能であることが明らかである。これは、インク蒸気の発生量に比して外周壁が低い場合には、外周壁を乗り越えてインク蒸気が外部へと漏れ出すためである。なお、インク蒸気の発生量に比して外周壁が十分に高い場合には、外周壁で囲まれた領域内にインク蒸気が溜め込まれると考えられる。
【0034】
なお、本発明の製造方法においては外周壁を用いて封止部を形成し、基板と封止板を接着する。即ち、インクを均一に乾燥させるために用いた外周壁を、有機ELディスプレイパネルを構成する部材とする。従って、外周壁を取り外す工程が存在しないために、外周壁の取り外しに伴って発生する微細なパーティクル(ゴミ)が基板等に付着することがない。このため、ゴミ等の混入によるディスプレイパネルの表示品質の低下が起こり難く、製造歩留まりを向上させることができる。
【0035】
以下、本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法のそれぞれのステップについて詳細に説明する。
【0036】
(第1ステップ)
第1ステップでは、複数の画素電極を基板上にマトリクス状に配列して形成する。画素電極は、例えば、スパッタリング法等により電極材料の膜を基板上に形成した後、電極材料の膜をレジストでマスキングし、次いで、エッチングしてパターニングすることにより形成される。画素電極の膜厚は100〜200nm程度であることが好ましい。画素電極の膜厚が薄過ぎると、膜厚が不均一になり易い。
【0037】
なお、画素電極上には正孔注入層を形成してもよい。正孔注入層の材料は、通常、遷移金属の酸化物である。正孔注入層は、例えばスパッタリング法等により画素電極上に形成することができる。
【0038】
また、発光領域を規定するバンクを、画素電極の周縁の一部または全部を覆うように形成することが好ましい。なお、画素電極上には正孔注入層を形成した場合には、画素電極上の正孔注入層の周縁の一部または全部を覆うようにバンクを形成すればよい。バンクの材料としては、ポリイミド、アクリル樹脂等の樹脂を含有する感光性樹脂材料を用いることができる。なお、樹脂中にフッ素化合物が導入されていてもよい。感光性樹脂組成物を使用すれば、フォトリソプロセス(塗布、ベーク、露光、現像、および焼成)によってバンクをパターン形成することができる。特に限定されることはないが、一例を挙げると、ベークは100℃で2分、露光は365nmがメインピークであるi線を露光量として200mJ/cm、現像は0.2質量%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)液で60秒、リンスを純水で60秒、焼成は乾燥炉を使用して220℃で60分間実施すればよい。
【0039】
なお、バンクの形成後、正孔輸送材料を含むインクを正孔注入層上に塗布してもよい。塗布されたインクを乾燥およびベークすること等により正孔輸送層を形成することができる。塗布されるインクには、所望の正孔輸送材料および有機溶媒が含有される。有機溶媒は、正孔輸送材料の種類に応じて決定される。有機溶媒の例には、アニソール等の芳香族系の溶媒が含まれる。インクを塗布する手段は特に限定されない。インクの塗布手段の例には、インクジェット法、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、ダイコート法、凹版印刷法、凸版印刷法等が含まれる。好ましいインクの塗布手段はインクジェット法である。
【0040】
(第2ステップ)
第2ステップでは、発光材料を含有するインクを画素電極上に塗布する。なお、画素電極上に正孔注入層や正孔輸送層を形成した場合には、これらの層を介して画素電極上にインクを塗布する。また、バンクを形成した場合には、バンクで規定された領域内における画素電極上にインクを塗布する。
【0041】
インクには、発光材料と揮発性の有機溶媒が含有されている。有機溶媒は、発光材料の種類に応じて選択すればよい。有機溶媒の例には、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、アニソール、メトキシトルエン、ヘプチルベンゼン等が含まれる。インクの塗布手段の例には、インクジェット法、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、ダイコート法、凹版印刷法、凸版印刷法等が含まれる。好ましいインクの塗布手段はインクジェット法である。
【0042】
(第3ステップ)
第3ステップでは、画像表示領域の外周を囲む外周壁を基板上に形成する。ここで「画像表示領域」とは、基板上における複数の画素電極が配列された領域を意味する。なお、この外周壁は、発光材料を含有するインクの塗布後、インクの乾燥が進行しないうちに直ちに形成することが好ましい。
【0043】
外周壁の材料としては、ガラスフリット材料(即ち、ガラスペースト)を用いることが好ましい。ガラスフリット材料には、通常、粉末状のガラスであるガラスフリットと有機溶媒が含有されている。ガラスフリット材料は、一般的な樹脂材料に比して粘度が高い。このため、ガラスフリット材料を使用すれば、ある程度の高さを有するとともに、形状保持製の良好な外周壁を容易に形成することができる。ガラスフリット材料に含有される有機溶媒は、発光層を形成するためのインクに含有される有機溶媒と同一種類の有機溶媒であることが好ましい。発光層等を形成するためのインクに含有される有機溶媒と同一種類の有機溶媒を用いることで、有機溶媒の蒸気が外周壁からも生ずることとなる。このため、外周壁の付近(即ち、画像表示領域の端部)における有機溶媒の蒸気濃度の低下をより効果的に抑制することができ、形成される発光層の膜厚をより均一にすることができる。
【0044】
ガラスフリット材料等の外周壁を形成するための材料を塗布することによって、外周壁を形成する。塗布手段の例には、ディスペンサーを用いるディスペンサー法、ノズルコート法、ダイコート法等が含まれる。ガラスフリット材料等の好ましい塗布手段はディスペンサー法である。
【0045】
外周壁は、発光材料のインクから発生した有機溶媒の蒸気をその内部に溜め込むための構造体である。そして、有機溶媒の蒸発速度が速い場合には、有機溶媒の蒸気を内部に溜め込むために外周壁を高く形成する必要がある。即ち、外周壁の必要な高さはインクに含有される有機溶媒の蒸発速度によって定まる。例えば、有機溶媒がシクロヘキシルベンゼン(CHB)(25℃、大気圧下での蒸発速度:6.441×10−6kg/(m・sec))である場合には、外周壁の高さは3mm以上、好ましくは3〜5mmとする。また、有機溶媒がメトキシトルエン(25℃、大気圧下での蒸発速度:41.77×10−6kg/(m・sec))である場合には、外周壁の高さは20mm以上、好ましくは20〜24mmとする。更に、有機溶媒がフェノキシトルエン(25℃、大気圧下での蒸発速度:1.829×10−6kg/(m・sec))である場合には、外周壁の高さは0.9mm以上、好ましくは1〜3mmとする。
【0046】
発光材料のインクから発生する有機溶媒の蒸発速度は、熱重量測定(TG)/示差熱分析(DTA)により重量減少量から算出した。また、TG/DTAには商品名「EXSTAR TG/DTA7000」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用した。
【0047】
なお、第2ステップと第3ステップの実施順序については特に限定されず、いずれのステップを先に実施してもよい。但し、第2ステップの後に第3ステップを実施することが、外周壁の存在に制約されることなく、より正確な箇所にインクを容易に塗布することができるために好ましい。
【0048】
(第4ステップ)
第4ステップでは、画素電極上に塗布したインクを、画像表示領域の周りを所定高さの外周壁で囲んだ状態で乾燥させる。これにより発光層を形成することができる。インクの乾燥手段は特に限定されないが、例えば減圧乾燥によって乾燥させることが好ましい。減圧乾燥は、例えば真空チャンバーを使用し、真空ポンプ等でチャンバー内を到達圧力5Pa程度まで減圧することにより行えばよい。なお、インクの乾燥と同時に外周壁を乾燥させることもできる。また、通常、インクの乾燥後にIR炉やホットプレート等を使用して10分程度ベークする。ベーク温度は発光材料の種類によって適宜設定されるが、例えば130℃前後である。
【0049】
(第5ステップ)
第5ステップでは、発光層の上面を含む画像表示領域の全ての上面に対向電極を形成する。対向電極は、例えばスパッタリング法等により形成することができる。なお、画像表示領域の全ての上面に対向電極を形成すると、同時に外周壁の内壁面上にも対向電極が形成されることとなる。
【0050】
(第6ステップ)
第6ステップでは、外周壁上に封止板を配置する。その際、外周壁を押し潰して、画像表示領域の外周を囲むように配置された壁状の封止部(ダム(DAM))を形成する。形成された壁状の封止部を介して基板と封止板を貼り合わせれば有機ELディスプレイパネルを得ることができる。
【0051】
なお、通常、変形させた外周壁を焼成することにより壁状の封止部を形成する。但し、外周壁の構成材料がガラスフリット材料である場合には変形させた外周壁にレーザーを照射してガラスフリットを焼成することが好ましい。ガラスフリットの焼成に要する温度は、通常400〜800℃と高温であるので、焦点範囲の狭いレーザーを照射することによって外周壁以外の部分への影響を回避しつつ外周壁のガラスフリットを焼成することができる。
【0052】
2.有機ELディスプレイパネル
本発明の有機ELディスプレイパネルは、上述した本発明の有機ELディスプレイパネルの製造方法によって製造されるものである。本発明の有機ELディスプレイパネルは、基板と、基板上に配列された複数の画素電極と、発光層を含む有機機能層と、有機機能層上に配置された対向電極と、画像表示領域の外周を囲むように基板上に配置された壁状の封止部と、封止部上に配置された封止板と、を備えている。以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0053】
(基板)
基板の材料は、有機ELでディスプレイパネルがボトムエミッション型か、トップエミッション型かによって異なる。例えば、ボトムエミッション型の場合、基板は、透明であることが求められる。従って、ボトムエミッション型の場合、基板の材料の例にはガラスや石英、透明プラスチック等が含まれる。一方、トップエミッション型の場合、基板が透明である必要はない。従って、トップエミッション型の場合、基板の材料は絶縁体であれば任意であり、例えば不透明プラスチックや金属等である。
【0054】
有機ELディスプレイパネルがアクティブマトリクス型である場合、基板には、有機EL素子を駆動するための薄膜トランジスタ(駆動TFT)が内蔵される。基板に内蔵されたTFTのソース電極またはドレイン電極は、画素電極に接続される。また、画素電極を、TFTのソース電極またはドレイン電極と同一平面に配置してもよい。なお、有機ELディスプレイパネルはTFT上に積層して配置されていてもよい。
【0055】
(画素電極)
画素電極は基板上に配置される導電性部材である。画素電極は、通常陽極として機能するが、陰極として機能してもよい。有機ELディスプレイパネルがボトムエミッション型の場合、画素電極が透明電極であることが求められ、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、または酸化スズ等で形成すればよい。有機ELディスプレイパネルがトップエミッション型の場合には、画素電極には光反射性が求められる。光反射性の画素電極は、例えば銀を含む合金、より具体的には銀−パラジウム−銅合金(APCとも称する)、銀−ルビジジウム−金合金(ARAとも称する)、モリブデン−クロムの合金(MoCrとも称する)、ニッケル−クロム合金(NiCrとも称する)、アルミニウム合金等で形成すればよい。画素電極の厚さは、通常100〜500nmであり、約150nmであることが好ましい。
【0056】
(正孔注入層および正孔輸送層)
画素電極上には、正孔注入層と正孔輸送層の少なくともいずれかが配置されてもよい。正孔注入層とは、正孔注入材料からなる層を意味する。正孔注入材料の例には、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSSと称される)や、その誘導体(共重合体等)が含まれる。また、正孔注入材料には、WOx(タングステンオキサイド)、MoOx(モリブデンオキサイド)、VOx(バナジウムオキサイド)等の酸化物;これらの組み合わせ;MoをドープしたWOx等が含まれていてもよい。正孔注入層の厚さは、通常10nm以上100nm以下、好ましくは約30nmである。
【0057】
正孔輸送層は、正孔注入層への電子の輸送をブロックする役割や、発光層に正孔を効率よく運ぶ役割等を有する層である。正孔輸送層は、例えばフルオレンと芳香族アミンとの共重合体からなる層である。正孔輸送層の厚さは通常、10nm以上100nm以下であり、好ましくは約30nmである。
【0058】
(バンク)
発光領域を規定するバンクが、画素電極の周縁の一部または全部を覆うように形成されていることが好ましい。バンクは、ポリイミドやアクリル樹脂等の樹脂からなる構造体である。これらの樹脂は、少なくとも一部の繰返し単位にフッ素原子を有するフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂の例には、フッ素化ポリオレフィン系樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアクリル樹脂等が含まれる。フッ素樹脂の更なる具体例には、特表2002−543469号公報に記載されているフッ素含有ポリマー;フルオロエチレンとビニルエーテルとの共重合体である商品名「ルミフロン」(LUMIFLON、登録商標、旭硝子社製)等が含まれる。バンクの基板からの高さは、通常0.1μm〜2μm、好ましくは0.8μm〜1.2μmである。
【0059】
バンクの形状は順テーパー状であることが好ましい。順テーパー状とは、バンクの障壁面が斜めになっており、バンクの底面の面積がバンクの上面の面積よりも大きい形状を意味する。バンクの形状がテーパー状である場合、テーパー角度は通常20°〜80°、好ましくは30°〜50°である。
【0060】
バンク上面の濡れ性は低いことが好ましく、バンク壁面の濡れ性よりも低いことが好ましい。なお、バンクの上面とは、バンクの頂点を含む面を意味する。具体的には、バンク上面と水との接触角は、通常80°以上、好ましくは90°以上である。また、バンク上面とアニソールとの接触角は、通常30°〜70°である。一方、バンク壁面とアニソールとの接触角は、通常3°〜30°である。なお、接触角の値が高いほど、その面の濡れ性が低いことを意味する。
【0061】
(有機機能層)
画素電極上には、少なくとも一の発光層を含む有機機能層が配置される。なお、画素電極上に正孔注入層や正孔輸送層が配置される場合には、これらの層を介して画素電極上に有機機能層が配置される。また、バンクを有する場合には、バンクによって規定された領域内に有機機能層が配置される。有機機能層の厚さは、特に限定されないが、例えば50〜200nm程度であればよい。
【0062】
発光層に含まれる有機EL材料は、副画素(有機EL素子)が発する光の色(RGB)に応じて副画素ごとに適宜選択される。有機EL材料は、高分子有機EL材料と低分子有機EL材料のいずれでもよいが、塗布法により形成する観点からは高分子有機EL材料が好ましい。高分子有機EL材料を用いることで、他の部材に損傷を与えることなく発光層を容易に形成することができる。
【0063】
高分子有機EL材料の例には、ポリパラフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリアセチレンおよびその誘導体、ポリフェニレンおよびその誘導体、ポリパラフェニレンエチレンおよびその誘導体、ポリ3−ヘキシルチオフェンおよびその誘導体、ポリフルオレンおよびその誘導体などが含まれる。
【0064】
低分子有機EL材料の例には、ドーパント材料とホスト材料との組み合わせが含まれる。ドーパント材料の例には、BCzVBi(4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、クマリン、ルブレン、DCJTB([2−tert−ブチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)ビニル]−4H−ピラン−4−イリデン]マロノニトリル)等が含まれる。また、ホスト材料の例には、DPVBi(4,4’−ビス(2,2−ジフェニルエテニル)ビフェニル)、Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)等が含まれる。
【0065】
有機機能層には、上記の発光層に加えて、正孔輸送層(インターレイヤ)、電子注入層、電子輸送層等が含まれていてもよい。正孔輸送層は、有機発光層に正孔を効率よく運ぶ機能、および画素電極(または正孔注入層)への電子の侵入をブロックする機能を有する。従って、正孔輸送層は、画素電極と発光層との間に配置される。正孔輸送層の材料は、正孔輸送性の有機材料であれば、高分子材料でも低分子材料であってもよい。正孔輸送性の有機材料の例には、フルオレン部位とトリアリールアミン部位を含む共重合体や低分子量のトリアリールアミン誘導体等が含まれる。
【0066】
(対向電極)
対向電極は、有機機能層上に配置される導電性部材である。なお、この対向電極は後述する封止部の内壁面上にも配置される。対向電極は通常陰極として機能するが、陽極として機能してもよい。
【0067】
対向電極の材料は、有機ELデバイスがボトムエミッション型か、トップエミッション型かによってその材料が異なる。有機ELデバイスがトップエミッション型の場合には、対向電極が透明である必要があるので、対向電極の材料を、透過率が80%以上の導電性部材とすることが好ましい。これにより、発光効率が高く、消費電力が低く、寿命が長いトップエミッション有機ELディスプレイパネルを得ることができる。
【0068】
このような透明電極は、アルカリ土類金属を含む層と、電子輸送性の有機材料からなる層と、金属酸化物層とから構成されてもよい。アルカリ土類金属の例には、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が含まれる。電子輸送性の有機材料は、例えば電子輸送性の有機半導体材料である。金属酸化物は、特に限定されないが、例えばインジウム錫酸化物又はインジウム亜鉛酸化物である。
【0069】
また、透明陰極は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらのハロゲン化物を含む層と銀を含む層とから構成されてもよい。銀を含む層は、銀のみから構成されてもよいし、銀合金から構成されてもよい。また、銀を含む層上に透明度が高い屈折率調整層を設けてもよい。屈折率調整層を設けることで光取り出し効率を向上させることができる。
【0070】
対向電極は、それぞれの発光層上に面形成されていればよいが、通常は複数の発光層を共通して覆うように面形成されている。対向電極は通常、スパッタリング法により形成され、必ずしも発光層ごとに分離されていなくてもよい。つまり、アクティブマトリクス型のように画素電極が有機EL素子ごとに独立して制御されていれば、有機EL素子をドライブするTFT素子が独立しているので、対向電極を複数の発光層で共有することができる。
【0071】
(封止部)
封止部(ダム(DAM))は、前述の外周壁を変形させ、必要に応じてレーザー照射等によって焼成することにより形成される部分である。この封止部は、画像表示領域の外周を囲むように配置された壁状の構成要素である。なお、基板と後述する封止板とは、封止部を介して貼り合わされている。
【0072】
封止部の前駆体である外周壁は、例えばガラスフリット材料等の材料によって形成されている。このため、外周壁がガラスフリット材料で形成されている場合には、この外周壁を変形および焼成してなる封止部は、ガラスフリットの焼成物によって形成されている。
【0073】
封止部の前駆体である外周壁の内壁面上には、対向電極が形成されている。このため、この外周壁を変形させること等により形成された封止部の内壁面上にも対向電極が形成されている。
【0074】
(封止板)
封止部上には封止板が配置されている。この封止板は、封止部を介して基板と貼り合わされている。封止板としては、ガラス板や樹脂板を用いることができる。なお、有機ELでディスプレイパネルがボトムエミッション型である場合には、封止板は透明でなくてもよい。
【0075】
(平坦化層)
画像表示領域(有機EL素子)と封止板との間には、通常、平坦化層が形成される。この平坦化層は、例えば、樹脂材料が画像表示領域(有機EL素子)と封止板との間に充填されることにより形成される。
【0076】
(有機ELディスプレイパネル)
上述の構成を有する有機ELディスプレイパネルの画素電極と対向電極との間に電圧を印加すると、画素電極から正孔が、対向電極から電子が発光層に注入される。注入された正孔および電子は、発光層の内部で結合し、励起子が発生する。この励起子によって発光層が発光し、光が発せられる。以下、本発明の有機ELディスプレイパネルの実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0077】
図1および2は、本発明の有機ELディスプレイパネルの一実施形態を模式的に示す上面図および断面図である。なお、図1においては、便宜上、封止板の記載を省略している。また、図1および2に示すように、本実施形態の有機ELディスプレイパネル10は、基板100、画素電極210、正孔注入層510、赤(R)、緑(G)、および青(B)の三色の発光層600を含む有機機能層650、バンク400、画像表示領域900の周囲に形成された封止部750、対向電極220、ならびに封止板700を有する。
【0078】
基板100の材料は、例えばガラス等である。また、基板100には金属配線やトランジスタ回路が形成されていてもよい。画素電極210は、基板100上に配置された導電層である。画素電極210は、例えばAPC等の光反射性の金属によって形成されている。通常は、基板100上に複数の画素電極210がマトリクス状に配置される。
【0079】
発光層600は正孔注入層510上に配置されている。発光層600の厚さは50〜150nmであることが好ましい。バンク400は、発光層600の領域を規定するように基板100上および正孔注入層510上にピクセル状又はライン状に配置されている。封止部750は、画像表示領域900の外周を囲むように配置されている。封止部750は、例えばガラスフリットの焼成物によって形成されている。なお、封止部750の内部には空隙800が形成されていることが好ましい。この空隙800は、例えば、封止部750の前駆体である外周壁300(図3F参照)が折れ曲がるとともに押し潰される際に形成され得る。封止部750の内部に空隙が形成されていることにより、封止部750の耐衝撃性が向上する。
【0080】
対向電極220は、発光層600上および封止部の内壁面770上に配置(面形成)される光透過性の導電層である。対向電極の材料は、例えばITOである。封止部750上には封止板700が配置される。この封止板700は、画素電極210、正孔注入層510、発光層600、および対向電極220等を水分、熱、衝撃等から保護するための部材である。封止板700による封止は、封止部300の前駆体である変形させた外周壁(図示せず)と封止板700を密着させた状態で封止板700側からレーザーを外周壁に照射し、外周壁を焼成することで行なうことができる。なお、封止部750と封止板700の間には対向電極220が配置される。
【0081】
封止部750の幅Wは、通常0.5〜2mm、好ましくは1〜1.5mmである。
【0082】
(有機ELディスプレイパネルの製造方法)
次に、本実施形態の有機ELディスプレイパネルの製造方法について説明する。図3A〜3Gは、本発明の有機ELディプレイパネルの製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態の有機ELディスプレイパネルの製造方法は、(1)基板100上に複数の画素電極210を配列する第1ステップ(図3A)と、(2)発光材料を含有するインク550を画素電極210上に塗布する第2ステップ(図3C)と、(3)画像表示領域900の外周を囲む所定高さの外周壁300を基板100上に形成した後、インク550を乾燥させて発光層600を形成する第3ステップ(図3Dおよび3E)と、(4)対向電極220を形成する第4ステップ(図3F)と、(5)外周壁300上に封止板700を配置する第5ステップ(図3G)と、を有する。
【0083】
(1)第1ステップ(図3A)では、基板100上に複数の画素電極210をマトリクス状に配置する。なお、画素電極210には正孔注入層510を形成することができる。なお、図3Bに示すように、画素電極210上の正孔注入層510の周縁を覆うとともに、正孔注入層の表面の一部が露出するようにバンク400を形成することも好ましい。
【0084】
(2)第2ステップ(図3C)では、正孔注入層510上であって、バンク440によって規定された領域内に発光材料を含有するインク550を、例えばインクジェット法によって塗布する。
【0085】
(3)第3ステップ(図3Dおよび3E)では、先ず、画像表示領域900の外周を囲むように外周壁300を基板100上に形成する。外周壁300の高さHは3mm以上、好ましくは3〜5mmである(図4参照)。外周壁300の幅Wは200〜700μmとすることが好ましく、300〜500μmとすることが更に好ましい。外周壁の幅Wが狭過ぎる場合には、そのように幅の狭い外周壁を形成することが困難である。一方、外周壁300の幅が厚過ぎる場合には、有効な画像表示領域が狭くなることがある。
【0086】
また、画像表示領域900の端縁から100μm以上離隔させて基板100上に外周壁300を形成することが好ましく、0.5〜2mm離隔させて形成することが更に好ましい(図4参照)。画像表示領域900の端縁から外周壁300までの距離Lが短過ぎると、後の工程で外周壁300を変形させる際に、変形した外周壁300が画像表示領域900に流入する場合がある。一方、距離Lが長過ぎると、有効な画像表示領域が狭くなることがある。
【0087】
なお、図5に示すように、外周壁310を、その上部が基板100の外周方向に傾斜するように形成することが好ましい。外周壁310の上部を基板100の外周方向に傾斜させることで、変形させた外周壁300が画像表示領域900の側に流入することをより効果的に抑制することができる。また、図6に示すように、外周壁320を、内側に比して外側が高い階段状に形成することも好ましい。図6に示すような段差部370を有する階段状に外周壁320を形成することで、変形させた外周壁300が画像表示領域900の側に流入することをより効果的に抑制することができる。
【0088】
次いで、正孔注入層510上のインク550と外周壁300を乾燥することにより、発光層600を形成することができる。
【0089】
(4)第4ステップ(図3F)では、発光層600上に対向電極220を形成する。なお、対向電極220は外周壁300の内壁面上にも形成される。
【0090】
(5)第5ステップ(図3G)では、外周壁300を押し潰しながら外周壁300上に封止板700を配置する。次いで、押し潰れて変形した外周壁300に対し、封止板700側からレーザーを照射し、適宜圧力を負荷することにより封止部750が形成される。これにより、封止部750を介して基板100と封止板700を貼り合わせることができる。以上のステップにより有機ELディスプレイパネル10を製造することができる。
【0091】
以下、本発明を実験例に基づいて更に具体的に説明する。
【0092】
(参考例1)
図12Aおよび図12Bに示すように、ガラス基板100(旭硝子社製、370mm×470mm×0.7mm)上に、画素電極215として厚さ150nmのAPC膜をスパッタリング法により形成した。形成されたAPC膜(画素電極215)上に、正孔注入層520として厚さ30nmのWOx膜をスパッタリング法により形成した。形成されたWOx膜(正孔注入層520)上に、バンク材料としてアクリル材料(旭硝子社製、ネガ型の感光性樹脂材料)をスピンコート法により塗布して塗膜を形成した後、100℃で2分間プリベークを行なった。フォトマスクを介して、波長365nmの紫外光を、露光照度20mW/cmで10秒間照射して露光した。0.2質量%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液(商品名「NMD−3」、東京応化社製)で現像した後、純水で洗浄した。クリーンオーブンにて220℃で60分間ポストベークすることにより、WOx膜上にライン状のバンク410を形成した。なお、形成されたバンク410の開口幅は65μmであり、正孔注入層520の表面からバンク410の上端までの長さ(高さ)は1μmであった。
【0093】
形成されたバンク410によって規定されたライン状の領域内に、発光材料および溶媒としてシクロヘキシルベンゼンを含有するインクをインクジェット法により塗布した。画像表示領域の周囲に、ガラスフリットおよび溶媒としてシクロヘキシルベンゼンを含有するガラスフリット材料をディスペンサー法により塗布して高さ3mmの外周壁330を形成した。ガラス基板100を内温25℃の真空チャンバーに入れ、大気圧から10Paまで30秒で減圧する排気速度で真空チャンバー内を真空ポンプで減圧し、インク(および外周壁)を乾燥させることにより発光層610を形成した。形成された発光層610(乾燥膜)の膜厚均一性の測定結果を表1に示す。また、膜プロファイルの測定結果を図9に示す。なお、膜プロファイルおよび膜厚均一性の測定方法を以下に示す。
【0094】
[膜プロファイルおよび膜厚均一性の測定]:画像表示領域のうちの端部に位置する発光層(乾燥膜)の膜形状を、原子間力顕微鏡(商品名「AS−7B」、タカノ社製)を使用して観察し、膜プロファイルと膜厚均一性を測定した。膜厚均一性は下記式(2)により算出した。なお、膜プロファイルと膜厚均一性は、インクの塗布領域のうち、バンクから7.5μm以上内側の領域(有効画素領域)について測定した。
膜厚均一性(%)={(最大膜厚−最小膜厚)/(2×平均膜厚)}×100
・・・(2)
【0095】
(比較参考例1)
高さ1mmの外周壁を形成したこと以外は、上述の参考零例1と同様の操作により発光層を形成した。形成された発光層(乾燥膜)の膜厚均一性の測定結果を表1に示す。また、膜プロファイルの測定結果を図10に示す。
【0096】
(比較参考例2)
外周壁を形成しなかったこと以外は、上述の参考例1と同様の操作により発光層を形成した。形成された発光層(乾燥膜)の膜厚均一性の測定結果を表1に示す。また、膜プロファイルの測定結果を図11に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示す結果から、高さ3mmの外周壁を形成した参考例1では、外周壁を形成しなかった比較参考例2に比して膜厚均一性が顕著に向上していることが明らかである。なお、高さ1mmの外周壁を形成した比較参考例1の膜厚均一性は、外周壁を形成しなかった比較参考例2の膜厚均一性と同等であった。これは、流体解析により得られた蒸気濃度の傾向(図8参照)と一致しており、蒸気濃度にバラつきをなくして均一化させることが、膜プロファイルの均一化に寄与していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、輝度ムラの発生が抑制され、表示品質の高い有機ELディスプレイパネルを提供することができる。
【符号の説明】
【0100】
10 有機ELディスプレイパネル
100 基板
210,215 画素電極
220 対向電極
300,310,320,330 外周壁
350 外周壁の内周面
370 段差部
400,410 バンク
510,520 正孔注入層
550 インク
600,610 発光層
650 有機機能層
700 封止板
750 封止部
770 封止部の内壁面
800 空隙
900 画像表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配列されて画像表示領域を構成する複数の画素電極と、
塗布法で形成された発光材料からなる発光層を含む、前記画素電極上に配置された有機機能層と、
前記有機機能層上に配置され、前記複数の画素電極に対して共有する対向電極と、
前記画像表示領域の外周を囲むように前記基板上に配置された壁状の封止部と、
前記封止部上に配置された封止板と、を備え、
前記対向電極が、前記封止部の内壁面上にも配置されている有機ELディスプレイパネル。
【請求項2】
前記封止部が、ガラスフリットの焼成物により形成されている請求項1に記載の有機ELディスプレイパネル。
【請求項3】
前記封止部の内部に空隙が形成されている請求項1又は2に記載の有機ELディスプレイパネル。
【請求項4】
基板上に画像表示領域を構成する複数の画素電極を配列するステップと、
発光材料および揮発性の有機溶媒を含有するインクを前記画素電極上に塗布するステップと、
前記画像表示領域の外周を囲む高さ3mm以上の外周壁を前記基板上に形成するステップと、
前記画素電極上に塗布した前記インクを乾燥させて発光層を形成するステップと、
前記発光層上および前記外周壁の内壁面上に対向電極を形成するステップと、
前記外周壁上に封止板を配置するとともに前記外周壁を押し潰し、前記画像表示領域の外周を囲むように配置された壁状の封止部を形成するステップと、
を有する有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項5】
押し潰した前記外周壁を、レーザーにより焼成して前記封止部を形成する請求項4に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項6】
ガラスフリット材料を用いて前記外周壁を形成する請求項4又は5に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項7】
前記ガラスフリット材料には、前記インクに含有される前記有機溶媒と同一種類の有機溶媒が含有されている請求項6に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項8】
前記外周壁を、前記画像表示領域の端縁から100μm以上離隔させて前記基板上に形成する請求項4〜7のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項9】
前記外周壁は、その上部が前記基板の外周方向に傾斜している請求項4〜8のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。
【請求項10】
前記外周壁は、内側に比して外側が高い階段状である請求項4〜9のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【公開番号】特開2011−249035(P2011−249035A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118363(P2010−118363)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】