説明

有機ELパネル及び有機EL発光装置、並びに有機ELパネルの製造方法

【課題】 素子の発熱による素子特性の悪化を抑制することができる有機ELパネル及び有機EL発光装置、並びに有機ELパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の一態様における有機ELパネルは、有機EL素子9が形成された素子基板10と、素子基板10に固着され、素子基板10との間において封止空間を形成する対向基板20と、封止空間内に設けられ、有機EL素子9の熱を対向基板20に伝える熱伝導体22とを備え、この熱伝導体22は、封止空間内において有機EL素子9と対向基板20とに接触し、液体若しくは流動性を有する固体であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネル及び有機EL発光装置、並びに有機ELパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPD(Flat Panel Display)として有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイが注目されている。有機ELディスプレイは,自発光表示素子であり、液晶表示素子と比較して視野角が広く、バックライトが不要なため薄型化が可能である。又、応答速度も速く、有機物が有する発光性の多様さから、次世代の表示素子として期待されている。この有機ELディスプレイは、例えば、カーオーディオ用などに向けて,相次いで商品化されている(非特許文献1)。
【0003】
有機ELディスプレイは、画素となる有機EL素子を複数配置した有機ELパネルを備えている。この従来の有機ELパネルが図11に模式的に示されている。図11に示すように、有機ELパネル900は、有機EL素子902が形成された素子基板10、有機EL素子902を封止するための対向基板20を有する。また、図11に示すように、従来の有機ELパネル900の対向基板20には、封止された密閉空間に浸入した水分を吸収する捕水材901が設けられている。
【0004】
素子基板10に形成された有機EL素子902は、例えば、平行なストライプ状に配列された陽極と、この陽極に交差するように、かつ、平行なストライプ状に配列された陰極との交差部の間に有機EL層が挟持された構造となっている。この一つの交差部に、発光素子としての画素が形成せしめられている。有機ELパネル900は、このような画素が多数マトリックス状に配列されることにより構成されている。
【0005】
有機EL素子902は電流駆動素子であり、電流が流れることにより発光している。そのため、素子自身に電流が流れることにより、ジュール熱やその他の発熱を生じている。有機EL素子902の温度上昇は輝度寿命や素子特性に重大な影響を与える場合があり、避けるべき現象である。又、均一な発光のためには、各画素に等しい電流を供給することが必要になるが、そのために無理に流そうとすると、輝度ムラ等の現象を引き起こしてしまうことがある。
【0006】
このような問題に対し、パネル内に不活性ガスを流し、冷却する方法が提案されている(特許文献1)。この特許文献1の方法では、大掛かりな装置が必要となり、特に、小型ディスプレイには適用することができない。又、別の解決手段として、素子の外部に金属補助配線を配置しておいて、陰極と接触させることにより放熱させる技術が提案されている(特許文献2)。この特許文献2の解決手段は、きわめて製造工程が煩雑となり、コストアップの要因となる。
【特許文献1】特開2001−196165号公報
【特許文献2】特開平11−40370号公報
【非特許文献1】月刊ディスプレイ,2004年9月号,88p
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の有機ELディスプレイにおいては、有機EL素子の電極や素子自体が発熱するため、素子特性が悪化する場合があるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、素子の発熱による素子特性の悪化を抑制することができる有機ELパネル及び有機EL発光装置、並びに有機ELパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様にかかる有機ELパネルは、有機EL素子が形成された素子基板と、前記素子基板に固着され、前記素子基板との間において封止空間を形成する対向基板と、前記封止空間内に設けられ、前記有機EL素子の熱を前記対向基板に伝える熱伝導体とを備え、前記熱伝導体は、前記封止空間内において前記有機EL素子と前記対向基板とに接触し、液体若しくは流動性を有する固体である。このような構成において、熱伝導体が有機EL素子の熱を対向基板から放熱させるので、素子の発熱による素子特性の悪化を抑制することができる。
【0010】
本発明の第2の態様にかかる有機ELパネルは、前記熱伝導体が、前記封止空間に充填されているものである。これによって、熱伝導体が有機EL素子の熱をより確実に放熱させるので、素子の発熱による素子特性の悪化をより確実に抑制することができる。
【0011】
本発明の第3の態様にかかる有機ELパネルは、前記熱伝導体の熱伝導率が0.030W/(m・K)以上である。
【0012】
本発明の第4の態様にかかる有機ELパネルは、前記熱伝導体が不活性液体である。
【0013】
本発明の第4の態様にかかる有機EL発光装置は、上記のような有機ELパネルを備えたものである。このような構成において、熱伝導体が有機EL素子の熱を対向基板から放熱させるので、素子の発熱による素子特性の悪化を抑制することができる。従って、良好な有機EL発光装置を実現することができる。
【0014】
本発明の第1の態様にかかる有機ELパネルの製造方法は、素子基板上に有機EL素子を形成するステップと、前記素子基板と対向基板との間に封止空間を形成するステップと、前記封止空間に液体若しくは固体の熱伝導物質を充填するステップと、前記封止空間を封止するステップと、を備えたものである。
【0015】
本発明の第2の態様にかかる有機ELパネルの製造方法は、前記熱伝導物質の熱伝導率が0.030W/(m・K)以上であるものである。
【0016】
本発明の第3の態様にかかる有機ELパネルの製造方法は、注入口が設けられた封止空間を形成するステップと、前記封止空間に熱伝導物質を注入するステップと、を備え、前記熱伝導物質は流動性を有するものである。
【0017】
本発明の第4の態様にかかる有機ELパネルの製造方法は、前記封止空間に前記熱伝導物質を注入するステップでは、前記封止空間を減圧状態にして熱伝導物質の注入を行うものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、素子の発熱による素子特性の悪化を抑制することが出来る。より具体的には、素子の放熱効率を高めることにより、素子に供給する電流を均一にすることが出来る。これにより、発光の輝度ムラを抑制すると同時に、素子の長寿命化ができる。また、高放熱効率を簡単な構造で達成することにより、従来の製造工程を大きく変更することなく、簡便に製造することが可能になった。以上により安価に高品質の有機ELパネル及び有機EL発光装置、並びに有機ELパネルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態の説明をする。以下の説明は、本発明の実施形態についてのものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る有機ELパネルの構成を示す模式的上面図である。図2は、図1中のA−A’断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る有機ELパネル100は、陽極配線1、陰極配線3、陰極補助配線4、画素開口部5、開口絶縁膜6、陰極隔壁7、コンタクトホール8、素子基板10を備えている。また、図2に示すように、本実施形態に係る有機ELパネル100は、有機EL素子9、熱伝導体22、対向基板20を備えている。
【0021】
素子基板10は、例えば、無アルカリガラス基板、又は、アルカリガラス基板を用いることができる。陽極配線1は、図1に示すように素子基板10上に複数本備え、それぞれが平行となるように配設されている。陽極配線1の材料としては、例えばITOを用いることが好ましい。陽極配線1は、素子基板10の端部側において異方性導電膜(以下、「ACF」と略記する)を介してFPC(Flexible Printed Circuit board)やTCP(Tape Career Package)等の外部配線と接続するための金属パッドとして機能する。このように構成することにより、外部に設けられた駆動回路から陽極配線1に電流が供給されることになる。
【0022】
陰極配線3は、図1に示すように複数本備え、それぞれが平行となるよう、かつ、上記陽極配線1と直交するように配設されている。陰極配線3は、通常はAl又はAl合金を使用することもできる。陰極補助配線4は、陰極配線3の端部において陰極配線3とコンタクトホール8を介して電気的に接続され、平行となるように配置されている。この陰極補助配線4は、陰極配線3端部から素子基板10の端部に向けて延設されている。従って、陰極配線3と同じ本数の陰極補助配線4が形成されている。陰極補助配線4は、その端部側においてFPCやTCP等の外部配線と接続するための金属パッドとして機能する。また、陰極補助配線4は、多層構造又は単層構造の金属膜により形成することができる。
【0023】
開口絶縁膜6は、陽極配線1、及び陰極補助配線4上にその一部を覆うように形成されている(図1及び図2参照)。そして、陽極配線1と陰極配線3が交差する位置に、表示画素領域となる画素開口部5が設けられている。有機EL素子9は、図2に示すように開口絶縁膜6の上に形成されており、陽極配線1と陰極配線3とに挟持された構造となっている。有機EL素子9は、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層により構成された有機EL層である。
【0024】
陰極隔壁7は、図1に示すように陰極配線3と平行に配設されている。陰極隔壁7は、陰極配線3の配線同士が導通しないように、複数の陰極配線3を空間的に分離する。陰極隔壁7の断面形状は、素子基板10から離間するにつれて断面幅(図1中のB方向)が大きくなる形状(逆テーパ形状)であることが好ましい。これにより、陰極隔壁7の側壁及び立ち上がり部分が陰となり、複数の陰極配線3を空間的に分離しやすくすることができる。
【0025】
上記素子基板10は、対向基板20とシール材を介して貼り合わせられ、有機EL素子9等が設けられた空間が封止せしめられている。封止を行うのは、有機EL素子9が空気中の酸素や水分により劣化するのを避けるためである。対向基板20としては、例えば、素子基板10と同様の基板を用いることができる。
【0026】
対向基板20上であって、上記封止された空間(封止空間)内には上述した有機EL素子9や陰極配線3等に加え、熱伝導体22が充填されている。より詳細には、図2に示すように、この熱伝導体22は、封止空間に実質的に満たされている。すなわち、熱伝導体22は、実質的に封止空間いっぱいに充填され、封止空間のほぼ全体に詰め込まれている。
【0027】
ここで、本明細書において、熱伝導体22が封止空間に充填されているとは、熱伝導体22が少なくとも素子基板10と対向基板20の双方の一部に接触しながら封止空間に詰め込まれた状態を示す。また、有機EL素子9との接触とは、有機EL層との直接の接触をさすものではなく、素子基板10に形成された電極配線1,3や隔壁7等の構成物との接触を当然含むものである。従って、熱伝導体22が封止空間に充填された状態では、放熱の効果に影響を及ぼさない範囲で封止空間内に熱伝導体22が詰め込まれていない部分があってもよい(図3参照)。
【0028】
熱伝導体22は、熱伝導性物質からなり、気体、液体、固体のいずれであってもよい。しかし、一般に気体の熱伝導率に比べて液体又は固体の熱伝導率の方が大きい。よって、熱伝導性物質は液体又は固体であることが好ましい。この熱伝導性物質は、熱伝導度(25℃の温度下)が大気及び窒素の熱伝導度である0.026W/(m・K)より大きいことが求められ、0.030W/(m/K)以上であることが好ましい。また、好ましくは、熱伝導度は、その2倍程度の0.050W/(m・K)以上であり、汎用の不活性液体同等の0.090W/(m・K)がさらに好ましい。
【0029】
好適には、熱伝導性物質として、熱伝導度が0.090W/(m・K)以上である各種オイルが用いられる。この各種オイルとして、例えば、クリーム状、ペースト状、あるいはゲル状で塗布面に粘着する材料とすることができる。例えば、フッ素系オイル(熱伝導度が0.1W/(m・K))などの不活性液体、あるいは、フッ素系ゲルなどの不活性のゲル状部材とすることができる。又例えば、シリコーン系オイル(熱伝導度が0.16W/(m・K))などの不活性液体、あるいは不活性のゲル状部材とすることもできる。
【0030】
さらに、熱伝導性物質として、各種オイルに所定量の吸水性物質を混ぜた捕水材を用いる方が好ましい。この捕水材に混入された吸水性物質としては、活性アルミナ、モレキュラシーブス、酸化カルシウム及び酸化バリウム等の物理的あるいは化学的に水分を吸着するものを使用することができる。
【0031】
捕水材の一例としては、平均粒径が15μm以下のアルカリ土類金属酸化物と不活性油を主成分とするものである。アルカリ土類金属酸化物と不活性油のみから構成されることが好ましいが、捕水性能及び塗布性能、あるいは充填性能に影響を与えない範囲で添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
次に、本実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法について図1,2,4及び5を用いつつ説明する。なお、下記の製造工程は有機EL発光装置の場合における典型的な一例であり、本発明の趣旨に合致する限り他の製造方法を採用することができることは言うまでもない。図4は、本実施形態に係る有機EL発光装置の製造工程を示すフローチャートである。図5は、素子基板10と対向基板20の構成を示す断面図である。
【0033】
ステップS1として、素子基板10上に陽極配線1及び陰極補助配線4を形成する。例えば、スパッタや蒸着を用いて、ITO等の陽極配線材料を素子基板101全面に均一性よく成膜する。その後、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程により、成膜された陽極配線材料をパターニングする。これにより陽極配線1が形成される。例えば、フォトリソグラフィー工程では、レジストとしてフェノールノボラック樹脂を使用する。エッチング工程では、ウエットエッチング法を採用し、処理液として塩酸及び硝酸の混合水溶液を使用する。剥離液として、例えばモノエタノールアミン水溶液を使用する。
【0034】
陰極補助配線4は、例えば、スパッタや蒸着によって成膜したAl又はAl合金などの低抵抗な金属材料を、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程によりパターニングして形成することができる。例えば、ウエットエッチング法を採用する場合には、処理液として燐酸、酢酸、硝酸の混合水溶液よりなるエッチング液を使用する。また、下地との密着性向上や、腐食防止等の観点からAl膜の下層又は上層にTiN、CrやMo合金等をスパッタや蒸着により形成して、補助配線を多層構造体とすることができる。例えば、DCスパッタ法により、総厚が450nmのMoNb/Al/MoNbの多層構造体を成膜する。なお、陽極材料と補助配線材料とを順に成膜した後に、補助配線材料と陰極配線材料とを順番にパターニングすることも可能である。
【0035】
その後、ステップS2として、開口絶縁膜7を形成する。開口絶縁膜材料としては、例えば感光性ポリイミドを用いることができる。例えば、スピンコーティングによりポリイミドを成膜する。成膜された開口絶縁膜材料は、表示領域となる画素開口部5及びコンタクトホール8が開口せしめられるようにパターニングされる。感光性ポリイミドを用いる場合には、露光工程、現像工程の後にキュア工程を行い、図1及び図2に示すような画素開口部5及びコンタクトホール8を有する開口絶縁膜6のパターンを得る。
【0036】
続いて、ステップS3として陰極隔壁6を形成する。例えば、感光性ノボラック樹脂、感光性アクリル樹脂等をスピンコート法によって成膜した後、複数の陰極配線3が形成される位置の間隙に、図1に示すように陰極配線3と平行になるようにパターニングを行う。また、ネガタイプの感光性樹脂を用いると、露光工程において、陰極隔壁7の下層位置ほど光反応が不十分となり逆テーパ構造を容易に形成できる。なお、このステップS3の後に、絶縁膜に形成された画素開口部5により露出するITO層の表面改質を行うために、酸素プラズマ又は紫外線を照射する工程を加えてもよい。
【0037】
続いて、ステップS4として有機EL素子9を構成する有機EL層をマスク蒸着する。例えば、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を順次に蒸着する。さらに、ステップS5として、例えばAl等の陰極配線材料をマスク蒸着することによって陰極配線3を形成する。。マスク蒸着に変えて、スパッタリング、イオンプレーティングなどの他の物理的気相成長法(PVD)により形成してもよい。以上の工程により、素子基板10上には複数の有機EL素子9が形成される。
【0038】
次に、有機EL素子9を封止するための対向基板を製造する工程について説明する。まず、対向基板20上に凹部形状の熱伝導体収容部21を複数設ける。熱伝導体収容部21は、図5に示すように素子基板10上に設けられた有機EL素子9と対向する位置に離間して設ける。封止空間内の熱を伝導するための熱伝導体22を有機EL表示領域11と対向する位置に設けるためである。熱伝導体収容部21の凹部形状は、例えば、エッチングやサンドブラストにより形成する。また、熱伝導体22として、各種オイルに吸水性物質が混入された捕水ペーストが用いられている。
【0039】
続いて、ステップS6として対向基板20の熱伝導体収容部21が設けられている面側に、図5に示すように封止用シール23、飛散防止用シール24を塗布する。封止用シール23は、熱伝導体収容部21が設けられている凹部を囲む外枠部に塗布する。この封止用シール23は、有機EL表示領域11を封止する役割を担う。有機EL表示領域11は、封止用シールにより外周がすべて囲まれることになる。
【0040】
陰極補助配線4及び陽極配線1は、後述する外部の駆動回路と接続させるために、封止用シール23外まで延設されるようにする。飛散防止用シール24は、各有機ELパネル同士の間隙の中央部付近に設ける。飛散防止用シール24は、後述する各有機ELパネル100を分離するための基板の切断時に、切断端材が飛散するのを防止する役割を担う。
【0041】
その後、ステップS7として、各種オイルに吸水性物質が混入されたペースト状の熱伝導性物質25を配設する(図5参照)。具体的には、この熱伝導性物質25は、滴下封止法によって対向基板20上に滴下される。滴下量は、封止空間の大きさに応じて適宜変更して適切な量が滴下されるようにする。また、封止空間の大きさと略同じ量の熱伝導性物質25を塗布してもよい。
【0042】
上記各シール材は、ディスペンサー等を用いて塗布することができる。封止用シール23の材料としては、光カチオン重合型エポキシ樹脂などの感光性エポキシ樹脂を好適に用いることができる。飛散防止用シール24にも同じ材料を使用することができる。これにより、製造工程を簡略化することができる。以上のようにして、対向基板20を製造する。
【0043】
次に、ステップS8として素子基板10と対向基板20とを貼り合わせる。素子基板10と対向基板20とを減圧雰囲気下で重ね合せて位置合わせした後に、両基板を加圧し、各シール材にUV光を照射する。これにより、素子基板10と対向基板20とが接着せしめられる。これにより、有機EL素子9が形成された有機EL表示領域11が封止される。それとともに、素子基板10と対向基板20との間の有機EL素子9が形成された封止空間に、熱伝導性物質25が満たされ、これによって熱伝導体22が形成される。
【0044】
続いて、素子基板10と対向基板20とが貼り合わされた基板を切断分離し、有機ELパネル100ごとに分割する。その後、この有機ELパネル100に駆動回路等を実装する。封止用シール23の外側まで延設された陰極補助配線4及び陽極配線1の端部に、ACFを貼り付け、駆動回路が設けられたTCPと接続する。そして、有機ELパネル100を筐体に取り付け、有機EL発光装置が完成する。
【0045】
以上のように、本発明にかかる有機ELパネル100においては、素子基板10と対向基板20との間の封止空間に熱伝導体22が満たされている。そのため、熱伝導体22は、接触した有機EL素子9、特に陰極配線3で発生した熱を対向基板20へ伝達し、この対向基板20を介して外部へと放熱することができる。特に、熱伝導体22が素子基板10と対向基板20との間に充填された場合であっても、熱伝導体22は有機EL素子9に接触していないが、このような熱の伝達して対向基板20から放熱することができる。
【0046】
このように、熱伝導体22が熱を伝達して外部に放熱させるので、有機EL素子9の素子特性が悪化するのを抑制することができる。したがって、各画素に等しい電流を供給することができるので、素子基板10上の各有機EL素子9を均一に発光させることができ、輝度ムラ等の発生を抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態においては熱伝導体22として、吸水性物質が混入された捕水ペーストが用いられている。そのため、熱伝導体22は、素子基板10と対向基板20との間の封止空間に浸入した水分を吸水する吸水機能を有する。これによって、従来のように対向基板20に捕水材を配設することなく、封止空間に浸入した水分を吸収することができ、有機EL素子9の安定した発光特性を維持させることができる。
【0048】
又、本実施形態においては、熱伝導体22は、滴下封止法によって充填されている。これにより、従来の製造工程を大きく変えることなく、従来の品質を維持したまま、有機ELパネル100を簡便に製造することができる。特に、熱伝導体22がペースト状の場合には、その粘度を調整することが容易であり、その滴下量の調整が容易となる。これによって、ペースト状の熱伝導体22の場合には、滴下封止法によって効率よく熱伝導体22を形成することができる。
【0049】
なお、本実施形態においては、熱伝導体22に捕水ペーストが用いられているが、これに限らず、熱伝導体22が熱伝導性を有するが捕水性を有しなくてもよい。この場合には、熱伝導体22に加えて、対向基板20に捕水材が配設される。この捕水材は、従来と同様に、対向基板20にディスペンサーによって塗布等することによって形成される。
【0050】
上記の実施形態においては、ステップ13として熱伝導体22を滴下注入法によって形成したが、他の方法によっても形成することができる。その一例として、ステップS13において真空注入法を用いることができる。この真空注入法について、図6〜8を用いつつ説明する。図6は、本実施形態に係る有機EL発光装置の製造工程を示すフローチャートである。図7は注入時の断面図、図8は注入口の封止時の断面図である。この真空注入法によって、熱伝導体22を形成する場合には、対向基板20の一部に注入口26となる貫通孔が開けられている。詳細には、この注入口26は、熱伝導体収容部21の底部に形成されている(図7参照)。
【0051】
図6に示すように、素子基板10上に複数の有機EL素子9を形成し(ステップS1〜S5)、それとともに対向基板20に封止用シール23を塗布する(ステップS6)。ステップS11として、封止用シール23によって、これら素子基板10と対向基板20を貼り合せ、有機EL素子9を封止する封止空間が形成される。
【0052】
ステップS12として、素子基板10と対向基板20との封止空間に、熱伝導性物質25を注入する。具体的には、真空槽内において、熱伝導性物質25が満たされた容器27と、封止用シール23によって接着された素子基板10、対向基板20とを減圧状態に排気する。その後、図7に示すように、減圧雰囲気中で注入口26が熱伝導性物質25に浸漬するように、素子基板10、対向基板20を移動配置する。
【0053】
その後、真空槽内の圧力が大気圧に戻されると、熱伝導性物質25は、注入口26から素子基板10と対向基板20との隙間に注入されて封止空間を満たす。その後、注入口26は、封止用シール23と同様の封止材28によって封止される(図8参照)。そして、素子基板10と対向基板20とを張り合わせた基板は切断分離され、駆動回路等が実装される。
【0054】
このように、真空注入法によっても封止空間を熱伝導性物質25で満たすことができる。この真空注入法においては、熱伝導性物質25が捕水ペーストのように粘度が高いものであっても注入することができるが、熱伝導性物質25が適度な流動性(粘度)を有するのが好ましい。より好ましくは、熱伝導性物質25の粘性は液体のように低い方がよい。この場合には、熱伝導性物質25を注入することによって封止空間を容易に満たすことができる。
【0055】
なお、注入口26は、対向基板20に限らず、有機EL素子9を害しない限り素子基板10に形成することもできる。又、素子基板10、対向基板20に注入口26を形成せずに、封止用シール23の一部に隙間を開けておいてもよい。またなお、減圧雰囲気と大気圧との圧力差を利用した真空注入法について説明したが、種々の注入手段によって注入口26から熱伝導性物質25を注入してもよい。
【0056】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、本実施例においては、有機ELパネル100の表面温度について測定した。
【実施例1】
【0057】
図9に、本実施例における測定装置が模式的に示されている。図9に示すように、本実施例においては、有機ELパネル100を金属ブロック41の上に置き、電圧印加して点灯した。有機ELパネル100の表面に熱電対42を接触させることによって、通電点灯状態で有機ELパネル100の表面温度を測定した。本実施例の有機ELパネル100には熱伝導物質としてフッ素オイルを用いた。また、同様に比較例として従来型の有機ELパネル900の表面温度を測定した。比較例の封止空間内に窒素を充填した。
【0058】
図10に、この測定結果の一例を示した。図10において、横軸は電圧印加開始からの時間、縦軸はその時の測定された表面温度の初期値からの上昇分を示している。図10に示すように、本実施例における有機ELパネル100の表面温度は、時間経過に従って上昇し、電圧印加後120秒で14℃上昇して概ね飽和していることが分かる。
【0059】
一方、図10に示すように、従来の有機ELパネル900の表面温度は、実施例と比較して温度上昇が急激であり、120秒経過時点で17℃上昇し、その後もさらに上昇している。また、本実施例における有機ELパネル100と従来の有機ELパネル900との表面温度の温度差は、150秒経過時点では4℃に達し、本実施形態における有機ELパネル100の表面温度の方が4℃低い。
【0060】
このように、本発明にかかる有機ELパネル100においては、熱伝導体22によって放熱することができることが分かる。それゆえ、従来の有機ELパネル900に比べて素子特性の悪化を抑制することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態に係る有機ELパネルの一構成例の模式的上面図。
【図2】図1のA−A’切断線における部分断面図。
【図3】本実施形態に係る有機ELパネルの一構成例の部分断面図。
【図4】本実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法を示すフローチャート。
【図5】本実施形態に係る有機EL発光装置の構成を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法を示すフローチャート。
【図7】本実施形態に係る有機EL発光装置の注入時の構成を示す断面図。
【図8】本実施形態に係る有機EL発光装置の注入口の封止時の構成を示す断面図。
【図9】本実施例に係る測定装置の一構成例を示す模式的断面図。
【図10】有機ELパネルの表面温度と経過時間との関係を示す図。
【図11】従来の有機ELパネルの一構成例の模式的断面図。
【符号の説明】
【0062】
1 陽極配線
3 陰極配線
4 陰極補助配線
5 画素開口部
6 開口絶縁膜
7 陰極隔壁
8 コンタクトホール
9 有機EL素子
10 素子基板
11 表示領域
20 対向基板
21 熱伝導体収容部
22 熱伝導体
23 封止用シール
24 飛散防止用シール
25 熱伝導物質
26 注入口
27 容器
28 封止材
41 金属ブロック
42 熱電対
100 有機ELパネル
900 有機ELパネル
901 捕水材
902 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子が形成された素子基板と、
前記素子基板に固着され、前記素子基板との間において封止空間を形成する対向基板と、
前記封止空間内に設けられ、前記有機EL素子の熱を前記対向基板に伝える熱伝導体とを備え、
前記熱伝導体は、前記封止空間内において前記有機EL素子と前記対向基板とに接触し、液体若しくは流動性を有する固体である、
有機ELパネル。
【請求項2】
前記熱伝導体は、前記封止空間に充填されている、
請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項3】
前記熱伝導体の熱伝導率が0.030W/(m・K)以上である、
請求項1又は2に記載の有機ELパネル。
【請求項4】
前記熱伝導体は、不活性液体である、
請求項3に記載の有機ELパネル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機ELパネルを備えた有機EL発光装置。
【請求項6】
素子基板上に有機EL素子を形成するステップと、
前記素子基板と対向基板との間に封止空間を形成するステップと、
前記封止空間に液体若しくは固体の熱伝導物質を充填するステップと、
前記封止空間を封止するステップと、
を備えた有機ELパネルの製造方法。
【請求項7】
前記熱伝導物質の熱伝導率が0.030W/(m・K)以上である、
請求項6に記載の有機ELパネルの製造方法。
【請求項8】
注入口が設けられた封止空間を形成するステップと、
前記封止空間に熱伝導物質を注入するステップと、を備え、
前記熱伝導物質は流動性を有する、
請求項6又は7に記載の有機ELパネルの製造方法。
【請求項9】
前記封止空間に前記熱伝導物質を注入するステップでは、前記封止空間を減圧状態にして熱伝導物質の注入を行う、
請求項8に記載の有機ELパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−179218(P2006−179218A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369083(P2004−369083)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】