説明

有機ELパネル製造用転写装置、有機ELパネルの製造方法および有機ELパネル製造用担持体

【課題】発光層または電極層を含む転写層を熱的な影響を受けることなく簡単な構成で、かつ高精度にガラス基板上に転写することができる有機ELパネルの製造に用いる転写装置を提供する。
【解決手段】転写装置100は、有機ELパネルを構成する陰電極層31と有機EL層32とから構成される転写層30が一時的に形成された担持体20を保持する担持体保持部103と、同担持体20に対向した状態で有機ELパネルを構成するガラス基板10を保持する基板保持部102と、互いに対向配置された担持体20およびガラス基板10に向けてパルスレーザ光を照射するレーザ光源104とを備えている。担持体20における転写層30が形成される形成面21には、複数の微細な凹凸形状からなる溝状の周期構造22が形成されている。この周期構造22は、担持体20の形成面21上にフェムト秒レーザ光を照射することによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネルの製造に用いる転写装置、同有機ELパネルの製造方法および同有機ELパネル製造の際に転写層を一時的に保持するための担持体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自発光型の電子表示装置として有機EL(Electro Luminescence)パネルが知られている。有機ELパネルは、陽電極と陰電極との間に蛍光性化合物からなる発光層を挟んで電場を与えることにより発光させる現象(ルミネッセンス:Luminescence)を利用した表示装置である。従来、有機ELパネルの製造方法の一つとして、例えば、下記特許文献1および特許文献2に示すようなレーザ光を用いた熱転写法(LITI法)が知られている。
【0003】
熱転写法は、ドナーフィルム上に形成した発光層および陰電極層(または陽電極層)をガラス基板上に形成した陽電極層(または陰電極層)に対向配置した状態でレーザ光を照射することにより、ドナーフィルム上に形成した発光層および陰電極層(または陽電極層)を熱によりガラス基板の陽電極層(または陰電極層)上に転写するものである。
【0004】
しかしながら、このような熱転写法を用いた有機ELパネルの製造方法においては、熱を用いて発光層および陰電極層(または陽電極層)を転写させるため、発光層および陰電極層(または陽電極層)の性状が熱により変化する虞がある。また、転写の対象となる発光層および陰電極層(または陽電極層)に生じた熱の伝播により、転写の対象となっていない発光層および陰電極層が転写されてパターニング精度が低下することがある。これらのような転写精度の低下により、有機ELパネルの製造精度が低下するという問題があった。
【0005】
なお、下記特許文献3には、ドナーフィルムと発光層および陰電極層との間に断熱層を形成することにより転写の対象となっていない発光層および陰電極層への熱の伝播を抑制する技術が開示されている。しかし、ドナーフィルム上に断熱層を形成することは有機ELパネルの構成および製造工数が煩雑化するとともに製造コストの増大を招来するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−260549号公報
【特許文献2】特開2002−75636号公報
【特許文献3】特開2008−147016号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、発光層または電極層を含む転写層を熱的な影響を受けることなく簡単な構成で、かつ高精度にガラス基板上に転写することができる有機ELパネルの製造に用いる転写装置、同有機ELパネルの製造方法および同有機ELパネル製造の際に転写層を一時的に保持するための担持体を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明の特徴は、有機ELパネルを構成する発光層または電極層を含む転写層を一時的に形成するための形成面に複数の微細な凹凸形状からなる周期構造が形成された担持体を保持する担持体保持部と、担持体保持部に保持された担持体に対向した状態で有機ELパネルを構成するガラス基板を保持する基板保持部と、ガラス基板に対向配置した転写層にパルスレーザ光を照射するレーザ光源とを備え、パルスレーザ光の照射により前記転写層をガラス基板上に転写することにある。
【0009】
このように構成した請求項1に係る発明の特徴によれば、有機ELパネルの製造に用いる転写装置は、担持体における複数の微細な凹凸形状からなる周期構造上に形成された転写層に対してパルスレーザ光を照射して、同転写層を同転写層に対向配置された基板上に転写する。ここで、周期構造とは、担持体の表面に形成された微細な周期性の凹凸形状をいう。そして、この場合、本発明者によれば、パルスレーザ光が照射された周期構造上の転写層は、熱的影響を受けることなく剥離して基板上に転写される。これは、周期構造が形成された担持体に照射されたパルスレーザ光のエネルギが熱に変換されることなく転写層を剥離させるためのエネルギ、具体的には周期構造または転写層を一時的に変形させるためのエネルギに変換されたものと考えられる。この結果、転写層を熱的な影響を受けることなく簡単な構成で高精度に基板上に転写することができる。
【0010】
この場合、前記有機ELパネル製造用転写装置において、前記周期構造は、凸部間の間隔および凸部と凹部との高低差が、それぞれ数nm以上かつ数十μm以下にするとよい。
【0011】
これによれば、担持体の表面に形成された周期構造における凸部と凸部との間隔、および凸部と凹部との高低差は数nm以上かつ数十nm以下に設定される。これにより、本発明者の実験によれば、担持体の周期構造上に形成された転写層を精度良く剥離させて基板上に転写することができる。
【0012】
また、これらの場合、前記有機ELパネル製造用転写装置において、前記周期構造は、例えば、溝状、ディンプル状またはエンボス状に形成するとよい。
【0013】
これによれば、担持体の表面に形成する周期構造を、溝状、ディンプル状およびエンボス状のうちの1つを含む形状とした。これにより、本発明者の実験によれば、担持体の周期構造上に形成された転写層を精度良く剥離させて基板上に転写することができる。
【0014】
また、これらの場合、前記有機ELパネル製造用転写装置において、前記周期構造は、フェムト秒レーザ光を用いて形成するとよい。
【0015】
これによれば、担持体の表面に所謂フェムト秒レーザ光を照射することにより複数の微細な凹凸形状からなる周期構造を形成している。この場合、フェムト秒レーザ光とは、fs(フェムト秒:10−15sec)の極めて短いパルス幅のパルスレーザ光である。これにより、本発明者の実験によれば、凸部と凸部との間隔、および凸部と凹部との高低差が数nm以上かつ数十nm以下の周期構造を精度良く成形することができる。
【0016】
また、請求項5に係る本発明の他の特徴は、前記有機ELパネル製造用転写装置において、さらに、担持体保持部とレーザ光源との間に、同レーザ光源から照射されたパルスレーザ光の断面形状を規定するための光透過孔を有するアパーチャを備えたことにある。
【0017】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、担持体保持部とレーザ光源との間に配置したアパーチャによってレーザ光源から照射されたパルスレーザ光の断面形状を規定する。これにより、転写する転写層の断面形状を円形(光スポットの形状)以外の形状にすることができ、転写層の転写態様のバリエーションを拡大することができる。なお、この場合、アパーチャに換えてまたは加えて、照射されるパルスレーザ光の断面形状を変化させることができる所謂ビームシェーパ機能を有するレーザ光源を用いても転写する転写層の断面形状を円形(光スポットの形状)以外の形状にすることができ、転写層の転写態様のバリエーションを拡大することができる。
【0018】
また、本発明は、有機ELパネル製造用の転写装置として実施できるばかりでなく、有機ELパネルの製造方法、および同有機ELパネルの製造に用いる転写装置や有機ELパネルの製造方法において転写層を一時的に形成するための担持体の発明としても実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る転写装置の全体構成を模式的に示す構成概略図である。
【図2】図1に示す転写装置に保持される担持体および同担持体上に形成される転写層を模式的に示す拡大断面図である。
【図3】図1に示す転写装置が用いられる有機ELパネルの製造装置の全体構成を示すブロック図である。
【図4】(A),(B)は図1に示す転写装置にてガラス基板に転写層を転写する過程を説明するための説明図である。
【図5】本発明の変形例に係る転写装置の全体構成を模式的に示す構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(転写装置100の構成)
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る転写装置100の主要部の構成を模式的に示す構成外略図である。この転写装置100は、有機EL(Electro Luminescence)パネルを製造する工程において、有機ELパネルの表側を構成するガラス基板10上に発光層や電極層からなる転写層30を転写法により形成するための機械装置である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。また、有機ELパネルとは、陽電極と陰電極との間に電界発光する発光層を配置して構成された自発光型の電子表示装置である。
【0021】
この転写装置100は、開閉戸101aを閉じることにより気密的な内部空間を形成可能な筐体101内上部に基板保持部102を備えている。基板保持部102は、有機ELパネル(図示せず)の表側を構成するガラス基板10を保持するための保持機構であり、筐体101の上面に設けられたアクチュエータ102aに組み付けられている。アクチュエータ102aは、図示しない転写用制御装置によって作動が制御されて基板保持部102を筐体101内において図示Z方向(上下方向)に昇降変位させるとともに図示θa方向に回転変位させる。なお、図示X方向は図1における左右方向であり、図示Y方向は図示X方向に直交する方向であり図1の紙面に直交する奥行方向であり、図示Z方向は図1における上下方向である。
【0022】
基板保持部102の下方には、担持体保持部103が設けられている。担持体保持部103は、板状の担持体20を保持するための保持機構であり、筐体101の底部に固定的に設けられている。担持体20は、有機ELパネルを構成するガラス基板10上に形成される転写層30が一時的に形成される導電性および光透過性を有するガラス板材である。本実施形態においては、バナジウムを主成分とすることにより導電性を有するガラス材を厚さ約5mmの方形状に成形して構成されている。この担持体20における転写層が形成される形成面21には、図2に示すように、複数の微細な凹凸形状からなる溝状の周期構造22が形成されている。
【0023】
周期構造22は、数十〜数百nmの極めて微細な間隔および深さの凹凸形状が連続して形成されたものである。本実施形態においては、凸部と凸部との間隔(ピッチ)が約530nm、凸部と凹部との高低差(深さ)が約10nmの周期構造22が担持体20の形成面21上に形成されている。なお、図1においては、担持体20の形成面21上に形成された周期構造22をハッチングにより示している。また、図2においては、周期構造22の大きさを誇張して示している。
【0024】
この周期構造22は、公知の方法によって担持体20の形成面21上に形成される。すなわち、本実施形態においては、波長が800nm、パルス幅が120fs(フェムト秒)、繰り返し周波数が1kHzの所謂フェムト秒レーザ光を担持体20の形成面21上に照射することにより形成される。担持体20の形成面21に前記フェムト秒レーザ光が照射されると、形成面21に照射された入射光の一部(p偏光成分)と同形成面21上に生じた表面散乱光との干渉が生じる。この場合、入射光のフルエンス(照射量)がアブレーション閾値(アブレーション:表面が蒸発または侵食によって分解される現象)の近傍であると前記光の干渉部分にアブレーションが生じて極めて微細な凹凸の溝形状が自己組織的に形成される。そして、フェムト秒レーザ光の集光点をオーバラップさせながら走査することにより、担持体20の形成面21上に周期構造22が形成される。
【0025】
担持体20の形成面21上に形成される転写層30は、形成面21側から陰電極層31および有機EL層32で構成されている。これらのうち、陰電極層31は、有機EL層32に電場を生じさせるための一方の電極を構成するものであり、アルミニウムを主成分とする厚さが約200nmの層である。本実施形態においては、蒸着法により担持体20の形成面21上に形成されている。なお、この陰電極31は、アルミニウムのほか、リチウム、マグネシウムおよびカルシウムなどを含む合金またはハロゲン化物などで構成することもできる。
【0026】
一方、有機EL層32は、陰電極層31側から電子輸送層(ETL:Electron Transport Layer)32a、発光層(EML:Emitting Layer)32bおよび正孔輸送層(HTL:Hole Transport layer)32cを積層して構成された厚さ約70nmの積である。これらのうち、電子輸送層32aは、電子を透過させるとともに正孔の透過を阻止する層であり、例えば、1,3,4−オキサゾール誘導体や、1,2,4−トリアゾール誘導体(TAZ)などにより構成された厚さが約20nmの層である。
【0027】
発光層32bは、有機EL層32に電界が印加された際に正孔と電子とが再結合することにより発光する層であり、例えば、alq3アルミニウム錯体などにより構成された厚さが約30nmの層である。この発光層32bは、発光させる3つの色ごとに3種類用意される。すなわち、赤色の光を発光する発光層32bR、緑色の光を発光する発光層32bG、および青色の光の発光する発光層32bBが用意される。したがって、転写層30は、3つの発光層32b(発光層32bR、発光層32bGおよび発光層32bB)ごとに3種類用意される。
【0028】
また、正孔輸送層32cは、正孔を透過させるとともに電子の透過を阻止する層であり、例えば、芳香族アミン誘導体などにより構成された厚さが約20nmの層である。これらの電子輸送層32a、発光層32bおよび正孔輸送層32cの各層は、担持体20の形成面21上に蒸着法によって順次積層されて形成される。
【0029】
なお、有機EL層32は、少なくとも発光層32bによって構成することができるとともに、電子輸送層33および正孔輸送層35に加えて電子注入層(EIL:Electron Injection Layer)、正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)および正孔遮断層(HBL:Hole
Block Layer)を含めて構成することもできる。また、発光層32bが発光する色を1色(例えば、青色光)として同発光層32bに隣接して色変換層(青色光を赤色や緑色に変換する波長フィルタ)を配置して構成することもできる。また、図1および図2においては、陰電極層31および有機EL層32の厚さをそれぞれ誇張して示している。
【0030】
担持体保持部103の内側における筐体101の底部には、レーザ光源104が設けられている。レーザ光源104は、担持体保持部103によって保持された担持体20に向けてパルスレーザ光を照射するための光源である。本実施形態においては、YAG(Yttrium Aluminum garnet)固体レーザで構成されており、波長が532nm、パルス幅が8ns(ナノ秒)、光スポット径が20μmのパルスレーザ光を照射する。このレーザ光源104は、変位機構105によって支持されている。変位機構105は、前記転写用制御装置によって作動が制御されてレーザ光源104を筐体101内において図示X,Y,Z方向にそれぞれ変位させる。
【0031】
また、筐体101における図示右側の側壁下部には、真空ポンプ106が設けられている。真空ポンプ106は、筐体101内を真空状態にするための吸引ポンプであり、前記転写用制御装置によって作動が制御される。
【0032】
このように構成された転写装置100は、有機ELパネルを製造する製造装置内に組み込まれる。ここで、有機ELパネルを製造する製造装置の構成を図3を用いて簡単に説明しておく。有機ELパネル製造装置200は、主としてR転写ゾーン210、G転写ゾーン220、B転写ゾーン230および封止ゾーン240の4つのゾーンで構成されている。これらのうち、R転写ゾーン210、G転写ゾーン220およびB転写ゾーン230は、前記3つの発光色(R,G,B)ごとの転写層30をガラス基板10上にそれぞれ形成するための加工領域であり、各ゾーンごとに、転写装置100R,100G,100B、成膜装置211R,221G,231B、担持体ストック212R,222G,232B、洗浄装置213R,223G,233Bおよび搬送装置214R,224G,234Bをそれぞれ備えている。
【0033】
これらのうち、転写装置100R,100G,100Bは、前述した転写装置100である。また、成膜装置211R,221G,231Bは、担持体20の形成面21上に転写層30を蒸着法により形成する機械装置である。また、担持体ストック212R,222G,232Bは、転写層30が形成された担持体20を一時的に溜め置く貯蔵室である。また、洗浄装置213R,223G,233Bは、転写装置100にて転写層30が転写された後の担持体20上から残留した転写層30などを除去して担持体20を洗浄する機械装置である。搬送装置214R,224G,234Bは、ガラス基板10および担持体20を把持してそれぞれ次工程に搬送するための多関節アームロボットである。
【0034】
また、R転写ゾーン210には、投入ストック215が設けられている。投入ストック215は、図示しない別工程にて製造されるガラス基板10を有機ELパネル製造装置200内に受け入れて一時的に溜め置く貯蔵室である。これらの転写装置100R,100G,100B、成膜装置211R,221G,231B、洗浄装置213R,223G,233B、搬送装置214R,224G,234Bおよび投入ストック215は、図示しないパネル製造用制御装置によって作動が制御される。
【0035】
また、封止ゾーン240は、転写層30が転写されたガラス基板10をガラス製の封止体(図示せず)によって封止するための加工領域であり、封止体ストック241、封止体前処理装置242、封止装置243、搬送装置244および排出ストック245を備えている。これらのうち、封止ストック241は、図示しない別工程で製造される封止体を一時的に溜め置く貯蔵室である。また、封止体前処理装置242は、封止体を紫外線(UV光)で洗浄した後、接着剤を塗布するための機械装置である。また、封止装置243は、ガラス基板10上に転写された転写層30を封止体で覆って密閉するための機械装置である。また、搬送装置244は、ガラス基板10および封止体を把持して次工程に搬送するための多関節アームロボットである。
【0036】
また、排出ストック245は、封止装置243にて封止されたガラス基板10を図示しない別工程に供給するために同ガラス基板10を一時的に溜め置く貯蔵室である。これらの封止体前処理装置242、封止装置243、搬送装置244および排出ストック245は、前記パネル製造用制御装置によって作動が制御される。また、R転写ゾーン210、G転写ゾーン220、B転写ゾーン230および封止ゾーン240は、それぞれ待機室251,252,253によってそれぞれ連結されている。待機室251,252,253は、前工程が終了して次工程に投入されるガラス基板10を一時的に待機させておくための待機領域である。
【0037】
(転写装置100の作動)
次に、上記のように構成した転写装置100の作動について説明する。まず、有機ELパネル製造装置200における投入ストック215には、図示しないガラス基板製造工程にて製造されたガラス基板10が順次供給されストックされる。この場合、ガラス基板製造工程は、ガラス基板10上に陽電極層11を形成する。陽電極層11は、有機EL層32に電場を生じさせるための他方の電極を構成するものであり、ITO(インジウム・スズ酸化物)などに代表される透明導電材料を図示X方向に所定の間隔を介して図示Y方向に平行に延びて形成された厚さが約200nmの層である。本実施形態においては、蒸着法によりガラス基板10上に形成されている。なお、この陽電極層11は、ITOの他、インジウム・亜鉛酸化物やインジウム・ゲルマニウム酸化物などで構成することもできる。
【0038】
有機EL製造装置200のパネル製造用制御装置は、搬送装置214Rの作動を制御して投入ストック215に貯蔵されたガラス基板10を把持して搬送し転写装置100Rの基板保持部102に保持させる。この場合、ガラス基板10は、陽電極層11が下方に向く水平姿勢で基板保持部10に保持される。次に、パネル製造用制御装置は、搬送装置214Rの作動を制御して担持体ストック212Rにストックされている担持体20を把持して搬送し転写装置100Rの担持体保持部103に保持させる。この場合、担持体20の形成面21には、成膜装置211Rによって赤色の光を発光する発光層32bRからなる転写層30が形成されている。そして、この担持体20は、転写層30がガラス基板10の陽電極層11に対向するように上方に向く水平姿勢で担持体保持部103に保持される。
【0039】
次に、パネル製造用制御装置は、転写装置100の転写用制御装置に対して転写層30の転写加工の開始を指示する。この指示に応答して、転写用制御装置は、転写装置100Rにおける開閉戸101aを閉じて筐体101内を気密状態とするとともに、真空106を作動させることにより同筐体101内を真空状態とする。次に、転写用制御装置は、図4(A)に示すように、アクチュエータ102aの作動を制御して基板保持部102に保持されているガラス基板10を下降させてガラス基板10の陽電極層11を担持体20の転写層30(正孔輸送層32c)に近接させる。この場合、アクチュエータ102aは、ガラス基板10の陽電極層11と担持体20の転写層30とを約10μmの間隙を介した位置にガラス基板11を位置決めする。
【0040】
次に、転写用制御装置は、変位機構105の作動を制御することによりレーザ光源104を変位させてガラス基板20上における転写層30の転写開始位置に位置決めする。そして、転写用制御装置は、レーザ光源104の作動を制御して担持体20に向けてパルスレーザ光を出射させる。これにより、担持体保持部103に保持された担持体20には、同担持体20の下方から波長が532nm、パルス幅が8ns(ナノ秒)、光スポット径が20μmのパルスレーザ光が照射される。
【0041】
担持体20の下面から入射したパルスレーザ光は、担持体20の形成面21に形成された周期構造22を介して転写層30に達する。これにより、パルスレーザ光が照射された担持体20の形成面21上の転写層30(電子輸送層32a)が剥離してガラス基板10の陽電極層11に密着する。この周期構造22が形成された形成面21にパルスレーザ光を照射することにより形成面21上に形成された転写層30が剥離する現象の正確なメカニズムは不明な点もあるため詳しい説明は省略するが、周期構造22が形成された担持体20に照射されたパルスレーザ光のエネルギが熱に変換されることなく転写層30を剥離させるためのエネルギ、具体的には周期構造22または転写層30を一時的に変形させるためのエネルギに変換されたものと考えられる。
【0042】
これにより、パルスレーザ光が照射された周期構造22上の転写層30は、熱的影響を受けることなく剥離してガラス基板10上に転写される。なお、本発明者によれば、周期構造22をしない形成面21にパルスレーザ光を照射した場合に比べると、形成面21に周期構造22を形成して同周期構造22上に転写層30を形成することにより転写層30の剥離に要する時間を短くすることができるとともに剥離する転写層30の形状精度を良好にすることができることを確認した。
【0043】
転写用制御装置は、ガラス基板10上における赤色を発光する画素を形成する位置をパルスレーザ光の光スポットがトレースするように変位機構105の作動を制御してレーザ光源104を変位させる。本実施形態においては、図示Y方向に所定の間隔を介して図示X方向に平行(すなわち、陽電極層11に直交する方向)に光スポットを走査する。これにより、ガラス基板10上における赤色を発光する画素を形成する位置に赤色の光を発光する発光層32bRからなる転写層30が順次転写される。
【0044】
そして、転写用制御装置は、パルスレーザ光を走査することにより発光層32bRからなる転写層30をガラス基板10に転写し終えた場合には、レーザ光源104の作動を停止させるとともに、アクチュエータ102aの作動を制御して基板保持部102に保持されているガラス基板10を上昇させる。これにより、ガラス基板10の陽電極層11上には、図4(B)に示すように、パルスレーザ光の走査位置に対応して発光層32bRからなる転写層30が転写される。そして、転写用制御装置は、真空ポンプ105の作動を制御して筐体101内の真空状態を大気圧に戻した後、開閉戸101aを開く。なお、図4(B)においては、光スポットの走査方向が図示X方向であるため、ガラス基板10に転写した転写層30が示されるとともに、ガラス基板19に転写されなかった転写層30が担持体20に示されている。
【0045】
次に、パネル製造用制御装置は、搬送装置214Rの作動を制御して転写装置100Rの筐体101内からガラス基板10を取り出して待機室251に搬送するとともに、同筐体101内から担持体20を取り出して洗浄装置213R内に搬送する。洗浄装置213Rは、パネル製造用制御装置からの指示に従って担持体20上に形成された転写層30を除去して洗浄する。洗浄装置213Rによって洗浄された担持体20は、搬送装置214Rにより洗浄装置213R内から取り出されて成膜装置211Rに搬送される。成膜装置211Rは、パネル製造用制御装置からの指示に従って赤色の光を発光する発光層32bRからなる転写層30を担持体20の形成面21上に形成する。
【0046】
一方、待機室251内に搬送されたガラス基板10は、G転写ゾーン220にて緑色の光を発光する発光層32bGからなる転写層30が転写された後、B転写ゾーン230にて青色の光の発光する発光層32bBからなる転写層30が転写される。これら発光層32bGからなる転写層30および発光層32bBからなる転写層30の転写工程は、前記発光層32bRからなる転写層30の転写工程と同様であるので、その説明は省略する。そして、発光層32bR、発光層32bGおよび発光層32bBからなる各転写層30が転写されたガラス基板10は、封止ゾーン240にて封止された後排出ストック245にストックされて有機ELパネルを製造するための次工程(駆動ICの実装など)を待つ。
【0047】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、転写装置100は、担持体20における複数の微細な凹凸形状からなる周期構造22上に形成された転写層30に対してパルスレーザ光を照射して、同転写層30を同転写層30に対向配置されたガラス基板10上に転写する。そして、この場合、本発明者によれば、パルスレーザ光が照射された周期構造22上の転写層30は、熱的影響を受けることなく剥離してガラス基板10上に転写される。これは、周期構造22が形成された担持体20に照射されたパルスレーザ光のエネルギが熱に変換されることなく転写層30を剥離させるためのエネルギ、具体的には周期構造22または転写層30を一時的に変形させるためのエネルギに変換されたものと考えられる。この結果、転写層30を熱的な影響を受けることなく簡単な構成で高精度にガラス基板10上に転写することができる。
【0048】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、担持体20をバナジウムを主成分とする厚さ5mmの導電性ガラス材により構成した。しかし、担持体20を構成する素材は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、インバー材(Fe−Ni合金)、ガラス材、誘電体、樹脂材などで構成することもできる。また、ガラス材の表面に導電性または誘電体の膜を形成してこの膜の表面に周期構造22を形成することもできる。この場合、導電性または誘電体の膜が担持体20に相当する。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0050】
また、上記実施形態においては、担持体20を光を透過可能な透明材料で構成した。これは、転写層30を転写させるためのパルスレーザ光を担持体20の下方から照射して担持体20を介して周期構造22にパルスレーザ光を照射する所謂前方転写方式を採用するためである。したがって、パルスレーザ光を担持体20を介さずに周期構造22に照射する方式、具体的には、例えば、図5に示すように、レーザ光源104の上方に上記実施形態における担持体保持部103と同様の構成の基板保持部102’を設けるとともに、同基板保持部102’の上方に上記実施形態における基板保持部102と同様の構成の担持体保持部103’を設けた所謂後方転写方式を採用する場合には、必ずしも担持体20を光が透過可能な透明材料で構成する必要はない。
【0051】
但し、この場合、陽電極層11および陰電極層31を光を透過可能な透明な材料(例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、インジウム・亜鉛酸化物やインジウム・ゲルマニウム酸化物)で構成する必要がある。また、この場合、レーザ光源104から照射されるパルスレーザ光の光軸を担持体20の形成面21に対して傾斜させることにより、転写させる転写層30にパルスレーザ光が照射されることを防止することができる。これによれば、転写される転写層30にパルスレーザ光が照射されることによる同転写層30の損傷を防止できるとともに、レーザ光源104の配置の自由度の拡大により転写装置100の構成の自由度を拡大することができる。また、上記実施形態における担持体20を着色ガラス材で構成してもよい。これによれば、担持体20を透過して周期構造22に達するパルスレーザ光の波長を選択的にすることができるとともに、同パルスレーザ光の光強度を減じることもでき、転写層30の転写態様のバリエーションを拡大することができる。
【0052】
また、上記実施形態においては、担持体20に形成した転写層30をガラス基板10上に転写するために波長が532nm、パルス幅が8ns(ナノ秒)、光スポット径が20μmのパルスレーザ光を用いた。しかし、転写層30の転写に用いるパルスレーザ光の波長、パルス幅および光スポット径などのパルスレーザ光の諸条件は、転写する転写層30を構成する素材の種類、厚さおよび形成される層の数などに応じて適宜決定されるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。なお、レーザ光源104と担持体20との間にレーザ光源104から出射されたパルスレーザ光の断面形状を規定するための貫通孔からなる光透過孔を備えたアパーチャを配置してもよい。これによれば、転写する転写層30の断面形状を円形(光スポットの形状)以外の形状にすることができ、転写層30の転写態様のバリエーションを拡大することができる。なお、この場合、アパーチャに換えてまたは加えて、照射されるパルスレーザ光の断面形状を変化させることができる所謂ビームシェーパ機能を有するレーザ光源を用いても転写する転写層の断面形状を円形(光スポットの形状)以外の形状にすることができ、転写層の転写態様のバリエーションを拡大することができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、ガラス基板10に形成した陽電極層11と、同陽電極層11に直交する陰電極層31とで有機EL層32を挟んだ所謂パッシブマトリクス型の有機ELパネルの製造について説明した。しかし、本発明は、有機ELパネルの画素ごとにTFT(Tin Film Transister)が設けられた所謂アクティブマトリクス型の有機ELパネルの製造に適用することもできる。
【0054】
また、上記実施形態においては、担持体20の形成面21に複数の微細な凹凸形状からなる溝状の周期構造22を形成した。しかし、周期構造22の形状およびその大きさは上記実施形態に限定されるものではない。本発明者によれば、凸部の間隔(ピッチ)および凸部と凹部との高低差(深さ)は数nm以上かつ数十μmが好適である。なお、周期構造22の大きさを数十μで形成する場合には、必ずしもフェムト秒レーザ光を用いる必要はなくフェムト秒より長いパルス幅のパルスレーザ光(例えば、ピコ秒レーザ光)を用いることができる。本発明者による実験によれば、概ね1fs(フェムト秒)〜10ps(ピコ秒)のパルス幅のレーザ光を用いることが好適である。また、周期構造22の形状は、溝形状の他、複数の凸部が球面状、台形状または錐状に突出したエンボス状や、複数の凹部が球面状、台形状または錐状に陥没したディンプル状に形成することもできる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0055】
また、上記実施形態においては、担持体20上に形成した転写層30をガラス基板10上に転写する際、ガラス基板10と担持体20との間隙を約10μmに設定した。しかし、本発明者によれば、担持体20上に形成した転写層30をガラス基板10上に転写する際におけるガラス基板10と担持体20との間隙は0〜0.2mmの範囲で設定可能である。すなわち、ガラス基板10と担持体20とを密着させた状態で転写層30の転写を行うことができるとともに、ガラス基板10と担持体20とを最大で約0.2mmの間隙を介して転写層30の転写を行うこともできる。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0056】
また、上記実施形態においては、ガラス基板10に転写する転写層30を陰電極層31と有機EL層32とで構成した。しかし、転写層30は、ガラス基板10に転写する層で構成されていればよく、陰電極層31または有機EL層32のみで構成してもよい。また、本実施形態においては、ガラス基板10に予め形成した陽電極層11を陽電極層11のみでまたは陰電極層31および有機EL層32とともに転写層30として転写の対象としてもよい。これによれば、陽電極層11は転写層30の形成時に形成されるためガラス基板10上に陽電極層11を形成する工程が不要となり、有機ELパネルの製造工程を効率化することができる。この場合、陽電極層11を含む転写層30を一括してガラス基板10に転写することになる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0057】
10…ガラス基板、11…陽電極層、20…担持体、21…形成面、22…周期構造、30…転写層、31…陰電極層、32…有機EL層、32a…電子輸送層、32b…発光層、32c…正孔輸送層、100,100R,100G,100B…転写装置、101…筐体、101a…開閉戸、102,102’…基板保持部、102a…アクチュエータ、103,103’…担持体保持部、104…レーザ光源、105…変位機構、106…真空ポンプ、200…有機ELパネル製造装置、210…R転写ゾーン、220…G転写ゾーン、230…B転写ゾーン、240…封止ゾーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ELパネルを構成する発光層または電極層を含む転写層を一時的に形成するための形成面に複数の微細な凹凸形状からなる周期構造が形成された担持体を保持する担持体保持部と、
前記担持体保持部に保持された前記担持体に対向した状態で前記有機ELパネルを構成するガラス基板を保持する基板保持部と、
前記ガラス基板に対向配置した前記転写層にパルスレーザ光を照射するレーザ光源とを備え、
前記パルスレーザ光の照射により前記転写層を前記ガラス基板上に転写する有機ELパネル製造用転写装置。
【請求項2】
請求項1に記載した有機ELパネル製造用転写装置において、
前記周期構造は、凸部間の間隔および凸部と凹部との高低差が、それぞれ数nm以上かつ数十μm以下であることを特徴とする有機ELパネル製造用転写装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した有機ELパネル製造用転写装置において、
前記周期構造は、溝状、ディンプル状またはエンボス状に形成されることを特徴とする有機ELパネル製造用転写装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した有機ELパネル製造用転写装置において、
前記周期構造は、フェムト秒レーザ光を用いて形成されることを特徴とする有機ELパネル製造用転写装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した有機ELパネル製造用転写装置において、さらに、
前記担持体保持部と前記レーザ光源との間に、同レーザ光源から照射されたパルスレーザ光の断面形状を規定するための光透過孔を有するアパーチャを備えることを特徴とする有機ELパネル製造用転写装置。
【請求項6】
有機ELパネルを構成する発光層または電極層を含む転写層を一時的に形成するための形成面に複数の微細な凹凸形状からなる周期構造が形成された担持体を保持する担持体保持工程と、
前記保持された前記担持体に対向した状態で前記有機ELパネルを構成するガラス基板を保持する基板保持工程と、
前記ガラス基板に対向配置した前記転写層にパルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程とを含み、
前記パルスレーザ光の照射により前記転写層を前記ガラス基板上に転写する有機ELパネルの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載した有機ELパネルの製造方法において、
前記周期構造は、凸部間の間隔および凸部と凹部との高低差が、それぞれ数nm以上かつ数十μm以下であることを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載した有機ELパネルの製造方法において、
前記周期構造は、溝状、ディンプル状またはエンボス状に形成されることを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載した有機ELパネルの製造方法において、
前記周期構造は、フェムト秒レーザ光を用いて形成されることを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載した有機ELパネルの製造方法において、
前記レーザ光照射工程は、前記パルスレーザ光の断面形状を規定する光透過孔を有するアパーチャを介して前記転写層に前記パルスレーザ光を照射することを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項11】
有機ELパネルを構成する発光層または電極層を含む転写層を前記有機パネルを構成する基板上にパルスレーザ光を用いて転写する際に、前記転写層を一時的に形成するための有機ELパネル製造用担持体であって、
前記転写層が形成される形成面に複数の微細な凹凸形状からなる周期構造を備える有機ELパネル製造用担持体。
【請求項12】
請求項11に記載した有機ELパネル製造用担持体において、
前記周期構造は、凸部間の間隔および凸部と凹部との高低差が、それぞれ数nm以上かつ数十μm以下であることを特徴とする有機ELパネル製造用担持体。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載した有機ELパネル製造用担持体において、
前記周期構造は、溝状、ディンプル状またはエンボス状に形成されることを特徴とする有機ELパネル製造用担持体。
【請求項14】
請求項11ないし請求項13のうちのいずれか1つに記載した有機ELパネル製造用担持体において、
前記周期構造は、フェムト秒レーザ光を用いて形成されることを特徴とする有機ELパネル製造用担持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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