説明

有機EL発光素子

【課題】正面取り出し光の低減を抑制しつつ、斜め方向への光の取り出しの効率を増大して、高効率で光を取り出すことができる有機EL発光素子を提供する。
【解決手段】透光性の基板1と有機発光層2の間に透光性の電極3を備えると共に基板1と透光性の電極3の間に光の指向性を変更する光取出し層4を備え、有機発光層2で発光した光を光取出し層4及び透光性の電極3から透光性の基板1を通して取り出すようにした有機EL発光素子に関する。光取出し層4は光散乱層5を備えて形成され、光散乱層5は、光散乱粒子を含有するバインダー樹脂により構成され、且つ、正面から入射して出射される光の強度を計測したときに、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶バックライト、照明器具、各種ディスプレイ、表示装置などに用いられる有機EL発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面発光体の代表的なものとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL発光素子)がある。この有機EL発光素子は、図1(a)に示すように、透光性の基板1の上に透光性の電極3を設け、この透光性電極3の上に有機EL材料からなる有機発光層2を設けると共に、有機発光層2の上に光反射性の対向電極10を設けることによって形成されている。そして透光性電極3と対向電極10との間に電圧を印加することによって有機発光層2で発光した光は、透光性電極3及び透光性基板1を透過して取り出される。
【0003】
このように有機発光層2で発光した光を透光性電極3と透光性基板1を通して外部に取り出すにあたって、光が透光性電極3と透光性基板1との界面で全反射すると、光の取り出し効率が低下する。このために、図1(a)のように透光性電極3と透光性基板1との間に光散乱層5を形成し、光散乱層5で光を散乱させることによって、透光性電極3と透光性基板1との界面で全反射が生じることを低減して、光の取り出し効率を高めるようにしている。
【0004】
この光散乱層5は、透光性基板1の透光性電極3の側の表面に微細な凹凸を設けたり、粒子を含有するコーティング樹脂層を透光性基板1の透光性電極3の側の表面に設けたりして形成されるが、いずれにしても光散乱層5の表面が凹凸になり、薄い膜厚の透光性電極3を均一な厚みで形成することができない。このため、図1(a)のように、光散乱層5の表面に緩和層11を形成して凹凸をならして平滑にし、緩和層11の平滑な表面に薄い膜厚の透光性電極3を均一な厚みで形成するようにしている(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開2006−286616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように透光性基板1と透光性電極3の間に光散乱層5と緩和層11からなる光取出し層4を形成し、有機発光層2で発光した光を光取出し層4の光散乱層5で散乱させて光の指向性を変更し、光が透光性電極3と透光性基板1との界面で全反射することを抑制して、光の取り出し効率を高めるようにしているものである。
【0006】
しかし、このように光取出し層4の光散乱層5で光を散乱させると、斜め方向への光の取り出しは向上するが、正面への光の取り出しは低下することになり、光の取り出し効率を十分に高めることができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、正面取り出し光の低減を抑制しつつ、斜め方向への光の取り出しの効率を増大して、高効率で光を取り出すことができる有機EL発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る有機EL発光素子は、透光性の基板1と有機発光層2の間に透光性の電極3を備えると共に基板1と透光性の電極3の間に光の指向性を変更する光取出し層4を備え、有機発光層2で発光した光を光取出し層4及び透光性の電極3から透光性の基板1を通して取り出すようにした有機EL発光素子において、光取出し層4は光散乱層5を備えて形成され、光散乱層5は、光散乱粒子を含有するバインダー樹脂により構成され、且つ、正面から入射して出射される光の強度を計測したときに、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、有機発光層2で発光した光を光取出し層4の光散乱層5に入射させ、光散乱粒子で散乱させて光散乱層5から出射させた後に基板1から取り出すにあたって、光散乱層5は正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であるため、正面への取り出し光の低減を抑制しつつ、斜め方向への光の取り出しの効率を向上することができ、高効率で光を取り出すことができるものである。
【0010】
また本発明は、上記の光散乱粒子は粒径が0.3〜10μmであり、且つ、光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差が0.001〜0.1であることを特徴とするものである。
【0011】
光散乱粒子の粒径や、光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差をこの範囲に調整することによって、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°になるように光散乱層5を形成することができ、高効率で光を取り出すことができるものである。
【0012】
また本発明は、上記の光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合が90%以上であり、且つ、光散乱層5の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数が1〜10であることを特徴とするものである。
【0013】
光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合や平均粒子数をこの範囲に調整することによって、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°になるように光散乱層5を形成することができ、高効率で光を取り出すことができるものである。
【0014】
また本発明は、光散乱層5と透光性の電極3との間に、光散乱層5の表面の凹凸を平滑化する緩衝層11を備え、上記光取出し層4を光散乱層5と緩衝層11とから形成して成ることを特徴とするものである。
【0015】
この発明によれば、光散乱層5の凹凸を緩和層11で埋めてならし、緩和層11の平滑な表面に均一な膜厚で電極3を形成することができ、素子の信頼性を高めることができるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機発光層2で発光した光を光取出し層4の光散乱層5に入射させ、光散乱粒子で散乱させて光散乱層5から出射させた後に基板1から取り出すにあたって、光散乱層5は正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であるため、正面への取り出し光の低減を抑制しつつ、斜め方向への光の取り出しの効率を向上することができ、高効率で光を取り出すことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
本発明に係る有機EL発光素子の層構成の一例を既述の図1(a)に示す。透光性の基板1の片側表面に光散乱層5と緩和層11がこの順に積層してあり、光散乱層5と緩和層11とで光の指向性を変更して取り出す光取出し層4が形成してある。緩和層11の光散乱層5と反対側の表面には透光性の電極3が形成してあり、この電極3の緩和層11と反対側の表面に有機発光層2が積層してある。この有機発光層2の電極3側には必要に応じて正孔注入層や正孔輸送層が積層され、また有機発光層2の電極3と反対側には必要に応じて電子輸送層や電子注入層が積層される。そして有機発光層2の透光性の電極3と反対側に対向電極となる電極10を積層して設けることによって、有機EL発光素子を形成することができる。
【0019】
上記の透光性の基板1としては、光を透過させるものであれば特に制限されることなく使用することができるものであり、例えばソーダガラスや無アルカリガラス等のリジッドな透明ガラス板、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等のフレキシブルな透明プラスチック板など、任意のものを用いることができる。
【0020】
この基板1の表面に設ける光散乱層5は、光散乱粒子とバインダー樹脂よりなるコーティング材料を塗布して製膜することによって形成することができる。
【0021】
この光散乱粒子としては透明粒子が用いられるものであり、例えばTiO、SiO、ZrO、Al、Ta、ZnO、Sb、ZrSiO、ゼオライト又はそれらの多孔性物質やそれらを主成分とした無機粒子、あるいはポリイミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フッ化物樹脂などの有機粒子を挙げることができる。
【0022】
またバインダー樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ジアクリルフタレート樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、その他の熱可塑性樹脂や、これらの樹脂を構成する単量体の2種以上の共重合体が挙げられる。また、シリケート系のアルコキシドを反応させたシリコーン樹脂や、ポリシロキサンからなるシリカ多孔質体を用いることもできる。このポリシロキサンは、テトラエトキシシランなどのアルコキシシラン又はその部分加水分解物を縮重合して得られるものである。
【0023】
また、屈折率の異なる2種類の光散乱粒子を用いて光散乱層5を形成することもできる。すなわち、バインダー樹脂の屈折率をNb、2種類の光散乱粒子のうち一方の屈折率をNf、他方の屈折率をNfとすると、Nf>Nb>Nfの関係を満たすように、バインダー樹脂及び2種類の光散乱粒子を選択して使用するものである。屈折率がこのような関係を有するバインダー樹脂及び2種類の光散乱粒子からなる光散乱層5は、これらの屈折率の差によって光の散乱効果が増幅されるものであり、この光散乱層5を透光性の基板1の表面に形成することによって、光散乱層5と基板1との界面での臨界角に乱れが生じ、基板1への光の伝送がより多くなり、光の取り出し効率が高くなるものである。
【0024】
バインダー樹脂の屈折率Nbは一般に1.45〜1.60の範囲であり、光散乱粒子の屈折率Nf,Nfは一般に1.2〜2.5の範囲であるが、2種類の光散乱粒子のうち、一方の光散乱粒子は屈折率Nfが1.4以下であることが望ましい。この屈折率Nfの下限は特に限定されないが、一般的に1.2程度である。このように一方の微粒子の屈折率Nfが1.4以下であることによって、光散乱層5の屈折率が大幅に低下し、光散乱性が高く、かつ屈折率の低い光散乱層5を形成することができるものである。またこの場合、2種類の光散乱粒子の屈折率Nf,Nfの差が0.5以上であることが望ましい。2種類の光散乱粒子に0.5以上の屈折率差があることによって、光散乱層5の光散乱強度が増し、結果的に光の取り出し効率がより向上するものである。2種類の光散乱粒子の屈折率差の上限は特に限定されないが、一般的に1.3程度以下であることが望ましい。この2種類の光散乱粒子の比率は特に限定されるものではないが、小さい屈折率Nfのものと大きい屈折率Nfのものを1:9〜9:1の質量比率で配合するのが好ましい。
【0025】
そして光散乱粒子をバインダー樹脂に配合して得られるコーティング材料を基板1の表面に、スピンコート、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、グラビアコートなどの方法で塗布してコーティングすることによって、光散乱層5を形成することができるものである。
【0026】
光散乱層5の膜厚は特に制限されるものではないが、0.1〜20μm程度の範囲が好ましい。また光散乱層5の屈折率は多くの場合、1.30〜1.70の範囲であるが、透光性の基板1の屈折率と同じかそれよりも小さくなるように設定するのが好ましい。このように光散乱層5の屈折率が基板1の屈折率と同等以下であると、光散乱層5から基板1に入射される光が全反射されることを低減することができ、光を外部に取り出す効率がより大きくなるものである。さらに光散乱層5は、ヘイズ値((拡散透過率/全透過率)×100)が2〜50の範囲に設定されることが好ましい。光散乱層5のヘイズ値をこの範囲に設定することによって、光取出し効率の向上を図ることが可能になるものである。ヘイズ値が高い膜の場合、光取出し効率が向上しても、白色化してしまい外観を損ねる場合がある。
【0027】
上記のように形成される光散乱層5の表面には、光散乱層5の表面に露出する光散乱粒子で凹凸が生じる。このため、光散乱層5の表面に直接、透光性の電極3を形成すると、電極3は膜厚が薄いので凹凸に追随した形状で形成されたり、膜厚が不均一になったりし、電気特性に問題が生じたりショートが発生したりするおそれがある。そこで、光散乱層5の基材1と反対側の表面に緩和層11を形成し、光散乱層5の凹凸をこの緩和層11で埋めてならすことによって、緩和層11の平滑な表面に均一な膜厚で電極3を形成することができるようにしてある。
【0028】
この緩和層11は、樹脂コーティング層で形成することができる。コーティング樹脂の材料としては、光透過性を有しているものであればよく、特に限定されることなく任意のものを用いることができるが、例えばポリエステル、ポリエーテル、ポリエ−テルケトン、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、エポキシ、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリカーボネートなどを挙げることができる。なかでもポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。そしてこのコーティング樹脂を光散乱層5の表面にコーティングした後、加熱して硬化させることによって、緩和層11を形成することができる。緩和層11の膜厚は、特に限定されないが、1〜20μm程度の範囲が好ましい。
【0029】
この緩和層11を形成する樹脂の屈折率は、透光性の電極3と緩和層11との界面における全反射を低減してより多くの光を光散乱層5へ導くために、電極3の屈折率よりも高いか、電極3の屈折率より低い場合でもその差が小さいことが望ましい。さらに緩和層11を形成する樹脂の屈折率は、光散乱層5の屈折率よりも低いか、光散乱層5の屈折率より高い場合でもその差が小さいことが望ましい。理想的には、緩和層11の層内の屈折率が電極3の側から光散乱層5の側へと徐々に高くなるか、低くなるように傾斜し、電極3との界面では緩和層11の屈折率が電極3の屈折率とほぼ同じになり、光散乱層5との界面では緩和層11の屈折率が光散乱層5の屈折率とほぼ同じになるようにするのが好ましい。この場合には、緩和層11と電極3や光散乱層5との間に屈折率が異なる光学的な界面がなくなり、界面における全反射ロスをなくすことができるものである。
【0030】
上記のように光散乱層5の表面に緩和層11を設けた後、緩和層11の光散乱層5と反対側の表面に透光性の電極3を形成する。この透光性の電極3の材料としては、本発明の効果の妨げにならない限り任意のものを用いることができ、例えば、インジウム−錫酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、錫酸化物、Au等の金属の極薄膜、導電性高分子、導電性の有機材料、ドーパント(ドナーまたはアクセプタ)含有有機層、導電体と導電性有機材料(高分子含む)の混合物、又はこれらの積層体等を挙げることができる。これら材料をスパッタ法やイオンプレーティング法などの気相成長法を用いて製膜することによって、電極3を形成することができる。この電極3の膜厚は特に限定されるものではないが、50〜300nm程度が好ましい。
【0031】
次に、上記のように透光性の電極3を緩和層11の表面に設けた後、電極3の緩和層11と反対側の表面に有機発光層2を形成する。有機発光層2を形成する有機EL材料としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、ピラン、キナクリドン、ルブレン、及びこれらの誘導体、あるいは、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、及びこれらの発光性化合物からなる基を分子の一部分に有する化合物あるいは高分子等が挙げられる。また上記化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、いわゆる燐光発光材料、例えばIr錯体、Os錯体、Pt錯体、ユーロピウム錯体等々の発光材料、又はそれらを分子内に有する化合物若しくは高分子も好適に用いることができる。これらの材料は、必要に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0032】
そして有機発光層2の透光性の電極3と反対側に光反射性の対向電極10を設けることによって、図1(a)の層構成の有機EL発光素子を形成することができるものである。この電極10の材料としては、Alなどを用いることができるが、Alと他の電極材料を組み合わせて積層構造などとして構成するものであっても良い。このような電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金などが挙げられ、具体的には、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウムなどとAlとの積層体、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物などを例として挙げることができる。
【0033】
上記のように形成される有機EL発光素子にあって、透光性の電極3と対向電極10との間に電圧を印加することによって有機発光層2で発光した光は、透光性の電極3から、緩和層11と光散乱層5よりなる光取出し層4を透過し、さらに透光性の基板1を透過して取り出される。有機発光層2で発光した光がこのように光取出し層4の光散乱層5を通過する際に、光は散乱されて光の指向性が変更され、光取出し層4と基板1との界面で光が全反射されることを抑制することができるものである。
【0034】
ここで、このように基板1との界面での全反射を抑制するために有機発光層2で発光した光を光取出し層4の光散乱層5で散乱させると、斜め方向への光の取り出しは向上するが、正面への光の取り出しが低下することになり、光の取り出し効率を十分に高めることができない。そこで本発明では、光散乱粒子を含有して形成される光散乱層5として、正面から入射して出射される光の強度を計測したときに、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であるものを用いるようにしている。
【0035】
すなわち図1(b)に示すように、透光性の基板1の表面に光散乱層5を形成し、光散乱層5の基板1と反対側の面に光を正面から入射角0°で入射させ、この光が光散乱層5を通過して出射し、基板1を通して取り出される光の強度を、光散乱層5から出射角0°で正面に出射される光と、光散乱層5から出射角θで斜めに出射される光について計測し、正面に出射される光(出射角0°)の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが3〜45°の範囲にある光散乱層5を用いるものである。正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが3°未満のものであると、光散乱層5を直進して正面方向へ取り出される光の量が多くなって斜め方向への取り出し不十分になり、また正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが45°を超えるものであると、正面への光の取り出しが不十分になり、いずれも光の取り出し効率を十分に高めることができないが、正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが3〜45°の光散乱層5を用いることによって、正面への取り出し光の低減を抑制しつつ、斜め方向への光の取り出しの効率を増大して、高効率で光を取り出すことができるものである。この出射角θは、3〜30°であることがより好ましい。
【0036】
光散乱粒子を含有するバインダー樹脂により形成される光散乱層5を、光の出射強度について上記のような特性を有するものとして作製するために、光散乱粒子は粒径(平均粒子径)が0.3〜10μmであり、且つ、光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差が0.001〜0.1であることが望ましい。光散乱粒子の粒径が0.3μm未満であると、又は光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差が0.001未満であると、光散乱層5での光の散乱量が少なくなり、正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが3°以上の光散乱層5を形成することが困難になって、斜め方向について十分な取り出し効率を望むことが難しくなる。逆に光散乱粒子の粒径が10μmを超えると、又は光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差が0.3を超えると、光散乱層5での光の散乱量が多くなり、正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが45°以下の光散乱層5を形成することが困難になって、正面方向について十分な取り出し効率を望むことが難しくなる。光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率はどちらが高くとも低くともよく、両者の間に上記のような屈折率差があればよい。さらに光散乱粒子の粒径が10μmを超える場合、光散乱粒子が有機EL発光素子を構成する層を突き抜けて素子短絡を引き起こす危険性が高まり、デバイスの信頼性が損なわれるおそれがある。
【0037】
また、光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合が90%以上であり、且つ、光散乱層5の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数が1〜10であることも望ましい。光散乱層5の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数は、光散乱層5の面内の5箇所において、光散乱層5の厚み方向一直線上に存在する光散乱粒子の個数を数え、その平均値として求められるものである。尚、バインダー樹脂の比率が少ない場合には、光散乱層5の面内の3箇所以上において、平均膜厚を光散乱粒子の平均粒子径で割った値を、厚み方向の平均粒子数としてもよい。
【0038】
光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合が90%未満であると、又は光散乱層5の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数が1未満であると、光散乱層5での光の散乱量が少なくなり、正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが3°以上の光散乱層5を形成することが困難になって、斜め方向について十分な取り出し効率を望むことが難しくなる。逆に光散乱層5の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数が10を超えると、光散乱層5での光の散乱量が多くなり、正面に出射される光の強度に対して、斜めに出射される光の強度が1/100になるときの出射角θが45°以下の光散乱層5を形成することが困難になって、正面方向について十分な取り出し効率を望むことが難しくなる。光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合の上限は特に設定されないが、光散乱粒子の体積割合が大きくなるに従ってバインダー樹脂の割合が小さくなり、光散乱層5の膜強度等に問題が生じるので、光散乱層5内の光散乱粒子の体積割合は98%程度が上限である。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機として東ソー(株)製「HLC−8120」を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値として測定した。
【0040】
(実施例1)
テトラエトキシシラン86.8質量部にイソプロピルアルコール803.5質量部を加え、さらにγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン34.7質量部及び0.1N−硝酸75質量部を加え、ディスパーを用いてよく混合することによって溶液を得た。得られた溶液を40℃恒温槽中で2時間攪拌し、重量平均分子量が1050のシリコーンレジン5質量%溶液を得た。次にこのシリコーンレジン溶液に、メチルシリコーン粒子(GE東芝シリコーン社製「トスパール120」:平均粒子径2μm)を、メチルシリコーン粒子/シリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分質量基準で80/20となるように添加して、ホモジナイザーで分散させることによって、メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液をコーティング材料として得た。尚、上記の「縮合化合物換算」とは、テトラアルコキシシランの場合は、存在するSiがSiOであるとしての質量である。
【0041】
次に、透光性の基板1として無アルカリガラス板(コーニング社製「No.1737」)を用い、上記のコーティング材料を基板1の表面にスピンコーターによって1000rpmの条件で塗布・乾燥し、この塗布・乾燥を6回繰り返した後に、200℃で30分間焼成することによって、厚み約5μmの光散乱層5を形成した。このようにして得た、光散乱層5付きの基板1の光学物性をヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH−2000」)で測定したところ、ヘイズ値は95.4、全光線透過率は73.4%であった。また光散乱層5を構成するシリコーンレジンの屈折率は1.46(ガラス基板上に2〜3μm厚の膜を形成して、プリズムカプラ(メトリコン社製)で測定)、メチルシリコーン粒子の屈折率は1.44〜1.45であり、両者の屈折率差は0.02以下である。また光散乱層5内のメチルシリコーン粒子の体積割合は60%、光散乱層5の厚み方向でのメチルシリコーン粒子の平均粒子数は1.8個(=3.6μm/2μm;平均膜厚3.6μmは日本ビーコ社製接触式表面形状測定器「DekTak3」により計測、メチルシリコーン粒子の平均粒子径2μm)である。
【0042】
また、このように透明ガラスの基板1の表面に形成した光散乱層5について、正面入射光に対する出射角度と光強度の関係を、輝度配光特性測定装置(浜松ホトニクス社製「C9920−11」)を用いて測定した。結果を、正面出射光(出射角度0°)の強度を1としたときの相対強度で図2(a)に示す。また図2(b)に図2(a)の一部を拡大したグラフを示す。図2のグラフにみられるように、正面出射光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度は5°であった。
【0043】
次に上記のように形成した光散乱層5の表面に、イミド系樹脂コーティング材(OPTMATE社製「HRI1783」、屈折率=1.78、濃度18質量%)をスピンコーターによって2000rpmの条件で塗布して乾燥し、200℃で30分間加熱して硬化させることによって、厚み約4μmの緩和層11を形成した。
【0044】
次に、ITOターゲット(東トー社製)を用いて、上記のように形成した緩和層11の表面にスパッタすることによって、緩和層11の上に120nmの膜厚でITO膜を形成した。次にこのようにITO膜を形成した基板1を、Ar雰囲気下、200℃で1時間、加熱処理することによって、ITO膜をアニールしてシート抵抗18Ω/□の透明電極として電極3を形成した。
【0045】
次にこの透明電極3を形成した基板1をアセトン、純水、イソプロピルアルコールで15分間超音波洗浄した後、乾燥し、さらにUV−O処理を15分間行なった。この後に、この基板1を真空蒸着装置にセットし、ホール輸送層として、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)(eRay社製)を電極3の上に40nmの膜厚で形成し、さらにこの上に電子輸送層兼有機発光層2として、アルミニウム−トリス(8−ヒドロキシキノリン)(Alq)(eRay社製)を60nmの膜厚で形成し、さらにその上に電子注入層として、LiF(高純度化学製)を1nmの膜厚で形成した。そして最後に、電子注入層の上にAl(高純度化学社製)を80nmの膜厚で真空蒸着し、陰極として対向電極10を形成した。
【0046】
この後、上記の各層を蒸着して形成した基板1を露点−80℃以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに大気に暴露することなく搬送した。一方、硝子製の封止キャップに吸水剤(ダイニック社製)を貼り付けると共に封止キャップの外周部に紫外線硬化樹脂性のシール剤を塗布したものを予め用意した。そしてグローブボックス内で各層を囲むように封止キャップを基板1にシール剤で張り合わせ、紫外線照射してシール剤を硬化させることによって、各層を封止キャップで封止し、図1(a)のような層構成の有機EL発光素子を得た。
【0047】
(比較例1)
透光性基板1の表面に直接、ITO膜をスパッタし、200℃で1時間加熱処理をしてアニールした電極3を形成した。そしてこの電極3の上に直接、実施例1と同様に有機発光層2、対向電極10を形成すると共に封止キャップで封止することによって、有機EL発光素子からなる面発光体を得た。
【0048】
(比較例2)
実施例1のコーティング材料を、平均粒子径2μmのメチルシリコーン粒子の代わりに、平均粒子径0.2μmのメチルシリコーン粒子を用いて調製した。その他は、実施例1と同様にして有機EL発光素子を得た。
【0049】
この比較例2で形成される光散乱層5について、出射光の強度を実施例1と同様にして測定したところ、正面出射光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度は2°であった。
【0050】
(比較例3)
実施例1で調製したシリコーンレジン溶液に、中空シリカ微粒子(屈折率1.25、粒子径60nm、外殻厚み10nm)のIPA分散ゾル(固形分20質量%、分散媒イソプロピルアルコール、触媒化成工業製)をイソプロピルアルコールで5質量%になるように希釈したゾルを、中空シリカ微粒子/シリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分質量基準で35/30となるように添加して、ホモジナイザーで分散させることによって、中空シリカ粒子分散シリコーンレジン溶液をコーティング材料として得た。このコーティング材料を用いて実施例1と同様にして光散乱層5を形成し、他は実施例1と同様にして有機EL発光素子を得た。
【0051】
この比較例3で形成される光散乱層5について、出射光の強度を実施例1と同様にして測定したところ、正面出射光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度は48°であった。
【0052】
(比較例4)
アクリル系UV硬化オリゴマー(新中村化学工業社製「6LPA」)とアクリル系UV硬化モノマー(新中村化学工業社製「A−DPH」)を、「6LPA」:「A−DPH」=2:1(質量比)で混合し、さらにラジカル系光重合開始剤(長瀬産業社「イルガキュア184」)を3質量%添加することによって、アクリル系UV硬化樹脂を調製した。次にこのアクリル系UV硬化樹脂に、実施例1と同じメチルシリコーン粒子を、メチルシリコーン粒子/アクリル系UV硬化樹脂の質量比が20/80となるように添加し、ホモジナイザーで分散させることによって、メチルシリコーン粒子分散アクリル系UV硬化樹脂溶液をコーティング材料として得た。
【0053】
そしてコーティング材料を実施例1と同様にしてガラス基板1の上に塗布した後、UV露光機で積算光量1000mJを照射することによって、光散乱層5を形成し、他は実施例1と同様にして有機EL発光素子を得た。
【0054】
この比較例4で形成される光散乱層5について、出射光の強度を実施例1と同様にして測定した。結果を図2に示す。図2にみられるように、正面出射光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度は75°以上であった。
【0055】
上記のようにして実施例1及び比較例1〜4で得た有機EL発光素子の特性を、DC電源(ケースレイ社製)を用い、素子内部に流れる電流を10mA/cmに固定し、輝度計(トプコン社製)を用いて評価した。このとき、正面輝度を、電流効率(cd/A)とともに、10°ごとの角度方位で−180°〜+180°の範囲で測定し、全光束(電力効率lm/W)を算出した。結果を、比較例1の電流効率(cd/A)及び電力効率(lm/W)を基準として、正面及び全方位の光取出し効率の向上倍率を表1に示す。尚、電流−電圧特性は、実施例1及び比較例1〜4において大きな差はみられなかった。また発光スペクトルにも大きな差はみられなかった。
【0056】
【表1】

【0057】
表1にみられるように、実施例1のものは、比較例1は勿論、比較例2〜4のものに対しても光の取り出し効率が向上していることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は有機EL発光素子の層構成を示す概略図、(b)は光散乱層からの出射光を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例4の光散乱層についての、出射光の強度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 有機発光層
3 電極
4 光取出し層
5 光散乱層
10 電極
11 緩和層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の基板と有機発光層の間に透光性の電極を備えると共に基板と透光性の電極の間に光の指向性を変更する光取出し層を備え、有機発光層で発光した光を光取出し層及び透光性の電極から透光性の基板を通して取り出すようにした有機EL発光素子において、光取出し層は光散乱層を備えて形成され、光散乱層は、光散乱粒子を含有するバインダー樹脂により構成され、且つ、正面から入射して出射される光の強度を計測したときに、正面に出射される光の強度に対して1/100の強度になる光の出射角度が3〜45°であることを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項2】
光散乱粒子は粒径が0.3〜10μmであり、且つ、光散乱粒子とバインダー樹脂の屈折率差が0.001〜0.1であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光素子。
【請求項3】
光散乱層内の光散乱粒子の体積割合が90%以上であり、且つ、光散乱層の厚み方向での光散乱粒子の平均粒子数が1〜10であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL発光素子。
【請求項4】
光散乱層と透光性の電極との間に、光散乱層の表面の凹凸を平滑化する緩衝層を備え、上記光取出し層を光散乱層と緩衝層とから形成して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL発光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−54424(P2009−54424A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220300(P2007−220300)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】