説明

有機EL素子、及びその製造方法

【課題】比抵抗の高いホール注入層と比抵抗の低いホール注入層を積層することで、キャ
リア注入性を維持したまま、発光にじみやクロストークの無い有機EL素子、及びその製
造方法を提供することにある。
【解決手段】パターニングされた電極とそれをセパレートする絶縁膜上に比抵抗の高いキ
ャリア注入層と比抵抗の低いキャリア注入層を積層することでキャリア注入性を維持した
まま、発光のにじみやクロストークの無い有機EL素子を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なポリマー有機EL素子では、狭い電極上(ITO等)に例えばPEDOT:P
SS等の比較的抵抗の低いホール注入層を配置することで、ホール注入性を上げている。
比抵抗値の低いホール注入層(例えば〜500Ωcm)はそのキャリア注入性に優れる反
面、横方向への電流(電界)の広がりがあり、発光画素周辺部の非発光部からの発光(以
降、発光にじみと表記する)やクロストークが発生し、有機EL装置の特性(例えば表示
品質)を大きく低下させる。発光にじみを抑える為、例えば非発光部に遮光膜を設ける手
法等も提案されているが、プロセスの複雑さと、黒色系(遮光)高抵抗体を素子上に作製
することは材料選択が難しい(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、基板上では無く、遮光板を基板に併設して配置することも可能であるが、コスト
高と横方向へのリーク電流による消費電力UPは避けられない。
【0004】
比抵抗値の低いキャリア注入層を例えばインクジェット法等でパターニングすることで
ある程度の発光にじみを抑えることが出来るが、画素隔壁(バンク)部からの発光にじみ
等も観察され十分な表示品質を得ることが難しい。
【0005】
分子スケールでキャリア注入性を制御する手法も多く提案されている(例えば、非特許
文献1)が、多くの界面が存在し成膜手法も量産に向いていない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−208475号公報
【非特許文献1】Nature/Vol404/30March2000 Molecular-scale interface engineering for polymer light-emitting diodes
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
比抵抗値の低いキャリア注入層は、キャリア密度が高くキャリア注入性に優れる反面、
発光にじみやクロストーク等の特性(例えば表示品質)低下をもたらす。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、比抵抗値
の高いホール注入層と比抵抗値の低いホール注入層を積層することで、キャリア注入性を
維持したまま、発光にじみやクロストークの無い有機EL素子、及びその製造方法を提供
することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
狭い電極と狭い電極をセパレートする絶縁膜上に成膜された第1のキャリア注入層と、
第1のキャリア注入層に接する第2のキャリア注入層とを備え、第2のキャリア注入層の
比抵抗値が第1のキャリア注入層の比抵抗値より小さく、得られる発光領域の面積が狭い
電極の面積以下であることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施例及び比較例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本実施例の有機EL素子の構成を示す断面図である。
まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラスの基板1を用意した。
次に、この基板1上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmの狭い電極としてのI
TO電極2(陽極)を形成し、その後フォトリソ法により100μmピッチでパターニン
グした。
【0012】
次に、画素構造を形成するために絶縁膜8をSiO2によりITO電極2のエッジが露
出しないように形成した。次に、100μmピッチにパターニングしたITO電極2上に
、ポリチオフェン系化合物(バイエル社製、「バイトロンP」)の2.0wt%水溶液を
、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ50nmの第1のキャリア注入
層としてのホール注入層3a(比抵抗値2,000Ωcm)を形成した。
【0013】
次に、ホール注入層3a上にさらにポリチオフェン系化合物(下層組成よりもPSS量
の少ないPEDOT:PSS比で1:6)をスピンコート法により塗布し乾燥して、第2
のキャリア注入層としての低比抵抗ホール注入層3bを形成した。TEMによる断面写真
ではホール注入層3aとの明確な界面は存在しないものの界面らしき層を確認した。又、
低比抵抗ホール注入層3bの単層での比抵抗値は300Ωcmである。
【0014】
次に、低比抵抗ホール注入層3b上に中間層としてのホール輸送層7を形成した。
【0015】
次に、発光材料として、ポリ[9,9’−ジヘキシル−2,7−(2−シアノビニレン
)フルオレニレン](重量平均分子量:120,000)を準備した。この発光材料を2
.0wt%となるようにトルエンに溶解して、発光材料溶液を調製した。この発光材料溶
液を、ホール輸送層7上にスピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ70n
mの発光層4を形成した。
【0016】
次に、発光層4上に電子注入層5を形成した。
【0017】
次に、電子注入層5上に、真空蒸着法により、LiF(4nm)/Ca(5nm)/A
l(200nm)を形成し広い電極としてのベタ陰極6を構成した。
次に、形成したベタ陰極6上に、2液性のポリイミド樹脂で熱硬化封止したオーバーコ
ート層9を形成して、有機EL素子10を完成した。
【0018】
以上のようにして製造された有機EL素子10の発光にじみの評価として、顕微鏡を用
いてパターニングされたITO電極2の電極エッジ近傍の輝度観察を行い、その電極エッ
ジからの発光輝度が1cd/m2に至る距離を求めた。また、その時(6V印加時)の画
素輝度を測定した。
【0019】
なお、比較例1として比抵抗値2,000Ωcmのホール注入層3aを塗布しなかった
ものを作製した。更に比較例2としてホール注入層3aの単層での比抵抗値1,500Ω
cmのポリチオフェン系化合物を塗布したものも同時に作製した。
【実施例2】
【0020】
まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラスの基板1を用意した。
次に、この基板1上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmのITO電極2(陽極
)を形成し、その後フォトリソ法により100μmピッチでパターニングし、狭い電極と
してのITO電極2を形成した。次に、画素構造を形成するために絶縁膜8をSiO2
よりITO電極2のエッジが露出しないように形成した。
【0021】
次に、パターニングした狭い電極としてのITO電極2上に、トリフェニルアミン系化
合物の2.0wt%溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ30
nmの第1のキャリア注入層としてのホール注入層3a(比抵抗値1,5000Ωcm)
を形成した。
【0022】
次に、ホール注入層3aの上にさらにポリチオフェン系化合物をスピンコート法により
塗布し、乾燥し平均厚さ10nmの第2のキャリア注入層としての低比抵抗ホール注入層
3bを形成した。(低比抵抗ホール注入層3bの単層での比抵抗値は300Ωcmである
。)
【0023】
次に、低比抵抗ホール注入層3b上に中間層としてのホール輸送層7を形成した。
【0024】
次に、発光材料として、ポリ[9,9’−ジヘキシル−2,7−(2−シアノビニレン
)フルオレニレン](重量平均分子量:120,000)を準備した。この発光材料を2
.0wt%となるようにトルエンに溶解して、発光材料溶液を調製した。この発光材料溶
液を、ホール輸送層7上にスピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ70n
mの発光層4を形成した。
【0025】
次に、発光層4上に電子注入層5を形成した。
【0026】
次に、電子注入層5上に、真空蒸着法により、LiF(4nm)/Ca(5nm)/A
l(200nm)を形成し広い電極としてのベタ陰極6を構成した。
次に、形成したベタ陰極6上に、2液性のポリイミド樹脂で熱硬化封止したオーバーコ
ート層9を形成して、有機EL素子10を完成した。
【0027】
以上のようにして製造された有機EL素子10の発光にじみの評価として、顕微鏡を用
いてパターニングされたITO電極2の電極エッジ近傍の輝度観察を行い、その電極エッ
ジからの発光輝度が1cd/m2に至る距離を求めた。また、その時(6V印加時)の画
素輝度を測定した。
【実施例3】
【0028】
まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラスの基板1を用意した。
次に、この基板1上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmの狭い電極としてのI
TO電極2(陽極)を形成し、その後フォトリソ法により100μmピッチでパターニン
グした。
【0029】
次に、画素構造を形成するためにパターニングしたITO電極2上に、絶縁膜8として
CuPc(銅フタロシアニン)20nmを真空蒸着法によりITO電極2のエッジが露出
しないように形成した。
【0030】
第1のキャリア注入層としてのホール注入層3aを形成した。
【0031】
第2のキャリア注入層としての低比抵抗ホール注入層3bを形成した。
【0032】
次に、低比抵抗ホール注入層3b上に中間層としてのホール輸送層7を形成した。
【0033】
次に発光材料としてポリ[9,9’−ジヘキシル−2,7−(2−シアノビニレン)フ
ルオレニレン](重量平均分子量:120,000)を準備した。この発光材料を2.0
wt%となるようにトルエンに溶解して、発光材料溶液を調製した。ポリチオフェン系化
合物をスピンコート法により塗布し乾燥して発光層4を形成した。
【0034】
次に、発光層4上に電子注入層5を形成した。
【0035】
次に、電子注入層5上に、真空蒸着法により、LiF(4nm)/Ca(5nm)/A
l(200nm)を形成し広い電極としてのベタ陰極6を構成した。
次に、形成したベタ陰極6上に、2液性のポリイミド樹脂で熱硬化封止したオーバーコ
ート層9を形成して、有機EL素子10を完成した。
【0036】
以上のようにして製造された有機EL素子10の発光にじみの評価として、顕微鏡を用
いてパターニングされたITO電極2の電極エッジ近傍の輝度観察を行い、その電極エッ
ジからの発光輝度が1cd/m2に至る距離を求めた。また、その時(6V印加時)の画
素輝度を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
上記の表1に示すように、比較例1では、狭い電極としてのITO電極2より広い発光
が観測されたが、実施例1〜3は狭い電極としてのITO電極2の幅以内での発光が観察
され、クロストークの無いことが確認された。比較例2でもクロストークは無いが効率の
低下が観測された。ホール注入性が低下した為と考えられる。
【0039】
図2は、キャリア注入層におけるドープ種のドープ量と比抵抗値との相関を示すグラフ
である。
図2に示すように、比抵抗値が1,500Ωcm以下に対応したドープ種のドープ量に
より、第2のキャリア注入層として有効な範囲を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
有機EL表示装置全般(モバイル用(携帯、PDA)車載用(カーナビ、インパネ)等
)、有機EL−TV、フレキシブルパネル、シートデイスプレイ、有機電界発光素子を用
いた全てのデバイスに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の有機EL素子の構成を示す断面図。
【図2】キャリア注入層におけるドープ種のドープ量と比抵抗値との相関を示すグラフ。
【符号の説明】
【0042】
1…基板、2…狭い電極としてのITO電極、3a…ホール注入層、3b…低比抵抗ホ
ール注入層、4…発光層、5…電子注入層、6…広い電極としてのベタ陰極、7…ホール
輸送層、8…絶縁膜、9…オーバーコート層、10…有機EL素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広い電極と狭い電極の2つの電極間に複数の有機層を含む有機EL素子であって、前記
狭い電極と前記狭い電極の電極間をセパレートする絶縁膜上に成膜された第1のキャリア
注入層と、前記第1のキャリア注入層に接する第2のキャリア注入層とを備え、前記第2
のキャリア注入層の比抵抗値が前記第1のキャリア注入層の比抵抗値より小さく、得られ
る発光領域の面積が前記狭い電極の面積以下であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記第2のキャリア注入層の比抵抗が1,500Ωcm以下である請求項1に記載の有
機EL素子。
【請求項3】
前記第2のキャリア注入層は、ドープ種を含み、前記ドープ種のドープ量で前記第2の
キャリア注入層の比抵抗値を変化させていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL
素子。
【請求項4】
前記第2のキャリア注入層がPEDOT:PSSであることを特徴とする請求項1に記
載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第1のキャリア注入層と前記第2のキャリア注入層と前記発光層との間に、発光を
伴わない中間層が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項6】
広い電極と狭い電極の2つの電極間に複数の有機層を含む有機EL素子であって、前記
狭い電極と前記狭い電極をセパレートする絶縁膜上に成膜された第1のキャリア注入層と
前記第1のキャリア注入層に接する第2のキャリア注入層とを備え、前記第2のキャリア
注入層の比抵抗値が前記第1のキャリア注入層の比抵抗値より小さく、得られる発光領域
の面積が前記狭い電極の面積以下であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−280991(P2007−280991A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101644(P2006−101644)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】