説明

有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置

【課題】耐電圧を高めるとともに交流電源によって適切に発光させることが可能な有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置を提供すること。
【解決手段】有機層3と、有機層3を挟む透明電極層2および金属電極層5と、を有する有機EL素子A1であって、有機層3と透明電極層2および金属電極層5との間に介在する誘電体層4A,4Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に照明用途に適した有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来の有機EL素子の一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。同図に示された有機EL素子Xは、基板91上に透明電極層92、有機層93、金属電極層94が積層された構造とされている。基板91は、透明なガラス製であり、透明電極層92は、たとえばITO(Indium Tin Oxide)からなる。有機層93は、たとえば正孔注入層93a、正孔輸送層93b、発光層93c、および電子輸送層93dが積層されている。正孔注入層93aは、透明電極層92からの正孔を発光層93cに向けて注入するための層である。正孔輸送層93bは、正孔注入層93aからの正孔を発光層93cへと輸送するための層である。発光層93cは、赤色光、緑色光、青色光などを自発光する層である。電子輸送層93dは、金属電極層94からの電子を発光層93cへと輸送するための層である。金属電極層94は、たとえばAlからなる。発光層93cが発光すると、この光は、透明電極層92および基板91を透して基板91の下面から出射される。
【0003】
有機EL素子Xは、直流電源Pdによって発光する。一般的に有機EL素子Xの駆動電圧は20V程度である。一方、有機EL素子Xを室内の照明光源として用いる場合、その照明装置は、商用の交流100V電源に接続される。有機EL素子Xを適切に発光駆動させるためには、交流100V電源を直流20V電源に整流および変圧することが強いられていた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−150171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、耐電圧を高めるとともに交流電源によって適切に発光させることが可能な有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される有機EL素子は、有機層と、上記有機層を挟む1対の電極と、を有する有機EL素子であって、上記有機層と上記1対の電極の少なくともいずれかとの間に介在する1以上の誘電体層を備えることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記誘電体層の存在により上記有機層に印加される電圧を相対的に低くすることができる。また、上記1対の電極と上記誘電体層とにより、いわゆるコンデンサが構成される。これにより、上記有機EL素子は、交流電流を流すような挙動を示す。上記有機層にとって電流方向が順方向となる期間については、上記有機EL素子を発光させることができる。
【0008】
本発明の第2の側面によって提供される有機EL発光装置は、それぞれが有機層とこの有機層を挟むアノード電極およびカソード電極とを有する複数の有機EL素子を備えた有機EL発光装置であって、第1接続端子および第2接続端子をさらに備えており、上記複数の有機EL素子は、上記第1接続端子に上記アノード電極が、上記第2接続端子に上記カソード電極が、それぞれ接続されたものと、上記第1接続端子に上記カソード電極が、上記第2接続端子に上記アノード電極が、それぞれ接続されたものと、を含んでいることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、上記第1および第2接続端子に交流電源を接続すると、上記複数の有機EL素子が、半周期ずつ発光可能である。したがって、上記有機EL発光装置として、全周期にわたって発光することができる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記有機層は、その厚さが1μm以上であり、かつ単位厚さあたりの破壊電圧が108V/m以上である。このような構成によれば、100V程度の電圧が直接印加されても、上記有機EL素子が不当に絶縁破壊するおそれが少ない。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記各有機EL素子は、上記有機層と上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれかとの間に介在する1以上の誘電体層を備える。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る有機EL素子の第1実施形態を示している。本実施形態の有機EL素子A1は、基板1、透明電極層2、有機層3、誘電体層4A,4B、および金属電極層5を備えている。有機EL素子A1は、たとえば照明装置の光源として用いられる。
【0015】
基板1は、たとえばガラスからなる透明基板である。基板1は、透明電極層2、有機層3、誘電体層4A,4B、および金属電極層5を支持するとともに、有機層3からの光を下面方向に透過させるためのものである。
【0016】
透明電極層2は、電源Pの+極に接続されており、正孔を供給するためのアノード電極である。透明電極層2は、たとえばITOからなる。
【0017】
有機層3は、正孔注入層31、正孔輸送層32、発光層33、および電子輸送層34が積層されたものである。本実施形態において有機層3の厚さは、たとえば300nm以下とされている。正孔注入層31は、透明電極層2から発光層33への正孔注入効率を向上させる役割を有するものである。正孔注入層31は、たとえば銅フタロシアニン(CuPc)からなる。
【0018】
正孔輸送層32は、発光層33への正孔の移動を効率良く行うとともに、発光層33における電子と正孔との再結合効率を高める役割を有するものである。正孔輸送層32は、たとえばNPBからなる。
【0019】
発光層33は、発光物質を含んでおり、透明電極層2からの正孔と金属電極層5からの電子とが再結合することにより励起子を生成する場である。上記励起子が発光層33内を移動する過程において上記発光物質が発光する。発光層33に含まれる発光物質の種類を選択することにより、赤色光、緑色光および青色光などを自発光するように構成されている。上記発光物質としては、たとえばトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、ジトルイルビニルビフェニル、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体(Eu(DBM)3(Phen))、およびフェニルピリジンイリジウム化合物などの蛍光またはりん光性発光物質を使用することができる。もちろん、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリアルキルチオフェン、ポリフルオレン、およびこれらの誘導体などのような高分子発光物質を用いてもよい。
【0020】
電子輸送層34は、発光層33への電子の移動を効率良く行うとともに、発光層33における電子と正孔との再結合効率を高める役割を有するものである。電子輸送層34を構成する材料としては、たとえばアントラキノジメタン、ジフェニルキノン、ペリレンテトラカルボン酸、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ベンズオキサゾール、およびこれらの誘導体を用いることができる。
【0021】
誘電体層4A,4Bは、たとえばLiFなどの誘電体からなる層であり、有機層3を上下から挟んでいる。すなわち、誘電体層4Aは、透明電極層2と有機層3との間に介在しており、誘電体層4Bは、金属電極層5と有機層3との間に介在している。本実施形態において誘電体層4A,4Bの厚さは、それぞれ10nm以上とされている。
【0022】
金属電極層5は、電源Pの−極に接続されており、電子を供給するための電極である。金属電極層5は、たとえばAlからなり、比較的反射率が高い層とされている。
【0023】
図2は、本発明に係る有機EL発光装置の第1実施形態を示している。本実施形態の有機EL発光装置B1は、複数の有機EL素子A1、絶縁層6、配線層7および1対の接続端子8を備えている。複数の有機EL素子A1は、上述した構成を有しており、基板1を互いに共有している。
【0024】
複数の有機EL素子A1は、たとえばSiO2からなる絶縁層6によって覆われている。本実施形態においては、複数の有機EL素子A1が2つのグループに区別されている。図示された2つの有機EL素子A1は、互いに異なるグループに属している。本図によく表れているように、一方の有機EL素子A1の透明電極層2と他方の有機EL素子A1の金属電極層5とが、配線層7によって互いに導通している。各グループに属する有機EL素子A1の透明電極層2には、1対の接続端子8のいずれかが接続されている。1対の接続端子8には、交流電源Paが接続されている。交流電源Paは、たとえば商用電源であり、その電圧が100V程度である。
【0025】
次に、有機EL素子A1および有機EL発光装置B1の作用について説明する。
【0026】
有機EL素子A1においては、誘電体層4A,4Bが設けられることにより、有機層3に印加される電圧が相対的に低くなる。このため、透明電極層2と金属電極層5との間にたとえば100Vの電圧が印加されても、厚さが300nm以下の有機層3が不当に絶縁破壊してしまうことを防止することができる。また、透明電極層2および金属電極層5に挟まれた誘電体層4A,4Bを有することにより、有機EL素子A1には、いわゆるコンデンサが構成されている。このため、透明電極層2と金属電極層5との間に交流電圧を印加すると、有機層3に交流電流が流れたような挙動を示す。これにより、透明電極層2側が+極、金属電極層5側が−極に相当する電位となったときに、発光層33が発光する。
【0027】
有機EL発光装置B1においては、交流電源Paに対してアノード電極である透明電極層2とカソード電極である金属電極層5とが互いに逆性の関係で接続された2つのグループの有機EL素子A1が存在する。一方のグループに属する有機EL素子A1は、交流電源Paの周期の半分にあたる時間率で発光する。他方のグループに属する有機EL素子A1は、交流電源Paの周期のうち一方のグループが発光しない期間に発光する。これにより、有機EL発光装置B1は、交流電源Paの全周期にわたって発光することができる。以上より、有機EL発光装置B1は、たとえば商用の交流100V電源を直接接続して用いることが可能であり、たとえば屋内の照明装置として用いるのに適している。
【0028】
図3は、本発明に係る有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置の第2実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。本実施形態の有機EL発光装置B2は、上述した実施形態の有機EL素子A1とは異なる構成である複数の有機EL素子A2を備えている。
【0029】
有機EL素子A2は、基板1、透明電極層2、有機層3、および金属電極層5を備える一方、上述した実施形態で述べた誘電体層4A,4Bを備えていない。本実施形態においえては、有機層3の厚さが1μm以上とされている。また、有機層3を形成する材質の耐電圧は、108V/m以上である。これにより、有機層3の耐電圧が100V以上とされている。
【0030】
このような実施形態によっても、有機EL発光装置B1を商用の交流100V電源である交流電源Paによって、その全周期にわたって発光させることができる。有機EL素子A2は、100Vの電圧が直接印加されても不当に絶縁破壊するおそれが少ない。
【0031】
本発明に係る有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0032】
本発明で言う誘電体層は、有機層の両側に設けられるものに限定されず、有機層の片側に設けられる構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る有機EL素子の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL発光装置の第1実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL素子およびこれを用いた有機EL発光装置の第2実施形態を示す断面図である。
【図4】従来の有機EL素子の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
A1,A2 有機EL素子
B1,B2 有機EL発光装置
1 基板
2 透明電極層(アノード電極)
3 有機層
4A,4B 誘電体層
5 金属電極層(カソード電極)
6 絶縁層
7 配線層
8 (第1および第2)接続端子
31 正孔注入層
32 正孔輸送層
33 発光層
34 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機層と、
上記有機層を挟む1対の電極と、
を有する有機EL素子であって、
上記有機層と上記1対の電極の少なくともいずれかとの間に介在する1以上の誘電体層を備えることを特徴とする、有機EL素子。
【請求項2】
それぞれが有機層とこの有機層を挟むアノード電極およびカソード電極とを有する複数の有機EL素子を備えた有機EL発光装置であって、
第1接続端子および第2接続端子をさらに備えており、
上記複数の有機EL素子は、
上記第1接続端子に上記アノード電極が、上記第2接続端子に上記カソード電極が、それぞれ接続されたものと、
上記第1接続端子に上記カソード電極が、上記第2接続端子に上記アノード電極が、それぞれ接続されたものと、を含んでいることを特徴とする、有機EL発光装置。
【請求項3】
上記有機層は、その厚さが1μm以上であり、かつ単位厚さあたりの破壊電圧が108V/m以上である、請求項2に記載の有機EL発光装置。
【請求項4】
上記各有機EL素子は、上記有機層と上記アノード電極および上記カソード電極の少なくともいずれかとの間に介在する1以上の誘電体層を備える、請求項2または3に記載の有機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−164070(P2009−164070A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3030(P2008−3030)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】