説明

有機EL素子およびその製造方法

【課題】本発明は、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第1電極層13と、第1電極層13上に形成されるアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電荷注入金属層15と、電荷注入金属層15上に形成され、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と結合して有機金属錯体となる配位子を有する拡散防止層17と、拡散防止層17上に形成される有機発光層19と、有機発光層19上に形成される第2電極層22と、を備えたことを特徴とする有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、素子基板上に形成される第1電極層と、第1電極層上に形成される有機EL層と、有機EL層上に形成される第2電極層と、から構成されている。なお、有機EL層は、有機材料から成る電荷注入層又は有機発光層等の複数の層から構成されているものが一般的に用いられている。
【0003】
有機発光層は、第1電極層及び第2電極層に電圧を加えて、第1電極層及び第2電極層から有機発光層に正孔及び電子を注入し、有機発光層中で正孔と電子が再結合することで、放出されるエネルギーの一部が有機発光層中の発光分子を励起する。その結果、有機発光層は、その励起された発光分子が基底状態に戻るときにエネルギーを放出して光を発する。
【0004】
また、発光時間が長くなるにつれて、電荷注入層を構成する電荷注入性材料の濃度が薄くなることが知られている。電荷注入層の電荷注入性材料の濃度が薄くなることで、有機発光層中への電荷注入効率が低下し、有機発光層の輝度が低下する。
【0005】
そこで、有機発光層に対する電荷注入効率の低下を抑制するために、有機発光層と電子注入層との間に電子注入性材料から成る拡散層を設ける技術が提案されている(下記特許文献1参照)。なお、拡散層は、電子注入層と同一材料である。
【特許文献1】特開2003−272868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献1に記載の技術であっては、発光時間が長くなるにつれて、電子注入層及び拡散層を構成する電子注入性材料が有機発光層中に拡散し、有機発光層が劣化する虞がある。有機発光層が劣化することで、輝度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL素子は、第1電極層と、前記第1電極層上に形成されるアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電荷注入金属層と、前記電荷注入金属層上に形成され、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と結合して有機金属錯体となる配位子を有する拡散防止層と、前記拡散防止層上に形成される有機発光層と、前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、第1電極層上にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電荷注入金属層を形成する工程と、前記電荷注入金属層上に電荷注入材料を被着させて、その後、該電荷注入材料に熱を加えて電荷注入層を形成する工程と、前記電荷注入層上に、前記電荷注入金属層から拡散するアルカリ金属又はアルカリ土類金属を捕捉する拡散防止層を形成する工程と、前記拡散防止層上に有機発光層を形成する工程と、前記有機発光層上に第2電極層を形成する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、前記電荷注入材料に熱を加えて溶融させ、その後前記電荷注入金属層上に固着して前記電荷注入層を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、前記拡散防止層は、前記電荷注入材料に加えた熱が前記電荷注入金属層に伝達し、その熱に起因して前記電荷注入金属層から脱離するアルカリ金属又はアルカリ土類金属を捕捉することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、前記電荷注入金属層には、凹部が形成されており、前記電荷注入材料に熱を加えて溶融させることで、前記凹部に前記電荷注入材料を充填して前記電荷注入層を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、前記電荷注入金属層はフッ化リチウムから成り、前記電荷注入金属層から脱離する原子はリチウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。図2は、有機ELディスプレイの画素の平面図である。図3は、画素の拡大断面図である。
【0016】
有機ELディスプレイ1は、図1に示すように、テレビ等の家電機器、携帯電話又はコンピュータ機器等の電子機器に用いるものであり、素子基板2と、素子基板2上に形成される複数の画素3と、かかる画素3の発光を制御する駆動IC4と、を含んで構成されている。
【0017】
素子基板2は、例えば、ガラス又はプラスチックから成り、素子基板2の中央に位置する表示領域D1には、マトリックス状に配列された複数の画素3が形成されている。また、素子基板2の端部に位置する非表示領域D2には、駆動IC4が実装されている。
【0018】
図2に示すように、画素3には発光領域Rが形成されており、かかる発光領域Rに発光可能な有機EL素子5が設けられている。
【0019】
また、各画素3は、隔壁6によって仕切られている。隔壁6は、断面が上部よりも下部が幅広の形状であって、後述する絶縁物7上に形成され、画素3を取り囲むように配置されている。隔壁6は、例えば、酸化珪素、窒化珪素又は酸化窒化珪素等の無機絶縁材料、あるいはフェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料から成る。
【0020】
また、画素3は、赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光することができる。このことは、後述するように有機EL素子5を構成する材料を選択することによって、発光する色を決定することができる。なお、本実施形態においては、画素を赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光するものとしたが、例えば、白色又は橙色等の色を発光するようにしてもよい。
【0021】
また、素子基板2上には、素子基板2に対して対向するように配置された封止基板8が形成されている。封止基板8は透明の基板から成り、例えばガラス又はプラスチックを用いることができる。なお、本実施形態においては、素子基板2側から封止基板8側に向けて光が発せられるトップエミッション型の有機ELディスプレイであるため、封止基板8は透明の部材が用いられる。
【0022】
素子基板2の表示領域D1には、表示領域D1を被覆するようにシール材9が形成されており、素子基板2と封止基板8とシール材9によって各画素3を密封している。各画素3を密封することによって、各画素3に酸素又は水分が浸入するのを低減し、各画素3が劣化するのを抑制することができる。また、シール材9は、接着材としての機能を有し、硬化することによって素子基板2と封止基板8とを固着することができる。かかるシール材9は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂又はシリコン樹脂等の光硬化性樹脂、あるいは熱硬化性の樹脂を用いることができる。なお、本実施形態においては、紫外線の照射により硬化する光硬化性のエポキシ樹脂を用いる。
【0023】
次に、図3に示すように、素子基板2と封止基板8との間に形成される各種層について説明する。素子基板2上には、TFT又は電気配線等から成る回路層10が形成されている。さらに、回路層10上には、回路層10の所定領域以外が電気的にショートしないように、例えば、窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等から成る絶縁層11が形成されている。
【0024】
また、絶縁層11上には、回路層10及び絶縁層11に起因する表面の凹凸を低減するために、平坦化膜12が形成されている。回路層10は、複数の電気配線がパターニングされているため、その表面には凹凸が形成される。有機EL素子5を凹凸な面上に形成すると、有機EL素子5を構成する電極層同士が短絡し、有機EL素子5が発光しないことがある。そのため、回路層10及び絶縁層11上に平坦化膜12が形成される。
【0025】
かかる平坦化膜12は、例えば、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂又はシリコン樹脂等の絶縁性を有する有機材料を用いることができる。なお、平坦化膜12の厚みは、例えば2μm以上5μm以下に設定されている。
【0026】
また、平坦化膜12には、平坦化膜12を貫通するコンタクトホールSが形成されている。かかるコンタクトホールSは、上部よりも下部が幅狭に形成されている。コンタクトホールSは、各画素3に形成されており、コンタクトホールSの底部には、回路層10の一部が露出している。
【0027】
また、発光領域Rを取り囲むように、第1電極層13上に絶縁物7が形成されている。そして、絶縁物7は、第1電極層13と後述する第2電極層22とが短絡するのを防止している。なお、絶縁物7は、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料、あるいは窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等の無機絶縁材料から成る。
【0028】
また、第1電極層13と第2電極層22との間には、複数層が積層された有機EL層14が設けられている。つまり、有機EL層14は、後述するように、電子注入金属層15と、電子注入層16と、拡散防止層17と、電子輸送層18と、有機発光層19と、正孔輸送層20と、正孔注入層21とから成る。
【0029】
図4は、有機EL素子5の構成を説明するための断面図である。発光領域Rに位置する平坦化膜12上には、有機EL素子5が形成されている。
【0030】
図4に示すように、有機EL素子5は、第1電極層13と、第1電極層13上に形成されたアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電子注入金属層15と、電子注入金属層15上に形成される電荷注入層としての電子注入層16と、電子注入層16上に形成される拡散防止層17と、拡散防止層17上に形成される電子輸送層18と、電子輸送層18上に形成される有機発光層19と、有機発光層19上に形成される正孔輸送層20と、正孔輸送層20上に形成される正孔注入層21と正孔注入層21上に形成される第2電極層22と、を含んで構成されている。
【0031】
第1電極層13は、コンタクトホールSの内周面から平坦化膜12の上面にかけて形成されるとともに、コンタクトホールS内に位置する回路層10の一部と接続されている。第1電極層13は、画素3毎に形成されており、隣接する画素における第1電極層と離間して設けられている。第1電極層13は、例えば、アルミニウム、銀、銅又は金等の金属、あるいはこれらの合金等の材料から成る。なお、第1電極層13の厚みは、例えば50nm以上500nm以下に設定されている。
【0032】
電子注入金属層15は、発光領域Rにおける第1電極層13を被覆するように形成されている。電子注入金属層15は、第1電極層13から有機発光層19に向けて電子を注入しやすくする電子注入材料から成り、例えばフッ化リチウム又はフッ化セシウム等のアルカリ金属化合物、或いはフッ化マグネシウム又はフッ化カルシウム等のアルカリ土類金属化合物から成る。かかる電子注入金属層15の厚みは、例えば0.1nm以上10nm以下に設定されている。また、電子注入金属層15は、蒸着法を用いて第1電極層13上に形成されるため、電子注入金属層15には、凹部が多数形成されている。なお、凹部の大きさは例えば10nm以下である。
【0033】
電子注入層16は、電子注入金属層15を被覆するように形成されている。電子注入層16は、蒸着法を用いて電子注入金属層15上に形成した後、熱を電子注入層16に加えて、電子注入層16を溶かして電子注入金属層15に固着させて形成したものである。そのため、電子注入金属層15の凹部に電子注入層16の一部が充填され、電子注入金属層15と電子注入層16との接触面積を大きくすることができ、電子注入金属層15からの電子の注入を向上させることができる。かかる電子注入層16は、例えば、1,1−ジメチル−2,5−ジ(2−ピリジル)シロール(PySPy)又は2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル)−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体、2−(4−ビフェニル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール又は2,5−ビス(1−ナフトリル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体等から成る。なお、電子注入層16の厚みは、例えば1nm以上50nm以下に設定されている。
【0034】
また、電子注入層16を溶かすことで、電子注入金属層15上にパーティクル等の異物が存在する場合、溶けた電子注入層16の一部が異物の周囲を被覆することで、異物による有機EL層14を構成する層の凹凸又は欠陥を低減し、電極間のショート又は電極間のリーク電流を抑制することができる。さらに、異物の周囲を被覆することで異物の周囲の隙間を低減することができ、該隙間を介して酸素又は水分等が有機EL素子内部に浸入するのを抑制することができる。
【0035】
拡散防止層17は、電子注入層16を被覆するように形成されている。拡散防止層17中には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と結合して有機金属錯体となる配位子を有している。有機金属錯体としては、中心金属が例えばリチウム、セシウム、マグネシウム又はカルシウムであって、例えば8−キノリノラトリチウム、セシウムアセチルアセトナート、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム又はカルシウムアセチルアセトナート等である。なお、拡散防止層17の厚みは、例えば1nm以上10nm以下に設定されている。
【0036】
発光時間が長くなるにつれて、電子注入金属層15から有機発光層19に向けて電子注入金属層15を構成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属が拡散し、電子注入性が低下するとともに、有機発光層19に不純物が混入し、有機発光層19の発光効率が低下する虞がある。有機EL層14に電圧を印加すると、電子は拡散防止層17中を移動するが、拡散防止層17中には発光に寄与しない過剰な電子が存在し、この過剰な電子と拡散防止層17を構成する有機金属錯体の中心金属とが相互作用することで、拡散防止層17を構成する有機金属錯体の中には、中心金属が乖離した分子が存在する。また、拡散防止層17は真空環境下又は窒素雰囲気中で成膜されるものの、成膜中に酸素又は水分等が取り込まれ、これらの不純物と、さらに有機材料中に初めから存在する酸素又は水分等の不純物と、拡散防止層17を構成する有機金属錯体の中心金属とが相互作用することで、拡散防止層17を構成する有機金属錯体中には、中心金属が乖離した分子が存在する。つまり、拡散防止層17中には、配位子のみの分子が多く存在する。そして、電子注入金属層15と有機発光層19との間に、拡散防止層17を形成することによって、電子注入金属層15を構成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属が有機発光層19に向けて移動するのを、配位子のみの分子が、移動するアルカリ金属又はアルカリ土類金属を捕捉して、有機発光層19中に移動するのを抑制することができる。その結果、有機発光層19の発光効率が低下するのを抑制することができる。
【0037】
また、濃度勾配があると濃度の高いところから濃度の低いところへ物質は移動する傾向にある。そのため、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電子注入金属層15上に拡散防止層17を設け、電子注入金属層15から有機発光層19に向けて、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の濃度勾配を小さくすることができる。その結果、電子注入金属層15から有機発光層19へ向けて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、移動するのを抑制することができる。
【0038】
電子輸送層18は、拡散防止層17を被覆するように形成されている。電子輸送層18は、第1電極層13から有機発光層19に向けて電子を輸送しやすくする材料から成り、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム等のキノリノール系金属錯体、PySPy、PyPySPyPy等のシロール誘導体、9,10−ジ(2’,2”−ビピリジル)アントラセン、2,5−ジ(2’,2”−ビピリジル)チオフェン、2,5−ジ(3’,2”−ビピリジル)チオフェン、6’6”−ジ(2−ピリジル)2,2’:4’,3”:2”,2'''−クアテルピリジン等のピリジン誘導体、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、9,10−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)アントラセン、2,6−ジ(1,10−フェナントロリン−5−イル)ピリジン、1,3,5−トリ(1,10−フェナントロリン−5−イル)ベンゼン、9,9’−ジフルオル−ビス(1,10−フェナントロリン−5−イル)等のフェナントロリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チオフェン誘導体、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキシン誘導体の金属錯体、キノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体のポリマー、ベンザゾール類化合物、ガリウム錯体、ピラゾール誘導体、パ−フルオロ化フェニレン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、イミダゾピリジン誘導体、ボラン誘導体、ポリアリールアルカン又はブタジエン誘導体等を用いることができる。電子輸送層18の厚みは、例えば20nm以上60nm以下に設定されている。
【0039】
有機発光層19は、電子輸送層18を被覆するように形成されている。有機発光層19は、赤色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq又はSDPVBi等のホスト材料に ビス[2−(2−ベンゾチアゾイル−kN3)フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO)イリジウム等の有機イリジウム化合物、有機白金化合物、DCJTB、クマリン、キナクリドン、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体又はペリレン誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0040】
また、緑色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にビス[ピリジニル−kN−フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO)イリジウム、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、スチリルアミン、ペルリン、ベンゼン環を有するシロール誘導体、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ペリレン誘導体又はアゾメチン亜鉛錯体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0041】
また、青色の光を発する場合、例えば、CBP又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にテトラ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナト)ホウ素リチウム、スチリルアミン、ペルリン、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジェン、トリフェニルアミン構造とビニル基が結合した化合物、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体又はベンゼン環を有するシロール誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。なお、有機発光層19の厚みは、例えば20nm以上40nm以下に設定されている。
【0042】
正孔輸送層20は、有機発光層19を被覆して形成されている。正孔輸送層20は、第2電極層22から注入された電荷を有機発光層19に向けて輸送する機能を備えている。正孔輸送層20は、例えば、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等 の芳香族ジアミン化合物、或いは4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等のスターバースト芳香族又は芳香族アミン化合物、あるいはこれらの混合物または積層膜を用いることができる。
【0043】
また、正孔輸送層20は、有機発光層19上に、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン又はそれにシアノ基等が結合した誘導体等の複素環化合物の層を形成した上に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の層を積層した積層膜を用いることができる。なお、正孔輸送層20の厚みは、例えば10nm以上50nm以下に設定されている。
【0044】
正孔注入層21は、正孔輸送層20を被覆するように形成されている。正孔注入層21は、第2電極層22から有機発光層19に向けて正孔の注入をしやすくする正孔注入材料からなり、例えば銅フタロシアニン(CuPc)、酸化チタン又は酸化ニッケル等から成る。なお、正孔注入層21の厚みは、例えば10nm以上50nm以下に設定されている。
【0045】
第2電極層22は、正孔注入層21上から絶縁物7上にかけて形成される。さらに、第2電極層22は、表示領域D1を被覆するように形成されており、隣接する画素同士にて第2電極層22は共通電極として機能している。第2電極層22を共通電極としたことで、各画素の駆動回路に接続された回路層10と、第2電極層22とを接続するコンタクトホールを別途形成しなくてもよいので、表示領域D1に占める画素の合計面積の比率である開口率が向上し、画素の電流密度が低減され、有機EL素子を長寿命化できるという効果を奏する。また、第2電極層22を電気的に分離形成するための下部よりも上部が幅広な絶縁構造物が不要になる。仮に、絶縁物7上に下部よりも上部が幅広な絶縁構造物を形成した場合、第2電極層は、絶縁構造物にて画素毎に分離されるため、絶縁構造物の表面全体を第2電極層で被覆しないことになる。そのため、第2電極層にて被覆されていない絶縁構造物の側面を介して、有機EL素子内部に水分等が進入しやすくなり、デバイスが劣化しやすくなる。一方、本実施形態においては、第2電極層22が表示領域D1の全面を被覆しているため、デバイスの劣化を避けられるという効果を奏する。
【0046】
第2電極層22は、有機発光層19から放出される光が透過することができる材料から構成され、例えばインジウム錫酸化物(ITO)又は錫酸化物等の光透過性を有する導電材料を用いて形成される。また、第2電極層22は、例えばマグネシウム、銀、アルミニウム又はカルシウム等の材料、あるいはこれらの合金等を用いることができ、その厚みを30nm以下にすることによって、光透過性の電極とすることができる。その結果、有機発光層19から放出された光が、第2電極層22を透過して、有機EL素子5から外部に出射される。
【0047】
有機EL素子5上には、有機EL素子5を被覆するように、保護層23が形成されている。保護層23は、有機EL素子5を封止し、有機EL素子を水分又は外気から保護するものであって、光透過性の機能を有し、例えば窒化珪素、酸化珪素又は窒化炭化珪素等の無機材料から成る。なお、保護層23の厚みは、例えば100nm以上5μm以下に設定されている。そして、シール材9が保護層23を被覆するように、表示領域D1に形成されている。
【0048】
上述したように本実施形態に係る有機EL素子によれば、第1電極層13上に電子注入効率を向上させることができる電子注入金属層15を形成し、さらに、電子注入金属層15と有機発光層19との間に拡散防止層17を形成することで、電子注入金属層15を構成する成分が拡散するのを抑制し、有機発光層19の輝度の低下を抑制することができる。
【0049】
以下に、本発明の実施形態に係る有機EL素子5を含む有機ELディスプレイ1の製造方法について、図5から図8を用いて詳細に説明する。なお、図5から図8は、一つの画素の断面図を示している。
【0050】
図5(A)に示すように、回路層10、絶縁層11及び平坦化膜12を上面に積層した素子基板2を準備する。なお、回路層10及び絶縁層11は、従来周知のCVD法、蒸着法又はスパッタリング法等の薄膜形成技術、エッチング法やフォトリソグラフィー法等の薄膜加工技術を用いて、所定パターンに形成される。また、平坦化膜12は、例えば従来周知のスピンコート法を用いて、絶縁層11上に形成する。
【0051】
次に、平坦化膜12上に露光マスクを用いて平坦化膜12を露光し、さらに現像、ベーキング処理を行い、図5(B)に示すように、回路層10の一部を露出させて、平坦化膜12に上部よりも下部が幅狭なコンタクトホールSを形成する。さらに、コンタクトホールSを形成した平坦化膜12上に、例えばアルミニウムから成る金属膜を形成する。そして、図6(A)に示すように、金属膜をパターニングして、第1電極層13形成する。
【0052】
次に、例えばスピンコート法を用いて、第1電極層13及び一部露出した平坦化膜12上に、例えばアクリル樹脂から成る有機絶縁材料層を形成する。そして、有機絶縁材料層に対してフォトリソグラフィー法を用いて、有機絶縁材料層をパターニングして、図6(B)に示すように、絶縁物7を形成する。なお、絶縁物7は、発光領域Rを取り囲むように形成され、第1電極層13の上面の一部を露出している。
【0053】
次に、図7(A)に示すように、絶縁物7上に、従来周知のフォトリソグラフィー法を用いて、上部よりも下部が幅広な隔壁6を形成する。かかる隔壁6は、各画素3を取り囲むように形成される。隔壁6は、蒸着マスクを載置することができる支持台としての機能を備えている。かかる隔壁6は、蒸着マスクを基板に対向させた際に、基板と蒸着マスクが接触し、基板を損傷しないように設けられている。また、隔壁6は、上部よりも下部を幅広とすることによって、隔壁6の下部の強度を強くすることができ、蒸着マスクを載置した際等に隔壁6が破損するのを抑制することができる。
【0054】
そして、蒸着法を用いて図7(B)に示すように、発光領域Rの第1電極層13上に有機EL層14を形成する。具体的には、まず第1電極層13上に、蒸着法を用いて、アルカリ金属化合物としてフッ化リチウムから成る電子注入金属層15を形成する。そして、電子注入金属層15上に、PyPySPyPyから成る有機材料層を形成する。さらに、有機材料層を構成する電子注入材料に熱を加えて、有機材料層を溶融させることで、電子注入金属層15の凹部に電子注入材料を充填して電子注入層16を形成する。なお、有機材料層に加える熱の温度は、有機材料層を構成する電子注入材料のガラス転移点以上融点未満であって、例えば90℃以上130℃以下に設定されている。
【0055】
また、電子注入層16上に、8−キノリノラトリチウムから成る拡散防止層17を形成する。電子注入材料に熱を加えて溶融させ電子注入層16を形成する際に、電子注入金属層15に伝わった熱に起因して電子注入金属層15からアルカリ金属が脱離することがあるが、拡散防止層17中には中心金属が乖離した配位子のみの分子が存在するため、アルカリ金属を捕捉することができる。その結果、拡散防止層17上に電子注入金属層15から脱離するアルカリ金属が拡散するのを抑制することができる。
【0056】
また、拡散防止層17上には、Alqから成る電子輸送層18を形成する。そして、電子輸送層18上にCBPから成る有機発光層19を形成する。第1電極層13と有機発光層19との間に拡散防止層17を形成したことから、電子注入金属層15から有機発光層19に向かってアルカリ金属が有機発光層19中に拡散して、有機発光層19を劣化させるのを抑制することができる。さらに、有機発光層19上にα−NPDから成る正孔輸送層20及びCuPcから成る正孔注入層21を形成する。このようにして、第1電極層13上に有機EL層14を形成することができる。
【0057】
次に、図8(A)に示すように、従来周知の蒸着法を用いて、表示領域D1を被覆するように、有機EL層14及び絶縁物7上に例えばマグネシウム10質量%と銀90質量%との混合物から成る厚さ20nmの第2電極層22を形成する。第2電極層22は、隣接する画素同士で共通しており、共通電極として機能する。第2電極層22を共通電極とすることで、微細な空孔を備えた蒸着マスクを用いずに第2電極層22を形成することができるので、製造工程を単純化することができる。このようにして、有機EL素子5を形成することができる。
【0058】
さらに、図8(B)に示すように、例えば、化学気相成長法(熱CVD法)を用いて、表示領域D1全面に、有機EL素子5が劣化しないように、窒化珪素から成る厚さ1.5μmの保護層23を形成する。
【0059】
そして、有機EL素子5が形成された素子基板2に対して、封止基板8を対向配置し、両者をシール材9を介して接着する。具体的には、封止基板8に対して、例えばスクリーン印刷法を用いて予めシール材9を被着させておく。そして、素子基板2に対してシール材9を介して封止基板8を固着させる。なお、封止基板8をシール材9によって、素子基板2に固定する作業は、例えば窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス中や、高真空中で行うことによって、素子基板2と封止基板8との間に酸素や水分が含まれるのを抑制することができる。そして、非表示領域D2に駆動IC4を実装することで、有機ELディスプレイ1を作製することができる。
【0060】
上述したように、本発明の実施形態によれば、電子注入金属層15から脱離するアルカリ金属を拡散防止層17にて捕捉することができ、アルカリ金属が有機発光層19中に拡散するのを抑制することができ、有機発光層19の輝度が低下するのを有効に防止することができる。
【0061】
また、電子注入材料に熱を加えて溶融させ電子注入層16を形成する時に、熱が電子注入金属層15に伝導し、電子注入金属層15からアルカリ金属が脱離することがあるが、有機発光層19を形成する前に、第1電極層13と有機発光層19との間に拡散防止層17を形成したことで、電子注入金属層15から拡散するアルカリ金属を拡散防止層17にて捕捉し、有機発光層19中に浸入するのを抑制することが出来る。
【0062】
さらに、有機発光層19を形成する前の状態において、事前に電子注入金属層15上に溶融させた電子注入層16を形成しているため、有機材料層の溶融時の熱によって有機発光層19が劣化することが無く、長寿命の有機ELディスプレイを作製することができる。このように、本実施形態によれば、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することができる。
【0063】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。上述した実施形態においては、トップエミッションの有機EL素子について説明したが、本発明の作用効果を奏するのであれば、ボトムエミッションの有機EL素子であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。
【図2】マトリックス状に配列された画素の平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【図4】有機EL素子を構成する各層を示した有機EL素子の断面図である。
【図5】図5(A),図5(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図6】図6(A),図6(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図7】図7(A),図7(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図8】図8(A),図8(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 有機ELディスプレイ
2 素子基板
3 画素
4 駆動IC
5 有機EL素子
6 隔壁
7 絶縁物
8 封止基板
9 シール材
10 回路層
11 絶縁層
12 平坦化膜
13 第1電極層
14 有機EL層
15 電子注入金属層
16 電子注入層
17 拡散防止層
18 電子輸送層
19 有機発光層
20 正孔輸送層
21 正孔注入層
22 第2電極層
23 保護層
D1 表示領域
D2 非表示領域
R 発光領域
S コンタクトホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、
前記第1電極層上に形成されるアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電荷注入金属層と、
前記電荷注入金属層上に形成され、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と結合して有機金属錯体となる配位子を有する拡散防止層と、
前記拡散防止層上に形成される有機発光層と、
前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
第1電極層上にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物から成る電荷注入金属層を形成する工程と、
前記電荷注入金属層上に電荷注入材料を被着させて、その後、該電荷注入材料に熱を加えて電荷注入層を形成する工程と、
前記電荷注入層上に、前記電荷注入金属層から拡散するアルカリ金属又はアルカリ土類金属を捕捉する拡散防止層を形成する工程と、
前記拡散防止層上に有機発光層を形成する工程と、
前記有機発光層上に第2電極層を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL素子の製造方法において、
前記電荷注入材料に熱を加えて溶融させ、その後前記電荷注入金属層上に固着して前記電荷注入層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL素子の製造方法において、
前記拡散防止層は、前記電荷注入材料に加えた熱が前記電荷注入金属層に伝達し、その熱に起因して前記電荷注入金属層から脱離するアルカリ金属又はアルカリ土類金属と捕捉することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の有機EL素子の製造方法において、
前記電荷注入金属層には、凹部が形成されており、
前記電荷注入材料に熱を加えて溶融させることで、前記凹部に前記電荷注入材料を充填して前記電荷注入層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の有機EL素子の製造方法において、
前記電荷注入金属層はフッ化リチウムから成り、前記電荷注入金属層から脱離する原子はリチウムであることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−10333(P2010−10333A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167034(P2008−167034)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】