説明

有機EL素子とその製造方法および製造装置

【課題】発光空間内に対する水分の浸入を完全に防止することができる構造を有し、ダークフレーム現象の発生を抑えて良好な発光品位を得ることのできる有機EL素子とその製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】枠状シール材5の全外周における前記枠状シール材5と両基板1、2との界面部分を電気絶縁性を有する水分遮断膜8により被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子とその製造方法および製造装置に関し、特に、水分に対するシール性の優れた有機EL素子とその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(電界発光)素子を使用した有機EL表示装置の研究が盛んに行われている。有機EL素子は、一対の基板を対向させて配置するとともにその外周を枠状シール材で封止し、前記一対の基板とシールで囲繞された空間(発光空間)に薄膜状の有機化合物を複数層重ねて配置して製造された自発光式表示素子であり、液晶表示素子と比較して視野角が広い。また、応答速度も速く、有機物が有する発光性の多様性から、この有機EL素子を使用した有機EL表示装置は次世代の表示装置として期待されている。
【0003】
一方で、このような有機EL素子は、水分に非常に弱いという問題を有している。例えば、有機EL素子の発光空間内に水分が存在すると有機EL材料としての有機物の変質や電極の腐食などが起こりやすく、その結果、非発光領域が発生し、さらに非発光領域が拡大して発光効率が低下するダークフレームといわれる現象が生じ、発光品位が劣化することが知られている。
【0004】
この有機EL素子の発光空間内に存在する水分対策として、有機EL素子に、モレキュラシーブスや酸化カルシウム等の捕水材を配設する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−169567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の方法は、あくまでも発光空間内に存在する水分に対する対応策であり、従来においては、経時とともに枠状シール材(封止樹脂)の配設部分から前記発光空間内に浸入してくる水分に対しては何の対策も講じられていなかった。
【0007】
特に、前記基板上の枠状シール材の配設部分には、外部接続端子と接続させるべく、基板の端子形成部に引き回し配線された端子等が配設されるため、前記基板表面と前記端子とによって段差部が生じ、基板と枠状シール材との接続が界面部分において不十分となることがあり、その界面部分から水分が発光面内に浸入し易かった。
【0008】
そこで、本発明は、発光空間内に対する水分の浸入を完全に防止することができる構造を有し、ダークフレーム現象の発生を抑えて良好な発光品位を得ることのできる有機EL素子とその製造方法および製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明の第1の態様の有機EL発熱素子は、一対の基板と前記一対の基板を接合する枠状シール材とで囲繞された発光空間内に有機発光材料を含む有機EL構造体が配置された有機EL素子であって、前記枠状シール材の全外周における前記枠状シール材と両基板との界面部分が、電気絶縁性を有する水分遮断膜により被覆されてなることを特徴とする。
【0010】
第1の態様の有機EL素子によれば、前記枠状シール材の全外周における前記枠状シール材と両基板との界面部分に成膜された水分遮断膜によって、発光空間内に対する水分の浸入を防止することができる。前記水分遮断膜は電気絶縁性をも有するので、枠状シール部下に、有機発光材料を含む有機EL構造体の駆動用配線が端子接続部として引き廻し形成されていても、隣位する端子接続部間の導通を防止することができる。
【0011】
さらに、第2の態様の有機EL発熱素子は、前記水分遮断膜はダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする。
【0012】
第2の態様の有機EL素子によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜の有する防水性、電気絶縁性により、確実に、有機EL素子の発光空間内に対する水分の浸入や、隣位する駆動配線間の導通を防止することができる。
【0013】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、有機発光材料を含む有機EL構造体および駆動用配線が形成された第1基板と、第1基板に対向配置される第2基板とを、枠状シール材を用いて接合して有機EL用セルを形成し、その後、真空環境下で、前記有機EL用セルの前記両基板をその対向方向に押圧しながら、前記枠状シール材の全外周における該枠状シール材と各基板との接続界面部分に対し、電気絶縁性を有する水分遮断膜を成膜することを特徴とする。
【0014】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、電気絶縁性を有する水分遮断膜の成膜時に前記有機EL用セルの前記両基板をその対向方向に押圧することで、真空環境に配設される有機EL用セルの前記2枚の基板と枠状シール材とで囲繞された発光空間内の内圧が上昇して体積が膨張し、シール破断が生じたり、枠状シール材に気道が発生することを抑止することが可能となる。
【0015】
また、前記水分遮断膜としてダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する場合、その成膜に必要な温度環境は、基板に形成された有機EL構造体を破壊するほどの高温を必要としないので、発光品位の良好な有機EL素子を作製することができる。
【0016】
そして、この方法で作製された有機EL発熱素子は、前述のように、水分遮断膜の防水性、電気絶縁性により、確実に、有機EL素子の発光空間内に対する水分の浸入や、隣接する端子接続部間の導通を防止することができ、また、封止不良の発生を抑え、発光領域の減少や発光品位の劣化を低減することができるものとなる。
【0017】
そして、本発明の第1の態様の有機EL素子の製造装置は、一対の基板を対向して接合した有機EL用セルに対し、真空環境下において成膜機構によりダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する有機EL素子の製造装置であって、一対のアームを用いて1乃至複数枚の有機EL用セルを挟持し、かつ、基板の対向方向に押圧可能とされた押圧機構を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の第1の態様の有機EL素子の製造装置によれば、成膜機構によりダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する際に、有機EL用セルの前記2枚の基板と枠状シール材とで囲繞された発光空間内の内圧が上昇して体積が膨張し、シール破断が生じたり、枠状シール材に気道が発生することを抑止することが可能となる。
【0019】
さらに、第2の態様の有機EL素子の製造装置は、前記押圧アーム部間に挟持された1乃至複数枚の有機EL用セルを、前記成膜機構の作用部の対向位置において、前記有機EL用セルの押圧方向に延在する軸を中心として360°回転可能とされた回転機構を備えたことを特徴とする。
【0020】
そして、第2の態様の有機EL素子の製造装置によれば、前記回転機構により、前記有機EL用セルの押圧方向に延在する軸を中心として360°回転させることにより、前記成膜機構によるダイヤモンドライクカーボン膜の成膜の対象箇所である前記枠状シール材の全外周における前記枠状シール材と両基板との界面部分、すなわち、前記有機EL用セルの全側面を順次前記成膜機構に対向させ、ダイヤモンドライクカーボンを成膜させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機EL素子によれば、ダークフレーム現象の発生を抑えて良好な発光品位を得ることができ、また、本発明の有機EL素子の製造方法および製造装置によれば、前記有機EL素子を簡単かつ確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、有機EL素子の一例を説明するための断面模式図である。
【0023】
この図に示す有機EL素子は、略平行に配置されて相対向するように配設された第1基板1および第2基板を有している。
【0024】
前記第1基板1および第2基板2は略矩形の平板状に形成され、前記第1基板1の一端縁部分は非表示領域において第2基板2の端縁より突出するように延出形成されている。第1基板1の第2基板2に対向する面内には、陽極電極、正孔輸送層、有機発光材料による発光層および陰極電極(いずれも図示せず)が積層されてなる有機EL構造体3と、前記有機EL構造体3を駆動するための駆動用配線4が形成されている。また、第2基板2の前記第1基板1に対向する面内には、後述する発光面内の水分を吸収する吸湿材(捕水材)6が配設されている。
【0025】
そして、前記第1基板1と第2基板2は、対向面間の周囲に配設された枠状シール材5によって貼り合わせられ、この2枚の基板1、2と前記枠状シール材5により囲繞された空間内に前記有機EL構造体3を密閉している。前記有機EL構造体3を密閉するこの空間は発光空間とされ、当該有機EL素子の表示領域を構成することとなる。また、第1基板1の前記第2基板2の端縁より突出する延出部分には、該有機EL素子の電極端子部7が形成されており、前記駆動用配線4が所定のパターンで引き廻し形成され、図示しない外部接続端子と接続可能とされている。
【0026】
そして、本実施形態の有機EL素子は、前記枠状シール材5の全外周における、該枠状シール材5と第1基板1および第2基板4との界面部分を被覆するように、電気絶縁性を有する水分遮断膜としてのダイヤモンドライクカーボン膜8が成膜されている。
【0027】
ここで、ダイヤモンドライクカーボン膜8は、イオンを利用した気相合成法によって成膜されたダイヤモンド薄膜の総称であって、高硬度、電気絶縁性、光透過性、低摩擦性などの特性を有している。
【0028】
よって、このような構成の有機EL素子によれば、このダイヤモンドライクカーボン膜8が水分遮断膜として機能することによって、該枠状シール材5と第1基板1および第2基板2との界面部分における発光空間内への水分の浸入を防止することができる。また、ダイヤモンドライクカーボン膜8が電気絶縁性を有することによって、有機発光材料を含む有機EL構造体2の駆動用配線4が引き廻し形成された電極端子部7においても、隣位する駆動用配線4間の導通を防止することができる。
【0029】
次に、本実施形態の有機EL素子の製造方法について説明する。
【0030】
前述した本実施形態の有機EL素子を製造する場合、最初に、有機EL用セル9を作製する。有機EL用セル9の製造方法については従来より公知の方法を採用するものとし、以下には、その概略を説明する。
【0031】
まず、ガラス等からなる透明基板としての第1基板1上に前記有機EL構造体3と、前記有機EL構造体3に電圧を印加して前記有機EL構造体3を構成する有機薄膜に電流を供給する駆動用配線4とを形成する。
【0032】
前記駆動用配線4は、前記第1基板1における第2基板2の対向面内から、前記第2基板2の端縁より突出する延出部分に形成された電極端子部7上へ引き出し、各駆動用配線4の接続端子を図示しないフレキシブル回路基板等の外部接続端子と接続可能に形成する。そして、本実施形態においては、前記電極端子部7上に形成された前記駆動用配線4の接続端子上に剥離可能なテープ部材10を貼着してマスキングをする。
【0033】
そして、第2基板2上に吸湿剤6を配設し、さらに、該第2基板2の第1基板1の対向面における外周部に枠状シール材5を塗布する。
【0034】
前記枠状シール材5の材質は、一定の接着力が確保でき、耐湿性能が優れるものであれば特に制限はない。しかし、熱硬化性樹脂材料を用いると硬化温度により有機EL素子を構成する材料の特性を劣化させる場合があり、枠状シール材5として紫外線硬化性樹脂材料を使用することが好ましい。また、紫外線硬化性樹脂材料の中には、硬化後、未反応種の溶出やガス放出により有機EL素子の性能に影響を及ぼすものがあるので、カチオン硬化タイプのエポキシ系紫外線硬化性樹脂材料を使用することがより好ましい。ただし、特に有機EL素子の性能に影響を与えない場合にはこの限りではない。
【0035】
次に、第1基板1と第2基板2との位置合わせを行った後、第1基板1および第2基板2を加圧し、前記枠状シール材5を以て接着し、加圧接着が終了した時点で枠状シール材5を硬化させる。枠状シール材5として紫外線硬化性樹脂材料を使用する場合には、加圧接着が終了した時点で紫外線を一定量照射する。
【0036】
以上の工程により、枠状シール材5によって有機EL構造体2が封止された有機EL用セル9を作製することができる。
【0037】
そして、本実施形態においては、前記有機EL用セル9に対し、真空状態とされた作業室内のイオン源部11と対向する位置において、前記有機EL用セル9の前記第1基板1および第2基板2をその対向方向に押圧しながら、前記有機EL用セルの押圧方向に延在する軸を中心として360°回転させ、前記枠状シール材5の全外周における該有機EL用セル9の側部、特に、該枠状シール材5と第1基板および第2基板2との接続界面部分にダイヤモンドライクカーボン膜8をイオンプレーティング法によって成膜する。
【0038】
イオンプレーティング法の原理は、真空環境に成膜原料ガスを導入すると、直流アーク放電プラズマ中で炭化水素イオンや励起されたラジカルが発生する。その炭化水素イオンは直流の負電圧に印加されたターゲットとしての有機EL用セル9の側部に、負電圧に応じた電気的エネルギーで衝突し、固体化し、成膜されるという原理である。
【0039】
この成膜方法は、非平衡プラズマを用いるため、成膜時の有機EL用セル9の温度は200℃以下とすることができ、前記有機EL構造体3を破壊するほどの高温を必要としない。よって、有機EL素子の製造方法の工程にこの成膜方法を採用することで、有機EL構造体2を損なうことがなく、発光品位の良好な有機EL素子を作製することができる。
【0040】
そして、図2は、ダイヤモンドライクカーボン膜を前述のイオンプレーティング法により成膜する有機EL素子の製造装置の要部構造を示す説明図である。
【0041】
本実施形態の有機EL素子の製造装置は、真空状態とされる作業室内に、前記イオンプレーティング法を実行する成膜機構としてのイオン源部11と、前記イオン源部11と対向する位置において、有機EL用セル9を前記両基板1、2の対向方向に挟持・押圧可能な押圧機構と、前記イオン源部11と対向する位置において、前記有機EL用セル9を前記有機EL用セル9の押圧方向を軸方向として360°回転可能とされた回転機構とを備えている。
【0042】
すなわち、内部の気体を排出する真空排気口(図示せず)を有する真空チャンバ内(図示せず)に、成膜原料ガスとしての炭化水素系ガスを導入するガス導入口12を配設する。ガス導入口12の近傍には、フィラメント電流によって熱電子を発生させるフィラメント13と、前記熱電子を加速して原料ガス分子としての炭化水素系ガス分子に衝突させてプラズマ化させるメッシュ状のアノード電極14とを有するイオン源部11と、このイオン源部11に対向する位置に配置され、有機EL用セル9を挟持し、押圧した状態で回転可能なセルホルダ15と、前記セルホルダ15の反イオン源部側に配設され、プラズマ内のイオンを吸引する電圧を印加可能な対向電極部16とを有する。
【0043】
そして、前記フィラメント13はフィラメント電源17を有し、アノード電極14はアノード電源18を有し、バイアス電極16は高電圧のバイアス電源18を有しており、図示しない制御部により各電源のオン、オフが制御されるように構成されている。
【0044】
ここで、本実施形態における前記セルホルダ15は、前記押圧機構と回転機構を兼ねる構成とされており、図2乃至図5に示すように、1乃至複数枚の有機EL用セル9を挟持するべく、対向させて配設された一対の押圧アーム20を有している。
【0045】
前記各押圧アーム20は、円柱状の本体の基部を回転駆動用モータ30に接続された固定アーム部21と、前記固定アーム部21に形成されたスライド軸23を嵌挿させる嵌挿孔25が形成された略円筒状の本体を有し、前記スライド軸23に沿ってスライド自在とされ、前記固定アーム部21と一体となって回転可能に形成された可動アーム部22とを有している。
【0046】
すなわち、前記固定アーム部21は、前記本体の先端部に円形フランジ24が形成されており、前記先端部には該本体の回転軸の延長上に位置させてスライド軸23が延設されている。前記スライド軸23の先端外周部には、前記可動アーム部22に形成されたスライド溝26に係合して該可動アーム部22のスライド移動を案内するとともに、前記固定アーム部21の回転駆動力を前記スライド溝26を介して該可動アーム部22に伝達する凸状係合部23Aが形成されている。本実施形態においては、前記凸状係合部23Aは、前記スライド軸23の先端外周部に180°の位置関係で2個、形成されている。
【0047】
また、前記可動アーム部22は、前記固定アーム部21に形成されたスライド軸23を嵌挿させる嵌挿孔25が形成された略円筒状の本体を有し、前記嵌挿孔25の開口部が形成された前記本体の基端部には、前記固定アーム部21に形成された円形フランジ24と対向させて配置される円形フランジ27が形成されている。そして、前記本体の嵌挿孔25の内周面には、前記固定アーム部21のスライド軸23に形成された凸状係合部23Aを案内し、かつ、前記固定アーム部21の回転駆動力が前記凸状係合部23Aを介して伝達されるスライド溝26が長手方向に延在させて形成されている。本実施形態においては、前記スライド溝26は、前記嵌挿孔25の内周面に180°の位置関係で2本形成されている。そして、前記可動アーム部22の先端には、挟持対象の有機EL用セル9の基板1、2の表面に当接させる当接面を有する先端アーム部28が形成されている。
【0048】
そして、前記各押圧アーム20は、可動アーム部22の前記スライド溝26内に、固定アーム部21のスライド軸23に形成された凸状係合部23Aを位置させながら、前記スライド軸23を前記可動アームの嵌挿孔25内に嵌挿するとともに、前記固定アーム部21に形成された円形フランジ24と可動アーム部22に形成された円形フランジ27との対向面間に、押圧付勢部材としてのばね部材29を介在させ、前記可動アーム部22の前記先端アーム部28を、相対する押圧アーム20側へ付勢させるように組立られている。これにより、前記押圧アーム20はその先端アーム部28間に1乃至複数枚の有機ELセル9を挟持し、かつ、押圧可能とされている。
【0049】
そして、前記両押圧アーム20は、回転駆動用モータ30を同トルクで、互いに異なる方向へ回転させることにより、前記両押圧アーム20間に挟持される有機EL用セル9は、前記イオン源部11と対向位置において、前記両押圧アーム20とともに、前記有機EL用セルの押圧方向に延在し、図2中に太矢印で示すイオンの配向方向と直交する方向に配置された回転軸、すなわち、本実施形態においては両押圧アーム20の回転軸を中心に360°回転可能とされている。
【0050】
本実施形態においては、このように構成された有機EL素子の製造装置を用い、有機ELセルの前記シール材5が配設された全外周にダイヤモンドライクカーボン膜8を成膜する。
【0051】
すなわち、本実施形態においては6枚の有機ELセル9を前記有機EL素子の製造装置のセルホルダ15を構成する両押圧アーム20間に挟持させ、該両押圧アーム20によって前記6枚の有機ELセル9を押圧させる。
【0052】
その際、図3に示すように、先端アーム部28の当接面を対向当接させた状態とされた両押圧アーム20の各可動アーム部22を、前記ばね部材29の付勢力に抗いつつ固定アーム部21の基部側へ押し戻し、図4に示すように、両押圧アーム20間に間隙を形成し、この間隙に6枚の有機ELセル9を介在させ、図5に示すように、前記ばね部材20の付勢力を再び利用して、前記先端アーム部28の前記当接面を、積層された6枚の有機ELセル9の外郭に位置する基板表面に当接させるとともに、有機ELセル9を基板1、2の対向方向(有機ELセル9の積層方向)に押圧させた状態を保持させる。
【0053】
そして、前記真空チャンバ内を真空排気口から真空ポンプ(図示せず)によって排気し、高真空状態(10−7Torr程度)とする。
【0054】
そして前記ガス導入口12から一定流量の炭化水素系ガスを前記真空チャンバ内に供給し、該真空チャンバ内のガス圧を一定(10−4〜10−3Torr程度)に維持する。
【0055】
このとき、本実施形態の有機EL素子9の製造装置を用いれば、真空環境下において、前記押圧機構により、一対の押圧アーム20を用いて有機EL用セル9を挟持し、かつ、押圧することで、成膜機構によりダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する際に、有機EL用セル9の前記2枚の基板1、2と枠状シール材5とで囲繞された発光空間内の内圧が上昇して体積が膨張し、シール破断が生じたり、枠状シール材5に気道が発生することを抑止することが可能となる。
【0056】
そして、フィラメント電源17によって前記フィラメント13に20〜40A程度の電流を流し、フィラメント13から熱電子を発生させる。さらにアノード電源18によってアノード電極14に正の電圧を印加し、前記熱電子をアノード電極14に向かって加速させ、イオン源部11内の炭化水素系ガスの分子に衝突させてこの分子を正負のイオンに分解し、イオン源部11内に炭化水素系ガスのプラズマを発生させる。
【0057】
この状態で、高圧のバイアス電源18によって、前記セルホルダ15の反イオン源部側(背面側)に配設されたバイアス電極16に負の高電圧を印加し、イオン源部11のプラズマ内の正電荷を有する炭化水素系ガスのイオンのみを加速して、前記バイアス電極16の直前部に保持された、ターゲットとしての有機ELセル9の側部に高いエネルギで衝突させ、前記有機ELセル9の枠状シール材5の外方に前記炭化水素系ガスの正イオン成分すなわち炭素からなる均一な膜厚のダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する。
【0058】
このダイヤモンドライクカーボンの成膜時に、各押圧アーム20に接続された回転駆動用モータ30を駆動させ、前記イオン源部11に対し、ターゲットである有機EL用セル9の全外周部を順次対向させるようにすることで、前記枠状シール材5の全外周における該有機EL用セル9の側部、特に、図1中、黒矢印で示す、該枠状シール材5と第1基板1および第2基板2との接続界面部分にダイヤモンドライクカーボン膜8を成膜することができる。
【0059】
そして、最後に、図1に示すように、前記電極端子部7に貼着したテープ部材10を剥離して前記駆動用配線4の接続端子を露出させ、駆動用配線4のうちのデータ配線の接続端子にデータ配線ドライバ(図示せず)を接続し、走査配線の接続端子に走査配線ドライバ(図示せず)を接続して、所望の有機EL素子を得る。
【0060】
このような製造装置を用いて作製された有機EL素子は、前述のように、発光空間内に対する水分の浸入を完全に防止することができる構造を有し、ダークフレーム現象の発生を抑えて良好な発光品位を得ることのできる有機EL素子となる。
【0061】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、電気絶縁性を有する水分遮断膜は前記ダイヤモンドライクカーボンに限らないし、成膜方向も前述のイオンプレーティング法に限らない。
【0063】
また、有機EL素子の製造装置における押圧機構としての前記押圧アームは、前述の実施の形態の構成に限ることなく、1乃至複数枚の有機EL用セルを挟持し、かつ、基板の対向方向に押圧可能とされていればよい。
【0064】
また、前記有機EL素子の構成も、図1に示すように、平板状の2枚の基板を枠状シール部材で接続させて発光空間を形成する構成に限ることなく、図6に示すように、一方の基板として脚部が形成された基板を用い、前記脚部の先端部と他方の基板とをシール材(31)で接着させた構成であってもよい。その場合には、ダイヤモンドライクカーボン膜の必須な被覆対象箇所は、図6中に黒矢印で示す前記シール材の配設箇所となる。
【0065】
また、ダイヤモンドライクカーボン膜の被覆部は、枠状シール部路両基板との界面部分に限らず、枠状シール材の外表面あるいは両基板の端面としてもよい。枠状シール材の外表面にダイヤモンドライクカーボン膜が被覆されていると枠状シール材のバルク本体から浸入する水分を効果的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の有機EL素子の1実施の形態を示す要部断面図
【図2】本発明の有機EL素子の製造装置の1実施の形態を示す要部構成説明図
【図3】図2の有機EL素子の製造装置の一実施形態における押圧アームの有機ELセルを挟持していない状態を示す構成説明図
【図4】図2の有機EL素子の製造装置の一実施形態における押圧アームの有機ELセルを挟持させる前の状態を示す構成説明図
【図5】図2の有機EL素子の製造装置の一実施形態における押圧アームの有機ELセルを挟持した状態を示す構成説明図
【図6】本発明の有機EL素子の別の実施の形態を示す要部断面図
【符号の説明】
【0067】
1 第1基板
2 第2基板
3 有機EL構造体
4 駆動用配線
5 枠状シール材
6 吸湿材(捕水材)
7 電極端子部
8 ダイヤモンドライクカーボン膜
9 有機ELセル
10 テープ部材
11 イオン源部
12 ガス導入口
13 フィラメント
14 アノード電極
15 セルホルダ
16 バイアス電極
17 フィラメント電源
18 アノード電源
19 バイアス電源
20 押圧アーム
21 固定アーム部
22 可動アーム部
23 スライド軸
23A 凸状係合部
24 (固定アーム部の)フランジ
25 嵌挿孔
26 スライド溝
27 (可動アーム部の)フランジ
28 先端アーム部
29 ばね部材
30 回転駆動用モータ
31 シール材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と前記一対の基板を接合する枠状シール材とで囲繞された発光空間内に有機発光材料を含む有機EL構造体が配置された有機EL素子であって、前記枠状シール材の全外周における前記枠状シール材と両基板との界面部分が、電気絶縁性を有する水分遮断膜により被覆されてなることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記電気絶縁性を有する水分遮断膜はダイヤモンドライクカーボン膜である請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
有機発光材料を含む有機EL構造体および駆動用配線が形成された第1基板と、第1基板に対向配置される第2基板とを、枠状シール材を用いて接合して有機EL用セルを形成し、その後、真空環境下において、前記有機EL用セルの前記両基板をその対向方向に押圧しながら、前記枠状シール材の全外周における該枠状シール材と各基板との接続界面部分に対し、電気絶縁性を有する水分遮断膜を成膜することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
一対の基板を対向して接合した有機ELセルに対し、真空環境下において、成膜機構によりダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する有機EL素子の製造装置であって、一対の押圧アームを用いて1乃至複数枚の有機EL用セルを挟持し、かつ、基板の対向方向に押圧可能とされた押圧機構を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。
【請求項5】
前記一対の押圧アーム間に挟持された1乃至複数枚の有機EL用セルを、前記成膜機構の作用部の対向位置において、前記有機EL用セルの押圧方向に延在する軸を中心として360°回転可能とされた回転機構を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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