説明

有機EL素子とその製造方法

【課題】濃度消光を起こすことなく、連続駆動を行った後にも光路設計通りの最良な発光をなさせることができる有機EL素子と、その製造方法を提供する。
【解決手段】陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層62を含む機能層110を有してなる有機EL素子3である。有機発光層62は、陽極111側に配設されたホスト材料からなるホスト層63と、ホスト層63上で陰極12側に配設された、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層64との、積層構造になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を多数備えて構成される有機EL装置(有機EL装置)は、次世代ディスプレイとして数多くのメーカーで研究・開発がなされており、現在では、携帯電話への搭載など、小型ディスプレイ分野において量産が可能なところまで技術が確立されている。
ところが、ディスプレイ分野においては、現在でも小型・大型を問わず液晶(LCD)装置が主流であり、有機EL装置がこれに代わるには、例えば長寿命化や発光特性の向上など、いくつかの課題を解決しなければならない。
【0003】
そこで、従来では、長寿命化や発光特性の向上などを図るべく、例えば以下のような手法を用いている。
有機EL素子を点灯させるためには、発光層を含む機能層に電流を流さなければならない。しかし、基本的に電気を流しにくい性質の機能層に電流を大量に流すためには、機能層をナノオーダーにまで薄厚化する必要がある。すなわち、このような薄厚の機能層に電圧を印加することにより、必要な電流値を確保している。また、機能層を、例えば正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層などのように機能分類して積層することにより、有機EL素子の特性を大きく改善している。
【0004】
ところで、有機EL素子は、陽極と陰極との2つの電極で機能層を挟持した構造になっており、陽極から正孔を、陰極から電子をそれぞれ機能層に注入し、発光層中で正孔と電子とを再結合させることにより、発光する。すなわち、発光層中で正孔と電子とを再結合させることで励起子を生成し、励起状態から基底状態に戻るためにエネルギーを放出させ、放出したエネルギーの一部を光として取り出すことにより、発光させている。
【0005】
このような有機EL素子においては、正孔と電子とを再結合させる発光層を、キャリア輸送を担うホスト材料にゲスト材料としての蛍光色素をドープしたホスト−ゲスト材料系で形成することにより、特性が向上することが分かっている。
そして、特許文献1では、蒸着法によって正孔輸送層と発光層との間にゲスト分子のみで形成されるゲスト分子層を設けることで、連続駆動時にゲスト材料が陰極側に移動することによる輝度低下を軽減し、寿命向上を図っている。すなわち、ゲスト材料は陽極からの+(正)のチャージを受けることによって陰極側に移動するため、ゲスト分子層を陽極側に配設しておくことにより、ゲスト分子が陰極側に移動しても、発光層中に留まることで発光に寄与できるようにしている。
【特許文献1】特開2004−6102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の有機EL素子にあっても、ゲスト材料の移動という根本の解決には至っておらず、したがってより良好な輝度特性を得るには未だ不十分である。すなわち、連続駆動によるゲスト材料の移動に伴って発光層は、正孔と電子との再結合領域(再結合位置)、つまり光取り出し領域(光取り出し位置)が陰極側に移動する。しかし、有機EL素子は通常、予め設定した光取り出し領域に基づいて各有機層や電極の厚さなどが設定され、最良の発光が得られるように光路設計がなされている。つまり、光取り出し領域が移動すると、光路設計がずれることによって得られる光の色味が変わるなど輝度変化が起こり、設定した最良の発光が得られなくなってしまうのである。
また、ゲスト材料の移動に伴ってゲスト材料が濃縮され、設定以上の濃度になると、濃度消光によって輝度低下が起こるといった課題もある。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、濃度消光を起こすことなく、連続駆動を行った後にも光路設計通りの最良な発光をなさせることができる有機EL素子と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む機能層を有してなる有機EL素子において、
前記有機発光層は、前記陽極側に配設されたホスト材料からなるホスト層と、該ホスト層上で前記陰極側に配設された、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層との、積層構造になっていることを特徴としている。
【0009】
この有機EL素子によれば、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層が、ホスト層上で陰極側に配設されているので、連続駆動時にゲスト材料が陰極側に移動しようとしても、既に陰極側に配置されていることによってほとんど移動が起こらず、したがって光取り出し領域の移動もほとんど起こらない。よって、光取り出し領域(位置)の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになる。また、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光が防止される。
【0010】
また、前記ホスト−ゲスト層は、厚さが1nm以上5nm以下に形成されているのが好ましい。
このようにホスト−ゲスト層の厚さを十分に薄くすることにより、ゲスト材料の陰極側への移動がほとんどなくなり、光路設計通りの最良な発光がより確実に得られるようになる。
【0011】
また、前記ホスト−ゲスト層は、ゲスト材料の割合が1重量%以上、10重量%以下に調整されているのが好ましい。
ホスト−ゲスト層におけるゲスト材料の割合を前記範囲に調整しておけば、発光効率がより良好になり、したがって優れた発光特性が得られるようになる。
【0012】
また、前記機能層は、前記有機発光層と前記陰極との間に電子輸送層を有し、さらに該有機輸送層と前記有機発光層との間にホールブロック層を有しているのが好ましい。
このようにホールブロック層を設けることにより、+(正)にチャージされたゲスト材料の陰極側への移動が確実に抑えられ、したがってゲスト材料が電子輸送層にまで移動し、ここで発光をなさせるといった不都合が回避される。
【0013】
本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極と陰極との間に有機発光層を形成する工程を有する、有機EL素子の製造方法において、
前記有機発光層を形成する工程は、前記陽極側に、第1の溶媒にホスト材料を溶解してなる第1の液状材料を配し、その後乾燥してホスト層を形成するホスト層形成工程と、
前記ホスト層上に、前記第1の溶媒より低沸点の第2の溶媒にゲスト材料を溶解してなる第2の液状材料を配し、前記ホスト層の表層部を再溶解させて該表層部のホスト材料中に前記ゲスト材料を分散させ、その後、乾燥してホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層を形成するホスト−ゲスト層形成工程と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
この有機EL素子の製造方法によれば、ホスト層を形成した後、このホスト層上に第2の液状材料を配するので、この第2の液状材料中の第2の溶媒でホスト層の表層部を一旦再溶解させ、該表層部のホスト材料中に前記ゲスト材料を分散させることができる。したがって、その後乾燥することにより、先に形成したホスト層の表層部のみに、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層を選択的に形成することができる。また、第2の溶媒として第1の溶媒より低沸点のものを用いているので、この第2の溶媒がホスト層の底側にまで浸透して該部位を再溶解させることなく、比較的速く気化してホスト層の再溶解をその表層部のみにとどめることができる。さらに、このようにして形成することで、ホスト−ゲスト層においてホスト材料とゲスト材料とが相分離を起こしたり、面方向においてゲスト材料が偏析するのを防止することができる。
そして、このようにして得られた有機EL素子は、前述したように光取り出し領域の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになる。また、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光が防止される。
【0015】
また、前記第2の溶媒は、沸点が150℃以下であるのが好ましい。
このようにすれば、第2の溶媒が例えば常温でもある程度気化が進みことにより、先に形成したホスト層の再溶解を、その表層部のみに限定的に起こさせるのが容易になる。
【0016】
また、前記第2の液状材料を、前記ホスト層上に液滴吐出法で配するのが好ましい。
このようにすれば、ホスト層上に配する第2の液状材料の量を所望の量にすることができ、したがってホスト層の再溶解を設定した厚さにとどめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明をより詳しく説明する。
図1は、本発明の有機EL素子を多数備えてなる有機EL装置の配線構造を示す説明図、図2は、図1に示した有機EL装置の平面模式図、図3は、図1に示した有機EL装置の要部の断面模式図である。
【0018】
図1に示すように有機EL装置1は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101及び信号線102の各交点付近に、画素領域Aを形成したものである。
【0019】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が接続されている。走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が接続されている。また、画素領域Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ112と、このスイッチング用の薄膜トランジスタ112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、該保持容量capによって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用の薄膜トランジスタ113と、この駆動用薄膜トランジスタ(駆動用TFT)113を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極(画素電極)111と、この画素電極111と陰極(対向電極)12との間に挟み込まれた機能層110とが設けられている。
なお、陽極(画素電極)111と陰極(対向電極)12と機能層110とを備えてなることにより、有機EL素子が構成されている。
【0020】
このような構成によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用の薄膜トランジスタ112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ113のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ113のチャネルを介して、電源線103から画素電極111に電流が流れ、さらに機能層110を介して陰極12に電流が流れる。すると、機能層110はこれを流れる電流量に応じて発光する。
【0021】
また、図2及び図3に示すようにこの有機EL装置1は、ガラス等からなる透明な基板2と、マトリックス状に配置された有機EL素子とを具備して構成されている。図3に示すように本発明の一実施形態となる有機EL素子3は、基板2上に形成されたもので、画素電極111と、機能層110と、陰極12とを備えて構成されている。機能層110は、図4に示すように画素電極111側から順に、正孔注入・輸送層60、発光層(有機発光層)62、ホールブロック層66、電子輸送層68を積層したもので、電子輸送層68上に陰極12が設けられたことにより、画素電極(陽極)111と陰極12との間に配設され、挟持されたものとなっている。
【0022】
また、図3に示すように基板2の厚さ方向において、前記有機EL素子3を含むEL素子部10と基板2との間には、回路素子部14が形成されている。この回路素子部14には、前述の走査線、信号線、保持容量、スイッチング用の薄膜トランジスタ、駆動用の薄膜トランジスタ113等が形成されている。
また、陰極12は、その一端が基板2上に形成された陰極用配線(図示略)に接続されており、図2に示すように、この配線の一端部12aがフレキシブル基板5上の配線5aに接続されている。なお、この配線5aは、フレキシブル基板5上に備えられた駆動IC6(駆動回路)に接続されている。
【0023】
また、有機EL装置1は、機能層110から基板2側に発した光が、回路素子部14及び基板2を透過して基板2の外側(観測者側)に出射されるとともに、機能層110から基板2と反対の側に発した光も、陰極12に反射されて回路素子部14及び基板2を透過し、基板2の外側(観測者側)に出射される、いわゆるボトムエミッション型となっている。
【0024】
図3に示すように回路素子部14には、基板2上にSiOを主体とする下地保護層281が下地として形成され、その上にはシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。
また、前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域が、チャネル領域241aとされている。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0025】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続されている。
【0026】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層には、平坦化膜284が形成されている。この平坦化膜284は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、駆動用TFT113やソース電極243、ドレイン電極244などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0027】
そして、この平坦化膜284の表面上には画素電極(陽極)111が形成されており、この画素電極111は、前記平坦化膜284に設けられたコンタクトホール111aを介してドレイン電極244に接続されている。すなわち、画素電極111は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。なお、画素電極111は、ボトムエミッション型である本実施形態では、透明導電材料によって形成され、具体的にはITOが好適に用いられている。
【0028】
画素電極111が形成された平坦化膜284の表面上には、画素電極111と、これの周縁部を覆う無機隔壁25とが形成されており、さらにこの無機隔壁25上には、有機隔壁221が形成されている。ここで、無機隔壁25はSiOからなっており、有機隔壁221はアクリル系やポリイミド系等の耐熱性絶縁性樹脂からなっている。
そして、画素電極111上には、無機隔壁25に形成された開口25aと、有機隔壁221に形成された開口221aとの内部、すなわち画素領域に、前記した機能層110が形成されている。
【0029】
機能層110は、図4に示したように画素電極111側から順に、正孔注入・輸送層60、発光層62、ホールブロック層66、電子輸送層68が積層されて構成されている。
正孔注入・輸送層60は、その形成材料として、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられている。ただし、これ以外にも、従来公知の正孔注入・輸送性材料を用いることができるのはもちろんである。
【0030】
発光層62は、前記正孔注入・輸送層60上に形成されたホスト層63と、このホスト層63上に形成されたホスト−ゲスト層64との積層構造になっている。
ホスト層63は、ホスト材料からなるものである。ホスト材料としては、例えばCBP、BAlq(Bis-(2-methyl-8-quinolinolate)-4-(phenylphenolate)aluminium)、mCP、CDBP、DCB、P06、SimCP、UGH3などが挙げられ、特に以下の化学式で示すCBPが好適に用いられる。
【0031】
【化1】

【0032】
ホスト−ゲスト層64は、前記のホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるものである。ゲスト材料としては、蛍光材料と燐光材料とがあり、蛍光材料としては、アメリカンダイソース社製のADS109GE、ADS111RE、ADS136BEなどが挙げられる。また、燐光材料としては、例えばIr(ppy)、ppyIr(acac)、btIr(acac)、btpIr(acac)、FIrpic、Ir(pmb)、FIrN、Firtaz、(FMeOppy)Ir(acac)などが挙げられ、特に以下の化学式で示すIr(ppy)が好適に用いられる。
【0033】
【化2】

【0034】
このホストゲスト層64は、後述するように前記のホスト材料からなる層の表層部にゲスト材料が配されたことにより、ホスト材料中にゲスト材料が均一に分散させられて形成されたものである。
このようなホスト層63とホスト−ゲスト層64とが積層されて構成された発光層62は、その厚さが例えば20nm以上50nm以下程度に形成されており、そのうちホスト−ゲスト層は、厚さが1nm以上5nm以下に形成されている。このように、ホスト−ゲスト層64は発光層62の表層部のみ、つまり陰極12側のみに形成されており、その厚さも十分に薄くなっているため、発光層62は、駆動時にゲスト材料の移動がほとんど起こらず、したがって光取り出し領域の移動もほとんど起こらないようになっている。
【0035】
なお、ホスト−ゲスト層64は、層中におけるゲスト材料の割合が、1重量%以上10重量%以下となるように調整され、形成されている。ゲスト材料の割合をこのような範囲に調整しておくことにより、発光効率がより良好になり、したがって優れた発光特性が得られるようになる。
【0036】
ホールブロック層66は、例えばBAlqなどによって形成されたものである。このホールブロック層66は、前記ホスト−ゲスト層64中のゲスト材料が+(正)にチャージされ、陰極12側に移動するべく、ホールブロック層66から抜け出て電子輸送層68側に移動するのを抑制するものである。
電子輸送層68は、例えばAlq3などによって形成されたもので、陰極12から注入された電子を発光層62側に輸送するものである。
【0037】
陰極12は、前記発光層70を覆って形成されたもので、例えばLiFが厚さ5nm程度に形成され、その上にAlが厚さ300nm程度に形成されて構成されたものである。このような積層構造の電極とされたことにより、特にAlは反射層としても機能するものとなっている。なお、陰極12についても透明な材料を用いれば、発光した光を陰極側からも出射させることができる。透明な材料としては、ITO、Pt、Ir、Ni、もしくはPdを用いることができる。膜厚としては、透明性を確保するうえで、75nm程度とするのが好ましく、さらにこの膜厚より薄くするのがより好ましい。
【0038】
ここで、前記の機能層110を構成する各層や画素電極111、陰極12などの厚さは、予め設定した光取り出し領域、すなわちホスト−ゲスト層64の位置に基づいて設計(設定)され、これによって最良の発光が得られるように光路設計がなされている。
また、この陰極12上には、接着層51を介して封止基板(図示せず)が貼着されている。
【0039】
前記機能層110において正孔注入・輸送層60は、その内部において正孔を輸送する機能を有するとともに、正孔を発光層62側に注入・輸送する機能をも有している。このような正孔注入・輸送層60を画素電極111と発光層62との間に設けることにより、発光層62の発光効率、寿命等の素子特性を向上させることができる。
【0040】
また、前記発光層62においてホスト層63は、本発明ではゲスト材料が添加されていないため、ここでは発光がほとんど起こらず、したがって実質的には正孔輸送層として機能するようになっている。一方、ホスト−ゲスト層64は、ホスト材料中にゲスト材料が、1重量%以上10重量%以下となるように調整され、形成されているので、優れた発光効率で良好に発光するようになっている。
さらに、発光層62は、駆動時にゲスト材料の移動がほとんど起こらず、したがって正孔と電子とが再結合し、光を取り出す光取り出し領域の移動もほとんど起こらないようになっているため、前記の光路設計がずれることがなく、したがって常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになっている。
【0041】
このような構成の有機EL装置1を製造するには、従来と同様にして基板2上に回路素子部14を形成する。そして、基板2の全面を覆うように画素電極111となる透明導電膜を、ITOによって形成する。次いで、この導電膜をパターニングすることにより、図5(a)に示すように平坦化膜284のコンタクトホール111aを介してドレイン電極244と導通する画素電極111を形成する。
【0042】
次いで、画素電極111上および平坦化膜284上に、SiO等の無機絶縁材料をCVD法等で成膜して隔壁層(図示せず)を形成し、続いて、公知のホトリソグラフィー技術、エッチング技術を用いて隔壁層をパターニングする。これにより、図5(b)に示すように、形成する各有機EL素子3の画素領域毎に開口25a(図示略)を形成すると同時に、無機隔壁25を形成する。
【0043】
次いで、図5(c)に示すように、無機隔壁25の所定位置、詳しくは画素領域を囲む位置に樹脂等によって有機隔壁221を形成する。
次いで、このようにして画素電極111と無機隔壁25と有機隔壁221とを形成した側の面を酸素プラズマ処理し、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させる。具体的には、基板2を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。
【0044】
次いで、撥液化処理を行うことにより、特に有機隔壁221の上面及び側面の濡れ性を低下させる。具体的には、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基板2を室温まで冷却することで、有機隔壁221の上面及び側面を撥液化し、その濡れ性を低下させる。
なお、このCFプラズマ処理においては、画素電極111の露出面および無機隔壁25についても多少の影響を受けるが、画素電極111の材料であるITOおよび無機隔壁25の構成材料であるSiOなどはフッ素に対する親和性に乏しいため、酸素プラズマ処理で濡れ性が向上した面は濡れ性がそのままに保持される。
【0045】
次いで、前記有機隔壁221に囲まれた領域内に正孔注入・輸送層60を形成する。この正孔注入・輸送層60の形成工程では、スピンコート法や液滴吐出法が採用されるが、本実施形態では、有機隔壁221に囲まれた領域に正孔注入・輸送層60の形成材料を選択的に配する必要上、特に液滴吐出法であるインクジェット法が好適に採用される。このインクジェット法により、正孔注入・輸送層60の形成材料であるPEDOT−PSSの分散液を前記画素電極111の露出面上に配し、その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、厚さ50nmの正孔注入・輸送層60を形成する。
【0046】
次いで、この正孔注入・輸送層60上に、要部拡大図である図6(a)に示すように、前記ホスト材料からなるホスト層63aを形成する。ホスト層63aの形成に際しては、その形成材料として、第1の溶媒にホスト材料を溶解してなる第1の液状材料を用いる。そして、この第1の液状材料をインクジェット法(液滴吐出法)で前記の有機隔壁221に囲まれた領域の正孔注入・輸送層60上に配し、その後乾燥することにより、ホスト層63aを形成する。前記第1の溶媒としては、沸点が比較的高い溶媒が用いられ、具体的には、ベンゼンやトリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンなどの、沸点が170℃〜300℃程度の高沸点溶媒が用いられる。本実施形態では、ホスト材料としてCBPを用い、第1の溶媒としてシクロヘキシルベンゼン(沸点;235〜236℃)を用いている。
【0047】
次いで、前記ホスト層63a上に第2の液状材料を配し、前記ホスト層63aの表層部を再溶解させる。第2の液状材料としては、第2の溶媒にゲスト材料を溶解してなるものを用いる。また、第2の溶媒としては、前記第1の溶媒より低沸点のものが用いられ、さらに前記第1の溶媒と同様の極性を有するものが用いられる。具体的には、トルエン、キシレン、クロロホルム、シクロヘキサンノンなどの、沸点が70℃以上150℃以下程度の低沸点溶媒が用いられ、また、この第1の溶媒と同様に、非極性溶媒が用いられる。本実施形態では、ゲスト材料としてIr(ppy)を用い、第2の溶媒としてシクロヘキサノン(沸点;155.65℃)を用いている。
【0048】
そして、この第2の液状材料をインクジェット法(液滴吐出法)で前記の有機隔壁221に囲まれた領域のホスト層63a上に配することにより、前述したようにホスト層63aの表層部を再溶解させる。すなわち、第2の液状材料中の第2の溶媒は、第1の溶媒と同様の極性を有しているので、乾燥し硬化したホスト層63aの表層部は、第2の溶媒によって容易に再溶解する。すると、再溶解した表層部は、第2の溶媒中にてホスト材料にゲスト材料が分散し、これらホスト材料とゲスト材料とが均一に混ざり合う。そして、その状態で乾燥されることにより、図6(b)に示すように先に形成したホスト層63aの表層部のみに、ホスト材料中にゲスト材料が分散してなるホスト−ゲスト層64が選択的に形成される。そして、ホスト層63aは、その表層部がホスト−ゲスト層64となることで、残った部分が図4に示したホスト層63となる。
【0049】
ここで、第2の溶媒として第1の溶媒より低沸点のものを用いているので、この第2の溶媒はホスト層63aの底側(正孔注入・輸送層60側)にまで浸透して該部位を再溶解させることなく、比較的速く気化することにより、ホスト層63aの再溶解をその表層部のみに限定的に起こさせることができる。
また、特に第2の液状材料を液滴吐出法で配するので、吐出量を予め設定した所望の量にすることができ、したがってホスト層63aの再溶解を設定した厚さにとどめ、乾燥後に得られるホスト−ゲスト層64の厚さを設定した厚さ、すなわち1nm以上5nm以下に調整することができる。
【0050】
さらに、この再溶解させる厚さと、第2の液状材料中のゲスト材料の量とにより、再溶解後、乾燥によって形成するホスト−ゲスト層64における、ゲスト材料の濃度(割合)を設定した濃度、すなわち1重量%以上10重量%以下に調整することができる。
また、このようにしてホスト−ゲスト層64を形成することで、このホスト−ゲスト層64においてホスト材料とゲスト材料とが相分離を起こしたり、乾燥時の対流に起因してゲスト材料がその面方向において偏析するのを防止することができる。
【0051】
次いで、図6(c)に示すように前記の有機隔壁221に囲まれた領域のホスト−ゲスト層64上(発光層62上)に、ホールブロック層の形成材料(例えばBAlq)を溶解あるいは分散させてなる液状材料を液滴吐出法等によって配し、その後乾燥することにより、ホールブロック層66を形成する。ホールブロック層の形成材料については、特に溶媒(あるいは分散媒)として前記第2の溶媒と異なる極性のものを用い、ホスト−ゲスト層64を再溶解しないようにするのが好ましい。
【0052】
続いて、前記の有機隔壁221に囲まれた領域のホールブロック層66に、電子輸送層の形成材料(例えばAlq3)を溶解あるいは分散させてなる液状材料を液滴吐出法等によって配し、その後乾燥することにより、電子輸送層68を形成する。これにより、有機隔壁221に囲まれた領域に機能層110が形成される。
【0053】
次いで、図6(d)に示すように、前記機能層110及び有機隔壁221を覆って例えばLiFを厚さ5nm程度、アルミニウムを厚さ300nm程度に積層し、陰極12を形成する。また、この陰極12の形成では、前記正孔注入・輸送層60や発光層62などの形成とは異なり、蒸着法やスパッタ法等で行うことにより、画素領域にのみ選択的に形成するのでなく、基板2のほぼ全面に陰極12を形成する。
その後、前記陰極12上に接着層51を形成し、さらにこの接着層51によって封止基板30を接着し、封止を行う。これにより、本実施形態の有機EL素子3を備える有機EL装置1を得る。
【0054】
このような製造方法にあっては、ホスト層63aを形成した後、このホスト層63上に第2の液状材料を配してホスト層63aの表層部を一旦再溶解させるので、その後乾燥することにより、ホスト−ゲスト層64をホスト層63aの表層部に選択的に形成することができる。また、第2の溶媒として第1の溶媒より低沸点のものを用いているので、ホスト層63aの再溶解をその表層部のみに限定的に起こさせることができ、したがって前記したようにホスト−ゲスト層64をホスト層63aの表層部に選択的に形成することができる。
さらに、このようにして形成することで、ホスト−ゲスト層64においてホスト材料とゲスト材料とが相分離を起こしたり、面方向においてゲスト材料が偏析するのを防止することができる。
【0055】
また、このようにして得られた有機EL素子3にあっては、光取り出し領域の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになる。さらに、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光も防止されたものとなる。
【0056】
次に、前記有機EL装置1の応用例として、該有機EL装置1を備えた電子機器の具体例について説明する。
図7(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図7(a)において、符号1000は携帯電話本体を示し、符号1001は前記有機EL装置1からなる表示部を示している。
図7(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図7(b)において、符号1100は時計本体を示し、符号1101は前記有機EL装置1からなる表示部を示している。
図7(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図7(c)において、符号1200は情報処理装置、符号1202はキーボードなどの入力部、符号1204は情報処理装置本体、符号1206は前記有機EL装置1からなる表示部を示している。
図7(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図7(d)において、薄型大画面テレビ1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、前記有機EL装置1からなる表示部1306を備える。
【0057】
図7(a)〜(d)に示す電子機器1000,1100,1200,1300は、前記有機EL装置1を備えているので、この有機EL装置1からなる表示部1001,1101,1206,1306が長寿命化していることにより、これら電子機器1000,1100,1200,1300自体も、表示部1001,1101,1206,1306が長寿命化し、長期信頼性が確保されたものとなる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、前記実施形態では、機能層110を正孔注入・輸送層60と発光層62とホールブロック層66と電子輸送層68とから構成したが、正孔注入・輸送層を従来公知の正孔注入層と正孔輸送層との二層構造としてもよく、さらに、ホールブロック層66や電子輸送層68を省略することもできる。
また、前記実施形態では、発光層62で発光した光を基板2側から出射させる、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置に本発明の有機EL素子を適用した例を示したが、基板2と反対側の、封止基板側から光を出射させる、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置にも本発明を適用することができる。
さらに、本発明の有機EL素子の用途としては、前記の電子機器以外にも、照明やプリンタのヘッドなども挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の有機EL素子を備えた有機EL装置の配線構造説明図である。
【図2】図1の有機EL装置の平面模式図である。
【図3】図1の有機EL装置の要部断面模式図である。
【図4】電極と機能層との構成を模式的に示す図である。
【図5】(a)〜(c)は図1の有機EL装置の製造方法を説明する工程図である。
【図6】(a)〜(d)は図5に続く製造方法を説明する工程図である。
【図7】(a)〜(d)は本発明の電子機器の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1…有機EL装置、2…基板、3…有機EL素子、12…陰極、60…正孔注入・輸送層、62…発光層(有機発光層)、63…ホスト層、64…ホスト−ゲスト層、66…ホールブロック層、68…電子輸送層、110…機能層、111…画素電極(陽極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む機能層を有してなる有機EL素子において、
前記有機発光層は、前記陽極側に配設されたホスト材料からなるホスト層と、該ホスト層上で前記陰極側に配設された、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層との、積層構造になっていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記ホスト−ゲスト層は、厚さが1nm以上5nm以下に形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記ホスト−ゲスト層は、ゲスト材料の割合が1重量%以上、10重量%以下に調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記機能層は、前記有機発光層と前記陰極との間に電子輸送層を有し、さらに該有機輸送層と前記有機発光層との間にホールブロック層を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
陽極と陰極との間に有機発光層を形成する工程を有する、有機EL素子の製造方法において、
前記有機発光層を形成する工程は、前記陽極側に、第1の溶媒にホスト材料を溶解してなる第1の液状材料を配し、その後乾燥してホスト層を形成するホスト層形成工程と、
前記ホスト層上に、前記第1の溶媒より低沸点の第2の溶媒にゲスト材料を溶解してなる第2の液状材料を配し、前記ホスト層の表層部を再溶解させて該表層部のホスト材料中に前記ゲスト材料を分散させ、その後、乾燥してホスト材料中にゲスト材料が分散されてなるホスト−ゲスト層を形成するホスト−ゲスト層形成工程と、を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2の溶媒は、沸点が150℃以下であることを特徴とする請求項5記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2の液状材料を、前記ホスト層上に液滴吐出法で配することを特徴とする請求項5又は6に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−73850(P2010−73850A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238970(P2008−238970)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】