説明

有機EL素子の製造方法と製造装置

【課題】機能液の基板への飛散によって生じる欠陥を解消できる有機EL素子の製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子用の機能性材料を有する機能液を吐出するノズル1が基板2と基板外の上方を往復移動する工程と、前記往復移動に同期させて基板をピッチ送りする工程と、前記ノズルから機能性材料溶液を基板上に吐出して機能性材料のパターンを形成する工程と、からなる有機EL素子のノズル塗布法による製造方法において、前記ノズルの上方から下方へ向けて、基板と基板外において気体を送風する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法と製造装置に関し、特に機能液の基板への飛散によって生じる欠陥を解消できる有機EL素子の製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機分子自体が発光するため、有機EL素子を利用した画像表示装置は構造が単純、コントラストが高いなどの特徴を持つことで近年注目されている。そのため、テレビやモバイル機器のディスプレイ、照明などの様々な用途に向けて、有機EL素子に関する研究開発が盛んに行われている。
【0003】
有機EL素子の構成物質である有機EL材料をパターニングする方法としては、発光材料をシャドーマスクを介して真空蒸着する方法、有機溶剤に溶解させた発光材料をインクジェット、ノズル塗布、ディスペンサー、グラビア印刷、スクリーン印刷、凸版印刷などで所定部位に塗布する方法、紫外線照射により不要部分を破壊する方法等がある。中でも、吐出塗布方法(ノズル塗布、インクジェットなど)は、材料の利用効率が高く、製造コストの点で有利であるため、実用化に向けて種々の検討がなされている。特に、最近では、ノズル塗布法はインクジェットと比べ、装置機構が簡便であること、適用できるインク物性の幅が広いこと、などから盛んに検討がなされている。
【0004】
ノズル塗布法は、機能性材料を有する機能液を、定流量ポンプを用いて一定の速度でノズルに送液し、ノズルから液を連続的に吐出させたまま、ノズルを往復運動させ、基板をピッチ送りし、機能性材料のパターンを形成する方法である。
【0005】
ノズル塗布法において、前記機能液は、ノズルから吐出された瞬間は、液柱状態となっているが、ノズルの吐出孔からある程度(条件によるが1mm程度)の距離以降では、フリーの状態となり、表面張力によって安定な液滴状態となる。基板に対しては、液柱状態となっている距離で塗布を行うが、基板が無い領域、すなわちノズルの往復運動の端部やノズル加速・減速領域では、機能液が塗着する基板が無いため、吐出された機能液は液滴となる。この液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、基板に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点がある。
【0006】
上記問題点に対して、基板が無い領域に、スリット溝(特許文献1)や傾斜部分(特許文献2)、塗着部材(特許文献3)を設け、液滴を受ける技術があるが、これでも欠陥を防ぐには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−231192号公報
【特許文献2】特開2008−289960号公報
【特許文献3】特開2008−284456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、機能液の基板への飛散によって生じる欠陥を解消できる有機EL素子の製造方法と製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、有機EL素子用の機能性材料を有する機能液を吐出するノズルが基板と基板外の上方を往復移動する工程と、前記往復移動に同期させて基板をピッチ送りする工程と、前記ノズルから機能性材料溶液を基板上に吐出して機能性材料のパターンを形成する工程と、からなる有機EL素子のノズル塗布法による製造方法において、前記ノズルの上方から下方へ向けて、基板と基板外において気体を送風することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供するものである。
【0010】
このような構成によれば、前記機能性材料溶液の液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、基板に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点を解消することができる。
【0011】
また本発明は、フィルターを通した気体を、送風することを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供するものである。
【0012】
このような構成によれば、送風する気体中に含まれる塵や埃が基板に付着することを解消することができ、有機EL素子の欠陥を解消することができる。
【0013】
また本発明は、前記気体は、前記機能性材料に対して不活性であることを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供するものである。
【0014】
このような構成によれば、機能性材料溶液の液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、基板に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点を解消することができる。さらに、構造の不安定性などによって気体を送風することが好ましくない機能性材料溶液を使用する場合にも、送風することができるようになる。
【0015】
また本発明は、基板外のノズルの移動範囲の下方に、液滴吸収部材を設けることを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供するものである。
【0016】
このような構成によれば、吸着部材が機能液を吸着することで機能液の液滴化を防ぎ、機能液の基板への飛散を抑えることができる。その結果、前記機能性材料溶液の液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、基板に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点を解消することができる。
【0017】
また本発明は、送風した気体を吸気する部分を設けることを特徴とする有機EL素子の製造方法を提供するものである。
【0018】
このような構成によれば、送風した気体を吸気する部分が機能液を吸収することで機能液の液滴化を防ぎ、機能液の基板への飛散を抑えることができる。その結果、前記機能性材料溶液の液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、基板に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点を解消することができる。また、吸気する部分を任意の位置に設置することで任意の気流を作り出すことができる。その結果、基板に当たる送風量の調整や送風量などを微調整することができるようになる。
【0019】
また本発明は、基板上に前記機能液を吐出する装置であって、基板と基板外の上方を往復移動しながら前記機能液を吐出するノズルと、基板を支えるステージと、前記ノズルの上方から下方へ基板と基板外に向けて機能液の基板への飛散を防ぐための気体を送風する送風ユニットと、時間当たり一定量の前記機能液を前記ノズルへ輸送する定流量ポンプと、を備えることを特徴とする有機EL素子の製造装置を提供するものである。
【0020】
このような構成によれば、有機EL素子用の機能性材料を有する機能液を吐出するノズルが基板と基板外の上方を往復移動する工程と、前記往復移動に同期させて基板をピッチ送りする工程と、前記ノズルから機能性材料溶液を基板上に吐出して機能性材料のパターンを形成する工程と、からなる有機EL素子のノズル塗布法による製造方法において、前記ノズルの上方から下方へ向けて、基板と基板外において気体を送風することを特徴とする有機EL素子の製造方法で有機EL素子を製造することができるようになるので、前記機能性材料溶液の液滴が、高速で往復運動するノズルの風に舞い上げられ、機能液の基板への飛散によって生じる欠陥を解消できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る有機EL素子の製造方法と製造装置では、ノズルの上方から気体を送風することで、機能液の基板への飛散による欠陥を解消できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の半導体素子の製造方法の一例を示す工程図である
【図1】本発明のノズル塗布法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の送風の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の吸収部材を有する有機EL素子の製造装置と製造方法の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の装置に吸気ユニットを有する有機EL素子の製造方法と製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第一実施態様〕
以下、本発明に係る図について説明する。図1は、本発明のノズル塗布法の一例を示す模式図である。基板固定ステージ7を備えたYθステージ8からなる土台上に基板2を設置する。ノズル1から基板2へ機能液を吐出して、基板2に機能液を塗着させて、機能性材料のパターンを形成する。ノズル1は図示のように、基板2内と基板2外を移動する。また、ノズル1は、基板2外では加速し、基板2内では等速で移動する。図2は、本発明の送風の一例を示す概念図である。図示のように、送風ユニット4を使用して、ノズル1の上方から下方へ向けて、基板2と基板2外において気体を送風する。
【0024】
第一実施態様に係る製造方法は、図1で示しているように、有機EL素子用の機能性材料を有する機能液を吐出するノズル1が基板2と基板2外の上方を往復移動し、前記往復移動に同期させて基板2をピッチ送りして、前記ノズル1から機能性材料溶液を基板2上に吐出して機能性材料のパターンを形成しているところへ、図2で示すような送風ユニット4を使用して、ノズル1の上方から下方へ向けて、基板2と基板2外において気体を送風するというものである。
【0025】
第一実施態様に係る製造方法によれば、液受け台に向かって吐出され浮遊している液滴、及び液受け台に溜まった液滴が、高速で往復運動するノズル1の風に舞い上げられ、基板2に塗着してしまい、欠陥を引き起こすという問題点を解消することができる。
【0026】
(基板)
基板2は、ガラス、樹脂フィルム、金属箔など特に限定されるものではないが、必要に応じて配線、スイッチング素子(TFT)ならびに陽極、絶縁膜ならびに撥液性隔壁が形成されている。また、基板2の大きさは、特に限定されない。基板2を支えるステージは、主に基板固定ステージ7を備えたYθステージ8が好ましい。基板固定ステージ7は、バキュームや固定具等によって基板2を固定する機能を有している。基板の平坦性を高くするため、多孔質定盤を通してポンプで吸引しながら吸着するのが好適である。Yθステージ8は、基板2に機能性材料のパターンを塗布する場合のパターン位置のアライメントを的確に行う機能を有している。Y方向の移動に関しては塗布の際のピッチ送りを正確に行う必要があり、動作分解能の精密度が要求される。具体的には、移動分解能が1μm以下である事が好ましい。θ方向の回転に関しては、できるだけ細かく角度調整できる事が望ましく、少なくとも0.1度以下の回転分解能を有していることが好適である。また、基板固定ステージの大きさは、大きすぎると、ステージを汚す原因になり、また、小さすぎると基板がたわむ原因になるため、基板2と同等が好適である。また、ピッチ送りやステージの移動もしくは回転は、内部もしくは外部に設けられたモーターによって制御されている。
【0027】
(撥液性隔壁)
撥液性隔壁材料は、ノズル塗布によって塗布された機能液を、所定の位置に的確に配置させるために補助的に用いるものであり、フォトレジストのパターンを形成後にフッ素系ガスによってプラズマ処理することで作製されたもの、あるいはフッ素系物質などの撥液成分を含有したフォトレジスト、または撥液性の材料を全面に形成し、光触媒リソグラフィーを用いてパターニングしたもの、などが好適である。
【0028】
(ノズル)
ノズル1は、定流量ポンプ5から機能液を押し出すことによって、塗布中は常に一定量の機能液を吐出する機構を有している。定流量ポンプ5は特に限定はなく常に一定量の機能液を脈動なくノズル1に送ることができればどのようなものでもよい。シリンジポンプあるいは圧送ポンプなどが好ましい。
【0029】
(有機EL素子)
有機EL素子は、有機発光材料を一対の電極で挟んだ構造体で構成されており、一方の電極からは電子が注入され、他方の電極からは正孔が注入される。前記構造体の構成は、特に限定されるものではなく任意の構成をとることができるが、たとえば、陽極・正孔注入層・正孔輸送層・発光層・電子輸送層・電子注入層・陰極の順に積層された構成を挙げることができる。各層は単層でも2層以上でもよいし、複数の材料の混合層でもよい。
【0030】
機能液とは、電子移動及び発光に関係する材料である機能性材料を含有する溶液のことである。機能液に用いられる機能性材料には、正孔注入層材料、正孔輸送層材料、発光層材料、電子輸送層材料、電子注入層材料などが挙げられる。また、機能液に用いられる溶媒は、水、または種々の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、下記の種々の機能性材料を好適に溶かすものであれば特に限定されるものではないが、塗布後の乾燥の制御や、機能性材料の変質・分解の影響を考慮して選定する。具体的には、アルキル化芳香族類、ハロゲン化芳香族類、芳香族エーテル類、芳香族エステル類、脂肪族エステル類、脂肪族ケトン類を初めとした溶媒、またはこれらの混合溶媒などが好適である。
【0031】
機能液に用いられる正孔注入層材料は、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、アリールアミン誘導体、金属酸化物、金属ナノ粒子、金属錯体などが好適である。
【0032】
機能液に用いられる正孔輸送層材料は、アリールアミン誘導体などが好適である。
【0033】
機能液に用いられる発光層材料は、大別して色素系発光材料、金属錯体系発光材料、および高分子系発光材料の三つが挙げられる。例えば、色素系発光材料としては、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が好適である。また、金属錯体系発光材料としては、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、あるいは、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等が好適である。また、高分子系発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体等、あるいは、上記の色素系発光材料や金属錯体系発光材料を高分子化したもの等が好適である。
【0034】
機能液に用いられる電子輸送層材料は、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等のフェナントロリン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)等のキノリノール錯体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、などが好適である。
【0035】
機能液に用いられる電子注入層材料は、LiFやNaFなどのアルカリ金属塩、CaF2などのアルカリ土類金属塩、8−キノリノラトリチウム錯体(Liq)などのキノリノール錯体などが好適である。
【0036】
上記各機能液は、構成成分を一つまたは二つ以上を組み合わせて含有している。また、それぞれの層を全て機能液による塗布によって形成せずとも、少なくとも1層以上を塗布によって形成し、残りの層は真空蒸着法などによって形成しても良い。
【0037】
陽極は、金、白金などの金属やITO、ZnO、SnO2などの透明/半透明導電性物質を材料として使用することが好適である。前記材料を蒸着やスパッタ法を用いて、透明性をよくするために薄膜形状に形成する。また、上記材料のナノ粒子状材料を溶媒に分散させ、塗布によって形成しても良い。
【0038】
陰極は、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、銀、Al23などの金属や酸化物およびこれらの混合物を材料として使用することが好適である。前記材料を蒸着やスパッタ法を用いて形成する。また、上記材料のナノ粒子状材料を溶媒に分散させ、塗布によって形成しても良い。
【0039】
有機EL素子は、水や酸素による劣化が進行し易いため、外気と遮断するため封止する必要がある。封止の方法は、不活性ガス中で、ザグリを設けたガラスの凹部に脱酸素脱水剤などを添付して、外枠と有機EL素子基板とを接着剤を用いて張り合わせ、不活性のガスで閉じ込める方法や、真空中で酸素や水のバリヤ性を有する封止層を形成する方法がある。貼り合わせの際の接着剤には、UV硬化型、熱硬化型のエポキシ樹脂またはアクリル樹脂などが好適である。バリヤ性を有する封止層は、SiN、SiON、SiO、Al23などがあり、スパッタ法やCVDなどによって緻密な膜を成膜する。また、封止層を形成する前に、スパッタやCVDによる有機EL素子のダメージを防止するため、保護膜として絶縁性の有機材料を真空蒸着などによって形成しておくのが好適である。
【0040】
(送風)
送風ユニット4を用いて、基板2と基板2外に向けてノズル1の上方からノズル1の下方へのダウンフローが生じるように送風する。送風によって生じる気体の流れや風圧によって、機能液が抑えこまれるので機能液の基板2への飛散を抑えることができる。機能液の飛散を抑えることで、機能液の基板2への付着による基板2の欠陥を防止できる。
【0041】
送風で使用する気体は、機能性材料が酸素や水によって分解もしくは変質してしまう場合があるので、窒素ガスや希ガスなどの機能性材料に対して不活性なガスが好適であるが、コストや機能性材料との相性によっては空気や任意の気体でもよい。前記機能性材料に対して不活性とは、機能性材料の成分に化学変化や物理変化の影響を与えないことを意味する。
【0042】
ノズル1の上方からノズル1の下方へ向けて送風する方向は、どのような方向でもよいが、通常では機能液の飛散を押さえ込むために基板2に対して垂直方向であることが好ましいが、送風量を調節したい場合などには基板2に対して斜め方向でもよい。
【0043】
送風する範囲は、基板2と基板2外が好ましいが、より好ましくは、欠陥の原因の多くは基板2外の領域で浮遊している液滴であることや、送風によって劣化してしまう性質を有する機能液があることや、送風によって塗布した機能液が部分的に乾燥してしまうことや、送風ユニットなどの設備費や電気代などの維持費などのコストを低減させることができることのため、基板2外だけがよい。
【0044】
送風で使用する気体は、基板2に異物が付着して欠陥となるのを防ぐためULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルターやHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターで埃や塵を除いた気体が好適である。また、機能性材料には水分に対して弱いものもあるので、機能性材料によっては乾燥させた気体が好ましい。また、機能液の乾燥の進行程度を均一に保つため、常に一定の温度で温度管理されていれば特に限定されるものではないが、室温付近の20〜30度程度が好ましく、より好ましくは21〜25度の範囲内が好ましい。
【0045】
〔第二実施態様〕
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。図3は、吸収部材を有する有機EL素子の製造装置と製造方法の一例を示す模式図である。図2での液受け台の代わりに、吸着部材6を設置する。
【0046】
第二実施態様に係る製造方法は、吸着部材6によって、基板2外に溜まる液滴を吸収すること以外は第一実施態様と同様である。
【0047】
第二実施態様に係る製造方法によれば、吸着部材6を基板2の傍に設置することで、吸着部材6が機能液を吸着するため、機能液の液滴化を防ぎ、機能液の基板2への飛散を抑えることができる。機能液の飛散を抑えることで、機能液の基板2への付着による基板2の欠陥を防止できる。
【0048】
(吸着部材)
吸着部材6は、ウエスやクリーンワイパーなどの不織布あるいは織布、スポンジやセラミックスなどの多孔質材料およびこれらをフィルム状にしたもの、無塵紙やインクジェット紙などの紙、メンブレンフィルターなどの濾紙が好適であり、一つまたは二つ以上を組み合わせて使用する。
【0049】
吸着部材6の大きさは、機能液の液滴化を防ぐことができれば任意の大きさでよい。
【0050】
吸着部材6の設置場所は、機能液の液滴化を防ぐためにノズル1の移動範囲の下方だけが通常であるが、より好ましくはノズル1の移動範囲の下方より広く取ることがよい。また、吸着部材の吸着性能の低下を考慮し、適宜移動・回収させる機構を設けることが好ましい。
【0051】
送風ユニット4によってノズル1の上方からノズル1の下方へ向けてダウンフローのように送風するだけで機能液の基板2への飛散を十分に抑えることができる場合は、吸着部材6を設置しなくてもよい。
【0052】
〔第三実施態様〕
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。図4は、吸気ユニットを有する有機EL素子の製造装置を説明する図である。図2での液受け台の代わりに、吸気ユニットを設置する。
【0053】
第三実施態様に係る製造方法は、吸着ユニットによって、基板2外に溜まる液滴を吸収すること以外は第一実施態様と同様である。
【0054】
第三実施態様に係る製造方法によれば、吸気ユニット12は、機能液を吸い込むことで、機能液の液滴化を防ぎ、機能液の基板2への飛散を抑えることができる。機能液の飛散を抑えることで、機能液の基板2への付着による基板2の欠陥を防止できる。
【0055】
また、吸気ユニット12を設置することで、送風ユニットによって送風された気体を吸い込むので、気体の流れを制御することができるようになる。
【0056】
(吸気ユニット)
吸気ユニット12は、吸気口10と配管11とポンプ/ファン9という構成からなる。吸気ユニット12の材質は、金属、プラスチック、セラミックなどで機能液に対して不活性な材質からなることが好ましい。
【0057】
吸気ユニット12の形状は、機能液を吸い込みやすい図4のような形状が好ましいが、送風装置や基板固定ステージ7などの他の装置の形状などを考慮して、様々な形状を取ることができる。例えば、真横から見た形が、三角形、長方形、半円形などが挙げられる。
【0058】
吸気ユニットの設置場所は、機能液の液滴化を防ぐためにノズル1の移動範囲の下方が好ましいが、より好ましくはノズル1の移動範囲の下方より広く取ることがよい。また、設置場所に制約がある場合などは、ノズル1の移動範囲の横に設置してもよい。
【0059】
送風ユニット4によってノズル1の上方からノズル1の下方へ向けてダウンフローのように送風するだけで機能液の基板2への飛散を十分に抑えることができる場合は、吸気ユニットを設置しなくてもよい。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
(基板準備工程)
第1電極としてITOがパターン形成された基板上に、絶縁層として東レ株式会社製フォトレジストDL1602をフォトリソグラフィーによってパターニングし、画素を画定した。さらにフルオロアルキルシランを添加した同フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィーによってノズル塗布領域の撥液性のストライプパターンを形成した。基板を洗浄液で洗浄し、純水でリンスした後、乾燥させた。
【0061】
(正孔注入層形成工程)
ノズル動作領域上方に設置したHEPAフィルターファンを動作させ、下方へ向けて、基板外の領域に送風を開始した。モリブデンヘキサカルボニルを安息香酸エチルに溶解させた機能液をポンプ9から送液し、ノズルから吐出を開始した。Yθステージに基板を載せ、真空吸着によって固定した。
2個のアライメントカメラの下をノズルが通過し、塗布軌跡がアライメントカメラで確認できるようにカメラをそれぞれ位置調整した。ノズルを高速でX軸方向に移動させ、塗布軌跡を基板に描いた。
【0062】
モニタのラインジェネレータのラインが、塗布軌跡の中心と重なるように、それぞれのカメラの位置を微動させた。次に、Yθステージを動かし、ノズル塗布領域のストライプパターンとカメラモニタのラインが平行となり、かつ、モニタのラインがストライプの隔壁間の中心に来るように位置調整した。
【0063】
ノズル及び基板を動作させ、正孔注入層の塗布を行い、液滴の舞い上がりや飛散による欠陥なく、材料を塗布することができた。塗布した基板を減圧乾燥器に移動し、ポンプ9で排気することによって溶媒を乾燥した。次に200度のホットプレート上に基板を載せ、1時間ベイクを行った。
【0064】
(正孔輸送層形成工程)
機能液をポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]と、2−メチル−9,10ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセンとを安息香酸エチルに溶解した機能液に変えたこと以外は、全く同じ手法で、正孔注入層上に正孔輸送層を塗布した。
【0065】
同様に塗布した基板を減圧乾燥器に移し、減圧にする事によって溶媒を乾燥した。次に、窒素置換され、酸素および水分濃度が1.0ppm以下に保たれたグローブボックス中に基板を移動し、その中で、200度のホットプレート上で1時間ベイクした。基板をグローブボックス外に出した。
【0066】
(発光層形成工程)
機能液を、1−tert−ブチル―ペリレンを発光性ドーパントとして含有し、2−メチル−9,10ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセンをホストとして含有した安息香酸エチル溶液に変えたこと以外は、全く同じ手法で、正孔輸送層上に発光層を塗布した。同様に塗布した基板を減圧乾燥器に移し、減圧にする事によって溶媒を乾燥した。次に、窒素置換され、酸素および水分濃度が1.0ppm以下に保たれたグローブボックス中に基板を移動し、その中で、110度のホットプレート上で30分間ベイクした。
【0067】
(蒸着・封止工程)
次に、グローブボックスから、蒸着機へ基板を移動させ、電子輸送層としてAlq3、電子注入層としてフッ化リチウムを表示領域全面に、第2電極としてAlをマスク蒸着によって蒸着した。基板をGBに移動し、ザグリを形成したガラスのザグリ部分に脱水脱酸素剤(ダイニック製水分ゲッターシート)を貼付し、枠にUV硬化性エポキシ樹脂の接着剤(協立化学産業製ワールドロック)を塗布し、基板と貼り合わせた。表示領域にUV光が照射されないようにマスクを行い、UV硬化樹脂を硬化させて表示領域部を封止した。電気回路に接続して、舞い上がりによる欠陥がなく、品質の高い有機ELパネルを得た。
【0068】
<実施例2>
ノズルの往復運動領域下方で、基板が置かれていない領域の、ノズルから1mm程度離れた下方に、液滴吸収部材としてMicroSeal(株式会社バークシャー製品)を設置した以外は実施例1と同様にして有機ELパネルの作製を行ったところ、溶液の舞い上がりによる欠陥なく、品質が高い発光パネルを作製することができた。
【0069】
<実施例3>
実施例2の液滴吸収部材をウレタンスポンジに変えた以外は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作製したところ、溶液の舞い上がりによる欠陥なく、品質が高い発光パネルを作製することができた。
【0070】
<実施例4>
実施例2の液滴吸収部材をメンブレンフィルターに変えた以外は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作製したところ、溶液の舞い上がりによる欠陥なく、品質が高い発光パネルを作製することができた。
【0071】
<実施例5>
実施例2の液滴吸収部材を多孔質シリカプレートに変えた以外は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作製したところ、溶液の舞い上がりによる欠陥なく、品質が高い発光パネルを作製することができた。
【0072】
<実施例6>
実施例2の液滴吸収部材を、吸気ユニットに変えたこと以外は、実施例2と同様にして有機ELパネルを作製したところ、溶液の舞い上がりによる欠陥なく、品質が高い発光パネルを作製することができた。
【0073】
<比較例>
実施例1の正孔注入層形成工程、正孔輸送層形成工程、発光層形成工程において、HEPAフィルターファンを動作させなかった事意外は、全く同様にして、有機ELパネルを作製した。その結果、機能液の液滴の舞い上がりによって、欠陥部位が数多く発生した。
【符号の説明】
【0074】
1… ノズル
2… 基板
3… ノズルユニット
4… 送風ユニット
5… 定流量ポンプ
6… 吸着部材
7… 基板固定ステージ
8… Yθステージ
9… ポンプ/ファン
10… 吸気口
11… 配管
12… 吸気ユニット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子用の機能性材料を有する機能液を吐出するノズルが基板と基板外の上方を往復移動する工程と、
前記往復移動に同期させて基板をピッチ送りする工程と、
前記ノズルから機能性材料溶液を基板上に吐出して機能性材料のパターンを形成する工程と、
からなる有機EL素子のノズル塗布法による製造方法において、
前記ノズルの上方から下方へ向けて、基板と基板外において気体を送風することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、フィルターを通した気体を、送風することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1と2において、前記気体は、前記機能性材料に対して不活性であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3において、基板外のノズルの移動範囲の下方に、液滴吸収部材を設けることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4において、送風した気体を吸気する部分を設けることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
基板上に前記機能液を吐出する装置であって、
基板と基板外の上方を往復移動しながら前記機能液を吐出するノズルと、
基板を支えるステージと、
前記ノズルの上方から下方へ向けて、基板と基板外において、機能液の基板への飛散を防ぐための気体を送風する送風ユニットと、
時間当たり一定量の前記機能液を前記ノズルへ輸送する定流量ポンプと、
を備えることを特徴とする有機EL素子の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−15077(P2012−15077A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153418(P2010−153418)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】