説明

有機EL素子の製造方法及び有機EL層の転写装置

【課題】有機EL層への異物の混入や損傷を阻止することができ、しかも製造コストの点で優れた有機EL素子の製造方法及び有機EL層の転写装置を提供する。
【解決手段】本発明の有機EL素子300の製造方法は、転写基板615上に有機EL層330を形成する有機EL層形成工程と、有機EL層形成工程で有機EL層330を形成した転写基板615の有機EL層側に被転写基板624を重ね合わせて輻射線を照射することにより有機EL層330を転写基板615から被転写基板624に転写する有機EL層転写工程と、有機EL層転写工程で有機EL層330を被転写基板624に転写した後の転写基板200に残った残渣を輻射線を照射することにより除去する残渣除去工程と、を備える。有機EL層形成工程、有機EL層転写工程、及び残渣除去工程はいずれも真空中で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法及び有機EL層の転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理機器の多様化に伴い、陰極線管(CRT)よりも消費電力が少なく、薄型化が可能であるフラットパネルディスプレイに対する需要が高まってきている。低電圧駆動、全固体型、高速応答性、自発光性等の点で優れたフラットパネルディスプレイとしては、有機EL素子を備えた有機EL表示装置が挙げられる。
【0003】
フルカラー表示を行う有機EL表示装置の方式としては、赤色発光有機EL素子、緑色発光有機EL素子、及び青色発光有機EL素子を並置して画素を構成したRGB塗り分け方式や、白色発光有機EL素子と赤色、緑色、及び青色のカラーフィルタとを組み合わせたカラーフィルタ方式、青色発光有機EL素子と赤色・緑色への色変換フィルタとを組み合わせた色変換方式等が挙げられる。これらのうち、消費電力や色再現範囲に優れる点から、RGB塗り分け方式が広く採用されている。
【0004】
RGB塗り分け方式の有機EL表示装置において、各色の発光層をパターンニングする方法としては、蒸着用マスクによる方法や、熱転写による方法が挙げられる。これらのうち、熱転写法によれば、200ppi以上の高精細、且つ、大型な基板に対してのパターンニングが可能である。特許文献1及び2には、レーザ光源を熱源として使用した熱転写法によって各色の発光層をパターンニングすることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−200170号公報
【特許文献2】特開2006−344459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した転写方法においては、被転写基板に予め正孔注入層、正孔輸送層等の有機EL膜を形成した状態で、転写基板の発光層を被転写基板に転写するので、被転写基板の有機EL層内に水が酸素等の異物が混入したり、埃等によって損傷を受けたりする問題がある。
【0006】
また、熱転写法によるパターンニングは、転写基板を用いるのでその分の製造コストがかかる問題もある。
【0007】
本発明の目的は、有機EL層へ水や酸素、埃等の異物の混入により有機EL層が損傷を受けるのを阻止することができ、しかも製造コストの点で優れた有機EL素子の製造方法及び有機EL層の転写装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、転写基板上に有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、
上記有機EL層形成工程で有機EL層を形成した転写基板の有機EL層側に被転写基板を重ね合わせて輻射線を照射することにより有機EL層を転写基板から被転写基板に転写する有機EL層転写工程と、
上記有機EL層転写工程で有機EL層を被転写基板に転写した後の転写基板に残った残渣を輻射線を照射することにより除去する残渣除去工程と、
を備えた有機EL素子の製造方法であって、
上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程をいずれも真空中で行うことを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程が全て真空中で行われるので、有機EL層が大気中に晒されることがない。そのため、有機EL層へ水や酸素、埃等の異物の混入により有機EL層が損傷を受けるのを阻止することができ、また、転写基板を再利用することができるので製造コストを抑えて有機EL素子を製造することができる。
【0010】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程を1×10−3Pa以下で行うことが好ましい。
【0011】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程をそれぞれ行うときの圧力の相互の差が5×10−4Pa以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の有機EL層の転写装置は、転写基板上に有機EL層を形成するための蒸着源が設けられた第1真空チャンバと、
有機EL層を形成した転写基板の有機EL層側に被転写基板を重ね合わせて有機EL層を転写基板から被転写基板に転写するための輻射線を照射する第1照射源が設けられた第2真空チャンバと、
有機EL層を被転写基板に転写した後の転写基板に残った残渣を除去するための輻射線を照射する第2照射源が設けられた第3真空チャンバと、
を備えたものである。
【0013】
この転写装置によれば、有機EL層の転写を全て真空中で行うことができるので、有機EL層に水や酸素、埃等が混入して有機EL層が損傷を受けることを阻止することが可能である。
【0014】
上記有機EL層の転写装置は、上記第1照射源がレーザ光源であることが好ましい。
【0015】
第1照射源がレーザ光源であるので、高精度で有機EL層の転写を行うことができる。
【0016】
また、上記有機EL層の転写装置は、上記第2照射源が熱源であることが好ましい。
【0017】
第2照射源が熱源であるので、熱輻射によって効率よく有機EL層の残渣を除去することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機EL層形成工程、有機EL層転写工程、及び残渣除去工程を真空中で行うので、有機EL層へ水や酸素、埃等の異物の混入により有機EL層が損傷を受けるのを阻止することができ、また、転写基板を再利用することができるので製造コストを抑えて有機EL素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(有機EL表示装置)
図1及び図2は、本実施形態のフルカラー表示の有機EL表示装置100を示す。この有機EL表示装置100は、例えば、携帯電話やカーナビ等のディスプレイとして用いられる。
【0020】
有機EL表示装置100は、TFT基板200上に有機EL素子300が設けられ、これらが不活性ガス雰囲気下で接着剤を介して設けられたガラス、フィルム等からなる封止部材(それぞれ不図示)により封止された構造を有し、マトリクス状に構成された複数の画素110により画像表示を行う。
【0021】
TFT基板200には、絶縁基板210上に複数のゲート線211が横方向に並行に延びるように設けられていると共に、複数のソース線212がゲート線211の延びる方向と角度をなす方向(典型的には直交方向)に並行に延びるように設けられ、ゲート線211とソース線212との各交差部に対応してTFT220が設けられている。TFT220は、各画素110に対応するようにマトリクス状に複数配設されており、対応するゲート線211及びソース線212のそれぞれに電気的に接続されている。また、TFT基板200には、TFT220の上層に平坦化膜230が設けられている。
【0022】
絶縁基板210は、有機EL素子300の機械的耐久性を担保する機能、及び有機EL素子300への外部からの水や酸素の混入を阻止する機能を有する。
【0023】
絶縁基板210としては、例えば、ソーダガラス、無アルカリガラス、石英などの無機材料;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカルバゾール、ポリイミドなどのプラスチック;アルミナなどのセラミックスなどの絶縁性基板;アルミニウム、鉄などの金属基板にシリカゲルや有機絶縁材料などの絶縁物をコートした基板;アルミニウムや鉄などの金属基板の表面を陽極酸化などの方法で絶縁化処理を施した基板等が挙げられる。なお、有機EL層330の発光を基板側から取り出すボトムエミッション構造の有機EL素子300の場合は、絶縁基板210は光透過性又は光半透過性の材料で構成されている。
【0024】
TFT220は、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料や、ポリチオフェン誘導体、チオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)誘導体、ナフタセン、ペンタセン等の有機半導体材料により形成されている。このTFT220は、各画素110におけるスイッチング素子としての機能を有する。
【0025】
TFT220は、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等の構造を有する。なお、スイッチング素子として、TFT220の代わりにMIMダイオードを用いることも可能である。
【0026】
平坦化膜230は、例えば、アクリル、ノボラック、ポリイミド等の樹脂材料により形成されており、厚さが0.5〜10μm程度である。この平坦化膜230によりTFT基板200の有機EL素子300側表面が平坦化されている。
【0027】
有機EL素子300には、TFT基板200の平坦化膜230上に各画素110に対応するように第1電極310(陽極)が設けられている。第1電極310上の画素110が形成されない部分にはエッジカバー320が設けられ、さらに、エッジカバー320から絶縁基板210と反対側に延びる突出部321が設けられている。また、有機EL素子300には、第1電極310上に有機EL層330が設けられ、その有機EL層330上に第2電極340が設けられている。さらに、有機EL素子300には、複数の第2電極340の全体を覆うように保護膜350が設けられている。
【0028】
なお、有機EL素子300として、赤色有機EL素子300R、緑色有機EL素子300G、及び青色有機EL素子300Bの3種類の有機EL素子を組み合わせることによりRGBフルカラー表示が可能となっており、3色で1つの画素110を構成している。ここでは、RGBの3色によるフルカラー表示を行っているが、2種類であってもよく、4種類以上であってもよい。
【0029】
第1電極310は、導電性材料で形成されており、各第1電極310は、平坦化膜230に形成されたコンタクトホールを介して対応するTFT220に電気的に接続されている。第1電極310は、有機EL層330にホール(正孔)を注入する機能を有する。第1電極310は、例えば厚さが50〜500nmである。第1電極310が50nm未満の場合には抵抗が大きくなって駆動電圧が上昇してしまうので、第1電極310の厚さは50nm以上であることが好ましい。
【0030】
第1電極310の導電性材料としては、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、金(Au)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、ナトリウム(Na)、ルテニウム(Ru)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、イッテルビウム(Yb)、フッ化リチウム(LiF)等の金属材料が挙げられる。また、第1電極310は、例えば、Mg/銅(Cu)、Mg/Ag、Na/カリウム(K)、アスタチン(At)/酸化アスタチン(AtO)、Li/Al、Li/Ca/Al、LiF/Ca/Al等の合金で形成されていてもよい。さらに、第1電極310は、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの導電性酸化物等で形成されていてもよい。
【0031】
第1電極310は、有機EL層330への正孔注入効率を向上させることができる観点から、仕事関数が4.5eV以上の材料で形成されていることが好ましい。かかる仕事関数の大きな材料としては、例えばITOやIZO等が挙げられる。
【0032】
第1電極310は、有機EL素子300がTFT基板200側から有機EL層330の発光を取り出すボトムエミッション構造である場合、ITO等の光透過性又は光半透過性の材料で形成されていることが好ましく、一方、有機EL素子300が第1電極310とは反対側から有機EL層330の発光を取り出すトップエミッション構造である場合、タンタル、炭素等の黒色材料やアルミニウム等の光反射性材料で形成されていることが好ましい。
【0033】
第1電極310は、上記導電性材料で各々が形成された複数層で構成されていてもよい。
【0034】
エッジカバー320は、絶縁性の材料で形成されており、第2電極340側に延びる突出部321を一体となるようにして備えている。突出部321は、後述する有機EL層転写工程において被転写基板624上に転写基板615を重ね合わせするときのスペーサとして機能を有する。なお、突出部321は一部のエッジカバー320上に形成されていればよく、全てのエッジカバー320が突出部321を備える必要はない。
【0035】
エッジカバー320は、画素110が形成されていない領域に形成されている。そして、突出部321は、エッジカバー320の全面を底面とするようにして設けられていても、エッジカバー320の一部を底面として設けられていてもよい。エッジカバー320は、例えば厚さが0.5〜5μmである。また、突出部321は、例えば突出高さが1〜10μmである。 エッジカバー320を形成している材料としては、例えば、SiO、窒化シリコン(Si)、二酸化タンタル(Ta)、アクリル樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
【0036】
突出部321は、エッジカバー320と同一の材料で形成されていても、異種の材料で形成されていてもよい。突出部321を形成している材料としては、エッジカバー320の形成材料と同種のものが挙げられる。
【0037】
有機EL層330は、TFT基板200側から正孔注入層331、正孔輸送層332、発光層333、電子輸送層334、及び電子注入層335が順に積層された構造を有する。有機EL層330は、第1電極310よりも面積が小さく形成されていてもよく、また、第1電極310を完全に覆うように大きく形成されていてもよい。
【0038】
正孔注入層331は、陽極バッファ層とも呼ばれ、第1電極310と有機EL層330とのエネルギーレベルを近づけ、第1電極310から有機EL層330への正孔注入効率を向上させる機能を有する。正孔注入層331は、例えば層厚さが10〜300nmである。
【0039】
正孔注入層331を形成する材料としては、例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、酸化バナジウム(V)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物等が挙げられる。
【0040】
正孔輸送層332は、第1電極310から有機EL層330への正孔輸送効率を向上させる機能を有する。正孔輸送層332は、例えば層厚さが10〜300nmである。
【0041】
正孔輸送層332を形成する材料としては、例えば、ポルフィリン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリシラン、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミン置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、水素化アモルファスシリコン、水素化アモルファス炭化シリコン、硫化亜鉛、セレン化亜鉛等が挙げられる。なお、正孔の輸送を効率よく行う点で、正孔輸送層332の材料としては、正孔注入層331の材料よりも正孔移動度が大きいことが好ましい。
【0042】
発光層333は、第1電極310から注入されたホール(正孔)と第2電極340から注入された電子とを再結合させて光を出射させる機能を有する。発光層333は、例えば層厚さが10〜300nmである。
【0043】
発光層333を形成する材料としては、例えば、2,6−ビス[(4’−メトキシジフェニルアミノ)スチリル]−1,5−ジシアノナフタレン等のナフタレン誘導体;ジ(2−ナフチル)アントラセン等のアントラセン誘導体;4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)、4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)などの芳香族ジメチリデン誘導体;5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾールなどのオキサジアゾール誘導体;3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)などのトリアゾール誘導体;1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼンなどのスチリルベンゼン誘導体;チオピラジンジオキシド誘導体;ベンゾキノン誘導体;ナフトキノン誘導体;アントラキノン誘導体;ジフェノキノン誘導体;フルオレノン誘導体;アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光性有機金属化合物等が挙げられる。
【0044】
発光層333には、正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)、発光性のドーパントなどが添加されていてもよい。これらの添加物は、高分子材料(結着用樹脂)や無機材料中に分散されて添加されていてもよい。なお、発光性のドーパントが添加されている場合は、発光効率や寿命の観点から、ドーパントがホスト材料中に分散された状態で添加されていることが好ましい。
【0045】
発光性のドーパントとしては、例えば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)、4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)などの芳香族ジメチリデン誘導体;スチリル誘導体;ペリレン、イリジウム錯体、クマリン6などのクマリン誘導体;ルモーゲンFレッド、ジシアノメチレンピラン、フェノキザゾン、ポリフィリン誘導体等が挙げられる。なお、ドーパントの種類を適宜選択することにより、赤色に発光する赤色発光層333R、緑色に発光する緑色発光層333G、及び青色に発光する青色発光層333Bとなる。
【0046】
また、発光性のドーパントの分散媒であるホスト材料としては、例えば、発光層333を形成する材料と同一の材料やカルバゾール誘導体等が挙げられる。
【0047】
電子輸送層334は、陰極バッファ層とも呼ばれ、第2電極340から注入された電子を発光層333まで効率よく移動させる機能を有する。電子輸送層334は、例えば層厚さが10〜100nmである。
【0048】
電子輸送層334を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体、シロール誘導体、金属オキシノイド化合物等が挙げられる。また、電子輸送層334には、ドナー、アクセプター等の添加剤が添加されていてもよい。電子輸送層334の材料としては、電子注入層335の材料よりも電子移動度が高いことが好ましい。
【0049】
電子注入層335、第2電極340と有機EL層330とのエネルギーレベルを近づけ、第2電極340から有機EL層330への電子注入効率を向上させる機能を有する。電子注入層335は、例えば層厚が0.1〜10nmである。
【0050】
電子注入層335は、仕事関数が4.0eV以下の低仕事関数金属と化学的に比較的安定な金属と低仕事関数金属との合金からなる単層膜又は複数の材料の積層膜;フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、フッ化バリウム(BaF)等のフッ化物;酸化カルシウム(CaO), 酸化ストロンチウム(SrO)等の酸化物;炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸バリウム(BaCO)等の炭酸化物等で形成されている。仕事関数が4.0eV以下の低仕事関数金属としては、例えば、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)等が挙げられる。これらのうち、発光層333として高分子有機発光層を適用した場合には、Ca、Baが好適に用いられる。化学的に比較的安定な金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、オスミウム(Os)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、ロジウム(Rh)等が挙げられる。また、電子輸送層334には、ドナー、アクセプター等の添加剤が添加されていてもよい。電子注入層335と第2電極340を兼ね備えた層として、金属層の部分に、例えば銅フロシタシアニン(CuPc)等の有機材料に上記の低仕事関数金属をドーパントとして用いた電子注入性を有する有機材料を用いることもできる。なお、電子の注入・輸送をより効率よく行う点で、電子注入層335の材料としては、電子輸送層334の材料よりもHOMOの値が大きいことが好ましい。
【0051】
第2電極340は、導電性材料で形成されており、有機EL層330に電子を注入する機能を有する。第2電極340は、例えば厚さが50〜500nmである。第2電極340が50nm未満の場合には抵抗が大きくなって駆動電圧が上昇してしまうので、第2電極340の厚さは50nm以上であることが好ましい。第2電極340は、有機EL層330よりも面積が小さく形成されていてもよく、また、有機EL層330を完全に覆うように大きく形成されていてもよい。なお、第2電極340が形成された領域が画素110を構成する。
【0052】
第2電極340の導電性材料としては、例えば、第1電極310と同様のものが挙げられる。
【0053】
第2電極340は、電子注入層335と同様に有機EL層330への電子注入効率を向上させることができるという観点から仕事関数が4.5eV以下の材料と、電極としての導電性と水や酸素への耐性を兼ね備えるための比較的安定な金属との合金とが積層されたものが用いられる。かかる仕事関数の小さな材料としては、例えば、Mg、Liなどの金属;LiF、Mg/Cu、Mg/Ag、Na/K、Li/Al、Li/Ca/Al、LiF/Ca/Alなどの合金等が挙げられる。電子注入層335が充分に機能している場合は、電極としての導電性と水や酸素への耐性を兼ね備えた金属層や透明導電膜等の単層又は積層が用いられる。
【0054】
第2電極340は、有機EL素子300がトップエミッション構造である場合、AlやAg等の極薄層(例えば、厚さ10nm以下)や、ITO等の光透過性又は光半透過性の材料で形成されていることが好ましく、一方、有機EL素子300がボトムエミッション構造である場合、アルミニウム等の光反射性材料で形成されていることが好ましい。
【0055】
第2電極340は、上記導電性材料で各々が形成された複数層で構成されていてもよい。
【0056】
保護膜350は、絶縁性又は導電性の材料で形成されており、厚さが例えば0.05〜10μmである。保護膜350は、水や酸素が有機EL層330へ混入するのを阻止する機能を有する。
【0057】
保護膜350を形成している材料としては、例えば、アモルファスシリコン、アモルファス炭化シリコン、アモルファス窒化シリコン、アモルファスカーボン等の無機アモルファス性絶縁性材料;ITOやIZOの透明導電性材料等が挙げられる。
【0058】
なお、有機EL素子300がトップエミッション構造の場合は、保護膜350は光透過性又は光半透過性の材料で形成されている。
【0059】
有機EL素子300は、図示しない封止部材で覆われている。この封止部材は、例えば、ガラスやシリコンで形成されている。封止部材は、TFT基板200に例えば熱硬化性樹脂の接着剤で接着されており、有機EL層330に水や酸素等が混入しないように有機EL素子300を封止する機能を有する。
【0060】
なお、封止部材やTFT基板200の外側表面にはそれぞれ偏光板が設けられていてもよい。偏光板は、有機EL表示装置100のコントラストを向上させる機能を有する。偏光板としては、例えば、直線偏光板とλ/4板とを組み合わせを用いることができる。
【0061】
以上の構成の有機EL表示装置100では、各画素110において、TFTがオンとなった際に、有機EL層330に対し、第1電極310からホール(正孔)及び第2電極340から電子がそれぞれ注入され、それらのホールと電子とが有機EL層330で再結合し、それによって放出されたエネルギーが発光層333の発光材料を励起させ、励起された発光材料が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光や燐光を放出し、その蛍光や燐光が有機EL層330の発光として外部に出射され、画素110全体として所定の画像を表示することとなる。
【0062】
なお、本実施形態では、第1電極310が陽極及び第2電極340が陰極である構成としたが、第1電極310が陰極及び第2電極340が陽極の逆構造型有機EL素子であってもよい。この場合、第1電極310から有機EL層330に電子が注入されると共に第2電極340から有機EL層330にホールが注入されて両者が再結合することにより有機EL層330が発光し、画素110全体として所定の画像を表示を行う。
【0063】
(有機EL素子の製造装置)
図3〜6は、有機EL素子の製造装置400の模式図である。有機EL素子の製造装置400は、正孔輸送層等形成装置500、転写装置600、及び第2電極等形成装置700を備えている。
【0064】
<正孔輸送層等形成装置>
正孔輸送層等形成装置500は、基板投入ストッカー510,加熱室520,酸素プラズマ室521,正孔注入層形成室530,正孔輸送層形成室531,及びローダー540を備えている。基板投入ストッカー510,加熱室520,酸素プラズマ室521,正孔注入層形成室530,正孔輸送層形成室531,及びローダー540のそれぞれは、正孔輸送層等形成装置500の本体とそれぞれゲートバルブで接続されており、それぞれに取り付けられた真空ポンプによって、独立に減圧を行うことが可能である。
【0065】
基板投入ストッカー510は、被転写基板624となるTFT基板200を正孔輸送層等形成装置500に導入する機能を有する。
【0066】
加熱室520及び酸素プラズマ室521は,TFT基板200及び第1電極310の前処理を行う機能を有する。
【0067】
正孔注入層形成室530及び正孔輸送層形成室531は、それぞれ、第1電極310上に正孔注入層331及び正孔輸送層332を形成する機能を有する。
【0068】
ローダー540は、正孔輸送層332が形成された絶縁基板210を、次ステップの転写装置600に導入する機能を有する。
【0069】
<転写装置>
次に、有機EL層の転写装置600について説明する。有機EL層の転写装置600は、有機EL層形成部610、有機EL層転写部620、及び残渣除去部630を備えている。
【0070】
−有機EL層形成部−
図4は、有機EL層形成部610を示す。有機EL層形成部610は、第1真空チャンバ611内に、蒸着源612及びそれを移動させるための蒸着源可動部613、層厚モニター614、及び転写基板セット部(図示せず)を備えている。
【0071】
第1真空チャンバ611は、上部が開口可能な筺体形状であり、チャンバ内を減圧するための真空ポンプ(図示せず)が接続されている。第1真空チャンバ611は、例えば、ステンレス製やアルミニウム製である。
【0072】
有機EL層形成部610で行われる有機EL層330の形成においては、形成された有機EL層330のパターンニングが不要であり蒸着源612と転写基板615との距離を小さくすることが可能であるので、第1真空チャンバ611はコンパクトに形成することができる。
【0073】
層厚モニター614は、転写基板615上に形成される有機EL層330が所定の厚さになるように制御する機能を有する。
【0074】
−有機EL層転写部−
図5は、有機EL層転写部620を示す。有機EL層転写部620は、第2真空チャンバ621内に輻射線源とそれを移動させるための輻射線源可動部を備えた第1照射部622、転写基板セット部(図示せず)、セットされた転写基板615を移動させるための転写基板可動部623、転写基板615の下方の被転写基板セット部(図示せず)、及びセットされた被転写基板624を移動させるための被転写基板可動部625が設けられており、第2真空チャンバ621の上面に設けられた光学窓(図示せず)を介して、第2真空チャンバ621の外にアライメント装置626が設けられている。
【0075】
第2真空チャンバ621は、上部が開口可能な筺体形状のものであり、チャンバ内を減圧するための真空ポンプ(図示せず)が接続されている。第2真空チャンバ621は、例えば、ステンレス製やアルミニウム製である。
【0076】
ここで、第2真空チャンバ621は第1真空チャンバ611とゲートバルブを介して接続されており、各真空チャンバ毎に真空ポンプにより排気することができる。
【0077】
輻射線源は、レーザ光源であることが好ましい。レーザ光線によって有機EL層330の転写を行うことにより、精度の高い有機EL層330の形成が可能となる。なお、タクトタイムを短縮するためには輻射線源は複数個設けられていることが好ましい。
【0078】
輻射線源可動部は、例えば、輻射線源を任意のXY方向に移動可能である。輻射線源可動部は、例えば、XYスキャナによってXY方向に移動するものであっても、ガルバノミラー等の光学系を用いてXY方向に移動してもよい。
【0079】
なお、輻射線源は第2真空チャンバ621の外側に設けられていてもよく、この場合、第2真空チャンバ621にはレーザ光線が透過可能な光学窓が形成されている。レーザ光源が第2真空チャンバ621の外側に設けられていると、装置のメンテナンス等が容易になる。
【0080】
転写基板セット部及び被転写基板セット部は、両者が向かい合って転写基板615と被転写基板624とを貼り合わせ可能とする位置に移動できるように設けられている。
【0081】
アライメント装置626には、被転写基板624上に付されたマーキングを認識するためのカメラが設けられている。カメラで取り込んだマーキングの情報に基づいて、被転写基板624と輻射線源との位置合わせを行うことができる。
【0082】
−残渣除去部−
図6は、残渣除去部630を示す。残渣除去部630は、第3真空チャンバ631内に、輻射線源632とそれを移動させるための可動部633を備えた第2照射部634、及び転写基板セット部(図示せず)が設けられている。
【0083】
第3真空チャンバ631は、上部が開口可能な筺体形状のものであり、チャンバ内を減圧するための真空ポンプ(図示せず)が接続されている。第3真空チャンバ631は、例えば、ステンレス製やアルミニウム製である。
【0084】
ここで、第3真空チャンバ631は第1真空チャンバ611とゲートバルブを介して接続されており、各真空チャンバ毎に真空ポンプによる排気することができる。
【0085】
輻射線源632としては、例えば、レーザ光源や、ヒートバー、サーマルヘッド等の熱源を用いることができる。残渣除去工程においては有機EL層330の残渣を全て除去するのでパターニング照射する必要がない。そのため、簡便な熱源によって輻射を行って残渣除去することが好ましい。
【0086】
転写基板セット部は、有機EL層330を被転写基板624に転写した後の転写基板615をセットするものであり、セットされた転写基板615表面に、第2照射部634から輻射線源632による輻射を行うことができるように配置されている。
【0087】
なお、RGBフルカラー表示の有機EL表示装置100を作製するためには、赤色発光層333Rを転写する転写装置、緑色発光層333Gを転写する転写装置、及び青色発光層333Bを転写する転写装置の3台がゲートバルブを介して接合されている。これにより、有機EL層330を大気中の水や酸素の下に晒すことなく、また、ゴミ等が付着することなく、赤色発光層333R、緑色発光層333G、及び青色発光層333Bを転写することができる。
【0088】
なお、有機EL層形成部610と残渣除去部630とで共通の真空チャンバを用いることによってコンパクト化を図ってもよい。
【0089】
<第2電極等形成装置>
第2電極等形成装置700は、ローダー710、電子輸送層形成室720,電子注入層形成室721、第2電極形成室730、保護膜形成室731、及び封止装置740を備えている。ローダー710、電子輸送層形成室720,電子注入層形成室721、第2電極形成室730、保護膜形成室731、及び封止装置740のそれぞれは、第2電極等形成装置700の本体とそれぞれゲートバルブで接続されており、それぞれに取り付けられた真空ポンプによって、独立に減圧を行うことが可能である。
【0090】
ローダー710は、有機EL層330が転写された被転写基板624を、転写装置600から第2電極等形成装置700に導入する機能を有する。
【0091】
電子輸送層形成室720,電子注入層形成室721は、それぞれ、発光層333上に電子輸送層334及び電子注入層335を形成する機能を有する。
【0092】
第2電極成形室730は、電子注入層335上に第2電極340を形成する機能を有する。
【0093】
保護膜形成室731は、第2電極340上に保護膜350を形成する機能を有する。
【0094】
封止装置740は、有機EL素子300を封止部材で封止する機能を有する。
【0095】
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、上記説明した有機EL層の製造装置400を用いた有機EL表示装置100の製造方法について、図7〜10を用いて説明する。有機EL表示装置100の製造方法は、被転写基板準備工程、第1電極等形成工程、有機EL層形成工程、有機EL層転写工程、第2電極等形成工程、及び残渣除去工程を備えている。なお、図8〜10は一連の製造工程を示す説明図である。
【0096】
<被転写基板準備工程>
まず、公知の方法によって絶縁基板210上にTFT220を形成する。次いで、CVD法、真空蒸着法等のドライプロセスやスピンコート等のウェットプロセスを用いて例えばポリイミド膜を成膜した後にフォトリソグラフィ法を用いてパターンニングを行って平坦化膜230を形成し、その平坦化膜230に、TFT220毎のドレイン領域に通ずるコンタクトホールを形成する。ここで、TFT基板200(つまり、被転写基板624)が形成される。
【0097】
<第1電極等形成工程>
図7のプロセスフロー図において、ステップS11〜S14は第1電極等形成工程を示す。平坦化膜230のコンタクトホールを経てTFT220と電気的に接続されるように、平坦化膜230上に第1電極310を形成する。例えば電子ビーム共蒸着(EB)法、スパッタ法、イオンプレーティング法、抵抗加熱蒸着法によって例えばITO膜を形成した後にフォトリソグラフィ法を用いてパターンニングを行うことにより、第1電極310を形成する。
【0098】
次に、CVD法、真空蒸着法等のドライプロセスやスピンコート等のウェットプロセスを用いて、例えばポリイミド膜を成膜した後にフォトリソグラフィ法を用いてパターンニングを行って、第1電極310のエッジ部を覆うようにエッジカバー320を形成する。そして、上記フォトリソグラフィプロセスを繰り返すことによって突出部321を形成する。
【0099】
そして、レーザーを用いて、画素表示を行うエリアの位置合わせを示すためのマーキングを行う。このマーキングは、後述の有機EL層転写工程において、被転写基板624とレーザ照射部との位置合わせを行うときに用いられる。
【0100】
次いで、被転写基板624及び第1電極310の前処理を行う。なお、この工程から、図3に示した有機EL表示装置の製造装置400を用いる。
【0101】
まず、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を加熱室520に導入する。そして、被転写基板624に含まれる水を除去するために、被転写基板624を真空中で加熱乾燥させる。このときの加熱乾燥条件は、例えば、加熱温度が100〜250℃、及び乾燥時間が0.1〜20時間である。
【0102】
続いて、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を酸素プラズマ室521に導入する。そして、第1電極310の表面改善して正孔の注入効率を高めるために、真空中で第1電極310上に酸素プラズマの照射を行う。このときの照射条件は、例えば、照射時間が1〜60分である。
【0103】
上記の前処理が完了すると、続いて、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を正孔注入層形成室530に導入する。そして、例えば抵抗加熱蒸着法を用いて正孔注入層331を形成する。さらに、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を正孔輸送層形成室531に導入する。そして、例えば抵抗加熱蒸着法を用いて、正孔注入層331を覆うように正孔輸送層332を形成する。正孔注入層331及び正孔輸送層332は、RGB全ての画素110に共通して形成することができる。
【0104】
以上のようにして、被転写基板624に第1電極310、エッジカバー320、正孔注入層331、及び正孔輸送層332を形成することができる。なお、ここで、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624をローダー540に導入し、後述の有機EL層転写工程への待機をさせておく。
【0105】
<有機EL層形成工程>
ステップS21、S31,及びS41に示す有機EL層形成工程では、転写基板615に有機EL層330の発光部分である発光層333を形成する。
【0106】
なお、赤色発光層333R、緑色発光層333G、及び青色発光層333Bのうち、赤色発光層333Rの形成について説明する。
【0107】
転写基板615は、例えば矩形の平板状のものであり、例えば、縦300〜5000mm、横300〜5000mm、及び厚さ0.5〜10mmである。転写基板615は、例えば、ガラス、石英などの無機材料;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカルバゾール、ポリイミドなどのプラスチックで形成されている。
【0108】
まず、有機EL層形成部610において、転写基板615の表面に、例えばスパッタ法を用いて光−熱変換層(図示せず)を形成する。光−熱変換層は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)等の金属、それらの金属の合金、赤外線染料を熱硬化型エポキシ樹脂等の高分子材料に分散した有機膜等で形成されている。光−熱変換層は、例えば層厚が100〜500nmである。光−熱変換層は、有機EL層転写工程において照射されたレーザ光を熱に変換する機能を有する。
【0109】
次に、図8(a)に示すように、転写基板615上に光−熱変換層を覆うようにして、例えば抵抗加熱蒸着法を用いて、発光層333を形成する。発光層333が赤色発光層333Rのとき、赤色発光層333Rは、例えば、ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)と2,6−ビス[(4’−メトキシジフェニルアミノ)スチリル]−1,5−ジシアノナフタレン(BSN)とを、抵抗加熱蒸着法によって10:1の速度で共蒸着して形成する。このとき、赤色発光層333Rの層厚が例えば10〜300nmとなるように形成する。また、発光層333が緑色発光層333Gのとき、緑色発光層333Gは、例えば、ADNとクマリン6とを、抵抗加熱蒸着法によって100:2の速度で共蒸着して形成する。このとき、緑色発光層333Gの層厚が例えば10〜300nmとなるように形成する。また、発光層333が青色発光層333Bのとき、青色発光層333Bは、例えば、ADNと4,4’−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)とを、抵抗加熱蒸着法によって100:1の速度で共蒸着して形成する。このとき、青色発光層333Bの層厚が例えば10〜300nmとなるように形成する。
【0110】
なお、発光層333の形成は、例えば、圧力は1×10−4Pa以下の圧力雰囲気下で行うことが好ましく、1×10−5Pa以下で行うことがより好ましい。第1真空チャンバ611内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、有機EL層330の構成材料が劣化することにより有機EL素子の駆動電圧の上昇、発光効率の低下、寿命の低下等の問題が抑制される。また、第1真空チャンバ611内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、残渣除去工程において有機EL層330の構成材料が酸化されて完全に除去できなくなる問題が解決される。
【0111】
このようにして、赤色発光層333Rが形成された転写基板、緑色発光層333Gが形成された転写基板、青色発光層333Bが形成された転写基板がそれぞれ形成される。
【0112】
<有機EL層転写工程>
ステップS22〜S24、S32〜S34、及びS42〜S44に示す有機EL層転写工程では、初めに、赤色発光層333Rの転写(ステップS22〜S24)を行う。
【0113】
まず、図8(b)に示すように、第1真空チャンバ611と第2真空チャンバ621との間のゲートバルブを開放して第2真空チャンバ621内に転写基板615を導入して転写基板セット部にセットすると共に、正孔輸送層形成室531と第2真空チャンバ621との間のゲートバルブを開放して第2真空チャンバ621内に被転写基板624を導入して被転写基板セット部にセットする。そして、転写基板可動部623及び被転写基板可動部625を調整し、上方の転写基板615と下方の被転写基板624とを重ね合わせる。このとき、図8(c)に示すように、被転写基板624の最上面には正孔輸送層332が形成されている。また、転写基板615の上面には光−熱変換層が形成されていると共に下面には発光層333が形成されている。
【0114】
なお、このとき、第2真空チャンバ621内の圧力は1×10−3Pa以下であることが好ましく、1×10−4Pa以下であることがより好ましく、10−5Pa以下であることがさらに好ましい。第2真空チャンバ621内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、有機EL層330の構成材料が劣化することにより有機EL素子の駆動電圧の上昇、発光効率の低下、寿命の低下等の問題が抑制される。また、第2真空チャンバ621内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、残渣除去工程において有機EL層330の構成材料が酸化されて完全に除去できなくなる問題が解決される。
【0115】
また、第2真空チャンバ621内の圧力は、第1真空チャンバ611内の圧力との差が5×10−4Pa以下であることが好ましく、1×10−4Pa以下であることがより好ましく、1×10−5Pa以下であることがさらに好ましい。第1真空チャンバ611と第2真空チャンバ621との圧力の差が5×10−4Pa以下であって同程度の真空度となっているので、有機EL層330の構成材料が劣化することにより有機EL素子の駆動電圧の上昇、発光効率の低下、寿命の低下等の問題が抑制される。
【0116】
被転写基板624には、上方に延びるように突出している突出部321が形成されている。そのため、転写基板615と被転写基板624とを重ね合わせても、突出部321がスペーサとして機能し、正孔輸送層332と転写基板615との間には一定幅の空間が形成されるので、正孔輸送層332に転写基板615が密着することがなく正孔輸送層332に傷が付くことがない。また、この基板間に形成された空間は、第2真空チャンバ621内の空間に通じているので、基板間に形成された空間の圧力は第2真空チャンバ621の圧力と常に一定に保たれる。換言すれば、第2真空チャンバ621の減圧時に基板間の空間も同様に減圧して真空にすることができるので、正孔輸送層332への水や酸素等の付着が起こらない。
【0117】
次いで、被転写基板624に付されたマーキングをアライメント装置626のカメラで感知し、被転写基板624とレーザ光源622との位置合わせを行う。そして、図9(a)に示すように、赤色の発光画素に対応した領域に、例えば波長が750〜1300nm、及び幅が10〜300μmの赤外レーザ光を照射して、転写基板615上の光−熱変換層に吸収させる。
【0118】
このとき、レーザ光が光−熱変換層に吸収されて得られる熱により、転写基板615上の発光層333の発光材料が昇華する。そして、昇華した発光材料が被転写基板624表面に到達すると共に冷却されて凝固し、固体の発光層として被転写基板624上に再現される。こうして、図9(b)に示すように、被転写基板624上に設けられた正孔輸送層332の上に発光層333が転写される。
【0119】
赤色発光層333Rの転写が完了すると、緑色発光層333Gを転写する転写装置に被転写基板624を導入して、赤色発光層333Rの転写と同様に緑色発光層333Gの転写を行う。さらに、緑色発光層333Gの転写が完了すると、青色発光層333Bを転写する転写装置に被転写基板624を導入して、青色発光層333Bの転写を行う。なお、各発光層333の転写の順番はこの順に限定されない。
【0120】
<第2電極等形成工程>
続いて、ステップS51において、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を電子輸送層形成室720に導入し、赤色発光層333R、緑色発光層333G、及び青色発光層333Bを覆うように、電子輸送層334を形成する。電子輸送層334は、例えば抵抗加熱蒸着法を用いて形成する。
【0121】
さらに、ステップS52において、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を電子注入層形成室721に導入し、電子輸送層334を覆うように、電子注入層335を形成する。電子注入層335は、例えば抵抗加熱蒸着法を用いて形成する。なお、電子輸送層334及び電子注入層335の形成は、例えば、圧力は1×10−4Pa以下の圧力雰囲気下で行うことが好ましく、1×10−5Pa以下で行うことがより好ましい。ここで、第1電極310上に正孔注入層331、正孔輸送層332、発光層333、電子輸送層334、及び電子注入層335が積層された状態となり、有機EL層330が完成する。
【0122】
次に、ステップS53において、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を第2電極形成室730に導入し、上記形成した有機EL層330を覆うようにして、例えば電子ビーム共蒸着(EB)法、スパッタ法、イオンプレーティング法、抵抗加熱蒸着法等によって第2電極340を形成する。第2電極340は、例えば、抵抗加熱蒸着法を用いてマグネシウム(Mg)と銀(Ag)を10:1の速度で共蒸着して1〜10nmの膜を成膜した後に、抵抗加熱蒸着法を用いて銀(Ag)を蒸着して1〜10nmの膜を成膜することによって形成される。そして、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を保護膜形成室731に導入し、第2電極340上に保護膜350を形成する。このとき、有機EL層330に対して損傷を与えることがないように、成膜粒子のエネルギーが小さい方法、例えばイオンプレーティング法、電子ビーム共蒸着(EB)法等の物理蒸着法やCVD法によって成膜を行う。なお、第2電極340及び保護膜350の形成は、例えば、圧力は1×10−4Pa以下の圧力雰囲気下で行うことが好ましく、1×10−5Pa以下で行うことがより好ましい。
【0123】
最後に、ステップS54において、適当なゲートバルブを開放して被転写基板624を封止装置740に導入し、保護膜350を形成した被転写基板624に、不活性ガス雰囲気下で熱硬化樹脂の接着剤を塗布したガラス封止部材を固着して熱硬化樹脂を硬化させ、被転写基板624を封止する。このときの熱硬化条件は、例えば、雰囲気温度が60〜120℃、及び加熱時間が0.5〜3時間である。そして、公知の偏光板を設けることにより、フルカラー表示の有機EL表示装置100を製造することができる。
【0124】
<残渣除去工程>
有機EL層転写工程で転写基板615上の発光層333を被転写基板624上に転写した後、ステップS25,S35,及びS45に示すように、第2電極等形成工程とは独立に、転写基板615上に残った有機EL層330の残渣を除去する残渣除去工程を行う。
【0125】
有機EL層転写工程における有機EL層330の転写が終わると、第3真空チャンバ631内を真空ポンプで減圧して真空にし、第1真空チャンバ611と第3真空チャンバ631とを接続しているゲートバルブを開放して図9(c)に示すように、転写基板615を第3真空チャンバ631内に導入する。このとき、第3チャンバ631内の圧力は1×10−3Pa以下であることが好ましく、1×10−4Pa以下であることがより好ましく、1×10−5Pa以下であることがさらに好ましい。第3真空チャンバ631内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、有機EL層330の構成材料が劣化することにより有機EL素子の駆動電圧の上昇、発光効率の低下、寿命の低下等の問題が抑制される。また、第3真空チャンバ631内の圧力が1×10−3Pa以下であるので、残渣除去工程において有機EL層330の構成材料が酸化されて完全に除去できなくなる問題が解決される。
【0126】
そして、図10(a)に示すように、転写基板615を転写基板セット部にセットした後、輻射線源632により輻射を行い、転写基板615上に残っている有機EL層330の残渣の除去を行う。熱輻射によって発光層333の残渣が全て昇華することにより、図10(b)に示すように、転写基板615上は発光層を形成する前と同じ状態となり、再利用可能である。なお、この転写基板615の再利用を行う場合は、転写基板615に加熱等の処理を行った後に、再び第1チャンバにセットして有機EL層330を形成してもよい。
【0127】
なお、第3真空チャンバ631内の圧力は、第1真空チャンバ611及び第2真空チャンバ621内の圧力との差が5×10−4Pa以下であることが好ましく、1×10−4Pa以下であることがより好ましく、1×10−5Pa以下であることがさらに好ましい。第1真空チャンバ611と第3真空チャンバ631,及び第2真空チャンバ621と第3真空チャンバ631の圧力の差がそれぞれ5×10−4Pa以下であって同程度cの真空度となっているので、有機EL層330の構成材料が劣化することにより有機EL素子の駆動電圧の上昇、発光効率の低下、寿命の低下等の問題が抑制される。
【0128】
なお、本実施形態では、有機EL層330のうち発光層333のみを転写により形成したが、本発明の適用対象は発光層333に限定されるものではなく、正孔注入層331、正孔輸送層332、電子輸送層334、電子注入層335等の形成においても本発明を適用することができる。
【0129】
以上説明した有機EL素子300の製造方法によれば、有機EL層形成工程、有機EL層転写工程、及び残渣除去工程を真空中で行うので、有機EL層330へ水や酸素、埃等の異物の混入により有機EL層330が損傷を受けるのを阻止することができる。また、転写基板615が再利用可能であるので、製造コストを抑えて有機EL素子300を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、有機EL素子の製造方法及び有機EL層の転写装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】有機EL表示装置の平面図である。
【図2】図1のII−IIにおける断面図である。
【図3】実施形態の有機EL表示装置の製造装置の概略図である。
【図4】実施形態の有機EL層の転写装置の有機EL層形成部を示す図である。
【図5】実施形態の有機EL層の転写装置の有機EL層転写部を示す図である。
【図6】実施形態の有機EL層の転写装置の残渣除去部を示す図である。
【図7】実施形態の有機EL素子の製造方法のプロセスフロー図である。
【図8】(a)〜(c)は、実施形態の有機EL素子の製造方法を示す説明図である。
【図9】(a)〜(c)は、実施形態の有機EL素子の製造方法を示す説明図である。
【図10】(a)及び(b)は、実施形態の有機EL素子の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0132】
300 有機EL素子
330 有機EL層
600 転写装置
611 第1真空チャンバ
612 蒸着源
615 転写基板
621 第2真空チャンバ
622 第1照射源
624 被転写基板
631 第3真空チャンバ
634 第2照射源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写基板上に有機EL層を形成する有機EL層形成工程と、
上記有機EL層形成工程で有機EL層を形成した転写基板の有機EL層側に被転写基板を重ね合わせて輻射線を照射することにより有機EL層を転写基板から被転写基板に転写する有機EL層転写工程と、
上記有機EL層転写工程で有機EL層を被転写基板に転写した後の転写基板に残った残渣を輻射線を照射することにより除去する残渣除去工程と、
を備え、
上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程をいずれも真空中で行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された有機EL素子の製造方法において、
上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程を1×10−3Pa以下で行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された有機EL素子の製造方法において、
上記有機EL層形成工程、上記有機EL層転写工程、及び上記残渣除去工程をそれぞれ行うときの圧力の相互の差が5×10−4Pa以下であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
転写基板上に有機EL層を形成するための蒸着源が設けられた第1真空チャンバと、
有機EL層を形成した転写基板の有機EL層側に被転写基板を重ね合わせて有機EL層を転写基板から被転写基板に転写するための輻射線を照射する第1照射源が設けられた第2真空チャンバと、
有機EL層を被転写基板に転写した後の転写基板に残った残渣を除去するための輻射線を照射する第2照射源が設けられた第3真空チャンバと、
を備えたことを特徴とする有機EL層の転写装置。
【請求項5】
請求項4に記載された有機EL層の転写装置において、
上記第1照射源がレーザ光源であることを特徴とする有機EL層の転写装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された有機EL層の転写装置において、
上記第2照射源が熱源であることを特徴とする有機EL層の転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−123474(P2010−123474A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297697(P2008−297697)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】