説明

有機EL素子の製造方法

【課題】 エージング工程においてオープン破壊できないような陰極の膜厚が135nm以上である有機EL素子において、リークの発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行う。
【解決手段】 基板10上に、陽極20、有機膜30を形成し、その上に陰極40を膜厚135nm以上にて形成し、両極20、40間に逆電圧として第1の電圧V1を印加して欠陥部顕在化処理を行った後、両極20、40間に逆電圧として第2の電圧V2を印加し、このときに流れるリーク電流を測定し、測定されたリーク電流に基づいて有機EL素子100の良否を判定するものであって、第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間内において、リーク電流の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一般に、基板上に、陽極、発光層を含む有機膜、陰極を積層してなるが、有機材料を使用しているために、電界や熱によって変質や拡散が起こりやすく、その結果として、上下電極の短絡が発生することがある。特に初期のリーク電流が検出限界(たとえば1nA以下)であっても、駆動時に、突然、上下の電極の短絡にいたる場合がある。
【0003】
その対策として、従来では、陰極をプラス極、陽極をマイナス極として両極間に、発光時に印加する順電圧とは反対の逆電圧を印加し、欠陥部を顕在化させてオープン破壊するエージング工程を行い、その後、有機EL素子に逆電圧を印加し両極間に流れるリーク電流を測定し、このリーク電流値に基づいて良否判定を実施する工程を行う製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このものによれば、逆電圧の印加により欠陥部にリーク電流が発生し、このリーク電流によるジュール熱により有機材料が熱膨張を起こす。ここで、欠陥部とは、通常、異物などの段差によって有機膜が薄くなり短絡しやすくなっている部位である。
【0005】
そして、この膨張により、Alなどからなる陰極が飛散し、欠陥部が電気的にオープンになり、駆動時にはリークが発生しないようになる。オープン化した欠陥部は、陰極が飛散したため局所的な非発光部となるが、肉眼で見分けることができなければ表示品質に影響はない。
【特許文献1】特許第3562522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような陰極をオープン破壊させるエージング工程を行うものは、逆電圧の印加により欠陥部がオープン破壊する素子構造には有効である。
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記方法を用いても、このようなオープン破壊ができない素子構造が存在し、そのようなものには、上記方法が適用できないことが実験的にわかった。
【0008】
オープン破壊ができない素子構造とは、陰極を厚膜とした構造である。この陰極を厚くしていくと、上記したオープン破壊のメカニズムより、ある膜厚以上でオープン破壊が発生しなくなる。具体的には、そのような陰極の膜厚が135nm以上であることがわかった。
【0009】
このことに関する本発明者が行った具体的な実験検討について述べる。一般的な有機EL素子構造において、陰極の膜厚を変えたものを作製し、これらについて、オープン破壊させるためのエージング工程を行った。また、エージング工程において印加する逆電圧が大きいほどオープン化がなされやすいため、その逆電圧も変えて行った。
【0010】
図5は、種々の逆電圧における陰極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。エージング工程において印加する逆電圧が16Vである場合、陰極膜厚が100nmまでオープン化可能である。
【0011】
さらに、逆電圧を18V以上とすることで135nmまでオープン化可能である。また、観察の結果、このオープン化が上記したような陰極の飛散によるものであることを確認した。
【0012】
ここで、陰極膜厚が135nm以上の構造では、逆電圧を22Vとすることで、欠陥部が電気的にオープン化する。しかし、この時の欠陥部は陰極の飛散が大きく目視可能であり、品質不良となるものであった。
【0013】
たとえば、オープン化してできた穴の径が150μm以下ならば、目視されず、表示品質上問題ないが、それよりも大きいとオープン化した部分が目視可能となり、問題となる。
【0014】
これは、印加する逆電圧を22Vまで上げたことにより、ジュール熱が増大し、陰極の飛散量が大きくなったためと考えられる。つまり、陰極の膜厚が135nm以上の素子構造は、オープン破壊させるエージング工程を採用しても、表示品質の点より、オープン化できない構造であることがわかった。
【0015】
また、上記特許文献1では、エージング工程後に有機EL素子に逆電圧を印加したときに流れるリーク電流値に基づいて良否判定を実施する、すなわち正常品と欠陥品とを判定するようにしているが、上述の理由から、陰極が135nm以上に厚くオープン化できない素子構造の場合には適用することができない。
【0016】
このような陰極の厚膜化は、陰極の低抵抗化などの点から必要である。したがって、陰極の厚膜化によってオープン破壊が発生しなくても、出荷前に逆電圧を印加する処理を行って欠陥部を顕在化させ不良品を取り除くことは、市場における短絡不良を防止するためには、必要である。
【0017】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エージング工程においてオープン破壊できないような陰極の膜厚が135nm以上である有機EL素子において、リークの発生しやすい欠陥部を顕在化させて良否判定を適切に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、鋭意検討を行った。まず、陰極の膜厚が135nm以上であること以外は一般的な構成を有する有機EL素子を用いて、有機膜の膜厚を厚くして欠陥部を生じないようにした正常品と、有機膜の膜厚を薄くして欠陥部を生じやすくした欠陥品とを、それぞれ複数個作製し、これらについて、陰極と陽極との間に逆電圧としての第1の電圧V1を印加することで欠陥部を顕在化する欠陥部顕在化工程を行った。
【0019】
さらに、この欠陥部顕在化工程後、これら複数個の正常品および欠陥品について、陰極と陽極との間に逆電圧としての第2の電圧V2を印加し、このときに流れるリーク電流値を測定した。
【0020】
すると、後述する図3(V2=15V)、図4(V2=28V)に示されるように、正常品と欠陥品とでは、測定されるリーク電流値の大きさに明らかな相違が見られた。このことから、測定されたリーク電流値が、正常品のリーク電流値よりも大きい場合に、欠陥品として判定できることがわかった。
【0021】
また、欠陥部顕在化工程後からリーク電流測定工程を行うまでに経過した経過時間が長くなるほど、欠陥品において測定されるリーク電流の大きさは小さくなり、正常品と欠陥品との差が小さくなり、やがて、リーク電流の分布を見たときに、分布が重なり、欠陥品と正常品とが層別できなくなるという傾向が見られた。
【0022】
この欠陥品のリーク電流値が欠陥部顕在化後の経過時間によって減少することは、詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者が新たに見出したことである。
【0023】
従来のエージング工程と良否判定との間は、工程が異なるため、リーク電流測定までの待機や、工程停止中の保管などの時間に対して、特に定められていない。場合によっては1日以上の時間間隔が発生することもある。しかし、そのように長い間合をとった場合、正常品と欠陥品との間でリーク電流の差が見られなくなり、判定できなくなってしまう可能性がある。
【0024】
そこで、欠陥部顕在化工程とリーク電流測定との経過時間を、ある程度短くし、欠陥部顕在化工程の後、リーク電流測定工程を、早く行うことが必要になる。
【0025】
つまり、上記実験検討によれば、陰極の膜厚が135nm以上である有機EL素子においては、欠陥部顕在化工程の後、第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間内において、リーク電流を測定すれば、このリーク電流値に基づいて、正常品と欠陥品とを識別できることがわかった。
【0026】
本発明は、上記したような実験検討の結果、創出されたものであり、陰極(40)を膜厚135nm以上にて形成し、続いて、両極(20、40)間に逆電圧として第1の電圧V1を印加して欠陥部顕在化工程を行った後、両極(20、40)間に逆電圧として第2の電圧V2を印加してリーク電流を測定する測定工程を行い、測定されたリーク電流値に基づいて有機EL素子(100)の良否を判定する判定工程を行うものであって、測定工程では、第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間内において、リーク電流の測定を行うことを、第1の特徴とする。
【0027】
それによれば、上述したように、リークの発生しやすい欠陥部を顕在化させて測定されたリーク電流値に基づいて正常品と欠陥品と識別することができるため、良否判定を適切に行うことができる。
【0028】
なお、正常品のリーク電流は、上記測定工程および判定工程を経て欠陥部が無く正常品と判定されたものにおけるリーク電流であるが、この正常品のリーク電流は分布を持つため、本発明においては、正常品のリーク電流としては、その分布における上限値(Imax)を採用することができる。
【0029】
また、すでに上記欠陥部顕在化によって素子にはある程度のダメージが発生しており、続く測定工程では、それ以上のダメージを与えないようにすることが好ましく、このことを考慮して、本発明では、測定工程における第2の電圧V2を、欠陥部顕在化工程における第1の電圧V1以下の大きさとすることを第2の特徴とする。
【0030】
また、図3、図4に示されるように、リーク電流測定用の第2の電圧V2が大きい方が、上記経過時間が長くなっても、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を維持できる。これは欠陥部におけるリーク電流が流れやすくなるためであると考えられる。
【0031】
そこで、第2の電圧V2を第1の電圧V1と同等まで大きくした場合において、上記経過時間がどの程度の長さまでならば、正常品と欠陥品とのリーク電流値の差を確保できるか調査した。
【0032】
その結果、図4に示されるように、第2の電圧V2が28V以下である場合、正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間は100000秒以下であることがわかった。つまり、上記経過時間が100000秒までは、素子によるばらつきを考慮したうえで、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を確保できることを見出した。
【0033】
また、本発明は、上記第1の特徴を有する製造方法において、欠陥部顕在化工程における第1の電圧V1を有機EL素子(100)の実駆動時に印加される電圧よりも高いものとすることを、第3の特徴とする。
【0034】
欠陥部顕在化工程は、実駆動時に発生する欠陥を顕在化するという観点から、第1の電圧V1を有機EL素子(100)の実駆動時に印加される電圧の大きさよりも大きいものとすれば、その欠陥の顕在化が促進される。
【0035】
また、第1の電圧V1、第2の電圧V2を直流電圧とすれば、これらの直流を印加するための電源のコストを抑え、また、電圧の制御が簡単になる。
【0036】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子100の断面構成を示す図である。
【0038】
この有機EL素子100は、基板10上に、陽極20、有機膜30、陰極40を積層してなる。この有機EL素子100は、陰極40の膜厚が135nm以上であること以外は、一般的な有機EL素子の膜構成を有するものである。
【0039】
すなわち、基板10はガラスなどの透明基板からなり、陽極20はITOなどの透明電極膜からなり、有機膜30は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが積層されたものからなり、陰極40はアルミなどの金属電極からなる。
【0040】
そして、この有機EL素子100においては、実駆動時には、陽極20をプラス極、陰極40をマイナス極として両極20、40間に順電圧を印加することにより、有機膜30にて発光がなされ、たとえば、基板10側から光が取り出されるようになっている。
【0041】
次に、有機EL素子100の製造方法について述べる。図2は本実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【0042】
まず、基板10上にスパッタなどにより陽極20を形成し、有機発光材料を用いて蒸着法により有機膜30を形成する。続いて、Alなどを蒸着することにより陰極40を膜厚135nm以上(たとえば、300nm程度)で形成する。ここまでが、素子形成工程であり、これにより、上記図1に示される有機EL素子100が形成される。
【0043】
次に、欠陥部顕在化工程では、この有機EL素子100における陰極40をプラス極、陽極20をマイナス極として両極20、40間に、上記順電圧とは逆方向の逆電圧としての第1の電圧V1を印加し、欠陥部を顕在化させる処理を行う。
【0044】
そして、欠陥部顕在化工程の後、測定工程を行う。この測定工程では、陰極40をプラス極、陽極20をマイナス極として両極20、40間に逆電圧としての第2の電圧V2を印加し、このときに流れるリーク電流を測定する。ここでは、第2の電圧V2は、素子のダメージを抑制するべく、第1の電圧V1以下の大きさとする。
【0045】
そして、判定工程では、測定工程にて測定されたリーク電流値に基づいて有機EL素子100の良否を判定する。なお、この測定工程と判定工程とは、同時に行ってもよい。つまり、リーク電流の測定と同時に良否判定を行ってもよい。
【0046】
そして、本実施形態では、欠陥部顕在化工程の後、経過時間100000秒以内にて測定工程を行う。上記解決手段の欄にも述べたが、欠陥部顕在化工程の後、100000秒以内に測定工程を行う根拠は、本発明者の実験検討の結果によるものである。ここでは、検討結果を示す図を用いて、より具体的に述べる。
【0047】
上記図1に示される素子構成において、有機膜30の膜厚tを変えることで、リークの発生しない正常品と発生しやすい欠陥品とを作製した。
【0048】
リーク電流の発生度合に関する主たるパラメータは、有機膜30の膜厚tであり、この有機膜30を薄くすることでリーク電流が発生しやすくなる。正常品としては、有機膜30の膜厚tを100nm以上とした。これは、通常の有機EL素子における有機膜30の膜厚が100nm〜200nm程度であることから決めた。
【0049】
一方、欠陥品としては、有機膜30の膜厚tを60nm以下とした。この60nm以下の膜厚は、通常の有機EL素子中に存在する段差などにより生じる欠陥部の膜厚であり、通常の有機EL素子においてリークが発生する範囲である。
【0050】
そして、複数個の正常品および欠陥品について、欠陥部顕在化工程と測定工程との間の経過時間を変えて、両工程を行った。
【0051】
ここでは、正常品をn=4、欠陥品をn=10にて行った。また、欠陥部顕在化工程は、温度85℃の環境のもと、第1の電圧V1が28Vの直流電圧、印加時間が60秒の条件で行った。この条件は、十分に欠陥部を顕在化できる条件である。
【0052】
なお、有機EL素子100の実駆動時に印加される電圧は、交流電圧であり、発光時の順電圧が12V、非発光時の逆電圧が−15Vであるが、この第1の電圧V1は、この実駆動時に印加される電圧の大きさよりも大きい。
【0053】
これは、欠陥部顕在化工程は、実駆動時に発生する欠陥を顕在化するという点を考慮したものであり、第1の電圧V1を有機EL素子100の実駆動時に印加される電圧の大きさよりも大きいものとすれば、その欠陥の顕在化が促進される。
【0054】
そして、測定工程は、温度85℃の環境のもと、第2の電圧V2が15Vの直流である場合と、28V、すなわち第1の電圧V1と同等の直流電圧である場合とについて、行った。
【0055】
図3は、第1の電圧V1=15Vの場合における正常品および欠陥品についての、測定工程にて測定されたリーク電流値のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムは、横軸にリーク電流の対数値、縦軸に頻度をとってある。具体的に横軸は、リーク電流値をI(単位:nA)として、logIを示すものである。
【0056】
そして、図3において、(a)は欠陥部顕在化工程終了直後の正常品、(b)は欠陥部顕在化工程終了直後の欠陥品、(c)は100秒後の欠陥品、(d)は1000秒後の欠陥品について示してある。
【0057】
また、図4は、第1の電圧V1=28Vの場合における正常品および欠陥品についての、測定工程にて測定されたリーク電流値のヒストグラムを示す図であり、横軸、縦軸は上記図3と同様である。
【0058】
また、図4においても、(a)は欠陥部顕在化工程終了直後の正常品、(b)は欠陥部顕在化工程終了直後の欠陥品、(c)は1000秒後の欠陥品、(d)は100000秒後の欠陥品について示してある。
【0059】
図3、図4に示されるように、正常品と欠陥品とでは、測定されるリーク電流値の大きさに明らかな相違が見られる。
【0060】
また、経過時間が長くなるほど、欠陥品において測定されるリーク電流値は小さくなっており、正常品と欠陥品とでリーク電流値の差が小さくなっている。また、正常品については、上記経過時間とともにリーク電流値は変化しないことが確認されている。
【0061】
ここで、測定されるリーク電流値には、素子毎にばらつきがあるため、平均値で比較することは歩留まりの確保ができない。そこで、ばらつき、すなわち電流値分布を考慮して比較することが必要であるが、図3、図4に示されるような分布にて比較することは、通常の歩留まりを得るためには妥当なものである。
【0062】
そして、このようなリーク電流値のばらつきを考慮すれば、正常品のリーク電流値の分布において上限値Imaxよりも、欠陥品のリーク電流値の分布の下限値が高い場合には、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差が確保され、判定工程において、リーク電流値による正常品と欠陥品との識別が可能であるといえる。
【0063】
正常品のリーク電流値の分布において上限値Imaxよりも、欠陥品のリーク電流値の分布の下限値が低い場合には、正常品と欠陥品との混在域が発生する。この場合、正常品の歩留りを落とすことになるが、欠陥品のリーク電流値の分布の下限値を判定値とすることで欠陥品を確実に除去することができる。
【0064】
また、経過時間が長くなるほど、正常品と欠陥品とでリーク電流値の差が小さくなっていくが、正常品のリーク電流値の上限値Imaxよりも、欠陥品のリーク電流値の下限値が小さくなった場合には、両者の識別が確実に行われなくなる。
【0065】
たとえば、図3に示されるように、第2の電圧V2=15Vの場合、経過時間が100秒以内であれば、正常品と欠陥品との識別は確実に可能であるが、1000秒では、正常品のリーク電流値の上限値Imaxよりも欠陥品のリーク電流値の下限値が小さいため、当該識別が不可能な場合が生じる。
【0066】
つまり、第2の電圧V2=15Vの場合、経過時間が100秒以内であれば良否判定が可能であるが、1000秒後は良否判定できないレベルである。
【0067】
しかし、上述したように、第2の電圧V2は、第1の電圧V1以下の大きさであればよく、その範囲で変えることが可能である。
【0068】
そこで、図4に示されるように、第2の電圧V2を最大値28Vとした場合には、経過時間が1000秒と長い場合でも、正常品のリーク電流値の分布において上限値Imaxよりも、欠陥品のリーク電流値の分布の下限値が高いものとなっており、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を、識別可能なレベルに確保できる。
【0069】
このような図3、図4に示される結果から、上記経過時間が100000秒までは、素子によるばらつきを考慮したうえで、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を、両者を識別可能なレベルで確保でき、良否判定を行えるといえる。
【0070】
ここで、良否判定は、具体的には、正常品のリーク電流値の上限Imaxを求めておき、これを基準値としておく。そして、各有機EL素子100を形成した後、欠陥部顕在化工程、さらに100000秒以内にリーク電流値を求め、求められたリーク電流値が上記基準値よりも大きい場合に不良品すなわち欠陥品と判定し、基準値以下ならば良品すなわち正常品と判定する。
【0071】
これが、本実施形態において、欠陥部顕在化工程の後、100000秒以内に測定工程を行う根拠である。
【0072】
なお、100000秒という経過時間は、リーク電流測定用の第2の電圧V2を最大値としたうえで、正常品と欠陥品とのリーク電流値の差が確保可能な限界に近い値であり、このことを考慮すると、実際には、それよりも1桁小さい経過時間、たとえば10000秒以内の経過時間で行うことが望ましい。
【0073】
また、上記図1に示される有機EL素子100において、有機膜30の膜材料を通常用いられる数種類のものに変えた場合に、同様の検討を行ったところ、上記図3、図4に示されるものと同様の傾向が得られた。このことから、上記図3および図4に示される傾向は、陰極40の膜厚が135nm以上の有機EL素子ならば広く反映されるものと考えられる。
【0074】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、陰極40を膜厚135nm以上にて形成した有機EL素子100において、両極20、40間に逆電圧として第1の電圧V1を印加して欠陥部顕在化処理を行った後、100000秒以内に、両極20、40間に逆電圧として第1の電圧V1以下の大きさの第2の電圧V2を印加し、このときに測定されるリーク電流値に基づいて有機EL素子100の良否を判定するようにしている。
【0075】
それによれば、リークの発生しやすい欠陥部を顕在化させて測定されたリーク電流値に基づいて正常品と欠陥品と識別することができるため、良否判定を適切に行うことができる。
【0076】
また、本実施形態では、第2の電圧V2が第1の電圧V1以下の大きさであり、その上限すなわち第2の電圧V2を第1の電圧V1と同等まで大きくした場合を考慮して、上記経過時間を100000秒以内とした。
【0077】
しかし、第2の電圧V2を15Vとした場合では、上記経過時間を100秒以内としなければ、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を確保できず、上記経過時間が1000秒の場合は、上記判定工程において良否判定が困難になる。
【0078】
そのことを考慮すれば、上記製造方法においては、測定工程では、第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間内において、リーク電流の測定を行うようにすればよい。
【0079】
つまり、その時間すなわち経過時間は、上記例によれば、第2の電圧V2が15Vの場合、100秒であり、28Vの場合、100000秒である。
【0080】
さらに、リーク電流測定用の第2の電圧V2が大きい方が、上記経過時間が長くなっても、正常品と欠陥品との間のリーク電流値の差を維持できる傾向にあることから、第2の電圧V2が第1の電圧V1よりも大きい場合では、上記経過時間は、第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなるような時間の範囲内であれば、100000秒よりも長くなってもよい。
【0081】
次に、本実施形態の製造方法を適用した一具体例を挙げておくが、本実施形態は、この例に限定されるものではない。
【0082】
基板10としてガラス基板を用意し、この基板10の上にITOからなる陽極20を形成した。そして、この陽極20に対して、UVオゾンと酸素を含有するガスによるプラズマ処理などによって表面処理を行った。
【0083】
続いて、この陽極20の上に、蒸着法により有機膜30を形成した。ここでは、陽極20側から正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層された有機膜30とした。
【0084】
まず、陽極20の上に、平坦化層となる第1の正孔輸送層として市販されているトリフェニルアミンA(Tg:135℃)を60nmの厚さで形成した。続いて、この第1の正孔輸送層を160℃で、10分間、平坦化処理した。その上に、第2の正孔輸送層として、市販されているトリフェニルアミンB(Tg:200℃以上)を24nmの厚さで形成した。
【0085】
その後、この上に、発光層として、クマリンを1%ドープしたアルミキノリノール(Tg:167℃)とトリフェニルアミンBとを1:1の比で混合したものであって、厚さ60nmにて成膜されたものを形成した。そして、その上に、厚さ30nmのアルミキノリノールからなる電子輸送層を形成した。
【0086】
こうして、正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層されてなる有機膜30を形成した後、その上に、厚さ0.5nmのLiFなどからなる電子注入層を形成し、さらに厚さ300nmのAl−0.2%Cuからなる陰極40を形成した。
【0087】
そして、この有機EL素子を露点−70℃以下の乾燥窒素雰囲気に入れ、封止用の掘り込みガラスからなるカバーに吸湿剤をつけて封止した。こうして、有機EL素子100を形成した。
【0088】
また、このような有機EL素子100を複数個作製した。そして、これら複数個の有機EL素子100について、欠陥部顕在化工程を行った。ここでは、85℃雰囲気にて、第1の電圧V1として28Vの直流電圧を60秒間印加した。
【0089】
この欠陥部顕在化工程が終了してから100秒後に、85℃雰囲気にて、第2の電圧V2として28Vの直流電圧を印加してリーク電流を測定した。そして、あらかじめ求めておいた正常品によるリーク電流の基準値Imaxとして、2.7μAを用い、良否判定を実施した。
【0090】
各有機EL素子100について、2.7μAよりも大きいリーク電流値であったものを不良品とし、2.7μA以下であったものを良品として層別した。そして、これら不良品および良品の各素子群について、85℃の恒温槽内で500時間、連続点灯試験を実施した。
【0091】
この点灯試験の印加波形としては、125Hz、1/64デューティの矩形パルスであり、1周期の詳細としては、順バイアス電圧12Vを1回印加し、続いて、逆バイアス電圧−15Vを63回印加するものとした。また、各素子について、リーク電流が初期の4倍以上となった場合をリーク発生有とした。
【0092】
この試験の結果、良品の素子群では、リーク発生率は0であったのに対し、不良品の素子群では、約50%の素子にてリークが発生した。このように、本実施形態の製造方法により良品と判定された有機EL素子は、実駆動中のリークを確実に防止できる。
【0093】
また、本実施形態において、陰極40の膜厚を135nm以上とすること、および、上記経過時間を1000秒以内とすること、というように境界を設けているが、これらの値は実質的に均等な範囲で幅を持った値も含むものである。
【0094】
(他の実施形態)
なお、上記の第1の電圧V1および第2の電圧V2、直流でなくてもよく交流でもよい。この場合、実効電圧として狙いの電圧V1、V2になればよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の断面図である。
【図2】実施形態の有機EL素子の製造方法を示す工程フロー図である。
【図3】第1の電圧V1=15Vの場合における正常品および欠陥品についてのリーク電流値のヒストグラムを示す図である。
【図4】第1の電圧V1=28Vの場合における正常品および欠陥品についてのリーク電流値のヒストグラムを示す図である。
【図5】種々の逆電圧における陰極膜厚とオープン化成功率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
10…基板、20…陽極、30…有機膜、40…陰極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)上に、陽極(20)、有機膜(30)、陰極(40)を積層してなる有機EL素子(100)を形成する素子形成工程を備える有機EL素子の製造方法において、
前記素子形成工程では、前記陰極(40)を膜厚135nm以上にて形成し、
続いて、前記有機EL素子(100)における前記陰極(40)をプラス極、前記陽極(20)をマイナス極として前記両極(20、40)間に第1の電圧V1を印加し、欠陥部を顕在化させる欠陥部顕在化工程と、
この欠陥部顕在化工程の後、前記陰極(40)をプラス極、前記陽極(20)をマイナス極として前記両極(20、40)間に第2の電圧V2を印加してリーク電流を測定する測定工程と、
測定されたリーク電流値に基づいて前記有機EL素子(100)の良否を判定する判定工程とを行い、
前記測定工程では、前記第2の電圧V2を印加したときに正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間内において、前記リーク電流の測定を行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2の電圧V2は、前記第1の電圧V1以下の大きさであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の電圧V2は28V以下であり、前記正常品のリーク電流よりも欠陥品のリーク電流が大きくなる時間は100000秒であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記欠陥部顕在化工程における前記第1の電圧V1は、前記有機EL素子(100)の実駆動時に印加される電圧の大きさよりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記欠陥部顕在化工程における前記第1の電圧V1は、直流電圧であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記判定工程における前記第2の電圧V2は、直流電圧であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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