説明

有機EL素子の製造方法

【課題】濃度消光を起こすことなく、連続駆動を行った後にも光路設計通りの最良な発光をなさせることができる有機EL素子を液体プロセスを用いて製造可能な有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】陽極10上にホスト材料を含む第1の液状体を配置し、第1の液状体を乾燥してホスト層22を形成する工程と、ホスト層22を第1の温度で加熱処理する工程と、ホスト層22上にホスト材料とゲスト材料とを含む第2の液状体を配置し、第2の液状体を乾燥して発光層23を形成する工程と、発光層23を第2の温度で加熱処理する工程と、発光層23上に陰極30を形成する工程と、を有し、ホスト層22を加熱処理する第1の温度が発光層23を加熱処理する第2の温度よりも高い温度であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro-Luminescent)素子を複数備えて構成される有機EL装置は、次世代ディスプレイ装置として数多くのメーカーで研究・開発がなされている。現在、有機EL装置は、携帯電話への搭載や有機ELテレビなど、小型・中型ディスプレイ分野で量産化が可能なレベルまで技術が確立されている。
しかしながら、ディスプレイ分野においては、現在でも小型・大型を問わずLCD(Liquid Crystal Display)が主流である。有機EL装置がLCDに代わるためには、例えば長寿命化や発光特性の向上など、いくつかの課題を解決しなければならない。
【0003】
そこで、従来、長寿命化や発光特性の向上を図るべく、例えば以下のような手法を用いている。
有機EL素子を点灯させるためには、発光層を含む機能層に電流を流さなければならない。しかし、基本的に電気を流しにくい性質の機能層に電流を大量に流すためには、機能層をナノオーダーにまで薄膜化する必要がある。すなわち、このような薄膜の機能層に電圧を印加することにより、必要な電流値を確保している。また、機能層を、例えば正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層に機能分類して積層することにより、有機EL素子の特性を大きく改善している。
【0004】
ところで、有機EL素子は、陽極と陰極との二つの電極で機能層を挟持した構造になっており、陽極から正孔を、陰極から電子をそれぞれ機能層に注入し、発光層中で正孔と電子とを再結合させることにより、発光する。すなわち、発光層中で正孔と電子とを再結合させることで励起子を生成し、励起状態から基底状態に戻るためのエネルギーを放出させ、放出したエネルギーの一部を光として取り出すことにより、発光させている。
【0005】
このような有機EL素子においては、正孔と電子とを再結合させる発光層を、キャリア輸送を担うホスト材料にゲスト材料としての蛍光色素をドープしたホスト−ゲスト材料を用いて形成することにより、特性が向上することが分かっている。
そして、特許文献1では、蒸着法によって正孔輸送層と発光層との間にゲスト材料からなるゲスト分子層を設けることで、連続駆動時にゲスト材料が陰極側に移動することによる輝度低下を軽減し、長寿命化を図っている。すなわち、ゲスト材料は陽極からの+(正)のチャージを受けることによって陰極側に移動するため、ゲスト分子層を陽極側に配設しておくことにより、ゲスト分子が陰極側に移動しても、発光層中に留まることで発光に寄与できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−6102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の有機EL素子にあっても、ゲスト材料の移動という根本の解決には至っておらず、したがってより良好な輝度特性を得るには未だ不十分である。すなわち、連続駆動によるゲスト材料の移動に伴って発光層は、正孔と電子との再結合領域(再結合位置)、つまり光取り出し領域(光取り出し位置)が陰極側に移動する。しかし、有機EL素子は通常、予め設定した光取り出し領域に基づいて各有機層や電極の厚さなどが設定され、最良の発光が得られるように光路設計がなされている。つまり、光取り出し領域が移動すると、光路設計がずれることによって得られる光の色味が変わるなど輝度変化が起こり、設定した最良の発光が得られなくなってしまうのである。また、ゲスト材料の移動に伴ってゲスト材料が濃縮され、設定以上の濃度になると、濃度消光によって輝度が低下してしまう場合がある。
【0008】
また、特許文献1の有機EL素子の製造方法では、ホスト−ゲスト材料を用いた発光層を蒸着プロセスによって作製しているが、将来的には、コスト面や大面積化への対応などから、このような発光層をインクジェット法やスピンコート法等の液体プロセスによって作製することが望まれている。しかしながら、液体プロセスを用いた有機EL素子は、蒸着プロセスを用いた有機EL素子に比べて発光寿命が短いという問題があり、このような問題を解決することが、液体プロセスを実用化する上で大きな課題となっている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、濃度消光を起こすことなく、連続駆動を行った後にも光路設計通りの最良な発光をなさせることができる有機EL素子を液体プロセスを用いて製造可能な有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極上にホスト材料を含む第1の液状体を配置し、前記第1の液状体を乾燥してホスト層を形成する工程と、前記ホスト層を第1の温度で加熱処理する工程と、前記ホスト層上にホスト材料とゲスト材料とを含む第2の液状体を配置し、前記第2の液状体を乾燥して発光層を形成する工程と、前記発光層を第2の温度で加熱処理する工程と、前記発光層上に陰極を形成する工程と、を有し、前記ホスト層を加熱処理する第1の温度が前記発光層を加熱処理する第2の温度よりも高い温度であることを特徴とする。
【0011】
この製造方法により製造された有機EL素子によれば、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなる発光層が、ホスト層上で陰極側に配設されているので、連続駆動時にゲスト材料が陰極側に移動しようとしても、既に陰極側に配置されていることによってほとんど移動が起こらず、したがって光取り出し領域の移動もほとんど起こらない。よって、光取り出し領域(位置)の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになる。また、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光が防止される。
【0012】
また、陽極と発光層との間に中間層としてキャリア輸送を担うホスト層が形成されるので、陽極と発光層との間の界面におけるキャリア輸送の不安定さが改善され、正孔が発光層にスムーズに注入される。このように陽極と発光層との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが改善されることにより、有機EL素子の経時的な輝度低下を低減し長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、本発明の有機EL素子の製造方法においては、ホスト層形成工程において、ホスト層が発光層の加熱温度よりも高い温度で加熱されるので、有機EL素子の連続駆動時の発熱に対するホスト層の耐性を高めることができる。すなわち、連続駆動時の発光輝度の低下は、発光層の熱的劣化によるものと、ホスト層の熱的劣化によるものが考えられるが、本発明の有機EL素子の製造方法においては、ホスト層を初期劣化させ、ホスト層に熱的な安定性を付与しているので、連続駆動時の発熱による陽極と発光層との間の界面のキャリアバランスの変化が抑制される。
【0014】
連続駆動時の発熱による影響を抑制する方法としては、発光層を高温で加熱する方法も考えられるが、発光層の加熱温度を高温にしすぎると、材料の持つ発光能力が下がったり、キャリアバランスの不均一さを生じたりするなどの問題が生じる。そのため、本発明の有機EL素子の製造方法では、ホスト層を高温で加熱し、連続駆動時の発熱の影響を最小限に抑えるようにしている。この方法によれば、発光層の発光能力を損なうことなく、連続駆動時による特性の不安定性を最小限に抑えることができる。
【0015】
また、本製造方法においては、前記ホスト層を形成する工程において、前記ホスト層を、該ホスト層の下地層のガラス転移温度よりも低い温度で加熱処理することが望ましい。
【0016】
この製造方法によれば、ホスト層形成工程において、ホスト層が下地層(例えば正孔注入・輸送層)のガラス転移温度よりも低い温度で加熱されるので、下地層が加熱の影響によって変形してしまうことが抑制され、ホスト層の土台としての機能を保持することができる。このため、陽極と発光層との間にキャリア輸送を担うホスト層を選択的に形成することができ、陽極と発光層との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが確実に改善される。したがって、有機EL素子の連続駆動時における輝度低下を確実に抑制し、長寿命化を確実に図ることが可能となる。
【0017】
また、本製造方法においては、前記第2の液状体として、ホスト材料とゲスト材料とを溶媒に溶解させ飽和状態に調整された液状体を用いることが望ましい。
【0018】
この製造方法によれば、発光層形成工程において、飽和状態に調整された液状体がホスト層上に塗布されるので、ホスト層が溶解して発光層中に浸透してしまうことがない。このため、陽極と発光層との間にキャリア輸送を担うホスト層を選択的に形成することができ、陽極と発光層との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが確実に改善される。したがって、有機EL素子の連続駆動時における輝度低下を確実に抑制し、長寿命化を確実に図ることが可能となる。
【0019】
また、本製造方法においては、前記発光層を形成する工程と前記陰極を形成する工程との間に、ホールブロック層を前記発光層上に形成する工程を有し、さらに電子輸送層を前記ホールブロック層上に形成する工程を有することが望ましい。
【0020】
この製造方法によれば、発光層と陰極との間にホールブロック層が形成されることにより、+(正)にチャージされたゲスト材料の陰極側への移動が確実に抑えられ、したがってゲスト材料が電子輸送層にまで移動し、ここで発光をなさせるといった不都合が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の有機EL素子の電極と機能層との構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係る有機EL素子の製造工程を示す図である。
【図3】駆動時間と輝度との関係を示すグラフである。
【図4】他の形態の有機EL素子の電極と機能層との構成を模式的に示す図である。
【図5】電子機器の一例である携帯電話の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態における有機EL素子1の電極と機能層との構成を模式的に示す図である。図1に示すように、有機EL素子1は、陽極10と、機能層20と、陰極30と、を備えて構成されている。機能層20は、陽極10側から順に、正孔注入・輸送層21、ホスト層22、発光層23、ホールブロック層24、電子輸送層25を積層したものである。機能層20は、電子輸送層25上に陰極30が設けられたことにより、陽極10と陰極30との間に配設され、挟持されたものとなっている。なお、この有機EL素子1は、発光層23で発光した光を陽極10側から射出するボトムエミッション構造でも、発光層23で発光した光を陰極30側から射出するトップエミッション構造でも、どちらでもよい。
【0024】
陽極10は、素子基板9(図2参照)上に形成されている。素子基板9は、例えばガラス等の透光性材料からなり、その表面には薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する。)等からなる駆動素子や、各種配線が形成されている。陽極10は、これら駆動素子や各種配線に接続するように形成されている。陽極10の形成材料としては、仕事関数が5eV以上の正孔注入効果の高い材料が好適に用いられる。このような正孔注入効果の高い材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態ではITOを用いる。
【0025】
正孔注入・輸送層21は、陽極10上に形成されている。正孔注入・輸送層21の形成材料は、例えば3,4−ポリエチレンジオシチオフェン−ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT−PSS)の分散液を用いることができる。具体的には、分散液としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液を好適に用いることができる。また、これ以外にも従来公知の正孔注入・輸送性材料を用いることができる。正孔注入・輸送層21は、その内部において正孔を輸送する機能を有するとともに、正孔を発光層23側に注入・輸送する機能をも有している。
【0026】
ホスト層22は、正孔注入・輸送層21上に形成されている。ホスト層22はホスト材料を含んで形成されるものであり、ホスト材料としては、例えばCBP(4,4’-bis(9-dicarbazolyl)-2,2’-biphenyl)を用いることができる。また、これ以外にもBAlq(Bis-(2-methyl-8-quinolinolate)-4-(phenylphenolate)aluminium)、mCP(N,N-dicarbazolyl-3,5-benzene:CBP誘導体)、CDBP(4,4'-bis(9-carbazolyl) -2,2'-dimethyl-biphenyl)、DCB(N,N’-Dicarbazolyl-1,4-dimethene-benzene)、P06(2,7-bis(diphenylphosphine oxide)-9,9-dimethylfluorene)、SimCP(3,5-bis(9-carbazolyl)tetraphenylsilane)、UGH3(W-bis(triphenylsilyl)benzene)を用いることができる。
【0027】
発光層23は、ホスト層22上に形成されている。発光層23の形成材料は、ホスト材料とゲスト材料とを含んで構成されている。ホスト材料としては、上述のホスト層22の形成材料と同様に、例えばCBP、BAlq、mCP、CDBP、DCB、P06、SimCP、UGH3を用いることができる。
【0028】
ゲスト材料としては、蛍光材料と燐光材料とがある。蛍光材料としては、例えばアメリカンダイソース社製のADS109GE、ADS111RE、ADS136BEを用いることができる。また、燐光材料としては、例えばIr(ppy)3(Fac-tris(2-phenypyridine)iridium)、ppy2Ir(acac)(Bis(2- phenyl-pyridinato-N,C2)iridium(acetylacetone))、bt2Ir(acac)(Bis(2-phenylbenxothiozolato-N,C2’)iridium(III) (acetylacetonate))、btp2Ir(acac)(Bis(2-2'-benzothienyl)-pyridinato-N,C3)Iridium(acetylacetonate))、FIrpic(Iridium-bis(4,6difluorophenyl-pyridinato-N,C.2.)-picolinate)、Ir(pmb)3(Iridium-tris(1-phenyl-3-methylbenzimidazolin-2-ylidene-C,C(2)'))、FIrN4(((Iridium (III) bis(4,6-difluorophenylpyridinato)(5-(pyridin-2-yl)-
tetrazolate))、Firtaz((Iridium(III) bis(4,6-difluorophenylpyridinato)
(5-(pyridine-2-yl)-1,2,4-triazo-late))、(F2MeOppy)2Ir(acac)を用いることができる。なお、発光層23の形成材料は、ホスト材料とゲスト材料から構成されているものに限らず、これら以外にも従来公知の発光層形成材料を用いることができる。
【0029】
ホールブロック層24は、発光層23上に形成されている。ホールブロック層24の形成材料は、例えばBAlqを用いることができる。このホールブロック層24は、発光層23中のゲスト材料が+(正)にチャージされ、陰極30に移動するべく、ホールブロック層24から抜け出て電子輸送層25側に移動するのを抑制するものである。
【0030】
電子輸送層25は、ホールブロック層24上に形成されている。電子輸送層25の形成材料は、例えばAlq3を用いることができる。この電子輸送層25は、陰極30から注入された電子を発光層23側に輸送するものである。
【0031】
陰極30は、電子輸送層25上に形成されている。陰極30は、例えばフッ化リチウム(LiF)が厚さ5nm程度に形成され、その上にアルミニウム(Al)が厚さ300nm程度に形成された積層構造の電極を用いることができる。なお、陰極30についても透明な材料を用いれば、発光した光を陰極側からも出射させることができる。透明な材料としては、例えばITO、Pt、Ir、Ni、もしくはPdを用いることができる。膜厚としては、透明性を確保する上で、75nm程度が好ましく、さらにこの膜厚よりも薄くするのが好ましい。
【0032】
ここで、機能層20を構成する各層や陽極10、陰極30などの厚さは、予め設定した光取り出し領域、すなわち発光層23の位置に基づいて設計(設定)され、これによって最良の光が得られるように光路設計がなされている。また、陰極30上には、接着層を介して封止基板(図示略)が貼り合わされ固定されている。
【0033】
以上の構成により、ホスト材料とゲスト材料とを含んで構成される発光層23が、ホスト層22上で陰極30側に配置されているので、連続駆動時にゲスト材料が陰極30側に移動しようとしても、既に陰極30側に配置されていることによってほとんど移動が起こらない。したがって、光取り出し領域(光取り出し位置)の移動もほとんど起こらない。よって、光取り出し領域の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最適な発光が得られるようになる。また、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光が防止される。
【0034】
また、正孔注入・輸送層21と発光層23との間に中間層としてキャリア輸送を担うホスト層22が形成されているので、正孔注入・輸送層21と発光層23との間の界面におけるキャリア輸送の不安定さが改善され、正孔が発光層23にスムーズに注入されるようになっている。このように正孔注入・輸送層21と発光層23との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが改善されることにより、有機EL素子1の経時的な輝度低下を低減し長寿命化を図ることができる。
【0035】
(有機EL素子の製造方法)
次に、本実施形態における有機EL素子1の製造方法を説明する。図2は、有機EL素子1の製造プロセスを順を追って示す工程図である。有機EL素子1を作製する際は、先ず、図2(a)に示すように、従来と同様の手法により作製された素子基板9を用意する。すなわち、この素子基板9上には、予めTFT等の駆動素子や各種配線が形成されている。
【0036】
次に、素子基板9上に陽極10を形成する。具体的には、インクジェット法(液滴吐出法)、ディスペンス法、スピンコート法を用いて塗布し、素子基板9の全面を覆うように陽極10となる透明導電膜を形成する。次に、この透明導電膜をパターニングすることにより、陽極10を形成する。
【0037】
次に、図2(b)に示すように、陽極10が形成された素子基板9上に、正孔注入・輸送層21を形成する。具体的には、上述した正孔注入・輸送層21の形成材料を溶媒に溶解または分散させた液状体を、インクジェット法を用いて塗布する。次に、減圧乾燥、不活性雰囲気内でベイクを行うことにより、正孔注入・輸送層21を形成する。
【0038】
次に、図2(c)に示すように、正孔注入・輸送層21上にホスト層22を形成する。具体的には、上述したホスト材料を溶媒に溶解または分散させた液状体(第1の液状体)を、インクジェット法を用いて塗布する。次に、減圧乾燥、不活性雰囲気内でベイクを行うことにより、ホスト層22を形成する。
【0039】
ホスト材料を溶解させる溶媒としては沸点が比較的高い溶媒が用いられ、具体的には、ベンゼン、トリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンなどの、沸点が150℃〜300℃程度の高沸点溶媒が用いられる。本実施形態では、ホスト材料としてCBPを用い、溶媒としてシクロヘキシルベンゼン(沸点;235〜236℃)を用いている。
【0040】
ホスト層形成工程におけるベイクは、ホスト層22の下地層となる正孔注入・輸送層21のガラス転移温度よりも低い温度で行う。これにより、正孔注入・輸送層21がベイクの影響によって変形してしまうことが抑制され、ホスト層22の土台としての機能を保持することができる。
【0041】
次に、図2(d)に示すように、ホスト層22上に発光層23を形成する。具体的には、上述した発光層23の形成材料を溶媒に溶解または分散させた液状体(第2の液状体)を、インクジェット法を用いて塗布する。次に、減圧乾燥、不活性雰囲気内でベイクを行うことにより、発光層23を形成する。
【0042】
発光層形成工程において塗布する液状体は、ホスト材料とゲスト材料とを溶媒に溶解させ飽和状態に調整された液状体を用いる。これにより、飽和状態に調整された液状体がホスト層上に塗布されるので、ホスト層22が溶解して発光層23中に浸透してしまうことがない。このため、正孔注入・輸送層21と発光層23との間にキャリア輸送を担うホスト層22を選択的に形成することができる。
【0043】
次に、図2(e)に示すように、発光層23上にホールブロック層24を形成する。具体的には、上述したホールブロック層24の形成材料を蒸着を用いて配置することによりホールブロック層24を形成する。
【0044】
次に、図2(f)に示すように、ホールブロック層24上に電子輸送層25を形成する。具体的には、上述した電子輸送層25の形成材料を蒸着を用いて配置することにより電子輸送層25を形成する。このようにして、陽極10上に、正孔注入・輸送層21、ホスト層22、発光層23、ホールブロック層24、電子輸送層25がこの順に積層した機能層20が形成される。
【0045】
次に、図2(g)に示すように、電子輸送層25上に陰極30を形成する。具体的には、電子輸送層25上に、蒸着を用いて上記LiF層、Al層をこの順に形成し、陰極30を形成する。最後に、接着層によって封止基板(図示略)を接着し、封止を行う。以上の工程により、本実施形態の有機EL素子1を製造することができる。
【0046】
ところで、本発明の有機EL素子1の製造方法では、上述したホスト層形成工程におけるベイク温度(第1の温度)は、発光層形成工程におけるベイク温度(第2の温度)よりも高い温度で行うのが望ましい。具体的には、ホスト層22のベイク温度が例えば200℃に設定されているときは、発光層23のベイク温度を例えば100℃に設定するのがよい。
【0047】
本願発明者は、従来の有機EL素子と本発明の有機EL素子(ホスト層形成工程におけるベイク温度を発光層形成工程におけるベイク温度よりも高い温度で行ったもの)とについて、駆動時間における輝度の変化を調べるための実験を行った。以下、本願発明者が行った実験により得られた従来の有機EL素子と本発明の有機EL素子についての駆動時間と輝度との関係を説明する。
【0048】
図3は、従来の有機EL素子と本発明の有機EL素子についての駆動時間と輝度との関係を示すグラフである。図3は、横軸に駆動時間、縦軸に輝度を示したグラフである。図3において、符号L1は従来の有機EL素子の輝度変化を示す曲線、符号L2は本発明の有機EL素子(例えばホスト層形成工程におけるベイク温度を200℃、発光層形成工程におけるベイク温度を100℃で行ったもの)の輝度変化を示す曲線である。また、符号T1は従来の有機EL素子の輝度半減時間、符号T2は本発明の有機EL素子の輝度半減時間である。
【0049】
図3に示すように、駆動時間における従来の有機EL素子の輝度変化L1と本発明の有機EL素子の輝度変化L2を見ると、駆動時間0〜500hrの間で、L1及びL2のいずれも初期状態の輝度(駆動時間0における輝度)2000cd/m2から半分の1000cd/m2(半減値)まで減少している。ここで、輝度が半減値に至るまでの駆動時間を見ると、本発明の有機EL素子の輝度半減時間T2のほうが従来の有機EL素子の輝度半減時間T1よりも長くなっている(T2>T1)。つまり、駆動時間が同じ条件においては、本発明の有機EL素子のほうが従来の有機EL素子よりも輝度の変化率が小さいことがわかる。
【0050】
これにより、本発明の有機EL素子(ホスト層形成工程におけるベイクを発光層形成工程におけるベイク温度よりも高い温度で行ったもの)は、従来の有機EL素子に対して、連続駆動時における輝度低下を抑制し、長寿命化を図れることが確認される。これは、ホスト層形成工程において、ホスト層22が発光層形成工程におけるベイク温度よりも高い温度で加熱処理されるので、有機EL素子1の連続駆動時の発熱に対するホスト層22の耐性を高めることができることによる。すなわち、連続駆動時の発光輝度の低下は、発光層23の熱的劣化によるものと、ホスト層22の熱的劣化によるものが考えられるが、本発明の有機EL素子の製造方法においては、ホスト層22を初期劣化させ、ホスト層22に熱的な安定性が付与しているので、連続駆動時の発熱による正孔注入・輸送層21と発光層23との間の界面のキャリアバランスの変化が抑制されることによる。
【0051】
この製造方法により製造された有機EL素子1によれば、ホスト材料中にゲスト材料が分散されてなる発光層23が、ホスト層22上で陰極30側に配設されているので、連続駆動時にゲスト材料が陰極30側に移動しようとしても、既に陰極30側に配置されていることによってほとんど移動が起こらず、したがって光取り出し領域の移動もほとんど起こらない。よって、光取り出し領域(位置)の経時変化がなく、光路設計がずれることがないため、常に光路設計通りの最良な発光が得られるようになる。また、ゲスト材料の移動が起こらず、したがってゲスト材料が設定以上に過度に濃縮されないため、濃度消光が防止される。
【0052】
また、陽極10と発光層23との間に中間層としてキャリア輸送を担うホスト層22が形成されるので、陽極10と発光層23との間の界面におけるキャリア輸送の不安定さが改善され、正孔が発光層23にスムーズに注入される。このように陽極10と発光層23との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが改善されることにより、有機EL素子1の経時的な輝度低下を低減し長寿命化を図ることができる。
【0053】
また、本発明の有機EL素子1の製造方法においては、ホスト層形成工程において、ホスト層22が発光層23の加熱温度よりも高い温度で加熱されるので、有機EL素子1の連続駆動時の発熱に対するホスト層22の耐性を高めることができる。すなわち、連続駆動時の発光輝度の低下は、発光層23の熱的劣化によるものと、ホスト層22の熱的劣化によるものが考えられるが、本発明の有機EL素子1の製造方法においては、ホスト層22を初期劣化させ、ホスト層22に熱的な安定性を付与しているので、連続駆動時の発熱による陽極10と発光層23との間の界面のキャリアバランスの変化が抑制される。
【0054】
連続駆動時の発熱による影響を抑制する方法としては、発光層23を高温で加熱する方法も考えられるが、発光層23の加熱温度を高温にしすぎると、材料の持つ発光能力が下がったり、キャリアバランスの不均一さを生じたりするなどの問題が生じる。そのため、本発明の有機EL素子1の製造方法では、ホスト層22を高温で加熱し、連続駆動時の発熱の影響を最小限に抑えるようにしている。この方法によれば、発光層23の発光能力を損なうことなく、連続駆動時による特性の不安定性を最小限に抑えることができる。
【0055】
また、本製造方法によれば、ホスト層形成工程において、ホスト層22が下地層となる正孔注入・輸送層21のガラス転移温度よりも低い温度で加熱されるので、正孔注入・輸送層21が加熱の影響によって変形してしまうことが抑制され、ホスト層22の土台としての機能を保持することができる。このため、正孔注入・輸送層21と発光層23との間にキャリア輸送を担うホスト層22を選択的に形成することができ、正孔注入・輸送層21と発光層23との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが確実に改善される。したがって、有機EL素子1の連続駆動時における輝度低下を確実に抑制し、長寿命化を確実に図ることが可能となる。
【0056】
また、本製造方法によれば、発光層形成工程において、飽和状態に調整された液状体がホスト層22上に塗布されるので、ホスト層22が溶解して発光層23中に浸透してしまうことがない。このため、正孔注入・輸送層21と発光層23との間にキャリア輸送を担うホスト層22を選択的に形成することができ、正孔注入・輸送層21と発光層23との間の界面におけるキャリアバランスの乱れが確実に改善される。したがって、有機EL素子1の連続駆動時における輝度低下を確実に抑制し、長寿命化を確実に図ることが可能となる。
【0057】
また、本製造方法によれば、発光層形成工程と陰極形成工程との間に、ホールブロック層24を発光層23上に形成する工程を有し、さらに電子輸送層25をホールブロック層24上に形成する工程を有している。このため、発光層23と陰極30との間にホールブロック層24が形成されることにより、+(正)にチャージされたゲスト材料の陰極30側への移動が確実に抑えられ、したがってゲスト材料が電子輸送層25にまで移動し、ここで発光をなさせるといった不都合が回避される。
【0058】
なお、本実施形態に係る有機EL素子1は、陽極10、正孔注入・輸送層21、ホスト層22、発光層23、ホールブロック層24、電子輸送層25、陰極30、を積層して構成されているが、これに限らない。図4は、上述した有機EL素子1と異なる形態の有機EL素子1Aの構成を示した図である。図4に示すように、有機EL素子1Aは、機能層20Aが、上述した有機EL素子1の機能層20と異なり、正孔注入・輸送層21と、ホスト層22と、発光層23とから構成されている。このように、有機EL素子1Aは、例えば、陽極10、正孔注入・輸送層21、ホスト層22、発光層23、陰極30、を積層して構成されていてもよい。すなわち、有機EL素子は、陽極10と陰極30との間の機能層に少なくともホスト層22と発光層23とが含まれて構成されていればよい。
【0059】
(電子機器)
次に、本発明に係る電子機器について、携帯電話を例に挙げて説明する。図5は、携帯電話600の全体構成を示す斜視図である。携帯電話600は、筺体601、複数の操作ボタンが設けられた操作部602、画像や動画、文字等を表示する表示部603を有する。表示部603には、本発明に係る有機EL素子1が備えられている。
このように、連続駆動時における輝度低下を抑制し、長寿命化を図ることが可能な有機EL素子1を備えているので、高信頼性かつ高性能な電子機器(携帯電話)600を得ることができる。
【0060】
なお、電子機器としては、上記携帯電話600以外にも、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)、およびエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型またはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルなどを挙げることができる。
【符号の説明】
【0061】
1,1A…有機EL素子、10…陽極、21…正孔注入・輸送層(下地層)、22…ホスト層、23…発光層、24…ホールブロック層、25…電子輸送層、30…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極上にホスト材料を含む第1の液状体を配置し、前記第1の液状体を乾燥してホスト層を形成する工程と、
前記ホスト層を第1の温度で加熱処理する工程と、
前記ホスト層上にホスト材料とゲスト材料とを含む第2の液状体を配置し、前記第2の液状体を乾燥して発光層を形成する工程と、
前記発光層を第2の温度で加熱処理する工程と、
前記発光層上に陰極を形成する工程と、を有し、
前記ホスト層を加熱処理する第1の温度が前記発光層を加熱処理する第2の温度よりも高い温度であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記ホスト層を形成する工程において、前記ホスト層を、該ホスト層の下地層のガラス転移温度よりも低い温度で加熱処理することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の液状体として、ホスト材料とゲスト材料とを溶媒に溶解させ飽和状態に調整された液状体を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光層を形成する工程と前記陰極を形成する工程との間に、ホールブロック層を前記発光層上に形成する工程を有し、さらに電子輸送層を前記ホールブロック層上に形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−34706(P2011−34706A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177428(P2009−177428)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】