説明

有機EL素子の製造方法

【課題】 リーク電流が低減されて表示品位が高く、また、耐熱性の高い有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】一対の電極間に少なくとも有機発光層を狭持してなる有機EL素子の製造方法であって、加熱状態で前記有機EL素子に通電を行う通電処理工程S3と、加熱状態で前記有機EL素子を保存する保存処理工程S4と、を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法である。また、通電処理工程S3及び保存処理工程S4は、80℃以上の温度雰囲気中で行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも有機発光層を含む機能層を狭持してなるものである(例えば特許文献1参照)。前記有機EL素子を基板上に形成した有機ELパネルは、発光ディスプレイや照明等の種々の用途で用いるべく開発が進められている。かかる有機EL素子は、陽極から正孔を注入し、また、陰極から電子を注入して正孔及び電子が前記有機発光層にて再結合することによって光を発するものである。また、有機EL素子は、前記陰極側から前記陽極側へは電流が流れにくい、いわゆるダイオード特性を有する。
【0003】
また、有機EL素子は、その製造工程において前記機能層の内部に異物が混入する等の原因によって前記機能層に部分的に膜厚が薄い欠陥部位が生じると、発光駆動時に前記有機EL素子に電圧を印加した際に前記陰極から前記陽極へ逆方向の電流(リーク電流)が流れ、有機EL素子の輝度ムラ等の表示品位の低下を招くという問題点があった。
【0004】
これに対し、例えば特許文献2に開示されるように、有機EL素子の製造工程において有機EL素子形成後に両電極間に電圧を印加して、リーク電流を発生させる前記欠陥部位の前記陰極を除去する通電処理を行う方法が知られている。かかる方法によれば、有機EL素子の前記欠陥部位を予め除去することができ、輝度ムラ等を抑制して有機EL素子の輝度特性を安定化することができる。また、かかる通電処理は、有機EL素子を少なくとも室温以上に加熱した状態で行うと短時間で前記欠陥部位を除去できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−315981号公報
【特許文献2】特開2003−282249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者らが鋭意検討した結果、加熱した状態で前記通電処理を行った有機EL素子は、熱に対して不安定な状態となり、発光駆動によってパネル温度が上昇すると初期における輝度低下が顕著に生じる傾向にあることがわかった。また、かかる傾向は、複数の発光画素(有機EL素子)を有する有機ELパネルにおいては、非選択(被発光)の発光画素において特に顕著に起こることがわかった。
【0007】
本発明は、この点に鑑みてなされたものであり、リーク電流が低減されて表示品位が高く、また、耐熱性の高い有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、一対の電極間に少なくとも有機発光層を狭持してなる有機EL素子の製造方法であって、加熱状態で前記有機EL素子に通電を行う通電処理工程と、加熱状態で前記有機EL素子を保存する保存処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記通電処理工程及び前記保存処理工程は、80℃以上の温度雰囲気中で行うことを特徴とする。
【0010】
また、前記通電処理工程及び前記保存処理工程を、同一の温度雰囲気中で行うことを特徴とする。
【0011】
また、前記保存処理工程における保存時間は、前記通電処理工程における通電時間以上であることを特徴とする。
【0012】
また、前記通電処理工程と前記保存処理工程との間に、前記有機EL素子を冷却する冷却処理工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所期の目的を達成し、リーク電流が低減されて表示品位が高く、また、耐熱性の高い有機EL素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における有機EL素子の断面図。
【図2】同上の有機EL素子の製造方法を示す図。
【図3】同上の有機EL素子と比較例としての有機EL素子との評価試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本実施形態である有機EL素子を示すものである。有機EL素子は、支持基板1上に所望の形状に形成することで発光ディスプレイや照明手段等の種々の用途で用いられる。有機EL素子は、支持基板1上に第一電極2と、機能層3と、第二電極4と、を順次積層して両電極2,4間に機能層3が狭持されるように形成されるものである。また、有機EL素子は、封止部材5にて密閉されている。
【0017】
支持基板1は、長方形形状の透明ガラス材からなり、電気絶縁性の基板である。
【0018】
第一電極2は、ITO等の透光性導電材料からなるものであり、スパッタリング法等の手段によって前記透光性導電材料を支持基板1上に層状に形成した後、フォトリソエッチング法等によって所望の形状に成形してなる。本実施形態においては、第一電極2は陽極として機能するものである。
【0019】
機能層3は、少なくとも有機発光層を含むものであり、第一電極2上に例えば正孔注入層,正孔輸送層,有機発光層,電子輸送層及び電子注入層を蒸着法等の手段によって順次積層形成してなるものである。
【0020】
第二電極4は、アルミニウム(AL)やマグネシウム銀(Mg:Ag)等の金属性導電性材料からなるものであり、蒸着法等の手段により前記金属製導電性材料を機能層3上に積層してなる。第二電極4は第一電極2よりも導電率が高く、本実施形態では陰極として機能するものである。
【0021】
封止部材5は、例えばガラス材料からなる平板部材であり、有機EL素子を気密的に収納する後述する凹部5aと、凹部5aの全周を取り巻くように形成され接着剤6を介して支持基板1と接着される接合部5bと、を備えている。また、封止部材5の凹部5aには封止空間内の水分を吸着する吸湿部材7が配置されている。
【0022】
次に、図2を用いて有機EL素子の製造方法を説明する。
【0023】
まず、有機EL素子形成工程S1にて、蒸着法やスパッタリング法等の手段によって支持基板1上に前記透光性導電材料を層状に形成した後、フォトリソエッチング法等によって第一電極2を形成する。そして、第一電極2に対応するように蒸着法等によって機能層3の各層を積層形成し、さらに、機能層3上に蒸着法等によって第二電極4を積層形成して有機EL素子が形成される。
【0024】
次に、封止工程S2にて、有機EL素子を収納するように紫外線硬化性の接着剤6を介して支持基板1上に凹部5aに吸湿部材7が塗布された封止部材5を配設固定する。これにより有機EL素子を備える有機ELパネルが得られる。
【0025】
次に、通電処理工程S3にて、両電極2,4と外部電源とを接続して両電極2,4間に通電して電圧を所定時間印加し、欠陥部位を破壊、除去して有機EL素子を修復し、リーク電流による発光輝度の経時変化を抑制して素子特性を安定させる。通電処理工程S3において印加する電圧は、順バイアス電圧,逆バイアス電圧あるいは両バイアス電圧を交互に印加する波形電圧のいずれであっても良いが、逆バイアス電圧を印加すると発光によって有機EL素子を構成する有機材料を劣化させることがなく好適である。印加する電圧値は高い値であればそれだけ欠陥部位を除去しやすいが、高すぎると正常な部位まで破壊してしまうため正常な部位を破壊しない程度に制限する必要がある。また、通電処理工程S3は、有機EL素子を加熱した状態で行う。有機EL素子を加熱する方法としては通電処理工程S3を少なくとも室温以上(望ましくは80℃)以上の雰囲気中で行う方法がある。有機EL素子を加熱状態とすることで、欠陥部位を顕在化させ電圧印加時間を短縮することができる。なお、通電処理工程S3において順バイアス電圧を印加する期間を設けて有機EL素子を点灯させ、有機EL素子の良否を判別する検査工程を同時に行ってもよい。
【0026】
次に、保存処理工程S4にて、有機EL素子を加熱状態かつ無通電状態で所定時間保存する。保存処理工程S4における保存時間は、通電処理工程S3における通電時間以上であることが好ましい。通電処理工程S3は複数回行っても良いが、その場合は最後の通電処理工程S3を行った後に保存処理工程S4を行う。有機EL素子を加熱する方法としては、前述と同様に少なくとも室温以上(望ましくは80℃)以上の雰囲気中で保存処理工程S4を行う方法がある。また、通電処理工程S3と保存処理工程S4を同一温度雰囲気中で行い、製造工程を簡便なものとしてもよい。また、保存処理工程S4は、通電処理工程S3後出荷前に行うものであればよく、通電処理工程S3と保存処理工程S4との間に有機EL素子を冷却する冷却処理工程を含んでもよい。この場合は通電処理工程S3と保存処理工程S4とを分離することで、大量生産時などに製造工程を効率化することができる。
【0027】
以上の工程によって、リーク電流が低減されて表示品位が高く、また、耐熱性の高い有機EL素子が得られる。
【0028】
本願発明者らの検討によれば、通電処理工程S3において、高温となった有機EL素子は機能層3が熱によって常温時よりも柔軟な状態となり、さらに発光駆動時よりも高い電圧が印加されることによって両電極2,4間に静電引力が働いて機能層3が押しつぶされ膜密度が上がるという現象が生じているものと推測される。このような状態の有機EL素子を発光駆動すると、発光駆動時の印加電圧は通電処理工程S3における印加電圧よりも低く両電極2,4間の静電引力が小さいため発光駆動時の熱で膜密度が低下し、初期において発光効率や駆動電圧が著しく変化し、耐熱性に乏しい(熱に対して不安定な)結果となるものと思われる。これに対し本願発明者らは、通電処理工程S3の後に有機EL素子を加熱状態で所定時間保存する保存処理工程S4を付加することで有機EL素子の機能層3の膜密度を通電処理工程S3前の安定状態に戻し、耐熱性に優れた有機EL素子を得ることができることを見出した。
【0029】
図3は、通電処理工程S3のみを行った比較例(従来例)としての有機EL素子と通電処理工程S3後に保存処理工程S4を実施した本実施形態の有機EL素子とについて初期輝度T0で発光駆動させた評価試験における発光輝度の経時的変化を示すものである。なお、上記の点以外については、各有機EL素子の構成及びその製造方法は同一であるものとする。なお、比較例としての有機EL素子は、通電処理工程S3において110℃の温度雰囲気中で加熱状態として−20〜30Vの逆バイアス電圧をduty駆動にて2時間印加した。また、本実施形態の有機EL素子は、通電処理工程S3において110℃の温度雰囲気中で加熱状態として−20〜30Vの逆バイアス電圧をduty駆動にて2時間印加し、その後保存処理工程S4において110℃の温度雰囲気中で加熱状態とし無通電状態で2時間保存した。図3によれば、比較例としての有機EL素子は初期において発光輝度の著しい低下が生じているのに対し、本実施形態の有機EL素子は初期における発光輝度の低下が抑制され、比較例よりも高い発光輝度を維持している。かかる試験結果によっても、本発明を実施することによって有機EL素子の耐熱性が向上できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、有機EL素子の製造方法に広く適用可能であり、セグメント状あるいはドットマトリクス状等の形状、発光ディスプレイ用あるいは照明手段用等の用途、またはパッシブ駆動あるいはアクティブ駆動等の駆動方式に関わらず効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 支持基板
2 第一電極
3 機能層
4 第二電極
5 封止部材
6 接着剤
7 吸湿部材
S1 有機EL素子形成工程
S2 封止工程
S3 通電処理工程
S4 保存処理工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に少なくとも有機発光層を狭持してなる有機EL素子の製造方法であって、
加熱状態で前記有機EL素子に通電を行う通電処理工程と、
加熱状態で前記有機EL素子を保存する保存処理工程と、を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記通電処理工程及び前記保存処理工程は、80℃以上の温度雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記通電処理工程及び前記保存処理工程を、同一の温度雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記保存処理工程における保存時間は、前記通電処理工程における通電時間以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記通電処理工程と前記保存処理工程との間に、前記有機EL素子を冷却する冷却処理工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−9101(P2011−9101A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152228(P2009−152228)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】