説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】有機発光媒体層の均一化が図れて、発光ムラや輝度低下をなくした均一性の良い表示を行うことが可能な有機EL素子を得ることを課題とする。
【解決手段】有機発光媒体層を印刷により形成する際に、被印刷基板15の加熱用配線2に電圧をかけて所望の温度にして当該印刷を実施する。この結果、印刷直後のインキの乾燥を促進し、インキ流動を抑制するため、メニスカス形状を抑制し印刷膜の高低差を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤に溶解してなるインキを被印刷基板上に印刷することにより高精細なパターンを形成可能な有機EL素子の製造方法及びその製造方法で製造された有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、PDA(携帯情報端末)、モバイルパソコン、車載用ナビゲーションシステム等における表示素子として、薄型、低電力、高輝度表示等の特徴を備える有機EL素子が注目されている。この有機EL素子は、例えば陽極(透明導電膜、ITO膜)と、有機発光体を含有する発光層と、陰極(金属電極)とを透明基板上に積層したものである。
【0003】
有機EL素子の発光層は、通常、低分子有機発光体を真空蒸着させることによって形成される。この場合、蒸着装置の設備上の制限から素子の大型化に限界がある。そこで、高分子有機発光体を溶剤に溶解し分散させてインキ化し、公知の印刷方式にて発光層を形成する試みが提案されている(例えば特許文献1参照)。この印刷法は、量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能であり、特許文献1には具体的な印刷方式として、オフセット印刷やグラビア印刷等が挙げられている。
【0004】
また、特許文献2には、フレキソ印刷を利用して発光層を形成する技術が開示されている。
フレキソ印刷は、ゴム又は樹脂からなるフレキシブルな凸版と、アニロックスロールと呼ばれる表面に細かい凹部が彫刻されたインキ付けロールと、溶剤乾燥型のインキとを用いた印刷方式であり、従来から包装紙等の簡単な印刷物の印刷に広く使用されている。このフレキソ印刷は、特に膜厚が0.01〜0.2μm程度の薄くて安定した印刷層を形成するのに適している。
【0005】
また、フレキソ印刷は、印圧がかかる凸版部に柔軟性があり、更に、キスタッチと呼ばれるごく低印圧で印刷することが出来る。このため、ガラス基板や高圧をかけることによって特性が破壊される透明電極等が成膜された基板に対する印刷にも適している。すなわち、有機EL素子の発光層の形成に特に適した印刷方法である。
そして、特許文献2に記載の有機EL素子の発光層を印刷する印刷機のインキ供給装置では、インキ溶剤の揮発を抑えるためにインキの供給を密閉系で行い、かつアニロックスロール表面でのインキの乾燥を防ぐためにアニロックスロールの下部周面をインキ壷のインキ溜りに浸漬しつつ回転させ、常にアニロックスロール表面を濡らしておく必要がある。このために、クローズドチャンバーと呼ばれる密閉構造のインキ壷にインキを供給して、その中にアニロックスロールの下部周面を浸漬しつつ回転させ、かつクローズドチャンバーから露出したアニロックスロールの上部周面において、余分なインキをドクターにて掻き取ってフレキソ版上にインキを塗布する方式が用いられていた。
【0006】
また、クローズドチャンバー内のインキ濃度を一定に保つために、定期的に新インキを供給して古いインキを回収する循環機構を設ける方式が用いられている。
【特許文献1】特開2001−185352号
【特許文献2】特開2005−59348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フレキソ印刷によって形成されたインキ膜は、バンク付近がメニスカス形状になるため、印刷膜の平坦性が悪いといった問題が生じていた。これは、有機ELを形成するフレキソ印刷法では、ある程度のインキ流動性が必要であるが、被印刷基板に転写直後にインキの流動によりバンクに引きよせられ、バンク付近は厚膜化していることが原因であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、その目的は画素内が均一に発光する、高精細な印刷パターンを形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置する有機EL素子の製造方法であって、
基板上に加熱用配線及び画素電極の順に積層すると共に、上記画素電極上に発光領域を画定する絶縁層を形成する第1の工程と、上記画素電極上に、上記有機発光媒体層を構成する材料を溶媒に溶解または分散させたインキを凸版印刷法により印刷して上記有機発光媒体層を形成する第2の工程とを備え、上記印刷は、上記加熱用配線に電圧を掛けて温度を上げた状態で実施することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、上記加熱用配線に電圧を掛ける処理は、例えば、印刷する前に実施すればよい。要は、加熱用配線に電圧を掛けることで、加熱用配線を介して画素電極が所定の温度まで加熱された状態となっている状態で印刷が実施できれば良い。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記有機発光媒体層は、少なくとも正孔輸送層及び有機発光層の2層を含み、
上記第2の工程は、正孔輸送材料を使用して印刷を行う第1印刷工程と、上記有機発光媒体層を構成する材料として有機発光材料を使用して印刷を行う第2印刷工程とを有し、少なくとも上記有機発光材料を使用して印刷する際に上記加熱用配線に電圧を掛けることを特徴とするものである。
【0012】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記印刷の際の加熱用配線の温度を、30〜230℃とすることを特徴とするものである。
次に、請求項4に記載した発明は、基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置する有機EL素子の製造方法であって、
基板上に積層した画素電極上に発光領域を画定する絶縁層を形成した後に、上記画素電極上に、画素電極を加熱した状態で、上記有機発光媒体層を構成する材料を溶媒に溶解または分散させたインキを凸版印刷法により印刷して上記有機発光媒体層を形成することを特徴とするものである。
【0013】
次に、請求項5に記載した発明は、少なくとも画素電極と、画素電極に対向配置される対向電極と、上記画素電極と対向電極との間に介装され且つ正孔輸送層及び有機発光層を含む有機発光媒体層とを有し、上記両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL素子において、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするものである。
【0014】
次に、請求項6に記載した発明は、基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置した有機EL素子において、上記画素電極における上記対向電極とは反対側に、絶縁層を挟んで加熱用配線を配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱用配線で加熱された状態の画素電極上にインキ膜を形成するため、インキの乾燥を促進しインキ流動を抑制することが出来る。この結果、メニスカス形状を抑制し印刷膜の高低差を低減することができる。
すなわち、製造された有機EL素子の各有機発光媒体層の膜厚が均一化して、画素内が均一に発光する、高精細な印刷パターンとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る有機EL素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る、有機EL用印刷機として好適なフレキソ印刷機の全体構成を示す概略図である。
【図3】本実施形態における印刷機のインキ転写時の動作を示す概略図である。
【図4】有機EL素子のディスプレイの表示状態の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(有機EL素子の構造及び製造の概要について)
図1は、本実施形態における有機EL素子の構造を示す断面図である。
以下の実施形態では、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子に適用した例について説明する。ここで、パッシブマトリックス方式とは、ストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式である。一方、アクティブマトリックス方式は、画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。本発明は、アクティブマトリックス方式の有機EL素子の製造に適用しても良い。
【0018】
本実施形態の有機EL素子は、図1に示すように、基板1に加熱用配線2、透明絶縁層3、画素電極4、有機発光媒体層70、及び対向電極を構成する陰極層8が積層されて構成される。これによって、有機EL素子は、画素電極4と対向電極とが有機発光媒体層70を介して積層配置した構成となる。なお符号9は、ガラスキャップである。
上記有機EL素子の製造は、第1の工程と第2の工程とを含む。
【0019】
第1の工程は、基板1上に加熱用配線2及び画素電極4の順に積層すると共に、上記画素電極4上に発光領域を画定する絶縁層5を形成する。すなわち、第1の工程では、基板1の上に、パターニングされたライン状の加熱用配線2が形成され、更に、基板全域に透明絶縁層3が形成される。更に、その透明絶縁層3の上に、加熱用配線2の直上に位置するように、パターニングされたライン状の画素電極4が形成され、さらに隣接する画素電極間に絶縁層5が形成される。
【0020】
第2の工程は、上記画素電極4上に、上記有機発光媒体層70を構成する材料を溶媒に溶解または分散させたインキを凸版印刷法により印刷して上記有機発光媒体層70を形成する。その第2の工程での印刷は、先に積層した加熱用配線2に電圧を掛けて温度を上げた状態で実施する。上記電圧の印加は、加熱用配線2の温度が30〜230℃の範囲の所望の温度となるように調整する。なお、加熱用配線2の温度は、画素電極4の温度とほぼ等価であるので、画素電極4の温度が30〜230℃の範囲の所望の温度となるように調整しても良い。なお、加熱用配線2に電圧を掛ける処理は、印刷の直前に実施すれば良い。要は、印刷時の温度が30〜230℃の範囲の温度となっていれば良い。
【0021】
ここで、30℃未満では、メニスカス形状を抑制し印刷膜の高低差を低減する効果が低かったため、30℃以上とした。また、230℃を超えると、形成する有機発光媒体層70などに対し悪影響が発生するため、230℃を上限とした。
上記有機発光媒体層70は、少なくとも正孔輸送層6及び有機発光層7の2層を含む。そして、上記第2の工程は、正孔輸送材料を使用して印刷を行う第1印刷工程と、上記有機発光媒体層70を構成する材料として有機発光材料を使用して印刷を行う第2印刷工程とを有する。すなわち、第1印刷工程で正孔輸送層6を形成した後に、第2の印刷工程で有機発光層7を形成する。なお、上記加熱用配線2に電圧を掛けて温度を上げた状態での印刷は、少なくとも第2印刷工程で実施する。
【0022】
上記印刷は、例えば後述の有機EL用印刷機であるフレキソ印刷機で実施する。もっとも、本発明に適用可能な凸版印刷を実施する有機EL用印刷機は、後述する実施形態の印刷機に限定されるものではない。
更に、有機EL素子の各材料や形成方法その他について詳述する。
【0023】
「基板について」
基板1としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻取りにより高分子EL素子の製造が可能となり、安価にディスプレイパネルを提供できる。また、その場合のプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、これらのフィルムは水蒸気バリア性、酸素バリア性を示す酸化ケイ素といった金属酸化物、窒化ケイ素といった酸化窒化物やポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物からなるバリア層が必要に応じて設けられる。
【0024】
ここで、有機EL素子が基板側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板1として透明なものを使用する必要があるが、基板1と反対側から光を取り出すトップエミッション方式の場合は、基板1は透光性を有する必要はない。
【0025】
「加熱用配線について」
上記基板1の上に、パターニングされた加熱用配線2が設けられる。加熱用配線2の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、加熱用配線2の材料は、高抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることが条件である。すなわち、加熱用配線2は、画素電極2よりも高抵抗となっていることが好ましい。
【0026】
例えばITOを加熱用配線2の材料とした場合には、スパッタ法により基板1上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされてライン状の加熱用配線2となる。
なお、アクティブマトリックス方式の場合、発光媒体層を形成する画素領域は矩形に区画されるが、この場合も、加熱用配線2を一辺に沿ってライン状に形成すれば良い。
【0027】
「透明絶縁層について」
上記ライン状の加熱用配線2を形成後、透明性を有した感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により封止領域と取り出し電極領域を除く全域に透明絶縁層3を形成する。
【0028】
「画素電極について」
その膜状の透明絶縁層3の上に、陽極としてパターニングされた画素電極4が設けられる。画素電極4の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、透明絶縁層3の材料としては、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOが好ましい。そして、ITOを採用した場合には、スパッタ法により基板1上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされてライン状の画素電極4となる。
【0029】
「絶縁層について」
ライン状の画素電極4を形成後、隣接する画素電極の間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により絶縁層5が形成される。隣接する画素電極間に絶縁層5を設けることによって、各画素電極4上に印刷されたインキの広がりを抑え、ディスプレイ化した際に隣接画素にインキが流れ込むことによる混色を防ぐことができる。
【0030】
本実施形態における絶縁層5は、厚みが0.5μm〜5.0μmの範囲にあることが望ましい。絶縁層5が低すぎるとインキの広がりを防止できずに隣接画素にインキが流れ込み、混色が発生することとなる。この観点から、絶縁層5の厚みの下限値を0.5μmに規定した。
一方、例えばパッシブマトリックスタイプの有機EL素子において、画素電極4の間に絶縁層5を設けた場合、絶縁層5に直交して陰極層8を形成することになる。このように絶縁層を5跨ぐ形で陰極層8を形成する場合、絶縁層5が高すぎると陰極層8の断線が起こってしまい表示不良となる可能性がある。そして、絶縁層5の高さが5.0μmを超えると陰極の断線が起きやすくなってしまうことを実験にて確認した。この観点から、上述のように絶縁層5の厚みの上限を5.0μmとした。
【0031】
また、絶縁層5を形成する感光性材料としてはポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよく、市販のもので構わないが、絶縁性を有する必要がある。なお、隔壁が十分な絶縁性を有さない場合には、隔壁を通じて隣り合う画素電極4に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。絶縁層5を形成する感光性材料としては、具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるが、これに限定するものではない。また、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても良い。
【0032】
また、絶縁層5を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の塗布方法を用いて塗布され、フォトリソ法によりパターニングされる。また、感光性樹脂を用いずにグラビアオフセット印刷法、反転印刷法、フレキソ印刷法等を用いて絶縁層5を形成してもよい。
【0033】
「正孔輸送層について」
以上のようにして絶縁層5を形成した後、凸版印刷によって正孔輸送層6を形成する。正孔輸送層6を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。これらの材料を溶媒に溶解または分散させ、正孔輸送材料インキとし、スリット法を用いて形成される。なお、形成される正孔輸送層6の体積抵抗率は発光効率の点から1×106 Ω・cm以下のものが好ましい。
【0034】
正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、エチレングリコールジエチルエーテル、1−プロパノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、水等の単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。また、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されていても良い。
【0035】
また、正孔輸送層インキの粘度としては5〜200mPa・sであることが好ましい。これは、本実施形態で用いる凸版印刷法ではアニロックスから凸版上へのインキの転写が最初に行われるが、200mPa・s以上の粘度ではアニロックスから凸版上へインキが転写した後、凸版上で十分インキがレベリングせず、ムラの原因になる。また、5mPa・s以下では、画素内ではじきムラが発生しやすく、ムラの原因になる。
【0036】
また、正孔輸送層インキの固形分濃度としては0.5〜7.0%であることが好ましい。これは、本実施形態で用いる正孔輸送インキでは、7.0%以上の濃度ではインキの安定性が悪くなり、インキ凝集や正孔輸送層6のムラの原因になる。
【0037】
「有機発光層について」
次に、以上のような正孔輸送層6の形成後、凸版印刷によって有機発光層7を形成する。有機発光層7は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層7を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられる。
【0038】
これらの有機発光材料を溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとする。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶剤が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されても良い。
【0039】
有機発光層7の形成に、上述の通り凸版印刷法を用いる。この場合、有機発光インキに適した樹脂凸版を使用することができ、中でも水現像タイプの感光性樹脂凸版が好適である。
有機発光層7の形成方法としては、本実施形態による印刷では、被印刷基板の加熱用配線2に直流電源装置で電圧をかけて、加熱用配線2の温度を30〜230℃の範囲のうちの所望の温度に調整する。このとき、熱電対で加熱用配線2の表面温度をモニタリングし、電圧をコントロールする。温度のモニタリングは、画素電極4の表面でも良いし、予め実験などによって、電圧値及び印加時間と上記温度との関係を求めておき、その関係に基づき温度を推測しつつ、印加する電圧及び時間を調整しても良い。
【0040】
「陰極層(対向電極)について」
次に、以上のような有機発光層7の形成後、陰極層8を、画素電極4のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。この陰極層8の材料としては、有機発光層7の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層8の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0041】
「その他」
ここで、以上の本実施形態の有機EL素子は、陽極である画素電極4と陰極層8の間に陽極層側(画素電極4側)から正孔輸送層6と有機発光層7を積層した構成であるが、陽極層と陰極層8の間において正孔輸送層6、有機発光層7以外に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層といった層を必要に応じ選択した積層構造をとることができる。また、これらの層を形成する際にも、本発明の形成方法を使用できる。すなわち、凸版印刷による印刷によって形成する。その際に、加熱用配線2に電圧を掛けて加熱した状態で印刷することが好ましい。
【0042】
最後に、これらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ9と接着剤と用いて密閉封止する。以上によって、有機EL素子を得ることができる。なお、基板1が可撓性を有する場合には、封止剤と可撓性フィルムを用いて封止を行っても良い。
(本実施形態の作用効果)
以上のように有機EL素子を製造すると、加熱用配線2で加熱された状態の画素電極4上にインキ膜を形成するため、インキの乾燥を促進しインキ流動を抑制することが出来る。この結果、メニスカス形状を抑制し印刷膜の高低差を低減することができる。
【0043】
例えば、上記製造方法を適用することで、正孔輸送層6が、絶縁層5と画素電極4とが接する縁部において厚膜化するのを抑制し、発光ムラや輝度低下をなくした均一性の良い表示を行うことが可能な有機EL素子を製造可能となる。
すなわち、製造された有機EL素子の各有機発光媒体層70の膜厚が均一化して、画素内が均一に発光する、高精細な印刷パターンとすることが可能となる。
【0044】
ここで、画素電極4に直接電圧を印加して上記加熱を行うことも考えられるが、次の観点から、上述のように加熱用配線2を設けて加熱を行っている。
すなわち、所望の温度まで加熱するためには、ある程度高抵抗な材料を用いる必要があるが、通常、画素電極4は低抵抗な材料であるため加熱用には不向きである。逆に加熱のために低抵抗な画素電極4に直接高い電流を流してしまうと、発光媒体層に悪影響を与える可能性がある。なお、加熱用配線2と画素領域4とは透明絶縁層3で絶縁されている。
【0045】
また、基板ごと加熱することなく、加熱用配線2で加熱しているので、有機発光層の直下のみを加熱できる。これによって、加熱することによる基板の変形を最小限に抑えることが出来るという効果を奏する。
【0046】
(有機EL用印刷機について)
次に、上記凸版印刷を実施する際に使用する有機EL用印刷機である、有機EL素子の発光層印刷に好適なフレキソ印刷機について説明する。
【0047】
図2は、フレキソ印刷機の全体構成を示す概略図である。図3は、その印刷機のインキ転写時の動作を示す概略図である。
実施形態のフレキソ印刷機は、図2及び図3に示すように、定位置に回転可能に支持された回転式の版胴11及びこの版胴11の周面に装着された発光パターン形成用の凸版(フレキソ版)12と、版胴11の下方に位置して水平に設置された支持基台13と、この支持基台13上に案内13aを介して版胴11の回転軸線11aと直角な水平方向に移動可能に設置された定盤14と、この定盤14上に載置された被印刷基板15と、凸版12の表面に発光層用のインキを供給するインキ供給手段16と、このインキ供給手段16にインキを定期的に供給するインキ補充手段17とを備える。
【0048】
また、上記インキ供給手段16は、凸版12と被印刷基板15との接触点12a(版胴11の直下)から版胴11の回転方向(矢印Fの方向)と反対の方向へ90°の角度範囲内に位置して版胴11の周面と対向するように配設されている。ここで、上記接触点12aが凸版12の印刷開始端12aとなる。
インキ供給手段16は、凸版12の印刷開始端12aを基準として、当該印刷開始端12aから版胴11の回転方向と反対の方向に90°の角度範囲内に位置させる。そのインキ供給手段16は、アニロックスロール161と、インキ壷162と、ドクター163とを備える。
【0049】
アニロックスロール161は、版胴11の回転軸線と平行にかつ凸版12の版面12bと接触するように配置され発光層用のインキ10を凸版12の版面12bに供給する。 上記アニロックスロール161と凸版12とが当接する位置は、インキ供給手段16が定盤14及び基板15と干渉しない限り、出来るだけ版胴11の直下、すなわち版胴11の回転に伴い凸版12と被印刷基板15との接触点12aに近い方が好ましい。すなわち、凸版15へのインキ供給位置から接触点12aまでの間の距離を短くできると同時に凸版12の版面12bにインキが塗布されている時間が短くなるため有利である。
【0050】
上記アニロックスロール161は版胴11の周速と同一の周速で回転されるものであり、このアニロックスロール161の外周面には、図3に示すように、インキを保持するための細かいレリーフ(凹部)161aが彫刻されている。
アニロックスロール161と版胴11との周速を同一にする理由は、アニロックスロール161の外周面にレリーフ161aが彫刻されているため、版胴11との周速が異なると凸版12の版面12bにダメージを与えるのを防止するためである。
【0051】
また、上記インキ壷162は、アニロックスロール161の全周面のうちの下方に位置する周面部分を浸漬状態に維持するインキ溜り162aを有する。
上記ドクター163は、回転によりインキ溜り162aから出てきたアニロックスロール161の表面に余分に付着したインキ10を掻き落とし、アニロックスロール161のレリーフ161a内にのみインキを残すためのものである。このドクター163の形状は刃状のものやロール状のものなどがあり、そのいずれでもかまわない。また、ドクター163は、アニロックスロール161の回転方向で、インキ溜り162aから凸版12との当接点までの間に位置し、特にアニロックスロール161の上方頂部よりもインキ溜り162a寄りに配置し、掻き取ったインキがインキ溜り162aに落ちるようにする方式が最も好ましい。
【0052】
また、上記インキ補充手段17は、インキタンク171及びインキ補充ポンプ172を備え、このインキタンク171とインキ壷162との間はインキ補充ポンプ172を介してインキ補充用チューブ173により接続されている。そして、インキ補充ポンプ172を印刷回数に応じて定期的に駆動することによりインキ壷162にインキタンク173からインキを供給し、インキ溜り162aのインキ量や粘度を一定に維持できるようになっている。また、逆にインキ溜り162aのインキをインキ壷から吸い出す機構も設けて、インキ溜り162aのインキを交換できる方式にしてもよい。
【0053】
(有機EL用フレキソ印刷機のインキ転写の動作について)
次に、本実施形態による有機EL用フレキソ印刷機のインキ転写の動作について、図2及び図3を用いて説明する。
被印刷基板15へのインキ転写に際しては、図2に示すように、インキを転写される被印刷基板15を定盤14上に固定して、定盤14を版胴11の直下に移動する。この動作に合わせて、版胴11を定盤14の移動速度と同じ周速で回転する。この時、版胴11に設置された凸版12は、版胴11の回転に伴ってアニロックスロール161と当接し、アニロックスロール161表面のレリーフ161a内のインキが凸版12の版面12bに塗布される。その後、凸版12の版面12bに塗布されたインキは、版胴11の直下まで回転した時点で被印刷基板15上に転写される。これにより、インキ供給手段16から凸版12へのインキ10の転移と凸版12から被印刷基板15へのインキ10の転写を同時に行うことができる。
【0054】
上記被印刷基板15へのインキ転写を、正孔輸送層6及び有機発光層7を形成する際に実施する。使用する各インキは、上述の通りである。
ここで、上記フレキソ印刷機の印刷において、インキ溜り162aから露出したアニロックスロール161の表面は乾燥し易く、レリーフ161a内のインキが固まると、インキ供給量にムラが生じる。このため、アニロックスロール161の表面を周期的にインキ溜り162aに浸漬して濡らしておくように、インキ転写時以外の待機時間もアニロックスロール161の回転を続けるのが望ましい。
【0055】
そこで、インキ転写時以外で凸版12の版面12bにインキを塗布しないように、アニロックスロール161もしくはインキ供給手段16全体が、版胴11から退避する機構を設けると良い。または、凸版12が設置されていない版胴11の面をアニロックスロール161に当接されない形状に構成し、待機時間中は、この当接されない形状部分をアニロックスロール161に対面させる方式にするか、あるいは版胴11を昇降できる構成にし、インキ転写時以外の待機時間中は版胴11を上昇させて凸版12をアニロックスロール161から離間し、インキ転写時は版胴11を下降して凸版12をアニロックスロール161と当接する方式などであってもよい。
【0056】
また、本実施形態では、定盤14が版胴11の下を水平方向に移動する方式について説明したが、本発明はこれに限らず、定盤14が固定され、版胴11とインキ供給手段16が水平方向に移動する方式でも同様にインキの転写ができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例について説明する。
ここでは、以下のような本発明に基づく実施例1と、比較のための比較例1とについてそれぞれ試作と測定を行った。
「実施例1」
まず、300mm角のガラス基板の上に、スパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、対角5インチサイズのディスプレイが2面取れるように加熱用配線2を形成した。その後、アクリル系の透明レジスト材料を全面にスピンコート法で成膜後、フォトリソ法により封止領域と取り出し電極領域を除く全面に透明絶縁層3を形成した。その後、再び加熱用配線2の場合と同様に、画素電極4を形成した。ディスプレイ1面当たりの画素電極4のラインパターンは、線幅40μm、スペース20μmでラインが1950ライン形成されるパターンとした。
【0058】
次に絶縁層5を以下のように形成した。まず、画素電極4を形成したガラス基板上にポリイミド系のレジスト材料を全面スピンコートした。スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後、500rpmで20秒間回転させ1回コーティングとし、絶縁層5の高さを1.5μmとした。全面に塗布したフォトレジスト材料に対し、フォトリソ法により画素電極4の間にラインパターンを有する絶縁層5を形成した。
【0059】
次に、正孔輸送インキとしてPEDOT溶液であるバイトロンCH−8000を用いて調液しインキの固形分濃度1.5%、粘度15mPa・s、蒸気圧1.1kPaのインキを用意した。加熱用配線2に電圧をかけて、加熱用配線2が80℃の温度になった後、スリット法にて基板全面に正孔輸送層6を形成した。その後、画素領域外の不要部をウエスで拭き取り、30分間、大気中で乾燥を行い正孔輸送層6を形成した。このとき形成された膜厚は50nmとなった。
【0060】
次に、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体をトルエンに溶解させて、濃度2%粘度50mPa・sの有機発光インキを用意した。750線/インチのアニロックスロール及び水現像タイプの感光性樹脂版を使用し、絶縁層に挟まれた加熱用配線2に電圧をかけて、60℃の温度になった後、そのラインパターンにあわせて有機発光層7の印刷を行った。この結果、印刷、乾燥後の有機発光層7の膜厚は80nmとなった。
【0061】
その上にCa、Alからなる陰極層8を、画素電極4のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗加熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを作製した。これにより得られた有機ELディスプレイパネルの表示部の周辺部には各画素電極4に接続されている陽極側の取り出し電極と、陰極側の取り出し電極があり、これらを電源に接続することにより、得られた有機ELディスプレイパネルの点灯表示確認を行い、異物起因で発生するダークスポットの個数を数えた。
【0062】
「比較例1」
次に、実施例1と同様な製造方法で比較のための有機EL素子を製造した。ただし、比較例1の場合には、被印刷基板15の絶縁層5に挟まれた加熱用配線2に電圧をかけない状態、つまり加熱することなく、正孔輸送層6および有機発光層7を印刷にて形成した。その他の製造条件は、実施例1と同様とした。
「評価」
図4に、以上のような実施例1及び比較例1での画素電極4上の正孔輸送層6および有機発光層7の高低差を比較した評価結果を示す。
【0063】
図4から分かるように、比較例1に比べて、本発明に基づく実施例1の方が良好な結果が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
1……基板、2……加熱用配線、3……透明絶縁層、4……画素電極、5……絶縁層、6……正孔輸送層、7……有機発光層、8……陰極層、9……ガラスキャップ、10……インキ、11……版胴、12……凸版、12a……凸版と被印刷基板との接触点、12b……版面、13……支持基台、14……定盤、15……被印刷基板、16……インキ供給手段、161……アニロックスロール、161a……レリーフ(凹部)、162……クローズドチャンバー、17……インキ補充手段、171……インキタンク、172……インキ補充ポンプ、173……インキ供給用チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置する有機EL素子の製造方法であって、
基板上に加熱用配線及び画素電極の順に積層すると共に、上記画素電極上に発光領域を画定する絶縁層を形成する第1の工程と、
上記画素電極上に、上記有機発光媒体層を構成する材料を溶媒に溶解または分散させたインキを凸版印刷法により印刷して上記有機発光媒体層を形成する第2の工程とを備え、上記印刷は、上記加熱用配線に電圧を掛けて温度を上げた状態で実施することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
上記有機発光媒体層は、少なくとも正孔輸送層及び有機発光層の2層を含み、
上記第2の工程は、正孔輸送材料を使用して印刷を行う第1印刷工程と、上記有機発光媒体層を構成する材料として有機発光材料を使用して印刷を行う第2印刷工程とを有し、少なくとも上記有機発光材料を使用して印刷する際に上記加熱用配線に電圧を掛けることを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
上記印刷の際の加熱用配線の温度を、30〜230℃とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置する有機EL素子の製造方法であって、
基板上に積層した画素電極上に発光領域を画定する絶縁層を形成した後に、上記画素電極上に、画素電極を加熱した状態で、上記有機発光媒体層を構成する材料を溶媒に溶解または分散させたインキを凸版印刷法により印刷して上記有機発光媒体層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
少なくとも画素電極と、画素電極に対向配置される対向電極と、上記画素電極と対向電極との間に介装され且つ正孔輸送層及び有機発光層を含む有機発光媒体層とを有し、上記両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させる有機EL素子において、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
基板上に、画素電極と対向電極とを有機発光媒体層を介して積層配置した有機EL素子において、
上記画素電極における上記対向電極とは反対側に、絶縁層を挟んで加熱用配線を配置したことを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−113654(P2011−113654A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266225(P2009−266225)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】