説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラ、混色の発生を抑制することが可能な有機EL素子と、この有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上にパターン化して形成された複数の第一電極4と、基板2上に形成され、且つ各第一電極4をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁6と、隔壁6内で各第一電極4上に形成され、且つ有機発光層12を含む有機発光媒体層8と、基板2、隔壁6及び有機発光媒体層8上に形成された第二電極10を備える有機EL素子1であって、各第一電極4をそれぞれ四方から囲む四辺を構成する隔壁6は、四辺のうち一辺または二辺を構成する高隔壁6aと、四辺のうち残りの辺を構成し、且つ高隔壁6aよりも高さが低い低隔壁6bとから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示端末等のディスプレイ等として、幅広い用途に用いられる有機EL素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、二つの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層が形成されており、この有機発光層に電流を流すことで発光させるものである。
有機EL素子を効率よく発光させるためには、有機発光層の膜厚が重要であり、100[nm]程度の薄膜にする必要がある。さらに、この有機EL素子をディスプレイ化するためには、各画素が赤色(R)、緑色(G)、青色(B)となるように、有機発光層を高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料がある。一般的に、低分子材料は、抵抗加熱蒸着法等の乾式成膜法により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では、基板が大型化すればするほど、パターニング精度が出難いという問題がある。
そこで、最近では、有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶剤に分散または溶解させて塗工液にし、この塗工液を湿式成膜法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。
【0004】
塗工液を薄膜形成するための湿式成膜法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等のウェットコーティング法がある。しかしながら、高精細なパターニングや、RGBの三色の塗り分けを実現するためには、上記のウェットコーティング法では難しく、塗り分けやパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が、最も有効であると考えられる。
【0005】
このような膜形成方法に用いられる製造装置において、塗工液の塗布方法としては、所定の方向に向けたノズルを有するノズルヘッドを走査して、塗工液を吐出するインクジェット方式という方法がある。インクジェット方式としては、例えば、特許文献1に記載されている方式がある。
特許文献に記載されている方式では、まず、ノズルヘッドを、基板上にストライプ形状に形成されたバンクに対して、ノズル列とバンクとが垂直になるように位置させる。そして、ノズルヘッドの走査方向とバンクとが平行になるように、ノズルヘッドを走査させて液滴を吐出することで、バンク間に成膜を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003‐109754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている方式では、例えば、隔壁上へのインクの「取られ」により、隔壁近傍の有機発光層の膜厚が、電極中央の有機発光層の膜厚と比較して厚くなってしまう場合がある。
この場合、画素内での発光ムラ(発光領域の偏り等)や、画素間での発光ムラ(画素間の発光面積のバラツキ)が発生するという問題が発生するおそれがある。また、その他にも、隔壁外へのインクの「乗り越え」により、混色が発生してしまうという問題が発生するおそれがある。
【0008】
本発明では、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラ、混色の発生を抑制することが可能な、有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち、請求項1に記載した発明は、基板と、当該基板上にパターン化して形成された複数の第一電極と、前記基板上に形成され、且つ前記各第一電極をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁と、前記隔壁内で前記各第一電極上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、前記基板、前記隔壁及び前記有機発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記四辺を構成する隔壁は、前記四辺のうち一辺または二辺を構成する高隔壁と、前記四辺のうち残りの辺を構成し、且つ前記高隔壁よりも高さが低い低隔壁と、から形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記高隔壁の高さは、1.0μm以上1.5μm以下の範囲内であり、
前記低隔壁の高さは、0.5μm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、複数の第一電極を基板上にパターン化して形成する第一電極形成工程と、前記各第一電極をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁を前記基板上に形成する隔壁形成工程と、有機発光層を含む有機発光媒体層を前記隔壁内で前記各第一電極上に形成する有機発光媒体層形成工程と、前記基板、前記隔壁及び前記有機発光媒体層上に第二電極を形成する第二電極形成工程と、を含む有機EL素子の製造方法であって、
前記隔壁形成工程では、前記四辺を構成する隔壁を、前記四辺のうち一辺または二辺を構成する高隔壁と、前記四辺のうち残りの辺を構成し、且つ前記高隔壁よりも高さが低い低隔壁と、から形成し、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記有機発光媒体層を形成する材料を溶媒に溶解または分散させたインクを用いた湿式成膜法により有機発光媒体層を形成することを特徴とするものである。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記湿式成膜法は、前記インクを吐出する工程を含むインク吐出方式であり、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記インク吐出方式において前記インクを吐出する際に、前記インクを吐出するノズルヘッドを傾けて前記隔壁内へインクを吐出して前記有機発光媒体層を形成することを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項4に記載した発明であって、前記ノズルヘッドを傾ける角度は、前記基板の前記第一電極を形成する面と直交する垂直面から3度以上5度以下の範囲内であり、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記高隔壁へ向けて前記インクを吐出することにより、前記有機発光媒体層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項3から5のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記インク吐出方式は、ノズルプリント方式またはインクジェット方式であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラ、混色の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態における、有機EL素子の構成を示す断面図である。
【図2】隔壁の高さが低い場合と、隔壁の高さが高い場合における、膜形状に形成した有機発光層の状態を示す模式図である。
【図3】隔壁形成工程を示す図である。
【図4】有機EL素子の製造中において、隔壁形成工程を行った状態を示す断面図である。
【図5】有機EL素子の製造に用いるインク吐出型印刷装置の構成を示す図である。
【図6】図4のVI線矢視図である。
【図7】有機発光媒体層形成工程において、ノズルヘッドから隔壁内へインクを吐出する状態を示す図である。
【図8】有機EL素子の製造において、有機発光媒体層形成工程を行った状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ、本実施形態に係る有機EL素子の構成と、有機EL素子の製造方法について説明する。
(構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の有機EL素子1の構成を説明する。
【0018】
図1は、本実施形態における有機EL素子1の構成を示す断面図である。
図1中に示すように、有機EL素子1は、基板2と、複数の第一電極4と、複数の隔壁6と、複数の有機発光媒体層8と、第二電極10を備えている。なお、本実施形態の有機EL素子1は、パッシブマトリックス方式、または、アクティブマトリックス方式のどちらにも適用可能である。
【0019】
基板2は、例えば、ガラスを用いて形成されたガラス基板や、石英を用いて形成された石英基板であり、シート状、フィルム状、または、板状に形成されている。
なお、基板2としては、ガラス基板や石英基板に限定するものではなく、絶縁性を有する基板であれば、ガラス基板及び石英基板以外の基板を用いることが可能である。ここで、有機EL素子1を、基板2側から光を出射するボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板2として、ガラス基板等、透明なものを用いる必要がある。
【0020】
また、基板2の材料としては、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートを用いても良い。
さらに、上記のプラスチックフィルムやシートに、有機発光媒体層8への水分の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化膜薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを、基板2として用いてもよい。
【0021】
また、これらの基板2は、予め、加熱処理を行うことにより、基板2の内部や表面に吸着した水分を極力低減させることがより好適である。
また、これらの基板2は、基板2上に積層される材料に応じて、両者の密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理等の表面処理を施してから用いることが好適である。
【0022】
また、これらの基板2に薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、アクティブマトリックス方式の有機EL素子1用の基板2とすることも可能である。
ここで、薄膜トランジスタとしては、公知の薄膜トランジスタを用いることが可能である。公知の薄膜トランジスタは、具体的に、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層、ゲート絶縁膜及びゲート電極から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。なお、薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0023】
また、薄膜トランジスタの構造としては、例えば、シングルゲート構造、ダブルゲート構造や、ゲート電極が三つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、薄膜トランジスタの構造としては、例えば、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、一つの画素中に、二つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0024】
本実施形態の有機EL素子1は、薄膜トランジスタが、有機EL素子1のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があるため、トランジスタのドレイン電極と、有機EL素子1の第一電極4が電気的に接続されている。なお、薄膜トランジスタと、ドレイン電極と、有機EL素子1の第一電極4との接続は、平坦化膜を貫通するコンタクトホール内に形成された接続配線を介して行われる。
【0025】
ここで、上記の活性層は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料、または、チオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することが可能である。
【0026】
また、上記の活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法や、SiH4ガスを用いて、LPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法を用いて形成することが可能である。
【0027】
これらの方法以外にも、上記の活性層は、例えば、Si26ガスを用いたLPCVD法により、または、SiH4ガスを用いたPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)を用いて形成することが可能である。
【0028】
さらに、上記の活性層は、上述した方法以外にも、例えば、減圧CVD法、または、LPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000[℃]以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その形成したゲート絶縁膜上にn+ポリシリコンのゲート電極を形成した後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等を用いて形成することが可能である。
【0029】
ここで、上記のゲート絶縁膜としては、ゲート絶縁膜として一般的に使用されているものを用いることが可能である。この場合、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2や、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO2等を用いることが可能である。
【0030】
また、上記のゲート電極としては、ゲート電極として一般的に使用されているものを用いることが可能である。この場合、例えば、アルミ、銅等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等を用いることが可能である。
【0031】
各第一電極4は、基板2上においてパターン化されて形成されている。ここで、有機EL素子1がパッシブマトリックス方式の場合、各第一電極4は、ストライプ状のパターンを有している。一方、有機EL素子1がアクティブマトリックス方式の場合、各第一電極4は、画素毎のパターンを有している。
【0032】
ここで、第一電極4を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や、金、白金、クロム等の金属材料を単層または積層したものを、いずれも用いることが可能である。
【0033】
なお、第一電極4の材料としては、低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いこと等から、ITOを用いることが好適である。この場合、ITOは、スパッタ法により基板2上に形成され、さらに、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極4となる。
【0034】
各隔壁6は、基板2上に形成されており、各第一電極4の縁部をそれぞれ四方から囲む四辺を有している。
四辺を構成する隔壁6は、四辺のうち一辺を構成する高隔壁6aと、四辺のうち残りの三辺を構成し、高隔壁6aよりも高さが低い低隔壁6bとから形成されている。
【0035】
なお、隔壁6の構成は、これに限定するものではなく、有機発光媒体層8が平坦に形成可能であれば、画素を四方から囲む四辺のうち、隣り合う二辺同士や、向かい合う二辺同士を高隔壁6aが構成するように形成されていてもよい。
【0036】
隔壁6の材料としては、感光性材料等を用いることが可能である。これは、隔壁6(高隔壁6a及び低隔壁6b)は、絶縁性を有する必要があるためである。
感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいは、アクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、及びシアノエチルプルラン等を用いることが可能である。また、隔壁6の材料としては、これらの材料以外にも、SiO2、TiO2等を用いることも可能である。
【0037】
ここで、隔壁6の材料が感光性材料の場合、隔壁6の材料に、溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングしたあと、露光、現像といったフォトリソ法によるパターニングを行う。
スピンコート法の場合、隔壁6の高さは、スピンコート時の回転数等の条件によってコントロール可能であるが、一回のコーティングでは限界の高さがあり、それ以上高くする場合には、スピンコートを複数回繰り返す手法を用いる。
【0038】
また、隔壁6の材料がSiO2やTiO2の場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で、隔壁6を形成することが可能である。この場合、隔壁6のパターニングは、マスクやフォトリソ法により行うことが可能である。
高隔壁6aは、その高さが、1.0[μm]以上1.5[μm]以下の範囲内となるように形成されている。
【0039】
これは、高隔壁6aの高さは、図2中に示すような、混色の原因となる「乗り上げ」を防ぐために、なるべく高くするべきではあるが、高隔壁6aの高さが高すぎると、前述の不具合や、後述するノズルヘッドと高隔壁6aとの接触や、インク(後述する)着弾点までの距離が遠くなることで、画素外への飛散が懸念されるため、高さにも限界があるためである。また、高隔壁6aの高さが、下限として設定した1.0[μm]を下回ると、やはり混色が発生しやすくなってしまうためである。なお、図2は、隔壁6の高さが低い場合と、隔壁6の高さが高い場合における、膜形状に形成した有機発光層12a〜12c(後述する)の状態を示す模式図である。
【0040】
一方、低隔壁6bは、その高さが、0.5[μm]以下となるように形成されている。
これは、有機発光層12a〜12cの平坦性を向上させて、発光面積を広く確保するためには、低隔壁6bの高さを低くすることが必要であるためである。これに加え、低隔壁6bの高さが必要以上に高いと、図2中に示すように、インクが低隔壁6bに取られてしまい、有機発光層12a〜12cの発光面積が低下してしまうためである。
【0041】
有機発光媒体層8は、正孔輸送層14と、有機発光層12を備えており、各隔壁6(高隔壁6a、低隔壁6b)に囲まれた領域内(各隔壁内)で、第一電極4上において、発光補助層である正孔輸送層14、有機発光層12の順に積層して形成されている。これにより、高隔壁6a及び低隔壁6bは、第一電極4上に区画した領域(画素部)に、有機発光媒体層8を有している。
【0042】
本実施形態では、図1中に示すように、有機発光媒体層8を、第一電極4上に形成された正孔輸送層14と、正孔輸送層14上に形成された三色の有機発光層12a、12b、12cから形成している。ここで、有機発光層12aは、赤色の画素を形成しており、有機発光層12b緑色の画素を形成し、有機発光層12cは、青色の画素を形成している。
【0043】
なお、有機発光媒体層8は、正孔輸送層14と有機発光層12を積層した構成に限定するものではなく、有機発光層12のみで構成してもよい。また、上記の発光補助層は、正孔輸送層14に限定するものではなく、必要に応じて、正孔輸送層14、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層を、適宜選択してもよい。
【0044】
有機発光層12(12a、12b、12c)は、電流を流すことにより発光する層である。
有機発光層12を形成する材料としては、例えば、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート) 亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート) アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラートシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン等の低分子系発光材料を用いることが可能である。
【0045】
また、有機発光層12を形成する材料としては、例えば、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポリフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光対等、Ir錯体等の燐光性発光体等の低分子系発光材料を、高分子中に分散させたものを用いることが可能である。
【0046】
ここで、高分子としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等を用いることが可能である。
また、有機発光層12を形成する材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3)ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF) 等の高分子発光材料を用いてもよい。
【0047】
高分子発光材料としては、上述したもの以外にも、PPV前駆体、PNV前駆体、PPP前駆体等の高分子前駆体が挙げられる。
また、有機発光層12を形成する材料としては、例えば、上記の高分子発光材料に、上述した低分子発光材料を分散、または共重合させた材料や、その他既存の発光材料を用いることも可能である。
【0048】
有機発光層12を形成する材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2−メチル−(t−ブチル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、ペンチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,3,5−トリ−イソプロピルベンゼン等を単独、または混合して用いることが可能である。
【0049】
また、有機発光層12の形成に用いる有機発光インクには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
正孔輸送層14の材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子正孔輸送材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選択することが可能である。
【0050】
また、電子輸送層の材料としては、2−(4−ビフィニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3, 4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体や、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることが可能である。
【0051】
正孔輸送層14や電子輸送層の材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独、または、これらの混合溶剤等を用いることが可能である。特に、正孔輸送層14の材料をインク化する場合には、水またはアルコール類が好適である。
【0052】
第二電極10は、基板2、各隔壁6及び各有機発光媒体層8上に形成されている。これにより、第二電極10は、各有機発光層12上に配置されて、各有機発光媒体層8を挟んで、各第一電極4と対向して形成されている。ここで、有機EL素子1がパッシブマトリックス方式の場合、第二電極10は、ストライプ状のパターンを有する各第一電極4と直交する形で、ストライプ状に設けられる。一方、有機EL素子1がアクティブマトリックス方式の場合、第二電極10は、有機EL素子全面に形成される。
【0053】
第二電極10の厚さは、10nm以上1μm以下の範囲内とすることが好適である。
ここで、上述したように第一電極4を陽極とした場合、第二電極10を陰極とする。なお、第一電極4及び第二電極10の極性は、これに限定するものではなく、第一電極4を陰極とし、第二電極10を陽極としてもよい。
【0054】
また、第二電極10を陰極とした場合、第二電極10の材料としては、電子注入効率の高い物質を用いる。具体的には、Mg、AL、Yb等の金属を単体で用いる他、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li、LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。
【0055】
または、電子注入効率と安定性を両立させるため、低仕事関数な、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属を一種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系を用いる。具体的には、MgAg,AlLi,CuLi等の合金を用いることが可能である。
【0056】
また、有機EL素子1を、トップエミッション方式とする場合は、陰極は透明性を有する必要があるため、例えば、これらの金属とITO等の透明導電層の組み合わせによる透明化が可能となる。
【0057】
(有機EL素子1の製造方法)
以下、図1及び2を参照しつつ、図3から図8を用いて、有機EL素子1の製造方法を説明する。
【0058】
有機EL素子1を製造する際には、まず、基板2上に、複数の第一電極4を、パターン化して形成する、第一電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第一電極形成工程を含む。
第一電極形成工程において、第一電極4を形成する方法としては、第一電極4の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。
【0059】
そして、基板2上に各第一電極4を形成した後、各第一電極4をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁6を、基板2上に形成する、隔壁形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、隔壁形成工程を含む。
隔壁形成工程では、基板2上に隔壁6を形成する際には、四辺を構成する隔壁6を、高隔壁6aと低隔壁6bとから形成する。
【0060】
隔壁形成工程では、例えば、図3中に示すように、感光性材料16を、スピンコート法にて基板2上に塗布した後、マスク18を用いた露光(露光方向は、矢印20で示す方向)及び現像処理を行って低隔壁6bを形成する。さらに、低隔壁6bの形成と同様の方法を用いて、感光性材料16を基板2上に塗布した後、露光及び現像処理を行い、高隔壁6aを形成する。なお、隔壁6を形成する方法は、これに限定するものではない。また、図3は、隔壁形成工程を示す図であり、隔壁形成工程は、図中に白抜きの矢印で示す方向に沿って進行する。
【0061】
隔壁形成工程を行って、基板2上に隔壁6を形成すると、図4中に示すように、各第一電極4は、それぞれ、高隔壁6a及び低隔壁6bによって四方から囲まれた状態となる。なお、図4は、有機EL素子1の製造中において、隔壁形成工程を行った状態を示す断面図である。
【0062】
上述した隔壁形成工程により基板2上に隔壁6を形成した後、各第一電極4上において、隔壁6内に、有機発光媒体層8を形成する、有機発光媒体層形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、有機発光媒体層形成工程を含む。
【0063】
有機発光媒体層形成工程では、各第一電極4上において、隔壁6内に、有機発光媒体層8を形成する際には、有機発光媒体層8を形成する材料を溶媒に溶解または分散させたインクを用いた湿式成膜法により、有機発光媒体層8を形成する。
なお、有機発光媒体層8を積層構造で構成する場合には、その各層の全てを湿式成膜法により形成する必要はない。
【0064】
湿式成膜法は、インクを吐出する工程を含むインク吐出方式であり、このインク吐出方式は、ノズルプリント方式またはインクジェット方式である。
また、インク吐出方式としては、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、吐出コート法、プレコート法、ロールコート法、バーコート法等の塗布法と、凸版印刷法、インクジェット印刷法、ノズルプリント印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法等の印刷法が挙げられる。特に、有機発光層12a、12b、12cを形成する場合、印刷法によって画素部に選択的に適用することが可能であるため、各画素に、互いに異なる色彩に発光する有機発光層12を印刷して、カラー表示の可能な有機EL素子1を製造することが可能となる。
【0065】
有機発光媒体層形成工程では、上記のインク吐出方式においてインクを吐出する際に、例えば、図5中に示すインク吐出型印刷装置22を用いて、インクを吐出するノズルヘッド24を傾けた状態で、隔壁6内へインクを吐出して、有機発光媒体層8を形成する。なお、図5は、有機EL素子1の製造に用いるインク吐出型印刷装置22の構成を示す図である。
【0066】
ここで、インク吐出型印刷装置22の構成を説明する。なお、インク吐出型印刷装置22の構成は、図5中に示す構成に限定されるものではない。
インク吐出型印刷装置22は、水頭差を用いたインク吐出型印刷装置である。
図5中に示されているように、インク供給タンク26に入っているインク28は、第一インク供給用チューブ30を通して、サブタンク32に供給される。このとき、サブタンク32におけるインク28の高さが所定の高さとなるように、インク供給タンク26への加圧34により、インク供給タンク26からの供給量を調整する。
【0067】
また、サブタンク32の内部空間は、大気開放部36により大気に開放されており、内部の気圧は大気圧となっている。さらに、サブタンク32は、第二インク供給用チューブ38によってマニホールド40へ繋がっており、マニホールド40から複数の第三インク供給用チューブ42が分岐して、複数のノズルヘッド24に接続されている。
【0068】
ノズルヘッド24とテーブル44とは、相対的に位置が固定されている。また、基板2は、可動ステージ46に固定されており、可動ステージ46は、テーブル44の上を、縦方向のYまたはY’の方向へ動くことが可能である。また、ノズルヘッド24は、横方向のXまたは、X’の方向に動くことが可能である。
【0069】
可動ステージ46は、加熱によって温度を制御することが可能であり、後述する塗工したインクを加熱させて乾燥させることが可能である。塗工したインクを加熱する方法としては、熱線等を用いたヒーター等があるが、温度を制御することが可能であれば、どのような方法を用いてもよい。
これに加え、可動ステージ46の上部には、アライメント調整を行うための計測用のカメラ48を備えている。
【0070】
なお、可動ステージ46の加熱により、可動ステージ46の上部にあるヘッドユニット(ノズルヘッド24を含むユニット)においても温度が上昇することで、ノズルヘッド24内のノズル近傍のインクが乾燥して、ノズルの詰まりを起こす可能性がある。したがって、ノズルの乾燥を防ぐために、インクジェットヘッド自体を、チラー水等で冷却することが好適である。
【0071】
以下、有機発光媒体層形成工程の説明に復帰する。
有機発光媒体層形成工程において、ノズルヘッド24から隔壁6内へインクを吐出する際には、例えば、図6中に示すように、図中に示す矢印Yの方向へノズルヘッド24を移動させながら、ノズルヘッド24から隔壁6内へインクを吐出する。
【0072】
このとき、ノズルヘッド24から吐出するインクは、所望の画素に応じて、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)という発光色の異なる、有機発光インクを用いる。なお、図6は、図4のVI線矢視図である。
【0073】
また、ノズルヘッド24から隔壁6内へインクを吐出する際には、例えば、図7中に示すように、高隔壁6aへ向けて、ノズルヘッド24を適切な角度θに傾けた上でインクを吐出させることで、隔壁6へのインク乗り上げが防止される。なお、図7は、有機発光媒体層形成工程において、ノズルヘッド24から隔壁6内へインクを吐出する状態を示す図である。
【0074】
ここで、ノズルヘッド24を傾ける適切な角度θとは、基板2の第一電極4を形成する面と直交し、高隔壁6aに対して平行な垂直面Aから、3度以上5度以下の範囲内である。なお、図中に示す「B」は、垂直面Aに対するノズルヘッド24傾きを示す直線である。すなわち、角度θは、垂直面Aと直線Bがなす角度(ノズルヘッド24の角度)を示している。
【0075】
なお、ノズルヘッド24を傾ける方向は、インクの吐出方向が高隔壁6aに対して吐出されるようになっていればよいため、ノズルヘッド24の傾き方向は、ノズルヘッド24のインク吐出部分が、高隔壁6a側を向くように傾く方向であればよい。
また、ノズルヘッド24から隔壁6内へインクを吐出する際には、可動ステージ46の位置情報等により、可動ステージ46の移動とインクの塗工が、制御装置50によって同期して制御される。これらの制御により、基板2上の隔壁6の間に、インクが精度良く吐出されて、画素が形成される。
【0076】
有機発光媒体層形成工程を行って、有機発光媒体層8を形成すると、図8中に示すように、各第一電極4上には、それぞれ、所望の色を有する画素が形成される。なお、図8は、有機EL素子1の製造において、有機発光媒体層形成工程を行った状態を示す断面図である。
【0077】
上述した有機発光媒体層形成工程により有機発光媒体層8を形成した後、基板2、隔壁6及び有機発光媒体層8上に、第二電極10を形成する、第二電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第二電極形成工程を含む。
【0078】
第二電極形成工程において、第二電極10を形成する方法としては、第二電極10の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。
第二電極10を形成した後、ガラス板やガラスキャップ等により、接着剤を介して封止をおこない、水分や酸素による有機発光媒体層8等の劣化を防止して、有機EL素子1の製造を終了する。
【0079】
(第一実施形態の効果)
本実施形態の有機EL素子1及び有機EL素子1の製造方法であれば、隔壁6の形状を工夫し、吐口液を吐出するノズルヘッド24の吐出方向を工夫することにより、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラ、混色の発生を抑制することが可能となる。
【0080】
(実施例)
以下、図1から図8を参照して、上述した第一実施形態の有機EL素子1と、比較例として五種類の有機EL素子を製造し、両者に対する物性の評価を行った結果について説明する。なお、以下の説明では、第一実施形態の有機EL素子1を、「本発明例の有機EL素子」と記載する。同様に、以下の説明では、比較例である五種類の有機EL素子1を、「比較例(1〜5)の有機EL素子」と記載する。
【0081】
(本発明例)
本発明例の有機EL素子1を製造する際には、まず、薄膜トランジスタがスイッチング素子として機能するために、平坦化膜に作製されたコンタクトホールを介して、第一電極4と接続されるように形成されたトップエミッション用バックプレーンを用い、画素数240×320ドットで、サブピクセル数720×320ドットとした。そして、120μm×360μmピッチで、サブピクセル間スペースが縦40μm、横100μmとなるように、クロム(Cr)をスパッタリング法によりパターン形成して、第一電極4とした。
【0082】
次に、図3中に示すように、ポジ型の感光性材料16(TELRシリーズ:東京応化社製)を、スピンコート法にて、有効面の全面に、0.8μmの厚さで塗布した。そして、露光(10sec)に対して現像処理を行い、図3中に示したような配置を有する低隔壁6bを形成した。ここで、得られた低隔壁6bの高さは0.5μmであり、低隔壁6bの縦方向及び横方向の幅は10μmである。
【0083】
各低隔壁6bにおいて、第一電極4との重なり部分は5μmであり、第一電極4の縁部を被覆して、第一電極4の三辺を囲むようにしてある。さらに、同様の手法を用いて、感光性材料16を、1.3μmの厚さに塗布した後、露光と現像処理を施して、高隔壁6aを作成した。このとき、高隔壁6aの高さは1.0μmであり、高隔壁6aの縦方向及び横方向の幅は10μmである。
【0084】
なお、各々の隔壁6を形成する方法としては、上記の方法に限定するものではない。
隔壁6を形成した後、第一電極4上に、正孔輸送層14として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸の混合物(以下、「PEDOT/PSS」と記載する)を、水に濃度70wt%で分散させ、インクジェット法により成膜した。このとき、ノズルヘッド24の移動速度を3.0m/sとし、ノズルヘッド24の角度を3度とし、可動ステージ46の温度を40℃とした。
【0085】
上述した条件で得られた正孔輸送層14の膜厚は、0.1μmであった。
第一電極4上に正孔輸送層14を成膜した後、赤色、緑色、青色の発光色を有する有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、インクジェット法で各色について印刷を行ない、正孔輸送層14上に、有機発光層12a、12b、12cを形成した。このとき、ノズルヘッド24の移動速度を2.5m/sとし、ノズルヘッド24の角度を3度とし、可動ステージ46の温度を40℃とした。
【0086】
上述した条件で得られた有機発光層12a、12b、12cの膜厚は、80nmであった。
有機発光層12a、12b、12cを形成した後、第二電極10として、真空蒸着法でBaを5nm成膜し、さらに、その上にAlを20nm成膜した。その後、大気に暴露することなく、露点−80度、酸素濃度1ppmの窒素下において、熱硬化型接着剤を介してガラス板を貼り付けることによって封止を行い、本発明例の有機EL素子1を製造した。
【0087】
上記のように製造した、本発明例の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、画素内での発光域の偏り及び画素間での輝度差が異なるといった発光ムラはもとより、混色も確認されなかった。このとき、画素面積を100%として、発光面積割合は93%であった。
【0088】
(比較例1)
本発明例の有機EL素子1と同様に薄膜トランジスタを形成した後に、高隔壁6aのパターンを、高さ1.0μm、縦方向及び横方向の幅を10μmとし、第一電極4との重なり部分を5μmとした。
【0089】
その後の工程は、ノズルヘッド24の角度を2度とした以外、本発明例と同様に行い、比較例1の有機EL素子1を製造した。
上記のように製造した、比較例1の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、画素面積を100%として、発光面積割合は80%であったが、一部の有機発光層12aには、低隔壁6bからのインク流出が原因とされる混色が発生した。
【0090】
(比較例2)
本発明例の有機EL素子1と同様に薄膜トランジスタを形成した後に、高隔壁6aのパターンを、高さ1.0μm、縦方向及び横方向の幅を10μmとし、第一電極4との重なり部分を5μmとした。
【0091】
その後の工程は、ノズルヘッド24の角度を6度とした以外、本発明例と同様に行い、比較例2の有機EL素子1を製造した。
上記のように製造した、比較例2の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、一部の有機発光層12aからなる画素内において、高隔壁6aを乗り越え、隣接する画素との混色が発生していた。
【0092】
また、高隔壁6aに多くのインクを取られたため、発光域の偏りが見られた。また、このとき、画素面積を100%として、発光面積割合は35%であった。
【0093】
(比較例3)
本発明例の有機EL素子1と同様に薄膜トランジスタを形成した後に、高隔壁6aのパターンを、高さ1.6μm、縦方向及び横方向の幅を10μmとし、第一電極4との重なり部分を5μmとした。
【0094】
その後の工程は本発明例と同様に行い、比較例3の有機EL素子1を製造した。
上記のように製造した、比較例3の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、一部の有機発光層12aからなる画素内において、高さが1.6μmの高隔壁6aに向かって吐出されたインクは、高い位置から吐出されたために低隔壁6bを乗り越え、画素外へ飛散して隣接画素と混色していた。このとき、発光面積割合は、飛散したところと飛散していないところにおいて、大きなバラツキが発生した。
【0095】
(比較例4)
本発明例の有機EL素子1と同様に薄膜トランジスタを形成した後に、高隔壁6aのパターンを、高さ0.8μm、縦方向及び横方向の幅を10μmとし、第一電極4との重なり部分を5μmとした。
【0096】
その後の工程は本発明例と同様に行い、比較例4の有機EL素子1を製造した。
上記のように製造した、比較例4の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、このとき、画素面積を100%として、発光面積割合は86%であったが、一部の有機発光層12aからなる画素内において、高隔壁6a側からもインクが流出し、隣接画素との混色が発生していた。
【0097】
(比較例5)
本発明例の有機EL素子1と同様に薄膜トランジスタを形成した後に、高隔壁6aのパターンを、高さ1.0μm、縦方向及び横方向の幅を10μmとし、第一電極4との重なり部分を5μmとした。
【0098】
さらに、本発明例と同様の方法を用いて、低隔壁6bを、高さ0.5μmで形成し、その後の工程は、水現像タイプの感光性樹脂凸版を用いた凸版印刷法で、各色(赤色、緑色、青色)について行い、有機発光層12a、12b、12cを形成して、比較例5の有機EL素子1を製造した。
【0099】
上記のように製造した、比較例5の有機EL素子1に対して、パネルの点灯表示確認を行い、発光状態のチェックをしたところ、基板2と隔壁6が接触して画素不良が発生した箇所や、インクの転写不良により非点灯の画素が検出された。その結果、比較例5の有機EL素子1は、不良パネルとなっていることが確認された。
【0100】
以上により、本発明例の有機EL素子1は、比較例1〜5の有機EL素子1よりも、画素内での発光ムラ、画素間での発光ムラ、混色の発生を抑制することが可能であるという結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、高隔壁を形成することにより、混色を防ぎ、且つ隔壁に囲まれた有機発光層の平坦性を維持向上することで、画素内での発光ムラ及び混色、画素間での発光ムラを抑制可能な高光学特性を有する有機EL素子を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0102】
1 有機EL素子
2 基板
4 第一電極
6 隔壁
6a 高隔壁
6b 低隔壁
8 有機発光媒体層
10 第二電極
12 有機発光層
14 正孔輸送層
16 感光性材料
18 マスク
20 露光方向
22 インク吐出型印刷装置
24 ノズルヘッド
26 インク供給タンク
28 インク
30 第一インク供給用チューブ
32 サブタンク
34 インク供給タンク26への加圧
36 大気開放部
38 第二インク供給用チューブ
40 マニホールド
42 第三インク供給用チューブ
44 テーブル
46 可動ステージ
48 カメラ
50 制御装置
A 基板2の第一電極4を形成する面と直交し、高隔壁6aに対して平行な垂直面
B 垂直面Aに対するノズルヘッド24傾きを示す直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板上にパターン化して形成された複数の第一電極と、前記基板上に形成され、且つ前記各第一電極をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁と、前記隔壁内で前記各第一電極上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、前記基板、前記隔壁及び前記有機発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記四辺を構成する隔壁は、前記四辺のうち一辺または二辺を構成する高隔壁と、前記四辺のうち残りの辺を構成し、且つ前記高隔壁よりも高さが低い低隔壁と、から形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記高隔壁の高さは、1.0μm以上1.5μm以下の範囲内であり、
前記低隔壁の高さは、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子。
【請求項3】
複数の第一電極を基板上にパターン化して形成する第一電極形成工程と、前記各第一電極をそれぞれ四方から囲む四辺を有する隔壁を前記基板上に形成する隔壁形成工程と、有機発光層を含む有機発光媒体層を前記隔壁内で前記各第一電極上に形成する有機発光媒体層形成工程と、前記基板、前記隔壁及び前記有機発光媒体層上に第二電極を形成する第二電極形成工程と、を含む有機EL素子の製造方法であって、
前記隔壁形成工程では、前記四辺を構成する隔壁を、前記四辺のうち一辺または二辺を構成する高隔壁と、前記四辺のうち残りの辺を構成し、且つ前記高隔壁よりも高さが低い低隔壁と、から形成し、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記有機発光媒体層を形成する材料を溶媒に溶解または分散させたインクを用いた湿式成膜法により有機発光媒体層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記湿式成膜法は、前記インクを吐出する工程を含むインク吐出方式であり、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記インク吐出方式において前記インクを吐出する際に、前記インクを吐出するノズルヘッドを傾けて前記隔壁内へインクを吐出して前記有機発光媒体層を形成することを特徴とする請求項3に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記ノズルヘッドを傾ける角度は、前記基板の前記第一電極を形成する面と直交する垂直面から3度以上5度以下の範囲内であり、
前記有機発光媒体層形成工程では、前記高隔壁へ向けて前記インクを吐出することにより、前記有機発光媒体層を形成することを特徴とする請求項4に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記インク吐出方式は、ノズルプリント方式またはインクジェット方式であることを特徴とする請求項3から5のうちいずれか1項に記載した有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−38617(P2012−38617A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178594(P2010−178594)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】