説明

有機EL素子用基板、有機EL層の製造方法、有機EL素子および板状部材

【課題】膜厚むらが少なく、平坦で高品質な有機EL層を形成可能な有機EL素子用基板を提供する。
【解決手段】有機EL素子用基板1は、支持基板上に、平行に配置された複数の隔壁43と、前記複数の隔壁に交差する方向に配置された複数のインク流れ防止用板状部材44と、前記隔壁と前記板状部材によって区画された区画領域41bに配置された少なくとも1以上の画素電極41と、を有する有機EL素子用基板であって、前記板状部材44は、その両端部が前記隔壁43に接して配置され、かつ、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれ44aを有する。区画領域41bに供給されたインクは、隔壁43に平行な方向の隣り合う区画領域41bへの流動が抑制され、さらに、くびれを有する板状部材44上でインクが均一に分離して区画領域内に均一に落ち込むことができるため、膜厚むらが少なく、平坦で高品質な有機EL層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(organic electroluminescence、以下、「有機EL」と称す。)素子の製造に使用される基板、該基板を使用する有機EL層の製造方法、有機EL素子および該基板に使用される板状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子およびこれを搭載した有機EL表示装置は、携帯電話用などとして既に実用に供されている。有機EL素子は、陽極および陰極と、これら電極に挟まれた発光層を含む1層以上の有機EL層とを有する積層体である。発光層は電圧が印加されて電流が流れると発光する有機化合物で形成される。有機EL素子は様々な特性を有するが、薄膜を積層して形成できるため、これを実装する表示装置などの装置を極めて薄型にし得る点が一つの大きな特徴となっている。
【0003】
有機EL素子は、通常、支持基板上に、電極と発光層を含む1層以上の有機EL層とを所定の順序で積層させて作製され、有機EL素子を多数配列して表示素子が製造される。 既に実用化されている有機EL素子を用いた表示素子においては、各有機EL素子の有機EL層はマスクを用いた真空蒸着法を用いて形成されている。しかしマスクのたわみによるパターニング精度の問題や大型真空装置の必要性による成膜コストの問題などから、大画面化が困難とされている。
一方で、有機EL層形成手法として、塗布法の検討もなされている。塗布法は、有機EL層を構成する成分、すなわち有機EL材料を含むインクを塗布し、これを乾燥等により硬化させて層を形成する方法である。塗布法としては、例えば、インクジェット法(液滴塗布法)が挙げられる。インクジェット法は、有機EL材料の塗布量を精密に制御でき、また数ミクロン単位での精密な位置制御が可能であり、大画面化の技術として、開発が進められている。しかしながら、インクジェット法(液滴塗布法)は、インクがノズルから液滴として噴射されるため、ノズル孔が閉塞しやすいという課題がある。
【0004】
そこで、インクジェット法に代わる技術として、ノズルプリンティング法(液柱塗布法)が研究、開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
ノズルプリンティング法は、吐出ノズルからインクを連続的に液柱として吐出させて、基板上にインクを塗布する方法であり、上述のインクジェット法と同様の利点に加えて、ノズル孔の閉塞が起こりづらいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−75640号公報
【特許文献2】特開2009−43499号公報
【特許文献3】特開2007−188862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクジェット法やノズルプリンティング法などの湿式プロセスを用いた成膜では、基板に多数の有機EL素子を形成するための塗布パターンに応じた隔壁を設け、塗布領域を制御する方法が一般的に採用されている。
通常、ノズルプリンティング法などの連続液柱塗布で用いられる隔壁形状としては、特許文献1で開示されているような塗布方向(ノズルのスキャン方向)に平行なストライプ形状の隔壁が用いられている。インクはノズルから吐出された後、徐々に乾燥していくが、乾燥する前に隔壁内で隔壁の長手方向(以下、「ストライプ方向」ともいう。)にインクが流動してしまい、乾燥後の有機EL層の膜厚むらの一因となる。インク流動の原因としては主に次の2点、すなわち、1点目として、インクは液状であり表面張力を持つため、インク自体の表面張力により球状にまとまろうとする力が働き、インクの流動が生じること、二点目として、ストライプ形状の隔壁の端部では隔壁が無い領域があるため、この端部からのインクの流出が起こることなどを挙げることができ、これらが原因となり、隔壁内でインクの流動がおこり、乾燥後の有機EL層の膜厚むらの一因となっているものと考えられる。
また、特許文献2で開示された基板は、ストライプ形状の隔壁の間に設けられた領域と領域との間に突起物を設けたものであるが、依然としてストライプ方向の領域間はつながっており、結局インクの流動が生じてしまい、それぞれの領域間のインク流動を抑制することができない。また、突起形状に起因して、画素内の膜厚にむらが生じてしまい、有機EL素子の発光特性低下の原因となってしまう。
さらに、インクジェット法で用いられるようなボックス形状の隔壁に対して、液柱塗布する場合には、隔壁によって区画された領域のそれぞれが分離した構造となるため、その領域内に供給されたインクが、隣の領域に流れ込むことを回避することができ、ストライプ形状の隔壁で生じていたような、ストライプ方向のインクの流動を回避することができる。しかしながら、液柱塗布では、スキャン方向に交差する方向に設けられた、厚みを有する隔壁上にも塗布されるため、隔壁上に乗ったインクが隔壁によって区画された領域(以下、「隔壁区画領域」ともいう。)に落ち込む際に、隔壁のどちら側に落ち込むかの制御をすることができず、隔壁区画領域に供給されるインクの量が各領域により異なり、隔壁区画領域間で有機EL層の膜厚むらが生じていた。
【0007】
これに対し、特許文献3には、ノズルのスキャン方向に平行な方向にストライプ形状の隔壁を設け、スキャン方向に交差する方向に前記ストライプ形状の隔壁より高さが低い山型形状の隔壁部を設けた基板が開示されている。この山形形状の隔壁は、上述のボックス状の隔壁と同様に隔壁区画領域のそれぞれを分離でき、画素同士のつながりを通して電流が流れることに起因するクロストーク現象を抑制できるとしている。さらに上部に平坦な部分を有さないため、隔壁区画領域にインクが落ち込むのを促進し、また、隔壁上にインクが残存するのを防げるとしている。
しかしながら、山型形状、すなわち隔壁の断面形状の規定しかなされていないので、スキャン方向に交差する隔壁上のどこでインクが分離するのかという分離点を制御することができず、各隔壁毎にインクの分離点が異なってしまい、インクの分離が不均一に起こりつつ上記の隔壁区画領域に落ち込んでしまう。このため隔壁の両側でインクの液量が異なってしまい、乾燥後の膜厚むらの原因となっていた。
【0008】
かかる状況下、本発明は、画素電極上へのインクの供給むらが少なく、平坦で高品質な有機EL層を容易に形成可能な有機EL素子用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機EL素子用基板は、支持基板上に、平行に配置された複数の隔壁と、前記複数の隔壁に交差する方向に配置された複数のインク流れ防止用板状部材と、前記隔壁と前記板状部材によって区画された領域に配置された少なくとも1以上の画素電極と、を有する有機EL素子用基板であって、前記板状部材は、その両端部が前記隔壁に接して配置され、かつ、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有することを特徴とする。
【0010】
支持基板上に、平行に配置された複数の隔壁(以下、「ストライプ形状の隔壁」と表現することがある)に交差する方向にインク流れ防止用板状部材(以下、単に「板状部材」と呼ぶ場合がある。)が、隣接する隔壁と隔壁の間に、複数配置されており、その両端部が隔壁に密着するように配置されているため、隔壁と板状部材によって区画された領域(以下、「区画領域」と呼ぶ場合がある。)に連続して液柱状に塗布されたインクが、乾燥前にストライプ方向に流動することを抑制できる。さらに、板状部材は、その両端部から中央部に向けたストライプ方向の厚みの減少によるくびれを有する構造であるため、基板との密着性を維持しながら、板状部材の両側の区画領域に均一にインクを分離することができる。その結果、ストライプ方向の膜厚むらが抑制された良好な成膜が可能となる。なお、本発明において、板状部材のくびれは、板状部材の両端部から中央部に向けて厚みが減少することによるものであり、基板の垂直方向からみてくびれの有無を判断することができる。
【0011】
インクの分離という観点からは、板状部材は、その厚みが薄いことが効果的ではある。
ノズルから供給されたインクは板状部材上にも塗布され、板状部材上のインクは重力と表面張力により板状部材の両側の区画領域に分離して流下する。インクの分離は板状部材上のいずれかの場所で起こるが、板厚が厚い場合、インク分離点を制御することができないため、インクの分離点のばらつきが大きくなり、膜厚むらの原因となるためである。また、上記特許文献3のように山型形状にすることにより、インクの画素内への落ち込みを促進することは可能であるが、ストライプ方向の分離点を制御することはできない。また、分離点を制御するに十分な程度にまで板状部材の厚みを薄くすると、板状部材が基板から
剥離してしまうという問題が生じる。さらに、前記の山形形状や板厚を薄くする方法では、ストライプに交差する方向、すなわち、板状部材に平行な方向の分離点を制御するまでには至らない。そこで、本発明では、板状部材が、前記くびれを有することで、インク分離点を完全に制御することができるのである。加えて、本発明では、板状部材は、中央部がくびれてさえいれば、両端部の厚みを厚くすることもできることから、障壁との密着性、ひいては基板との密着性を高め、基板からの剥離を防ぐことも可能である。
【0012】
また、本発明の有機EL素子用基板において、前記画素電極は、隔壁の長手方向に一定間隔で配置されていることが望ましく、この場合、インクの流動の抑制効果を維持できる範囲でできるだけ少数の板状部材が配置されることがより望ましい。特に前記板状部材の隔壁の長手方向の配置間隔Dが、前記画素電極の配置間隔Lの2倍以上10倍以下、好ましくは2倍以上5倍以下であると、より均一性の高い膜を形成することができる。
【0013】
また、区画領域の膜厚均一性と、板状部材の剥離耐性の観点から、前記板状部材におけるくびれの最小板厚tと、前記画素電極が隔壁の長手方向に配置される間隔Lが、以下の式(1)を満たすことが望ましい。ここで、くびれの最小板厚tは、基板の垂直方向から投影したときの厚みで判断する。

L/60≦t≦L/15 (1)

前述のとおり、板状部材の両側の区画領域に均一にインクを分離するためには、くびれの最小板厚が薄いことが望ましいが、薄すぎると板状部材の剥離の原因となる。また、基板に配置される画素電極が大きい場合、隣り合う隔壁と隔壁の間が大きくなる場合があり、それに従い板状部材の長さも長くなるため、同じ板厚でも板状部材の剥離がおきやすくなる。加えて、画素電極が大きくなると区画領域も大きくなるため、供給されるインク量のばらつきの影響を受けにくくなり、そのため、区画領域が大きくするにつれ、相対的にくびれ部の最適板厚を厚くすることができる。
我々は鋭意検討の結果、画素電極の配置間隔Lと最適なくびれ部の板厚tとの間に上記式(1)の相関関係があることを見出した。
例えば、間隔Lが180μmであるとき、式(1)から最適板厚tは、3μm以上12μm以下の範囲である。
なお、tが、L/60より小さい場合には、板状部材が剥離しやすくなるため好ましくなく、L/15より大きい場合には、区画領域のインクの量がばらつきやすくなり区画領域の膜厚均一性が低下するため好ましくない。
【0014】
本発明の有機EL層の製造方法は、上述の有機EL素子用基板上に平行に配置された2つの隔壁の間に、隔壁の長手方向に沿って、有機EL材料を含有するインクを液柱塗布により塗布し、乾燥して有機EL層を得ることを特徴とする。
【0015】
本発明の方法で製造した有機EL層は、平坦で膜厚むらが抑制され高品質である。そのため、この製造方法により得られる有機EL層を有する有機EL素子は、これを有機EL装置に用いた場合には、表示むらが抑制され、品位が良好であり、発光特性も良好で耐久性が高い。
【0016】
また、本発明のインク流れ防止用板状部材は、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有することを特徴とし、基板上に配置された互いに平行な2つの隔壁の間に、該両端部を2つの隔壁に接して配置させて用いられる。上述のようにこの板状部材を配置させることによって、膜厚むらの抑制された良好な成膜が可能である有機EL素子用基板を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平坦で膜厚むらのない高品質な有機EL層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子用基板の平面図である。
【図2】図1の基板の一部拡大平面図である。
【図3】図2におけるA−A線における断面図である。
【図4−1】本発明の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図4−2】本発明の他の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図4−3】本発明の他の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図4−4】本発明の他の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図4−5】本発明の他の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図4−6】本発明の他の実施形態に係る板状基材の構造を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の塗布工程におけるノズルとパネル(基板)の移動を示す図である。
【図6】塗布工程におけるノズルの軌道を示す図である。
【図7−1】本発明の実施形態に係る有機EL素子用基板のインク塗布直後(乾燥前)の断面図である。
【図7−2】本発明の実施形態に係る有機EL素子用基板のインク乾燥後の断面図である。
【図8】複数色インクの塗布工程におけるノズルの軌道を示す図である。
【図9−1】比較例1の有機EL素子用基板のインク塗布直後(乾燥前)の断面図である。
【図9−2】比較例1の有機EL素子用基板のインク乾燥後の断面図である。
【図10−1】比較例2の有機EL素子用基板のインク塗布直後(乾燥前)の断面図である。
【図10−2】比較例2の有機EL素子用基板のインク乾燥後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、支持基板上に、平行に配置された複数の隔壁と、前記複数の隔壁に交差する方向に配置された複数のインク流れ防止用板状部材と、前記隔壁と前記板状部材によって区画された領域(区画領域)に配置された少なくとも1以上の画素電極と、を有する有機EL素子用基板であって、前記板状部材は、その両端部が2つの前記隔壁に密着するように配置され、かつ、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有する有機EL素子用基板(以下、「本発明の基板」と呼ぶ場合がある。)に係るものである。
【0020】
以下に、本発明の基板の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
なお、理解の容易のため、本実施形態における基板の画素配列として、列状に設けられる単色の有機EL素子が配列したものを例示するが、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、図8に示されるように、複数色のインクを塗布して、複数色の有機EL素子が周期的に配列した画素配列を有する有機EL装置を得るための基板としても適用可能である。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0021】
図1は、本発明の実施形態の有機EL素子用基板を示す平面図であり、図2は、本発明の実施形態の基板の一部拡大平面図であり、図3は図2におけるA−A線における断面図である。
本発明の実施形態における有機EL素子用基板1は、支持基板30上に4つのマトリクス部(表示エリア部)40が設けられたパネルである。マトリクス部40において、41は画素電極、41aは画素電極の列、41bは区画領域、42は画素規制層、43は隔壁、44はインク流れ防止用板状部材である。なお、画素とは、画素規制層で規定された発光領域のことをいう。
【0022】
支持基板30は、それを構成する材料が電極や有機EL層を形成する際に化学的に安定なものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが用いられる。
【0023】
マトリクス部40において、画素電極41は、直列状に数列規則的に並べられており、それぞれが画素電極を囲む画素規制層42によって区画されている。詳しくは後述するが、画素電極41上に、発光層を含む各種の層を順次積層させることにより、有機EL層が形成される。前記有機EL層を構成する層のうちの少なくとも一層は、発光層であり、その他の有機EL層としては、後述の正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。有機EL層は、これら発光層等の有機EL層を構成する材料(以下、「有機EL材料」と称す。)およびインク溶媒を含む溶液、懸濁液またはコロイド分散液であるインクを使用して作製される。なお、本明細書においては、「溶媒」の用語は、特に断らない限り、有機EL材料を溶解させる液体および有機EL材料を分散させる液体の双方を含む概念として用いる。
【0024】
画素規制層42は、発光領域を規定するとともに、基板上に配置された電極配線との絶縁性を確保する目的で設けられ、画素規制層42で区画されることにより、画素電極41は、一定間隔に配列している。
画素規制層42の材質としては絶縁体であることが望ましく、SiO2などの無機酸化物、SiNなどの無機窒化物や、ポリイミド、ノボラック樹脂などの耐熱性樹脂材料などが挙げられる。
【0025】
隔壁43は、画素電極41からなる画素電極の列41aを一列ずつ区切るように一定間隔に各画素電極の列41aの間に平行に配置されたストライプ形状の隔壁である。なお、隔壁43は、後述するノズルプリンティングにおいてインクを連続塗布する方向(ノズルスキャン方向)に対して平行となる。
この隔壁43は、各画素電極の列41aに塗布されるインクが、各列間で混ざり合うことを回避するために配置される。そのため、隔壁43の高さは、塗布されたインクを保持するために十分な高さとなるように設計される。
隔壁43は、電気絶縁性の材料であれば良く、例えば、ポリイミド、ノボラック樹脂等の絶縁性樹脂材料が挙げられる。また、塗布されたインクの保持性能を高めるため、隔壁の表面に、インクを弾く撥液性を付与しても良い。例えば、隔壁をCF4プラズマ処理することで、隔壁を撥液性とすることができる。
【0026】
インク流れ防止用板状部材44(以下、単に「板状部材44」ともいう。)は、隔壁43と交差する方向に、画素電極41の列41aを区切るように配置されている。すなわち、画素電極41は、前記隔壁43と前記板状部材44によって区画された領域41bに配置されている。なお、本実施形態では、隔壁43と板状部材44とは垂直に交差しているが、必ずしも垂直に交差する必要はない。
【0027】
板状部材44は、隙間を通ってインクが各画素電極の列41a内で流動することがないように、その両端部が2つの前記隔壁に密着するように配置されている。
また、図4−1にその拡大図を示すように、板状部材44は、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有した、山型形状であり、膜厚方向の中心線付近に頂点を有す。詳しくは製造工程に併せて後述するが、このようにくびれを有する構造であるため、板状部材の基板からの剥がれを防ぎつつ、インクを画素内に均一に分離させることが可能となる。
【0028】
ここで、前記板状部材におけるくびれの最小板厚t(図4−1参照)と前記電極の配置間隔Lが、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
L/60≦t≦L/15 (1)

この関係を満たすことにより、板状部材の基板からの剥がれを防ぎつつ、効果的にインクむらの発生を抑制することができる。
なお、本実施形態の板状部材44では、t=5μm、L=180μmであり、t=L/36である。
【0029】
なお、板状部材44の形状としては、図4−1の形状に限定されず、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有する構造であればよい。例えば、図4−2に示す端面に平行な断面が長方形である板状部材45、図4−3に示す端面に平行な断面が台形である板状部材46などを例示することができる。また、図4−4(板状部材47)、図4−5(板状部材48)、図4−6(板状部材49)のそれぞれに示すように、エッジがとれた形状、すなわち、端面に平行な断面がそれぞれ略山形形状、略長方形、略台形の形状になっていてもよい。
【0030】
本実施形態の基板において、隔壁43が一定間隔で配置され、板状部材44が2画素電極41ごとに一定間隔に配置されている。詳しくは後述の膜形成工程において説明するが、板状部材44が2画素電極41ごとに配置されているので、インク量が、前記隔壁43と前記板状部材44によって、2画素電極41を囲う区画領域41bで平均化されるため、形成される膜の膜厚むらが少なくなる。また、板状部材44上へのインクの付着による影響も緩和される。
板状部材44は、インク流動に起因した膜厚むらが生じない範囲でなるべく広い間隔で配置される。
ここで、図2に示すように画素電極41の配置間隔Lは、長手方向における画素電極41の中心と中心の間隔と定義すると、むら抑制の観点からは、前記板状部材の配置間隔Dが、画素電極の配置間隔Lの2倍以上10倍以下(より好ましくは、2倍以上5倍以下)であることが好ましい。
2倍未満であると、板状部材44上にインクが乗りあがって膜厚むらが生じてしまった場合に、この膜厚むらが表示品位や発光特性の観点から許容量を越えてしまう場合があり、10倍を超えると板状部材44を形成した効果が得られない場合がある。
このような範囲であると、むら要因をバランスよく抑制できるため、より均一性の高い膜を形成することができる。
本実施形態では、画素電極41の2つごとに、板状部材44を配置していることから、D=2Lの関係にある。
【0031】
次に本発明の有機EL素子用基板1を用いた、本発明の実施形態に係る有機EL素子の製造方法を図面を参照して説明する。なお、本発明において、少なくとも一対の電極と当該電極間に挟まれた発光層を含む1層以上の有機EL層との積層体を「有機EL素子」と定義し、有機EL素子を2次元配置してなる平板状の表示装置を「有機EL装置」と定義する。また、「有機EL層」は、有機EL材料からなる層を意味する。
また、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
さらに、有機EL装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路等については、発光素子、表示装置などの技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には関係はないため詳細な説明は省略している。
【0032】
図5および図6に、ノズルプリンティングによるインク塗布工程の様子を示す。なお、図5、図6および図8において、板状部材の表記は省略している。
支持基板30上に4つのマトリクス部(表示エリア部)40が設けられた有機EL素子用基板1が、Dd方向へと搬送される。ノズルプリンティング装置(本体不図示)のノズル20から、積層体の層を形成するためのインクが吐出される。ノズル20は、有機EL素子用基板の搬送方向Ddに対し、直交する方向Nmに反復移動する。
【0033】
インクは、非断続的に液柱として連続して吐出される。ノズルプリンティング装置は、微小なノズルからインクを連続的に吐出することができる装置である。ノズルプリンティング装置は、微細な線幅に安定して非断続的な連続線状に塗布するのに好適である。
【0034】
使用されるインクは、有機EL素子を構成する正孔輸送層、電子ブロック層、発光層等の材料(以下、「有機EL材料」と称す。)およびインク溶媒を含む溶液、懸濁液またはコロイド溶液である。なお、本明細書においては、「溶媒」の用語は、特に断らない限り、有機EL材料を溶解させる液体および有機EL材料を分散させる液体の双方を含む概念として用いる。
【0035】
インク溶媒は、有機EL材料の溶解性や基板との親和性等の条件によって適宜選択してよい。インク溶媒として、好ましくは、揮発性、層形成成分の溶解性または分散性などに関し、インク溶媒としての好ましい諸要件を満たすことが好適である。インク溶媒として好ましくは、例えば、水、アルコール溶媒、グリコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒および芳香族炭化水素溶媒からなる群より選ばれる1種またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどが挙げられる。グリコール溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、メトキシベンゼン等が挙げられる。エステル溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。含塩素溶媒としては、クロロホルム、クロロベンゼン、塩化メチレン等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
図5に示すように、ノズル20の下に有機EL素子用基板1が搬送され、ノズルがNm方向に反復移動することにより、相対的にノズル20は図6に示す軌道Ipを描くように、パネル上を移動することになる。ノズル20の軌道Ipは、画素電極の列41aを長手方向に一列移動した後、次の列へと移動し、新たな画素電極の列41aを長手方向に移動する。パネル1が、ノズル20の下方を通過する際にノズル20からインクが吐出され、図6に示すような軌跡を描きつつ、次々に区画領域41bにインクが塗布されていく。
【0037】
インクは、ノズル20から非断続的に液柱の状態で連続して吐出されていくため、軌道Ipが示すように、インクは区画領域41bおよび区画領域41bの長手方向にある板状部材44の上にも非断続的に連続して塗布される。したがって、インクは、区画領域41bの長手方向に並ぶ複数の区画領域41bおよび板状部材44の上に非断続的な線状に塗布されていく。区画領域41bは隔壁43および板状部材44によって区画されており、区画領域41b内に塗布されたインクは、領域内に広がる。
【0038】
図7−1、7−2に、インクが塗布後から乾燥する過程における区画領域41bの様子を模式的に示した図を示す。図7−1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子用基板のインク塗布直後(乾燥前)の断面図であり、図7−2は、そのインク乾燥後の断面図である。
【0039】
本発明の実施形態では、インクを非断続的に液柱として連続して吐出し、区画領域41bおよび区画領域41bの長手方向にある板状部材44上に非断続的に連続してインクを塗布しながら、区画領域41bの長手方向に並ぶ複数の区画領域41bおよび板状部材44の上に線状にインクを塗布していく。
【0040】
隔壁は十分な高さを有するため、塗布されたインクは隔壁を越えて隣接する区画領域41bに混入することはない。また、より混入を防ぐため、隔壁43はインクを弾く撥液処理が施されていてもよい。板状部材44の上に塗布されたインク51は均一に分離され、乾燥する間に板状部材44の上から区画領域41b内へ流れ落ち、最終的には区画領域41b内で層の一部を構成する。インクの塗布が完了後、乾燥工程において基板30は所定の雰囲気下に置かれ、インクから溶媒が蒸発し硬化して層が形成される。
【0041】
上述のように本発明では、両端部から中央部に向けて厚みが減少するくびれを有した板状部材44が配置されている。したがって、隔壁と板状部材によって区画された複数の区画領域41bに連続して液柱状に塗布されたインクが、乾燥前にストライプ方向に流動することを抑制できる。また、板状部材44の上に塗布されたインクは板状部材44の両側で均一に分離され、区画領域41bに流れ落ちることができる。その結果、それぞれの区画領域41b内に供給されるインクの量が均一化され、インクを乾燥させて得られる有機EL層の膜厚を均一化できる。
【0042】
また、隔壁43および板状部材44の表面は、インクを良好に保持するため、インクを弾く撥水性を有しても良い。撥液性を付与する方法としては、隔壁あるいは板状部材を構成する成分に撥液性の成分を混合させておいても良いし、あるいは、隔壁あるいは板状部材表面に撥液性の被膜を設けてもよい。塗布されたインクのストライプ方向への流動をより良好に防ぐためには、少なくとも板状部材44が撥液性を備えることが好ましく、インクが隔壁を越えて隣接する区画領域41bに混入することをより良好に防ぐためには、隔壁43および板状部材44の表面全体が撥液性を備えることがより好ましい。
【0043】
板状部材の支持基板上からの剥がれを防止しつつ、インクの分離を効果的に行うという観点から、板状部材はくびれを持つことが重要である。くびれが無く板厚が厚い場合は、インクが板の上面のどこで分離するかの制御ができず、インクが分離する位置のばらつきが大きくなり、膜厚むらの原因となる。また、くびれが無く板厚が薄い場合は、基板との密着性が低下し板状部材が基板から剥離してしまう。くびれを設けることにより、板状部材の基板との密着性を保って剥離を抑制しつつ、くびれ部分の板厚の薄い部分からインクが分離するため、インクが分離する位置のばらつきが良好に抑えられ、膜厚むらが抑制される。
【0044】
インクの塗布工程に続く、インクの乾燥工程では、インクから溶媒が留去し、区画領域41bに有機EL材料が固定される。インクの乾燥温度は使用した溶媒などに応じて適宜選択すればよい。また、上記のような乾燥後、インクを焼成する工程を設けてもよい。
【0045】
以上、画素配列として列状に設けられる単色の有機EL素子が配列した有機EL素子用基板を例示したが、複数色の有機EL素子が周期的に配列した画素配列を有する有機EL素子用基板にも適用可能である。
このような複数色のインクの塗布工程を図8を参照しつつ説明する。図8中、上述の単色インクの塗布工程で既に説明した事項については、同じ符号を付け、その説明を省略する。
図8に示すように、インクの供給には、3つのノズル(3連ノズル)21が備えられた装置が用いられる。3連ノズルの各ノズルはそれぞれ、赤色発光材料を含むインクを吐出するノズルNR、緑色発光材料を含むインクを吐出するノズルNG、青色発光材料を含むインクを吐出するノズルNBである。3連ノズル21は、当初位置(P1)に待機する。所定の位置あわせ完了後、3つのノズルからそれぞれのインクを非断続的に連続して吐出しながら、移動方向Nm1に移動する。3連ノズル21が位置(P2)に到達すると、パネル1を搬送方向Ddに移動し、3連ノズル21が位置(P3)に達した時点でパネルの移動を停止する。3連ノズル21は、移動方向Nm3に移動し、位置(P4)に達した時点で停止する。このような稼働を繰り返し、順次パネル上の区画領域内の画素電極にインクが塗布される。
また、複数色の有機EL素子が周期的に配列した画素配列(例えば、有機ELカラーディスプレイの画素配列など)の場合には、複数色の発光領域をまとめて画素と呼び、その中の単色の発光領域について副画素と呼ぶ場合もあるが、この場合、副画素についても同様に、本願発明を適用することができる。
【0046】
次に、本発明の製造方法により製造し得る有機EL装置に実装される有機EL素子の構造について、より具体的に説明する。
有機EL素子は、少なくとも一対の電極と、当該電極間に挟まれた発光層を含む有機EL層とで形成される積層体である。有機EL素子は、下記に説明するように、発光層以外にも、様々な種類の有機EL層を設けてよい。また、層の積層順序等も様々な変形例をとり得る。
【0047】
本発明によって製造される有機EL素子は、下記の有機EL素子に限定されるわけではない。また、本発明の製造方法においては、有機EL素子を構成する有機EL層のうちの少なくとも一層は、インクを使用して、上記に説明した実施形態などに示されるように所定の塗布工程と乾燥工程とを含む工程によって形成された層である。したがって、他の層の形成においては、他の方法により層を形成させてもよい。
また、一般に、有機EL素子を構成する各有機EL層は極めて薄いものであり、その層形成には各種の成膜方法を採用し得る。そのため以下の説明においては、層形成のことを成膜という場合がある。
【0048】
有機EL素子は、陽極、発光層及び陰極を必須に有するのに加えて、前記陽極と前記発光層との間、及び/又は前記発光層と前記陰極との間にさらに他の層を有することができる。
【0049】
有機EL素子の陽極としては、光を透過可能な透明電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成しうるため好ましい。かかる透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率の高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)から成る薄膜や、金、白金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属を少なくとも1種類以上含む合金等が用いられる。
【0050】
陰極の材料としては、仕事関数の小さく発光層への電子注入が容易な材料及び/又は電
気伝導度が高い材料及び/又は可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属やIII−B族金属を用いることができる。
【0051】
発光層は、有機化合物を含む。通常、主として蛍光またはりん光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)が含まれる。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば、以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、およびドーパント材料などが挙げられる。
【0052】
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0053】
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0054】
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0055】
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0056】
有機EL素子において、発光層は通常1層設けられるが、これに限らず2層以上の発光層を設けることもできる。その場合、2層以上の発光層は、直接接して積層することもでき、かかる層の間に発光層以外の層を設けることができる。
【0057】
次に有機EL素子における陽極、発光層及び陰極以外の層について説明する。
【0058】
陽極と発光層の間に設けるものとしては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等があげられる。正孔注入層及び正孔輸送層の両方が設けられる場合、陽極に近い層が正孔注入層となり、発光層に近い層が正孔輸送層となる。また、正孔注入層、若しくは正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0059】
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する正孔注入層材料としては、特に制限はなく、公知の材料を適宜用いることができ、例えばフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0060】
正孔輸送層を構成する正孔輸送層材料としては特に制限はないが、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4’−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0061】
陰極と発光層の間に設け得る層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。電子注入層及び電子輸送層の両方が設けられる場合、陰極に近い層が電子注入層となり、発光層に近い層が電子輸送層となる。また、電子注入層、若しくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0062】
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0063】
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、特に制限はなく公知のものが使用でき、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0064】
さらに具体的には、有機EL素子は、下記の層構成のいずれかを有することができる:
a) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
b) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
c) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
d) 陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
e) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f) 陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
g) 陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
h) 陽極/正孔注入層/発光層/陰極
i) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
k) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l) 陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
m) 陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n) 陽極/発光層/電子輸送層/陰極
o) 陽極/発光層/電子注入層/陰極
p) 陽極/発光層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。)
【0065】
本発明により製造し得る有機EL装置は、上記のようにして有機EL素子で構成された画素が複数実装された装置である。電気的配線、駆動手段等の設置については、通常の有機EL装置の製造における様々な態様を採用し得る。
【0066】
本発明により製造し得る有機EL装置は、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライトとして用いることができる。
【0067】
有機EL装置を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示装置が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置するパッシブマトリックス用基板、あるいは薄膜トランジスタを配置した画素単位で制御を行うアクティブマトリックス用基板を用いればよい。さらに、発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0068】
さらに、前記面状の発光装置は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
上述の本発明の実施形態に示した、有機EL素子用基板1を用意した。以下の説明における符番は、上述の実施形態と同一である。

板状部材:ポリイミド樹脂製
板状部材の形状(図4−1参照)
くびれあり(くびれの最小板厚t:6μm)
断面の形状:膜厚方向の中心線付近に頂点をもつ山形形状
板状部材の配置間隔D:360μm
画素電極の配置間隔L:180μm
隔壁の配置間隔:60μm
【0071】
画素電極41として、ITO電極により、陽極が形成されている。この基板を、RIE装置(SAMCO社製、RIE−200L)を用いて酸素プラズマ処理(3Pa、30W、30SCCM、3分)およびCF4プラズマ処理(20Pa、20W、20SCCM、2分)を行ったところ、隔壁43および板状部材44に対して選択的に撥液処理が施された。また、画素電極41および画素規制層42上は親液状態となった。
【0072】
区画領域41bの画素電極41(陽極)上に、ノズルプリンティング装置(大日本スクリーン社製、NP−300G)を用い、H.C.Starck社製CLEVIOSTM.P CH8000 を50%、水を40%、エチレングリコールを10%添加して作製したインクを液柱にて塗布した。ノズルプリンティング装置のノズルから、途絶えることなく連続してインクを吐出させつつ、画素電極41上を通り、隔壁43に平行な方向にノズルを移動させ、基板上の一列をなす複数の画素電極41上にインクを塗布した。
視認に基づく、インク塗布直後(乾燥前)の断面図を図7−1に示す。また、視認および触診式段差計の測定結果に基づくインク乾燥後の断面図を図7−2に示す。
図7−1に示すようにインク塗布直後には、インクが画素電極41上および板状部材44上に非断続的に連続して塗布されていたが、この基板を大気中に放置したところ、隔壁上に塗布されたインクが均一に区画領域内に落ち込んだ。その後、溶媒が蒸発し、乾燥することにより、図7−2に示すような、画素間むらおよび画素内むらが小さい均一な層を形成することが出来た。
上面からマトリクス部を拡大視認したところ、各画素電極41上において塗り残し部位は見られず、画素電極41上に良好に膜形成されていることが確認された。
また、触針式段差計(KLA−Tencor Corporation社製P−16+)にて、形成された層の断面形状を評価したところ、良好な平坦性をもつ層が形成されていることが確認できた。
【0073】
このように、ノズルプリンティング装置にてインクを塗布し、乾燥、焼成することにより、塗り残しがなく、良好な平坦性をもつ正孔注入層を形成することができた。この正孔注入層上に、同様にして発光層を形成し、発光層上に、真空蒸着法などを用いて陰極を形成することで、有機EL素子を製造できる。
【0074】
(比較例1)
有機EL素子用基板1の代わりに、板状部材44を設けていない有機EL素子用基板2を使用し、その他の条件は、上記実施例1と同様のプロセスにより、基板上にインクの塗布を行った。なお、有機EL素子用基板2は、板状部材44を設けていない点以外の構成は、有機EL素子用基板1と同じである。
視認に基づくインク塗布直後(乾燥前)の断面図を図9−1に示す。また、視認および触診式段差計の測定結果に基づくインク乾燥後の断面図を図9−2に示す。
インク塗布直後の基板について、上面からマトリクス部を拡大視認したところ、インクが表面張力によりまとまろうとする力が働き、インクの量が、隔壁43に平行な方向に明らかな偏りを生じていることが確認された。また、触針式段差計(KLA−Tencor Corporation社製P−16+)にて、インク乾燥後に形成された層の断面形状を測定した結果からも、膜厚に明らかな偏りが確認された。
【0075】
(比較例2)
ストライプ形状の隔壁をもつ基板に代わり、インクジェット法などで一般的に用いられる、ボックス形状の隔壁を持つ有機EL素子用基板3を使用し、その他の条件は、上記実施例1と同様のプロセスにより、基板上にインクの塗布を行った。
視認に基づくインク塗布直後(乾燥前)の断面模式図を図10−1に示す。また、視認および触診式段差計の測定結果に基づくインク乾燥後の断面模式図を図10−2に示す。
インク塗布直後の基板について、上面からマトリクス部を拡大視認したところ、ボックス形状の隔壁のうち、スキャン方向に存在する隔壁上に連続塗布されたインクが隔壁上で不均一に分離したことが確認された。
また、触針式段差計(KLA−Tencor Corporation社製P−16+)にて、インク乾燥後に形成された層の断面形状を測定したところ、区画領域内の膜厚に明らかな膜厚分布があることが確認された。また、目視によっても、各区画領域間のむらがあることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の有機EL素子用基板は、有機EL素子をノズルプリンティング法などの液柱塗布によって作製するのに好適である。該基板を使用することにより、塗りむらが小さく、高品質な有機EL素子および該有機EL素子を有する有機EL装置を得ることができるため、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0077】
1 有機EL素子用基板
20 ノズル
21 3連ノズル
30 支持基板
40 マトリクス部
41 画素電極
41a 画素電極の列
41b 区画領域
42 画素規制層
43 隔壁
44,45,46,47,48,49 (インク流れ防止用)板状部材
44a,45a,46a,47a,48a,49a くびれ
44b,45b,46b,47b,48b,49b 断面
51 インク(乾燥前)
52 インク(乾燥後)
D 板状部材の配置間隔
L 画素電極の配置間隔
t 板状部材におけるくびれの最小板厚
Dd 有機EL素子用基板の搬送方向
Ip ノズルの軌道
R ノズル(赤色インク吐出用)
G ノズル(緑色インク吐出用)
B ノズル(青色インク吐出用)
Nm ノズルの移動方向
Nm1〜Nm3 ノズルの移動方向
1〜P4 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に、平行に配置された複数の隔壁と、
前記複数の隔壁に交差する方向に配置された複数のインク流れ防止用板状部材と、
前記隔壁と前記板状部材によって区画された領域に配置された少なくとも1以上の画素電極と、を有する有機EL素子用基板であって、
前記板状部材は、その両端部が前記隔壁に接して配置され、かつ、両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有することを特徴とする有機EL素子用基板。
【請求項2】
前記画素電極が、隔壁の長手方向に一定間隔に配置されている請求項1記載の有機EL素子用基板。
【請求項3】
前記板状部材の隔壁の長手方向の配置間隔Dが、前記画素電極の配置間隔Lの2倍以上10倍以下である請求項2記載の有機EL素子用基板。
【請求項4】
前記板状部材におけるくびれの最小板厚tと、前記画素電極の配置間隔Lが、以下の式(1)を満たす請求項2または3のいずれかに記載の有機EL素子用基板。

L/60≦t≦L/15 (1)
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の有機EL素子用基板における2つの隔壁の間に、隔壁の長手方向に沿って、有機EL材料を含有するインクを液柱塗布により塗布し、乾燥して有機EL層を得ることを特徴とする有機EL層の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により得られる有機EL層を有する有機EL素子。
【請求項7】
基板上に配置された互いに平行な2つの隔壁の間に、両端部を2つの隔壁に接して配置させて用いられるインク流れ防止用板状部材であって、該両端部から中央部に向けた厚みの減少によるくびれを有することを特徴とするインク流れ防止用板状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【公開番号】特開2011−23305(P2011−23305A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169404(P2009−169404)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】