説明

有機EL素子

【課題】ホール注入電極の配線抵抗を低くし、複雑な表示パターンや大画面のディスプレイ、あるいは高輝度の駆動や高デューティー比での駆動への対応が容易な有機EL素子を実現する。
【解決手段】ホール注入電極と、電子注入電極と、これらの電極間に設けられた1種以上の有機層とを有し、前記ホール注入電極は、発光部に透明電極を有し、発光部以外の部分にシート抵抗1Ω/□以下の金属電極を有する有機EL素子とすることを特徴とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を用いた有機EL素子に関し、さらに詳細には、発光層にホール(電荷)を供給するホール注入電極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子が盛んに研究されている。これは、ホール注入電極上にトリフェニルジアミン(TPD)などのホール輸送材料を蒸着により薄膜とし、さらにアルミキノリノール錯体(Alq3)などの蛍光物質を発光層として積層し、さらにMgなどの仕事関数の小さな金属電極(電子注入電極)を形成した基本構成を有する素子で、10V前後の電圧で数100から数10,000cd/mときわめて高い輝度が得られることで注目されている。
【0003】
このような有機EL素子のホール注入電極として用いられる材料は、発光層やホール注入輸送層等へホールを多く注入するものが有効であると考えられている。また、通常基板側から発光光を取り出す構成とすることが多く、透明な導電性材料であることが必要である。
【0004】
このような透明電極として、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、IZO(亜鉛ドープ酸化インジウム)、ZnO、SnO、In等が知られている。中でもITO電極は、90%以上の可視光透過率と、10Ω/□以下のシート抵抗を併せ持つ透明電極として、液晶ディスプレイ(LCD)、調光ガラス、太陽電池等の透明電極として幅広く使用されており、有機EL素子のホール注入電極としても有望視されている。
【0005】
ところで、有機EL素子は所定の発光電流を必要とし、電流密度に比例して発光輝度が増大する。このため、ホール注入電極においても、配線の長さが短い場合には無視できた配線抵抗も、複雑な表示パターンや大画面のディスプレイ、あるいは高輝度の駆動や高デューティー比での駆動を実現しようする場合、ホール注入電極での電圧降下が問題になってくる。すなわち、例えば横256ドット×縦64ドットののディスプレイを、150cd/mの発光輝度で駆動する場合、150×64cd/mの発光輝度で1/64秒間発光させることになる。ホール注入電極のシート抵抗が十分小さい場合には、例えば図15に示される実効印加電圧に近い電圧値での駆動が可能であるが、ホール注入電極の抵抗を260Ω程度とした場合には、同図の印加電圧で示されるように、2Vも駆動電圧を高くしなければならない。また、低抵抗ITO等のようにシート抵抗が7〜8Ω/□程度のものであっても、64ドットの画素部分だけで64×7=448Ωの抵抗が存在することになり、ホール注入電極での電圧降下が大きな問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ホール注入電極の配線抵抗を低くし、複雑な表示パターンや大画面のディスプレイ、あるいは高輝度の駆動や高デューティー比での駆動への対応が容易な有機EL素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の(1)〜(3)の構成により達成される。
(1) ホール注入電極と、電子注入電極と、これらの電極間に設けられた1種以上の有機層とを有し、
前記ホール注入電極は、発光部を含む部分に透明電極を有し、発光部以外の部分に配置され、前記透明電極と接続するシート抵抗1Ω/□以下の金属電極を有し、
前記透明電極の発光部以外の部分及び金属電極を覆うように絶縁膜が形成されている有機EL素子。
(2) 前記絶縁膜上に素子分離構造体が形成されている上記(1)の有機EL素子。
(3) 前記素子分離構造体は、その幅が前記絶縁膜より狭く形成されている上記(2)の有機EL素子。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、ホール注入電極の配線抵抗を低くし、複雑な表示パターンや大画面のディスプレイ、あるいは高輝度の駆動や高デューティー比での駆動への対応が容易な有機EL素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。本発明の有機EL素子は、ホール注入電極と、電子注入電極と、これらの電極間に設けられた1種以上の有機層とを有し、前記ホール注入電極は、発光部に透明電極を有し、発光部以外の部分に配置され、前記透明電極と電気的に接続するシート抵抗1Ω/□以下の金属電極を有するものである。このように、光の取り出しが必要な発光部に透明電極を設け、光の取り出しの必要のない非発光部にシート抵抗の低い金属電極を設けることで、ホール注入電極全体の抵抗値を低く抑えることができる。
【0010】
透明電極は少なくとも発光部(画素部)に設けられる。ここで発光部とは、発光層による発光が可能な領域であって、発光した光を外部に取り出し、利用することのできる領域をいう。なお、透明電極は発光部以外、例えば発光部の周囲等にある程度存在していてもよいが、透明電極の領域を必要以上に広くするとホール注入電極の抵抗の増加を招くことになるため、発光部と等しいかこれと近い広さの領域とすることが好ましい。
【0011】
透明電極としては、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、IZO(亜鉛ドープ酸化インジウム)、ZnO、SnO、In等が挙げられるが、好ましくはITO(錫ドープ酸化インジウム)、IZO(亜鉛ドープ酸化インジウム)が好ましい。Inに対しSnOの混合比は、wt%で1〜20%が好ましく、さらには5〜12%が好ましい。Inに対しZnOの混合比は、wt%で1〜20%が好ましく、さらには5〜12%が好ましい。その他にSn、Ti、Pb等が酸化物の形で、酸化物換算にして1wt%以下含まれていてもよい。
【0012】
透明電極の厚さは、ホール注入を十分行える一定以上の厚さを有すれば良く、通常10〜100nmの範囲であるが、特に30〜100nm、さらには50〜900nmの範囲が好ましい。膜厚を100nm以下とすることで、透明電極表面の粗れが少なくなり、透明電極の表面性がよくなり、発光特性や発光寿命等が改善され好ましい。厚さが薄すぎると、製造時の膜強度やホール輸送能力の点で問題がある。
【0013】
金属電極は、シート抵抗が好ましくは1Ω/□以下、特に0.5Ω/□以下が好ましく、その下限は特に規制されるものではないが、通常0.1Ω/□程度である。また、その膜厚は好ましくは10〜2000nm、特に20〜1000nm、さらには100〜500nm程度が好ましい。
【0014】
金属電極の材質としては、Al、Cu、Au、Ag等の金属、あるいはAlとSc,Nb,Zr,Hf,Nd,Ta,Cu,Si,Cr,Mo,Mn,Ni,Pd,PtおよびW等の遷移元素との合金が挙げられるが、中でもAlおよびAl合金が好ましい。Al合金を用いる場合Alと遷移元素の1種以上との合金が好ましく、その際Alは90at%以上、好ましくは95at%以上とする。
【0015】
本発明のホール注入電極は、さらに前記透明電極と金属電極との間にバリア金属層を設けることが好ましい。バリア金属層を設けることで、透明電極と金属電極との界面が安定し、接触抵抗が安定する。バリア金属層の構成材料としては、Cr,Ti等の金属や、窒化チタン(TiN)等の窒化物が挙げられ、中でもCrまたはTiNが、それらをエッチングする際の試薬がITO等の透明電極を侵さないことから、ウエットエッチングが可能となり好ましい。バリア金属層の膜厚としては、好ましくは10〜200nm、特に30〜100nmが好ましい。
【0016】
透明電極、金属電極、バリア金属層は蒸着法等によっても形成できるが、好ましくはスパッタ法により形成することが好ましい。ITO、IZO透明電極の形成にスパッタ法を用いる場合、好ましくはInにSnOやZnOをドープしたターゲットを用いる。また、金属電極やバリア電極を成膜する場合には好ましくは前記材料金属あるいは合金の焼結体を用いることが好ましく、DCスパッタ、あるいはRFスパッタ法により形成することが好ましい。スパッタ法によりITO透明電極を成膜した場合、蒸着により成膜したものより発光輝度の経時変化が少ない。その投入電力としては、好ましくは0.1〜4W/cmの範囲が好ましい。特にDCスパッタ装置の電力としては、好ましくは0.1〜10W/cm、特に0.2〜5W/cmの範囲である。また、成膜レートは2〜100nm/min 、特に5〜50nm/min の範囲が好ましい。
【0017】
スパッタガスとしては特に限定するものではなく、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の不活性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いればよい。このようなスパッタガスのスパッタ時における圧力としては、通常0.1〜20Pa程度でよい。
【0018】
透明電極と金属電極、バリア層を、発光部と非発光部にそれぞれ設ける手段としては、特に限定するものではないが、例えば通常用いられているレジスト材を使用したパターンニングの手法を用いればよい。エッチングはドライでもウエットでもよく、ウエットの場合のエッチング液としては、ITO透明電極の場合王水系が好ましく、金属電極の場合、Alならばリン酸、硝酸および酢酸の混合溶液系を用いる等、それぞれの金属を選択的にエッチングすることが可能なエッチング液を用いることが好ましい。
【0019】
次に本発明のホール注入電極の具体的な構成例について図を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、本発明のホール注入電極の一構成例を示した概略構成図で、図2はそのA−A’断面矢視図である。図示例のホール注入電極は、いわゆる7セグメントタイプのディスプレイを構成するための電極構造を有し、基板1上に透明電極2と金属電極3とを有する。そして、透明電極2は各セグメントの発光部(画素部)に成膜され、金属電極はその周囲と、端子電極までの配線部分に成膜されている。このように発光部に透明電極を成膜し、発光部位外の部分に金属電極を成膜することにより、ホール注入電極の抵抗の大部分は金属電極のシート抵抗成分によるものとなり、低抵抗化を図ることができる。
【0021】
なお、前記ホール注入電極成膜後に、発光部位外の部分に絶縁層を成膜し、さらに必要により素子分離構造体を設けた後、ホール注入輸送層、発光層、電子注入輸送層等の有機層を積層し、電子注入電極(コモン電極)を成膜し、必要により保護層等を積層してセグメントタイプの有機ELディスプレイとなる。
【0022】
図3〜12は、本発明のホール注入電極の他の構成例を示した図で、いわゆる単純マトリクスタイプのディスプレイを構成するための電極構造を、製造工程に順に記載した概略構成図である。また、図3,5,7,9および11は平面図、図4,6,8,10および12は、図3,5,7,9および11のそれぞれに対応したB−B’あるいはC−C’断面矢視図である。
【0023】
先ず図3、4に示されるように、基板1(平面図上では記載を省略する以下同)上に透明電極(ITO)2を、発光部、つまり画素部分となる領域に、通常走査線が形成されるよう所定のパターンに成膜する。次いで、図5、6に示されるように、一部が透明電極上を覆うようにして、発光部位外の部分に金属電極3を成膜する。なお、ここまでの工程を逆にすることも可能である。その後、図7、8に示されるように、発光部、つまり画素部分以外を絶縁するため、絶縁層4を成膜する。
【0024】
さらに、図9、8の例では発光層等の有機層や電子注入電極を、通常データ線が形成されるように成膜するため、所定のパターンの素子分離構造体5を設ける。この素子分離構造体は、図10に示されるようにオーバーハング部分を有する立体的な構造物であって、有機層や電子注入電極成膜時に、この素子分離構造体5やその影となる部分以外の領域に蒸着ないしスパッタ粒子を堆積させ、各ライン毎の構造膜を分離するものである。なおその詳細については、特願平8−0147313号を参照されたい。次いで、図11、12に示されるようにマスク6を貼り合わせ、有機層、電子注入電極などを成膜し、マトリクスタイプの有機ELディスプレイとなる。本発明の有機EL素子は、図示例に限らず種々の構成とすることができ、セグメントや画素の数、あるいはそれらのパターン等は必要に応じて適宜決めればよい。
【0025】
有機層は、それぞれ少なくとも1層のホール輸送層および発光層を有し、その上に電子注入電極を有し、さらに最上層として保護電極を設けてもよい。なお、ホール輸送層は省略可能である。そして、電子注入電極は、蒸着、スパッタ法等、好ましくはスパッタ法で成膜される仕事関数の小さい金属、化合物または合金で構成される。
【0026】
成膜される電子注入電極の構成材料としては、電子注入を効果的に行う低仕事関数の物質が好ましく、例えば、K、Li、Na、Mg、La、Ce、Ca、Sr、Ba、Al、Ag、In、Sn、Zn、Zr、Cs、Er、Eu、Ga、Hf、Nd、Rb、Sc、Sm、Ta、Y、Yb等の金属元素単体、あるいは、BaO、BaS、CaO、HfC、LaB、MgO、MoC、NbC、PbS、SrO、TaC、ThC、ThO、ThS、TiC、TiN、UC、UN、UO、WC、Y、ZrC、ZrN、ZrO等の化合物を用いると良い。または安定性を向上させるためには、金属元素を含む2成分、3成分の合金系を用いることが好ましい。合金系としては、例えばAl・Ca(Ca:5〜20at%)、Al・In(In:1〜10at%)、Al・Li(Li:0.1〜20at%未満)、Al・R〔RはY,Scを含む希土類元素を表す〕等のアルミニウム系合金やIn・Mg(Mg:50〜80at%)等が好ましい。これらの中でも、特にAl単体やAl・Li(Li:0.4〜6.5(ただし6.5を含まず)at%)または(Li:6.5〜14at%)、Al・R(R:0.1〜25、特に0.5〜20at%)等のアルミニウム系合金が圧縮応力が発生しにくく好ましい。したがって、スパッタターゲットとしては、通常このような電子注入電極構成金属、合金を用いる。これらの仕事関数は4.5eV以下であり、特に仕事関数が4.0eV以下の金属、合金が好ましい。
【0027】
電子注入電極の成膜にスパッタ法を用いることにより、成膜された電子注入電極膜は、蒸着の場合と比較して、スパッタされる原子や原子団が比較的高い運動エネルギーを有するため、表面マイグレーション効果が働き、有機層界面での密着性が向上する。また、プレスパッタを行うことで、真空中で表面酸化物層を除去したり、逆スパッタにより有機層界面に吸着した水分や酸素を除去できるので、クリーンな電極−有機層界面や電極を形成でき、その結果、高品位で安定した有機EL素子ができる。ターゲットとしては前記組成範囲の合金や、金属単独でも良く、これらに加えて添加成分のターゲットを用いても良い。さらに、蒸気圧の大きく異なる材料の混合物をターゲットとして用いても、生成する膜とターゲットとの組成のズレは少なく、蒸着法のように蒸気圧等による使用材料の制限もない。また、蒸着法に比較して材料を長時間供給する必要がなく、膜厚や膜質の均一性に優れ、生産性の点で有利である。
【0028】
スパッタ法により形成された電子注入電極は緻密な膜なので、粗な蒸着膜に比較して膜中への水分の進入が非常に少なく、化学的安定性が高く、長寿命の有機EL素子が得られる。
【0029】
スパッタ時のスパッタガスの圧力は、好ましくは0.1〜5Paの範囲が好ましく、この範囲でスパッタガスの圧力を調節することにより、前記範囲のLi濃度のAlLi合金を容易に得ることができる。また、成膜中にスパッタガスの圧力を、前記範囲内で変化させることにより、上記Li濃度勾配を有する電子注入電極を容易に得ることができる。また、成膜ガス圧力と基板ターゲット間距離の積が20〜65Pa・cmを満たす成膜条件にすることが好ましい。
【0030】
スパッタガスは、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスや、反応性スパッタではこれに加えてN、H、O、C、NH等の反応性ガスが使用可能である。
【0031】
スパッタ法としてはRF電源を用いた高周波スパッタ法等も可能であるが、成膜レートの制御が容易であり、有機EL素子構造体へのダメージを少なくするためにはDCスパッタ法を用いることが好ましい。DCスパッタ装置の電力としては、好ましくは0.1〜10W/cm、特に0.5〜7W/cmの範囲である。また、成膜レートは5〜100nm/min 、特に10〜50nm/min の範囲が好ましい。
【0032】
電子注入電極薄膜の厚さは、電子注入を十分行える一定以上の厚さとすれば良く、1nm以上、好ましくは3nm以上とすればよい。また、その上限値には特に制限はないが、通常膜厚は3〜500nm程度とすればよい。
【0033】
本発明の有機EL素子は、電子注入電極の上、つまり有機層と反対側には保護電極を設けてもよい。保護電極を設けることにより、電子注入電極が外気や水分等から保護され、構成薄膜の劣化が防止され、電子注入効率が安定し、素子寿命が飛躍的に向上する。また、この保護電極は、非常に低抵抗であり、電子注入電極の抵抗が高い場合には配線電極としての機能も有する。この保護電極は、Al、Alおよび遷移金属(ただしTiを除く)、Tiまたは窒化チタン(TiN)のいずれか1種または2種以上を含有し、これらを単独で用いた場合、それぞれ保護電極中に少なくとも、Al:90〜100at%、Ti:90〜100at%、TiN:90〜100 mol%程度含有されていることが好ましい。また、2種以上用いるときの混合比は任意であるが、AlとTiの混合では、Tiの含有量は10at%以下が好ましい。また、これらを単独で含有する層を積層してもよい。特にAl、Alおよび遷移金属は、後述の配線電極として用いた場合、良好な効果が得られ、TiNは耐腐食性が高く、封止膜としての効果が大きい。TiNは、その化学量論組成から10%程度偏倚していてもよい。さらに、Alおよび遷移金属の合金は、遷移金属、特にSc,Nb,Zr,Hf,Nd,Ta,Cu,Si,Cr,Mo,Mn,Ni,Pd,PtおよびW等を、好ましくはこれらの総計が10at%以下、特に5at%以下、特に2at%以下含有していてもよい。遷移金属の含有量は少ないほど、配線材として機能させた場合の薄膜抵抗は下げられる。
【0034】
保護電極の厚さは、電子注入効率を確保し、水分や酸素あるいは有機溶媒の進入を防止するため、一定以上の厚さとすればよく、好ましくは50nm以上、さらに100nm以上、特に100〜1000nmの範囲が好ましい。保護電極層が薄すぎると、本発明の効果が得られず、また、保護電極層の段差被覆性が低くなってしまい、端子電極との接続が十分ではなくなる。一方、保護電極層が厚すぎると、保護電極層の応力が大きくなるため、ダークスポットの成長速度が高くなってしまう。なお、配線電極として機能させる場合の厚さは、電子注入電極の膜厚が薄いために膜抵抗が高く、これを補う場合には、通常100〜500nm 程度、その他の配線電極として機能される場合には100〜300nm程度である。
【0035】
電子注入電極と保護電極とを併せた全体の厚さとしては、特に制限はないが、通常100〜1000nm程度とすればよい。
【0036】
電極成膜後に、前記保護電極に加えて、SiO等の無機材料、テフロン(登録商標)、塩素を含むフッ化炭素重合体等の有機材料等を用いた保護膜を形成してもよい。保護膜は透明でも不透明であってもよく、保護膜の厚さは50〜1200nm程度とする。保護膜は前記した反応性スパッタ法の他に、一般的なスパッタ法、蒸着法、PECVD法等により形成すればよい。
【0037】
さらに、素子の有機層や電極の酸化を防ぐために素子上に封止層を形成することが好ましい。封止層は、湿気の侵入を防ぐために市販の低吸湿性の光硬化性接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、架橋エチレン−酢酸ビニル共重合体接着剤シート等の接着性樹脂層を用いて、ガラス板等の封止板を接着し密封する。ガラス板以外にも金属板、プラスチック板等を用いることもできる。
【0038】
次に、本発明のEL素子に設けられる有機物層について述べる。
【0039】
発光層は、ホール(正孔)および電子の注入機能、それらの輸送機能、ホールと電子の再結合により励起子を生成させる機能を有する。発光層には比較的電子的にニュートラルな化合物を用いることが好ましい。
【0040】
ホール注入輸送層は、陽電極からのホールの注入を容易にする機能、ホールを安定に輸送する機能および電子を妨げる機能を有し、電子注入輸送層は、陰電極からの電子の注入を容易にする機能、電子を安定に輸送する機能およびホールを妨げる機能を有するものであり、これらの層は、発光層に注入されるホールや電子を増大・閉じこめさせ、再結合領域を最適化させ、発光効率を改善する。
【0041】
発光層の厚さ、ホール注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは特に限定されず、形成方法によっても異なるが、通常、5〜500nm程度、特に10〜300nmとすることが好ましい。
【0042】
ホール注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは、再結合・発光領域の設計によるが、発光層の厚さと同程度もしくは1/10〜10倍程度とすればよい。ホールもしくは電子の、各々の注入層と輸送層を分ける場合は、注入層は1nm以上、輸送層は1nm以上とするのが好ましい。このときの注入層、輸送層の厚さの上限は、通常、注入層で500nm程度、輸送層で500nm程度である。このような膜厚については注入輸送層を2層設けるときも同じである。
【0043】
本発明の有機EL素子の発光層には発光機能を有する化合物である蛍光性物質を含有させる。このような蛍光性物質としては、例えば、特開昭63−264692号公報に開示されているような化合物、例えばキナクリドン、ルブレン、スチリル系色素等の化合物から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の8−キノリノールないしその誘導体を配位子とする金属錯体色素などのキノリン誘導体、テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネン、12−フタロペリノン誘導体等が挙げられる。さらには、特願平6−110569号のフェニルアントラセン誘導体、特願平6−114456号のテトラアリールエテン誘導体等を用いることができる。
【0044】
また、それ自体で発光が可能なホスト物質と組み合わせて使用することが好ましく、ドーパントとしての使用が好ましい。このような場合の発光層における化合物の含有量は0.01〜10wt% 、さらには0.1〜5wt% であることが好ましい。ホスト物質と組み合わせて使用することによって、ホスト物質の発光波長特性を変化させることができ、長波長に移行した発光が可能になるとともに、素子の発光効率や安定性が向上する。
【0045】
ホスト物質としては、キノリノラト錯体が好ましく、さらには8−キノリノールないしその誘導体を配位子とするアルミニウム錯体が好ましい。このようなアルミニウム錯体としては、特開昭63−264692号、特開平3−255190号、特開平5−70733号、特開平5−258859号、特開平6−215874号等に開示されているものを挙げることができる。
【0046】
具体的には、まず、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム、ビス(ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノラト)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、8−キノリノラトリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノラト)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラト)カルシウム、5,7−ジクロル−8−キノリノラトアルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム、ポリ[亜鉛(II)−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリニル)メタン]、等がある。
【0047】
また、8−キノリノールないしその誘導体のほかに他の配位子を有するアルミニウム錯体であってもよく、このようなものとしては、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(オルト−クレゾラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(メタークレゾラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(パラ−クレゾラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(オルト−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(メタ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,3−ジメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,6−ジメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(3,4−ジメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(3,5−ジメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(3,5−ジ−tert−ブチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,6−ジフェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,4,6−トリフェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,3,6−トリメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2,3,5,6−テトラメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(1−ナフトラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(2−ナフトラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)(オルト−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)(パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)(メタ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)(3,5−ジメチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)(3,5−ジ−tert−ブチルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−4−エチル−8−キノリノラト)(パラ−クレゾラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−4−メトキシ−8−キノリノラト)(パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラト)(オルト−クレゾラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−6−トリフルオロメチル−8−キノリノラト)(2−ナフトラト)アルミニウム(III) 等がある。
【0048】
このほか、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) 、ビス(4−エチル−2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(4−エチル−2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−4−メトキシキノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(2−メチル−4−メトキシキノリノラト)アルミニウム(III) 、ビス(5−シアノ−2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(5−シアノ−2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) 、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) −μ−オキソ−ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III) 等であってもよい。
【0049】
このほかのホスト物質としては、特願平6−110569号に記載のフェニルアントラセン誘導体や特願平6−114456号に記載のテトラアリールエテン誘導体なども好ましい。
【0050】
発光層は電子注入輸送層を兼ねたものであってもよく、このような場合はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を使用することが好ましい。これらの蛍光性物質を蒸着すればよい。
【0051】
また、必要に応じて発光層は、少なくとも一種以上のホール注入輸送性化合物と少なくとも1種以上の電子注入輸送性化合物との混合層とすることも好ましく、この混合層中にドーパントを含有させることが好ましい。このような混合層における化合物の含有量は、0.01〜20wt% 、さらには0.1〜15wt% とすることが好ましい。
【0052】
混合層では、キャリアのホッピング伝導パスができるため、各キャリアは極性的に優勢な物質中を移動し、逆の極性のキャリア注入は起こり難くなり、有機化合物がダメージを受け難くなり、素子寿命がのびるという利点があるが、前述のドーパントをこのような混合層に含有させることにより、混合層自体のもつ発光波長特性を変化させることができ、発光波長を長波長に移行させることができるとともに、発光強度を高め、かつ素子の安定性を向上させることができる。
【0053】
混合層に用いられるホール注入輸送性化合物および電子注入輸送性化合物は、各々、後述のホール注入輸送層用の化合物および電子注入輸送層用の化合物の中から選択すればよい。なかでも、ホール注入輸送層用の化合物としては、強い蛍光を持ったアミン誘導体、例えばホール輸送材料であるトリフェニルジアミン誘導体、さらにはスチリルアミン誘導体、芳香族縮合環を持つアミン誘導体を用いるのが好ましい。
【0054】
電子注入輸送性の化合物としては、キノリン誘導体、さらには8−キノリノールないしその誘導体を配位子とする金属錯体、特にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることが好ましい。また、上記のフェニルアントラセン誘導体、テトラアリールエテン誘導体を用いるのも好ましい。
【0055】
ホール注入輸送層用の化合物としては、強い蛍光を持ったアミン誘導体、例えば上記のホール輸送材料であるトリフェニルジアミン誘導体、さらにはスチリルアミン誘導体、芳香族縮合環を持つアミン誘導体を用いるのが好ましい。
【0056】
この場合の混合比は、それぞれのキャリア移動度とキャリア濃度を考慮する事で決定するが、一般的には、ホール注入輸送性化合物の化合物/電子注入輸送機能を有する化合物の重量比が、1/99〜99/1、さらには10/90〜90/10、特には20/80〜80/20程度となるようにすることが好ましい。
【0057】
また、混合層の厚さは、分子層一層に相当する厚みから、有機化合物層の膜厚未満とすることが好ましく、具体的には1〜85nmとすることが好ましく、さらには5〜60nm、特には5〜50nmとすることが好ましい。
【0058】
また、混合層の形成方法としては、異なる蒸着源より蒸発させる共蒸着が好ましいが、蒸気圧(蒸発温度)が同程度あるいは非常に近い場合には、予め同じ蒸着ボード内で混合させておき、蒸着することもできる。混合層は化合物同士が均一に混合している方が好ましいが、場合によっては、化合物が島状に存在するものであってもよい。発光層は、一般的には、有機蛍光物質を蒸着するか、あるいは樹脂バインダー中に分散させてコーティングすることにより、発光層を所定の厚さに形成する。
【0059】
また、ホール注入輸送層には、例えば、特開昭63−295695号公報、特開平2−191694号公報、特開平3−792号公報、特開平5−234681号公報、特開平5−239455号公報、特開平5−299174号公報、特開平7−126225号公報、特開平7−126226号公報、特開平8−100172号公報、EP0650955A1等に記載されている各種有機化合物を用いることができる。例えば、テトラアリールベンジシン化合物(トリアリールジアミンないしトリフェニルジアミン:TPD)、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン等である。これらの化合物は2種以上を併用してもよく、併用するときは別層にして積層したり、混合したりすればよい。
【0060】
ホール注入輸送層をホール注入層とホール輸送層とに分けて設層する場合は、ホール注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、ホール注入電極(ITO等)側からイオン化ポテンシャルの小さい化合物の層の順に積層することが好ましい。また陽電極表面には薄膜性の良好な化合物を用いることが好ましい。このような積層順については、ホール注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。このような積層順とすることによって、駆動電圧が低下し、電流リークの発生やダークスポットの発生・成長を防ぐことができる。また、素子化する場合、蒸着を用いているので1〜10nm程度の薄い膜も、均一かつピンホールフリーとすることができるため、ホール注入層にイオン化ポテンシャルが小さく、可視部に吸収をもつような化合物を用いても、発光色の色調変化や再吸収による効率の低下を防ぐことができる。ホール注入輸送層は、発光層等と同様に上記の化合物を蒸着することにより形成することができる。
【0061】
また、必要に応じて設けられる電子注入輸送層には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等を用いることができる。電子注入輸送層は発光層を兼ねたものであってもよく、このような場合はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を使用することが好ましい。電子注入輸送層の形成は発光層と同様に蒸着等によればよい。
【0062】
電子注入輸送層を電子注入層と電子輸送層とに分けて積層する場合には、電子注入輸送層用の化合物の中から好ましい組み合わせを選択して用いることができる。このとき、電子注入電極側から電子親和力の値の大きい化合物の順に積層することが好ましい。このような積層順については電子注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。
【0063】
基板材料としては、ガラスや石英、樹脂等の透明ないし半透明材料を用いる。また、基板に色フィルター膜や蛍光性物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜を用いて発光色をコントロールしてもよい。
【0064】
色フィルター膜には、液晶ディスプレイ等で用いられているカラーフィルターを用いれば良いが、有機ELの発光する光に合わせてカラーフィルターの特性を調整し、取り出し効率・色純度を最適化すればよい。
【0065】
また、EL素子材料や蛍光変換層が光吸収するような短波長の外光をカットできるカラーフィルターを用いれば、素子の耐光性・表示のコントラストも向上する。
【0066】
また、誘電体多層膜のような光学薄膜を用いてカラーフィルターの代わりにしても良い。
【0067】
蛍光変換フィルター膜は、EL発光の光を吸収し、蛍光変換膜中の蛍光体から光を放出させることで、発光色の色変換を行うものであるが、組成としては、バインダー、蛍光材料、光吸収材料の三つから形成される。
【0068】
蛍光材料は、基本的には蛍光量子収率が高いものを用いれば良く、EL発光波長域に吸収が強いことが望ましい。実際には、レーザー色素などが適しており、ローダミン系化合物・ペリレン系化合物・シアニン系化合物・フタロシアニン系化合物(サブフタロ等も含む)ナフタロイミド系化合物・縮合環炭化水素系化合物・縮合複素環系化合物・スチリル系化合物・クマリン系化合物等を用いればよい。
【0069】
バインダーは基本的に蛍光を消光しないような材料を選べば良く、フォトリソグラフィー・印刷等で微細なパターニングが出来るようなものが好ましい。また、ITO、IZOの成膜時にダメージを受けないような材料が好ましい。
【0070】
光吸収材料は、蛍光材料の光吸収が足りない場合に用いるが、必要の無い場合は用いなくても良い。また、光吸収材料は、蛍光性材料の蛍光を消光しないような材料を選べば良い。
【0071】
ホール注入輸送層、発光層および電子注入輸送層の形成には、均質な薄膜が形成できることから真空蒸着法を用いることが好ましい。真空蒸着法を用いた場合、アモルファス状態または結晶粒径が0.1μm 以下の均質な薄膜が得られる。結晶粒径が0.1μm を超えていると、不均一な発光となり、素子の駆動電圧を高くしなければならなくなり、電荷の注入効率も著しく低下する。
【0072】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、10−4Pa以下の真空度とし、蒸着速度は0.01〜1nm/sec 程度とすることが好ましい。また、真空中で連続して各層を形成することが好ましい。真空中で連続して形成すれば、各層の界面に不純物が吸着することを防げるため、高特性が得られる。また、素子の駆動電圧を低くしたり、ダークスポットの成長・発生を抑えたりすることができる。
【0073】
これら各層の形成に真空蒸着法を用いる場合において、1層に複数の化合物を含有させる場合、化合物を入れた各ボートを個別に温度制御して共蒸着することが好ましい。
【0074】
本発明の有機EL素子は、通常、直流駆動型のEL素子として用いられるが、交流駆動またはパルス駆動とすることもできる。印加電圧は、通常、2〜20V程度とされる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1>
ガラス基板上に、膜厚85nmのITO透明電極(ホール注入電極)を成膜し、縦280×横280μmのサイズの画素を、20μm 間隔をあけて、64ドット×7ライン、パターニングした。次いで、ITO透明電極の周囲に、約1.2μm の厚さのAl−W(W:3.0at%)合金電極(シート抵抗:0.4Ω/□)を、パターン形成した。なお、各画素、ライン間の金属電極は共通とした。得られたホール注入電極の抵抗を測定したところ、1ライン当たり64Ωと、ITO単体のホール注入電極に比べ1/50以下と極めて低い抵抗値が得られた。
【0076】
<実施例2>
膜厚を120nmとした他は、実施例1と同様にして得たITO透明電極と金属電極からなるホール注入電極が成膜された基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。次いで、表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。4,4’,4”−トリス(−N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(以下、m−MTDATA)を蒸着速度0.2nm/sec.で40nmの厚さに蒸着し、ホール注入層とし、次いで減圧状態を保ったまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−m−トリル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル(以下、TPD)を蒸着速度0.2nm/sec.で35nmの厚さに蒸着し、ホール輸送層とした。さらに、減圧を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3 )を蒸着速度0.2nm/sec.で50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。次いで減圧を保ったまま、MgAgを共蒸着(2元蒸着)で蒸着速度比Mg:Ag=10:1にて200nmの厚さに成膜し、電子注入電極とした。
【0077】
得られた有機EL素子に乾燥空気雰囲気中で、輝度が100cd/m得られるように駆動した。この有機EL素子の電流供給側(端子電極側)の7ドット×7ラインと、その反対側(末端側)の7ドット×7ラインの輝度を比較したところ、発光輝度の差は確認できなかった。このことから、電圧降下による影響が無いことが確認された。
【0078】
<実施例3>
実施例2において、ITO透明電極の膜厚を50nm としたほかは実施例2と同様にして有機EL素子を得た。この素子を5000時間駆動したところ、ダークスポットの発生密度が1/2以下となり、信頼性が大きく向上した。
【0079】
得られた有機EL素子を実施例2と同様にして駆動し、評価したところ、やはり輝度ムラが少なく、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。
【0080】
<実施例4>
実施例2において、金属電極の構成材をAlからAl−Si−Cu(Si:0.97at%、Cu:0.53at%)、Al−Nd(Nd:2.1at%)、Al−Ta(Ta:2.1at%)、Al−Sc(Sc:0.13at%)、Al−W(W:2.0at%)にそれぞれ代えたほかは実施例2と同様にして有機EL素子を得た。
【0081】
得られた有機EL素子について実施例2と同様に評価したところ実施例2とほぼ同様の結果を得た。
【0082】
<実施例5>
実施例2において、ITO透明電極を成膜した後、ITO透明電極の周囲金属電極との界面となる部分にCrのバリア層を幅15μm 、膜厚60nmに成膜し、さらに実施例2と同様に金属電極を成膜したほかは実施例2と同様にして有機EL素子を得た。
【0083】
得られた有機EL素子について実施例2と同様に評価したところ実施例2とほぼ同様の結果を得た。
【0084】
<実施例6>
実施例5において、バリア層の構成材をCrからTi、TiN(N:52at%)にそれぞれ代えた他は実施例5と同様にして有機EL素子を得、実施例5と同様にして評価したところ、ほぼ同一の結果を得た。
【0085】
<実施例7>
実施例2において、実施例1と同様にして作製したIZO透明電極を用いたほかは実施例2と同様にして有機EL素子を得た。
【0086】
得られた有機EL素子を実施例2と同様にして駆動し、評価したところ、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。
【0087】
<実施例8>
図13、14に示すようにガラス基板上に、膜厚95nmのITO透明電極(ホール注入電極)2を成膜し、縦280×横280μmサイズの画素が、20μm間隔で64ドット×256ライン並ぶようにパターニングした。ここで、図13は一部平面図、図14は図13のD−D’断面矢視図である。次いで、バリア層7としてCrを膜厚100nm、Al金属電極(シート抵抗:0.1Ω/□)3を膜厚300nm連続成膜し、ITO透明電極の周囲に、合計30μm の幅になるようパターニングした。
【0088】
次いで、ITO透明電極と金属電極からなるホール注入電極が成膜された基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。次いで、表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。4,4’,4”−トリス(−N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(以下、m−MTDATA)を蒸着速度0.2nm/sec.で40nmの厚さに蒸着し、ホール注入層とし、次いで減圧状態を保ったまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−m−トリル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル(以下、TPD)を蒸着速度0.2nm/sec.で35nmの厚さに蒸着し、ホール輸送層とした。さらに、減圧を保ったまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3 )を蒸着速度0.2nm/sec.で50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。次いで減圧を保ったまま、MgAgを共蒸着(2元蒸着)で蒸着速度比Mg:Ag=10:1にて200nmの厚さに成膜し、電子注入電極とした。
【0089】
得られた有機EL素子に乾燥空気雰囲気中で、輝度が100cd/m得られるように駆動した。この有機EL素子の電流供給側(端子電極側)の7ドット×7ラインの範囲を1測定単位とし、電流供給側からその反対側(末端側)にかけて輝度を測定したところ、電流供給側の100cd/mの時間平均発光輝度に対して、全ての領域で−5%以内の発光輝度変化であることが確認できた。このことから、大表示面積のディスプレイにおいても、電圧降下による影響が少ないことが確認された。
【0090】
<比較例1>
実施例2において、ITO透明電極のみを用いてホール注入電極を成膜したほかは実施例2と同様にして有機EL素子を得た。このとき1ライン当たりのホール注入電極の抵抗は3.2kΩであった。
【0091】
得られた有機EL素子を実施例1と同様にして駆動し、評価したところ、電流供給側の時間平均発光輝度100cd/mに対して、最大−20%の輝度変化が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の有機EL素子の一構成例を示す、7セグメントタイプのホール注入電極の概略構成図である。
【図2】図1のA−A’断面矢視図である。
【図3】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す、単純マトリクスタイプのホール注入電極の成膜課程を示す概略構成図で、ITO透明電極を成膜する工程を示した図である。
【図4】図3のB−B’断面矢視図である。
【図5】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す概略構成図で、金属電極を成膜する工程を示した図である。
【図6】図5のB−B’断面矢視図である。
【図7】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す概略構成図で、絶縁膜を成膜する工程を示した図である。
【図8】図7のB−B’断面矢視図である。
【図9】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す概略構成図で、素子分離構造体を成膜する工程を示した図である。
【図10】図9のC−C’断面矢視図である。
【図11】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す概略構成図で、マスクを張り合わせる工程を示した図である。
【図12】図11のC−C’断面矢視図である。
【図13】本発明の一実施例であるITO透明電極と金属電極のパターンを示した一部平面図である。
【図14】図14のD−D’断面矢視図である。
【図15】有機EL素子の印加電圧と発光輝度の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0093】
1 基板
2 透明電極
3 金属電極
4 絶縁膜
5 素子分離構造体
6 マスク
7 バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール注入電極と、電子注入電極と、これらの電極間に設けられた1種以上の有機層とを有し、
前記ホール注入電極は、発光部を含む部分に透明電極を有し、発光部以外の部分に配置され、前記透明電極と接続するシート抵抗1Ω/□以下の金属電極を有し、
前記透明電極の発光部以外の部分及び金属電極を覆うように絶縁膜が形成されている有機EL素子。
【請求項2】
前記絶縁膜上に素子分離構造体が形成されている請求項1の有機EL素子。
【請求項3】
前記素子分離構造体は、その幅が前記絶縁膜より狭く形成されている請求項2の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−299766(P2007−299766A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186359(P2007−186359)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【分割の表示】特願平9−199256の分割
【原出願日】平成9年7月9日(1997.7.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】