説明

有機EL素子

【課題】低電圧かつ高発光効率可能なマルチフォトンエミッション(MPE)構造の有機EL素子を提供する。
【解決手段】
基板10上に順次配置された陽極電極12,第2ホール輸送層14,第2発光層16,第2電子輸送層18,第2電子注入層20,および第2陰極電極22と、第2陰極電極22上に配置された電荷発生層24と、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36と、第1ホール輸送層36上に配置されたワイドギャップホール輸送層26と、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28と、第1発光層28上に配置された第1電子輸送層30と、第1電子輸送層30上に配置された第1電子注入層32と、第1電子注入層32上に配置された第1陰極電極34とを備え、第1ホール輸送層36は、電荷発生層24のLUMO準位とのエネルギー差が0.3eV未満となるHOMO準位を有するMPE構造の有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関し、特に、マルチフォトンエミッション構造において、低電圧かつ高発光効率可能な有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)EL素子として、発光開始閾値電圧の低下及び電流密度対発光輝度特性の向上を図り、発光効率の優れた有機薄膜EL素子が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1においては、基板上に順に積層された、陽極と、有機化合物からなる正孔輸送層と、有機化合物からなる発光層と、陰極と、を有する有機薄膜EL素子であって、正孔輸送層が正孔輸送能を有する2層以上の有機化合物の積層構造からなり、正孔輸送層の中で陽極と接する有機化合物層のイオン化ポテンシャルが、正孔輸送層と接する陽極の仕事関数よりも小さい、又は、積層構造を有する正孔輸送層の中で発光層と接する正孔輸送層の正孔移動度が他の正孔輸送層より大きい構造からなる。
【0003】
また、従来の有機EL素子として、有機電界発光表示素子およびその製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2においては、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、第1電極と発光層との間に配置された正孔注入層と、第1電極と発光層との間に配置された正孔輸送層と、正孔注入層と正孔輸送層との間に配置された電荷発生層と、を備えることを特徴とする有機電界発光表示素子およびその製造方法が開示されている。
【0004】
一方、従来のマルチフォトンエミッション(MPE:Multi-Photon Emission)構造を有する有機EL素子は、高効率発光可能なワイドギャップホール輸送層を用いた場合、電荷発生層のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の準位と、ワイドギャップホール輸送層のHOMO(Highest Unoccupied Molecular Orbital)の準位とのエネルギー差が大きいため、順方向電圧が上昇してしまう。
【特許文献1】特開平08−222373号公報(第2図および第6図、第5−7頁)
【特許文献2】特開2007−173779号公報(第2A−2C図、第8−13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、電荷発生層とワイドギャップホール輸送層との間に、電荷発生層のLUMOとのエネルギー差が0.3eV未満となるHOMOの準位を有するホール輸送材料を使用することで、LUMO−HOMOエネルギー差が小さくなり、低電圧かつ高発光効率可能であることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、LUMO−HOMOエネルギー差が小さくなることで、低電圧かつ高発光効率可能な有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、電荷発生層と、前記電荷発生層上に配置された第1ホール輸送層と、前記第1ホール輸送層上に配置されたワイドギャップホール輸送層と、前記ワイドギャップホール輸送層上に配置された燐光発光を有する第1発光層とを備える有機EL素子が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、電荷発生層と、前記電荷発生層上に配置された第1ホール輸送層と、前記第1ホール輸送層上に配置されたワイドギャップホール輸送層と、前記ワイドギャップホール輸送層上に配置された第1発光層と、前記第1発光層上に配置された第1電子輸送層と、前記第1電子輸送層上に配置された第1電子注入層と、前記第1電子注入層上に配置された第1陰極電極と、基板と、基板上に配置された陽極電極と、前記陽極電極上に配置された第2ホール輸送層と、前記第2ホール輸送層上に配置された第2発光層と、前記第2発光層上に配置された第2電子輸送層と、前記第2電子輸送層上に配置された第2電子注入層と、前記第2電子注入層上に配置された第2陰極電極とを備え、前記電荷発生層は前記第2陰極電極上に配置されたマルチフォトンエミッション構造を有する有機EL素子が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LUMO−HOMOエネルギー差が小さくなることで、低電圧かつ高発光効率可能な有機EL素子を提供することができる。
【0010】
本発明によれば、燐光発光を用いたマルチフォトエミッション構造において電荷発生層のLUMOとそれに接する第1ホール輸送層のHOMOのエネルギー差を0.3eV未満とし、燐光発光を有する第1発光層と接する側には燐光エネルギーよりも大きなエネルギーギャップを有するワイドギャップホール輸送層を設けた低電圧且つ高発光効率可能の2層型ホール輸送層構造を有するMPE有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下において、同じブロックまたは要素には同じ符号を付して説明の重複を避け、説明を簡略にする。図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、各構成部品の配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子は、図1に示すように、電荷発生層24と、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36と、第1ホール輸送層36上に配置されたワイドギャップホール輸送層26と、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28とを備える。すなわち、第1の実施の形態に係る有機EL素子は、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36と、第1ホール輸送層36上に配置されたワイドギャップホール輸送層26からなる2層型ホール輸送層構造を有する。
【0014】
第1ホール輸送層36により、電荷発生層24のLUMO準位とワイドギャップホール輸送層26のHOMO準位のエネルギー差を0.3eV未満とすることが可能である。
【0015】
電荷発生層24のLUMO準位と第1ホール輸送層36のHOMO準位のエネルギー差をゼロとすることもできる。
【0016】
ワイドギャップホール輸送層26は、第1発光層28よりも大きなエネルギーギャップを有する。
【0017】
第1発光層28は、例えば、約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBPから形成してもよい。
【0018】
電荷発生層24を、例えば、HAT(CN)6で形成し、ワイドギャップホール輸送層26を、例えば、m−MTDATAで形成し、第1ホール輸送層36を、例えば、NPBで形成することによって、電荷発生層24のLUMOの準位と第1ホール輸送層36のHOMOの準位のエネルギー差をゼロとすることができる。
【0019】
(比較例)
一方、本発明の比較例に係るMPE構造を有する有機EL素子は、例えば、図9に示すように、電荷発生層24と、電荷発生層24上に配置されたワイドギャップホール輸送層26と、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28と、第1発光層28上に配置された第1電子輸送層30と、第1電子輸送層30上に配置された第1電子注入層32と、第1電子注入層32上に配置された第1陰極電極34とを備える。
【0020】
さらに、基板10と、基板10上に配置された陽極電極12と、陽極電極12上に配置された第2ホール輸送層14と、第2ホール輸送層14上に配置された第2発光層16と、第2発光層16上に配置された第2電子輸送層18と、第2電子輸送層18上に配置された第2電子注入層20と、第2電子注入層20上に配置された第2陰極電極22とを備える。電荷発生層24は、第2陰極電極22上に配置され、結果として、マルチフォトンエミッション構造を有する。
【0021】
図9に示す有機EL素子のエネルギーバンド構造は、例えば、図10に示すように表される。すなわち、基板10としてガラス、基板10上に配置された陽極電極12としてITO、陽極電極12上に配置された第2ホール輸送層14としてm−MTDATA、第2ホール輸送層14上に配置された第2発光層16として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBP、第2発光層16上に配置された第2電子輸送層18としてBCP、第2電子輸送層18上に配置された第2電子注入層20してLiF、第2電子注入層20上に配置された第2陰極電極22としてAlを使用する。
【0022】
さらに、第2陰極電極22上に配置された電荷発生層24としてHAT(CN)6、電荷発生層24上に配置されたワイドギャップホール輸送層26としてm−MTDATA、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBP、第1発光層28上に配置された第1電子輸送層30としてBCP、第1電子輸送層30上に配置された第1電子注入層32としてLiF、第1電子注入層32上に配置された第1陰極電極34としてAlを使用する。
【0023】
各層において、上側はLUMOの準位、下側はHOMOの準位を表す。
【0024】
比較例に係るMPE構造を有する有機EL素子は、図9に示すように、高効率発光可能なワイドギャップホール輸送層26を用いた場合、電荷発生層24のLUMOの準位5.4eVと、ワイドギャップホール輸送層26のHOMOの準位5.1eVとのエネルギー差が大きい。
【0025】
電荷発生層24のLUMOの準位とワイドギャップホール輸送層26のHOMOの準位が近い方が順方向電圧を低くすることができる。一方、燐光材料としては、発光エネルギーの大きな材料を使用する必要がある。
【0026】
ここで、HOMOのエネルギー準位とは、有機分子の基底状態を表す。また、LUMOのエネルギー準位とは、有機分子の励起状態を表す。ここで、LUMO準位は最低励起一重項準位(S1)に対応する。さらに電子や正孔が有機物に注入され、ラジカルアニオン(M-),ラジカルカチオン(M+)が形成された場合の正孔および電子の準位は、励起子結合エネルギーが存在しない分、HOMO準位,LUMO準位の外側の位置に電子伝導準位、正孔伝導準位が位置することになる。
【0027】
本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子は、さらに詳細には、図1に示すように、電荷発生層24と、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36と、第1ホール輸送層36上に配置されたワイドギャップホール輸送層26と、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28と、第1発光層28上に配置された第1電子輸送層30と、第1電子輸送層30上に配置された第1電子注入層32と、第1電子注入層32上に配置された第1陰極電極34とを備える。
【0028】
さらに、基板10と、基板10上に配置された陽極電極12と、陽極電極12上に配置された第2ホール輸送層14と、第2ホール輸送層14上に配置された第2発光層16と、第2発光層16上に配置された第2電子輸送層18と、第2電子輸送層18上に配置された第2電子注入層20と、第2電子注入層20上に配置された第2陰極電極22とを備える。電荷発生層24は第2陰極電極22上に配置されたマルチフォトンエミッション構造を有する。
【0029】
第1ホール輸送層36により、電荷発生層24のLUMOの準位とワイドギャップホール輸送層26のHOMOの準位のエネルギー差を0.3eV未満とすることができる。
【0030】
電荷発生層24のLUMOの準位と第1ホール輸送層36のHOMO準位のエネルギー差をゼロとすることもできる。
【0031】
ワイドギャップホール輸送層26は、第1発光層28よりも大きなエネルギーギャップを有する。
【0032】
第2ホール輸送層14は、第2発光層16よりも大きなエネルギーギャップを備えていてもよい。
【0033】
第1発光層28および第2発光層16は、燐光発光層からなる。
【0034】
燐光発光層は、例えば、Ir(ppy)3を添加したCBPから形成されていてもよい。
【0035】
電荷発生層24を、例えば、HAT(CN)6で形成し、ワイドギャップホール輸送層26を、例えば、m−MTDATAで形成し、第1ホール輸送層36を、例えば、NPBで形成することによって、電荷発生層24のLUMOの準位と第1ホール輸送層36のHOMOの準位のエネルギー差をゼロとすることができる。
【0036】
図1に示す有機EL素子のエネルギーバンド構造は、例えば、図2に示すように表される。すなわち、基板10としてガラス、基板10上に配置された陽極電極12としてITO、陽極電極12上に配置された第2ホール輸送層14としてm−MTDATA、第2ホール輸送層14上に配置された第2発光層16として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBP、第2発光層16上に配置された第2電子輸送層18としてBCP、第2電子輸送層18上に配置された第2電子注入層20してLiF、第2電子注入層20上に配置された第2陰極電極22としてAlを使用する。
【0037】
さらに、第2陰極電極22上に配置された電荷発生層24としてHAT(CN)6、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36としてNPB、第1ホール輸送層36上に配置されたワイドギャップホール輸送層26としてm−MTDATA、ワイドギャップホール輸送層26上に配置された第1発光層28として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBP、第1発光層28上に配置された第1電子輸送層30としてBCP、第1電子輸送層30上に配置された第1電子注入層32としてLiF、第1電子注入層32上に配置された第1陰極電極34としてAlを使用する。
【0038】
各層において、上側はLUMOの準位、下側はHOMOの準位を表す。
【0039】
第1の実施の形態に係るMPE構造を有する有機EL素子は、電荷発生層24のLUMOの準位5.4eVと、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層(NPB)36のHOMOの準位5.4eVが等しい。電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層(NPB)36によって、高効率発光可能なワイドギャップホール輸送層26を用いた場合においても、ワイドギャップホール輸送層26のHOMOの準位5.1eVとのエネルギー差が緩和され、順方向電圧を低く設定することができる。
【0040】
基板10は、例えば、ガラスで形成される。他にはサファイア、GaPなど発光波長に対して透明な材料であればよい。
【0041】
ここで、第1の実施の形態に係る有機EL素子において、「透明」とは、透過率が約50%以上であるものと定義する。「透明」とは、第1の実施の形態に係る有機EL素子において、可視光線に対して、無色透明という意味で使用する。可視光線は波長約360nm〜830nm程度、エネルギー約3.4eV〜1.5eV程度に相当し、この領域で吸収および反射,散乱を起こさなければ、透明である。
【0042】
透明性はバンドギャップEgとプラズマ周波数ωpによって決定される。バンドギャップEgが約3.4eV以上である場合、可視光線では電子のバンド間遷移が起こらないため、可視光線を吸収せずに透過する。一方、プラズマ周波数ωpよりも低エネルギーの光は、プラズマ内部に進入できないため、プラズマとみなせるキャリアによって、反射される。プラズマ周波数ωpは、キャリア密度をn、電荷をq、誘電率をε、有効質量をm*とすると、ωp=(nq2/εm*1/2で表され、キャリア密度の関数である。
【0043】
陽極電極12は透明電極で形成される。透明電極としては、例えば、光を透過可能であり、ITO(インジウム−スズ酸化物)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、ZnO(亜鉛酸化物)、IZTO(インジウム−スズー亜鉛酸化物)などの無機導電体材料、PEDOTなどの有機導電体材料で形成することができる。望ましくは、厚さが、例えば、約150〜160nm程度のITOの透明電極からなる。
【0044】
第2ホール輸送層14およびワイドギャップホール輸送層26は、それぞれ陽極電極12および電荷発生層24から注入された正孔を円滑に第2発光層16および第1発光層28に輸送するためのものである。第2ホール輸送層14およびワイドギャップホール輸送層26は、例えば、m−MTDATAで形成することができる。m−MTDATAは、トリフェニルアミンを基本として星形(スターバースト)に分子を大きくしたもので、スターバーストポリアミンと呼ばれる化合物である。m−MTDATAは、ITOとの組み合わせで良好なホール注入特性を示す。第2ホール輸送層14およびワイドギャップホール輸送層26の厚さは、例えば、それぞれ約70nm程度、および約20nm程度である。第2ホール輸送層14、ワイドギャップホール輸送層26に適用されるm−MTDATAの化学式は、図3に示すように表される。
【0045】
第2ホール輸送層14およびワイドギャップホール輸送層26を形成する正孔輸送材料の分子構造例としては、他に、GPD、spiro-TAD、spiro-NPD、oxidized-TPDなどを適用することができる。さらに別の正孔輸送材料としては、TDAPBなどがある。他に、厚さが、例えば、約60nm程度のNPB(N,N−ジ(ナフタリル)−N,N−ジフェニル−ベンジデン)を適用可能である。他の正孔輸送材料としては、例えば、α−NPDを用いることができる。ここで、α−NPDは、4,4−ビスN−(1−ナフチル−1−)[N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(4,4-bis[N-(1-naphtyl-1-)N-phenyl-amino]-biphenyl)と呼ばれる。
【0046】
第2発光層16として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBP、第1発光層28として約9%程度のIr(ppy)3を添加したCBPを適用する。ここで、CBPは、4,4´−ディカルバゾリル―1,1´ビフェニル(4,4´-dicarbazolyl-1,1´-biphenyl)と呼ばれる材料であり、三重項励起子の閉じ込め効果、耐久性、およびバイポーラキャリア輸送性を備えるホスト材料である。CBPの化学式は、図4に示すように表される。
【0047】
Ir(ppy)3は、燐光発光のドーパント材料であり、室温において非常に強い燐光を示す。第1発光層28、第2発光層16の厚さは、共に、例えば、約30nm程度である。Ir(ppy)3 の化学式は、図5に示すように表される。
【0048】
第1発光層28および第2発光層16には、他に、燐光ホスト材料として、以下のものを適用することができる。例えば、低分子ホスト材料としては、Alq3,BCP,Bphen,TAZ,TPBI,OXD−7,TCTA,mCP,CDBP,UGH1,UGH2などを適用することができる。例えば、高分子ホスト材料としては、PVK,PFOを適用することができる。
【0049】
燐高有機EL発光材料としては、上記のIr(ppy)3(514nm)の他に、青色用として、例えばIrtfmppz3(428nm),Ir46dfppy3(468nm),Ir46dfppy2pic(471nm)などを適用することができる。また、緑色〜橙色用としては、例えば、Irppy2acac(516nm),Irtpy3(550nm),Irbt2acac(557nm),Tb(ACAC)3Phen(543nm),Irbtpy3(596nm),Irpq2acac(597nm),Dy(BTFA)3Phen(576nm)などを適用することができる。また、赤色用としては、例えば、Irpiq3(621nm),Irbtpy2acac(612nm),Eu(TTFA)3Phen(613nm),Irthiq3(644nm),Irfliq3(656nm),PtOEP(650nm)などを適用することができる。
【0050】
第1電子輸送層30および第2電子輸送層18は、例えば、BCPで形成することができる。第1電子輸送層30および第2電子輸送層18は、第1電子注入層32および第2電子注入層20から注入された電子を円滑に、それぞれ第1発光層28および第2発光層16に輸送するためのものであり、いずれも厚さが、例えば、約20nm程度のBCPからなる。ここで、BCPは、1,10−フェナンスロリン誘導体であり、バソクプロイン(Bathocuproine)と呼ばれる材料である。BCPの化学式は、図6に示すように表される。
【0051】
第1電子輸送層30および第2電子輸送層18としては、他に、Alq(アルミニウムキノリノール錯体)を適用可能である。ここで、Alqは、アルミニウム8−ヒドロキシキノリネート(Aluminum 8-hydroxyquinolinate)或いは、トリ8−キノリノラトアルミニウムと呼ばれる材料である。第1電子輸送層30および第2電子輸送層18を形成する他の電子輸送材料としては、t-butyl-PBD、TAZ、シロール誘導体、ホウ素置換型トリアリール系化合物、フェニルキノキサリン誘導体などがある。また、オキサジアゾール二量体、スターバーストオキサジアゾールなどが適用可能である。
【0052】
第1電子注入層32および第2電子注入層20は、例えば、厚さ、約0.5nm程度のLiFで形成することができる。
【0053】
第2陰極電極22は、例えば、厚さ、約1nm程度のAlで形成することができる。第1陰極電極34は、例えば、厚さ、約100nm程度のAlで形成することができる。第2電子注入層20のLiFの厚さが約0.5nm程度であり、第2陰極電極22のAlのp厚さが約1nm程度ときわめて薄いことから、図1に示すように、第2発光層16からの光(hν2)および第1発光層28からの光(hν1)は、いずれも陽極電極12側から基板10を通して、取り出しことができる。
【0054】
電荷発生層24として、例えば厚さ約20nm程度のヘキサアザトリフェニレンHAT(CN)6を適用する。ヘキサアザトリフェニレンHAT(CN)6は6つのシアノ基を有する非常に大きなπ共役系分子であり、電子アクセプター性に優れた有機配位子である。電荷発生層24に適用するHAT(CN)6の化学式は、図7に示すように表される。電荷発生層24として、他には、例えば、モリブデンオキサイド(MoOX),バナジウムオキサイド(VXY)などを適用することができる。
【0055】
電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層36として、例えば、NPBを適用することができる。NPBは、N,N-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N−ジフェニル−ベンジデン(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl-benzidene)と呼ばれる材料である。NPBの化学式は、図8に示すように表される。電荷発生層24のLUMOの準位5.4eVと、電荷発生層24上に配置された第1ホール輸送層(NPB)36のHOMOの準位5.4eVが等しくなるため、第1ホール輸送層(NPB)36によって、ワイドギャップホール輸送層26のHOMOの準位5.1eVとのエネルギー差が緩和され、順方向電圧を低くすることができる。
【0056】
第1の実施の形態に係る有機EL素子の動作原理は以下の通りである。
【0057】
まず、陽極電極12および第1陰極電極34を介して、第1の実施の形態に係る有機EL素子のアノードA(+)・カソードK(−)間に一定の電圧が印加される。これにより、第1ホール輸送層36およびワイドギャップホール輸送層26から第1発光層28に正孔が注入され、第1電子輸送層30から第1発光層28に電子が注入される。同様に、第2ホール輸送層14から第2発光層16に正孔が注入され、第2電子輸送層18から第2発光層16に電子が注入される。そして、第1発光層28に注入された正孔と電子とが再結合することによって、第1の光(hν1)を発光する。第2発光層16に注入された正孔と電子とが再結合することによって、第2の光(hν2)を発光する。発光された第1の光(hν1)および第2の光(hν2)は、陽極電極12を透過し、基板10を介して外部に出力される。
【0058】
第1の実施の形態に係る有機EL素子において、各電極、各層はそれぞれスパッタ、蒸着、塗布などにより成膜される。
【0059】
第1の実施の形態に係る有機EL素子において、発光層とホール輸送層の間、若しくは発光層と陽極電極との間に、p型有機半導体層を介在させてもよい。同様に、発光層と電子輸送層の間、若しくは陰極電極と電子輸送層の間に、n型有機半導体層を介在させてもよい。
【0060】
本発明によれば、MPE構造において、順方向電流密度(mA/cm2 )と順方向電圧V(V)の関係において、しきい値電圧を低減することができる。
【0061】
また、本発明によれば、MPE構造において、発光輝度(cd/m2 )と順方向電圧V(V)の関係において、しきい値電圧を低減することができる。
【0062】
また、本発明によれば、MPE構造において、電力効率(lm/W)と発光輝度(cd/m2 )との関係および電流効率(cd/A)と発光輝度(cd/m2 )との関係において、いずれも低輝度側において効率が改善され、また広い発光輝度(cd/m2 )の範囲にわたり、所定の効率を維持することもできる。
【0063】
本発明によれば、LUMO−HOMOエネルギー差が小さくなることで、低電圧かつ高発光効率可能な有機EL素子を提供することができる。
【0064】
本発明によれば、燐光発光を用いたマルチフォトエミッション構造において電荷発生層のLUMOとそれに接する第1ホール輸送層のHOMOのエネルギー差を0.3eV未満とし、燐光発光層と接する側には燐光エネルギーよりも大きなエネルギーギャップを有するワイドギャップホール輸送層を設けた低電圧且つ高発光効率可能の2層型ホール輸送層構造を有するMPE有機EL素子を提供することができる。
【0065】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0066】
本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の構成に適用される有機半導体材料は、例えば、真空蒸着法、カラムクロマトグラフィー,再結晶法などの化学的精製法、昇華精製法、高分子材料の場合には、スピンコート,ディップコート,ブレードコート,インクジェット法などの湿式成膜法などを用いて形成することができる。
【0067】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の有機EL素子は、照明分野及び各種光源に適用可能であり、さらにディスプレイ分野、ヘッドマウントディスプレイ、有機集積回路分野、有機発光デバイス、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイエレクトロニクス分野、および透明エレクトロニクス分野において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の模式的断面構造図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子のエネルギーバンド構造図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の第2ホール輸送層14、ワイドギャップホール輸送層26に適用するm−MTDATAの化学式。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の第1発光層28,第2発光層16に適用するCBPの化学式。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の第1発光層28,第2発光層16に適用するIr(ppy)3 の化学式。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の第1電子輸送層30,第2電子輸送層18に適用するBCPの化学式。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の電荷発生層24に適用するHAT(CN)6の化学式。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子の第1ホール輸送層36に適用するNPBの化学式。
【図9】本発明の比較例に係る有機EL素子の模式的断面構造図。
【図10】本発明の比較例に係る有機EL素子のエネルギーバンド構造図。
【符号の説明】
【0070】
10…基板
12…陽極電極
14…第2ホール輸送層
16…第2発光層(燐光発光層)
18…第2電子輸送層
20…第2電子注入層
22…第2陰極電極
24…電荷発生層
26…ワイドギャップホール輸送層
28…第1発光層(燐光発光層)
30…第1電子輸送層
32…第1電子注入層
34…第1陰極電極
36…第1ホール輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷発生層と、
前記電荷発生層上に配置された第1ホール輸送層と、
前記第1ホール輸送層上に配置されたワイドギャップホール輸送層と、
前記ワイドギャップホール輸送層上に配置された第1発光層と
を備える有機EL素子。
【請求項2】
前記第1ホール輸送層は、前記電荷発生層のLUMO準位とのエネルギー差が0.3eV未満となるHOMO準位を有し、前記第1ホール輸送層により、前記電荷発生層のLUMO準位と前記ワイドギャップホール輸送層のHOMO準位のエネルギー差を0.3eV未満とすることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記電荷発生層のLUMO準位と前記第1ホール輸送層のHOMO準位のエネルギー差をゼロとしたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記ワイドギャップホール輸送層は、前記第1発光層よりも大きなエネルギーギャップを有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項5】
電荷発生層と、
前記電荷発生層上に配置された第1ホール輸送層と、
前記第1ホール輸送層上に配置されたワイドギャップホール輸送層と、
前記ワイドギャップホール輸送層上に配置された第1発光層と、
前記第1発光層上に配置された第1電子輸送層と、
前記第1電子輸送層上に配置された第1電子注入層と、
前記第1電子注入層上に配置された第1陰極電極と、
基板と、
基板上に配置された陽極電極と、
前記陽極電極上に配置された第2ホール輸送層と、
前記第2ホール輸送層上に配置された第2発光層と、
前記第2発光層上に配置された第2電子輸送層と、
前記第2電子輸送層上に配置された第2電子注入層と、
前記第2電子注入層上に配置された第2陰極電極と
を備え、前記電荷発生層は前記第2陰極電極上に配置されたマルチフォトンエミッション構造を有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
前記第1ホール輸送層は、前記電荷発生層のLUMO準位とのエネルギー差が0.3eV未満となるHOMO準位を有し、前記第1ホール輸送層により、前記電荷発生層のLUMO準位と前記ワイドギャップホール輸送層のHOMO準位のエネルギー差を0.3eV未満とすることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記電荷発生層のLUMO準位と前記第1ホール輸送層のHOMO準位のエネルギー差をゼロとしたことを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記ワイドギャップホール輸送層は、前記第1発光層よりも大きなエネルギーギャップを有することを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記第2ホール輸送層は、前記第2発光層よりも大きなエネルギーギャップを有することを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記第1発光層および前記第2発光層は、燐光発光層からなることを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−283787(P2009−283787A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135957(P2008−135957)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】