有機EL素子
【課題】本発明は、コントラストを良好にするとともに、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】第1電極層13と、第1電極層13上に形成され、第1電極層13の上面を複数個所露出する電荷注入層14と、第1電極層13の露出した領域及び電荷注入層14上に形成される電荷輸送層15と、電荷輸送層15上に形成される有機発光層16と、有機発光層16上に形成される第2電極層19と、を備えたことを特徴とする有機EL素子5。
【解決手段】第1電極層13と、第1電極層13上に形成され、第1電極層13の上面を複数個所露出する電荷注入層14と、第1電極層13の露出した領域及び電荷注入層14上に形成される電荷輸送層15と、電荷輸送層15上に形成される有機発光層16と、有機発光層16上に形成される第2電極層19と、を備えたことを特徴とする有機EL素子5。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、素子基板上に形成される第1電極層と、第1電極層上に形成される有機発光層と、有機発光層上に形成される第2電極層と、から構成されている。なお、有機発光層は、有機材料から成る電荷注入層等の複数の層から構成されているものが一般的に用いられている。
【0003】
有機発光層は、第1電極層及び第2電極層に電圧を加えて、第1電極層及び第2電極層から有機発光層に正孔及び電子を注入し、有機発光層中で正孔と電子が再結合することで、放出されるエネルギーの一部が有機発光層中の発光分子を励起する。その結果、有機発光層は、その励起された発光分子が基底状態に戻るときにエネルギーを放出して光を発する。
【0004】
有機発光層の発する光を外部に効率良く取り出すために、有機発光層上に光散乱部材を設けた技術が提案されている(下記特許文献1又は2参照)。
【0005】
また、第1電極層の一部を光散乱部材とする技術が提案されている(下記特許文献3参照)。かかる第1電極層は、アルミニウム又は銀等の金属材料から成る。
【特許文献1】特開2007−123124号公報
【特許文献2】特開2007−149703号公報
【特許文献3】特開2003−36969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献1又は2に記載の技術であっては、有機発光層上に光散乱部材を形成しているため、有機EL素子に向かって進行する外光の多くを反射し、コントラストが悪化するという問題がある。また、特許文献3に記載の技術は、第1電極層の表面が酸化しやすく、酸化した第1電極層から有機発光層には電荷の注入性が低下し、輝度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、コントラストを良好にするとともに、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL素子は、第1電極層と、前記第1電極層上に形成され、前記第1電極層の上面を複数個所露出する電荷注入層と、前記第1電極層の露出した領域及び前記電荷注入層上に形成される電荷輸送層と、前記電荷輸送層上に形成される有機発光層と、前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷輸送層が、前記第1電極層の露出した領域に被着するとともに前記電荷注入層を被覆することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷注入層は前記第1電極層上に形成される不連続膜であって、その膜の一部が前記第1電極層の露出した領域にて囲まれることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層の露出した領域にて囲まれる前記電荷注入層の膜の一部が、前記第1電極層上から前記電荷輸送層に向けて突出するとともにその表面が湾曲していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層の露出した領域と前記電荷輸送層の間に酸化膜が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機EL素子は、前記酸化膜が、前記第1電極層に含まれる金属の酸化物を主成分とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷注入層が、前記第1電極層よりも光反射率が大きいことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層が、光反射率が前記第2電極層よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コントラストを良好にするとともに、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。図2は、有機ELディスプレイの画素の平面図である。また、図3は、画素の拡大断面図である。
【0018】
有機ELディスプレイ1は、図1に示すように、テレビ等の家電機器、携帯電話又はコンピュータ機器等の電子機器に用いるものであり、素子基板2と、素子基板2上に形成される複数の画素3と、かかる画素3の発光を制御する駆動IC4と、を含んで構成されている。
【0019】
素子基板2は、例えば、ガラス又はプラスチックから成り、素子基板2の中央に位置する表示領域D1には、マトリックス状に配列された複数の画素3が形成されている。また、素子基板2の端部に位置する非表示領域D2には、駆動IC4が実装されている。
【0020】
図2に示すように、画素3には発光領域Rが形成されており、かかる発光領域Rに発光可能な有機EL素子5が設けられている。
【0021】
また、各画素3は、隔壁6によって仕切られている。隔壁6は、断面が上部よりも下部が幅広の形状であって、後述する絶縁物7上に形成され、画素3を取り囲むように配置されている。隔壁6は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素又は酸化窒化ケイ素等の無機絶縁材料、あるいはフェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料から成る。
【0022】
また、画素3は、赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光することができる。このことは、後述するように有機EL素子5を構成する材料を選択することによって、発光する色を決定することができる。なお、本実施形態においては、画素を赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光するものとしたが、例えば、白色又は橙色等の色を発光するようにしてもよい。
【0023】
また、素子基板2上には、素子基板2に対して対向するように配置された封止基板8が形成されている。封止基板8は透明の基板から成り、例えばガラス又はプラスチックを用いることができる。なお、本実施形態においては、素子基板2側から封止基板8側に向けて光が発せられるトップエミッション型の有機ELディスプレイであるため、封止基板8は透明の部材が用いられる。
【0024】
素子基板2の表示領域D1には、表示領域D1を被覆するようにシール材9が形成されており、素子基板2と封止基板8とシール材9によって各画素3を密封している。各画素3を密封することによって、各画素3に酸素又は水分が浸入するのを低減し、各画素3が劣化するのを抑制することができる。また、シール材9は、接着材としての機能を有し、硬化することによって素子基板2と封止基板8とを固着することができる。かかるシール材9は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂又はシリコン樹脂等の光硬化性樹脂、あるいは熱硬化性の樹脂を用いることができる。なお、本実施形態においては、紫外線の照射により硬化する光硬化性のエポキシ樹脂を用いる。
【0025】
次に、図3に示すように、素子基板2と封止基板8との間に形成される各種層について説明する。素子基板2上には、TFTや電気配線等から成る回路層10が形成されている。さらに、回路層10上には、回路層10の所定領域以外が電気的にショートしないように、例えば、窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等から成る絶縁層11が形成されている。
【0026】
また、絶縁層11上には、回路層10及び絶縁層11に起因する表面の凹凸を低減するために、平坦化膜12が形成されている。回路層10は、複数の電気配線がパターニングされているため、その表面には凹凸が形成される。有機EL素子5を凹凸な面上に形成すると、有機EL素子5を構成する電極層同士が短絡し、有機EL素子5が発光しないことがある。そのため、回路層10及び絶縁層11上に平坦化膜12が形成される。
【0027】
かかる平坦化膜12は、例えば、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂又はシリコン樹脂等の絶縁性を有する有機材料を用いることができる。なお、平坦化膜12の厚みは、例えば2μm以上5μm以下に設定されている。
【0028】
また、平坦化膜12には、平坦化膜12を貫通するコンタクトホールSが形成されている。かかるコンタクトホールSは、上部よりも下部が幅狭に形成されている。コンタクトホールSは、各画素3に形成されており、コンタクトホールSの底部には、回路層10の一部が露出している。
【0029】
また、発光領域Rを取り囲むように、第1電極層13上に絶縁物7が形成されている。そして、絶縁物7は、第1電極層13と後述する第2電極層19とが短絡するのを防止している。なお、絶縁物7は、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料、あるいは窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等の無機絶縁材料から成る。
【0030】
図4は、有機EL素子5の構成を説明するための断面図である。発光領域Rに位置する平坦化膜12上には、有機EL素子5が形成されている。
【0031】
図3及び図4に示すように、有機EL素子5は、第1電極層13と、第1電極層13上に形成される電荷注入層としての正孔注入層14と、正孔注入層14上に形成される電荷輸送層としての正孔輸送層15と、正孔輸送層15上に形成された有機発光層16と、有機発光層16上に形成された電子輸送層17と、電子輸送層17上に形成された電子注入層18と、電子注入層18上に形成された第2電極層19と、を含んで構成されている。
【0032】
第1電極層13は、コンタクトホールSの内周面から平坦化膜12の上面にかけて形成されるとともに、コンタクトホールS内に位置する回路層10の一部と接続されている。第1電極層13は、画素3毎に形成されており、隣接する画素における第1電極層と離間して設けられている。第1電極層13は、例えば、アルミニウム、銀、銅又は金等の金属、あるいはこれらの合金等の材料から成る。なお、第1電極層13の厚みは、例えば50nm以上500nm以下に設定されている。
【0033】
正孔注入層14は、第1電極層13の上面を複数個所露出するように形成される不連続膜であって、その膜の一部が第1電極層13の露出した領域にて囲まれて形成されている。正孔注入層14は、第1電極層13から有機発光層16に向けて電荷を注入しやすくするための機能を有している。かかる正孔注入層14は、例えば、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、パラジウム又は白金等のVIII族金属元素、銅等のIB族金属元素、或いはレニウム等のVIIB族金属元素からなる高導電性遷移金属から成り、電荷注入効率が優れるとともに酸化しにくく光反射率の大きな材料から構成されている。
【0034】
また、正孔注入層14は、発光領域Rにおける第1電極層13の表面を5%以上33%以下被覆して形成されている。また、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域を5%以上とすることで第1電極層13から直接正孔輸送層15へ電荷注入する電流に比べて、第1電極層13から正孔注入層14を経由して正孔輸送層15へ電荷注入する電流が、支配的に多くなり、電荷注入の効率が高まるという効果を奏する。また、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域を33%以下とすることで、正孔注入層14が不連続な島状に形成され、第1電極層13と正孔輸送層15との密着力が増大するという効果を奏する。
【0035】
第1電極層13の上面のうち、正孔注入層14にて被覆されていない箇所には、酸化膜13Oが形成されている。すなわち、酸化膜は、第1電極層13と正孔輸送層15とが接する界面に形成され、第1電極層13の全面でなく第1電極層13の上面の一部が酸化することによって形成された膜である。酸化膜13Oが形成されていることで、第1電極層13の表面の極性が増大し、芳香族アミン等の極性が高い物質で形成された正孔輸送層15と、第1電極層13との密着力が増大するという効果を奏する。ここで、酸化膜13Oは、第1電極層13に含まれる金属の酸化物を主成分とする。
【0036】
また、第1電極層13が酸化しやすい材料から構成される場合、正孔注入層14を酸化しにくい材料から構成することで、酸化しにくい正孔注入層14を介して第1電極層13から有機発光層16に電荷を注入することができ、電荷注入効率を良好に維持することができる。
【0037】
さらに、正孔注入層14は、第1電極層13よりも光反射率の優れた材料から構成されているため、有機発光層16の発する光の多くを正孔注入層14にて反射させて、有機発光層16の発する光を有機EL素子5から外部に向かって効率良く取り出すことができる。正孔注入層14は、第1電極層13上から正孔輸送層15に向けて突出するとともにその表面が湾曲して形成されている。つまり、正孔注入層14は、多数の凸部から構成されている。正孔注入層14の表面が湾曲して形成されることで、有機発光層16が発する光を湾曲した表面にて上方に向けて効率良く反射させることができ、有機EL素子5から外部に向かって有機発光層16の発する光を有効に取り出すことができる。
【0038】
正孔注入層14の凸部の上下方向の厚みは、0.26nm以上4nm以下に設定されている。正孔注入層14の厚みを0.26nm以上とすることで、正孔注入層14を構成する原子から正孔輸送層15への電荷注入を起こりやすくすることができる。また、第1電極層13と正孔注入層14との界面全面が酸化されるのを抑制することができ、電荷注入効率を向上させることができる。仮に、第1電極層13と正孔注入層14との界面全面が酸化されると、界面全面が電荷の伝導障壁になり、第1電極層から正孔輸送層への電荷注入効率が低下する。なお、正孔注入層14の厚みの0.26nmは、ルテニウム原子の直径に相当する。また、正孔注入層14の厚み0.27nmは、ロジウム原子、イリジウム原子、銅原子、レニウム原子の直径に相当する。
【0039】
また、正孔注入層14の厚みを4nm以下にすることで、正孔注入層14の原子配列の欠陥が転移しにくくなり、正孔注入層14の化学的安定性が十分に確保されるという効果を奏する。なお、正孔注入層14の厚み4nmは、ロジウム又はイリジウムの10原子層の厚みに、銅の11原子層の厚みに、ルテニウム又はレニウムの9から14原子層の厚みに相当する。仮に、ロジウム又はイリジウムの原子層の厚みが11層以上になると、原子配列の欠陥の密度が高くなり、或いは原子配列の欠陥が転位しやすくなるので、原子の転位を伴う化学反応が起こりやすくなる。
【0040】
正孔輸送層15は、第1電極層13の露出した領域に被着するとともに正孔注入層14を被覆して形成されている。正孔輸送層15は、正孔注入層14から注入された電荷を有機発光層16に向けて輸送する機能を備えている。正孔輸送層15は、例えば、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等 の芳香族ジアミン化合物、或いは4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等のスターバースト芳香族又は芳香族アミン化合物、あるいはこれらの混合物または積層膜を用いることができる。
【0041】
また、正孔輸送層15は、第1電極層13および正孔注入層14上に、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン又はそれにシアノ基等が結合した誘導体等の複素環化合物の層を形成した上に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の層を積層した積層膜を用いることができる。正孔輸送層15の厚みは、例えば10nm以上50nm以下に設定されている。
【0042】
正孔輸送層15が直接第1電極層13と接することで、正孔輸送層15は、正孔輸送層15と第1電極層13との密着力と、正孔注入層14と正孔輸送層15との密着力との2種類の密着力とで強固に固定されるので、外力やヒートショック等によるはがれが起こり難くなるという効果を奏する。また、外光や有機EL素子内で生じた光は、正孔輸送層15及び第1電極層13の界面と、正孔注入層14及び正孔輸送層15の界面との2種類の界面で反射し、伝播するので、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域の比率を調整することで、最適な光伝播が得られる。その結果、光取り出し効率を増大させる効果と、外光の反射を抑制し、表示コントラストを増大させる効果を奏する。
【0043】
有機発光層16は、赤色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq3又はSDPVBi等のホスト材料に ビス[2−(2−ベンゾチアゾイル−kN3)フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO′)イリジウム等の有機イリジウム化合物、有機白金化合物、DCJTB、クマリン、キナクリドン、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体又はペリレン誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0044】
また、緑色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq3又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にビス[ピリジニル−kN−フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO′)イリジウム、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、スチリルアミン、ペルリン、ベンゼン環を有するシロール誘導体、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ペリレン誘導体又はアゾメチン亜鉛錯体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0045】
また、青色の光を発する場合、例えば、CBP又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にテトラ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナト)ホウ素リチウム、スチリルアミン、ペルリン、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジェン、トリフェニルアミン構造とビニル基が結合した化合物、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体又はベンゼン環を有するシロール誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。なお、有機発光層16の厚みは、例えば20nm以上40nm以下に設定されている。
【0046】
また、電子輸送層17は、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、 ポリアリールアルカン又はブタジエン等を用いることができる。電子輸送層17の厚みは、例えば20nm以上60nm以下に設定されている。
【0047】
また、電子注入層18は、例えば、(8−ヒドロキシキノリナト)リチウム、フッ化リチウム又はフッ化セシウム等を用いることができる。電子注入層18の厚みは、例えば0.5nm以上2nm以下に設定されている。なお、電子輸送層17又は電子注入層18は、外光を吸収しやすい機能を備えた材料から構成することが好ましい。外光を吸収しやすい材料から構成することで、有機EL素子に進入する外光の多くを正孔注入層14に到達する前に吸収し、正孔注入層14にて反射し、表示コントラストが低下するのを抑制することができる。
【0048】
第2電極層19は、電子注入層18上から絶縁物7上にかけて形成される。さらに、第2電極層19は、表示領域D1を被覆するように形成されており、隣接する画素同士にて第2電極層19は共通電極として機能している。第2電極層19を共通電極としたことで、各画素の駆動回路に接続された回路層10と、第2電極層19とを接続するコンタクトホールを別途形成しなくてもよいので、表示領域D1に占める画素の合計面積の比率である開口率が向上し、画素の電流密度が低減され、有機EL素子を長寿命化できるという効果を奏する。また、第2電極層19を電気的に分離形成するための下部よりも上部が幅広な逆テーパーレジストが不要になる。仮に、絶縁物7上に逆テーパーレジストを形成した場合、第2電極層は、逆テーパーレジストにて各画素に分離されるため、逆テーパーレジストの表面全体を第2電極層で被覆しないことになる。そのため、第2電極層にて被覆されていない逆テーパーレジストの一部を介して、有機EL素子内部に水分等が浸入しやすくなり、デバイスが劣化しやすくなる。一方、本実施形態においては、第2電極層19が表示領域D1の全面を被覆しているため、デバイスの劣化を避けられるという効果を奏する。
【0049】
第2電極層19は、有機発光層16から放出される光が透過することができる材料から構成され、例えばインジウム錫酸化膜(ITO)又は錫酸化膜等の光透過性を有する導電材料を用いて形成される。また、第2電極層19は、例えばマグネシウム、銀、アルミニウム又はカルシウム等の材料、あるいはこれらの合金等を用いることができ、その厚みを30nm以下にすることによって、光透過性の電極とすることができる。その結果、有機発光層16から放出された光が、第2電極層19を透過して、有機EL素子5から外部に出射される。
【0050】
また、有機EL素子5を被覆するように、表示領域D1上には保護層20が形成されている。保護層20は、有機EL素子5を封止し、有機EL素子を水分又は外気から保護するものであって、光透過性の機能を有し、例えば窒化珪素、酸化珪素又は窒化炭化珪素等の無機材料から成る。なお、保護層20の厚みは、例えば100nm以上5μm以下に設定されている。
【0051】
上述したように本実施形態に係る有機EL素子によれば、外光が正孔注入層14にまで到達する前に電子輸送層17又は電子注入層18等の層にて外光の一部が吸収される。そして、平らな表面による外光の正反射、鏡面反射が抑制され、第1電極層13上に形成された多数の凸部からなる正孔注入層14による外光の反射は拡散反射となるため、コントラストを良好にすることができる。また、酸化しにくい正孔注入層14を形成することで、有機発光層16への正孔の注入を効率良くすることができ、輝度が低下するのを抑制することができる。
【0052】
以下に、本発明の実施形態に係る有機EL素子5を含む有機ELディスプレイ1の製造方法について、図5から図10を用いて詳細に説明する。なお、図5から図10は、一つの画素の断面図を示している。
【0053】
図5(A)に示すように、回路層10、絶縁層11及び平坦化膜12を上面に積層した素子基板2を準備する。なお、回路層10及び絶縁層11は、従来周知のCVD法、蒸着法又はスパッタリング法等の薄膜形成技術、エッチング法やフォトリソグラフィー法等の薄膜加工技術を用いて、所定パターンに形成される。また、平坦化膜12は、例えば従来周知のスピンコート法を用いて、絶縁層11上に形成する。
【0054】
次に、平坦化膜12上に露光マスクを用いて平坦化膜12を露光し、さらに現像、ベーキング処理を行い、図5(B)に示すように、回路層10の一部を露出させて、上部よりも下部が幅狭なコンタクトホールSを有する平坦化膜12を形成する。さらに、コンタクトホールSを形成した平坦化膜12上に、例えばアルミニウムから成る金属膜を形成する。そして、図6(A)に示すように、金属膜をパターニングして、第1電極層13形成する。
【0055】
次に、例えばスピンコート法を用いて、第1電極層13及び一部露出した平坦化膜12上に、例えばアクリル樹脂から成る有機絶縁材料層を形成する。そして、有機絶縁材料層に対してフォトリソグラフィー法を用いて、有機絶縁材料層をパターニングして、図6(B)に示すように、絶縁物7を形成する。なお、絶縁物7は、発光領域Rを取り囲むように形成され、第1電極層13の上面の一部を露出している。
【0056】
次に、図7(A)に示すように、絶縁物7上に、従来周知のフォトリソグラフィー法を用いて、上部よりも下部が幅広な隔壁6を形成する。かかる隔壁6は、各画素3を取り囲むように形成される。隔壁6は、蒸着マスクを載置することができる支持台としての機能を備えている。かかる隔壁6は、蒸着マスクを基板に対向させた際に、基板と蒸着マスクが接触し、基板を損傷しないように設けられている。
【0057】
そして、蒸着法を用いて図7(B)に示すように、発光領域Rの第1電極層13上に例えばロジウムから成る正孔注入層14を形成する。正孔注入層14は、置換メッキ法を用いることにより、あらかじめ形成した第1電極層13表面に含まれるアルミニウム等のイオン化しやすい元素の一部を、ロジウム等のイオン化しにくい元素で置換することによって、第1電極層13の露出した上面に不連続膜として形成することができる。具体的には、塩化ロジウム、塩化イリジウム又は塩化ルテニウム等のVIII族金属元素の塩化物、硫酸銅等のIB族金属元素の硫化物、あるいは塩化物、塩化レニウム等のVIIB族金属元素の塩化物のいずれか1種以上を含む溶液と、第1電極層13表面とを、浸漬、シャワー、スプレイ、インクジェット又はノズルコート等の方法で接触させることにより、置換メッキを行わせて正孔注入層14を形成する。その後、不要な溶液はシャワー洗浄等の方法で除去する。
【0058】
さらに、図8(A)に示すように、正孔注入層14上及び露出した第1電極層13上に、従来周知の真空蒸着法を用いて、例えば厚さ10nmの4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)層を形成し、次いで、厚さ20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル (α−NPD)層を形成し、積層膜から成る正孔輸送層15を形成する。なお、露出した第1電極層13上には、露出した表面が酸化することによって、酸化膜13Oが形成される。そのため、酸化膜13Oと正孔輸送層15との界面にて両者の接着性を向上させることができる。
【0059】
そして、図8(B)に示すように、従来周知の蒸着法を用いて、正孔輸送層15上に厚さ25nmの有機発光層16を形成する。なお、有機発光層16は、構成する材料を選択することによって、発する色を調整することができる。また、有機発光層16上に、図9(A)に示すように、従来周知の蒸着法を用いて、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)から成る厚さ30nmの電子輸送層17を形成する。さらに、図9(B)に示すように、電子輸送層17上に、従来周知の蒸着法を用いて、例えば、フッ化リチウム(LiF)から成る厚さ0.7nmの電子注入層18を形成する。
【0060】
次に、図10(A)に示すように、例えば、従来周知の蒸着法を用いて、表示領域D1を被覆するように、電子注入層18上に、例えばマグネシウム33質量%と銀67質量%との混合物から成る厚さ15nmの第2電極層19を形成する。第2電極層19は、隣接する画素同士で共通しており、共通電極として機能する。第2電極層19を共通電極とすることで、微細な空孔を備えた蒸着マスクを用いずに第2電極層19を形成することができるので、製造工程を単純化することができる。このようにして、有機EL素子5を形成することができる。
【0061】
さらに、図10(B)に示すように、例えば、化学気相成長法(熱CVD法)を用いて、表示領域D1全面に、有機EL素子5が劣化しないように、窒化ケイ素から成る厚さ1.5μmの保護層20を形成する。
【0062】
そして、有機EL素子5が形成された素子基板2に対して、封止基板8を対向配置し、両者をシール材9を介して接着する。具体的には、封止基板8に対して、例えばスクリーン印刷法を用いて予めシール材9を被着させておく。そして、素子基板2に対してシール材9を介して封止基板8を固着させる。なお、封止基板8をシール材9によって、素子基板2に固定する作業は、例えば窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス中や、高真空中で行うことによって、素子基板2と封止基板8との間に酸素や水分が含まれるのを抑制することができる。
【0063】
そして、非表示領域D2に駆動IC4を実装することで、有機ELディスプレイ1を作製することができる。
【0064】
上述したように、本発明の実施形態によれば、正孔輸送層15又は有機発光層16を形成する前の状態において、第1電極層13の上面を複数個所露出する正孔注入層14を形成することができ、その後、有機発光層16等を形成することができる。そのため、正孔注入層14を形成する際に有機発光層16を劣化させることがなく、輝度が低下しにくい有機EL素子を作製することができる。
【0065】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。上述した実施形態においては、トップエミッションの有機EL素子について説明したが、本発明の作用効果を奏するのであれば、ボトムエミッションの有機EL素子であっても構わない。
【0066】
また、第2の実施形態に係る有機EL素子としては、図11に示すように、正孔注入層14Bが、第1電極層13の上面に形成されるとともに、第1電極層13と絶縁物7との間に形成されたものであっても構わない。正孔注入層14Bを第1電極層13の上面に全面的に形成することで、発光層16から、光放出面となる封止基板8側(図11の上方)とは異なる方向である斜め下向きに放出された光、または、発光層16よりも図11の上側に設けられた界面で反射した光が、湾曲した表面を有し不連続膜である正孔注入層14Bにより反射、散乱、または回折されることにより、光放出面となる封止基板8側へ出射されるようになり、光の取り出し効率が向上するという作用効果を奏する。また、正孔注入層14Bを第1電極層13の上面に全面的に形成することで、第1電極層13と、正孔輸送層15との界面による鏡面反射が低減され、明るい外光が入射する状況下においても高い表示コントラストを実現できるという作用効果を奏する。
【0067】
正孔注入層14Bは、絶縁物7を第1電極層13上に形成する前に、例えば化学還元メッキ法、スパッタ法、蒸着法のいずれかを用いて、第1電極層13上に全面的に形成する。第1電極層13の不要部分を湿式エッチング等により除去する場合、第1電極層13の不要部分上に形成された正孔注入層14Bはリフトオフされて除かれる。その結果、第1電極層13と絶縁物7との間に正孔注入層14Bを構成する材料と同一の材料から成る不連続膜を形成することができる。
【0068】
さらに、第3の実施形態に係る有機EL素子としては、図12に示すように、正孔注入層14Cが、第1電極層13の上面から絶縁物7上にかけて形成されたものであっても構わない。正孔注入層14Cを絶縁物7上に形成することで正孔注入層14Cよりも図12の上側に設けられた界面で反射した光が、湾曲した表面を有し不連続膜である正孔注入層14Cにより反射、散乱、または回折されることにより、光放出面となる封止基板8側へ出射されるようになり、光の取り出し効率が向上するという作用効果を奏する。
【0069】
正孔注入層14Cは、絶縁物7を形成した後、例えばスパッタ法、蒸着法のいずれか法を用いて、露出する第1電極層13の上面及び絶縁物7上に形成する。その結果、絶縁物7と第2電極層19との間に正孔注入層14Cを構成する材料と同一の材料から成る不連続膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。
【図2】マトリックス状に配列された画素の平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【図4】有機EL素子を構成する各層を示した有機EL素子の断面図である。
【図5】図5(A),図5(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図6】図6(A),図6(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図7】図7(A),図7(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図8】図8(A),図8(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図9】図9(A),図9(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図10】図10(A),図10(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 有機ELディスプレイ
2 素子基板
3 画素
4 駆動IC
5 有機EL素子
6 隔壁
7 絶縁物
8 封止基板
9 シール材
10 回路層
11 絶縁層
12 平坦化膜
13 第1電極層
14 正孔注入層
15 正孔輸送層
16 有機発光層
17 電子輸送層
18 電子注入層
19 第2電極層
20 保護層
D1 表示領域
D2 非表示領域
R 発光領域
S コンタクトホール
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、素子基板上に形成される第1電極層と、第1電極層上に形成される有機発光層と、有機発光層上に形成される第2電極層と、から構成されている。なお、有機発光層は、有機材料から成る電荷注入層等の複数の層から構成されているものが一般的に用いられている。
【0003】
有機発光層は、第1電極層及び第2電極層に電圧を加えて、第1電極層及び第2電極層から有機発光層に正孔及び電子を注入し、有機発光層中で正孔と電子が再結合することで、放出されるエネルギーの一部が有機発光層中の発光分子を励起する。その結果、有機発光層は、その励起された発光分子が基底状態に戻るときにエネルギーを放出して光を発する。
【0004】
有機発光層の発する光を外部に効率良く取り出すために、有機発光層上に光散乱部材を設けた技術が提案されている(下記特許文献1又は2参照)。
【0005】
また、第1電極層の一部を光散乱部材とする技術が提案されている(下記特許文献3参照)。かかる第1電極層は、アルミニウム又は銀等の金属材料から成る。
【特許文献1】特開2007−123124号公報
【特許文献2】特開2007−149703号公報
【特許文献3】特開2003−36969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献1又は2に記載の技術であっては、有機発光層上に光散乱部材を形成しているため、有機EL素子に向かって進行する外光の多くを反射し、コントラストが悪化するという問題がある。また、特許文献3に記載の技術は、第1電極層の表面が酸化しやすく、酸化した第1電極層から有機発光層には電荷の注入性が低下し、輝度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、コントラストを良好にするとともに、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL素子は、第1電極層と、前記第1電極層上に形成され、前記第1電極層の上面を複数個所露出する電荷注入層と、前記第1電極層の露出した領域及び前記電荷注入層上に形成される電荷輸送層と、前記電荷輸送層上に形成される有機発光層と、前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷輸送層が、前記第1電極層の露出した領域に被着するとともに前記電荷注入層を被覆することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷注入層は前記第1電極層上に形成される不連続膜であって、その膜の一部が前記第1電極層の露出した領域にて囲まれることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層の露出した領域にて囲まれる前記電荷注入層の膜の一部が、前記第1電極層上から前記電荷輸送層に向けて突出するとともにその表面が湾曲していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層の露出した領域と前記電荷輸送層の間に酸化膜が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機EL素子は、前記酸化膜が、前記第1電極層に含まれる金属の酸化物を主成分とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の有機EL素子は、前記電荷注入層が、前記第1電極層よりも光反射率が大きいことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の有機EL素子は、前記第1電極層が、光反射率が前記第2電極層よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コントラストを良好にするとともに、輝度の低下を抑制することが可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。図2は、有機ELディスプレイの画素の平面図である。また、図3は、画素の拡大断面図である。
【0018】
有機ELディスプレイ1は、図1に示すように、テレビ等の家電機器、携帯電話又はコンピュータ機器等の電子機器に用いるものであり、素子基板2と、素子基板2上に形成される複数の画素3と、かかる画素3の発光を制御する駆動IC4と、を含んで構成されている。
【0019】
素子基板2は、例えば、ガラス又はプラスチックから成り、素子基板2の中央に位置する表示領域D1には、マトリックス状に配列された複数の画素3が形成されている。また、素子基板2の端部に位置する非表示領域D2には、駆動IC4が実装されている。
【0020】
図2に示すように、画素3には発光領域Rが形成されており、かかる発光領域Rに発光可能な有機EL素子5が設けられている。
【0021】
また、各画素3は、隔壁6によって仕切られている。隔壁6は、断面が上部よりも下部が幅広の形状であって、後述する絶縁物7上に形成され、画素3を取り囲むように配置されている。隔壁6は、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素又は酸化窒化ケイ素等の無機絶縁材料、あるいはフェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料から成る。
【0022】
また、画素3は、赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光することができる。このことは、後述するように有機EL素子5を構成する材料を選択することによって、発光する色を決定することができる。なお、本実施形態においては、画素を赤色、緑色又は青色のいずれかの色を発光するものとしたが、例えば、白色又は橙色等の色を発光するようにしてもよい。
【0023】
また、素子基板2上には、素子基板2に対して対向するように配置された封止基板8が形成されている。封止基板8は透明の基板から成り、例えばガラス又はプラスチックを用いることができる。なお、本実施形態においては、素子基板2側から封止基板8側に向けて光が発せられるトップエミッション型の有機ELディスプレイであるため、封止基板8は透明の部材が用いられる。
【0024】
素子基板2の表示領域D1には、表示領域D1を被覆するようにシール材9が形成されており、素子基板2と封止基板8とシール材9によって各画素3を密封している。各画素3を密封することによって、各画素3に酸素又は水分が浸入するのを低減し、各画素3が劣化するのを抑制することができる。また、シール材9は、接着材としての機能を有し、硬化することによって素子基板2と封止基板8とを固着することができる。かかるシール材9は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂又はシリコン樹脂等の光硬化性樹脂、あるいは熱硬化性の樹脂を用いることができる。なお、本実施形態においては、紫外線の照射により硬化する光硬化性のエポキシ樹脂を用いる。
【0025】
次に、図3に示すように、素子基板2と封止基板8との間に形成される各種層について説明する。素子基板2上には、TFTや電気配線等から成る回路層10が形成されている。さらに、回路層10上には、回路層10の所定領域以外が電気的にショートしないように、例えば、窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等から成る絶縁層11が形成されている。
【0026】
また、絶縁層11上には、回路層10及び絶縁層11に起因する表面の凹凸を低減するために、平坦化膜12が形成されている。回路層10は、複数の電気配線がパターニングされているため、その表面には凹凸が形成される。有機EL素子5を凹凸な面上に形成すると、有機EL素子5を構成する電極層同士が短絡し、有機EL素子5が発光しないことがある。そのため、回路層10及び絶縁層11上に平坦化膜12が形成される。
【0027】
かかる平坦化膜12は、例えば、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂又はシリコン樹脂等の絶縁性を有する有機材料を用いることができる。なお、平坦化膜12の厚みは、例えば2μm以上5μm以下に設定されている。
【0028】
また、平坦化膜12には、平坦化膜12を貫通するコンタクトホールSが形成されている。かかるコンタクトホールSは、上部よりも下部が幅狭に形成されている。コンタクトホールSは、各画素3に形成されており、コンタクトホールSの底部には、回路層10の一部が露出している。
【0029】
また、発光領域Rを取り囲むように、第1電極層13上に絶縁物7が形成されている。そして、絶縁物7は、第1電極層13と後述する第2電極層19とが短絡するのを防止している。なお、絶縁物7は、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂等の有機絶縁材料、あるいは窒化珪素、酸化珪素又は酸化窒化珪素等の無機絶縁材料から成る。
【0030】
図4は、有機EL素子5の構成を説明するための断面図である。発光領域Rに位置する平坦化膜12上には、有機EL素子5が形成されている。
【0031】
図3及び図4に示すように、有機EL素子5は、第1電極層13と、第1電極層13上に形成される電荷注入層としての正孔注入層14と、正孔注入層14上に形成される電荷輸送層としての正孔輸送層15と、正孔輸送層15上に形成された有機発光層16と、有機発光層16上に形成された電子輸送層17と、電子輸送層17上に形成された電子注入層18と、電子注入層18上に形成された第2電極層19と、を含んで構成されている。
【0032】
第1電極層13は、コンタクトホールSの内周面から平坦化膜12の上面にかけて形成されるとともに、コンタクトホールS内に位置する回路層10の一部と接続されている。第1電極層13は、画素3毎に形成されており、隣接する画素における第1電極層と離間して設けられている。第1電極層13は、例えば、アルミニウム、銀、銅又は金等の金属、あるいはこれらの合金等の材料から成る。なお、第1電極層13の厚みは、例えば50nm以上500nm以下に設定されている。
【0033】
正孔注入層14は、第1電極層13の上面を複数個所露出するように形成される不連続膜であって、その膜の一部が第1電極層13の露出した領域にて囲まれて形成されている。正孔注入層14は、第1電極層13から有機発光層16に向けて電荷を注入しやすくするための機能を有している。かかる正孔注入層14は、例えば、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、パラジウム又は白金等のVIII族金属元素、銅等のIB族金属元素、或いはレニウム等のVIIB族金属元素からなる高導電性遷移金属から成り、電荷注入効率が優れるとともに酸化しにくく光反射率の大きな材料から構成されている。
【0034】
また、正孔注入層14は、発光領域Rにおける第1電極層13の表面を5%以上33%以下被覆して形成されている。また、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域を5%以上とすることで第1電極層13から直接正孔輸送層15へ電荷注入する電流に比べて、第1電極層13から正孔注入層14を経由して正孔輸送層15へ電荷注入する電流が、支配的に多くなり、電荷注入の効率が高まるという効果を奏する。また、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域を33%以下とすることで、正孔注入層14が不連続な島状に形成され、第1電極層13と正孔輸送層15との密着力が増大するという効果を奏する。
【0035】
第1電極層13の上面のうち、正孔注入層14にて被覆されていない箇所には、酸化膜13Oが形成されている。すなわち、酸化膜は、第1電極層13と正孔輸送層15とが接する界面に形成され、第1電極層13の全面でなく第1電極層13の上面の一部が酸化することによって形成された膜である。酸化膜13Oが形成されていることで、第1電極層13の表面の極性が増大し、芳香族アミン等の極性が高い物質で形成された正孔輸送層15と、第1電極層13との密着力が増大するという効果を奏する。ここで、酸化膜13Oは、第1電極層13に含まれる金属の酸化物を主成分とする。
【0036】
また、第1電極層13が酸化しやすい材料から構成される場合、正孔注入層14を酸化しにくい材料から構成することで、酸化しにくい正孔注入層14を介して第1電極層13から有機発光層16に電荷を注入することができ、電荷注入効率を良好に維持することができる。
【0037】
さらに、正孔注入層14は、第1電極層13よりも光反射率の優れた材料から構成されているため、有機発光層16の発する光の多くを正孔注入層14にて反射させて、有機発光層16の発する光を有機EL素子5から外部に向かって効率良く取り出すことができる。正孔注入層14は、第1電極層13上から正孔輸送層15に向けて突出するとともにその表面が湾曲して形成されている。つまり、正孔注入層14は、多数の凸部から構成されている。正孔注入層14の表面が湾曲して形成されることで、有機発光層16が発する光を湾曲した表面にて上方に向けて効率良く反射させることができ、有機EL素子5から外部に向かって有機発光層16の発する光を有効に取り出すことができる。
【0038】
正孔注入層14の凸部の上下方向の厚みは、0.26nm以上4nm以下に設定されている。正孔注入層14の厚みを0.26nm以上とすることで、正孔注入層14を構成する原子から正孔輸送層15への電荷注入を起こりやすくすることができる。また、第1電極層13と正孔注入層14との界面全面が酸化されるのを抑制することができ、電荷注入効率を向上させることができる。仮に、第1電極層13と正孔注入層14との界面全面が酸化されると、界面全面が電荷の伝導障壁になり、第1電極層から正孔輸送層への電荷注入効率が低下する。なお、正孔注入層14の厚みの0.26nmは、ルテニウム原子の直径に相当する。また、正孔注入層14の厚み0.27nmは、ロジウム原子、イリジウム原子、銅原子、レニウム原子の直径に相当する。
【0039】
また、正孔注入層14の厚みを4nm以下にすることで、正孔注入層14の原子配列の欠陥が転移しにくくなり、正孔注入層14の化学的安定性が十分に確保されるという効果を奏する。なお、正孔注入層14の厚み4nmは、ロジウム又はイリジウムの10原子層の厚みに、銅の11原子層の厚みに、ルテニウム又はレニウムの9から14原子層の厚みに相当する。仮に、ロジウム又はイリジウムの原子層の厚みが11層以上になると、原子配列の欠陥の密度が高くなり、或いは原子配列の欠陥が転位しやすくなるので、原子の転位を伴う化学反応が起こりやすくなる。
【0040】
正孔輸送層15は、第1電極層13の露出した領域に被着するとともに正孔注入層14を被覆して形成されている。正孔輸送層15は、正孔注入層14から注入された電荷を有機発光層16に向けて輸送する機能を備えている。正孔輸送層15は、例えば、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等 の芳香族ジアミン化合物、或いは4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等のスターバースト芳香族又は芳香族アミン化合物、あるいはこれらの混合物または積層膜を用いることができる。
【0041】
また、正孔輸送層15は、第1電極層13および正孔注入層14上に、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン又はそれにシアノ基等が結合した誘導体等の複素環化合物の層を形成した上に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の層を積層した積層膜を用いることができる。正孔輸送層15の厚みは、例えば10nm以上50nm以下に設定されている。
【0042】
正孔輸送層15が直接第1電極層13と接することで、正孔輸送層15は、正孔輸送層15と第1電極層13との密着力と、正孔注入層14と正孔輸送層15との密着力との2種類の密着力とで強固に固定されるので、外力やヒートショック等によるはがれが起こり難くなるという効果を奏する。また、外光や有機EL素子内で生じた光は、正孔輸送層15及び第1電極層13の界面と、正孔注入層14及び正孔輸送層15の界面との2種類の界面で反射し、伝播するので、正孔注入層14の第1電極層13を被覆する領域の比率を調整することで、最適な光伝播が得られる。その結果、光取り出し効率を増大させる効果と、外光の反射を抑制し、表示コントラストを増大させる効果を奏する。
【0043】
有機発光層16は、赤色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq3又はSDPVBi等のホスト材料に ビス[2−(2−ベンゾチアゾイル−kN3)フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO′)イリジウム等の有機イリジウム化合物、有機白金化合物、DCJTB、クマリン、キナクリドン、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体又はペリレン誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0044】
また、緑色の光を発する場合、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、1,4−フェニレンビス(トリフェニルシラン)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン、1,3,5−トリ(9H−カルバゾール−9−イル)ベンゼン、CBP、Alq3又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にビス[ピリジニル−kN−フェニル−kC](2,4−ペンタジオナト−kO,kO′)イリジウム、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、スチリルアミン、ペルリン、ベンゼン環を有するシロール誘導体、フェナンスレン基を有するペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ペリレン誘導体又はアゾメチン亜鉛錯体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。
【0045】
また、青色の光を発する場合、例えば、CBP又はSDPVBi等のホスト材料、あるいはこれらのホスト材料にテトラ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナト)ホウ素リチウム、スチリルアミン、ペルリン、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジェン、トリフェニルアミン構造とビニル基が結合した化合物、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体又はベンゼン環を有するシロール誘導体等のドーパント材料を含有したものを用いることができる。なお、有機発光層16の厚みは、例えば20nm以上40nm以下に設定されている。
【0046】
また、電子輸送層17は、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、 ポリアリールアルカン又はブタジエン等を用いることができる。電子輸送層17の厚みは、例えば20nm以上60nm以下に設定されている。
【0047】
また、電子注入層18は、例えば、(8−ヒドロキシキノリナト)リチウム、フッ化リチウム又はフッ化セシウム等を用いることができる。電子注入層18の厚みは、例えば0.5nm以上2nm以下に設定されている。なお、電子輸送層17又は電子注入層18は、外光を吸収しやすい機能を備えた材料から構成することが好ましい。外光を吸収しやすい材料から構成することで、有機EL素子に進入する外光の多くを正孔注入層14に到達する前に吸収し、正孔注入層14にて反射し、表示コントラストが低下するのを抑制することができる。
【0048】
第2電極層19は、電子注入層18上から絶縁物7上にかけて形成される。さらに、第2電極層19は、表示領域D1を被覆するように形成されており、隣接する画素同士にて第2電極層19は共通電極として機能している。第2電極層19を共通電極としたことで、各画素の駆動回路に接続された回路層10と、第2電極層19とを接続するコンタクトホールを別途形成しなくてもよいので、表示領域D1に占める画素の合計面積の比率である開口率が向上し、画素の電流密度が低減され、有機EL素子を長寿命化できるという効果を奏する。また、第2電極層19を電気的に分離形成するための下部よりも上部が幅広な逆テーパーレジストが不要になる。仮に、絶縁物7上に逆テーパーレジストを形成した場合、第2電極層は、逆テーパーレジストにて各画素に分離されるため、逆テーパーレジストの表面全体を第2電極層で被覆しないことになる。そのため、第2電極層にて被覆されていない逆テーパーレジストの一部を介して、有機EL素子内部に水分等が浸入しやすくなり、デバイスが劣化しやすくなる。一方、本実施形態においては、第2電極層19が表示領域D1の全面を被覆しているため、デバイスの劣化を避けられるという効果を奏する。
【0049】
第2電極層19は、有機発光層16から放出される光が透過することができる材料から構成され、例えばインジウム錫酸化膜(ITO)又は錫酸化膜等の光透過性を有する導電材料を用いて形成される。また、第2電極層19は、例えばマグネシウム、銀、アルミニウム又はカルシウム等の材料、あるいはこれらの合金等を用いることができ、その厚みを30nm以下にすることによって、光透過性の電極とすることができる。その結果、有機発光層16から放出された光が、第2電極層19を透過して、有機EL素子5から外部に出射される。
【0050】
また、有機EL素子5を被覆するように、表示領域D1上には保護層20が形成されている。保護層20は、有機EL素子5を封止し、有機EL素子を水分又は外気から保護するものであって、光透過性の機能を有し、例えば窒化珪素、酸化珪素又は窒化炭化珪素等の無機材料から成る。なお、保護層20の厚みは、例えば100nm以上5μm以下に設定されている。
【0051】
上述したように本実施形態に係る有機EL素子によれば、外光が正孔注入層14にまで到達する前に電子輸送層17又は電子注入層18等の層にて外光の一部が吸収される。そして、平らな表面による外光の正反射、鏡面反射が抑制され、第1電極層13上に形成された多数の凸部からなる正孔注入層14による外光の反射は拡散反射となるため、コントラストを良好にすることができる。また、酸化しにくい正孔注入層14を形成することで、有機発光層16への正孔の注入を効率良くすることができ、輝度が低下するのを抑制することができる。
【0052】
以下に、本発明の実施形態に係る有機EL素子5を含む有機ELディスプレイ1の製造方法について、図5から図10を用いて詳細に説明する。なお、図5から図10は、一つの画素の断面図を示している。
【0053】
図5(A)に示すように、回路層10、絶縁層11及び平坦化膜12を上面に積層した素子基板2を準備する。なお、回路層10及び絶縁層11は、従来周知のCVD法、蒸着法又はスパッタリング法等の薄膜形成技術、エッチング法やフォトリソグラフィー法等の薄膜加工技術を用いて、所定パターンに形成される。また、平坦化膜12は、例えば従来周知のスピンコート法を用いて、絶縁層11上に形成する。
【0054】
次に、平坦化膜12上に露光マスクを用いて平坦化膜12を露光し、さらに現像、ベーキング処理を行い、図5(B)に示すように、回路層10の一部を露出させて、上部よりも下部が幅狭なコンタクトホールSを有する平坦化膜12を形成する。さらに、コンタクトホールSを形成した平坦化膜12上に、例えばアルミニウムから成る金属膜を形成する。そして、図6(A)に示すように、金属膜をパターニングして、第1電極層13形成する。
【0055】
次に、例えばスピンコート法を用いて、第1電極層13及び一部露出した平坦化膜12上に、例えばアクリル樹脂から成る有機絶縁材料層を形成する。そして、有機絶縁材料層に対してフォトリソグラフィー法を用いて、有機絶縁材料層をパターニングして、図6(B)に示すように、絶縁物7を形成する。なお、絶縁物7は、発光領域Rを取り囲むように形成され、第1電極層13の上面の一部を露出している。
【0056】
次に、図7(A)に示すように、絶縁物7上に、従来周知のフォトリソグラフィー法を用いて、上部よりも下部が幅広な隔壁6を形成する。かかる隔壁6は、各画素3を取り囲むように形成される。隔壁6は、蒸着マスクを載置することができる支持台としての機能を備えている。かかる隔壁6は、蒸着マスクを基板に対向させた際に、基板と蒸着マスクが接触し、基板を損傷しないように設けられている。
【0057】
そして、蒸着法を用いて図7(B)に示すように、発光領域Rの第1電極層13上に例えばロジウムから成る正孔注入層14を形成する。正孔注入層14は、置換メッキ法を用いることにより、あらかじめ形成した第1電極層13表面に含まれるアルミニウム等のイオン化しやすい元素の一部を、ロジウム等のイオン化しにくい元素で置換することによって、第1電極層13の露出した上面に不連続膜として形成することができる。具体的には、塩化ロジウム、塩化イリジウム又は塩化ルテニウム等のVIII族金属元素の塩化物、硫酸銅等のIB族金属元素の硫化物、あるいは塩化物、塩化レニウム等のVIIB族金属元素の塩化物のいずれか1種以上を含む溶液と、第1電極層13表面とを、浸漬、シャワー、スプレイ、インクジェット又はノズルコート等の方法で接触させることにより、置換メッキを行わせて正孔注入層14を形成する。その後、不要な溶液はシャワー洗浄等の方法で除去する。
【0058】
さらに、図8(A)に示すように、正孔注入層14上及び露出した第1電極層13上に、従来周知の真空蒸着法を用いて、例えば厚さ10nmの4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)層を形成し、次いで、厚さ20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル (α−NPD)層を形成し、積層膜から成る正孔輸送層15を形成する。なお、露出した第1電極層13上には、露出した表面が酸化することによって、酸化膜13Oが形成される。そのため、酸化膜13Oと正孔輸送層15との界面にて両者の接着性を向上させることができる。
【0059】
そして、図8(B)に示すように、従来周知の蒸着法を用いて、正孔輸送層15上に厚さ25nmの有機発光層16を形成する。なお、有機発光層16は、構成する材料を選択することによって、発する色を調整することができる。また、有機発光層16上に、図9(A)に示すように、従来周知の蒸着法を用いて、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)から成る厚さ30nmの電子輸送層17を形成する。さらに、図9(B)に示すように、電子輸送層17上に、従来周知の蒸着法を用いて、例えば、フッ化リチウム(LiF)から成る厚さ0.7nmの電子注入層18を形成する。
【0060】
次に、図10(A)に示すように、例えば、従来周知の蒸着法を用いて、表示領域D1を被覆するように、電子注入層18上に、例えばマグネシウム33質量%と銀67質量%との混合物から成る厚さ15nmの第2電極層19を形成する。第2電極層19は、隣接する画素同士で共通しており、共通電極として機能する。第2電極層19を共通電極とすることで、微細な空孔を備えた蒸着マスクを用いずに第2電極層19を形成することができるので、製造工程を単純化することができる。このようにして、有機EL素子5を形成することができる。
【0061】
さらに、図10(B)に示すように、例えば、化学気相成長法(熱CVD法)を用いて、表示領域D1全面に、有機EL素子5が劣化しないように、窒化ケイ素から成る厚さ1.5μmの保護層20を形成する。
【0062】
そして、有機EL素子5が形成された素子基板2に対して、封止基板8を対向配置し、両者をシール材9を介して接着する。具体的には、封止基板8に対して、例えばスクリーン印刷法を用いて予めシール材9を被着させておく。そして、素子基板2に対してシール材9を介して封止基板8を固着させる。なお、封止基板8をシール材9によって、素子基板2に固定する作業は、例えば窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス中や、高真空中で行うことによって、素子基板2と封止基板8との間に酸素や水分が含まれるのを抑制することができる。
【0063】
そして、非表示領域D2に駆動IC4を実装することで、有機ELディスプレイ1を作製することができる。
【0064】
上述したように、本発明の実施形態によれば、正孔輸送層15又は有機発光層16を形成する前の状態において、第1電極層13の上面を複数個所露出する正孔注入層14を形成することができ、その後、有機発光層16等を形成することができる。そのため、正孔注入層14を形成する際に有機発光層16を劣化させることがなく、輝度が低下しにくい有機EL素子を作製することができる。
【0065】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。上述した実施形態においては、トップエミッションの有機EL素子について説明したが、本発明の作用効果を奏するのであれば、ボトムエミッションの有機EL素子であっても構わない。
【0066】
また、第2の実施形態に係る有機EL素子としては、図11に示すように、正孔注入層14Bが、第1電極層13の上面に形成されるとともに、第1電極層13と絶縁物7との間に形成されたものであっても構わない。正孔注入層14Bを第1電極層13の上面に全面的に形成することで、発光層16から、光放出面となる封止基板8側(図11の上方)とは異なる方向である斜め下向きに放出された光、または、発光層16よりも図11の上側に設けられた界面で反射した光が、湾曲した表面を有し不連続膜である正孔注入層14Bにより反射、散乱、または回折されることにより、光放出面となる封止基板8側へ出射されるようになり、光の取り出し効率が向上するという作用効果を奏する。また、正孔注入層14Bを第1電極層13の上面に全面的に形成することで、第1電極層13と、正孔輸送層15との界面による鏡面反射が低減され、明るい外光が入射する状況下においても高い表示コントラストを実現できるという作用効果を奏する。
【0067】
正孔注入層14Bは、絶縁物7を第1電極層13上に形成する前に、例えば化学還元メッキ法、スパッタ法、蒸着法のいずれかを用いて、第1電極層13上に全面的に形成する。第1電極層13の不要部分を湿式エッチング等により除去する場合、第1電極層13の不要部分上に形成された正孔注入層14Bはリフトオフされて除かれる。その結果、第1電極層13と絶縁物7との間に正孔注入層14Bを構成する材料と同一の材料から成る不連続膜を形成することができる。
【0068】
さらに、第3の実施形態に係る有機EL素子としては、図12に示すように、正孔注入層14Cが、第1電極層13の上面から絶縁物7上にかけて形成されたものであっても構わない。正孔注入層14Cを絶縁物7上に形成することで正孔注入層14Cよりも図12の上側に設けられた界面で反射した光が、湾曲した表面を有し不連続膜である正孔注入層14Cにより反射、散乱、または回折されることにより、光放出面となる封止基板8側へ出射されるようになり、光の取り出し効率が向上するという作用効果を奏する。
【0069】
正孔注入層14Cは、絶縁物7を形成した後、例えばスパッタ法、蒸着法のいずれか法を用いて、露出する第1電極層13の上面及び絶縁物7上に形成する。その結果、絶縁物7と第2電極層19との間に正孔注入層14Cを構成する材料と同一の材料から成る不連続膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ELディスプレイの平面図である。
【図2】マトリックス状に配列された画素の平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【図4】有機EL素子を構成する各層を示した有機EL素子の断面図である。
【図5】図5(A),図5(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図6】図6(A),図6(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図7】図7(A),図7(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図8】図8(A),図8(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図9】図9(A),図9(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図10】図10(A),図10(B)は、本発明の実施形態に係る有機EL素子を含む有機ディスプレイの製造工程を説明する画素の断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る有機EL素子を含む画素の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 有機ELディスプレイ
2 素子基板
3 画素
4 駆動IC
5 有機EL素子
6 隔壁
7 絶縁物
8 封止基板
9 シール材
10 回路層
11 絶縁層
12 平坦化膜
13 第1電極層
14 正孔注入層
15 正孔輸送層
16 有機発光層
17 電子輸送層
18 電子注入層
19 第2電極層
20 保護層
D1 表示領域
D2 非表示領域
R 発光領域
S コンタクトホール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、
前記第1電極層上に形成され、前記第1電極層の上面を複数個所露出する電荷注入層と、
前記第1電極層の露出した領域及び前記電荷注入層上に形成される電荷輸送層と、
前記電荷輸送層上に形成される有機発光層と、
前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷輸送層は、前記第1電極層の露出した領域に被着するとともに前記電荷注入層を被覆することを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷注入層は前記第1電極層上に形成される不連続膜であって、その膜の一部が前記第1電極層の露出した領域にて囲まれることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層の露出した領域にて囲まれる前記電荷注入層の膜の一部は、前記第1電極層上から前記電荷輸送層に向けて突出するとともにその表面が湾曲していることを特徴とする有機EL素子。
【請求項5】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層の露出した領域と前記電荷輸送層の間に酸化膜が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL素子において、
前記酸化膜は、前記第1電極層に含まれる金属の酸化物を主成分とすることを特徴とする有機EL素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷注入層は、前記第1電極層よりも光反射率が大きいことを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層は、光反射率が前記第2電極層よりも大きいことを特徴とする有機EL素子。
【請求項1】
第1電極層と、
前記第1電極層上に形成され、前記第1電極層の上面を複数個所露出する電荷注入層と、
前記第1電極層の露出した領域及び前記電荷注入層上に形成される電荷輸送層と、
前記電荷輸送層上に形成される有機発光層と、
前記有機発光層上に形成される第2電極層と、を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷輸送層は、前記第1電極層の露出した領域に被着するとともに前記電荷注入層を被覆することを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷注入層は前記第1電極層上に形成される不連続膜であって、その膜の一部が前記第1電極層の露出した領域にて囲まれることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層の露出した領域にて囲まれる前記電荷注入層の膜の一部は、前記第1電極層上から前記電荷輸送層に向けて突出するとともにその表面が湾曲していることを特徴とする有機EL素子。
【請求項5】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層の露出した領域と前記電荷輸送層の間に酸化膜が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL素子において、
前記酸化膜は、前記第1電極層に含まれる金属の酸化物を主成分とすることを特徴とする有機EL素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電荷注入層は、前記第1電極層よりも光反射率が大きいことを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記第1電極層は、光反射率が前記第2電極層よりも大きいことを特徴とする有機EL素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−289806(P2009−289806A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138035(P2008−138035)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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