説明

有機EL素子

【課題】低電力で高温環境下での信頼性の高い有機EL素子を提供する。
【解決手段】少なくとも発光層3bを有する有機層3を陽極2と陰極4との間に積層形成してなる有機EL素子である。発光層3bは、正孔移動度(μhEM)と電子移動度(μeEM)との比(μeEM/μhEM)が0.6以上10以下であるホスト材料と、発光を呈する発光ドーパントと、正孔輸送性ドーパントと、を少なくとも含み、前記ホスト材料の電子移動度(μeEM)と前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度(μhHT)との比(μhHT/μeEM)が0.1以上10以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関し、特に有機EL素子の低電圧化及び高効率化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機材料によって形成される自発光素子である有機EL素子は、例えば、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)等からなる第一電極と、少なくとも発光層を有する有機層と、陰極となるアルミニウム(Al)等からなる非透光性の第二電極と、を順次積層して前記有機EL素子を形成するものが知られている。
【0003】
かかる有機EL素子は、前記第一電極から正孔を注入し、また、第二電極から電子を注入して正孔及び電子が前記発光層にて再結合することによって光を発するものである。有機EL素子を用いた有機ELディスプレイは、自己発光のため視認性に優れ、完全固体素子であるため耐衝撃性や低温環境下での応答性に優れているため表示の瞬間判読が必要な車両用計器などの車載表示装置に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−108726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に車載表示装置に採用される有機EL素子は、広範囲な温度環境下での高信頼性が要求されるとともに低電力化が求められている。低電力で高温環境下での信頼性を高めるためには、低電圧化と高効率化が重要な課題である。これに対し、低電圧化と高効率を達成するための方法としては、発光層と陰極との間に電子移動度の高い電子輸送層を形成することが考えられるが、電子輸送層の電子移動度が高いと、電子の供給が過剰となりキャリアバランスが崩れると発光層と陽極との間に形成される正孔輸送層が電子によって劣化し、寿命が短くなるという問題点がある。
【0006】
また、特許文献1に開示されるように、発光層にホスト材料の有するキャリア輸送性を補完するアシストドーパントを加え、発光層に正孔輸送性材料、電子輸送性材料という相反するキャリア輸送性を持つ材料を混在させることにより、発光層自体をバイポーラ(両キャリア輸送性)とし、発光層内の再結合確率を高め発光効率を向上させる方法がある。しかしながら、かかる方法においてもキャリアバランスを保つことが重要であり高温環境下での信頼性向上のためにはなお改善の余地があった。
【0007】
そこで本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、低電力で高温環境下での信頼性の高い有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために、少なくとも発光層を有する有機層を陽極と陰極との間に積層形成してなる有機EL素子であって、
前記発光層は、正孔移動度(μhEM)と電子移動度(μeEM)との比(μeEM/μhEM)が0.6以上10以下であるホスト材料と、発光を呈する発光ドーパントと、正孔輸送性ドーパントと、を少なくとも含んでなり、
前記ホスト材料の電子移動度(μeEM)と前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度(μhHT)との比(μhHT/μeEM)が0.1以上10以下であることを特徴とする。
【0009】
また、前記正孔輸送性ドーパントは、前記発光層中の濃度が50重量%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、前記発光ドーパントと前記ホスト材料とのイオン化ポテンシャルの差が0.05eV以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、有機EL素子に関し、低電力で高温環境下での信頼性の高い有機EL素子を提供することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態である有機EL素子を示す図。
【図2】本発明の実施例1〜7及び比較例1〜4の試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態を示す図である。本実施形態である有機EL素子は、支持基板1と、陽極となる第一電極2と、有機層3と、陰極となる第二電極4と、を有するものである。なお、有機EL素子は、吸湿剤が塗布される封止基板を支持基板1上に配設して封止されるものであるが、図1ではこの封止基板を省略している。
【0015】
支持基板1は、例えば透光性のガラス材料からなる矩形状の基板である。支持基板1上には、第一電極2,有機層3及び第二電極4が順に積層形成される。
【0016】
第一電極2は、正孔を注入する陽極となるものであり、支持基板1上にインジウム錫酸化物(ITO)をスパッタリング法等の手段によって層状に形成した酸化物透明導電膜からなり、フォトエッチング等の手段によって所定の形状にパターニングされてなる。また、第一電極2は、表面がUV/O処理やプラズマ処理等の表面処理を施されてなる。
【0017】
有機層3は、少なくとも発光層を含む多層からなり、第一電極2上に形成されるものである。本実施形態においては、第一電極2側から順に正孔注入輸送層3a,発光層3b,電子輸送層3c及び電子注入層3dが順に積層形成されてなる。
【0018】
正孔注入輸送層3aは、第一電極2から正孔を取り込み発光層3bへ伝達する機能を有し、例えばアミン系化合物等の正孔輸送性材料を蒸着法等の手段によって膜厚15〜40nm程度の層状に形成してなる。
【0019】
発光層3bは、正孔移動度(以下、ホスト材料の正孔移動度をμhEMと記す)と電子移動度(以下、ホスト材料の電子移動度をμeEMと記す)との比(μeEM/μhEM)が0.6以上10以下である(0.6≦μeEM/μhEM≦10)ホスト材料に少なくとも発光を呈する発光ドーパントと正孔輸送性ドーパントとを共蒸着等の手段によって添加してなるものである。前記ホスト材料は、通常発光層3b中で最も高い比率で含まれるものであり、正孔及び電子の輸送が可能であり、その分子内で正孔及び電子が再結合することで前記発光ドーパントを発光させる機能を有し、3.0eV程度のエネルギーギャップを有する。前記発光ドーパントは、正孔と電子との再結合に反応して発光する機能を有し、前記ホスト材料とのIp(イオン化ポテンシャル)の差が0.05eV以上で例えば緑色発光を示す蛍光材料からなる。前記正孔輸送性ドーパントは、第一電極2から発光層3bへの正孔の注入効率を向上させる機能を有し、前記ホスト材料の電子移動度μeEMと前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度(以下、正孔輸送性ドーパントの正孔移動度をμhHTと記す)との比(μhHT/μeEM)が0.1以上10以下(0.1≦μhHT/μeEM≦10)であり、発光層3b中の濃度が50重量%以下で、ガラス転移温度が85℃以上で好ましくは110℃以上の材料である。
【0020】
電子輸送層3cは、電子を発光層3bへ伝達する機能を有し、例えばアルミキノリノール(Alq)等の電子輸送性材料を真空蒸着法等の手段によって層状に形成してなる。
【0021】
電子注入層3dは、電子を第二電極4から取り込む機能を有し、例えばフッ化リチウム(LiF)やリチウムキノリン(Liq)を真空蒸着法等の手段によって薄膜状に形成してなる。
【0022】
第二電極4は、電子を注入する陰極となるものであり、電子注入層3d上に例えばアルミニウム(Al)等の低抵抗導電材料を蒸着法等の手段によって層状に形成した導電膜からなるものである。
【0023】
以上の各部によって有機EL素子が構成されている。
【0024】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、前記ホスト材料の正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとを所定の範囲に規定し、また、前記ホスト材料の電子移動度μeEMと前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度μhHTとを所定の範囲に規定することで有機EL素子のキャリアバランスを安定化させ、低電力で高温環境下での信頼性の高い素子を得ることが可能であることを見いだし、本発明に達した。すなわち、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)が0.6以上10以下である(0.6≦μeEM/μhEM≦10)前記ホスト材料により発光層3bを形成し、前記ホスト材料の電子移動度μeEMと前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)が0.1以上10以下となる(0.1≦μhHT/μeEM≦10)前記正孔輸送性ドーパントを発光層3bに添加することによって、キャリアバランスを安定させて低電圧と高効率を達成することができ、低電力で高温環境下での信頼性の高い有機EL素子を得ることができる。前記ホスト材料は、電子と正孔とを輸送し、かつ電子と正孔とを再結合させ、励起子を形成するものであり電子と正孔の移動度の差が大きいと励起子の形成する領域が偏ってしまい、発光層3bの中で均一に発光することができず、励起子同士の再結合が生じ発光効率を低下させる。さらに再結合できないであふれた電子や正孔は正孔注入輸送層3aや電子輸送層3cへ影響を及ぼし、材料を劣化させ寿命特性を悪化させている。このキャリアのバランスを整合させるためには、前記ホスト材料の電子と正孔の移動度の比率をある範囲でそろえる必要があった。具体的には、本発明のように移動度の比が0.6≦μeEM/μhEM≦10のとき効果が得られた。また、前記ホスト材料に添加する前記正孔輸送性ドーパントは、低電圧化と寿命特性に関与していて、電子移動度μeEMが高い前記ホスト材料では電子が正孔注入輸送層3aと発光層3bとの界面に蓄積されあふれた電子が正孔注入輸送層3aの正孔輸送性材料を劣化させて寿命特性を悪くするが、前記正孔輸送性ドーパントを添加することで電子の蓄積を低減でき正孔注入輸送層3aの材料劣化を抑制することができる。具体的には、本発明のように前記ホスト材料の電子移動度μeEMと前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度μhHTの比率を0.1≦μhHT/μeEM≦10にすることで抑制効果が顕著にあった。
【0025】
また、前記正孔輸送性ドーパントを発光層3b中の濃度が50重量%以下となるように添加することによって、発光効率を維持することができ寿命特性を短くすることなく低電圧化が可能となる。発光層3b中の前記正孔輸送性ドーパントの濃度は、駆動電圧と効率及び寿命特性に大きく関与している。前記正孔輸送性ドーパントの濃度が高いと前記正孔輸送性ドーパントの移動度により電流電圧特性の電圧は低下するが、発光に関与する前記ホスト材料が少なくなるため発光効率の低下が起き、同じ輝度を出すためには電流を多く流さなければならず、結果として寿命が短くなる。本発明では、発光層3bの前記ホスト材料と前記正孔輸送性ドーパントは同一比率までは発光効率を低下させることがなかった。しかし、前記正孔輸送性ドーパントの濃度が55重量%を超えると発光効率の低下が顕著に現れた。
【0026】
また、前記発光ドーパントと前記ホスト材料とのIpの差を0.05eV以上とすることによって、前記ホスト材料から前記発光ドーパントへ前記ホスト材料で形成された励起子のエネルギーを効率よく前記発光ドーパントへ移行することができ高い発光効率を得ることができる。前記発光ドーパントと前記ホスト材料とのIpの差は、励起子のエネルギー移動の効率に関与し、Ipの差が0.05eV以下であると前記発光ドーパントは前記発光ドーパント自体で正孔と電子で励起子を形成し発光する割合が高くなり、前記ホスト材料で形成された励起子からのエネルギー移動による発光割合が低下するため、発光効率の低下が生じる。
【0027】
以下、さらに本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。図2は各実施例及び各比較例の性能比較を示している。
【実施例1】
【0028】
支持基板1上にITOからなる第一電極2を膜厚145nmで形成し、第一電極2上に正孔輸送性材料HT1からなる正孔注入輸送層3aを膜厚30nmで形成した。また、正孔注入輸送層3a上に、ホスト材料EM1と緑色発光を示す蛍光ドーパントGD1からなる前記発光ドーパントと正孔輸送性材料HT1からなる前記正孔輸送性ドーパントを45:1.5:5の比率で含有させて発光層3bを膜厚50nmで形成した。ホスト材料EM1は、Ip=5.9eV、Ea(電子親和力)=2.9eV、電子移動度μeEM=3×10−3cm/Vs、正孔移動度μhEM=2×10−3cm/Vsであり、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は1.5である。蛍光ドーパントGD1は、Eg(エネルギーギャップ)=2.4eV、Ip=5.8eVであり、ホスト材料EM1とのIpの差は0.1eVである。正孔輸送性材料HT1は、Tg(ガラス転移温度)=130℃、Ip=5.4eV、正孔移動度μhHT=4×10−4cm/Vsであり、発光層3b中の濃度は10重量%である。また、ホスト材料EM1の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT1の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は約0.13である。さらに、発光層3b上に電子輸送層3cとして電子輸送性材料ET1を膜厚25nmで形成した。電子輸送性材料ET1は、Ip=5.8eV、Ea=3.0eV、電子移動度μe=5×10−6cm/Vsである。さらに、電子輸送層3c上に電子注入層3dとしてLiFを膜厚1nmで形成し、電子注入層3d上に第二電極4としてAlを膜厚100nmで形成して有機EL素子を作製した。実施例1は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.7V、電流効率L/J=28cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は2000時間を越えた。
【実施例2】
【0029】
また、実施例2として、発光層3bの前記ホスト材料をホスト材料EM2に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。なお、ホスト材料EM2は、Ip=5.9eV、Ea=2.9eV、電子移動度μeEM=6×10−4cm/Vs、正孔移動度μhEM=1×10−3cm/Vsであり、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は0.6である。また、蛍光ドーパントGD1とホスト材料EM2とのIpの差は0.1eVである。また、ホスト材料EM2の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT1の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は約0.67である。実施例2は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.8V、電流効率L/J=26cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は2000時間を越えた。
【実施例3】
【0030】
また、実施例3として、発光層3bの前記ホスト材料をホスト材料EM3に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。なお、ホスト材料EM3は、Ip=5.9eV、Ea=2.9eV、電子移動度μeEM=4×10−3cm/Vs、正孔移動度μhEM=4×10−4cm/Vsであり、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は10である。また、蛍光ドーパントGD1とホスト材料EM2とのIpの差は0.1eVである。また、ホスト材料EM3の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT1の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は0.1である。実施例3は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.8V、電流効率L/J=27cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1800時間を越えた。
【実施例4】
【0031】
また、実施例4として、発光層3bにおけるホスト材料EM1,蛍光ドーパントGD1及び正孔輸送性材料HT1の比率を25:1.5:25とし、正孔輸送性材料HT1の発光層3b中の濃度を50重量%としたほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。実施例4は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.9V、電流効率L/J=25cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1500時間を越えた。
【実施例5】
【0032】
また、実施例5として、発光層3bにおけるホスト材料EM1,蛍光ドーパントGD1及び正孔輸送性材料HT1の比率を30:1.5:20とし、正孔輸送性材料HT1の発光層3b中の濃度を40重量%としたほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。実施例5は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.5V、電流効率L/J=27cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1900時間を越えた。
【実施例6】
【0033】
また、実施例6として、発光層3bの前記正孔輸送性ドーパントを正孔輸送性材料HT2に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。なお、正孔輸送性材料HT2は、Tg=128℃、Ip=5.5eV、正孔移動度μhHT=3×10−3cm/Vsであり、発光層3b中の濃度は10%である。また、ホスト材料EM1の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT2の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は1である。実施例6は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.4V、電流効率L/J=28cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は2000時間を越えた。
【実施例7】
【0034】
また、実施例7として、発光層3bの前記ホスト材料をホスト材料EM2に変更し、前記正孔輸送性ドーパントを正孔輸送性材料HT2に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。ホスト材料EM2は、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は0.6である。また、ホスト材料EM2の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT2の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は、5である。実施例7は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=6.5V、電流効率L/J=28cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は2000時間を越えた(Lp=3000cd/m)。
【0035】
(比較例1)
また、比較例1として、発光層3bに前記正孔輸送性ドーパントを含有させず、ホスト材料EM1と蛍光ドーパントGD1の比率を50:1.5としたほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。比較例1は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=8.2V、電流効率L/J=17cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1000時間であった。
【0036】
(比較例2)
また、比較例2として、発光層3bの前記ホスト材料をホスト材料EM4に変更し、ホスト材料EM4,蛍光ドーパントGD1及び正孔輸送性材料HT1の比率を45:1.5:5としたほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。ホスト材料EM4は、Ip=5.8eV、Ea=2.95eV、電子移動度μeEM=3×10−6cm/Vs、正孔移動度μhEM=1×10−8cm/Vsであり、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は300である。また、蛍光ドーパントGD1とホスト材料EM4とのIpの差は0.05eVである。また、正孔輸送性材料HT1の発光層3b中の濃度は10重量%である。また、ホスト材料EM4の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT1の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は、約133である。比較例2は緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=7.5V、電流効率L/J=17cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1200時間であった。
【0037】
(比較例3)
また、比較例3として、発光層3bの前記正孔輸送性ドーパントを正孔輸送性材料HT3に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。正孔輸送性材料HT3は、Tg=100℃、Ip=5.4eV、正孔移動度μhHT=8×10−5cm/Vsである。また、ホスト材料EM1の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT3の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は約0.03である。比較例3は、緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=8.0V、電流効率L/J=16cd/Aであり、85℃の高温環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1200時間であった。
【0038】
(比較例4)
また、比較例4として、発光層3bの前記ホスト材料をホスト材料EM4に変更し、前記正孔輸送性ドーパントを正孔輸送性材料HT3に変更したほかは、実施例1と同様に有機EL素子の作製及び特性の測定を行った。ホスト材料EM4は、正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)は300である。また、ホスト材料EM4の電子移動度μeEMと正孔輸送性材料HT3の正孔移動度μhHTとの比(μhHT/μeEM)は約26.7である。比較例4は、緑色発光を示し、その特性は発光輝度Lp=13500cd/mでの駆動電圧E=8.0V、電流効率L/J=16cd/Aであり、85℃の高温温度環境下における初期輝度Lp=3000cd/mでのDC駆動時の半減寿命は1200時間であった。
【0039】
図2に示すように、発光層3bのホスト材料に正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)が本発明における規定範囲(0.6≦μeEM/μhEM≦10)内となるホスト材料EM1〜3を用い、さらに正孔輸送性ドーパントにホスト材料EM1〜EM3の電子移動度μeEMと正孔移動度μhHTと比(μhHT/μeEM)が本発明における規定範囲(0.1≦μhHT/μeEM≦10)内となる正孔輸送性材料HT1あるいはHT2を適用した実施例1〜7は、低電圧及び高効率を示し、高温環境下であっても長寿命を得ることが可能となっている。これに対し、発光層3b中に正孔輸送性ドーパントを有しない比較例1、発光層3bのホスト材料として正孔移動度μhEMと電子移動度μeEMとの比(μeEM/μhEM)が本発明における規定範囲(0.6≦μeEM/μhEM≦10)外となるホスト材料EM4を用い、正孔輸送性ドーパントにホスト材料EM4の電子移動度μeEMと正孔移動度μhHTと比(μhHT/μeEM)が本発明における規定範囲(0.1≦μhHT/μeEM≦10)外となる正孔輸送性材料HT3を適用した比較例2,4、正孔輸送性ドーパントにホスト材料EM1の電子移動度μeEMと正孔移動度μhHTと比(μhHT/μeEM)が本発明における規定範囲(0.1≦μhHT/μeEM≦10)外となる正孔輸送性材料HT3を適用した比較例3は、実施例1〜7と比較して駆動電圧が高く、発光効率が低下し、高温環境下での半減寿命も短くなっているため有機EL素子としての特性が悪化している。したがって、本発明のように発光層3bを形成することにより低電力で高温環境下での信頼性の高い有機EL素子を得ることができることは図2からも明らかである。なお、実施例1〜7のうち、高温環境下での半減寿命は正孔輸送性ドーパントの発光層3b中の濃度が高い実施例4で比較的短くなっており、正孔輸送性ドーパントの発光層3b中の濃度は少なくとも50重量%以下が望ましく、40重量%以下とすることがさらに望ましいことが図2から明らかである。
【0040】
なお、本実施形態は、正孔注入輸送層3aが単一層にて形成されるものであったが、本発明の有機EL素子は、正孔注入層及び正孔輸送層がそれぞれ順次積層されるものであってもよい。また、前記発光ドーパントは緑色発光を示すものであったが、発光ドーパントは他の発光色を示すものであってもよい。また、発光層あるいは電子輸送層が複数層形成される構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、有機EL素子に関し、特に車載用表示器などの高温環境下での使用が想定される機器に用いられる有機EL素子に好適である。
【符号の説明】
【0042】
1 支持基板
2 第一電極(陽極)
3 有機層
3a 正孔注入輸送層
3b 発光層
3c 電子輸送層
3d 電子注入層
4 第二電極(陰極)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発光層を有する有機層を陽極と陰極との間に積層形成してなる有機EL素子であって、
前記発光層は、正孔移動度(μhEM)と電子移動度(μeEM)との比(μeEM/μhEM)が0.6以上10以下であるホスト材料と、発光を呈する発光ドーパントと、正孔輸送性ドーパントと、を少なくとも含み、
前記ホスト材料の電子移動度(μeEM)と前記正孔輸送性ドーパントの正孔移動度(μhHT)との比(μhHT/μeEM)が0.1以上10以下であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記正孔輸送性ドーパントは、前記発光層中の濃度が50重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記発光ドーパントは、前記ホスト材料とのイオン化ポテンシャルの差が0.05eV以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−249436(P2011−249436A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118939(P2010−118939)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】