有機EL表示装置
【課題】長寿命化した有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】絶縁基板SUB1の主面に形成された一方の電極(陽極ANDまたは陰極CTD)と他方の電極(陰極CTD又は陽極AND)の間に少なくともホール輸送層HTR、発光層LUM、電子輸送層ETR、電子注入層EINを蒸着により積層する際に、蒸着装置内で取り込まれる可塑剤の濃度を100ppm以下とする。
【解決手段】絶縁基板SUB1の主面に形成された一方の電極(陽極ANDまたは陰極CTD)と他方の電極(陰極CTD又は陽極AND)の間に少なくともホール輸送層HTR、発光層LUM、電子輸送層ETR、電子注入層EINを蒸着により積層する際に、蒸着装置内で取り込まれる可塑剤の濃度を100ppm以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に係り、特に有機EL素子の作成プロセス中に該素子に取り込まれる可塑剤に起因する発光効率の低下を抑制して長寿命化と信頼性の向上を可能とした有機EL表示装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネル型の表示装置として液晶表示装置(LCD)やプラズマ表示装置(PDP)、電界放出型表示装置(FED)、有機EL表示装置(以下、OLED素子とも称する)などが実用化ないしは実用化研究段階にある。中でも、有機EL表示装置は薄型・軽量の自発光型表示装置の典型としてこれからの表示装置として極めて有望な表示装置である。
【0003】
有機EL表示装置には、所謂ボトムエミッション型とトップエミッション型とがある。ボトムエミッション型の有機EL表示装置は、ガラス基板を好適とする絶縁基板上に、第1の電極または一方の電極としての透明電極(ITO等)、電界の印加で発光する有機多層膜(有機発光層とも言う)、第2の電極または他方の電極としての反射性の金属電極を順次積層した発光機構で有機EL素子が構成される。この有機EL素子をマトリクス状に多数配列し、それらの積層構造を覆って封止缶と称する他の基板を設け、上記発光構造を外部の雰囲気から遮断している。そして、例えば透明電極を陽極とし、金属電極を陰極として両者の間に電界を印加することで有機多層膜にキャリア(電子と正孔)が注入され、該有機多層膜が発光する。この発光をガラス基板側から外部に出射する構成となっている。
【0004】
一方、トップエミッション型の有機EL表示装置は、上記した一方の電極を反射性を有する金属電極とし、他方の電極をITO等の透明電極とし、両者の間に電界を印加することで有機多層膜が発光し、この発光を上記他方の電極側から出射する構成特徴とするなっている。トップエミッション型では、ボトムエミッション型における封止缶として、ガラス板を好適とする透明基板(封止基板)が使用される。
【0005】
有機EL 素子(以下、OLED素子とも称する)の発光原理は以下のとおりである。すなわち、有機蛍光材料を含む多層膜に陰極から一方のキャリアである電子を、陽極から他方のキャリアであるホールを注入する。両キャリアが有機層の中で再結合すると励起子が生成する。この励起子が基底状態に戻るときに発光する。
【0006】
このOLED素子は、通常、基板上に積層される多層の有機層で構成される。通常は、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層の4層あるいは電子輸送層の上に電子注入層を有する5層の有機層で形成されることが多い。この種の従来技術を開示したものとしては、特許文献1、特許文献2、特許文献3を挙げることができる。
【特許文献1】特開平5−258859号公報
【特許文献2】特開平5−258860号公報
【特許文献3】特開平5−275172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
OLED素子の最重要課題は長寿命化である。OLED素子が点灯時間とともに輝度や電圧一電流特性が低下する原因はまだよく解明されていない。劣化原因として材料起因、素子構造起因、蒸着プロセス起因、などが指摘されているが詳細はよく理解されていないのが現状である。本発明の目的は、長寿命化したOLED素子を用いた有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、寿命向上を検討するなかで、素子作成プロセス中に素子に取り込まれる可塑剤が劣化の一因であることを見出し、OLED素子に含まれる可塑剤の量を100ppm以下、好ましくは10ppm以下とした点を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
有機EL表示装置はOLED素子を集積したディスプレイである。有機EL表示装置の寿命はほぼOLED素子の寿命で決まるため、OLED素子の長寿命化をはかることにより有機EL表示装置の長寿命化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
先ず、OLED素子の動作原理を詳しく説明する。
【0011】
図1は、OLED素子の構造例を説明する模式断面図である。図1によりOLED素子の素子構成を詳細に説明する。ガラスなどの絶縁基板SUB1の主面に、先ず一方の電極、ここでは陽極(通常ITO(lndium‐Tin‐Oxide)が使用される)ANDが成膜され、この陽極AND上にホール注入層HIN、ホール輸送層HTR、発光層LUM、電子輸送層ETR、電子注入層(通常フッ化リチウムが使用される)EIN、他方の電子としてここでは陰極CTD、が順次成膜される。これらの層のうち、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が有機材料の蒸着等で形成される。
【0012】
ホール注入層HIN、ホール輸送層HTRは陽極ANDから注入されたホールを発光層LUMに輸送する機能を有し、電子輸送層ETRは陰極CTDから注入された電子を発光層LUMに輸送する機能を有する。発光層LUMは通常、キャリア(ホール、電子)を輸送する機能を有するホスト材料に蛍光発光機能を有するゲスト材料(ドーパント)を共蒸着した有機膜であり、ホール輸送層HTRから注入されたホールと電子輸送層ETRから注入された電子は発光層LUM中の分子内で再結合する。
【0013】
ドーパント分子内で再結合した場合には直接励起子が形成される。一方、ホスト分子内で再結合しホスト分子の励起子が形成された場合にもそのエネルギーはドーパントに移動してドーパント分子の励起子が形成される。
【0014】
図2は、ドーパント分子の励起子エネルギー軌道の説明図である。前記のようにして形成されたドーパント励起子は図2に示すようにHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital、最高占有軌道)に1電子、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital、最低非占有軌道)に1分子が存在する励起分子である。
【0015】
OLED素子では、ドーパントとして蛍光量子収率の高い材料を使用しているためドーパント励起子は蛍光を発して基底状態に戻る。
【0016】
以上がOLED素子の正常な発光過程の一例である。しかし現状のOLED素子は長時間発光させると次第に効率が低下する間題があり、この間題を解決することがOLED素子の最重要課題となっている。
【0017】
以下、OLED素子の劣化現象をより詳細に記述する。OLED素子を電流量一定で連続通電して発光させた場合、主に二つの劣化現象が起こる。第一は輝度が徐々に低下する現象、第二は電圧が徐々に上昇する現象である。第一の輝度低下は発光層の中のドーパント励起子生成効率の低下が原因と考えられる。第二の電圧上昇は輸送層の易動度低下、あるいは界面でのキャリア注入障壁の増大が原因と考えられる。しかしこれらの劣化を引き起こす化学反応についてはよく理解されていない。
【0018】
本発明者等は、OLED素子の劣化を引き起こす要因のひとつがクリーンルーム内あるいは蒸着装置内の可塑剤のコンタミネーションではないかと考えた。可塑剤とは塗料、建材等のブラスチック品に柔軟性を持たせるためにプラスチックに添加されている低分子の化合物である。最もよく用いられる可塑剤は2塩基酸のエステル化合物である。
【0019】
その例として、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル(以下ではDBPと略す)、フタル酸ジオクチル(正式には、フタル酸ビス(2―エチルヘキシル)、以下ではDOPと略す)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、アジビン酸ビス(2―エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジn―ヘキシル、等が代表的な可塑剤である。これらのうち、DOP、DBP、DlNPが最も汎用的に使用されている。
【0020】
ITOを形成したOLED基板に付着した可塑剤、および蒸着膜中に取り込まれた可塑剤はOLED素子を発光させるため通電すると電気化学的反応により、次第に分解反応が進行してキャリアのトラップサイトになると考えられる。以下、可塑剤の有無によるOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する。
【0021】
図3は、可塑剤が存在しない場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。OLED素子は、通電するとホール注入層材料およびホール輸送層材料は酸化されてラジカルカチオンに、電子輸送層材料は還元されてラジカルアニオンなる。これらのラジカルカチオンやラジカルアニオンは、隣接する分子を酸化あるいは還元することによりキャリァが次々に輸送される。図3では、ホールを示すラジカルアニオンを「丸で囲んだ−」で、電子を示すラジカルカチオンを「丸で囲んだ+」で示す。
【0022】
一般に、ラジカルカチオンやラジカルアニオンは比校的不安定な状態であるが、OLED素子に使用する材料はこのようなラジカルイオン状態でも構造変化を起こさない安定な材料が選ばれている。したがって、不純物を含まない素子では図3に示すように、隣接分子間で酸化還元を繰り返すことによりキャリアが発光層に輸送される。しかし膜中に可塑剤が含まれているとホール注入層材料やホール輸送材料のラジカルカチオンや、電子輸送層材料のラジカルアニオンと反応して次の図4に示すようにキャリアをトラップする準位を形成する。
【0023】
図4は、可塑剤がキャリアのトラップサイトになる場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。ホール注入層およびホール輸送層中のトラップにはホールがトラップされて正に帯電するため易動度が低下する。このため一定の電流を流すにはより高い電圧が必要になる。同様に電子輸送層のトラップには電子がトラップされて負に帯電するため易動度が低下する。このため一定の電流を流すにはより高い電圧が必要になる。陰極と陽極に印加する電圧は初期では図3に示す△Voであるが、劣化後は図4に示す△V1の電圧が必要となってしまう。
【0024】
すなわち、△V1一△Voだけ電圧が上昇する。また、界面でトラップが形成された場合にもチャージが溜まるため電圧が上昇する。また、発光層にはホールも電子も注入されるため、発光層中の可塑剤が変質するとホールトラッブも電子トラップも共に形成され電圧が上昇する。可塑剤の変質により発光層中に形成されたトラップは、電圧上昇と同時に輝度低下も引き起こす。すなわち、発光層内に注入されたホールと電子との再結合が変質した可塑剤分子内で起こるようになる。変質可塑剤は蛍光発光能がなく再結合エネルギーは熱に変換される、つまり熱失活サイトになる。
【0025】
上記したような、可塑剤がOLED素子内に取り込まれた場合にOLED素子寿命がどの程度低下するかを検討した。可塑剤としてDOPおよびDBPを用いた。種々の濃度の可塑剤を吸着させたITO基板(ITOを成膜した基板)を用いたOLED素子、および種々の濃度で可塑剤を共蒸着したOLED素子を作製した。これらの素子の寿命を比較することにより素子寿命に対する可塑剤の影響を評価した。結果を図5から図8に示す。
【0026】
図5は、可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図、図6は、可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。また、図7は、可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図、図8は、可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。.
【0027】
これらの検討結果から、可塑剤の量が100ppmを超えると急激に素子寿命が低下することが示される。そして、10ppm以下では輝度半減寿命、電圧上昇値とも変化が極めて少ないことが示される。
【0028】
以上述べた結果から、OLED素子中の可塑剤を100ppm以下、好ましくは10ppm以下にすることによりOLED素子寿命を大幅に向上させることができることが分った。これに基づいたOLED素子とこのOLED素子を用いた有機EL表示装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0029】
図9は、本発明の有機EL表示装置の実施例1を説明する模式図であり、図9(a)は平面図、図9(b)は図9(a)のA-B線に沿った断面図である。図9において、先ず、板厚が7mm、縦横サイズが50mm×50mm大きさのガラス基板SUB1に酸化珪素膜をCVD法により成膜した。酸化珪素膜は、所謂下地膜である。この上に陽極となるITOをスパッタで形成し、ついでフォトエ程にて1mm幅のストライプパターンを形成し、陽極ANDを形成した。
【0030】
ガラス基板SUB1の中央部の20mm×20mmの部分にOLEDを構成する有機膜として、NPD、クマリンをドープしたAIq3、Alq3、フッ化リチウムを順次蒸着してOLED素子構造を形成した。厚さは、それぞれ60nm、30nm、20nm、1nmとした。次に、1mm幅のアルミニウム(200nm)を陽極ANDと直交するように蒸着してカソード(陰極)CTDとした。最後に、乾燥剤DCNを装填した封止キャップSUB2をガラス基板SUB1に被せ、周囲をUV硬化型シール材SLを用いて封止した。
【0031】
なお、有機膜の蒸着前にガラス基板SUB1を可塑剤(DOPあるいはDBP)の蒸気に暴露した素子、および有機幕の蒸着時に可塑剤を共蒸着した素子も作製した。このとき、暴露条件を変えること、および共蒸着時に可塑剤の蒸着温度を変えることにより可塑剤の異なる素子を作製した。
【0032】
作製した種々のOLED素子に含まれる可塑剤はGC−MS(ガスクロマトグラム‐マススペクトロスコピー)により定量分析した。作製した素子は定電流の直流電流を通電して輝度が半減するまでの時間を測定した。輝度が半減したとき電圧値と初期電圧値との差を電圧上昇とした。通電試験における初期輝度は500cd/m2とした。前記の測定結果(図5から図8)に示した。これらの図から可塑剤の量は100ppm以下、好ましくは10ppm以下である場合に長寿命の素子が得られることは前述したとおりである。
【0033】
図10は、本発明を適用したボトムエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。図10に示した有機EL表示装置はアクティブ・マトリクス型であり、ガラス基板SUB1の主面に薄膜トランジスタTFTを有する。この薄膜トランジスタTFTで駆動される一方の電極である陽極ANDと、他方の電極である陰極CTDの間に有機発光層OLEDを挟んで発光部を構成している。なお、薄膜トランジスタTFTは、ポリシリコン半導体層PSI、ゲート絶縁層ISI、ゲート線(ゲート電極)GL、ソース・ドレイン電極SD、層間絶縁層IS2、IS3で構成される。
【0034】
有機発光層OLEDは、例えば、陽極側から、少なくと、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる積層される。なお、ホール輸送層の下層にホール注入層を設けるものもある。
【0035】
画素電極である陽極ANDは、パッシベーション層PSVの上層に成膜された透明導電層(ITO等)で構成され、パッシベーション層PSVと層間絶縁層IS3に開けたコンタクトホールで薄膜トランジスタTFTのソース・ドレイン電極SDに電気的に接続されている。また、有機発光層OLEDは陽極AND上に塗布した絶縁層で構成されたバンクBNKで囲まれた凹部に蒸着されるが、インクジェット等の塗布手段で形成してもよい。そして、この有機発光層OLEDとバンクBNKを覆って陰極14がベタ膜で形成されている。
【0036】
ボトムエミッション型と称するこの有機EL表示装置は、発光層からの発光光Lがガラス基板SUB1の表面から外部に矢印で示したように出射される。したがって、陰極CTDは光反射能を有するものとされる。ガラス基板SUB1の主面側には、封止缶SUB2(封止ガラス基板)が貼り合わされ、図示しない周辺部を周回するシール内部を真空状態に封止される。
【0037】
図11は、本発明を適用したトップエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。図11に示した有機EL表示装置もアクティブ・マトリクス型であるが、アクティブ素子である薄膜トランジスタは図示を省略した。この例では、有機EL素子を構成する容量構造が示されている。
【0038】
図11において、ガラス基板SUB1の主面に下部容量電極BE、ゲート絶縁膜である第1の絶縁膜IS1、上部容量電極UE、第2の絶縁膜IS2、電源線CL、信号線DL、第3の絶縁膜IS3、およびパス膜(平坦化膜)PSVが形成されている。上部容量電極UEは電源線CLに接続されている。そして、平坦化膜PSVの上に第1の電極としての陰極CTDが成膜されている。
【0039】
陰極CTDは略1画素の領域PAの広がりで成膜されており、端部に絶縁材のバンクBNKが形成されている。このバンクBNK内に電子注入層EIN、電子輸送層ETR、発光層LUM、ホール輸送層HTRからなる有機EL層OLEが積層されている。この有機EL層OLEを覆って複数画素に共通の陽極ANDが成膜されている。なお、ホール輸送層HTRの上にホール注入層が設けられるものもある。
【0040】
陰極CTDは反射性金属からなり、陽極ANDはITO等の透明導電膜で形成される。最上層には保護膜OCが成膜されている。なお、図示しないが、保護膜OCの上部にはガラスを好適とする封止基板が設けられ、有機EL素子を外部雰囲気から密封遮断している。
【0041】
図12は、有機EL表示装置の全体構成例を説明する等価回路図である。図10で説明した構成を有するOLED素子を構成する画素回路からなる画素PXを表示領域ARにマトリクス状に配置して2次元の表示装置を構成している。各画素PXは第1の薄膜トランジスタTFT1と第2の薄膜トランジスタTFT2およびコンデンサCs並びにOLED素子(OLED)で構成される。OLED素子(OLED)は図10に示した陽極ANDと有機発光層OLEDおよび陰極CTDで構成される。表示領域AR内には、各画素に駆動信号を供給するためのドレイン線DLとゲート線GLとが交差配置されている。ガラス基板SUB1の一部は封止缶SUB2を構成するガラス基板よりサイズが大きく、封止缶SUB2からはみ出している。このはみ出し部分にドレインドライバDDRが搭載され、ドレイン線DLに表示信号を供給する。
【0042】
一方、ゲートドライバGDRは封止缶SUB2で覆われるガラス基板SUB1上に、所謂システム・オン・グラスと称する形態で直接形成されている。このゲートドライバGDRにゲート線GLが接続されている。なお、表示領域ARには電源線CLが配置されている。この電源線CLは電源線バス線CBを介して図示しない端子で外部電源に接続している。
【0043】
ゲート線GLは画素PXを構成する第1の薄膜トランジスタTFT1のソース・ドレイン電極の一方(ここでは、ドレイン電極)に接続し、ドレイン線DLはソース・ドレイン電極の一方(ここではソース電極)に接続している。この第1の薄膜トランジスタTFT1は、画素PXに表示信号を取り込むためのスイッチであり、ゲート線GLで選択されてオンとなったときドレイン線DLから供給される表示信号に応じた電荷を容量Csに蓄積する。第2の薄膜トランジスタTFT2は、第1の薄膜トランジスタTFT1がオフした時点でオンとなり、容量Csに蓄積された表示信号の大きさに応じた電流を電源線CLからOLED素子(OLED)に供給する。OLED素子は供給された電流量に応じて発光する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】OLED素子の構造例を説明する模式断面図である。
【図2】ドーパント分子の励起子エネルギー軌道の説明図である。
【図3】可塑剤が存在しない場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。
【図4】可塑剤がキャリアのトラップサイトになる場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。
【図5】可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。
【図6】可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。
【図7】可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。
【図8】可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。
【図9】本発明の有機EL表示装置の実施例1を説明する模式図である。
【図10】本発明を適用したボトムエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。
【図11】本発明を適用したトップエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。
【図12】有機EL表示装置の全体構成例を説明する等価回路図である。
【符号の説明】
【0045】
SUB1・・・ガラス基板、AND・・・陽極(アノード)、HIN・・・ホール注入層、HTR・・・ホール輸送層、LUM・・・発光層、ETR・・・電子輸送層、EIN・・・電子注入層、CTD・・・陰極(カソード)、OLED・・・有機膜(OLED素子)、SUB2・・・封止キャップ、DCD・・・乾燥剤、SL・・・シール材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に係り、特に有機EL素子の作成プロセス中に該素子に取り込まれる可塑剤に起因する発光効率の低下を抑制して長寿命化と信頼性の向上を可能とした有機EL表示装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネル型の表示装置として液晶表示装置(LCD)やプラズマ表示装置(PDP)、電界放出型表示装置(FED)、有機EL表示装置(以下、OLED素子とも称する)などが実用化ないしは実用化研究段階にある。中でも、有機EL表示装置は薄型・軽量の自発光型表示装置の典型としてこれからの表示装置として極めて有望な表示装置である。
【0003】
有機EL表示装置には、所謂ボトムエミッション型とトップエミッション型とがある。ボトムエミッション型の有機EL表示装置は、ガラス基板を好適とする絶縁基板上に、第1の電極または一方の電極としての透明電極(ITO等)、電界の印加で発光する有機多層膜(有機発光層とも言う)、第2の電極または他方の電極としての反射性の金属電極を順次積層した発光機構で有機EL素子が構成される。この有機EL素子をマトリクス状に多数配列し、それらの積層構造を覆って封止缶と称する他の基板を設け、上記発光構造を外部の雰囲気から遮断している。そして、例えば透明電極を陽極とし、金属電極を陰極として両者の間に電界を印加することで有機多層膜にキャリア(電子と正孔)が注入され、該有機多層膜が発光する。この発光をガラス基板側から外部に出射する構成となっている。
【0004】
一方、トップエミッション型の有機EL表示装置は、上記した一方の電極を反射性を有する金属電極とし、他方の電極をITO等の透明電極とし、両者の間に電界を印加することで有機多層膜が発光し、この発光を上記他方の電極側から出射する構成特徴とするなっている。トップエミッション型では、ボトムエミッション型における封止缶として、ガラス板を好適とする透明基板(封止基板)が使用される。
【0005】
有機EL 素子(以下、OLED素子とも称する)の発光原理は以下のとおりである。すなわち、有機蛍光材料を含む多層膜に陰極から一方のキャリアである電子を、陽極から他方のキャリアであるホールを注入する。両キャリアが有機層の中で再結合すると励起子が生成する。この励起子が基底状態に戻るときに発光する。
【0006】
このOLED素子は、通常、基板上に積層される多層の有機層で構成される。通常は、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層の4層あるいは電子輸送層の上に電子注入層を有する5層の有機層で形成されることが多い。この種の従来技術を開示したものとしては、特許文献1、特許文献2、特許文献3を挙げることができる。
【特許文献1】特開平5−258859号公報
【特許文献2】特開平5−258860号公報
【特許文献3】特開平5−275172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
OLED素子の最重要課題は長寿命化である。OLED素子が点灯時間とともに輝度や電圧一電流特性が低下する原因はまだよく解明されていない。劣化原因として材料起因、素子構造起因、蒸着プロセス起因、などが指摘されているが詳細はよく理解されていないのが現状である。本発明の目的は、長寿命化したOLED素子を用いた有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、寿命向上を検討するなかで、素子作成プロセス中に素子に取り込まれる可塑剤が劣化の一因であることを見出し、OLED素子に含まれる可塑剤の量を100ppm以下、好ましくは10ppm以下とした点を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
有機EL表示装置はOLED素子を集積したディスプレイである。有機EL表示装置の寿命はほぼOLED素子の寿命で決まるため、OLED素子の長寿命化をはかることにより有機EL表示装置の長寿命化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
先ず、OLED素子の動作原理を詳しく説明する。
【0011】
図1は、OLED素子の構造例を説明する模式断面図である。図1によりOLED素子の素子構成を詳細に説明する。ガラスなどの絶縁基板SUB1の主面に、先ず一方の電極、ここでは陽極(通常ITO(lndium‐Tin‐Oxide)が使用される)ANDが成膜され、この陽極AND上にホール注入層HIN、ホール輸送層HTR、発光層LUM、電子輸送層ETR、電子注入層(通常フッ化リチウムが使用される)EIN、他方の電子としてここでは陰極CTD、が順次成膜される。これらの層のうち、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が有機材料の蒸着等で形成される。
【0012】
ホール注入層HIN、ホール輸送層HTRは陽極ANDから注入されたホールを発光層LUMに輸送する機能を有し、電子輸送層ETRは陰極CTDから注入された電子を発光層LUMに輸送する機能を有する。発光層LUMは通常、キャリア(ホール、電子)を輸送する機能を有するホスト材料に蛍光発光機能を有するゲスト材料(ドーパント)を共蒸着した有機膜であり、ホール輸送層HTRから注入されたホールと電子輸送層ETRから注入された電子は発光層LUM中の分子内で再結合する。
【0013】
ドーパント分子内で再結合した場合には直接励起子が形成される。一方、ホスト分子内で再結合しホスト分子の励起子が形成された場合にもそのエネルギーはドーパントに移動してドーパント分子の励起子が形成される。
【0014】
図2は、ドーパント分子の励起子エネルギー軌道の説明図である。前記のようにして形成されたドーパント励起子は図2に示すようにHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital、最高占有軌道)に1電子、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital、最低非占有軌道)に1分子が存在する励起分子である。
【0015】
OLED素子では、ドーパントとして蛍光量子収率の高い材料を使用しているためドーパント励起子は蛍光を発して基底状態に戻る。
【0016】
以上がOLED素子の正常な発光過程の一例である。しかし現状のOLED素子は長時間発光させると次第に効率が低下する間題があり、この間題を解決することがOLED素子の最重要課題となっている。
【0017】
以下、OLED素子の劣化現象をより詳細に記述する。OLED素子を電流量一定で連続通電して発光させた場合、主に二つの劣化現象が起こる。第一は輝度が徐々に低下する現象、第二は電圧が徐々に上昇する現象である。第一の輝度低下は発光層の中のドーパント励起子生成効率の低下が原因と考えられる。第二の電圧上昇は輸送層の易動度低下、あるいは界面でのキャリア注入障壁の増大が原因と考えられる。しかしこれらの劣化を引き起こす化学反応についてはよく理解されていない。
【0018】
本発明者等は、OLED素子の劣化を引き起こす要因のひとつがクリーンルーム内あるいは蒸着装置内の可塑剤のコンタミネーションではないかと考えた。可塑剤とは塗料、建材等のブラスチック品に柔軟性を持たせるためにプラスチックに添加されている低分子の化合物である。最もよく用いられる可塑剤は2塩基酸のエステル化合物である。
【0019】
その例として、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル(以下ではDBPと略す)、フタル酸ジオクチル(正式には、フタル酸ビス(2―エチルヘキシル)、以下ではDOPと略す)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、アジビン酸ビス(2―エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジn―ヘキシル、等が代表的な可塑剤である。これらのうち、DOP、DBP、DlNPが最も汎用的に使用されている。
【0020】
ITOを形成したOLED基板に付着した可塑剤、および蒸着膜中に取り込まれた可塑剤はOLED素子を発光させるため通電すると電気化学的反応により、次第に分解反応が進行してキャリアのトラップサイトになると考えられる。以下、可塑剤の有無によるOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する。
【0021】
図3は、可塑剤が存在しない場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。OLED素子は、通電するとホール注入層材料およびホール輸送層材料は酸化されてラジカルカチオンに、電子輸送層材料は還元されてラジカルアニオンなる。これらのラジカルカチオンやラジカルアニオンは、隣接する分子を酸化あるいは還元することによりキャリァが次々に輸送される。図3では、ホールを示すラジカルアニオンを「丸で囲んだ−」で、電子を示すラジカルカチオンを「丸で囲んだ+」で示す。
【0022】
一般に、ラジカルカチオンやラジカルアニオンは比校的不安定な状態であるが、OLED素子に使用する材料はこのようなラジカルイオン状態でも構造変化を起こさない安定な材料が選ばれている。したがって、不純物を含まない素子では図3に示すように、隣接分子間で酸化還元を繰り返すことによりキャリアが発光層に輸送される。しかし膜中に可塑剤が含まれているとホール注入層材料やホール輸送材料のラジカルカチオンや、電子輸送層材料のラジカルアニオンと反応して次の図4に示すようにキャリアをトラップする準位を形成する。
【0023】
図4は、可塑剤がキャリアのトラップサイトになる場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。ホール注入層およびホール輸送層中のトラップにはホールがトラップされて正に帯電するため易動度が低下する。このため一定の電流を流すにはより高い電圧が必要になる。同様に電子輸送層のトラップには電子がトラップされて負に帯電するため易動度が低下する。このため一定の電流を流すにはより高い電圧が必要になる。陰極と陽極に印加する電圧は初期では図3に示す△Voであるが、劣化後は図4に示す△V1の電圧が必要となってしまう。
【0024】
すなわち、△V1一△Voだけ電圧が上昇する。また、界面でトラップが形成された場合にもチャージが溜まるため電圧が上昇する。また、発光層にはホールも電子も注入されるため、発光層中の可塑剤が変質するとホールトラッブも電子トラップも共に形成され電圧が上昇する。可塑剤の変質により発光層中に形成されたトラップは、電圧上昇と同時に輝度低下も引き起こす。すなわち、発光層内に注入されたホールと電子との再結合が変質した可塑剤分子内で起こるようになる。変質可塑剤は蛍光発光能がなく再結合エネルギーは熱に変換される、つまり熱失活サイトになる。
【0025】
上記したような、可塑剤がOLED素子内に取り込まれた場合にOLED素子寿命がどの程度低下するかを検討した。可塑剤としてDOPおよびDBPを用いた。種々の濃度の可塑剤を吸着させたITO基板(ITOを成膜した基板)を用いたOLED素子、および種々の濃度で可塑剤を共蒸着したOLED素子を作製した。これらの素子の寿命を比較することにより素子寿命に対する可塑剤の影響を評価した。結果を図5から図8に示す。
【0026】
図5は、可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図、図6は、可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。また、図7は、可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図、図8は、可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。.
【0027】
これらの検討結果から、可塑剤の量が100ppmを超えると急激に素子寿命が低下することが示される。そして、10ppm以下では輝度半減寿命、電圧上昇値とも変化が極めて少ないことが示される。
【0028】
以上述べた結果から、OLED素子中の可塑剤を100ppm以下、好ましくは10ppm以下にすることによりOLED素子寿命を大幅に向上させることができることが分った。これに基づいたOLED素子とこのOLED素子を用いた有機EL表示装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0029】
図9は、本発明の有機EL表示装置の実施例1を説明する模式図であり、図9(a)は平面図、図9(b)は図9(a)のA-B線に沿った断面図である。図9において、先ず、板厚が7mm、縦横サイズが50mm×50mm大きさのガラス基板SUB1に酸化珪素膜をCVD法により成膜した。酸化珪素膜は、所謂下地膜である。この上に陽極となるITOをスパッタで形成し、ついでフォトエ程にて1mm幅のストライプパターンを形成し、陽極ANDを形成した。
【0030】
ガラス基板SUB1の中央部の20mm×20mmの部分にOLEDを構成する有機膜として、NPD、クマリンをドープしたAIq3、Alq3、フッ化リチウムを順次蒸着してOLED素子構造を形成した。厚さは、それぞれ60nm、30nm、20nm、1nmとした。次に、1mm幅のアルミニウム(200nm)を陽極ANDと直交するように蒸着してカソード(陰極)CTDとした。最後に、乾燥剤DCNを装填した封止キャップSUB2をガラス基板SUB1に被せ、周囲をUV硬化型シール材SLを用いて封止した。
【0031】
なお、有機膜の蒸着前にガラス基板SUB1を可塑剤(DOPあるいはDBP)の蒸気に暴露した素子、および有機幕の蒸着時に可塑剤を共蒸着した素子も作製した。このとき、暴露条件を変えること、および共蒸着時に可塑剤の蒸着温度を変えることにより可塑剤の異なる素子を作製した。
【0032】
作製した種々のOLED素子に含まれる可塑剤はGC−MS(ガスクロマトグラム‐マススペクトロスコピー)により定量分析した。作製した素子は定電流の直流電流を通電して輝度が半減するまでの時間を測定した。輝度が半減したとき電圧値と初期電圧値との差を電圧上昇とした。通電試験における初期輝度は500cd/m2とした。前記の測定結果(図5から図8)に示した。これらの図から可塑剤の量は100ppm以下、好ましくは10ppm以下である場合に長寿命の素子が得られることは前述したとおりである。
【0033】
図10は、本発明を適用したボトムエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。図10に示した有機EL表示装置はアクティブ・マトリクス型であり、ガラス基板SUB1の主面に薄膜トランジスタTFTを有する。この薄膜トランジスタTFTで駆動される一方の電極である陽極ANDと、他方の電極である陰極CTDの間に有機発光層OLEDを挟んで発光部を構成している。なお、薄膜トランジスタTFTは、ポリシリコン半導体層PSI、ゲート絶縁層ISI、ゲート線(ゲート電極)GL、ソース・ドレイン電極SD、層間絶縁層IS2、IS3で構成される。
【0034】
有機発光層OLEDは、例えば、陽極側から、少なくと、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる積層される。なお、ホール輸送層の下層にホール注入層を設けるものもある。
【0035】
画素電極である陽極ANDは、パッシベーション層PSVの上層に成膜された透明導電層(ITO等)で構成され、パッシベーション層PSVと層間絶縁層IS3に開けたコンタクトホールで薄膜トランジスタTFTのソース・ドレイン電極SDに電気的に接続されている。また、有機発光層OLEDは陽極AND上に塗布した絶縁層で構成されたバンクBNKで囲まれた凹部に蒸着されるが、インクジェット等の塗布手段で形成してもよい。そして、この有機発光層OLEDとバンクBNKを覆って陰極14がベタ膜で形成されている。
【0036】
ボトムエミッション型と称するこの有機EL表示装置は、発光層からの発光光Lがガラス基板SUB1の表面から外部に矢印で示したように出射される。したがって、陰極CTDは光反射能を有するものとされる。ガラス基板SUB1の主面側には、封止缶SUB2(封止ガラス基板)が貼り合わされ、図示しない周辺部を周回するシール内部を真空状態に封止される。
【0037】
図11は、本発明を適用したトップエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。図11に示した有機EL表示装置もアクティブ・マトリクス型であるが、アクティブ素子である薄膜トランジスタは図示を省略した。この例では、有機EL素子を構成する容量構造が示されている。
【0038】
図11において、ガラス基板SUB1の主面に下部容量電極BE、ゲート絶縁膜である第1の絶縁膜IS1、上部容量電極UE、第2の絶縁膜IS2、電源線CL、信号線DL、第3の絶縁膜IS3、およびパス膜(平坦化膜)PSVが形成されている。上部容量電極UEは電源線CLに接続されている。そして、平坦化膜PSVの上に第1の電極としての陰極CTDが成膜されている。
【0039】
陰極CTDは略1画素の領域PAの広がりで成膜されており、端部に絶縁材のバンクBNKが形成されている。このバンクBNK内に電子注入層EIN、電子輸送層ETR、発光層LUM、ホール輸送層HTRからなる有機EL層OLEが積層されている。この有機EL層OLEを覆って複数画素に共通の陽極ANDが成膜されている。なお、ホール輸送層HTRの上にホール注入層が設けられるものもある。
【0040】
陰極CTDは反射性金属からなり、陽極ANDはITO等の透明導電膜で形成される。最上層には保護膜OCが成膜されている。なお、図示しないが、保護膜OCの上部にはガラスを好適とする封止基板が設けられ、有機EL素子を外部雰囲気から密封遮断している。
【0041】
図12は、有機EL表示装置の全体構成例を説明する等価回路図である。図10で説明した構成を有するOLED素子を構成する画素回路からなる画素PXを表示領域ARにマトリクス状に配置して2次元の表示装置を構成している。各画素PXは第1の薄膜トランジスタTFT1と第2の薄膜トランジスタTFT2およびコンデンサCs並びにOLED素子(OLED)で構成される。OLED素子(OLED)は図10に示した陽極ANDと有機発光層OLEDおよび陰極CTDで構成される。表示領域AR内には、各画素に駆動信号を供給するためのドレイン線DLとゲート線GLとが交差配置されている。ガラス基板SUB1の一部は封止缶SUB2を構成するガラス基板よりサイズが大きく、封止缶SUB2からはみ出している。このはみ出し部分にドレインドライバDDRが搭載され、ドレイン線DLに表示信号を供給する。
【0042】
一方、ゲートドライバGDRは封止缶SUB2で覆われるガラス基板SUB1上に、所謂システム・オン・グラスと称する形態で直接形成されている。このゲートドライバGDRにゲート線GLが接続されている。なお、表示領域ARには電源線CLが配置されている。この電源線CLは電源線バス線CBを介して図示しない端子で外部電源に接続している。
【0043】
ゲート線GLは画素PXを構成する第1の薄膜トランジスタTFT1のソース・ドレイン電極の一方(ここでは、ドレイン電極)に接続し、ドレイン線DLはソース・ドレイン電極の一方(ここではソース電極)に接続している。この第1の薄膜トランジスタTFT1は、画素PXに表示信号を取り込むためのスイッチであり、ゲート線GLで選択されてオンとなったときドレイン線DLから供給される表示信号に応じた電荷を容量Csに蓄積する。第2の薄膜トランジスタTFT2は、第1の薄膜トランジスタTFT1がオフした時点でオンとなり、容量Csに蓄積された表示信号の大きさに応じた電流を電源線CLからOLED素子(OLED)に供給する。OLED素子は供給された電流量に応じて発光する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】OLED素子の構造例を説明する模式断面図である。
【図2】ドーパント分子の励起子エネルギー軌道の説明図である。
【図3】可塑剤が存在しない場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。
【図4】可塑剤がキャリアのトラップサイトになる場合のOLED素子の発光機構をエネルギー準位で説明する図である。
【図5】可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。
【図6】可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの輝度半減寿命(相対値)の変化を示す図である。
【図7】可塑剤としてDOPを用いて当該DOPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。
【図8】可塑剤としてDBPを用いて当該DBPの濃度を変えたときの電圧上昇値の変化を示す図である。
【図9】本発明の有機EL表示装置の実施例1を説明する模式図である。
【図10】本発明を適用したボトムエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。
【図11】本発明を適用したトップエミッション型の有機EL表示装置の1つの有機EL素子すなわち1画素付近の構成例を説明する断面図である。
【図12】有機EL表示装置の全体構成例を説明する等価回路図である。
【符号の説明】
【0045】
SUB1・・・ガラス基板、AND・・・陽極(アノード)、HIN・・・ホール注入層、HTR・・・ホール輸送層、LUM・・・発光層、ETR・・・電子輸送層、EIN・・・電子注入層、CTD・・・陰極(カソード)、OLED・・・有機膜(OLED素子)、SUB2・・・封止キャップ、DCD・・・乾燥剤、SL・・・シール材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の主面上に複数の有機EL素子を備えた有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に挟み込まれた有機層とを有し、
前記有機層に含まれる可塑剤の濃度が100ppm以下であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
絶縁基板の主面上に複数の有機EL素子を備えた有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に挟み込まれた有機層とを有し、
前記有機層に含まれる可塑剤の濃度が10ppm以下であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機EL表示装置であって、
前記絶縁基板の主面に前記陽極が成膜され、該陽極の上に前記有機層を有し、該有機層の上層に前記陰極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL表示装置であって、
前記有機層が、前記陽極側から順次積層された、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を少なくとも有し、該電子注入層の上層に陰極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の有機EL表示装置であって、
前記絶縁基板の主面に前記陰極が成膜され、該陰極の上に前記有機層を有し、該有機層の上層に前記陽極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL表示装置であって、
前記有機層が、前記陰極側から順次積層された、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層を少なくとも有し、その上層に陽極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記可塑剤がフタル酸ジオクチルであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記可塑剤がフタル酸ジブチルであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記ホール注入層が、五酸化バナジウムを含むことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記陽極の上方に、前記有機EL素子を封止する光透過性の封止基板を備えていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項1】
絶縁基板の主面上に複数の有機EL素子を備えた有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に挟み込まれた有機層とを有し、
前記有機層に含まれる可塑剤の濃度が100ppm以下であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
絶縁基板の主面上に複数の有機EL素子を備えた有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に挟み込まれた有機層とを有し、
前記有機層に含まれる可塑剤の濃度が10ppm以下であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機EL表示装置であって、
前記絶縁基板の主面に前記陽極が成膜され、該陽極の上に前記有機層を有し、該有機層の上層に前記陰極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL表示装置であって、
前記有機層が、前記陽極側から順次積層された、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を少なくとも有し、該電子注入層の上層に陰極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の有機EL表示装置であって、
前記絶縁基板の主面に前記陰極が成膜され、該陰極の上に前記有機層を有し、該有機層の上層に前記陽極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL表示装置であって、
前記有機層が、前記陰極側から順次積層された、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層を少なくとも有し、その上層に陽極が成膜されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記可塑剤がフタル酸ジオクチルであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記可塑剤がフタル酸ジブチルであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記ホール注入層が、五酸化バナジウムを含むことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれかに記載の有機EL表示装置であって、
前記陽極の上方に、前記有機EL素子を封止する光透過性の封止基板を備えていることを特徴とする有機EL表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−95759(P2007−95759A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279658(P2005−279658)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
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