有機EL表示装置
【課題】マイクロキャビティ構造を取り入れた有機EL表示装置において、斜めから見たときの色純度及び輝度の低下を抑制して視野角特性を向上させるとともに、コスト低減を図る。
【解決手段】マイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置において、凸状湾曲形状部15を画素開口部に対応するように層間絶縁膜14の有機EL素子3形成箇所に膨出形成する。有機EL素子3の有機層20を凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成する。
【解決手段】マイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置において、凸状湾曲形状部15を画素開口部に対応するように層間絶縁膜14の有機EL素子3形成箇所に膨出形成する。有機EL素子3の有機層20を凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL(Electro Luminescence)表示装置に関し、特にマイクロキャビティ(微小光共振器)構造を取り入れた有機EL表示装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のメインディスプレイやポータブルメディアプレーヤー等の中小型表示端末においては、色再現性の良さや広視野角等の特徴を活かして、有機EL表示装置が活発に用いられている。それらに使用されている有機EL表示装置はアクティブマトリクス型とパッシブマトリクス型とがある。そのうち、アクティブマトリクス型の有機EL表示装置においては、ガラス基板等に薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)がマトリクス状に形成されており、さらにその上に個々の薄膜トランジスタに対して有機EL素子が形成されている。薄膜トランジスタと有機EL素子との間には、平坦化膜及び絶縁膜として層間絶縁膜が形成されており、また、有機EL素子内には、電極端での短絡を防止するためのエッジカバーが形成されているのが一般的である。これら層間絶縁膜及びエッジカバーには、誘電率や膜厚、平坦化のし易さ、パターン形成の簡便さ、パターン端部が下地となす傾斜角(テーパ角)等を鑑み、通常は感光性有機樹脂膜が使用されている。感光性有機樹脂としては、ノボラック系、アクリル系、ポリイミド系等の樹脂が用いられる。
【0003】
さらに、有機EL素子においては、発光の色度や発光効率を向上するために、マイクロキャビティ構造を利用することが行われる。マイクロキャビティとは、発光した光が陽極と陰極との間で多重反射し、共振することで発光スペクトルが急峻になり、また、ピーク波長の発光強度が増大する現象である。陽極や陰極の反射率及び膜厚、有機層の膜厚等を最適に設計することで、所望の効果を得ることができる。例えば、トップエミッション型の有機EL素子の場合、反射率の高いアルミニウムとインジウム亜鉛酸化物(IZO)との積層膜を陽極側に形成し、有機層を適宜積層した後、薄膜で半透明状態の銀を陰極として用いることでマイクロキャビティ構造が形成される。そのため、有機層から発光され、銀電極を通して出射された光のスペクトルは、同構造がない場合よりも急峻になり、また正面への出射強度が大きく増大する。
【0004】
このように、マイクロキャビティ構造を取り入れると、好適な効果を得ることができるが、一方で、光学特性に視角依存性が現れるという問題が発生する。すなわち、本来、マイクロキャビティの現象が発生していない場合には、有機EL素子からの発光は等方的な傾向があり、また視角に対して色度の変化は生じないが、マイクロキャビティ構造を取り入れると、視角によって輝度が急激に低下したり、色度が著しく変化する。したがって、斜め方向から見た場合に画面が暗くなったり、本来表示したい色とは別の色に見えることになる。
【0005】
また、マイクロキャビティ構造は、有機層の膜厚が変わる(すなわち、最適な条件からずれる)ことにより、その効果が変化する。したがって、上記で述べた問題の対策として、マイクロキャビティの最適な条件から有機層の総膜厚をずらし、上記の問題を緩和する方法が考えられるが、同時にマイクロキャビティ構造による色純度の向上や発光効率の向上の効果が低減してしまうことになる。
【0006】
そこで、特許文献1では、段差形成層を画素内の一部に形成し、さらにその上に距離調整層を形成することによって、画素内の部分でそれらの光学距離が各々異なるようにしている。これによれば、画素内に光学距離の異なる領域が存在することで、取り出される光のスペクトルのピーク波長が光学的距離に応じて異なり、それらを合成したスペクトルの半値幅が広くなって視野角特性が向上するとされている。
【0007】
一方、特許文献2では、凹凸形成層を画素内に設けることによって、画素内で発光層の膜厚を異ならせている。これによれば、各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射されるため、発光層等の膜厚が最適条件からずれた場合においても、出射光の波長がシフトすることを最小限に抑えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−234581号公報(段落0034欄、図5)
【特許文献2】特開2006−269251号公報(段落0022欄〜段落0025欄、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構造を用いた場合、スペクトルの半値幅が広くなることで視野角特性の向上を期待できる反面、スペクトルの半値幅が広くなると斜めから見たときの色純度が低下する。しかも、光学距離が画素内で異なるということは、すなわち、有機層の膜厚が画素内で異なることを意味する。したがって、同一の電圧が電極間に加えられても、光学距離の短い(有機層の膜厚が薄い)部分に電流が集中してしまうことになる。そのため、有機層の膜厚が小さい部分の発光スペクトルが優勢になるだけでなく、流れる電流の大きさの差異に従って輝度劣化も異なってくることになり、画素内で劣化度合いの異なる部分が形成されて、合成された発光スペクトルの形状が変化するため、結果的に経時的な色度の変化が発生してしまうことになる。さらに、段差形成層及び距離調整層を形成しなければならず、コストの増大を招いてしまう。
【0010】
一方、特許文献2の構造を用いた場合においても、上記特許文献1と同様の問題が発生する。すなわち、各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射されることに起因する色純度の低下、発光層(有機層)の膜厚が画素内で異なることに起因する経時的な色度の変化、及び凹凸形成層の形成によるコスト増大を招く。
【0011】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マイクロキャビティ構造を取り入れた有機EL表示装置において、斜めから見たときの色純度及び輝度の低下を抑制して視野角特性を向上させるとともに、コスト低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、この発明は、有機EL素子形成箇所に対応する基板上の層間絶縁膜を凸状湾曲形状に形成したことを特徴とする。
【0013】
具体的には、この発明は、下部電極、有機層及び上部電極からなる有機EL素子が基板上に層間絶縁膜を介して形成され、上記有機層から射出される光を所定の光学長の範囲内で繰り返し反射させることで特定の波長の光を増強選択するマイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0014】
すなわち、第1の発明は、上記層間絶縁膜の有機EL素子形成箇所には、凸状湾曲形状部が画素開口部に対応するように膨出形成され、上記有機EL素子の有機層は、上記凸状湾曲形状部の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部上に均一な膜厚に形成されていることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に1つ収められていることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に複数収められていることを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ二軸方向に凸状に湾曲していることを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をしていることを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で矩形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第1〜第7の発明によれば、画素の発光面を凸状湾曲形状にしているので、斜めの視角でも色度が大きく変化するのを抑制することができ、輝度の急激な低下をも抑制することができる。したがって、正面方向でも斜め方向でも、マイクロキャビティ構造による好適な効果が得られる高品位な有機EL表示装置を実現することができる。
【0022】
さらに、有機層は、層間絶縁膜の凸状湾曲形状部に倣って形成されて、その膜厚が画素内の各領域で変化せずに均一であるので、画素内の一部に電流が集中してその部分の輝度劣化が他の部分よりも加速されることによる経時的な色度変化をなくすことができる。
【0023】
また、特許文献1における段差形成層及び距離調整層や、特許文献2における凹凸形成層を形成せずに済むので、その分だけコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る有機EL表示装置の模式図である。
【図2】実施形態に係る有機EL表示装置を構成する各画素となる有機EL素子の平面図であり、便宜上、電源供給線、データ線及び走査線を実線で表し、エッジカバーから上層部分を省略している。
【図3】図2のIII −III 線に相当する断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に相当する断面図である。
【図5】二重露光の手法により層間絶縁膜に凸状湾曲形状部を形成するパターニング工程図である。
【図6】凸状湾曲形状部を15等分した際の各々の領域において凸状湾曲形状部表面がTFT基板となす角度(θ1〜θ6)を説明する説明図である。
【図7】凸状湾曲形状部表面がTFT基板となす角度(θ1〜θ6)の条件を変えた表である。
【図8】図7の条件において、視角を変化させた場合の色度x、色度y及び輝度の変化を示すグラフである。
【図9】図8に基づき視覚を0°から80°まで変化させたときの色度の最大変化量(最大値−最小値)と正面輝度とを示す表である。
【図10】凸状湾曲形状部の各種形状を示す図である。
【図11】従来例の図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0026】
図1はこの発明の実施形態に係る有機EL表示装置1の模式図であり、本例ではRGBフルカラー表示の有機EL表示装置1を例示する。図1中、2は、ここでは図示しないが薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)がマトリクス状に形成されたTFT基板であり、該TFT基板2上には有機EL素子3が形成されている。該有機EL素子3は、上記TFT基板2に対向配置された封止基板4と、有機EL素子3を取り囲むように配置された樹脂製シール材5とで密封され、封止基板4とシール材5との間に形成された空間に不活性ガス6が充填され、これにより、外部から酸素や水分が有機EL素子3に浸入するのを防止している。
【0027】
上記TFT基板2としては、例えば厚さが0.7〜1.1mm、縦長さが400〜500mm、及び横長さが300〜400mmのガラス基板7(図3及び図4参照)をベース板として用いている。封止基板4としては、例えば厚さが0.4〜1.1mmのガラス基板である。また、縦長さ及び横長さは有機EL表示装置1のサイズにより適宜調整されるか、あるいはTFT基板2と略同一サイズのガラス基板を用い、封止後に有機EL表示装置1のサイズに従い分断される。
【0028】
なお、本例では、TFT基板2のベース板及び封止基板4としてガラス基板を用いているが、プラスチック基板等の他の材料を用いることもできる。また、封止基板4とシール材5との間に形成された空間に樹脂を充填したり、あるいはシール材5の代わりにガラスフリットを用いてTFT基板2と封止基板4とを融着させるような構成を採ってもよい。
【0029】
図2は上記有機EL表示装置1を構成する各画素となる有機EL素子3の平面図を、図3は図2のIII −III 線に相当する断面図を、図4は図2のIV−IV線に相当する断面図をそれぞれ示す。
【0030】
図2〜図4において、8は電流供給線、9はデータ線であり、これらはストライプ状に配列され、これら電流供給線8及びデータ線9に対して走査線10が直交する方向に配列されている。上記データ線9と走査線10との交点には、薄膜トランジスタ11がマトリクス状に形成され、データ線9と走査線10とで画素12が区画形成されている。上記有機EL素子3は各画素12に形成されており、後述するエッジカバー19が真円形状に除去されている画素開口部13が各画素12の発光領域となっている。なお、図2では、便宜上、電源供給線8、データ線9及び走査線10を実線で表し、エッジカバー19から上層部分を省略している。
【0031】
上記ガラス基板7上には、層間絶縁膜14が上記薄膜トランジスタ11、電流供給線8、データ線9及び走査線10を覆うように形成され、これにより、TFT基板2が構成されている。上記層間絶縁膜14の有機EL素子3形成領域には、この発明の最大の特徴の1つとして、凸状湾曲形状部15が上記画素開口部13に対応するように凸レンズ状に膨出形成され、該凸状湾曲形状部15は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されている。つまり、各画素12の発光面は、球面形状の一部を呈している。この実施形態では、画素開口部13が有機層20の赤(R)、緑(G)、青(B)の発光層23に対応して3つ形成され、凸状湾曲形状部15が1つの画素開口部13内に1つ収められている。
【0032】
層間絶縁膜14の材料としては、アクリル樹脂やポリイミド樹脂等の感光性樹脂をスピンコートし、フォトリソグラフィ技術によって露光、現像することでパターニングすることができる。アクリル樹脂としては例えば、JSR社製のオプトマーシリーズ等が使え、ポリイミド樹脂としては、東レ社製のフォトニースシリーズ等を使うことができるが、材料はこれに限らず、任意の感光性樹脂を用いることができる。その際、二重露光の手法を用いることで、表面が凸状に本局した凸状湾曲形状部15を有する層間絶縁膜14を得ることができる。
【0033】
図5は、例えばポジ型の感光性樹脂Rを用いてTFT基板2上に層間絶縁膜14を形成する手順を示したものである。まず、TFT基板2上にスピンコートした感光性樹脂Pに対し、図5(a)のように、フォトマスク16を用いて初めに除去したい領域p1(白抜きで示す)のみに対して除去に必要な量の露光を矢印のように行う。次に、図5(b)のように凹部としたい領域p2(白抜きで示す)には、フォトマスク17を用いて初めよりも低く、除去には足りない量の露光を矢印のように行う。その後、現像することで、図5(c)のように、表面に凹凸を有する膜14′が得られ、適宜焼成することで、図5(d)のように、所望の凸状湾曲形状部15を有する層間絶縁膜14を得ることができる。
【0034】
上記層間絶縁膜14上には、下部電極18、エッジカバー19、有機層20及び上部電極21が順次積層され、上記有機層20は、正孔輸送層22、発光層23及び電子輸送層24が下部電極18側から上部電極21側に順に積層されて構成されている。これらにより有機EL素子3が構成され、該有機EL素子3がガラス基板7上に層間絶縁膜14を介して形成されている。
【0035】
上記下部電極18は、有機層20に正孔を注入する機能を有するものであり、上記上部電極21は、有機層20に電子を注入する機能を有するものであり、上記下部電極18は、層間絶縁膜14に穿設されたコンタクトホール25を介して薄膜トランジスタ11と電気的に接続されている。
【0036】
上記下部電極18は、フォトリソグラフィ技術により露光、現像を行い、エッチング法を用いてパターンニングして形成される。下部電極18は、発光素子の陽極であり、材料としては、Au、Ni、Ptや透明性導電膜であるITO(酸化インジウム酸化スズ合金)、酸化インジウム酸化亜鉛合金(In2O3−ZnO)や酸化亜鉛(ZnO)等を用いることができ、成膜法としては既知の方法が利用できる(例えばスパッタ法や蒸着法)。さらに、下地膜としてAlやAgを用い、反射性を付与することもできる。下部電極18の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0037】
上記エッジカバー19は、下部電極18のパターン端部を被覆し、パターン端部による電極間短絡を防止するための層であり、層間絶縁膜14と同様の材料、プロセスにて形成される。また、無機膜等を成膜し、パターニングを行って、エッジカバー19を形成することもできる。
【0038】
上記有機層20としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層が挙げられ、発光層以外は適宜必要に応じて挿入される。また、輸送層と注入層が一層で兼ねられていてもよく、無機膜が用いられてもよい。本例では、上述の如く正孔輸送層22、発光層23及び電子輸送層24の3層構造の有機層20を例示する。
【0039】
有機層20の作製方法は既知のプロセスにより形成される。本例では、シャドウマスクを用いた真空蒸着法にてパターン形成を行っているが、これに限らず、スプレー法やインクジェット法、印刷法やレーザ転写法等を用いることもできる。
【0040】
正孔注入層及び正孔輸送層22は、それぞれ陽極から発光層への正孔注入効率及び正孔輸送効率を高める機能を有する層である。正孔注入層及び正孔輸送層22の材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、あるいはこれらの誘導体、又は、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物或いはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマー或いはポリマー等が挙げられる。正孔注入層と正孔輸送層22は一体化していてもよく、独立した層として形成されていてもよく、各々の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0041】
発光層23は、陽極側から注入された正孔と陰極側から注入された電子とを再結合させ、エネルギーを失括する際に光を出射する機能を有する層である。発光層23は、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の発光効率が高い材料で形成されている。発光層23の材料としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、インデン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、ピセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、ペンタフェン、ペンタセン、コロネン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、或いはこれらの誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ジトルイルビニルビフェニル等が挙げられる。発光層23の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0042】
電子輸送層24及び電子注入層は、それぞれ、陰極から発光層23への電子輸送効率及び電子注入効率を高める機能を有する。電子輸送層24及び電子注入層の材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、フェナントロリン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、又はこれらの誘導体や金属錯体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、1,10−フェナントロリン又はこれらの誘導体や金属錯体等が挙げられる。電子輸送層24と電子注入層は一体化していてもよく、独立した層として形成されていてもよく、各々の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0043】
上部電極21は、有機層20に電子を注入する機能を有しており、仕事関数の小さい金属等が好適に用いられ、例えば、Ag、Al、マグネシウム合金(MgAg等)、アルミニウム合金(AlLi、AlCa、AlMg等)、金属カルシウム等が挙げられる。または、フッ化リチウム(LiF)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)等の積層により形成されていてもよい。上部電極21の膜厚としては、例えば10〜100nmであるが、半透明性等の特性を得るために適宜調整される。
【0044】
上記有機EL素子3の有機層20は、上記凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成されている。下部電極18及び上部電極21も同様に、上記凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成されている。すなわち、ガラス基板7と層間絶縁膜14の凸状湾曲形状部15表面とのなす角度がいくらあったとしても、有機層20の膜厚は同一である。換言すれば、各画素12内で有機層20の膜厚が変わることはない。
【0045】
本例の有機EL表示装置1は、マイクロキャビティ構造を取り入れており、封止基板4側から発光を取り出すトップエミッション型を例示するが、これに限らず、マイクロキャビティ構造が適用されているのであれば、TFT基板2側から発光を取り出すボトムエミッション型であってもよい。また、ボトムエミッション型では、TFT基板2と封止基板4との間の空間に乾燥剤を封入し、外部からの水分や酸素の浸入に対してさらに耐性を向上させるようにしてもよい。
【0046】
マイクロキャビティ構造は、下部電極18と上部電極21との間での光の共振効果を利用しており、有機層20の発光層23の赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の光の波長はそれぞれ異なるため、各色の発光スペクトルピーク波長に下部電極18と上部電極21との間の光路長を合わせるべく、発光層23の膜厚を赤(R)が一番厚く、青(B)が一番薄く、緑(G)がその中間の厚みにそれぞれ設定することで、各色から最も強い光を取り出すようにしている(図3参照)。これにより、有機層20から出射される光は、上部電極21と下部電極18との間で所定の光学長の範囲内で反射を繰り返し、光路長の合った特定の波長の光を共振させて増強選択する一方、光路長のずれた波長の光を弱め、外部に取り出される発光スペクトルが急峻でかつ高強度になり、輝度及び色純度が向上するようになっている。
【0047】
次に、図3及び図4を参照しつつ有機EL表示装置1の製造方法について説明する。
【0048】
まず、基板サイズが320×400mmで、厚さが0.7mmのガラス基板7に有機EL素子3を駆動するための薄膜トランジスタ11を既知のプロセスにて所定の間隔で多数形成した。
【0049】
その後、薄膜トランジスタ11の上にポジ型の感光性アクリル樹脂を4μmの膜厚でスピンコート塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて現像、露光し、焼成を行って、パターニングを行った。その際、層間絶縁膜14の画素12に当たる領域が凸状となるようにし、凸部頂点の膜厚を4μm、平坦部の膜厚を2μmとした。また、ガラス基板7と層間絶縁膜14表面の凸部のなす角度が凸部断面を7等分した際に、均等に略30°、20°、10°、0°、−10°、−20°、−30°となるようにした。具体的な作製プロセスとして、二重露光の手法を用い、コンタクトホール25や層間絶縁膜14が不要な領域には、1回目露光として360mJ/cm2の露光量で露光を実施した。次に、層間絶縁膜14表面の凹部としたい領域に対して、2回目の露光として80mJ/cm2の露光量で露光を実施した。その後、アルカリ現像液で現像を行った後、50℃/minで25℃から220℃まで昇温し、220℃で保持したまま、大気中で1時間の焼成を行った。この作製プロセスにより、上記のような膜厚と角度を有する層間絶縁膜14表面、つまり、平面視で真円形状の凸状湾曲形状部15が凸レンズ状に膨出形成されて球面形状に一部で構成された層間絶縁膜14を得ることができた。
【0050】
次に、下部電極18として、スパッタ法によりAg膜を100nm、ITO膜を10nm成膜し、フォトリソグラフィ技術により露光、現像を行い、エッチング法を用いてパターンニングして下部電極18を形成した。
【0051】
その後、220℃で1時間の焼成を行った後、感光性アクリル樹脂をスピンコートにて塗布し露光、現像を行い、パターンニングして、下部電極18の端部を覆うようにエッジカバー19を形成した。この時の膜厚は1μm程度とした。また、エッジカバー19の開口部(画素12の発光部(画素開口部13))の領域は、直径28μmの真円形状とした。これにより、画素開口部13において凸状湾曲形状部15が凸レンズ状に膨出形成し、該凸状湾曲形状部15の表面は、つまり各画素12の発光面は、球面形状の一部を呈している。
【0052】
しかる後、正孔輸送層22、発光層23、電子輸送層24、上部電極21を真空蒸着法にてそれぞれ形成した。正孔輸送層22として、α−NPD(Bis[N−(1−naphthyl)−N−phenyl]benzidine)、発光層23として、緑色系のユーロピウム錯体、電子輸送層24として、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、上部電極21として、AlとAgの積層電極とした。膜厚はそれぞれ、正孔輸送層22が130nm、発光層23が30nm、電子輸送層24が40nm、上部電極21としてのAlが3nm、Agが25nmとした。上部電極21は半透明になっており、トップエミッション構造となっている。
【0053】
このようにして形成された下部電極18、有機層20及び上部電極21は、層間絶縁膜14の凸状湾曲形状部15においては、該凸状湾曲形状部15の表面形状に倣って凸状に湾曲形成されている。すなわち、ガラス基板7と凸状湾曲形状部15の表面とのなす角度がいくらあったとしても、有機層20の膜厚は均等で、画素12内で有機層20の膜厚が変わることはない。
【0054】
最後に、掘り込みガラスからなる封止基板4と樹脂製のシール材5とを用いて、有機EL素子3を密封し、TFT基板2と封止基板4との間に形成された空間に不活性ガス6を充填し、有機EL表示装置1を得た(図1参照)。
【0055】
図11は従来例の図4相当図であり、層間絶縁膜14の画素開口部13に対応する箇所が平坦になっているほかは、実施形態と同様に構成されているので、同一の構成箇所に同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
上記のようにして製造された有機EL表示装置1によれば、図11の従来の構造においては、斜めの視角において、正面から見た時よりも大きく色度が変化し、表示色に異常が生じていたが、この実施形態の構造を用いることによって、斜めの視角でも色度が大きく変化するのを抑制することができた。また、それだけでなく、図11の従来の構造においては、輝度についても斜めの視角で急激に低下する問題が発生していたが、この実施形態の構造を用いれば、輝度の急激な低下も抑制することができた。結果として、高品位な有機EL表示装置1を実現することができた。
【0057】
さらに、この実施形態の構造では、画素12内に亘って有機層20(発光層23)の膜厚が一定であるために、画素12内の一部に電流が集中してその部分の輝度劣化が他の部分よりも加速されることによる経時的な色度変化が生じない。
【0058】
また、この実施形態の構造では、特許文献1における段差形成層及び距離調整層や、特許文献2における凹凸形成層を形成せずに済むので、その分だけコストを低減することができる。
【0059】
上記のことを実証するために得たデータを図6〜図9に示す。
【0060】
図6は凸状湾曲形状部15を15等分した際の各々の領域において凸状湾曲形状部15表面がTFT基板2となす角度(θ1〜θ6)を説明する説明図であり、各領域間は角度が連続的に変化している。
【0061】
図7は凸状湾曲形状部15表面がTFT基板2となす角度(θ1〜θ6)の条件を変えた表であり、条件1、条件2、条件3、条件4,条件「平面」の5つを挙げている。ここで、条件「平面」とは、層間絶縁膜14に凸状湾曲形状部15がなく、図11のような平面な画素のことである。
【0062】
図8は図7の条件において、視角を変化させた場合の色度x、色度y及び輝度の変化を示すグラフである。ここで視角とは、基板面の鉛直方向に対して視る方向がなす角度である。すなわち、基板面から鉛直方向が視角0°であり、基板面に沿った方向が視角90°である。
【0063】
図9は図8に基づき視覚を0°から80°まで変化させたときの色度の最大変化量(最大値−最小値)と正面輝度を示す表である。
【0064】
図7〜図9において、条件3が上記の実施形態に相当する。なお、各層の作製プロセス、材料、膜厚条件は、上記の実施形態と同様であるので省略する。但し、凸状湾曲形状部15の表面形状を実現するために、層間絶縁膜14の膜厚や露光量は適宜調整している。
【0065】
図8及び図9から明らかなように、条件「平面」のときが視角に対して最も色度x、色度y、輝度の変化が大きく、条件4、条件3、条件2、条件1の順にそれらの変化が緩和される。視角に対する色度の変化は、斜めから視たときの表示色の悪化をもたらし、輝度の変化は視認性の低下をもたらすため、いずれの視角に対してもマイクロキャビティ構造の最適値にできるだけ近いほうがよい。したがって、条件1がこれらの中で最適となる。
【0066】
一方、正面から視た(視角0°)ときの輝度は、条件「平面」を最大として、条件4、条件3、条件2、条件1の順で低下する。したがって、正面輝度を一定量確保しようとする場合には、条件1は他の条件と比べてより画素を発光させる必要があり、結果的に消費電力が高くなる。すなわち、正面輝度を同一とした場合の消費電力比較の観点では、色度変化の時と逆に条件「平面」のときが最適となる。
【0067】
実際の製品応用においては、上記のようにトレードオフの関係にある色度変化の問題と正面輝度低下の問題の両方を鑑みて、適宜条件を選択すればよい。例えば、条件2を選択すれば、色度変化を条件「平面」よりも緩和することができ、かつ正面輝度の低下が条件3や条件4に比べて軽減されるため、中間的な特性を得ることができる。
【0068】
なお、上記の実施形態では、真円形状の1つの画素開口部13に対し球面形状の1つの凸状湾曲形状部15を形成し、また、凸状湾曲形状部15表面がガラス基板7となす角度を30°〜−30°で7等分されている構造としたが、これに限らず、本発明の効果を得ることができる範囲で、任意の構造を用いることができる。例えば、図10は凸状湾曲形状部15の各種形状を示しており、図10(a)は上記の実施形態の球面形状に相当する。図10(b)は、楕円形状の1つの画素開口部13に対し二軸方向に凸状に湾曲した1つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。図10(c)は、楕円形状の1つの画素開口部13に対し短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をした1つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。図10(d)は、画素開口部13を長辺が直線形状で短辺が半円形状である長孔形状とし、その中に球面形状の3つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。つまり、1つの画素開口部13に赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの有機EL素子3が収まっている例である。図10(e)も、図10(d)と同様に1つの画素開口部13に赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの有機EL素子3が収まっている例であるが、画素開口部13が長方形であり、その中に平面視で正方形の3つの凸状湾曲形状部15が収まっている例である。
【0069】
また、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度も30°に限らず、50°や60°といった高角度や10°や15°といった低角度とすることもできる。ただし、図10(c)のような構造の場合、長軸方向での斜め視角に対しては、曲面構造が形成されていないためこの発明の効果を期待し難いので、例えばテレビ用途等、左右方向に比べて上下方向での斜め視角が発生し難い用途等に対して、斜め視角が比較的不要な方向とこの発明の効果を期待し難い方向とを一致させることが好ましい。
【0070】
なお、図10(d)及び図10(e)のように画素開口部13内に複数の凸状湾曲形状部15を形成する場合において、その数が多数となる場合や、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度が高角度な場合、画素開口部13内の全領域に均一に有機層20が形成されず、画素開口部13内の領域で有機層20の膜厚が異なったり、あるいは、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度が低角度な場合、斜め視角での色度変化の抑制が不十分になることが懸念されることから、画素開口部13内の凸状湾曲形状部15を1つとし、それがTFT基板2となす角度を30°程度とすることがより望ましい。
【0071】
なお、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度は、層間絶縁膜14に使用する材料の物性、露光量、現像時間、焼成プロセスの昇温条件等によって任意の角度を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、マイクロキャビティ構造を取り入れた有機EL表示装置について有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 有機EL表示装置
3 有機EL素子
7 ガラス基板
13 画素開口部
14 層間絶縁膜
15 凸状湾曲形状部
18 下部電極
20 有機層
21 上部電極
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機EL(Electro Luminescence)表示装置に関し、特にマイクロキャビティ(微小光共振器)構造を取り入れた有機EL表示装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のメインディスプレイやポータブルメディアプレーヤー等の中小型表示端末においては、色再現性の良さや広視野角等の特徴を活かして、有機EL表示装置が活発に用いられている。それらに使用されている有機EL表示装置はアクティブマトリクス型とパッシブマトリクス型とがある。そのうち、アクティブマトリクス型の有機EL表示装置においては、ガラス基板等に薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)がマトリクス状に形成されており、さらにその上に個々の薄膜トランジスタに対して有機EL素子が形成されている。薄膜トランジスタと有機EL素子との間には、平坦化膜及び絶縁膜として層間絶縁膜が形成されており、また、有機EL素子内には、電極端での短絡を防止するためのエッジカバーが形成されているのが一般的である。これら層間絶縁膜及びエッジカバーには、誘電率や膜厚、平坦化のし易さ、パターン形成の簡便さ、パターン端部が下地となす傾斜角(テーパ角)等を鑑み、通常は感光性有機樹脂膜が使用されている。感光性有機樹脂としては、ノボラック系、アクリル系、ポリイミド系等の樹脂が用いられる。
【0003】
さらに、有機EL素子においては、発光の色度や発光効率を向上するために、マイクロキャビティ構造を利用することが行われる。マイクロキャビティとは、発光した光が陽極と陰極との間で多重反射し、共振することで発光スペクトルが急峻になり、また、ピーク波長の発光強度が増大する現象である。陽極や陰極の反射率及び膜厚、有機層の膜厚等を最適に設計することで、所望の効果を得ることができる。例えば、トップエミッション型の有機EL素子の場合、反射率の高いアルミニウムとインジウム亜鉛酸化物(IZO)との積層膜を陽極側に形成し、有機層を適宜積層した後、薄膜で半透明状態の銀を陰極として用いることでマイクロキャビティ構造が形成される。そのため、有機層から発光され、銀電極を通して出射された光のスペクトルは、同構造がない場合よりも急峻になり、また正面への出射強度が大きく増大する。
【0004】
このように、マイクロキャビティ構造を取り入れると、好適な効果を得ることができるが、一方で、光学特性に視角依存性が現れるという問題が発生する。すなわち、本来、マイクロキャビティの現象が発生していない場合には、有機EL素子からの発光は等方的な傾向があり、また視角に対して色度の変化は生じないが、マイクロキャビティ構造を取り入れると、視角によって輝度が急激に低下したり、色度が著しく変化する。したがって、斜め方向から見た場合に画面が暗くなったり、本来表示したい色とは別の色に見えることになる。
【0005】
また、マイクロキャビティ構造は、有機層の膜厚が変わる(すなわち、最適な条件からずれる)ことにより、その効果が変化する。したがって、上記で述べた問題の対策として、マイクロキャビティの最適な条件から有機層の総膜厚をずらし、上記の問題を緩和する方法が考えられるが、同時にマイクロキャビティ構造による色純度の向上や発光効率の向上の効果が低減してしまうことになる。
【0006】
そこで、特許文献1では、段差形成層を画素内の一部に形成し、さらにその上に距離調整層を形成することによって、画素内の部分でそれらの光学距離が各々異なるようにしている。これによれば、画素内に光学距離の異なる領域が存在することで、取り出される光のスペクトルのピーク波長が光学的距離に応じて異なり、それらを合成したスペクトルの半値幅が広くなって視野角特性が向上するとされている。
【0007】
一方、特許文献2では、凹凸形成層を画素内に設けることによって、画素内で発光層の膜厚を異ならせている。これによれば、各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射されるため、発光層等の膜厚が最適条件からずれた場合においても、出射光の波長がシフトすることを最小限に抑えることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−234581号公報(段落0034欄、図5)
【特許文献2】特開2006−269251号公報(段落0022欄〜段落0025欄、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構造を用いた場合、スペクトルの半値幅が広くなることで視野角特性の向上を期待できる反面、スペクトルの半値幅が広くなると斜めから見たときの色純度が低下する。しかも、光学距離が画素内で異なるということは、すなわち、有機層の膜厚が画素内で異なることを意味する。したがって、同一の電圧が電極間に加えられても、光学距離の短い(有機層の膜厚が薄い)部分に電流が集中してしまうことになる。そのため、有機層の膜厚が小さい部分の発光スペクトルが優勢になるだけでなく、流れる電流の大きさの差異に従って輝度劣化も異なってくることになり、画素内で劣化度合いの異なる部分が形成されて、合成された発光スペクトルの形状が変化するため、結果的に経時的な色度の変化が発生してしまうことになる。さらに、段差形成層及び距離調整層を形成しなければならず、コストの増大を招いてしまう。
【0010】
一方、特許文献2の構造を用いた場合においても、上記特許文献1と同様の問題が発生する。すなわち、各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射されることに起因する色純度の低下、発光層(有機層)の膜厚が画素内で異なることに起因する経時的な色度の変化、及び凹凸形成層の形成によるコスト増大を招く。
【0011】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マイクロキャビティ構造を取り入れた有機EL表示装置において、斜めから見たときの色純度及び輝度の低下を抑制して視野角特性を向上させるとともに、コスト低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、この発明は、有機EL素子形成箇所に対応する基板上の層間絶縁膜を凸状湾曲形状に形成したことを特徴とする。
【0013】
具体的には、この発明は、下部電極、有機層及び上部電極からなる有機EL素子が基板上に層間絶縁膜を介して形成され、上記有機層から射出される光を所定の光学長の範囲内で繰り返し反射させることで特定の波長の光を増強選択するマイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0014】
すなわち、第1の発明は、上記層間絶縁膜の有機EL素子形成箇所には、凸状湾曲形状部が画素開口部に対応するように膨出形成され、上記有機EL素子の有機層は、上記凸状湾曲形状部の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部上に均一な膜厚に形成されていることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に1つ収められていることを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に複数収められていることを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ二軸方向に凸状に湾曲していることを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をしていることを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記凸状湾曲形状部は、平面視で矩形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第1〜第7の発明によれば、画素の発光面を凸状湾曲形状にしているので、斜めの視角でも色度が大きく変化するのを抑制することができ、輝度の急激な低下をも抑制することができる。したがって、正面方向でも斜め方向でも、マイクロキャビティ構造による好適な効果が得られる高品位な有機EL表示装置を実現することができる。
【0022】
さらに、有機層は、層間絶縁膜の凸状湾曲形状部に倣って形成されて、その膜厚が画素内の各領域で変化せずに均一であるので、画素内の一部に電流が集中してその部分の輝度劣化が他の部分よりも加速されることによる経時的な色度変化をなくすことができる。
【0023】
また、特許文献1における段差形成層及び距離調整層や、特許文献2における凹凸形成層を形成せずに済むので、その分だけコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る有機EL表示装置の模式図である。
【図2】実施形態に係る有機EL表示装置を構成する各画素となる有機EL素子の平面図であり、便宜上、電源供給線、データ線及び走査線を実線で表し、エッジカバーから上層部分を省略している。
【図3】図2のIII −III 線に相当する断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に相当する断面図である。
【図5】二重露光の手法により層間絶縁膜に凸状湾曲形状部を形成するパターニング工程図である。
【図6】凸状湾曲形状部を15等分した際の各々の領域において凸状湾曲形状部表面がTFT基板となす角度(θ1〜θ6)を説明する説明図である。
【図7】凸状湾曲形状部表面がTFT基板となす角度(θ1〜θ6)の条件を変えた表である。
【図8】図7の条件において、視角を変化させた場合の色度x、色度y及び輝度の変化を示すグラフである。
【図9】図8に基づき視覚を0°から80°まで変化させたときの色度の最大変化量(最大値−最小値)と正面輝度とを示す表である。
【図10】凸状湾曲形状部の各種形状を示す図である。
【図11】従来例の図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0026】
図1はこの発明の実施形態に係る有機EL表示装置1の模式図であり、本例ではRGBフルカラー表示の有機EL表示装置1を例示する。図1中、2は、ここでは図示しないが薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)がマトリクス状に形成されたTFT基板であり、該TFT基板2上には有機EL素子3が形成されている。該有機EL素子3は、上記TFT基板2に対向配置された封止基板4と、有機EL素子3を取り囲むように配置された樹脂製シール材5とで密封され、封止基板4とシール材5との間に形成された空間に不活性ガス6が充填され、これにより、外部から酸素や水分が有機EL素子3に浸入するのを防止している。
【0027】
上記TFT基板2としては、例えば厚さが0.7〜1.1mm、縦長さが400〜500mm、及び横長さが300〜400mmのガラス基板7(図3及び図4参照)をベース板として用いている。封止基板4としては、例えば厚さが0.4〜1.1mmのガラス基板である。また、縦長さ及び横長さは有機EL表示装置1のサイズにより適宜調整されるか、あるいはTFT基板2と略同一サイズのガラス基板を用い、封止後に有機EL表示装置1のサイズに従い分断される。
【0028】
なお、本例では、TFT基板2のベース板及び封止基板4としてガラス基板を用いているが、プラスチック基板等の他の材料を用いることもできる。また、封止基板4とシール材5との間に形成された空間に樹脂を充填したり、あるいはシール材5の代わりにガラスフリットを用いてTFT基板2と封止基板4とを融着させるような構成を採ってもよい。
【0029】
図2は上記有機EL表示装置1を構成する各画素となる有機EL素子3の平面図を、図3は図2のIII −III 線に相当する断面図を、図4は図2のIV−IV線に相当する断面図をそれぞれ示す。
【0030】
図2〜図4において、8は電流供給線、9はデータ線であり、これらはストライプ状に配列され、これら電流供給線8及びデータ線9に対して走査線10が直交する方向に配列されている。上記データ線9と走査線10との交点には、薄膜トランジスタ11がマトリクス状に形成され、データ線9と走査線10とで画素12が区画形成されている。上記有機EL素子3は各画素12に形成されており、後述するエッジカバー19が真円形状に除去されている画素開口部13が各画素12の発光領域となっている。なお、図2では、便宜上、電源供給線8、データ線9及び走査線10を実線で表し、エッジカバー19から上層部分を省略している。
【0031】
上記ガラス基板7上には、層間絶縁膜14が上記薄膜トランジスタ11、電流供給線8、データ線9及び走査線10を覆うように形成され、これにより、TFT基板2が構成されている。上記層間絶縁膜14の有機EL素子3形成領域には、この発明の最大の特徴の1つとして、凸状湾曲形状部15が上記画素開口部13に対応するように凸レンズ状に膨出形成され、該凸状湾曲形状部15は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されている。つまり、各画素12の発光面は、球面形状の一部を呈している。この実施形態では、画素開口部13が有機層20の赤(R)、緑(G)、青(B)の発光層23に対応して3つ形成され、凸状湾曲形状部15が1つの画素開口部13内に1つ収められている。
【0032】
層間絶縁膜14の材料としては、アクリル樹脂やポリイミド樹脂等の感光性樹脂をスピンコートし、フォトリソグラフィ技術によって露光、現像することでパターニングすることができる。アクリル樹脂としては例えば、JSR社製のオプトマーシリーズ等が使え、ポリイミド樹脂としては、東レ社製のフォトニースシリーズ等を使うことができるが、材料はこれに限らず、任意の感光性樹脂を用いることができる。その際、二重露光の手法を用いることで、表面が凸状に本局した凸状湾曲形状部15を有する層間絶縁膜14を得ることができる。
【0033】
図5は、例えばポジ型の感光性樹脂Rを用いてTFT基板2上に層間絶縁膜14を形成する手順を示したものである。まず、TFT基板2上にスピンコートした感光性樹脂Pに対し、図5(a)のように、フォトマスク16を用いて初めに除去したい領域p1(白抜きで示す)のみに対して除去に必要な量の露光を矢印のように行う。次に、図5(b)のように凹部としたい領域p2(白抜きで示す)には、フォトマスク17を用いて初めよりも低く、除去には足りない量の露光を矢印のように行う。その後、現像することで、図5(c)のように、表面に凹凸を有する膜14′が得られ、適宜焼成することで、図5(d)のように、所望の凸状湾曲形状部15を有する層間絶縁膜14を得ることができる。
【0034】
上記層間絶縁膜14上には、下部電極18、エッジカバー19、有機層20及び上部電極21が順次積層され、上記有機層20は、正孔輸送層22、発光層23及び電子輸送層24が下部電極18側から上部電極21側に順に積層されて構成されている。これらにより有機EL素子3が構成され、該有機EL素子3がガラス基板7上に層間絶縁膜14を介して形成されている。
【0035】
上記下部電極18は、有機層20に正孔を注入する機能を有するものであり、上記上部電極21は、有機層20に電子を注入する機能を有するものであり、上記下部電極18は、層間絶縁膜14に穿設されたコンタクトホール25を介して薄膜トランジスタ11と電気的に接続されている。
【0036】
上記下部電極18は、フォトリソグラフィ技術により露光、現像を行い、エッチング法を用いてパターンニングして形成される。下部電極18は、発光素子の陽極であり、材料としては、Au、Ni、Ptや透明性導電膜であるITO(酸化インジウム酸化スズ合金)、酸化インジウム酸化亜鉛合金(In2O3−ZnO)や酸化亜鉛(ZnO)等を用いることができ、成膜法としては既知の方法が利用できる(例えばスパッタ法や蒸着法)。さらに、下地膜としてAlやAgを用い、反射性を付与することもできる。下部電極18の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0037】
上記エッジカバー19は、下部電極18のパターン端部を被覆し、パターン端部による電極間短絡を防止するための層であり、層間絶縁膜14と同様の材料、プロセスにて形成される。また、無機膜等を成膜し、パターニングを行って、エッジカバー19を形成することもできる。
【0038】
上記有機層20としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層が挙げられ、発光層以外は適宜必要に応じて挿入される。また、輸送層と注入層が一層で兼ねられていてもよく、無機膜が用いられてもよい。本例では、上述の如く正孔輸送層22、発光層23及び電子輸送層24の3層構造の有機層20を例示する。
【0039】
有機層20の作製方法は既知のプロセスにより形成される。本例では、シャドウマスクを用いた真空蒸着法にてパターン形成を行っているが、これに限らず、スプレー法やインクジェット法、印刷法やレーザ転写法等を用いることもできる。
【0040】
正孔注入層及び正孔輸送層22は、それぞれ陽極から発光層への正孔注入効率及び正孔輸送効率を高める機能を有する層である。正孔注入層及び正孔輸送層22の材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、あるいはこれらの誘導体、又は、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物或いはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマー或いはポリマー等が挙げられる。正孔注入層と正孔輸送層22は一体化していてもよく、独立した層として形成されていてもよく、各々の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0041】
発光層23は、陽極側から注入された正孔と陰極側から注入された電子とを再結合させ、エネルギーを失括する際に光を出射する機能を有する層である。発光層23は、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の発光効率が高い材料で形成されている。発光層23の材料としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、インデン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、ピセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、ペンタフェン、ペンタセン、コロネン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、或いはこれらの誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ジトルイルビニルビフェニル等が挙げられる。発光層23の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0042】
電子輸送層24及び電子注入層は、それぞれ、陰極から発光層23への電子輸送効率及び電子注入効率を高める機能を有する。電子輸送層24及び電子注入層の材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、フェナントロリン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、又はこれらの誘導体や金属錯体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、1,10−フェナントロリン又はこれらの誘導体や金属錯体等が挙げられる。電子輸送層24と電子注入層は一体化していてもよく、独立した層として形成されていてもよく、各々の膜厚としては、例えば10〜100nmである。
【0043】
上部電極21は、有機層20に電子を注入する機能を有しており、仕事関数の小さい金属等が好適に用いられ、例えば、Ag、Al、マグネシウム合金(MgAg等)、アルミニウム合金(AlLi、AlCa、AlMg等)、金属カルシウム等が挙げられる。または、フッ化リチウム(LiF)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)等の積層により形成されていてもよい。上部電極21の膜厚としては、例えば10〜100nmであるが、半透明性等の特性を得るために適宜調整される。
【0044】
上記有機EL素子3の有機層20は、上記凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成されている。下部電極18及び上部電極21も同様に、上記凸状湾曲形状部15の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部15上に均一な膜厚に形成されている。すなわち、ガラス基板7と層間絶縁膜14の凸状湾曲形状部15表面とのなす角度がいくらあったとしても、有機層20の膜厚は同一である。換言すれば、各画素12内で有機層20の膜厚が変わることはない。
【0045】
本例の有機EL表示装置1は、マイクロキャビティ構造を取り入れており、封止基板4側から発光を取り出すトップエミッション型を例示するが、これに限らず、マイクロキャビティ構造が適用されているのであれば、TFT基板2側から発光を取り出すボトムエミッション型であってもよい。また、ボトムエミッション型では、TFT基板2と封止基板4との間の空間に乾燥剤を封入し、外部からの水分や酸素の浸入に対してさらに耐性を向上させるようにしてもよい。
【0046】
マイクロキャビティ構造は、下部電極18と上部電極21との間での光の共振効果を利用しており、有機層20の発光層23の赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の光の波長はそれぞれ異なるため、各色の発光スペクトルピーク波長に下部電極18と上部電極21との間の光路長を合わせるべく、発光層23の膜厚を赤(R)が一番厚く、青(B)が一番薄く、緑(G)がその中間の厚みにそれぞれ設定することで、各色から最も強い光を取り出すようにしている(図3参照)。これにより、有機層20から出射される光は、上部電極21と下部電極18との間で所定の光学長の範囲内で反射を繰り返し、光路長の合った特定の波長の光を共振させて増強選択する一方、光路長のずれた波長の光を弱め、外部に取り出される発光スペクトルが急峻でかつ高強度になり、輝度及び色純度が向上するようになっている。
【0047】
次に、図3及び図4を参照しつつ有機EL表示装置1の製造方法について説明する。
【0048】
まず、基板サイズが320×400mmで、厚さが0.7mmのガラス基板7に有機EL素子3を駆動するための薄膜トランジスタ11を既知のプロセスにて所定の間隔で多数形成した。
【0049】
その後、薄膜トランジスタ11の上にポジ型の感光性アクリル樹脂を4μmの膜厚でスピンコート塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて現像、露光し、焼成を行って、パターニングを行った。その際、層間絶縁膜14の画素12に当たる領域が凸状となるようにし、凸部頂点の膜厚を4μm、平坦部の膜厚を2μmとした。また、ガラス基板7と層間絶縁膜14表面の凸部のなす角度が凸部断面を7等分した際に、均等に略30°、20°、10°、0°、−10°、−20°、−30°となるようにした。具体的な作製プロセスとして、二重露光の手法を用い、コンタクトホール25や層間絶縁膜14が不要な領域には、1回目露光として360mJ/cm2の露光量で露光を実施した。次に、層間絶縁膜14表面の凹部としたい領域に対して、2回目の露光として80mJ/cm2の露光量で露光を実施した。その後、アルカリ現像液で現像を行った後、50℃/minで25℃から220℃まで昇温し、220℃で保持したまま、大気中で1時間の焼成を行った。この作製プロセスにより、上記のような膜厚と角度を有する層間絶縁膜14表面、つまり、平面視で真円形状の凸状湾曲形状部15が凸レンズ状に膨出形成されて球面形状に一部で構成された層間絶縁膜14を得ることができた。
【0050】
次に、下部電極18として、スパッタ法によりAg膜を100nm、ITO膜を10nm成膜し、フォトリソグラフィ技術により露光、現像を行い、エッチング法を用いてパターンニングして下部電極18を形成した。
【0051】
その後、220℃で1時間の焼成を行った後、感光性アクリル樹脂をスピンコートにて塗布し露光、現像を行い、パターンニングして、下部電極18の端部を覆うようにエッジカバー19を形成した。この時の膜厚は1μm程度とした。また、エッジカバー19の開口部(画素12の発光部(画素開口部13))の領域は、直径28μmの真円形状とした。これにより、画素開口部13において凸状湾曲形状部15が凸レンズ状に膨出形成し、該凸状湾曲形状部15の表面は、つまり各画素12の発光面は、球面形状の一部を呈している。
【0052】
しかる後、正孔輸送層22、発光層23、電子輸送層24、上部電極21を真空蒸着法にてそれぞれ形成した。正孔輸送層22として、α−NPD(Bis[N−(1−naphthyl)−N−phenyl]benzidine)、発光層23として、緑色系のユーロピウム錯体、電子輸送層24として、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム、上部電極21として、AlとAgの積層電極とした。膜厚はそれぞれ、正孔輸送層22が130nm、発光層23が30nm、電子輸送層24が40nm、上部電極21としてのAlが3nm、Agが25nmとした。上部電極21は半透明になっており、トップエミッション構造となっている。
【0053】
このようにして形成された下部電極18、有機層20及び上部電極21は、層間絶縁膜14の凸状湾曲形状部15においては、該凸状湾曲形状部15の表面形状に倣って凸状に湾曲形成されている。すなわち、ガラス基板7と凸状湾曲形状部15の表面とのなす角度がいくらあったとしても、有機層20の膜厚は均等で、画素12内で有機層20の膜厚が変わることはない。
【0054】
最後に、掘り込みガラスからなる封止基板4と樹脂製のシール材5とを用いて、有機EL素子3を密封し、TFT基板2と封止基板4との間に形成された空間に不活性ガス6を充填し、有機EL表示装置1を得た(図1参照)。
【0055】
図11は従来例の図4相当図であり、層間絶縁膜14の画素開口部13に対応する箇所が平坦になっているほかは、実施形態と同様に構成されているので、同一の構成箇所に同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
上記のようにして製造された有機EL表示装置1によれば、図11の従来の構造においては、斜めの視角において、正面から見た時よりも大きく色度が変化し、表示色に異常が生じていたが、この実施形態の構造を用いることによって、斜めの視角でも色度が大きく変化するのを抑制することができた。また、それだけでなく、図11の従来の構造においては、輝度についても斜めの視角で急激に低下する問題が発生していたが、この実施形態の構造を用いれば、輝度の急激な低下も抑制することができた。結果として、高品位な有機EL表示装置1を実現することができた。
【0057】
さらに、この実施形態の構造では、画素12内に亘って有機層20(発光層23)の膜厚が一定であるために、画素12内の一部に電流が集中してその部分の輝度劣化が他の部分よりも加速されることによる経時的な色度変化が生じない。
【0058】
また、この実施形態の構造では、特許文献1における段差形成層及び距離調整層や、特許文献2における凹凸形成層を形成せずに済むので、その分だけコストを低減することができる。
【0059】
上記のことを実証するために得たデータを図6〜図9に示す。
【0060】
図6は凸状湾曲形状部15を15等分した際の各々の領域において凸状湾曲形状部15表面がTFT基板2となす角度(θ1〜θ6)を説明する説明図であり、各領域間は角度が連続的に変化している。
【0061】
図7は凸状湾曲形状部15表面がTFT基板2となす角度(θ1〜θ6)の条件を変えた表であり、条件1、条件2、条件3、条件4,条件「平面」の5つを挙げている。ここで、条件「平面」とは、層間絶縁膜14に凸状湾曲形状部15がなく、図11のような平面な画素のことである。
【0062】
図8は図7の条件において、視角を変化させた場合の色度x、色度y及び輝度の変化を示すグラフである。ここで視角とは、基板面の鉛直方向に対して視る方向がなす角度である。すなわち、基板面から鉛直方向が視角0°であり、基板面に沿った方向が視角90°である。
【0063】
図9は図8に基づき視覚を0°から80°まで変化させたときの色度の最大変化量(最大値−最小値)と正面輝度を示す表である。
【0064】
図7〜図9において、条件3が上記の実施形態に相当する。なお、各層の作製プロセス、材料、膜厚条件は、上記の実施形態と同様であるので省略する。但し、凸状湾曲形状部15の表面形状を実現するために、層間絶縁膜14の膜厚や露光量は適宜調整している。
【0065】
図8及び図9から明らかなように、条件「平面」のときが視角に対して最も色度x、色度y、輝度の変化が大きく、条件4、条件3、条件2、条件1の順にそれらの変化が緩和される。視角に対する色度の変化は、斜めから視たときの表示色の悪化をもたらし、輝度の変化は視認性の低下をもたらすため、いずれの視角に対してもマイクロキャビティ構造の最適値にできるだけ近いほうがよい。したがって、条件1がこれらの中で最適となる。
【0066】
一方、正面から視た(視角0°)ときの輝度は、条件「平面」を最大として、条件4、条件3、条件2、条件1の順で低下する。したがって、正面輝度を一定量確保しようとする場合には、条件1は他の条件と比べてより画素を発光させる必要があり、結果的に消費電力が高くなる。すなわち、正面輝度を同一とした場合の消費電力比較の観点では、色度変化の時と逆に条件「平面」のときが最適となる。
【0067】
実際の製品応用においては、上記のようにトレードオフの関係にある色度変化の問題と正面輝度低下の問題の両方を鑑みて、適宜条件を選択すればよい。例えば、条件2を選択すれば、色度変化を条件「平面」よりも緩和することができ、かつ正面輝度の低下が条件3や条件4に比べて軽減されるため、中間的な特性を得ることができる。
【0068】
なお、上記の実施形態では、真円形状の1つの画素開口部13に対し球面形状の1つの凸状湾曲形状部15を形成し、また、凸状湾曲形状部15表面がガラス基板7となす角度を30°〜−30°で7等分されている構造としたが、これに限らず、本発明の効果を得ることができる範囲で、任意の構造を用いることができる。例えば、図10は凸状湾曲形状部15の各種形状を示しており、図10(a)は上記の実施形態の球面形状に相当する。図10(b)は、楕円形状の1つの画素開口部13に対し二軸方向に凸状に湾曲した1つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。図10(c)は、楕円形状の1つの画素開口部13に対し短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をした1つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。図10(d)は、画素開口部13を長辺が直線形状で短辺が半円形状である長孔形状とし、その中に球面形状の3つの凸状湾曲形状部15を形成した例である。つまり、1つの画素開口部13に赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの有機EL素子3が収まっている例である。図10(e)も、図10(d)と同様に1つの画素開口部13に赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの有機EL素子3が収まっている例であるが、画素開口部13が長方形であり、その中に平面視で正方形の3つの凸状湾曲形状部15が収まっている例である。
【0069】
また、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度も30°に限らず、50°や60°といった高角度や10°や15°といった低角度とすることもできる。ただし、図10(c)のような構造の場合、長軸方向での斜め視角に対しては、曲面構造が形成されていないためこの発明の効果を期待し難いので、例えばテレビ用途等、左右方向に比べて上下方向での斜め視角が発生し難い用途等に対して、斜め視角が比較的不要な方向とこの発明の効果を期待し難い方向とを一致させることが好ましい。
【0070】
なお、図10(d)及び図10(e)のように画素開口部13内に複数の凸状湾曲形状部15を形成する場合において、その数が多数となる場合や、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度が高角度な場合、画素開口部13内の全領域に均一に有機層20が形成されず、画素開口部13内の領域で有機層20の膜厚が異なったり、あるいは、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度が低角度な場合、斜め視角での色度変化の抑制が不十分になることが懸念されることから、画素開口部13内の凸状湾曲形状部15を1つとし、それがTFT基板2となす角度を30°程度とすることがより望ましい。
【0071】
なお、凸状湾曲形状部15がTFT基板2となす角度は、層間絶縁膜14に使用する材料の物性、露光量、現像時間、焼成プロセスの昇温条件等によって任意の角度を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、マイクロキャビティ構造を取り入れた有機EL表示装置について有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 有機EL表示装置
3 有機EL素子
7 ガラス基板
13 画素開口部
14 層間絶縁膜
15 凸状湾曲形状部
18 下部電極
20 有機層
21 上部電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極、有機層及び上部電極からなる有機EL素子が基板上に層間絶縁膜を介して形成され、上記有機層から射出される光を所定の光学長の範囲内で繰り返し反射させることで特定の波長の光を増強選択するマイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置であって、
上記層間絶縁膜の有機EL素子形成箇所には、凸状湾曲形状部が画素開口部に対応するように膨出形成され、
上記有機EL素子の有機層は、上記凸状湾曲形状部の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部上に均一な膜厚に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に1つ収められていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に複数収められていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ二軸方向に凸状に湾曲していることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をしていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で矩形であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項1】
下部電極、有機層及び上部電極からなる有機EL素子が基板上に層間絶縁膜を介して形成され、上記有機層から射出される光を所定の光学長の範囲内で繰り返し反射させることで特定の波長の光を増強選択するマイクロキャビティ構造を備えた有機EL表示装置であって、
上記層間絶縁膜の有機EL素子形成箇所には、凸状湾曲形状部が画素開口部に対応するように膨出形成され、
上記有機EL素子の有機層は、上記凸状湾曲形状部の表面形状に倣うように該凸状湾曲形状部上に均一な膜厚に形成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に1つ収められていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、1つの画素開口部内に複数収められていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で真円形状でかつ球面形状の一部で構成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ二軸方向に凸状に湾曲していることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で楕円形状でかつ短軸方向には凸状に湾曲し、長軸方向には湾曲せずに直線形状をしていることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置において、
上記凸状湾曲形状部は、平面視で矩形であることを特徴とする有機EL表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−18468(P2011−18468A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160825(P2009−160825)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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