説明

有機EL表示装置

【課題】画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成において、二つの領域の色度ずれを低減した有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】第1電極21と、発光層を含む有機EL層23と、第2電極24と、を備える有機EL素子が、互いに同じ色相である第1領域と第2領域とからなる画素の第1領域に設けられ、第2領域には第2電極24の光出射側にレンズを配して設けられ、画素が複数配置された有機EL表示装置であって、有機EL素子の発光層で発せられた光が、第1電極21と第2電極24の間で干渉によって強められ、少なくとも一部の画素において、第2領域の有機EL素子が第1領域の有機EL素子よりも光学膜厚が厚いことを特徴とする有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescent)素子を用いた表示装置に関し、特に画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の課題として、光取り出し効率が悪いことが知られている。これは有機EL素子では発光層から光が様々な角度で出射するため、保護膜と外部空間との境界面で全反射成分が多く発生し、発光光が素子内部に閉じ込められてしまうからである。この課題を解決するために、特許文献1では有機EL素子を封止する酸化窒化シリコン(SiNxy)膜上に樹脂から成るマイクロレンズアレイを配置して正面方向への光取り出し効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−039500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように有機EL素子の上にレンズを配置する構成では、レンズがなければ全反射していた光成分を取り出すことができるという効果に加え、集光の効果が期待できる。これらの効果により有機EL表示装置の正面輝度(正面方向即ち基板の法線方向への光取り出し効率)の向上を実現できる。しかし、有機EL表示装置の斜め方向の輝度は減少するため、この構成の場合、広い視野角特性が求められる場面では使いづらくなる。また、有機EL素子に干渉効果を付与した構成の場合、強め合いの干渉効果が効く方向(光路長)では輝度が高くなる。しかし、強め合いの干渉効果が弱まる方向では輝度が低くなるため、この構成の場合も、広い視野角特性が求められる場面では使いづらくなる。
【0005】
正面輝度の向上と広い視野角特性の両方を実現するためには、画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成にすることが考えられる。この構成とすれば、二つの領域のうちのレンズが設けられていない領域を発光させることで広い視野角特性を得ることができ、レンズが設けられている領域を発光させることで正面輝度を向上させることができる。しかし、この構成では、レンズが設けられている領域の色度が、レンズが設けられていない領域の色度よりも悪くなり二つの領域で色度にずれが生じる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、画素を同じ色相の二つの領域に分け、各領域にそれぞれ有機EL素子を設け、一方の有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成において、二つの領域の色度ずれを低減した有機EL表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機EL層と、を備える有機EL素子が、互いに同じ色相である第1領域と第2領域とからなる画素の前記第1領域に設けられ、前記第2領域には前記第2電極の光出射側にレンズを配して設けられ、前記画素が複数配置された有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子の前記発光層で発せられた光が、前記第1電極と前記第2電極の間で干渉によって強められ、
少なくとも一部の前記画素において、前記第2領域の有機EL素子が前記第1領域の有機EL素子よりも光学膜厚が厚いことを特徴とする有機EL表示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レンズを設けた第2領域の有機EL素子の光学膜厚を、レンズを設けない第1領域の有機EL素子の光学膜厚よりも厚くするため、第2領域において発光色を長波長側にシフトさせることができる。これにより二つの領域の色度ずれを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の表示装置を構成する有機ELパネル及び画素の概略図である。
【図2】本発明の表示装置に用いられる有機EL素子の輝度−視野角特性である。
【図3】実施例1の表示装置を構成する有機ELパネル及び画素の概略図である。
【図4】実施例1の表示装置に用いられる画素回路である。
【図5】実施例1の表示装置を構成する画素の他の例の概略図である。
【図6】実施例1の有機EL素子の色度ずれ特性である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の有機EL表示装置の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1(a)は、本発明の有機EL表示装置を構成する有機ELパネル11の一例を示す概略図である。有機ELパネル11はマトリクス状に複数配置された画素(m行n列画素)、情報線駆動回路12、走査線駆動回路13、情報線15、走査線16を有する。各画素は各情報線15と各走査線16の交点に配置され、各画素には画素回路14、有機EL素子が配置されている。情報線駆動回路12は画像データに応じた情報電圧(情報信号)を情報線15に印加する回路、走査線駆動回路13は走査信号を走査線16に供給する回路、画素回路14は情報電圧に応じた駆動電流を有機EL素子に供給する回路である。
【0012】
図1(b)は、図1(a)の有機ELパネル11における画素(例えば図1(a)中のa行目b列目の画素)に相当する部分を示す部分断面図である。各画素は互いに異なる視野角特性(視野角特性A、視野角特性B)を有する二つの領域からなる。ここで、画素を構成する「領域」とは、1つの有機EL素子が設けられた領域を意味する。各画素では、基板20の上に上記各領域の有機EL素子毎にパターニングされた第1電極21が形成され、第1電極21の上に発光層を含む有機EL層(有機化合物層)23、第2電極24が順に形成されている。発光層で発光した光は直接第2電極側から外部に取り出されるか、又は第1電極21の反射面で反射された後第2電極側から外部に取り出される。上記各領域内の各有機EL素子間には二つの領域間を分離する領域分離層22が形成され、第2電極24の上には空気中の酸素や水分から有機EL層23を保護するための保護膜25が形成されている。第1電極21と第2電極24は一方がアノード電極、他方がカソード電極である。第1電極21をアノード電極、第2電極24をカソード電極としても良いし、第1電極21をカソード電極、第2電極24をアノード電極としても良い。
【0013】
第1電極21は、例えばAg等の高い反射率を持つ導電性の金属材料から形成される。或いはそのような金属材料から成る層とホール注入特性に優れたITO(Indium−Tin−Oxide)等の透明導電性材料から成る層との積層体から構成しても良い。第1電極21が金属からなる場合、金属と有機EL層23との界面(金属の発光層側の界面)が第1電極21の反射面である。第1電極21が金属膜と透明酸化物導電膜との積層体からなる場合、金属膜と透明酸化物導電膜との界面が第1電極21の反射面である。尚、第1電極21は同一画素内で連続して形成され、つながっていても良い。この場合、同一画素の二つの有機EL素子間に領域分離層22は設けない。
【0014】
第2電極24は、複数の有機EL素子に対して共通に形成されており、発光層で発光した光を素子外部に取り出し可能な半反射性又は光透過性の構成を有している。素子内部での干渉効果を高めるために第2電極24を半反射性の構成とする場合、第2電極24はAg、AgMg等の電子注入性に優れた導電性の金属材料から成る層を2nm〜50nmの膜厚で形成することにより構成することができる。この場合、第2電極24の反射面は、金属材料から成る層と有機化合物層との界面である。尚、「半反射性」とは、素子内部で発光した光の一部を反射し一部を透過する性質を意味し、可視光に対して20〜80%の反射率を有するものをいい、「光透過性」とは、可視光に対して80%以上の透過率を有するものをいう。第2電極24が半透過性、つまり、透明酸化物導電膜からなる場合には、第2電極の24の反射面は、透明酸化物導電膜の光出射側にある界面(有機EL層23とは反対側にある界面)である。
【0015】
有機EL層23は、少なくとも発光層を含む単層又は複数の層からなる。有機EL層23の構成例としては、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層からなる4層構成、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層からなる3層構成等が挙げられる。有機EL層23を構成する材料は公知の材料を使用することができる。
【0016】
保護膜25は、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料からなる。或いは無機材料と有機材料との積層膜からなる。無機膜の膜厚は0.1μm以上10μm以下が好ましく、CVD法で形成することが好ましい。有機膜は工程中に表面に付着して除去できない異物を覆って保護性能を向上させるために使用するため、有機膜の膜厚は1μm以上が好ましい。図1(b)では、保護膜25を領域分離層22の形状に沿って形成しているが、保護膜25の表面が平坦であっても良い。有機材料を使うことで容易に表面を平坦にすることが可能である。
【0017】
基板20には各有機EL素子を駆動できるように画素回路が形成されている(不図示)。これらの画素回路は複数の薄膜トランジスタ(以下、TFT:Thin−Film−Transistorという)から構成されている(不図示)。TFTが形成された基板20は、TFTと第1電極21とを電気的に接続するためのコンタクトホールが形成された層間絶縁膜に覆われている(不図示)。層間絶縁膜上には、画素回路による表面凹凸を吸収し、表面を平坦にするための平坦化膜が形成されている(不図示)。
【0018】
図1(c)は、図1(a)の有機ELパネル11における画素配置の一例であり、R画素31、G画素32、B画素33が配置されている。R画素31はR−1領域311、R−2領域312で構成され、各領域は色相が共にR、かつ互いに視野角特性が異なる。G画素32はG−1領域321、G−2領域322で構成され、各領域は色相が共にG、かつ互いに視野角特性が異なる。B画素33はB−1領域331、B−2領域332で構成され、各領域は色相が共にB、かつ互いに視野角特性が異なる。Rを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるR画素31、Gを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるG画素32、Bを発光し視野角特性の異なる二つの領域からなるB画素33が、1つの表示単位である。
【0019】
本発明の有機EL表示装置は、図1(c)のように3つの異なる色相を持った有機ELパネルで構成しても良いし、4つの異なる色相を持った有機ELパネルで構成しても良い。3色相の場合には、例えばR・G・Bの3色相を持った有機ELパネルとし、R・G・Bの3色相の有機EL素子からなる構成としても良いし、白色有機EL素子にR・G・Bの3色相のカラーフィルターを重ねた構成としても良い。4色相の場合には、例えばR・G・B・Wの4色相を持った有機ELパネルとしても良い。
【0020】
このように、本発明の第一の特徴は各画素が異なる視野角特性を有する二つの領域からなることである。具体的にはR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を視野角の広い特性を持つ領域で構成し、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を正面輝度の高い特性を持つ領域で構成する。ここで、「正面輝度の高い特性」とは、正面方向即ち基板の法線方向への光取り出し効率が高い特性を意味する。以下、R−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を「第1領域」、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を「第2領域」という。第1領域と第2領域が上記各特性を持つためには、例えば第2領域のみに有機EL素子の光出射側に集光性の高い素子を配置する。集光性の高い素子としては、レンズ等を用いるのが好ましい。
【0021】
画素内の第1領域と第2領域の視野角特性をグラフで示すと図2のようになる。図2中の(a)はR−1領域311の相対輝度−視野角特性、図2中の(b)はR−2領域312の相対輝度−視野角特性である。輝度はR−1領域311・R−2領域312共に同じ電流を注入し、R−1領域311の正面輝度を1としたときの相対輝度値で表している。図2より、R−1領域311は視野角が広いことが分かる。一方、R−2領域312は視野角が狭いが、正面輝度がR−1領域311の約4倍になることが分かる。G画素32の上記二つの領域及びB画素33の上記二つの領域についても図2と同様の特性を有する。
【0022】
次に、本発明のもう一つの特徴について説明する。本発明の第二の特徴は、有機EL素子の発光層で発せられた光が、第1電極と第2電極の間で干渉によって強められ、かつ、少なくとも一部の画素において、第2領域の有機EL素子が第1領域の有機EL素子よりも光学膜厚が厚いことである。具体的には光学干渉に寄与する部分の膜厚を異なる値に設定する。なお、光学膜厚とは、第1電極21の反射面と第2電極24の反射面との間にある各層の膜厚と各層の屈折率の積の和のことである。例えばトップエミッション型の有機EL素子の場合には、発光層と第1電極21の反射面との間の光学膜厚を第2領域の方が第1領域よりも厚い値に設定するのが効果的である。このように光学膜厚を設定することにより第2領域において発光色を長波長側にシフトさせることができる。これにより、第2領域の有機EL素子の光学膜厚が第1領域の有機EL素子の光学膜厚よりも厚い構成をとる画素において、二つの領域の色度ずれを低減することができる。詳細については後述の実施例で説明する。
【0023】
続いて、有機ELパネル11の動作について説明する。R・G・B各画素における視野角特性の異なる二つの領域は画素回路で駆動する。第1電極21が同一画素内で連続して形成され、つながっている場合には二つの領域を同時に駆動することができ、つながっていない場合には二つの領域を独立して駆動することができる。図4の画素回路を用いることにより例えば以下の駆動を行うことができる。
【0024】
視野角の広い特性を持った領域であるR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331のみを点灯させると有機ELパネル11は視野角の広い性能が得られる。視野角は狭いが、正面輝度の高い特性を持った領域であるR−2領域312、G−2領域322、B−2領域332のみを点灯させると有機ELパネル11は正面輝度の高い性能が得られる。これらの駆動を組み合わせることにより正面輝度の向上と広い視野角特性の両方を実現できる。
【0025】
また、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332を低電流で点灯させ、正面輝度をR−1領域311、G−1領域321、B−1領域331を点灯させた場合と同等にすると消費電力を低減できる。
【実施例】
【0026】
図3(a)は、本実施例の有機EL表示装置を構成する有機ELパネル11の概略図である。本実施例の有機ELパネル11は図1(a)の有機ELパネル11に発光領域の選択制御線駆動回路17、2本の選択制御線18、19を追加した構成としている。各画素はR・G・Bいずれかの色相である。画素回路14は図4の回路を用いる。図4において、P1は走査線、P2は有機EL素子Aの選択制御線、P3は有機EL素子Bの選択制御線である。情報信号として情報電圧Vdataが情報線15から入力される。有機EL素子Aのアノード電極はTFT(M3)のドレイン端子に接続されており、カソード電極は接地電位CGNDに接続されている。有機EL素子Bのアノード電極はTFT(M4)のドレイン端子に接続されており、カソード電極は接地電位CGNDに接続されている。
【0027】
図3(b)は、本実施例の有機ELパネル11における画素に相当する部分を示す部分断面図である。本実施例の各画素は図1(b)の画素において第2領域のみに有機EL素子の光出射側にレンズを設けた構成としており、保護膜25より下の層は図1(b)と同じ構成である。本実施例では第1電極21をアノード電極、第2電極24をカソード電極とした。
【0028】
レンズ26は樹脂材料を加工することにより形成されている。具体的にはレンズは型押し等の方法により形成可能である。また、保護膜25を無機膜で厚膜形成した後、その無機膜をエッチングしてレンズ形状に加工しても良い。この場合、図5のような構成になる。このように保護膜25がレンズ形状も兼ねると単層で形成できる点で好ましい。
【0029】
上記構成をとることにより、レンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子Bでは、有機EL層23から出射された光が透明な第2電極24を透過し、更に保護膜25、レンズ26を透過して有機EL素子Bの外部へ出射される。レンズ26が設けられた構成ではレンズ26が設けられていない構成と比べて出射角度が基板の法線方向に近づく。従ってレンズ26が設けられた構成の方が基板の法線方向への集光効果が向上する。即ち表示装置としては正面方向における光の利用効率を高めることができる。また、レンズ26が設けられた構成では、発光層から斜めに出射された光の出射界面に対する入射角度が垂直に近くなるため、全反射する光量が減少する。その結果、光取り出し効率も向上する。
【0030】
一方、レンズが設けられていない第1領域の有機EL素子Aでは、有機EL層23の発光層から斜めに出射された光は、保護膜25から出射する際に更に斜めになって出射するため、広角で光を放出できるが正面方向に多くの光を取り出せない。
【0031】
図3(c)は、本実施例の有機ELパネル11における画素配置であり、図1(c)と同じ画素配置である。R−1領域311、G−1領域321、B−1領域331では有機EL素子Aの光出射側を平坦とし、R−2領域312、G−2領域322、B−2領域332では有機EL素子Bの光出射側にレンズを設けている。また、本実施例では少なくとも一部の画素において、第2領域の有機EL素子の光学膜厚を第1領域の有機EL素子の光学膜厚よりも厚くしている。以下、第1領域の有機EL素子Aと第2領域の有機EL素子Bの膜厚構成、レンズ構成及び色度ずれ特性を示す。
【0032】
(膜厚構成)
表1にG画素における有機EL素子Aと有機EL素子Bの膜厚を示す。G−1領域321に設けられているのは第2電極24の光出射側が平坦な有機EL素子A、G−2領域322に設けられているのは第2電極24の光出射側にレンズが形成された有機EL素子Bである。第1電極21はAgとITO(10nm)を積層している。第1電極21の上に、ホール輸送層(HTL)(178nm、188nm)、発光層(EML)(20nm)、電子輸送層(ETL)(20nm)、電子注入層(EIL)(15nm)をこの順に積層する。HTLの膜厚は有機EL素子Aでは178nm、有機EL素子Bでは188nmとしている。更にその上に、第2電極24としてAg(12nm)を成膜し、保護膜25としてSiNを成膜している。尚、R画素31、B画素33についても有機EL素子BのHTLの膜厚を有機EL素子AのHTLの膜厚よりも厚くした。また、第1電極21をカソード電極、第2電極24をアノード電極とした場合には、第1電極21の上に、EIL、ETL、EML、HTLの順で積層して有機EL層23を形成し、更にその上に、第2電極24、保護膜25を順に形成する。
【0033】
【表1】

【0034】
(レンズ構成)
本実施例の有機EL素子Bの第2電極24の光出射側には、SiN膜をエッチングしてレンズを形成する。尚、有機EL素子Bの発光開口サイズは8μmφ、レンズの曲率半径は16μm、発光層とレンズの先端までの距離は8μmという関係に設定する。
【0035】
(色度ずれ特性)
本実施例の有機EL素子Aと有機EL素子Bの色度ずれ特性を図6(a)に示す。比較例として有機EL素子BのHTLの膜厚を178nm(有機EL素子Aと同じ膜厚)に設定した場合の色度ずれ特性を図6(b)に示す。また、各角度における色度差Δxyを表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
図6(a)(b)、表2より、本実施例のように有機EL素子Aと有機EL素子BとでHTLの膜厚を変えた場合の方が、各角度における色度の差が小さくなることが分かる。また、図6(b)から分かるように、レンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子Bの場合、第1領域の有機EL素子Aに比べ、発光色が短波長側にシフトする。この作用を打ち消すために、有機EL素子Bは、発光色を長波長側にシフトさせるべく膜厚を厚くする。こうすることにより図6(a)のように色度のずれが小さくなる。
【0038】
本実施例では、有機EL素子Aと有機EL素子Bの光学膜厚のうちHTL膜厚を異なる値に設定したが、これに限定されるものではない。例えば第1電極の一部であるITOの膜厚を異なる値に設定しても良い。有機EL素子Aと有機EL素子Bの光学膜厚のうち、ETLの膜厚を異なる値に設定しても良い。
【0039】
ここで、どの程度まで光学膜厚を厚くする必要があるかについて説明する。第1領域の有機EL素子Aで屈折率が2の保護膜25を用いる場合、保護膜25中の0〜30度までの光が外部へ取り出される。即ち正面にキャビティを合わせた場合、30度の干渉ずれまでが観察される。レンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子Bでは保護膜25中の30度よりも大きい角度の光が外部へ取り出される。レンズ26の屈折率を1.7程度とすると、保護膜25中の0〜約60度までの光が外部へ取り出される。このため、同じ光学干渉の場合、更に高角側の干渉ずれまでが観察される。このため、光学干渉を正面でなく30度の方向に合わせることで、正面側は−30度のずれまでで済む。これは第1領域の有機EL素子Aでの取り出しの角度と同等であるので、この範囲以下にしておくことが好ましい。従って、大きく見積もっても30度の角度に相当する分、光学膜厚を調整すれば良い。強め合い干渉に関しては下記式が成り立つ。
2×L×COSθ=(m+φ/2π)×λ
L:発光層と第1電極21の反射面との間の光学距離
m:0以上の整数
φ:第1電極21の反射面での位相変化量
λ:干渉波長
【0040】
上記式から、例えばθ=0°、m=1、φ=π、λ=550nmとした場合、L=412nmとなる。同様にθ=30°、m=1、φ=π、λ=550nmとした場合、476nmとなる。従ってレンズ26が設けられた第2領域の有機EL素子Bの光学膜厚は、第1領域の有機EL素子Aの光学膜厚よりも64nm以下の範囲で厚く設定する。この時、例えばHTLで光学膜厚を調整する場合、HTLの屈折率を1.7程度とすると38nmまでの範囲で厚く設定する。そして、レンズ26の形状・集光度合いが小さいほど、この調整膜厚は薄くて良い。
【0041】
以上より、本実施例では、少なくとも一部の画素でレンズ26を設けた第2領域の有機EL素子Bの光学膜厚を、レンズ26を設けない第1領域の有機EL素子Aの光学膜厚よりも厚くする。これにより第2領域の有機EL素子の光学膜厚が第1領域の有機EL素子の光学膜厚よりも厚い画素において、二つの領域の色度ずれを低減することができる。
【符号の説明】
【0042】
11:有機ELパネル、12:情報線駆動回路、13:走査線駆動回路、14:画素回路、17:発光領域の選択制御線駆動回路、20:基板、21:第1電極、22:領域分離層、23:有機EL層、24:第2電極、25:保護膜、26:レンズ、31:R画素、32:G画素、33:B画素、311:R画素のR−1領域、312:R画素のR−2領域、321:G画素のG−1領域、322:G画素のG−2領域、331:B画素のB−1領域、332:B画素のB−2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層を含む有機EL層と、を備える有機EL素子が、互いに同じ色相である第1領域と第2領域とからなる画素の前記第1領域に設けられ、前記第2領域には前記第2電極の光出射側にレンズを配して設けられ、前記画素が複数配置された有機EL表示装置であって、
前記有機EL素子の前記発光層で発せられた光が、前記第1電極と前記第2電極の間で干渉によって強められ、
少なくとも一部の前記画素において、前記第2領域の有機EL素子が前記第1領域の有機EL素子よりも光学膜厚が厚いことを特徴とする有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−243714(P2012−243714A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115644(P2011−115644)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】