説明

有機EL装置、その製造方法および電子機器

【課題】 発光輝度を向上させることが可能であり、また発光方向に指向性を付与することが可能な、有機EL装置を提供する。
【解決手段】 正孔注入層70の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解して液状体を作成し、有機隔壁221の側面221aの表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように有機隔壁221の側面221aに撥液処理を施し、前記液状体を有機隔壁221の内側に塗布して、約60℃の雰囲気温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、正孔注入層70の表面が有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凸状となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置、その製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)が期待されている。有機EL装置は、上下の電極間に発光層を挟持した有機EL素子を基体上に配設して構成されており、典型的には、ガラス等の基板の上に、陽極となる画素電極と、有機機能層(正孔注入層や発光層、電子輸送層等)と、陰極とを順次積層した構造が採られる。そして、陽極および陰極によって有機機能層に電流を供給することにより、有機機能層の発光層を発光させるようになっている。
【0003】
近時では、上述した有機機能層を液相プロセスによって形成する方法が検討されている(例えば、特許文献1および2参照)。これは、各層の形成材料を含む液状体をインクジェット法やスピンコート法等によって塗布し、その液状体を乾燥させて有機機能層を形成するものである。このような液相プロセスを採用することにより、気相プロセスと比べてエネルギー消費量を低減することができる。また、比較的低温での成膜が可能になり、下地となる有機機能膜や基板等へのダメージを低減することができる。
【特許文献1】特開2002−231447号公報
【特許文献2】特開2002−222695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した有機EL装置では、充分な発光輝度と発光寿命とを両立させることが課題となっている。電極間の電流密度を増加させれば、発光輝度は向上するが、発光寿命が低下することになるからである。
【0005】
また、自発光型の有機EL装置は、放射状に光を照射するため、広視野角の画像表示が行われる。しかしながら、携帯電話用の画像表示装置では、周辺からの覗き見を防止するため、狭視野角の画像表示が望まれる場合がある。このように、発光方向に指向性が付与された有機EL装置が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、発光輝度を向上させることが可能であり、また発光方向に指向性を付与することが可能な、有機EL装置およびその製造方法の提供を目的とする。
また、表示品質に優れた電子機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の有機EL装置は、画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、前記正孔注入層の表面が、前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凸状となるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、発光層の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。また発光層の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて発光方向に指向性を付与することができる。
【0008】
なお、前記隔壁の表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施し、前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布し、塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層が形成されていることが望ましい。
この構成によれば、正孔注入層の表面を、隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凸状となるように形成することができる。
【0009】
また本発明の他の有機EL装置は、画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、前記正孔注入層の表面が、前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凹状となるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、発光層の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。また発光層の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて発光方向に指向性を付与することができる。
【0010】
なお、前記隔壁の表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施し、前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布し、塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層が形成されていることが望ましい。
この構成によれば、正孔注入層の表面を、隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凹状となるように形成することができる。
【0011】
また本発明の他の有機EL装置は、画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、前記正孔注入層の表面が、前記画素領域の周縁部において凸状となり、前記画素領域の中央部において凹状となるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、発光層の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。
【0012】
また前記正孔注入層が、PEDOT/PSSで構成されていることが望ましい。
この構成によれば、液相プロセスを用いて正孔注入層を形成し、発光効率に優れた有機EL装置を提供することができる。
【0013】
一方、本発明の有機EL装置の製造方法は、画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置の製造方法であって、前記隔壁の表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施す工程と、前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布する工程と、塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層の表面が前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凸状となるように、前記正孔注入層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、発光輝度を向上させることができる。また、発光方向に指向性を付与することができる。
【0014】
また本発明の他の有機EL装置の製造方法は、画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置の製造方法であって、前記隔壁の表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施す工程と、前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布する工程と、塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層の表面が前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凹状となるように、前記正孔注入層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、発光輝度を向上させることができる。また、発光方向に指向性を付与することができる。
【0015】
一方、本発明の電子機器は、上述した有機EL装置を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、発光輝度に優れた有機EL装置を備えているので、表示品質に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で参照する各図面においては、理解を容易にするために、各構成要素の寸法等を適宜変更して表示している。
【0017】
(第1実施形態)
最初に、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置につき、図1ないし図3を用いて説明する。
図1は、一般的な有機EL装置の側面断面図である。有機EL装置は、素子基板2と、素子基板2の表面に配設された駆動回路部5と、駆動回路部5の表面に配設された複数の有機EL素子3と、有機EL素子3を封止する封止基板30とを主として構成されている。この有機EL素子3は、素子基板2に垂直な方向から見て円形状や長円形状等に形成され、素子基板2上にマトリクス状に整列配置されている。本実施形態では、有機EL素子3における発光光を素子基板2側から取り出すボトムエミッション型の有機EL装置を例にして説明する。
【0018】
(有機EL装置)
ボトムエミッション型の有機EL装置では、発光層60における発光光を素子基板2側から取り出すので、素子基板2としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラスや石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等を用いることが可能であり、特にガラス基板が好適に用いられる。
【0019】
素子基板2上には、有機EL素子3の駆動用TFT123(駆動素子4)などを含む駆動回路部5が形成されている。なお、駆動回路を備えた半導体素子を素子基板2に実装して有機EL装置を構成することも可能である。
【0020】
駆動回路部5の具体的な構成として、素子基板2の表面に絶縁材料からなる下地保護層281が形成され、その上に半導体材料であるシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。そのゲート絶縁層282の表面には、ゲート電極242が形成されている。このゲート電極242は、図示しない走査線の一部によって構成されている。なお前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と対向する領域がチャネル領域241aとされている。一方、ゲート電極242およびゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0021】
またシリコン層241のうち、チャネル領域241aの一方側には低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられ、チャネル領域241aの他方側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Lightly Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、図示しない電源線の一部によって構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同層に配置されたドレイン電極244に接続されている。
【0022】
上述したソース電極243およびドレイン電極244、並びに第1層間絶縁層283の上層には、アクリル系やポリイミド系等の耐熱性絶縁性樹脂材料などを主体とする平坦化膜284が形成されている。この平坦化膜284は、駆動用TFT123(駆動素子4)やソース電極243、ドレイン電極244などによる表面の凹凸をなくすために形成されたものである。
【0023】
そして、平坦化膜284の表面における有機EL素子3の形成領域には、複数の画素電極23が形成されている。この画素電極23は、平坦化膜284の表面にマトリクス状に配設されている。画素電極23は、該平坦化膜284に設けられたコンタクトホール23aを介して、ドレイン電極244に接続されている。すなわち画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0024】
また、平坦化膜284の表面における画素電極23を囲うように、SiO等の無機絶縁材料からなる無機隔壁25が形成されている。さらに無機隔壁25の表面には、ポリイミド等の有機絶縁材料からなる有機隔壁221が形成されている。そして、有機EL素子3の形成領域に配置された画素電極23の上方には、無機隔壁25の側面25aおよび有機隔壁221の側面221aが配置されている。
【0025】
そして、無機隔壁25の側面25aおよび有機隔壁221の側面221aの内側に、複数の機能膜が積層形成されて、有機EL素子3が構成されている。有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔注入層70と、有機EL物質からなる発光層60と、陰極52とを積層して構成されている。
【0026】
ボトムエミッション型の有機EL装置の場合、陽極として機能する画素電極23は、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電材料によって形成されている。
正孔注入層70の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。
なお、正孔注入層70の形成材料としては、前記のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0027】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0028】
陰極52は、主陰極50および補助陰極51を積層して構成されている。主陰極50として、仕事関数が3.0eV以下のCaやMg、LiF等の材料を採用することが望ましい。これにより、主陰極50に電子注入層としての機能が付与されるので、低電圧で発光層を発光させることができる。また補助陰極51は、陰極52全体の導電性を高めるとともに、主陰極50を酸素や水分等から保護する機能を有している。そのため補助陰極51として、導電性に優れたAlやAu、Ag等の金属材料を採用することが望ましい。
【0029】
一方、陰極52の上方には、接着層40を介して封止基板30が貼り合わされている。なお、陰極52の全体を覆う封止キャップを素子基板2の周縁部に固着し、その封止キャップの内側に水分や酸素等を吸収するゲッター剤を配置してもよい。また、陰極52の表面にSiO等からなる無機封止膜を積層形成してもよい。
【0030】
上述した有機EL装置では、駆動回路部5のソース電極243から供給された画像信号が、駆動素子4により所定のタイミングで画素電極23に印加される。そして、その画素電極23から注入された正孔と、陰極52から注入された電子とが、発光層60で再結合して所定波長の光が放出される。その発光光は、透明材料からなる画素電極23、駆動回路部5および素子基板2を透過して外部に取り出される。これにより、素子基板2側において画像表示が行われるようになっている。なお、無機隔壁25は絶縁材料で構成されているので、無機隔壁25の側面25aの内側のみに電流が流れて発光層60が発光する。そのため、無機隔壁25の側面25aの内側が有機EL素子3の画素領域26となっている。
【0031】
(正孔注入層)
図2は、第1実施形態に係る有機EL装置の説明図である。本実施形態の有機EL装置では、上述した正孔注入層70の発光層60側の表面が、有機隔壁221の側面から画素領域26の中央部にかけて凸状となるように形成されている。すなわち、正孔注入層70の厚さは、画素領域26の周縁部から中央部にかけて厚くなっている。そして、凸状に形成された正孔注入層70の表面に沿って、発光層60が略均一な厚さに形成されている。したがって、発光層60の正孔注入層70側の表面は凹面になっている。
【0032】
本実施形態の有機EL装置では、発光層60の正孔注入層70側の表面60aが曲面とされているので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。しかも電流密度が変化しないので、発光寿命を低下させることがない。また、正孔注入層70を構成するPEDOT/PSSは、発光層60の構成材料に比べて電気抵抗が1桁程度低いので、画素領域26において正孔注入層70の厚さが不均一に形成されていても、発光層60の厚さが略均一に形成されている限り発光ムラを生じることがない。
【0033】
また、発光層60の正孔注入層70側の表面60aが曲面とされているので、発光方向に指向性を付与することが可能になる。本実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置であって、発光層60の正孔注入層70側の表面60aが凹面とされているので、その表面が平面の場合に比べて、出射光61を収束させることが可能になる。これにより、狭い角度範囲に光を出射させることができる。
【0034】
(有機EL装置の製造方法)
次に、上述した有機EL装置の製造方法について説明する。
まず図1に示すように、素子基板2の表面に、駆動用TFT123(駆動素子4)や平坦化膜284などを含む駆動回路部5を形成する。
【0035】
図3は、有機EL装置の製造方法の工程図である。次に図3(a)に示すように、平坦化膜284の表面に画素電極23をパターニングする。
次に、画素電極23を囲うように無機隔壁25を形成する。具体的には、まず素子基板の全面を覆うように、SiO等の絶縁材料からなる無機隔壁層を形成する。続いて、有機EL素子の画素領域26を開口させて、無機隔壁25を形成する。
次に、無機隔壁25の表面に有機隔壁221を立設する。具体的には、まず素子基板の全面を覆うように、樹脂材料等からなる有機隔壁層を形成する。続いて、有機EL素子の形成領域を開口させて、有機隔壁221を形成する。
【0036】
次に、素子基板の表面に親液性を示す領域および撥液性を示す領域を形成する。具体的には、まず素子基板を70〜80℃程度に予備加熱する。次に、大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行い、画素電極23の上面、無機隔壁25の表面、並びに有機隔壁221の側面221aおよび上面をそれぞれ親液化処理する。さらに、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、有機隔壁221の側面221aおよび上面を撥液化処理する。特に本実施形態では、有機隔壁221の側面221aの表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、プラズマ処理時間を延長する。その後、素子基板を室温まで冷却する。
【0037】
なお、画素電極23の上面および無機隔壁25の表面も、CFプラズマ処理の影響を受ける。しかしながら、画素電極23の材料であるITOや、無機隔壁25の構成材料であるSiOなどは、フッ素に対する親和性に乏しいため、親液化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることはない。したがって、画素電極23の上面および無機隔壁25の表面に付与された親液性は維持される。以上により、図3(a)に示す状態となる。
【0038】
次に図3(b)に示すように、PEDOT/PSS等からなる正孔注入層を形成する。この正孔注入層は、液相プロセスによって形成する。液相プロセスは、機能膜の形成材料を含む液状体を塗布し、その液状体を乾燥させて機能膜を形成するものである。この液相プロセスでは、蒸着法等の気相プロセスに比べて、真空条件を必要としないので、エネルギー消費量を低減することが可能になり、製造コストを低減することができる。また、基板サイズの制限がなくなるので、大画面ディスプレイの製造に有効となる。さらに、蒸着マスクが不要となるので、高精細なディスプレイの製造に有効となる。加えて、比較的低温での成膜が可能になり、耐熱性の低いプラスチック基板を用いたフレキシブルなディスプレイの開発に有効となる。
【0039】
液相プロセスとして、具体的にはインクジェット法を採用することが望ましい。インクジェット法は、機能膜の形成材料を含む液状体をインク室内に充填し、そのインク室内に圧力変化を生じさせ、インク室に連通するノズルから液滴を吐出して、機能膜を形成すべき所定位置に着弾させるものである。そのため、少なくとも塗布すべき液状体を充填するインク室と、インク室内に圧力変化を生じさせるピエゾ素子等の駆動素子と、インク室に連通するノズルとを備えたインクジェットヘッドを使用する。このインクジェット法を採用することにより、所定量の液状体を所定位置に正確に塗布することが可能になり、寸法精度に優れた機能膜を形成することができる。また、液状体を効率的に使用することが可能になり、製造コストを低減することができる。
【0040】
具体的には、まずPEDOT/PSSを極性溶媒に溶解させた液状体をインクジェットヘッドのインク室内に充填する。極性溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルブタノール、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2イミダゾリジノン(DMI)及びその誘導体、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのグルコールエーテル類などを用いることができる。特に本実施形態では、蒸気圧が10Pa以上100Pa以下程度(温度23℃において)の溶媒を採用する。
次に、インクジェットヘッドと素子基板とを相対移動させながら、インクジェットヘッドのノズルを素子基板の画素領域26に対向させる。そして、駆動素子によりインク室内に圧力変化を生じさせ、ノズルから画素領域26に向かって液滴を吐出する。
【0041】
このとき、ノズルから吐出された液滴は、親液性が付与された画素電極23の上面に濡れ広がり、無機隔壁25の側面25aの内側に充填される。その一方で、有機隔壁221の上面および側面221aに向かって飛散した液滴は、撥液性が付与された上記部分に付着せず、有機隔壁221の側面221aの底部に向かって流れ込む。これにより、図3(b)に示すように、無機隔壁25の側面25aの内側および有機隔壁221の側面221aの底部のみに液状体72を塗布することができる。
【0042】
本実施形態では、有機隔壁221の側面221aの表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように撥液処理を施すとともに、液状体72の溶媒として蒸気圧が10Pa以上100Pa以下のものを採用している。そのため、有機隔壁221の側面221aと液状体との接触角が大きくなる。これにより、塗布された液状体72の表面は、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凸状に盛り上がった状態となる。
【0043】
次に図3(c)に示すように、塗布された液状体を乾燥させる。液状体の乾燥は、液状体を塗布した素子基板を気密容器中に配置して、液状体を所定温度に保持しつつ容器内部を徐々に減圧する、いわゆる減圧乾燥を用いて行う。本実施形態では、ホットプレート等により素子基板を加熱して、塗布された液状体を約60℃に保持する。その状態で、大気圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように、容器内部を排気する。その後、容器内部の圧力が溶媒の蒸気圧の10分の1程度(約1〜10Pa)になるまで、数分から10分程度の乾燥を行う。これにより、液状体に含まれる溶媒が蒸発して、PEDOT/PSSが析出し、正孔注入層70が形成される。
【0044】
その正孔注入層70の表面は、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凸状となるように形成される。すなわち、液状体の表面が凸状に盛り上がった状態から、上記条件で減圧乾燥を行うことにより、正孔注入層70の表面を凸状に形成することができる。なお有機隔壁221の側面221aの表面張力が大きいほど、正孔注入層70が凸状に形成されやすくなる。また大気圧から100Paまでの減圧時間が長いほど、正孔注入層が凸状に形成されやすくなる。
【0045】
以上により、図3(c)に示す状態となる。なお、正孔注入層70の形成工程以降の工程は、各種の形成材料や形成した要素等の酸化・吸湿を防止すべく、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0046】
次に図3(d)に示すように、正孔注入層70の表面に発光層60を形成する。発光層60の形成工程でも、正孔注入層70の形成工程と同様に、液相プロセスであるインクジェット法を採用することが望ましい。すなわち、発光層60の形成材料を含む液状体を吐出し、減圧乾燥を行うことにより、有機隔壁221の側面221aの内側における画素領域26の上方に、均一な厚さの発光層60を形成する。
【0047】
次に図1に示すように、陰極52を形成する。この陰極52は、蒸着法やスパッタ法等により、素子基板2のほぼ全面に形成する。
次に、封止基板30を接着する。この封止工程では、素子基板2の表面に透明な接着層40を塗布し、気泡が入らないようにして封止基板30を貼り合わせる。
以上により、本実施形態に係る有機EL装置が形成される。
【0048】
以上に詳述した本実施形態では、有機隔壁の側面の表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように撥液処理を施し、正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を有機隔壁の内側に塗布し、塗布された液状体を、約60℃に保持した状態で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、正孔注入層の表面が、有機隔壁の側面から画素領域の中央部にかけて凸状となるように形成されている構成とした。
【0049】
この構成によれば、発光層の正孔注入層側の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。しかも電流密度が変化しないので、発光寿命を低下させることがない。また発光層の正孔注入層側の表面が凹面になるので、その表面が平面の場合に比べて発光方向に指向性が付与され、出射光を収束させることが可能になる。これにより、狭い角度範囲に光を出射させることができる。
なお、本実施形態ではボトムエミッション型の有機EL装置を例にして説明したが、トップエミッション型の有機EL装置に本発明を適用することも可能である。その場合、上記とは逆に、広い角度範囲に光を出射させることができる。
【0050】
なお、以上には減圧乾燥時の温度が約60℃の場合について説明したが、減圧乾燥時の温度が常温程度(約15℃以上30℃以下)と低い場合には、大気圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥を行うことが望ましい。この場合、大気圧から100Paまでの減圧時間が短いほど、正孔注入層の表面が凸状に形成されやすくなる。このように、温度条件によって減圧乾燥条件が大幅に変わるのは、主に温度条件により溶媒の粘度が変化するためである。
【0051】
(第2実施形態)
最初に、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置につき、図4を用いて説明する。
図4は、第2実施形態に係る有機EL装置の説明図である。第2実施形態の有機EL装置では、正孔注入層70の発光層60側の表面が、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凹状となるように形成されている点で、凸状となるように形成されている第1実施形態と相違している。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0052】
第2実施形態の有機EL装置では、正孔注入層70の発光層60側の表面が、有機隔壁221の側面から画素領域26の中央部にかけて凹状となるように形成されている。すなわち、正孔注入層70の厚さは、画素領域26の周縁部から中央部にかけて薄くなっている。そして、凹状に形成された正孔注入層70の表面に沿って、発光層60が略均一な厚さに形成されている。したがって、発光層60の正孔注入層70側の表面は凸面になっている。
【0053】
第2実施形態の有機EL装置でも、発光層60の正孔注入層70側の表面60aが曲面とされているので、発光輝度を向上させることができるとともに、発光方向に指向性を付与することができる。特に第2実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置であって、発光層60の正孔注入層70側の表面60aが凸面になっているので、その表面が平面の場合に比べて出射光61を発散させることが可能になる。これにより、広い角度範囲に光を出射させることができる。
【0054】
次に、第2実施形態に係る有機EL装置の製造方法について説明する。
第2実施形態でも、液相プロセスによって正孔注入層を形成する。そのため、正孔注入層70の構成材料であるPEDOT/PSSを、蒸気圧が10Pa以上100Pa以下程度(温度23℃において)の溶媒に溶解させて液状体を作成する。
また、有機隔壁221の側面221aおよび上面を撥液化処理する。ここで第2実施形態では、有機隔壁221の側面221aの表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように、プラズマ処理時間を短縮する。
【0055】
次にインクジェット法等により、上述した液状体を画素領域26に塗布する。本実施形態では、液状体の溶媒として蒸気圧が10Pa以上100Pa以下のものを採用するとともに、有機隔壁221の側面221aの表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように撥液処理を施しているので、有機隔壁221の側面221aと液状体との接触角が小さくなる。これにより、塗布された液状体の表面は、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凹状に窪んだ状態となる。
【0056】
次に、塗布された液状体を減圧乾燥させる。第2実施形態では、塗布された液状体を約60℃に保持しつつ、大気圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥する。その後、容器内部の圧力が溶媒の蒸気圧の10分の1程度(約1〜10Pa)になるまで、数分から10分程度の乾燥を行う。これにより、液状体に含まれる溶媒が蒸発して、PEDOT/PSSが析出し、正孔注入層70が形成される。
【0057】
その正孔注入層70の表面は、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凹状となるように形成される。すなわち、液状体の表面が凹状に窪んだ状態から、上記条件で減圧乾燥を行うことにより、正孔注入層70の表面を凹状に形成することができる。なお有機隔壁221の側面221aの表面張力が小さいほど、正孔注入層70が凹状に形成されやすくなる。また大気圧から100Paまでの減圧時間が短いほど、正孔注入層が凹状に形成されやすくなる。
以上により、第2実施形態に係る有機EL装置が形成される。
【0058】
以上に詳述した第2実施形態に係る有機EL装置によれば、発光層の正孔注入層側の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。しかも電流密度が変化しないので、発光寿命を低下させることがない。また発光層の正孔注入層側の表面が凸面になるので、その表面が平面の場合に比べて、出射光を発散させることが可能になる。これにより、広い角度範囲に光を出射させることができる。
なお、本実施形態ではボトムエミッション型の有機EL装置を例にして説明したが、トップエミッション型の有機EL装置に本発明を適用することも可能である。その場合、上記とは逆に、狭い角度範囲に光を出射させることができる。
【0059】
なお、以上には減圧乾燥時の温度が約60℃の場合について説明したが、減圧乾燥時の温度が常温程度(約15℃以上30℃以下)と低い場合には、大気圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥を行うことが望ましい。この場合、大気圧から100Paまでの減圧時間が長いほど、正孔注入層の表面が凸状に形成されやすくなる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る有機EL装置につき、図5を用いて説明する。
図5は第3実施形態に係る有機EL装置の説明図であり、図5(a)は画素領域の平面図であり、図5(b)は図5(a)のA−A線における側面断面図である。図5(b)に示す第3実施形態の有機EL装置では、正孔注入層70の発光層60側の表面が、画素領域26の周縁部において凸状となり、画素領域26の中央部において凹状となるように形成されている点で、上記各実施形態と相違している。なお、上記各実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0061】
図5(b)に示すように、第3実施形態の有機EL装置では、正孔注入層70の発光層60側の表面が、画素領域26の周縁部において凸状となり、画素領域26の中央部において凹状となるように形成されている。すなわち、正孔注入層70の厚さは、画素領域26の周縁部から一旦厚くなり、逆に画素領域26の中央部にかけて薄くなっている。正孔注入層70の凸部70aは、図5(a)に示す円形状の画素領域26の周縁部に沿って円形状に形成されている。なお画素領域26が長円形状の場合には、その周縁部に沿って正孔注入層の凸部も長円形状に形成される。そして図5(b)に示すように、上述した正孔注入層70の表面に沿って、発光層60が略均一な厚さに形成されている。そのため、発光層60の正孔注入層70側の表面60aは曲面になっている。
【0062】
次に、第3実施形態に係る有機EL装置の製造方法について説明する。
第3実施形態でも、液相プロセスによって正孔注入層を形成する。そのため、正孔注入層70の構成材料であるPEDOT/PSSを、蒸気圧が10Pa以上100Pa以下程度(温度23℃において)の溶媒に溶解させて液状体を作成する。
また、有機隔壁221の側面221aおよび上面を撥液化処理する。ここで第3実施形態では、有機隔壁221の側面221aの表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、プラズマ処理時間を延長する。
【0063】
次にインクジェット法等により、上述した液状体を画素領域26に塗布する。本実施形態では、液状体の溶媒として蒸気圧が10Pa以上100Pa以下のものを採用するとともに、有機隔壁221の側面221aの表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように撥液処理を施しているので、有機隔壁221の側面221aと液状体との接触角が大きくなる。これにより、塗布された液状体の表面は、有機隔壁221の側面221aから画素領域26の中央部にかけて凸状に盛り上がった状態となる。
【0064】
次に、塗布された液状体を減圧乾燥させる。第3実施形態では、塗布された液状体を約60℃に保持する。そして、大気圧から100Paまでの減圧速度が、前半は遅く後半は早くなるように減圧乾燥を行う。一例を挙げれば、前半は大気圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるような減圧速度で、後半は大気圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるような減圧速度で、減圧乾燥を行えばよい。その後、容器内部の圧力が溶媒の蒸気圧の10分の1程度(約1〜10Pa)になるまで、数分から10分程度の乾燥を行う。これにより、液状体に含まれる溶媒が蒸発して、PEDOT/PSSが析出し、正孔注入層70が形成される。その正孔注入層70の発光層60側の表面は、画素領域26の周縁部において凸状となり、画素領域26の中央部において凹状となるように形成される。
以上により、第3実施形態に係る有機EL装置が形成される。
【0065】
以上に詳述した第3実施形態に係る有機EL装置によれば、発光層の正孔注入層側の表面が曲面になるので、その表面が平面の場合に比べて有効発光面積が大きくなる。したがって、発光輝度を向上させることができる。しかも電流密度が変化しないので、発光寿命を低下させることがない。
【0066】
なお、以上には減圧乾燥時の温度が約60℃の場合について説明したが、減圧乾燥時の温度が常温程度(約15℃以上30℃以下)と低い場合には、前半の減圧速度が早く後半の減圧速度が遅くなるように減圧乾燥を行うことが望ましい。一例を挙げれば、前半は大気圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるような減圧速度で、後半は大気圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるような減圧速度で、減圧乾燥を行えばよい。
【0067】
(電子機器)
次に、上記各実施形態の有機EL装置を備えた電子機器につき図6を用いて説明する。
図6は、電子機器の一例である携帯電話機の斜視構成図である。同図に示す携帯電話機1300は、複数の操作ボタン1302と、受話口1303と、送話口1304と、先の実施形態の有機EL装置からなる表示部1301とを備えて構成されている。この表示部には、上記各実施形態の有機EL装置が採用されている。上記各実施形態の有機EL装置では、発光輝度を向上させることができるので、図6に示す携帯電話機は表示品質に優れたものとなっている。
【0068】
なお、本発明における有機EL装置を備えた電子機器としては、上記のものに限らず、他に例えば、デジタルカメラ、パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯用テレビ、ビューファインダ型・モニタ直視型のビデオテープレコーダ、PDA、携帯用ゲーム機、ページャ、電子手帳、電卓、時計、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などを挙げることができる。また、本発明における有機EL装置を備えた電子機器として、車載用オーディオ機器や自動車用計器、カーナビゲーション装置等の車載用ディスプレイ、プリンタ用の光書き込みヘッド等を挙げることもできる。
【0069】
なお、本発明の技術範囲は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、各実施形態で挙げた具体的な材料や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。例えば、各実施形態の正孔注入層を形成するには、上述した製造方法以外の方法を採用することも可能であり、有機隔壁の形状や表面張力、正孔注入層の構成材料を含む液状体の表面張力、液状体の乾燥温度・気圧・時間等を適当に管理することにより、様々な形状の正孔注入層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】一般的な有機EL装置の側面断面図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置の説明図である。
【図3】有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図4】第2実施形態に係る有機EL装置の説明図である。
【図5】第3実施形態に係る有機EL装置の説明図である。
【図6】携帯電話の斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
70‥正孔注入層 221‥有機隔壁 221a‥側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、
前記正孔注入層の表面が、前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凸状となるように形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記隔壁の表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施し、
前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布し、
塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、
前記正孔注入層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、
前記正孔注入層の表面が、前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凹状となるように形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項4】
前記隔壁の表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施し、
前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布し、
塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥することにより、
前記正孔注入層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL装置。
【請求項5】
画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に液相プロセスによって形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置であって、
前記正孔注入層の表面が、前記画素領域の周縁部において凸状となり、前記画素領域の中央部において凹状となるように形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項6】
前記正孔注入層が、PEDOT/PSSで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項7】
画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に形成された正孔注入層および発光層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置の製造方法であって、
前記隔壁の表面張力が40dyn/cm以上90dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施す工程と、
前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布する工程と、
塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が5分以上20分以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層の表面が前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凸状となるように、前記正孔注入層を形成する工程と、
を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
画素電極を囲うように立設された隔壁と、前記隔壁の内側の画素領域に形成された正孔注入層と、前記正孔注入層の表面に形成された発光層とを少なくとも備えてなる有機EL装置の製造方法であって、
前記隔壁の表面張力が20dyn/cm以上40dyn/cm以下となるように、前記隔壁の側面に撥液処理を施す工程と、
前記正孔注入層の構成材料を蒸気圧が10Pa以上100Pa以下の溶媒に溶解した液状体を、前記隔壁の内側に塗布する工程と、
塗布された前記液状体を、約60℃の温度で、常圧から100Paまでの減圧時間が20秒以上100秒以下となるように減圧乾燥することにより、前記正孔注入層の表面が前記隔壁の側面から前記画素領域の中央部にかけて凹状となるように、前記正孔注入層を形成する工程と、
を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−253443(P2006−253443A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68692(P2005−68692)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】