説明

有機EL装置の製造方法

【課題】製造不良を抑制して、第1基板と第2基板とを接着することが可能な有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】それぞれ複数の有機EL素子が設けられ、互いに分離して配置される複数の第1エリアと、前記複数の第1エリアの合間に設けられる第2エリアと、を有する第1基板と、前記第1基板に対向して配置される第2基板と、を備えた有機EL装置の製造方法が提供される。まず、前記複数の第1エリアのそれぞれに対向する前記第2基板上の領域に第1キャビティ、および、少なくとも一部の前記第2エリアに対向する前記第2基板上の領域に第2キャビティをそれぞれ形成する。次に、大気圧より低い所定の圧力下で、前記第1キャビティの周囲に第1閉空間が形成され、かつ少なくとも1つの前記第2キャビティの周囲に第2閉空間が形成されるように、接着剤を介して、前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせる。さらに、前記第1基板と前記第2基板とを接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は、有機EL素子が形成された第1基板と、これと対向する第2基板とを接着剤で接着して形成される。有機EL素子は水分により劣化してしまうため、第2基板には、有機EL素子の上方に位置する領域にキャビティ(掘り込み)を形成し、このキャビティに乾燥剤を設置する。また、乾燥剤が不要な場合であっても、接着時に第2基板がたわんで干渉縞が発生するのを防止するために、キャビティを形成することがある。
【0003】
有機EL装置の内部に水分や空気を残さないために、真空下で第1基板と第2基板との接着を行うのが望ましい。ところが、真空装置は非常に高価であるため、実際は減圧下で接着剤を介して両基板を貼り合わせ、その後加圧しながら接着するのが一般的である。加圧すると、第1基板、接着剤および第2基板により形成される空間が圧縮されるが、キャビティが形成された部分では圧縮率が低く、キャビティが形成されていない部分では圧縮率が高くなる。
【0004】
圧縮率が異なると、適切な圧力を加えることができず、第2基板がたわんだり、両基板を接着させることができなくなったりして、製造不良を引き起こすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−115496号公報
【特許文献2】特開2008−140615号公報
【特許文献3】特開2001−297878号公報
【特許文献4】特開2002−343557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製造不良を抑制して、第1基板と第2基板とを接着することが可能な有機EL装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によれば、それぞれ複数の有機EL素子が設けられ、互いに分離して配置される複数の第1エリアと、前記複数の第1エリアの合間に設けられる第2エリアと、を有する第1基板と、前記第1基板に対向して配置される第2基板と、を備えた有機EL装置の製造方法が提供される。まず、前記複数の第1エリアのそれぞれに対向する前記第2基板上の領域に第1キャビティ、および、少なくとも一部の前記第2エリアに対向する前記第2基板上の領域に第2キャビティをそれぞれ形成する。次に、大気圧より低い所定の圧力下で、前記第1キャビティの周囲に第1閉空間が形成され、かつ少なくとも1つの前記第2キャビティの周囲に第2閉空間が形成されるように、接着剤を介して、前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせる。さらに、前記第1基板と前記第2基板とを接着する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1基板1と第2基板11とを接着剤21にて接着した状態の一例を示す断面図。
【図2】本実施形態に係る有機EL装置の製造工程図。
【図3】図2のステップS1で形成される第1基板1の製造工程断面図。
【図4】図2のステップS2,S3で形成される第2基板11の製造工程断面図。
【図5】図4のA方向から見た第2基板11の平面図。
【図6】接着剤21を介して第1基板1と第2基板11とを貼り合わせた状態を示す製造工程断面図。
【図7】図6のB方向から見た第2基板11の平面図。
【図8】有機EL装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0010】
本実施形態は、対向配置される第1基板および第2基板を接着して複数の有機EL装置を形成し、その後、1つ1つの有機EL装置に切り離す(ダイシングする)ものである。
【0011】
図1は、第1基板1と第2基板11とを接着剤21にて接着した状態の一例を示す断面図である。第1基板1には複数の第1エリア2が設けられ、それぞれに有機EL素子3が形成される。第1エリア2の周囲には、第1エリア2同士を分離するための第2エリア4が設けられ、この第2エリア4には有機EL素子3は形成されていない。
【0012】
有機EL素子3は、図示していないが、例えば、陽極と、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、陰極とを有する。陽極から正孔輸送層を介して発光層に注入される正孔と、陰極から電子輸送層を介して発光層に注入される電子とが再結合して、発光層に含まれる不純物の種類に応じた色で発光する。
【0013】
第2基板11には、第1エリア2に対向する位置に第1キャビティ12aが形成され、第2エリア4に対向する位置に第2キャビティ12bが形成されている。そして、第1キャビティ12aにのみ乾燥剤13が配置される。ここで、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bの深さは一定で、例えば0.31mmとする。また、乾燥剤13の厚さは、例えば0.027mmであり、第1キャビティ12aの深さに比べると十分に薄い。
【0014】
なお、同図の一点鎖線は第1基板1および第2基板11をダイシングする単位を示しており、この単位で個々の有機EL装置に分離される。
【0015】
図2は、本実施形態に係る有機EL装置の製造工程図である。まず、ガラス等からなる第1基板1に有機EL素子3を形成する(ステップS1)。次に、ガラス等からなる第2基板11上に所定形状のマスクを形成し、フッ酸等の薬液を用いたウエットエッチング、または、サンドブラストにより、第2基板11に第1のキャビティ12aおよび第2のキャビティ12bを形成する(ステップS2)。
【0016】
その後、第1キャビティ12aに乾燥剤13を設置する(ステップS3)。乾燥剤13は有機EL素子3が水分により劣化するのを防止するために設置される。なお、本実施形態では乾燥剤13を設置するために第1キャビティ12aを形成するが、干渉縞の発生を防止する等、他の目的で第1エリア2に対応する領域にキャビティを形成してもよく、この場合、キャビティ12aに乾燥剤13を入れる必要はない。
【0017】
続いて、大気圧より低い圧力下で、接着剤21を介して第1基板1と第2基板11とを貼り合わせる(ステップS4)。接着剤21の材料はエポキシ樹脂等のUV(Ultra Violet)硬化剤である。次に、圧力を加えながらUV光を接着剤21に照射し、接着剤21を硬化させて、第1基板1と第2基板11とを接着する(ステップS5)。これにより、図1の断面構造が得られる。その後、有機EL素子3ごとに第1基板1および第2基板11をダイシングして(ステップS6)、有機EL装置が形成される。
【0018】
なお、接着剤21として、熱硬化型の接着剤を用い、接着剤を加熱して第1基板1と第2基板11とを接着してもよい。また、第1基板1に有機EL素子3を形成する工程(ステップS1)は、必ずしも第2基板に第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bを形成する前に行わなくてもよく、ステップS4より前に行えばよい。
【0019】
図3は、図2のステップS1で形成される第1基板1の製造工程断面図である。図3に示すように、第1基板1には、有機EL素子3が形成される第1エリア2と、第1エリア2の合間に第1エリア2同士を分離するための第2エリア4とが設けられる。
【0020】
図4は、図2のステップS2,S3で形成される第2基板11の製造工程断面図である。図4に示すように、第1エリア2のそれぞれに対向する第2基板11上の領域に第1キャビティ12aが形成され、少なくとも一部の第2エリア4に対向する第2基板11上の領域に第2キャビティ12bが形成される。
【0021】
図5は、図4のA方向から見た第2基板11の平面図である。図示水平方向に並んだ第1キャビティ12a同士の間に第2キャビティ12bが形成され、第2基板11の縁部と直近の第1キャビティ12aとの間にも第2キャビティ12bが形成される。なお、第2キャビティ12bの形成箇所は必ずしも図5と同様でなくてもよく、第2キャビティ12bは少なくとも一部の第2エリア4に対向する領域に形成すればよい。例えば、図5の水平方向および垂直方向に並んだ第1キャビティ12a同士の間に第2キャビティ12bを形成してもよいし、第2基板11の縁部付近には第2キャビティ12bを形成しなくてもよく、種々の変形例が適用可能である。また、第2キャビティ12bの幅は必ずしも一定でなくてもよい。
【0022】
図6は、接着剤21を介して第1基板1と第2基板11とを貼り合わせた状態を示す製造工程断面図であり、図2のステップS4に対応する。図6に示すように、接着剤21は、各第1エリア2の周囲に第1閉空間31が形成され、最外周を除く各第2エリア4の周囲に第2閉空間32が形成されるよう設けられる。第1基板1と第2基板11との貼り合わせは減圧下で行われるが、完全な真空ではないため、第1閉空間31および第2閉空間32には空気が残存する。
【0023】
接着剤21の高さおよび幅はそれぞれ、例えば0.04mmおよび0.25mmである。なお、この状態では、接着剤21と第1基板1および第2基板11とは完全には密着していない。
【0024】
図7は、図6のB方向から見た第2基板11の平面図である。接着剤21は、キャビティが形成されていない第2エリア4に格子状に設けられる。なお、図7の一点鎖線は、その後の工程で第2基板11をダイシングする(図2のステップS6)単位を示しており、この単位で個々の有機EL装置に分離される。
【0025】
第1基板1と第2基板11を接着するにあたって両基板を加圧するため、接着剤21の高さは低くなり、幅は広くなる。例えば、接着剤21の高さが0.04mmから0.008mmに、幅が0.25mmから0.6mmにそれぞれ変化する。接着剤21の高さが低くなるため、第1閉空間31および第2閉空間32の空気が圧縮される。このとき、第1閉空間31および第2閉空間32に残存していた空気のうち一部は第1基板1および第2基板11の外側に抜けるが、一部は空間内に残る。
【0026】
本実施形態では、第1閉空間31および第2閉空間32ともに高さが等しいキャビティが形成されているため、第1閉空間31および第2閉空間32の圧縮率はほぼ等しい。上記数値例の場合、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bの深さは0.31mm、加圧して接着する前および後の接着剤21の厚さはそれぞれ0.04mmおよび0.008mmであるから、乾燥剤の厚さを無視すると、圧縮率は、1−(0.31+0.008)/(0.31+0.04)=9%程度である。
【0027】
仮に、第2キャビティ12bが形成されていないとすると、接着剤21の高さの変化は一定であるため、第1閉空間31の圧縮率は低いが、第2閉空間32の圧縮率は高くなる。第2エリア4に第2キャビティ12bが形成されない場合、第2エリア4の圧縮率は、1−0.04/0.08=80%程度である。
【0028】
第2基板に第2キャビティ12bを形成せず、第1閉空間31と第2閉空間32とで圧縮率が大きく異なる場合、図2のステップS5で適切な圧力を加えることができず、製造不良を引き起こしてしまうおそれがある。例えば、第1閉空間31の圧縮率に合わせた圧力を加えると、第2閉空間32には不十分な圧力であるため、接着剤21が第1基板1および第2基板11と反発し、接着剤21の幅が細くなったり、第1基板1と第2基板11との接触面に凹凸ができたりして、第1基板1と第2基板11とを密着させることができなくなる「差し込み」が生じてしまう。一方、第2閉空間32の圧縮率に合わせた圧力を加えると、第1閉空間31の圧縮率が高くなりすぎ、第2基板11がたわんでしまう。
【0029】
これに対し、本実施形態では、第2基板の、第2エリア4に対向する部分にも第2キャビティ12bを形成するため、第1閉空間31と第2閉空間32との圧縮率をほぼ等しくできる。結果として、接着剤21が第1基板1および第2基板11と反発せず、かつ、第2基板11がたわまない圧力を加えて第1基板1および第2基板11を接着することができ、製造不良を抑制できる。
【0030】
図8は、有機EL装置の断面図であり、図2のステップS6に対応する。ステップS6では、図1および図7の一点鎖線で示すように、接着剤21の外側の部分をダイシングする。そのため、有機EL装置には第2キャビティ12bは残らない。有機EL装置内に残った水分や有機EL装置内に侵入する僅かな水分は、乾燥剤13により吸収されるため、有機EL素子3の寿命を長くすることができる。
【0031】
本発明者は、第2キャビティ12bの有無による比較実験を行った。2枚の400mm×500mmの第1基板1に2インチの第1エリア2を6行×8列=48面設け、そのそれぞれに有機EL装置を製造した。その際、第1基板1のうちの1枚には第2キャビティ12bを形成した第2基板11を貼り合わせ、他の第1基板1には第2キャビティ12bを形成していない第2基板11を貼り合わせた。加圧前の接着剤21の高さおよび幅はそれぞれ、0.04mmおよび0.25mmとした。そして、得られた48個ずつの有機EL装置のシール幅を測定した。
【0032】
その結果、第2キャビティ12bを形成していない第2基板11を用いた有機EL装置では、接着後の接着剤21の幅の平均値が約0.62mmであったのに対し、第2キャビティ12bを形成した第2基板11を用いた有機EL装置では、約0.56mmであり、約10%小さくなった。また、接着剤21の幅のばらつきは、第2キャビティ12bを形成した第2基板11を用いた有機EL装置の方が小さかった。
【0033】
第1基板1の外側に形成される有機EL素子3付近では、内部の空気が容易に外部へ抜けるため、第1閉空間31および第2閉空間32内の圧力はそれほど高くならず、接着剤21の幅は太くなる。一方、第1基板1の中央に形成される有機EL素子3付近では、内部の空気が抜けにくいため圧力が高くなり、接着剤21が反発して、接着剤21の幅が細くなる。これがばらつきの原因となる。
【0034】
第2キャビティ12bを形成しない場合、第2閉空間の容積が小さいため、基板の外側の圧力と中央の圧力との違いは相対的に大きくなり、ばらつきも大きくなってしまう。しかも、圧力が高い有機EL装置も確実に接着するためには、図2のステップS5でより大きな圧力を加えなければならず、接着剤21の幅が全体的に大きくなってしまう。
【0035】
これに対し、第2キャビティ12bを形成すると、第2空間32の容積が大きくなるため、圧力の違いは相対的に小さくなり、ばらつきが抑制され、製造不良を抑制できる。また、ばらつきが抑制されるため、接着剤21の幅も小さくでき、狭額縁の有機EL装置が得られる。
【0036】
このように、本実施形態では、第1エリア2に対向する部分に第1キャビティ12aを形成するのみならず、第2エリア4に対向する部分にも第2キャビティ12bを形成する。そのため、第1エリア2を含む第1閉空間31および第2エリア4を含む第2閉空間32の圧縮率がほぼ等しくなり、第2基板11のたわみや指し込み等の製造不良を抑制して、有機EL装置を製造できる。
【0037】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 第1基板
2 第1エリア
3 有機EL素子
4 第2エリア
11 第2基板
12a 第1キャビティ
12b 第2キャビティ
13 乾燥剤
21 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ複数の有機EL素子が設けられ、互いに分離して配置される複数の第1エリアと、前記複数の第1エリアの合間に設けられる第2エリアと、を有する第1基板と、
前記第1基板と間隔を隔てて対向配置される第2基板と、を備えた有機EL装置の製造方法であって、
前記複数の第1エリアのそれぞれに対向する前記第2基板上の領域に第1キャビティ、および、少なくとも一部の前記第2エリアに対向する前記第2基板上の領域に第2キャビティを形成する工程と、
大気圧より低い所定の圧力下で、前記第1キャビティの周囲に第1閉空間が形成され、かつ少なくとも1つの前記第2キャビティの周囲に第2閉空間が形成されるように、接着剤を介して、前記第1基板と前記第2基板とを貼り合わせる工程と、
前記第1基板と前記第2基板とを接着する工程と、を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記接着する工程で圧力を加えたときに、前記第1閉空間の圧縮率と前記第2閉空間の圧縮率とが略等しくなるように、前記第1および第2キャビティが形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1キャビティを形成した後に、前記第1キャビティ内に乾燥剤を設置する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1基板と前記第2基板とを接着した後に、前記第1閉空間を形成する接着剤の外側を切断する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記接着する工程では、前記接着剤にUV光を照射して、前記接着剤を硬化させることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−38516(P2012−38516A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176504(P2010−176504)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】