説明

有機EL装置及びその製造方法

【課題】スペーサーと凹部が嵌合するように貼りあわせることにより、有機EL素子基板と封止基材との精密な位置制御を実現するとともに、スペーサーとの接する面積を広げ、有機EL素子基板と封止基材とのギャップを一定に保持し均一に貼りあわせることを実現した有機EL装置を提供すること。
【解決手段】基板上に少なくとも第一電極、有機発光媒体層及び第二電極から成る複数の発光画素領域並びに前記発光画素領域を囲う第一隔壁ライン及び該第一隔壁ラインと直交する第二隔壁ラインからなる格子状隔壁とが形成された有機EL素子基板を、封止基板と接着剤を介して張り合わせてなる有機EL装置であって、前記格子状隔壁は直線凹部及び複数の嵌合凹部からなる複数の凹部を有し、前記封止基板は直線凸部及び複数の嵌合凸部からなる複数の凸部を有し、前記凹部と前記凸部が対向するよう貼り合わされていることを特徴とする有機EL装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」という。)現象を利用した有機EL装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を備えると共に、該TFTと接続するように電極(陽極、陰極)を設け、これらの陽極と陰極との間に、少なくともEL発光現象を呈する有機発光層を積層させた複数の有機EL素子を備える有機EL装置において、一般に有機EL素子の発光画素領域を囲うために、絶縁性を有する隔壁が前記基板の一表面上に格子状に形成されている。さらに、発光画素領域からの発光効率を高めることを目的として陽極と有機発光層との間に正孔輸送層、正孔注入層、および有機発光層と陰極との間に電子輸送層、電子注入層が配置される場合もある。このような積層構造を有する発光画素領域を有機発光媒体層と呼ぶ。従来技術では、これら複数の有機EL素子が形成された基板(以下「有機EL素子基板」)と、ガラス等からなる封止基材とを樹脂などからなる接着層を介して貼りあわせた構造からなる有機EL装置が知られている。
【0003】
このような有機EL装置において、発光画素領域からの発光を取り出す方式として、有機EL素子基板側から光を取り出すボトムエミッション方式と、封止基材側光を取り出すトップエミッション方式が知られているが、有機EL素子基板上に形成されたTFT及び配線部による遮光効果による開口率の減少などの理由によりトップエミッション方式が用いられる。また最近では、高輝度かつ高精細な有機EL装置の作製を目的として封止基材にカラーフィルタを用いた装置も考案されている。
【0004】
ただし、このような構造をもつ有機EL装置では陰極や電子注入層には活性の高い材料が用いられており、大気中の水分や酸素などの外部要因により陰極や電子注入層の変質を引き起こし、これがダークスポットと呼ばれる非発光部が画素内に発生して有機EL装置の劣化の原因となる。この対策として、従来技術では有機EL素子基板と封止基材及び接着層との間隔(ギャップ)を均一に制御した状態にて貼りあわせを実施する手法が知られている。従来の技術では、封止基材と有機EL素子基板とのギャップを管理するとともに均一に貼りあわせる目的で、球状のスペーサーを添付した封止剤を用いて貼りあわせを実施する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載されている有機EL装置の構造は、球径を一定にした球状スペーサーを発光画素領域の周囲に用いた状態にて、有機EL素子基板と封止基材とを貼りあわせるものである。しかし、このような構造を用いた有機EL装置の場合、外周部にのみスペーサーを設けるため装置全体のギャップを均一に保持できないという問題が知られている。特に有機EL素子基板と封止基材に大型基板を用いた場合はこの現象が顕著に見られる。このような問題を解決する目的で、発光画素領域上に形成された積層部にスペーサーを設けた構造の有機EL装置も知られている(特許文献2)。
【0006】
有機EL素子基板及びカラーフィルタ基板の2枚の基板位置を非制御状態にて貼りあわせた有機EL装置では、カラーフィルタ基板上に形成されたブラックマトリクス層などの遮光部により発光画素領域からの発光が遮られる恐れがあるが、特許文献2に記載されている有機EL装置の場合、有機EL装置全体のギャップを一定に保持して貼りあわせることが可能であり、かつ貼りあわせ時の有機EL素子基板と封止基材との精密な位置制御が可能である。
【0007】
しかし、特許文献2に記載されているような有機EL装置の場合、スペーサーを有機EL素子基板の陰極部及びパシベーション部に設けているが、このような積層部は積層部下地による段差が生じる。そのため、このような積層部に形成したスペーサーは高さにバラつきが生じ、ギャップを均一に制御することが難しい。また、陰極にはアルカリ金属などの水や酸素によって劣化しやすい金属が用いられるため、大気中の水分や酸素の影響が無い状況下でスペーサーを形成させる必要があり、その手法が限定される。
【0008】
上記の問題を防ぐ目的で、スペーサーを封止基材上に設けた有機EL装置も知られている(特許文献3)。このような有機EL装置の場合、封止基材上にスペーサーを設けるため、その形成手法はほぼ限定されない。また、隔壁上にスペーサーと嵌合するような凹部が配設されているため、貼りあわせ時の有機EL素子基板と封止基材とのアライメント制御が可能となる。ただし、このような有機EL装置の場合、凹部及び接着層とスペーサーとが接する面積が小さく、対向する基板からかかる力がスペーサーに集中し、スペーサーが損傷するという現象が知られている。このような損傷が発生すると、高さにバラつきが生じ、均一な貼りあわせることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−320404号公報
【特許文献2】特開2005−5166号公報
【特許文献3】特開2006−252988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような現象を鑑みて、本発明はスペーサーと凹部が嵌合するように貼りあわせることにより、有機EL素子基板と封止基材との精密な位置制御を実現するとともに、スペーサーとの接する面積を広げ、有機EL素子基板と封止基材とのギャップを一定に保持し均一に貼りあわせることを実現した有機EL装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、基板上に少なくとも第一電極、有機発光媒体層及び第二電極から成る複数の発光画素領域並びに前記発光画素領域を囲う第一隔壁ライン及び該第一隔壁ラインと直交する第二隔壁ラインからなる格子状隔壁とが形成された有機EL素子基板を、封止基板と接着剤を介して張り合わせてなる有機EL装置であって、前記格子状隔壁は直線凹部及び複数の嵌合凹部からなる複数の凹部を有し、前記封止基板は直線凸部及び複数の嵌合凸部からなる複数の凸部を有し、前記凹部と前記凸部が対向するよう貼り合わされていることを特徴とする有機EL装置である。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、前記嵌合凹部は、前記第一隔壁ラインと前記第二隔壁ラインとの交点上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置である。
【0013】
本発明の請求項3に係る発明は、前記封止基板が前記発光画素領域からの光をカラー化するカラーフィルタ層と、該カラーフィルタ層を格子状に区画するブラックマトリクス層とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置である。
【0014】
本発明の請求項4に係る発明は、前記凸部は前記ブラックマトリクス層上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに有機EL装置である。
【0015】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の有機EL装置の製造方法であって、基板上に複数の第一電極を形成する工程と、前記第一電極の端部を覆うように第一隔壁ライン及び該第一隔壁ラインと直交する第二隔壁ラインからなる格子状隔壁を形成する工程と、前記格子状隔壁に直線凹部及び複数の嵌合凹部からなる複数の凹部を形成する工程と、前記第一電極上に有機発光媒体層を形成する工程と、前記有機発光媒体層上に前記第二電極を形成する工程と、封止基板上に直線凸部及び複数の嵌合凸部からなる複数の凸部を形成する工程と、前記基板と前記封止基板とを前記凹部と前記凸部とが嵌合するように接着剤を介して貼り合わせる工程と、を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法である。
【0016】
本発明の請求項6に係る発明は、前記有機発光媒体層は、前記第一隔壁ライン又は前記第二隔壁ラインに沿うように凸版印刷法により形成されることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板上の一面に凸部としてスペーサーが形成された封止基板と、基板上の少なくとも一面に発光画素領域と格子状隔壁が形成され、該格子状隔壁上に凹部が形成されている基板とを貼りあわせる有機EL装置において、該スペーサーと該凹部がそれぞれ対向する位置に設けられている。これらが嵌合することにより、基板と封止基材とのギャップを一定に保ち、精密な位置制御をすることが可能となり、大気中の水分や酸素といった外的要因の浸入を抑制することを可能とする。
また、封止基材上に形成されたスペーサーの形状がライン状を有することにより、該スペーサーと凹部及び接着層との接地面積が広がり、該スペーサーにかかる力を分散させた有機EL装置を提供することを可能とする。
また、封止基材上の一面に形成されたブラックマトリクス層上にスペーサーが設けられ、発光画素領域からの発光に対して遮光などの影響がない有機EL装置を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機EL装置の一実施形態に係る有機EL素子基板の構造を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の有機EL装置の一実施形態に係る封止基板の構造を模式的に示す断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る有機EL装置の構造を模式的に示す断面図。
【図4】本発明の有機EL装置の一実施形態に係る有機EL素子基板上の隔壁及び凹部を俯瞰した図。
【図5】本発明の有機EL装置の一実施形態に係る封止基板上のスペーサーを俯瞰した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で参照する図面は本発明の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は実際のものとは異なる。また、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
図1〜図5は本発明の一実施形態を説明するための図で、図1は本発明の一実施形態に係るトップエミッション型有機EL装置の有機EL素子基板の構造を模式的に示す断面図、図2は本発明の一実施形態に係るトップエミッション型有機EL装置の封止基材の構造を模式的に示す断面図である。また、図3は本発明の一実施形態に係るトップエミッション型有機EL装置の構造を模式的に示す断面図で、本発明の一実施形態に係るトップエミッション型有機EL装置は、図1に示す構造の有機EL素子基板10と図2に示す構造の封止基材20とを接着層30により貼りあわせて形成されている。
【0021】
ここで、有機EL素子基板10は基板11、平坦化膜12、第一電極13、格子状隔壁14、有機発光媒体層15、第二電極16、パシベーション膜17及び薄膜トランジスタ層(図示せず)を含んで構成され、格子状隔壁14には凹部143が形成されている。また、封止基材20は封止基板21、ブラックマトリクス層22及びカラーフィルタ層23を含むカラーフィルタ基板であり、該ブラックマトリクス層22上に複数の凸部であるスペーサー221が構成されている。
【0022】
以下、有機EL素子基板10を構成する各部について説明する。基板11の素材としては、絶縁性を有する材料又は絶縁性を有する薄膜を表面に形成した基板であればよく、その色も特に限定されるものではない。なお基板11の表面には、後述する第一電極13への電力供給を制御する目的で薄膜トランジスタ(TFT)が形成される。このTFTは公知の技術により作成することが可能で、例えばソース領域、ドレイン領域およびチャネル領域をそれぞれ有する多結晶シリコンやアモルファスシリコン等からなる半導体膜を基板11上に形成し、該半導体膜を透明なゲート絶縁膜で覆うことによるゲート電極を形成させてもよい。この場合、ゲート電極の素材としてはAl、Mo、Ti、Ta等から形成され、且つゲート電極が半導体膜のチャネル領域に対応する位置に形成されることが好ましい。
【0023】
平坦化膜12は、基板11上にTFTを形成することにより生じた基板表面の凹凸を吸収し、基板表面を平坦化させる目的で基板11上のTFTと第一電極13との間に形成されるものである。このような平坦化膜12の素材としては、絶縁性を有すると共に平坦性に優れた材料を用いることができ、例えばポリイミド系やアクリル系などの樹脂材料を挙げることができる。
【0024】
第一電極13は平坦化膜12の表面に形成されるものであり、TFTを機能させるために、平坦化膜12に形成されたスルーホール内の金属配線を介してTFTのゲート電極と電気的に接続される。なお、TFTのソース電極と接続される場合は陽極として機能し、TFTのドレイン電極と接続される場合は陰極として機能する。
第一電極13の素材としては、導電性を有する材料であれば特に制約を受けないが、仕事関数の大きい材料(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物)を用いることが好ましい。第一電極13の厚さも特に制約はないが、格子状隔壁14の厚みより薄く形成することが好ましい。
【0025】
第一電極13をITO、IZO等の導電性金属酸化物で形成する場合は、効率のよい発光を得るために、反射率の高いメタル電極を第一電極13と平坦化膜12との間に形成してもよい。このようなメタル電極は導電性金属酸化物と比較した際抵抗率が低いため、メタル電極が補助電極として機能すると同時に、光を対向基板側へ反射させることによる光の有効利用を図ることが可能である。メタル電極としては反射率の高い金属であればよく、例えばAg、Al、Mo、Taなどの金属が挙げられる。
【0026】
格子状隔壁14は第一電極13、有機発光媒体層15及び第二電極16からなる発光画素領域を格子状に区画するためのもので、第一電極13の端部を覆いながら平坦化膜12上に格子状に形成される。格子状隔壁14の素材としては絶縁性を有するものであれば特に制約はなく、例えばポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系などの材料が挙げられる。
【0027】
このような格子状隔壁14は互いに平行な複数の第一隔壁ライン141と、これらの第一隔壁ライン141と直交する複数の第二隔壁ライン142より形成されている。ライン状の隔壁を有することにより、隣接する発光画素からの光漏れや干渉を防ぐことができる。また、ライン状の隔壁を格子状に設けることにより、隣接する画素の干渉を防止することができ、有機EL装置の輝度低下を抑制する。平坦化膜12の表面に格子状隔壁14を形成するときには格子状隔壁14の高さを有機EL素子全体の厚みに応じて設定すればよいが、好ましくは0.5μm以上2μm以下とすることが望ましい。格子状隔壁14の高さが0.5μm未満の場合は有機発光媒体層16の形成時に隣接する画素との混色が発生したり、格子状隔壁14が第一電極13の端部を覆いきることが出来ずに短絡が発生する恐れがある。また、格子状隔壁14の高さが2μmを超える場合、有機発光媒体層15を平坦に形成することが難しくなる。
このような格子状隔壁14を形成する手法としては公知の技術を用いることができ、例えばフォトリソグラフィー法、印刷法などが挙げられる。また、ロールコート法やスピンコート法によりパターニングを施し、フォトリソグラフィー法と組み合わせる手法を選択してもよい。
【0028】
図4に示すように、この格子状隔壁14を構成する第一隔壁ライン141及び第二隔壁ライン142において、それぞれのライン上に凹部143が形成されている。この凹部143を後述する封止基材上に設けられたスペーサー221と嵌合することにより、有機EL素子基板と封止基材との貼りあわせのための位置制御が精密になり、基板間のギャップを一定に保持することができる。凹部143は第一隔壁ライン141上及び第二隔壁ライン142上に形成されている。
凹部143は、少なくとも第一又は第二隔壁ライン上に形成された直線凹部143aと、第一及び第二隔壁ラインの交点上に嵌合凹部143bが形成されていればよく、直線凹部143aが第二隔壁ライン142上に形成され、嵌合凹部143bが第一隔壁ラインと第二隔壁ラインとの交点上に形成されていても良い。図4に示した実施の形態では直線凹部143aは第一隔壁ライン141上に形成され、嵌合凹部143bは第一隔壁ライン141と第二隔壁ライン142との交点上に形成されている。
【0029】
凹部143の形状としては、直線凹部143aは第一隔壁又は第二隔壁ラインに沿う直線状であれば良く、その断面の形状は後述するスペーサー221と嵌合する形状でれば四角形や半円形など特に限定されない。また、嵌合凹部143bも第一隔壁ラインと第二隔壁ラインの交点上に形成されていれば良く、その形状は後述するスペーサー221と嵌合する形状であれば特に限定されない。
【0030】
凹部とスペーサーの双方とも長尺形状を有する格子状スペーサーと格子状凹部とを嵌合した場合は、後述する接着層30となる接着剤が加圧により塗れ広がる工程において該格子状スペーサーにより塗れ広がる範囲が制限され、接着剤溜まりや接着剤のない部分(ボイド)が発生する。このような接着剤溜まりやボイドは、予期しない屈折や遮光により発光画素領域からの発光や光取出しを妨げ、有機EL装置の輝度低下の原因となる。一方、本発明のように嵌合凹部143b及びそれに対応する形状のスペーサー221が格子状隔壁14の交点上にのみ形成された有機EL装置では、接着剤の塗れ広がる範囲がスペーサー221により制限されないため、接着剤溜まりが発生しない。
【0031】
凹部143の形成条件としては、凹部143の深さは格子状隔壁14の高さに応じて設定すればよいが、格子状隔壁143の高さ未満にすることが望ましい。隔壁14の高さと同じ深さの凹部を形成した場合、後述するスペーサー221と凹部143が嵌合した際にスペーサー221が第一電極12等の隔壁の下の層に対して損傷を与えるからである。そのため、基板11の表面から凹部143の底部までの高さが0.25μm以上1μm以下の範囲となるように凹部143を形成することが好ましい。この高さが0.25μm未満の場合、凹部143とスペーサー221が嵌合した際に、スペーサー221が第一電極12などの積層部を損傷する恐れがある。また、この高さが1μm以上の場合、凹部143とスペーサー221との嵌合が不十分となり、有機EL素子基板10と封止基材20との精密な位置制御が困難となる。
【0032】
凹部143の形成方法としては公知の技術を用いることが可能であり、凹部143の底部までの高さの格子状隔壁をフォトリソグラフィー工程により形成した後、再度格子状隔壁材料を塗布してフォトリソグラフィー工程により凹部を形成させても良い。
【0033】
有機発光媒体層15は、第一電極13と第二電極16との間に形成され、少なくとも有機発光層を含み、その他に正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を適宜選択して積層させた積層体であってもよい。また、有機発光層の発光色も問わないが、赤色、緑色、青色の三色であることが好ましい。
【0034】
有機発光媒体層15の正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料としては、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1−ビス(4−ジーp−トリアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニルーN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニルー4,4’−ジアミンなどの芳香族アミンなどの低分子材料、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOT)や、PEDOTとポリスチレンスルホン酸(以下、PSS)との混合物(PEDOT/PSS)などの高分子材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、CuO、Mn、NiO、AgO、MoO、ZnO、TiO、Ta、MoO、WO、MoOどの無機材料化合物などが挙げられる。これらの材料から正孔輸送層を形成する手法としては公知の技術を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、あるいは溶媒に正孔輸送材料を溶解及び分散させた正孔輸送材料インキを塗布する方法などが挙げられる。また、このような正孔輸送材料インキの塗布方法も公知の技術を用いることができ、例えばスピンコート法、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、印刷法などが挙げられる。
【0035】
なお、正孔輸送材料が高分子材料の場合は、正孔の輸送性を高める目的で有機発光媒体層15にインターレイヤ層(以下、IL層)を積層してもよい。その場合、IL層は正孔輸送層と有機発光層との間に形成されることが好ましい。このようなIL層に用いられるインターレイヤ材料としては、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、ポリフルオレン系等の高分子材料や、高分子材料と芳香族アミンなどの低分子を混合させたものが挙げられる。
【0036】
有機発光媒体層15の有機発光層に用いられる有機発光材料としては、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、ポリフルオレン系などの高分子材料、あるいはクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクドリン系、N,N’−ジアルキル置換キナクドリン系、ナフタルイミド系、イリジウム錯体系、白金錯体系などの低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子材料に溶解、もしくは重合させたものが挙げられる。
【0037】
このような有機発光層を形成する手法としては公知の技術を用いることができ、例えば溶媒に有機発光材料を溶解及び分散させた有機発光材料インキを塗布する方法などが挙げられる。これらの溶媒としては、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを用いることが可能で、このような材料を単独、あるいは2種以上混合させたものが挙げられる。好ましくはトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒である。
【0038】
また、このような有機発光材料インキの塗布方法も公知の技術を用いることができ、例えばスピンコート法、フォトリソグラフィー法、インクジェット法、印刷法などが挙げられるが、有機発光層を形成する場合には凸版印刷法を用いて有機発光層を形成することが最も好ましい。凸版印刷法とは、印刷版の基材表面に複数の凸部が合成樹脂材料等により形成された印刷版(以下「凸版」という。)を用いた印刷法のことであり、このような印刷法を用いることで基板上に精細なパターンを形成することが可能となる。凸版印刷法による方法は、精細なパターン形成、および膜厚均一性などに優れた層形成を可能とするとともに、有機発光層を複数の発光色に塗り分ける場合に好適である。
【0039】
凸版印刷法を用いて有機発光層等をパターン形成する場合、凸版基材表面の凸部がストライプ状に形成された凸版を用いることで、一方向のみの位置合わせを厳密に行うだけで良いという利点がある。すなわち、凸版の凸部を格子状隔壁14で囲まれた発光画素領域に合わせるだけで有機発光層を凸版印刷法によりパターン形成することが可能となるので、印刷ずれのない有機発光層を第一電極13上にパターン形成することが可能となる。
【0040】
凸版の基材としては、印刷に対する機械的強度を有し且つ有機発光材料に添加される有機溶剤に対する耐性が高い材料であればよく、例えば鉄、銅、アルミニウムなどの金属材料、鉄とニッケルなどの合金材料などが挙げられる。凸版基材表面の凸部は、公知の技術により形成することができ、材料は問わない。好ましくは、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビリニアルコールなどの合成樹脂、鉄、銅、アルミニウムなどの金属材料、およびそれらの単層体や積層体などを凸部の材料として使用できる。
【0041】
基材表面に複数の凸部がストライプ状に形成された凸版を用いて有機発光層を形成する場合、直線凹部143aが図4に示すような配置で第一隔壁ライン141上に配設される場合には、直線凹部143aの内部に有機発光材料インキが印刷されることを防ぐため、凸版のストライプ状の凸部が第一隔壁ライン及び直線凹部143aと平行になるように第一隔壁ライン141と第二隔壁ライン142で囲まれる領域を印刷することが好ましい。
【0042】
有機発光媒体層15の電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾールなどが挙げられる。また、ナトリウム、バリウム、リチウムといった仕事関数が低いアルカリ金属を電子輸送材料にドープしてもよい。
【0043】
このようにして、有機発光媒体層15は単層構造または複数の層からなる積層構造として形成される。有機発光媒体層15の厚みは、格子状隔壁14との高低差が1μm以下、望ましくは0.05〜0.2μmの範囲で形成されることが好ましい。この理由として、基板11と後述する封止基板21とを貼りあわせる際の不具合を抑制するためである。
【0044】
第二電極16は有機発光媒体層15上に形成され、第一電極13が陽極の場合は陰極として、第一電極13が陰極の場合は陽極として機能する。このような第二電極16の素材としては公知の技術を用いることが可能であり、例えば第二電極16を陰極として用いる場合、電子注入効果を高める目的でLi、Na等のアルカリ金属、Mg、Al、Ba、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、LiF等のフッ化アルカリ金属仕事関数などの仕事関数が小さい材料が挙げられ、これら金属の単層構造、あるいは金属単体や複数の金属からなる積層構造でもよい。
【0045】
第二電極16は有機発光媒体層15からの発光を通過させる場合には透光性を有する必要があるが、仕事関数が小さい材料を用いた第二電極16は低透光性を有する。よって該低透光性を補う目的で、仕事関数が小さい2種類以上の金属や金属と化合物の積層構造及び合金系を用いた構造、あるいは、金属単体を極薄膜化させた構造を用いることが好ましい。また、第二電極16の効率を高める目的で、このような構造とITO等の透明導電性材料とを積層させた構造でもよい。
【0046】
パシベーション膜17は、第二電極16や格子状隔壁14など有機EL素子基板10上に形成された積層部を覆うように設けられた電気的絶縁性を有する薄膜である。また、パシベーション膜17は酸素や水分の透過を防止し、有機EL素子基板上に形成された積層各部の劣化を防ぐ目的で形成される。パシベーション膜17の形成方法には特に制約はなく、単層構造または複数の層からなる積層構造のどちらでもよい。
【0047】
ただし、パシベーション膜17は接着剤を介して封止基材と接するため、該封止基材から発生する応力に対して変質を見せない膜を形成することが好ましい。しかし、この条件を満たす場合は膜厚や材料は特に制約はなく公知の技術を用いることができる。一例として、パシベーション膜17の膜厚は適宜選択可能だが、有機発光媒体層15からの発光を阻害しない膜厚としては、0.5μm以上10μm以下、望ましくは1μm以上2μm以下とすることが好ましい。
また、パシベーション膜17の材料も適宜選択可能だが、有機発光媒体層15からの発光に対して透光性を有するAl、TiO、ZnO等の無機酸化物、Si等の無機窒化物などが好ましい。
【0048】
次に有機EL装置の封止基材20について説明する。封止基板21は、有機発光媒体層15からの発光に対して透光性を有する基板を用いる必要があり、このような基板上に、特定の波長を選択して透過する機能を有するカラーフィルタ層や、有機発光媒体層からの発光の波長を変換させる色変換機能を有する色変換層を形成することができる。有機EL装置において、カラーフィルタ層や色変換層が形成されたカラーフィルタ基板は、有機発光媒体層15からの発光に対して機能するものを指す。なお、カラーフィルタ基板とは少なくとも封止基板21上の一面に、カラーフィルタ層23及びブラックマトリクス層22が形成された基板のことを言う。
【0049】
封止基板21の素材として、有機EL素子基板10と封止基材20とを接着剤30を介して貼りあわせた有機EL装置において、該封止基材20の自重により変形や応力の発生を抑制する素材を用いることが好ましい。このような変形や応力は、封止基材20が対向する有機EL素子基板10が損傷を与える可能性がある。また、有機発光媒体層15からの発光に対して透光性を有する素材を用いる必要がある。ただし、これらの条件を満たす場合において、公知の技術を用いることができる。
【0050】
ただし、封止基材にカラーフィルタ基板を用いる場合、封止基板21の素材は後述するカラーフィルタ層23及びブラックマトリクス層22の形成条件(温度、溶媒、応力など)に対して耐久性のあるものを用いることが好ましい。例えば、無アルカリガラスやソーダガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等の樹脂を含む基板が好ましい。
【0051】
ブラックマトリクス層22は、後述するカラーフィルタ層23からなる画素領域を区画する目的で形成されている。さらに発光画素領域からの発光に対する光漏れを防ぐ目的で、該画素領域の周囲にもブラックマトリクス層22を設けられている。このような封止基材を有する有機EL装置は、封止基材側から見た場合に対向位置にある有機EL素子基板10上に形成されているTFT配線等の写りこみを防ぐ機能がある。ブラックマトリクス層22の形成手法として、このような条件を満たすものであれば公知の技術を用いることができ、その配置形状、配列、大きさ、薄膜の単層または2層以上の積層構造など、手法には特に制約はない。好ましくは1μm以上3μm以下の厚みに形成されるものである。この理由として、1μm未満の厚みで形成されたブラックマトリクス層22は、後述するカラーフィルタ層23形成時における隣接する画素間での混色といった影響が発生するからである。
【0052】
また、このような基板を封止基材に用いた有機EL装置において、有機EL素子基板上に形成された発光画素領域からの発光が、ブラックマトリクス層22により遮蔽されるという不具合を解消する目的で、ブラックマトリクス層22は格子状隔壁14と対向する位置に形成されるものが好ましい。本発明において、ブラックマトリクス層22は格子状を有している。
【0053】
カラーフィルタ層23は、封止基板21上に設けられ、ブラックマトリクス層22によって区画された少なくとも2色以上の着色層が画素領域内に形成されている。なお、その配置形状、配列、単位画素領域面積、大きさ、着色層の単層または2層以上の積層構造などは、上記したブラックマトリクス層の目的や形状を満たすものであれば特に制約はない。また、カラーフィルタ層23の形成に用いる材料や形成方法は公知の技術を用いることができる。なお、封止基材にカラーフィルタ基板を用いる場合、カラーフィルタ層23は有機発光媒体層15と対向する位置に形成されるため、対応する有機発光媒体層15と同色、同様の配列に構成されたものが好ましい。
【0054】
本発明において、ブラックマトリクス層22上にスペーサー221として複数の凸部が形成されている。このスペーサー221は、格子状隔壁14上に形成された凹部143と対応する位置に形成されており、凹部143と嵌合するような形状を有している。有機EL素子基板10と封止基材20とを接着層30を介して貼りあわせる工程において、スペーサー221と凹部143が嵌合することにより、有機EL素子基板10と封止基材20とのギャップが一定に保持されて均一な貼りあわせができ、有機EL装置内への大気中の水分や酸素といった外部要因の浸入を抑制することができる。
【0055】
図5は、ブラックマトリクス層23上に形成されたスペーサー221を模式的に示した図で、スペーサー221は複数の互いに平行した直線凸部221aと、複数の嵌合凸部221bからなる。嵌合凸部221bの形状は、上記した嵌合凹部143bと嵌合する形状であれば良く、その断面形状は図5のような四角形や、半球形、台形などどのような形状でも良い。
【0056】
スペーサー221の材料としては、有機EL素子基板10からの応力に対して変形や変質が見られないものが望ましい。例えば、エポキシモノマー、エポキシオリゴマーといった熱硬化性エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等の光硬化性樹脂などが挙げられる。また、このような素材の単独、あるいは2種以上の混合物を用いてもよい。特に、スペーサー221は凹部143と嵌合することによりギャップを一定に保持する目的で形成されるため、スペーサー221は前述の条件を満たすとともに、硬化後の加工が容易な素材で形成されることが望ましく、アクリル樹脂を用いることが特に好ましい。
【0057】
スペーサー221の形成方法としては、公知の技術を用いることができ、例えばフォトリソグラフィー法、印刷法などが挙げられる。また、ロールコート法やスピンコート法にてパターニングした後フォトリソグラフィー法と組み合わせることにより形成することも可能である。このようなスペーサー221をブラックマトリクス層22上に設ける場合、ブラックマトリクス層22とスペーサー221との高さの合計が10μm以下となるように形成することが好ましい。また、スペーサー221は対向する有機EL素子基板10からの力に対して、その形状が変質や損傷しないように形成することが好ましく、このような損傷は、有機EL素子基板10と封止基材20とのギャップを一定にすることが出来ず、有機EL装置内に大気中の水分や酸素といった外部要因の浸入による劣化につながる。よって、これらの異常を抑制する目的で、スペーサー221の高さは0.5μm以上に設けることが好ましい。
【0058】
本発明において、スペーサー221は凹部143と嵌合するような形状を有しており、スペーサー221の頂点部は凹部143及び接着層30と面状で接する。この理由として、スペーサー221の先端が凹部と接する面積を大きくすることにより、スペーサーにかかる力の分散を目的としている。そのため、スペーサー221の高さは凹部143の深さより高くすることが望ましく、また凹部143と嵌合寸法で形成されていることが望ましい。この理由として、スペーサー221と凹部143にて、有機EL素子基板10と封止基材20との精密な位置制御及びギャップ制御をするためである。好ましくは、スペーサー221の幅と凹部143の幅との差が1μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。
【0059】
次に、有機EL装置の封止構造について説明する。接着層30は、水分や酸素といった外部要因の有機EL装置内への浸入を防止する目的で、有機EL素子基板10と封止基材20との間に形成される。接着層30の素材として、低透湿性を有し、常温大気圧下で変形、収縮、膨張などの発生が抑制される素材であることが望ましい。また、接着層30は有機発光媒体層15からの発光に対して透光性を有するとともに、該有機発光媒体層15からの発光を効率良く透過させる目的で、パシベーション膜17の屈折率より低屈折率となる素材を用いることが好ましい。例えば熱硬化型エポキシ樹脂などの熱硬化型接着性樹脂、ポリエチレン樹脂やアクリル樹脂などの熱可塑型接着性樹脂、光硬化型エポキシ樹脂などの光硬化型接着性樹脂などが挙げられる。
【0060】
接着層30の形成手法は公知の技術を用いることが可能であり、例えばディスペンス法、ラミネート法などが挙げられる。また均一な貼りあわせを実現する一例として、基板上に形成された画素領域に沿って周辺シール剤を塗布し、該周辺シール剤塗布領域内に接着剤を塗布した基板を用いて貼りあわせを実施する手法などもある。この時、接着剤を塗布させる基板は有機EL素子基板10でもよく、封止基材20でもよい。本発明において、封止基材20上にスペーサーが形成されているため、貼りあわせる際の位置制御を容易にする目的で周辺シール剤と接着剤は有機EL素子基板10上に塗布した。ただし、貼りあわせ工程における手法は特に限定されるものではなく、周辺シール剤と接着剤を塗布させる基板も限定されるものではない。
【0061】
このような周辺シール剤や接着剤の素材は公知の材料を用いることができるが、接着層30は発光画素領域からの発光が通過するため、該発光に対して透光性を有する必要がある。また、大気中の水分や酸素といった外部要因の有機EL装置内への浸入を防ぐ目的で、接着層30は低透湿性を有することが好ましい。このような条件を満たす素材として、熱硬化型エポキシ樹脂などの熱硬化型接着性樹脂、ポリエチレン樹脂やアクリル樹脂などの熱可塑型接着性樹脂、光硬化型エポキシ樹脂などの光硬化型接着性樹脂などが挙げられる。
【0062】
有機EL素子基板10と封止基材20とを貼りあわせる工程において、水分や酸素濃度が大気中と比較して非常に低い環境下である真空中、窒素雰囲気下、不活性ガス雰囲気下で貼りあわせを実施した有機EL装置であることが望ましい。
【0063】
本発明において、窒素雰囲気下装置内にて有機EL素子基板10と封止機材20とを接着層30を介して貼りあわせることにより有機EL装置を得た。この時、格子状隔壁14上に形成された凹部と、ブラックマトリクス層22上に形成されたスペーサー221とが互いに対向する位置にて貼りあわせを実施する。これにより、有機EL素子基板10と封止基材20とのギャップを一定に保持させることによる均一な貼りあわせを可能とし、有機EL装置内への水分や酸素の浸入を防ぎ、有機EL素子の変質を抑制させた有機EL装置を提供することが可能となる。
なお、上述した本実施形態はトップエミッション構造の有機EL装置についての記述だが、ボトムエミッション構造の有機EL装置についても同様の手法により作製することが可能である。
【0064】
次に、本発明を実施例と比較例に従って説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
有機EL素子基板10の基板11として、基板の一面にTFTが形成された厚さ0.7mmの無アルカリガラスを用い、基板11上に平坦化膜12として厚さ0.1μmのポリイミド膜をフォトリソグラフィー法にて形成した。その後、平坦化膜12上に第一電極13として厚さ0.15μmのITO膜をスパッタリング法にて形成した。この時、平坦化膜12にスルーホールを設け、TFTと第一電極13を電気的に接続させている。次に、第一電極13上にポリイミド樹脂からなる格子状隔壁14を厚さ2μm、幅2μmになるようロールコート法にてパターニングし、フォトグラフィー法を用いて形成した。この時、格子状隔壁14に囲われた発光画素領域の数は960×540であった。
【0066】
格子状隔壁14形成後、第一隔壁ライン141上にはライン状となるよう、第二隔壁ライン142上には交点部にのみ凹部が形成されるよう露光によりパターニングした。この時、露光ランプ照射を2回行うことにより大きさを制御した。その後フォトリソグラフィー法を用いて、長辺方向の隔壁端から0.5μmの位置に凹部143を形成した。この時、凹部143はいずれも深さ1μm、幅1.5μmであった。
【0067】
格子状隔壁14上に凹部143を設けた後、有機発光媒体層15として、正孔輸送層にPEDOT(0.02μm)、有機発光材料にポリ[2−メトキシー5−(2’エチルーヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]をアニソールにて溶解させた溶液(0.1μm)を、それぞれ凸版印刷法を用いて形成した。その後、有機発光媒体層15上に第二電極16としてITO膜(0.1μm)を蒸着法により形成した。最後に、第二電極16上にパシベーション膜17として、SiNx膜(1μm)を蒸着法により形成し、図1に示すような有機EL素子基板10を得た。
【0068】
封止基材20の封止基板21として、厚さ0.7μm無アルカリガラスを用い、基板21上にブラックマトリクス層22として、画素領域の周囲を囲うように格子形状を有した黒色薄膜と、画素領域周囲部に同様の黒色薄膜(いずれも厚さ1.5μm)を、それぞれカラーモザイクCK−7800(フジフイルムエレクトロニクスマテリアルズ(株)製)を用いてフォトリソグラフィー法により形成した。
【0069】
格子状のブラックマトリクス層22形成後、該ブラックマトリクス層22にて区画された画素領域内に、カラーフィルタ層23として、カラーモザイクCR−7001を用いた赤色薄膜、カラーモザイクCG−7001を用いた緑色薄膜、カラーモザイクCB−7001を用いた青色の薄膜(それぞれフジフイルムエレクトロニクスマテリアルズ(株)製、厚み1.5μm)をフォトリソグラフィー工程により形成した。
【0070】
カラーフィルタ層23形成後、格子状ブラックマトリクス層上にスペーサー221として、アクリル樹脂(高さ5μm)をフォトリソグラフィー工程により形成した。この時、スペーサー221は複数の互いに平行な形状となるように設け、直線凸部221aは直線形状と有するように形成した。その後、直線凸部221aと直交する全ての交点部に、嵌合凸部221bを設けた。この時、スペーサーも短辺方向の幅はいずれも1.2μm以上1.4μm以下の範囲で形成した。このような手法を用い、図2に示すような封止基板20を得た。
【0071】
このように形成された封止基板20を窒素雰囲気下に制御された装置内に置き、画素領域周囲部に周辺シール剤として光硬化型接着性エポキシ樹脂をディスペンス法により塗布した。その後、該周辺シール剤の内部に接着剤として、有機発光媒体層15からの発光に対して透光性を有する熱硬化型接着性エポキシ樹脂を用いて、ディスペンス法により塗布したことにより、接着層30を設けた。
【0072】
接着層30を設けた封止基板20と有機EL基板10を、それぞれ真空下に制御された装置内に置き、格子状隔壁14に囲われた発光画素領域と、ブラックマトリクス層22に囲われた画素領域とが対応するよう、それぞれの基板を配置した。次に、スペーサー221と格子状隔壁14上に形成した凹部143がそれぞれ嵌合するよう、互いの基板を近づけた。その後、加圧させることにより互いの基板を貼りあわせた。この結果、凹部143とスペーサー221が嵌合することにより、有機EL素子基板10と封止基材20との精密な位置制御を可能とした有機EL装置を得た。さらに、凹部とスペーサーとにより、基板間のギャップを均一に制御した。最後に、接着剤を硬化させる目的で、貼りあわせ後の基板を常圧下のオーブンに内に置き、80℃で1時間ベークした。これにより、図3に示すような有機EL装置を得た。
この有機EL装置を微分干渉顕微鏡にて内部観察したが、異物は検知されなかった。さらに、実施例1で得られた有機EL装置を60℃90%RHの条件に保たれた恒温恒湿槽にて1500時間放置したが、有機EL装置内に気泡や画素欠陥といった異常は見られなかった。
【0073】
[実施例2]
本実施形態における有機EL装置の構成は、実施例1で示した有機EL装置と基本的には同様であり、異なる点として、第二隔壁ライン142上に形成した凹部143aは直線形状を有しており、第一隔壁ライン141上に形成した凹部141bは第一隔壁ライン141及び第二隔壁ライン142の交点部にのみ形成した。また、嵌合凸部221bは直線形状を有しており、直線凸部221aはスペーサー同士の交点部にのみ形成した。
この有機EL装置を微分干渉顕微鏡にて内部観察したが、異物は検知されず、発光輝度を測定したところ実施例1と差は見られなかった。観察後、60℃90%RHの条件に保たれた恒温恒湿槽にて1500時間放置したが、有機EL装置内に気泡や画素欠陥といった異常は見られなかった。
【0074】
[比較例1]
スペーサー221の形状をライン状ではなく柱状にし、ブラックマトリクス層22の交点上にのみ形成した封止基板20と、該スペーサー221と嵌合するような形状となるような凹部を、格子状隔壁14の交点部にのみ設けた有機EL素子基板10を用いて、実施例1に記載した接着方法と同様の手法により貼りあわせることにより有機EL装置を得た。
この有機EL装置を微分干渉顕微鏡にて内部観察したところ、スペーサー221から剥離したアクリル樹脂からなる異物が検知された。また、発光輝度を測定したところ実施例1と差は見られなかったが、この有機EL装置を60℃90%RHの条件に保たれた恒温恒湿槽にて1500時間放置したところ、有機EL装置内に画素欠陥が発生し、この画素欠陥は徐々に広がり全発光領域に対して9.2%まで拡大した。
【0075】
[比較例2]
スペーサー221の形状を格子状にした封止基板20と、格子状隔壁14上に形成した凹部141の形状を格子状にした有機EL素子基板10を用いて、実施例1に記載した接着方法と同様の手法により貼りあわせることにより有機EL装置を得た。
この有機EL装置を微分干渉顕微鏡にて内部観察したところ、異物は検知されなかったが、接着剤溜りやボイドが見られ、発光輝度を測定したところ実施例1から大幅に低下した。観察後、60℃90%RHの条件に保たれた恒温恒湿槽にて1500時間放置したところ、有機EL装置内に気泡や画素欠陥といった異常は見られなかった。
【0076】
実施例1及び実施例2で得られた有機EL装置と、比較例1と比較例2で得られた有機EL装置の観察結果および特性について比較した結果を以下の表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の実施例と比較例との比較から分かるように、本発明では有機EL素子基板の隔壁上の直線凹部143a及び嵌合凹部143bと、封止基板のスペーサーの直線凸部221aと嵌合凸部221bとを勘合させて貼り合わせることにより、スペーサーの損傷が無く、封止基板と有機EL素子基板とが位置精度良く張り合わせることができ、封止性が良い有機EL素子が得られた。また、接着剤溜りやボイドが無く、発光輝度に優れた有機EL素子が得られた。
【符号の説明】
【0079】
10…有機EL素子基板
11…基板
12…平坦化膜
13…第一電極
14…格子状隔壁
141…第一隔壁ライン
142…第二隔壁ライン
143…凹部
15…有機発光媒体層
16…第二電極
17…パシベーション膜
20…封止基材
21…封止基板
22…カラーフィルタ層
23…ブラックマトリクス層
221…スペーサー
30…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも第一電極、有機発光媒体層及び第二電極から成る複数の発光画素領域並びに前記発光画素領域を囲う第一隔壁ライン及び該第一隔壁ラインと直交する第二隔壁ラインからなる格子状隔壁とが形成された有機EL素子基板を、封止基板と接着剤を介して張り合わせてなる有機EL装置であって、前記格子状隔壁は直線凹部及び複数の嵌合凹部からなる複数の凹部を有し、前記封止基板は直線凸部及び複数の嵌合凸部からなる複数の凸部を有し、前記凹部と前記凸部が対向するよう貼り合わされていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記嵌合凹部は、前記第一隔壁ラインと前記第二隔壁ラインとの交点上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記封止基板が前記発光画素領域からの光をカラー化するカラーフィルタ層と、該カラーフィルタ層を格子状に区画するブラックマトリクス層とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記凸部は前記ブラックマトリクス層上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに有機EL装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の有機EL装置の製造方法であって、
基板上に複数の第一電極を形成する工程と、
前記第一電極の端部を覆うように第一隔壁ライン及び該第一隔壁ラインと直交する第二隔壁ラインからなる格子状隔壁を形成する工程と、
前記格子状隔壁に直線凹部及び複数の嵌合凹部からなる複数の凹部を形成する工程と、
前記第一電極上に有機発光媒体層を形成する工程と、
前記有機発光媒体層上に前記第二電極を形成する工程と、
封止基板上に直線凸部及び複数の嵌合凸部からなる複数の凸部を形成する工程と、
前記基板と前記封止基板とを前記凹部と前記凸部とが嵌合するように接着剤を介して貼り合わせる工程と、
を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機発光媒体層は、前記第一隔壁ライン又は前記第二隔壁ラインに沿うように凸版印刷法により形成されることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−181304(P2011−181304A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43822(P2010−43822)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】