説明

有胞子好気性細菌検出方法及びそれに使用するDNAチップ

【課題】被検試料中の有胞子好気性細菌を検出する方法、及び、当該検出方法に使用するDNAチップを提供する。
【解決手段】バチルス・コアグランス検出用、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用、バチルス・リチェニフォルミス検出用、バチルス・サブチリス検出用、バチルス・メガテリウム検出用およびパエニバチルス・ポリミキサ検出用として、それぞれに特定の塩基配列を有するプローブを用いる、1種以上の細菌の被検試料中における存在を検出する方法、および各プローブを基盤に固定してなるDNAチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検試料中の有胞子好気性細菌を検出する方法、及び、当該検出方法に使用するDNAチップに関する。
【背景技術】
【0002】
土壌及び水などの自然界には多種の有胞子好気性細菌(例えば、Bacillus属細菌)が存在している。その中には、食品中に存在することでヒトや家畜にとって有害な事象(食品の腐敗や食中毒)をもたらすものがある。
有胞子好気性細菌は高温殺菌にも耐える芽胞形成を経て増殖することができるので、食品や飼料製品中でその存在を検出することが、食品産業や飼料産業における品質管理上の重要事項となっている。
有胞子好気性細菌の検出方法としては、検出対象菌の16SリボソームRNAコード配列(以後、16S rDNA配列)から見いだしたプローブを使用した方法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3921670号公報
【特許文献2】特許第4189002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有胞子好気性細菌のなかでも、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)やパエニバチルス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)は芽胞を形成するため耐熱性が高く、さらに菌種によってその耐熱性が異なる。したがって、試料中で各菌種の存在を個別に検出することは最適な殺菌条件を設定するために重要である。
上記6種類の細菌の検出について、従来は、食品等の被検試料を平板培地で培養し、発生したコロニーを単離して生化学性状解析あるいは遺伝子解析に付することで行っていた。
しかしながら、従来法では、1つのコロニーを6種類の菌種それぞれについて別個に解析に付する必要があり、検査の簡便性及び迅速性の点で課題があった。
また、16S rDNA配列から見いだした従来のプローブを固定してなるDNAチップでは、クロスハイブリダイゼーションによる擬陽性が起こりやすい類縁種の識別(例えば、バチルス・サブチリスとバチルス・リチェニフォルミスとの識別や、バチルス・メガテリウムとバチルス・フレクサス(Bacillus flexus)との識別)に適応できないという懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが上記課題について鋭意検討した結果、上記6種類の細菌のそれぞれについて、16S rDNA配列と23S rDNA配列との間のITS(Internal Transcribed spacer)領域に由来する特定のヌクレオチド配列を検出プローブとして用いると、上記6種類の細菌を個別的かつ一度に検出することができることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)下記(A)〜(F)の6種類の細菌:
(A)バチルス・コアグランス
(B)ジオバチルス・ステアロサーモフィラス
(C)バチルス・リチェニフォルミス
(D)バチルス・サブチリス
(E)バチルス・メガテリウム及び
(F)パエニバチルス・ポリミキサ
からなる群より選ばれる1種以上の細菌の被検試料中における存在を検出する方法であって、
被検試料中の核酸と、下記(a)〜(f)のプローブ:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・コアグランス検出用プローブの1種以上、
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用プローブの1種以上、
(c)配列番号4に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号5に示される塩基配列からなるプローブ、及び
配列番号5に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・リチェニフォルミス検出用プローブの1種以上、
(d)配列番号6に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号7に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号7に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・サブチリス検出用プローブの1種以上、
(e)配列番号8に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号8に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・メガテリウム検出用プローブの1種以上、並びに
(f)配列番号9に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号9に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、パエニバチルス・ポリミキサ検出用プローブの1種以上、とをハイブリダイズさせることを特徴とする、検出方法、
並びに
(2)下記(A)〜(F)の6種類の細菌:
(A)バチルス・コアグランス
(B)ジオバチルス・ステアロサーモフィラス
(C)バチルス・リチェニフォルミス
(D)バチルス・サブチリス
(E)バチルス・メガテリウム及び
(F)パエニバチルス・ポリミキサ
からなる群より選ばれる1種以上の細菌の被検試料中における存在を検出するためのDNAチップであって、
下記(a)〜(f)のプローブ:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・コアグランス検出用プローブの1種以上、
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用プローブの1種以上、
(c)配列番号4に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号5に示される塩基配列からなるプローブ、及び
配列番号5に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・リチェニフォルミス検出用プローブの1種以上、
(d)配列番号6に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号7に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号7に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・サブチリス検出用プローブの1種以上、
(e)配列番号8に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号8に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・メガテリウム検出用プローブの1種以上、並びに
(f)配列番号9に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号9に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、パエニバチルス・ポリミキサ検出用プローブの1種以上、
を基板に固定してなることを特徴とするDNAチップ、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法は、後述する実施例で示されるように、被検試料(特に食品)中におけるバチルス・コアグランス、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス、バチルス・リチェニフォルミス、バチルス・サブチリス、バチルス・メガテリウム及びパエニバチルス・ポリミキサの存在を一度の検出手順で個別的かつ同時に検出することができる。したがって、食品等の製品検査に要する時間及び費用を従来法よりも低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の検出対象は下記(A)〜(F)の6種類の細菌である。
(A)バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)
(B)ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)
(C)バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)
(D)バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)
(E)バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)
(F)パエニバチルス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)
(A)〜(F)の細菌は、いずれも自然界に存在する有胞子好気性細菌であり、かつ、食品製品や飼料製品中に混入した場合に、ヒトや家畜にとって有害な事象(食品の腐敗や食中毒等)を引き起こすことが知られている(防菌防黴 Vol.32, No.3, pp.135〜151, 2004)。
バチルス・コアグランス及びジオバチルス・ステアロサーモフィラスは、耐熱性の高い芽胞を形成するため、缶詰やレトルト食品等の変敗細菌であることが知られている。また、両菌種はフラットサワー型変敗の原因菌であり、発育に伴って乳酸を産生して食品の酸敗を引き起こす。
バチルス・サブチリス、バチルス・リチェニフォルミス、バチルス・メガテリウム、パエニバチルス・ポリミキサは、デンプンを多く含む食品の変敗細菌として知られており、パンや洋菓子、米飯などで検出されることが多く、異臭・酸敗を引き起こす。
【0009】
被検試料としては、検出対象である上記6種類の細菌のうち少なくとも1種類が存在している可能性があり、かつ、その存在の有無を確認する必要のあるものであれば、特に限定されない。被検試料の性状は、固体、液体及び気体のいずれであってもよい。したがって、例えば、牛乳、水、緑茶、酸性飲料等の飲料や、食肉、チルド食品、生鮮食品(肉、野菜、魚)、弁当・惣菜などの幅広い食品や、飼料等が被験試料として利用可能である。更に、食品製造の設備や製造環境中の空気などの環境試料も本発明の被検試料として利用可能である。
【0010】
本発明では、被検試料中の核酸と細菌種特異的プローブとのハイブリダイゼーションを利用して細菌検出を行う。したがって、ハイブリダイゼーション効率を高めるために、被検試料を前処理する。
具体的には、ハイブリダイゼーションに先立つ前処理として、被検試料中に含まれる菌の培養及び回収、菌体からの核酸抽出、並びに、PCRによるITS領域(本発明の核酸プローブがハイブリダイズする領域)の増幅を行う。なお、被検試料中にPCRを阻害する物質が含まれている場合には、PCR前に核酸を精製する工程を行ってもよい。
これらの各工程は、当該技術分野で一般的に使用されている培地、核酸抽出キット、核酸精製キット、PCR関連試薬(DNAポリメラーゼ、バッファーなど)等を用いて、当該技術分野で公知の手順にしたがって行うことができる。以下に、菌の培養、菌体からの核酸抽出及びITS領域のPCR増幅の具体的な手順の例を説明する。

菌の培養
被検試料が固形食品である場合、当該固形食品を液体培地とともにホモジナイズして培養する、あるいは試料を平板培地へ塗布してコロニーを得る方法などが挙げられる。被検試料が飲料の場合には、ろ過により菌体を濃縮したフィルターを平板培地に貼り付けて培養する、あるいはフィルターを液体培地に懸濁させて培養する方法などが挙げられる。使用する培地は、検出対象菌種の増殖を阻害する成分を含まない限り特に制限されない。

菌体からの核酸抽出
抽出する核酸はDNAまたはRNAのいずれでもよい。抽出法は当該技術分野で周知の方法を用いることができる。DNAの場合、例えば、proKなどの酵素や界面活性剤により溶菌したものからDNAを抽出し、最終的にはフェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿により精製することができる。また、市販の抽出キットを使用してもよく、DNAの場合、例えばQIAGEN社製 DNeasy Blood & Tissue Kit、富士フイルム社製 自動核酸抽出装置 QuickGene-810 QuickGene SP Kit、TaKaRaBio社製 FastPure DNA Kit、MoBio社製 UltraClean Microbial DNA Kitなどを使用することができる。

ITS領域のPCR増幅
ITS領域のPCR増幅には当該技術分野で周知の方法を用いることができる。使用するプライマーは、6種類の検出対象菌のITS領域を増幅できるものであれば特に制限されない。6種類の検出対象菌においてITS領域は16S rDNA配列と23S rDNA配列との間に存在しており、これらの配列はいずれも公知であるため、16S rDNA配列及び23S rDNA配列の中からITS領域増幅用プライマーを設計することができる。
使用するプライマー対の数について、6種類の検出対象菌の各々に特異的なプライマー対を用いてもよく、複数の菌種に共通するプライマー対を用いてもよい。16S rDNA配列及び23S rDNA配列の中には6種類の検出対象菌間で共通する配列が存在するため、そのような共通配列をプライマーとすることでプライマー対の数を減らすことができる。具体例として、6種類の検出対象菌のITS領域を同時に増幅できる共通プライマーの配列を以下に示す。

フォワードプライマー(16S rDNA配列から設計):CCGCGGTGAATACGTTCC (配列番号:19)
リバースプライマー(23S rDNA配列から設計):GCTCCTAGTGCCAAGGCAT (配列番号:20)

ITS領域のPCR増幅に用いるプライマーは、当該技術分野における周知の方法に従い作成することができる。
【0011】
本発明の方法では、被検試料中の核酸とプローブとのハイブリダイゼーションを利用して細菌検出を行う。
(A)のバチルス・コアグランスの検出には、以下の配列番号1に示される塩基配列及びその相補配列、並びに配列番号2に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(a))のうち少なくとも1種類が用いられる。

CAGTTTTGAAGGTTCAATCCTTCA(配列番号:1)
CGAGAATCGCTTATTTTTGGATTT(配列番号:2)

上記プローブのうち少なくとも1種類を用いれば、バチルス・コアグランスの検出を行うことができるが、検出精度を更に高めるために、2種類以上を併用してもよい。
【0012】
上記のバチルス・コアグランス検出用プローブの1種以上と、以下の配列番号11に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用するとバチルス・コアグランスの検出精度をより高めることができるので好ましい。

TAGGAGAAATAAACCAAGTAAACCGAG(配列番号:11)
【0013】
(B)のジオバチルス・ステアロサーモフィラスの検出には、以下の配列番号3に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(b))のうち少なくとも1種類が用いられる。

ACTGTCGATACACAGCGCTTTC(配列番号:3)
【0014】
上記のジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用プローブと、以下の配列番号12に示される塩基配列及びその相補配列、並びに、以下の配列番号13に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用すると、ジオバチルス・ステアロサーモフィラスの検出精度をより高めることができるので好ましい。

GATAACCGGAAAAGCGGAGG(配列番号:12)
GAAGGTTATTTGACCCCGAGC(配列番号:13)
【0015】
(C)のバチルス・リチェニフォルミスの検出には、以下の配列番号4に示される塩基配列及びその相補配列、並びに、以下の配列番号5に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(c))のうち少なくとも1種類が用いられる。

CTTATAGACAGGTGCGTTTGGATCT(配列番号:4)
GAAGGATCATTCCTTCAAAGCGTG(配列番号:5)

上記プローブのうち少なくとも1種類を用いれば、バチルス・リチェニフォルミスの検出を行うことができるが、検出精度を更に高めるために、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
上記のバチルス・リチェニフォルミス検出用プローブと、以下の配列番号14に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用すると、バチルス・リチェニフォルミスの検出精度をより高めることができるので好ましい。

ACTAGATAACGAAAGTAGACATTCACATTCA(配列番号:14)
【0017】
(D)のバチルス・サブチリスの検出には、以下の配列番号6に示される塩基配列及びその相補配列、並びに、配列番号7に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(d))のうち少なくとも1種類が用いられる。

TTACGGAATATAAGACCTTGGGTCTT(配列番号:6)
ATAAACAGAACGTTCCCTGTCTTGT(配列番号:7)

上記プローブのうち少なくとも1種類を用いれば、バチルス・サブチリスの検出を行うことができるが、検出精度を更に高めるために、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
上記バチルス・サブチリス検出用プローブと、以下の配列番号15に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用すると、バチルス・サブチリスの検出精度をより高めることができるので好ましい。

GTAATACAAGATATCACATAGTGATTCTTTTTAACG(配列番号:15)
【0019】
(E)のバチルス・メガテリウムの検出には、以下の配列番号8に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(e))のうち少なくとも1種類が用いられる。

AATAACACAACAATATGTTGTACCATTTATTC(配列番号:8)

上記のプローブのうち少なくとも1種類を用いれば、バチルス・メガテリウムの検出を行うことができるが、検出精度を更に高めるために、2種類を併用してもよい。
【0020】
上記のバチルス・メガテリウム検出用プローブと、以下の配列番号16に示される塩基配列及びその相補配列、並びに、配列番号17に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用すると、バチルス・メガテリウムの検出精度をより高めることができるので好ましい。

TGCTGAGGAAAAGTGAAACTTTTC(配列番号:16)
TTTTTACATGACGTACGTTTTGACAC(配列番号:17)
【0021】
(F)のパエニバチルス・ポリミキサの検出には、以下の配列番号9に示される塩基配列及びその相補配列、並びに、以下の配列番号10に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブ(プローブ(f))のうち少なくとも1種類が用いられる。

GAATATTCCTTTAAGCTGATCTTGTGTAAA(配列番号:9)
AACAAGTGAAATAAAGGTAGCTGCCT(配列番号:10)

上記プローブのうち少なくとも1種類を用いれば、パエニバチルス・ポリミキサの検出を行うことができるが、検出精度を更に高めるために、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上記のパエニバチルス・ポリミキサ検出用プローブと、以下の配列番号18に示される塩基配列及びその相補配列からなる群より選ばれる塩基配列からなるプローブの1種以上とを併用すると、パエニバチルス・ポリミキサの検出精度をより高めることができるので好ましい。
CGAAACGAAATTGCGTTTTAG(配列番号:18)
【0023】
本発明で使用するプローブは、当該技術分野において周知の方法に従い合成することができる。
【0024】
本発明における被検試料中の核酸とプローブとのハイブリダイゼーションでは、当該技術分野で一般的に使用されているハイブリダイゼーション条件を用いることができる。好ましい条件としては以下のものがあげられる。
反応溶液:1×SSC/0.1% SDS(終濃度)
ハイブリダイゼーション温度:45℃
【0025】
PCR増幅産物の検出は、当該技術分野において一般的に使用されているものを用いることができる。
例えば、蛍光物質(Cy5等)や、発色試薬(ビオチン、フルオレセイン等)、放射性物質等の標識物質で、プライマー、PCR増幅に用いるdNTP又はPCR増幅産物を標識しておくことにより、ハイブリダイゼーションを検出することができる。
ハイブリダイゼーションに先立つ被検試料中の核酸のPCR増幅を上述した共通プライマー(6種類の検出対象菌のITSを同時に増幅できるプライマー対)を用いて行い、かつ、ハイブリダイゼーションをDNAチップ(1枚の基板上の複数のスポットの各々に、予め決められた菌種の検出プローブが独立して固定されている)を用いて行う場合、1種類の標識物質で共通プライマーを標識しておけば、当該標識物質の検出手段を用いるだけで複数種類の菌種に対応するハイブリダイゼーションを一度に検出することができるので好ましい。
DNAチップとしてはアフィメトリクス型及びスタンフォード型のいずれも使用可能である。また、DNAチップは、当該技術分野において周知の手順に従い、プラスチックやシリコン、ガラス等の基板上へ、上述の各菌種検出用プローブを安定して固定化することにより作製することができる。
【0026】
(実施例)
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
実施例1では、本発明のプローブによる対象菌の検出について評価した。
【0028】
DNAチップの作製方法
表1に示すプローブを合成した(Invitrogen 社)。各プローブは、その5’末端がアミノ基で修飾されていた。このアミノ基は、DNAチップ基板上に導入されたカルボキシル基との間でアミド結合を形成して、プローブとDNAチップ基板との間に強固な結合をもたらすために導入した。
【0029】
表1

【0030】
Probe1〜18の各合成プローブ水溶液にポリエチレングリコール(分子量300)を添加して、10μMプローブ/30%ポリエチレングリコール溶液(終濃度)を調製した。これらを5μLずつ分注した384ウェルマイクロプレートとDNAチップ基板であるジーンシリコン(東洋鋼鈑社製)とをスポッティングマシンSPBIOTM2000(Hitachi Software Engineering Co. Ltd.)の所定の位置にセットし、スポッティングを実施した。
スポッティング完了後、基板を定温乾燥器内に入れ、80℃で1時間ベーキングを行い、2×SSC/0.2%SDS溶液、蒸留水で洗浄を行った。遠心乾燥後、アルミパウチで真空包装した。作製したDNAチップの各スポットには、表1記載の18種類のプローブのいずれか1つが固定化されていた。したがって、得られた1枚のDNAチップ上には、18種類のプローブが固定化されていた。DNAチップは、細菌検出実験に使用するまで−20℃で保管した。
【0031】
菌体からの核酸抽出
検出対象菌として以下の表2に示す6種類の有胞子好気性細菌:バチルス・コアグランス、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス、バチルス・リチェニフォルミス、バチルス・サブチリス、バチルス・メガテリウム、パエニバチルス・ポリミキサを用いた。
【0032】
表2

【0033】
各菌種について最適条件で液体培養を行い、回収した菌体にリゾチーム溶液を加えて常温で30分程度溶菌処理を行った。リゾチーム溶菌処理液を自動核酸抽出装置Magtration System 12GC(プレシジョン・システム・サイエンス社)にセットし、核酸抽出キットGC series Magtration-MagaZorb DNA Common Kit 200N(プレシジョン・システム・サイエンス社)を用いて、核酸(DNA)の抽出精製を行った。抽出した核酸溶液の濃度を統一するため、PicoGreen dsDNA Quantitation Kit(Molecular Probes社)を用いて抽出したDNAを定量し、分析値に基づいて各菌種の核酸溶液の濃度を100pg/μLに調製した。
【0034】
PCRによる核酸の増幅
各菌種の抽出DNAを含むPCR反応液を用いてPCRを行い、ITS領域(DNAチップ中の各プローブがハイブリダイズする領域)を増幅した。PCR条件は以下の通りであった。
【0035】
PCR反応液の組成

【0036】
PCR反応条件

【0037】
ハイブリダイゼーション及びその検出
PCR反応後の上記PCR反応液2μLに3×SSC/0.3%SDS溶液1μLを加えて混合してハイブリダイゼーション反応溶液とした(1×SSC/0.1% SDS(終濃度))。このハイブリダイゼーション反応溶液を、作製したDNAチップ上に添加した。ハイブリダイゼーション反応溶液の蒸発を防ぐため、カバープレートをかぶせてから45℃に設定した高湿チャンバー内で120分間静置してハイブリダイゼーション反応を行った。反応後、DNAチップを常温下で洗浄液(2×SSC/0.2%SDS溶液、2×SSC溶液の順に)に浸して洗浄を行い、カバーガラスを載せて蛍光検出器Bioshot(東洋鋼鈑社製)で各プローブのスポット領域の蛍光を検出した。このハイブリダイゼーション実験を、A〜Fの各菌種に由来する6種類のPCR反応液のそれぞれについて行った。
【0038】
結果
結果を表3に示す。表3中、「○」は陽性(対象菌種を蛍光検出)を意味し、「×」は陰性(蛍光非検出)を意味し、「△」は偽陽性(非対象菌種を蛍光検出)を意味する。
【0039】
表3

【0040】
18種類のプローブを固定した各スポットは、対象菌種の核酸とハイブリダイズしCy5に基づく蛍光が検出された。特に、Probe1〜10(配列番号:1〜10)は対象菌種の核酸と特異的にハイブリダイズした。したがって、本発明の配列番号:1〜10のプローブのそれぞれが検出対象菌を特異的に検出できることが確認された。
【0041】
実施例2
実施例2では、実施例1の各プローブの検出対象菌以外の菌とのクロスハイブリダイズについて評価した。
【0042】
DNAチップの作製方法
実施例1に記載の手順に従いDNAチップを作製した。作製したDNAチップの各スポットには、表1記載の18種類のプローブのいずれか1つが固定化されていた。したがって、得られた1枚のDNAチップ上には、18種類のプローブが固定化されていた。DNAチップは、細菌検出実験に使用するまで−20℃で保管した。
【0043】
菌体からの核酸抽出
以下の表4に示す菌種を使用した。
【0044】
表4



【0045】
A〜Tの各菌種について最適条件で液体培養を行った。培養後、実施例1に記載の手順に従い溶菌処理及び核酸(DNA)の抽出精製を行い、各菌種について濃度が100pg/μLの核酸溶液を調製した。
【0046】
PCRによる核酸の増幅
実施例1に記載の手順に従い、各菌種の抽出DNAを含むPCR反応液を用いてPCRを行い、ITS領域(DNAチップ中の各プローブがハイブリダイズする領域)を増幅した。
【0047】
ハイブリダイゼーション及びその検出
PCR反応後のPCR反応液について、実施例1に記載の手順に従い、DNAチップとのハイブリダイゼーション反応及びその検出を行った。なお、ハイブリダイゼーション実験は、A〜Tの各菌種に由来する20種類のPCR反応液のそれぞれについて行った。
【0048】
結果
結果を表5に示す。表5中、「○」は陽性(対象菌種を蛍光検出)を意味し、「×」は陰性(蛍光非検出)を意味し、「△」は偽陽性(非対象菌種を蛍光検出)を意味する。
【0049】
表5

【0050】
Probe1〜10(配列番号:1〜10)は、いずれも検出対象外の菌とクロスハイブリダイズすることなしに、対象菌種のみを特異的にハイブリダイズした。したがって、本発明の配列番号:1〜10のプローブのそれぞれが検出対象菌を特異的に検出できることが確認された。
Probe11〜18(配列番号:11〜18)はProbe1〜10と同様に対象菌種とハイブリダイズしたが、いくつかの非対象菌種ともクロスハイブリダイズした。したがって、Probe11〜18は、Probe1〜10と組み合わせる(ただし、同一の菌種を対象とするプローブの組み合わせ)ことで本発明に使用できることが確認された。
【0051】
実施例3
実施例3では、複数種類のプローブを固定化してなるDNAチップを用いての対象菌種の同時検出について評価した。
【0052】
DNAチップの作製方法
実施例1の表1に記載のProbe1〜4及び7〜10の各合成プローブの水溶液にポリエチレングリコール(分子量300)を添加して、10μMプローブ/30%ポリエチレングリコール溶液(終濃度)を調製した。これらを5μLずつ分注した384ウェルマイクロプレートとDNAチップ基板であるジーンシリコン(東洋鋼板社製)とをスポッティングマシンSPBIOTM2000(Hitachi Software Engineering Co. Ltd.)の所定の位置にセットし、スポッティングを実施した。
スポッティング完了後、基板を定温乾燥器内に入れ、80℃で1時間ベーキングを行い、2×SSC/0.2%SDS溶液、蒸留水で洗浄を行った。遠心乾燥後、アルミパウチで真空包装した。作製したDNAチップの各スポットには、8種類のプローブのいずれか1つが固定化されていた。したがって、得られた1枚のDNAチップ上には、8種類のプローブが固定化されていた。DNAチップは、細菌検出実験に使用するまで−20℃で保管した。
【0053】
菌体からの核酸抽出
検出対象菌として以下の表6に示す6種類の有胞子好気性細菌を用いた。
【0054】
表6

【0055】
A〜Fの各菌種について最適条件で液体培養を行った。培養後、実施例1に記載の手順に従い溶菌処理及び核酸(DNA)の抽出精製を行い、各菌種について濃度が100pg/μLの核酸溶液を調製した。
【0056】
PCRによる核酸の増幅
各菌種の抽出DNAの混合物を含むPCR反応液を用いてPCRを行い、ITS領域(DNAチップ中の各プローブがハイブリダイズする領域)を増幅した。PCR条件は以下の通りであった。
【0057】
PCR反応液の組成

【0058】
PCR反応条件

【0059】
ハイブリダイゼーション及びその検出
PCR反応後の上記PCR反応液2μLに3×SSC/0.3%SDS溶液1μLを加えて混合してハイブリダイゼーション反応溶液とした(1×SSC/0.1% SDS(終濃度))。このハイブリダイゼーション反応溶液を、作製したDNAチップ上に添加した。ハイブリダイゼーション反応溶液の蒸発を防ぐため、カバープレートをかぶせてから45℃に設定した高湿チャンバー内で120分間静置してハイブリダイゼーション反応を行った。反応後、DNAチップを常温下で洗浄液(2×SSC/0.2%SDS溶液、2×SSC溶液の順に)に浸して洗浄を行い、カバーガラスを載せて蛍光検出器Bioshot(東洋鋼鈑社製)で各プローブのスポット領域の蛍光を検出した。
【0060】
結果
結果を表7に示す。表7中、「○」は陽性(蛍光検出)を意味し、「×」は陰性(蛍光非検出)を意味する。
【0061】
表7

【0062】
Probe1〜4及び7〜10を1つのチップ上に固定してなるDNAチップにおいて、各Probeは対象菌種のみと特異的にハイブリダイズした。したがって、本発明のプローブを用いて6種類の検出対象菌を個別的かつ同時に検出できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、食品等の製品における有害な有胞子好気性細菌の検出に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(F)の6種類の細菌:
(A)バチルス・コアグランス
(B)ジオバチルス・ステアロサーモフィラス
(C)バチルス・リチェニフォルミス
(D)バチルス・サブチリス
(E)バチルス・メガテリウム及び
(F)パエニバチルス・ポリミキサ
からなる群より選ばれる1種以上の細菌の被検試料中における存在を検出する方法であって、
被検試料中の核酸と、下記(a)〜(f)のプローブ:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・コアグランス検出用プローブの1種以上、
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用プローブの1種以上、
(c)配列番号4に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号5に示される塩基配列からなるプローブ、及び
配列番号5に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・リチェニフォルミス検出用プローブの1種以上、
(d)配列番号6に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号7に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号7に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・サブチリス検出用プローブの1種以上、
(e)配列番号8に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号8に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・メガテリウム検出用プローブの1種以上、並びに
(f)配列番号9に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号9に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、パエニバチルス・ポリミキサ検出用プローブの1種以上、とをハイブリダイズさせることを特徴とする、検出方法。
【請求項2】
下記(A)〜(F)の6種類の細菌:
(A)バチルス・コアグランス
(B)ジオバチルス・ステアロサーモフィラス
(C)バチルス・リチェニフォルミス
(D)バチルス・サブチリス
(E)バチルス・メガテリウム及び
(F)パエニバチルス・ポリミキサ
からなる群より選ばれる1種以上の細菌の被検試料中における存在を検出するためのDNAチップであって、
下記(a)〜(f)のプローブ:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・コアグランス検出用プローブの1種以上、
(b)配列番号3に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス検出用プローブの1種以上、
(c)配列番号4に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号5に示される塩基配列からなるプローブ、及び
配列番号5に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・リチェニフォルミス検出用プローブの1種以上、
(d)配列番号6に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号7に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号7に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・サブチリス検出用プローブの1種以上、
(e)配列番号8に示される塩基配列からなるプローブ、及び、
配列番号8に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、バチルス・メガテリウム検出用プローブの1種以上、並びに
(f)配列番号9に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号9に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列からなるプローブ、
配列番号10に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるプローブからなる群より選ばれる、パエニバチルス・ポリミキサ検出用プローブの1種以上、
を基板に固定してなることを特徴とするDNAチップ。

【公開番号】特開2012−34655(P2012−34655A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179620(P2010−179620)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】