説明

木材および単板積層材の欠点検出および物性測定装置

【課題】木材および単板積層材の3点曲げ試験装置を使って、欠点の検出を可能とし、曲げヤング率とせん断弾性率を同時に測定することを可能とすること。
【解決手段】3点曲げ試験装置に組み込まれた曲げたわみ形状測定装置であり、移動可能な非接触変位計4と、その送り装置5と、送り量制御装置6と、送り量測定装置7と、データ収録装置8と、データ解析装置9からなる。送り量測定装置7ではデジタルスケールを利用し、それによって得られた高精度の曲げたわみ形状データを使用して、木材および単板積層材の欠点を検出する。欠点としては木材の節、目切れや単板積層材の接着不良、過度のラップジョイントを含む。また同装置を使用して木材および単板積層材の曲げヤング率とせん断弾性率を同時に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材および単板積層材の欠点の検出装置およびヤング率とせん断弾性率の測定装置に関するものである。
【技術背景】
【0002】
木材の欠点の検出についての研究開発は古くから行われており、核磁気共鳴やX線などを利用した発明もある(例えば、特許文献1)。日本国内では比較的小規模な製材所が多いため、光学的な手法を用いて画像の濃度階調の差から節などの欠点を検出する比較的安価な装置の発明が多い(例えば、特許文献2、3)。この方法は節は検出されるが、強度に影響を及ぼす程度は判別が難しい。そこで画像を使って木材を曲げた時の形状を計測して、物性が異なる部位を検出する方法を考案した(非特許文献1,2)。しかし、画像を使った方法ではたわみ形状の測定精度を向上させることが難しいという問題点があった。
【0003】
木材の等級区分は、ヤング率(縦弾性率)を測定することによって行われている。木材に曲げ荷重をかけることで、そのたわみ量からヤング率を計測する装置が開発されている(例えば、特許文献4,5)。これらの方法はヤング率を測定することはできるが、せん断弾性率(横弾性率)を測定することはできない。そこで画像を使って木材を曲げた時の形状を計測し、せん断弾性率を測定する方法を考案した(非特許文献3)。しかし、上記同様に画像を使った方法ではたわみ形状の測定精度を向上させることが難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開H10−318951号公報
【特許文献2】特開S62−192623号公報
【特許文献3】特開2009−293999号公報
【特許文献4】特開2002−214098号公報
【特許文献5】特開平7−20027号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】永井博昭,村田功二,中野隆人:材料,56巻,4号,326〜331頁,2007年
【非特許文献2】H.Nagai,K.Murata,T.Nakano:Journal of Wood Science,Vol.55,No.3,169〜174頁,2009年
【非特許文献3】K.Murata,T.Kanazawa:Holzforschung,Vol.61,No.5,589〜594頁,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて発明したものであって、安価でありながら木材および単板積層材の3点曲げによるたわみ形状を高精度に測定し、欠点の検出とヤング率とせん断弾性率の同時測定を行うことができる装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る装置は、画像による形状測定ではなく、被測定試料の下方に配置した移動可能な非接触変位計と、その送り装置による3点曲げ試験装置に組み込まれた1次元形状測定装置である。図1と図2は本発明の説明図である。図1中、1は被測定試料(木材および単板積層材)であり、荷重部2、支持部3は3点曲げ試験装置である。図1中、非接触変位計4、非接触変位計の送り装置5、非接触変位計の送り量制御装置6、非接触変位計の送り量測定装置7が形状計測部である。そのほかにデータ収録装置8、データ解析装置9がある。図2は形状計測部の概略図である
【0008】
上記測定装置の非接触変位計4は、木材および単板積層材の下面との距離を測定する。曲げたわみを生じさせるために、ある程度離れたところから測定できる性能を有している。また高精度の測定する必要があるため、変位計には高分解能の有する。
【0009】
上記測定装置で計測する木材および単板積層材は2m〜4mの長さがある。そのため非接触変位計の移動も相応の距離になる。一般的な変位計で非接触変位計4の位置を測定した場合、ダイナミックレンジを数メートルにすると、分解能は相対的に大きくなる。そこで高分解能のデジタルスケールを設置し、出力されるパルス信号をカウントする送り量測定装置7で高精度に支点からの距離を測定する。
【0010】
上記の方法により、非接触変位計4からはたわみ量の変位データが出力され、デジタルスケールからはパルス信号が出力される。データ収録装置8は変位データの収録と、パルス信号のカウントの両方の機能を有している。
【0011】
上記装置で、しかるべき荷重を木材および単板積層材にかけたときに生じる曲げたわみ変形を測定し、形状データをデータ解析装置9で解析する。支持部からの距離によって、ある一定区間のデータを使って、下記の式のどちらかに回帰し、一定区間の曲げ剛性(EI)および回帰係数(CまたはC,C)を求める。
y=−P/(4EI)・(x/3−l×x/4)+C
y=−P/(12EI)×x+C×x+C
ここで、yはたわみ量、Pは荷重、lは曲げスパン長、xは支点からの距離である。また定数項(C,C)は省略してもよい。
【0012】
木材に節が含まれていた場合や目切れがある場合には、その繊維傾斜より局所的なヤング率(E)が小さくなる。また断面に欠損があった場合には断面二次モーメント(I)が小さくなり、局所的な曲げ剛性(EI)が低下する。断面二次モーメントが同じだと仮定した場合には、見かけ上の局所的なヤング率が小さくなってあらわれる。単板積層材でも接着不良があった場合には、局所的なヤング率は小さくなる。また単板積層材で過度のラップジョイントがあった場合には、逆に局所的なヤング率は大きくなる。このように局所的ヤング率を測定することにより、木材の欠点を検出することができる。局所的なヤング率だけでなく、1次の項の回帰係数(C)を使用して欠点の検出を行っても良い。上記の方法により、節などの欠点を検出することができる。
【0013】
材料力学によると、梁の3点曲げのたわみには上記の曲げ変形の他にせん断変形も含まれる。曲げ変形の画像を撮影し、たわみに含まれる曲げ変形の成分とせん断変形の成分を分離し、せん断弾性率を計測することに成功した(非特許文献3)。たわみに含まれるせん断変形の成分は一般に曲げ変形の成分に比べて少なく、たわみ量が小さいため曲げたわみ変形全体を以下の式で回帰し、局所的ではなく全体的なせん断弾性率を求める。
y=−P/(12EI)×x+P×(l/(16EI)+s/(2GA))×x
ここでGはせん断弾性率、Aは部材の断面積、sは断面における最大せん断応力と平均せん断応力の比である。上記測定装置を使って曲げたわみ変形を高精度に計測することにより、ヤング率と同時にせん断弾性率を計測することができる。
【発明の効果】
【0014】
これまでの欠点(主に節)の検出技術は密度や色調(色の濃度)の違いをもとに行ってきた。しかし、これらの性質は強度とは直接的には関係しない。一方、本装置による手法はヤング率による検出が基本であり、それは繊維傾斜に関係する。正常部では材の長軸方向が繊維方向に一致するのに対し、節周辺の節ばかまでは長軸方向が繊維直交方向に相当するためヤング率が小さくなる。木材は繊維直交方向では非常に弱く、実際に破壊は節周辺部で生じる場合が多い(非特許文献1)。節ばかまを検出する方法は強度に影響を及ぼす性質を検出する点で、木材および木質材料の信頼性向上に対して効果は大きい。
【0015】
欠点の検出は、曲げ変形のデータを比較的狭い区間で解析して得た局所ヤング率などから行うため、その区間に含まれるデータ数は多い方が望ましい。画像から曲げたわみ変形を測定すると、分解能に劣るためデータ数を多く得ることが難しい。そこで画像からではなく上記測定装置を使い、走査する非接触変位計の位置を高精度で評価することによって、狭い区間でも多くの曲げたわみのデータ数を得ることが可能になった。
【0016】
せん断弾性率の測定は上記のようにせん断変形から求めるが、3点曲げのたわみの中に含まれるせん断変形由来の成分の割合は少ない。曲げスパンに対して梁せいを大きくすることでその成分の割合を増加させることはできるが、強度の関係から自ずと限界がある。そのため曲げたわみ量を高精度に計測する必要があるが、画像からの計測では高精度の計測は難しい。そこで上記装置を使うことで、非接触変位計によって曲げたわみを高精度に測定することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施する最良の形態について説明する。図1,図2のように3点曲げ試験装置(荷重2,支持部3)で被測定試料1の下方に、1次元形状測定装置を組み込む。この1次元形状測定装置は、非接触変位計4、非接触変位計の送り装置5、非接触変位計の送り量制御装置6、非接触変位計の送り量測定装置7、データ収録装置8,データ解析装置9からなる。
【0018】
非接触変位計は高精度で、30μm以下の分解能が必要である。レーザー変位計などが適当であるが、曲げ変形を測定するために5cm以上離れた場所からの計測が可能であり、±15mm以上の範囲を計測する機能を有する必要がある。
【0019】
非接触変位計の送り装置は、回転速度可変の電動モーターと、非接触変位計に動力を伝えるベルトから構成される。また電動モーターは送り量制御装置によって速度を制御される。送り速度を遅くすれば、収録装置のサンプリングレートとの関係から非接触変位計の位置精度は高くなるが、計測に時間がかかることとなり効率が悪くなる。最終的な欠点の検出精度などから適宜調節される。
【0020】
非接触変位計の位置は送り量測定装置で計測する。一般的な変位計ではなく、位置制御のためにデジタルスケールから出力されるパルス信号をカウントすることにより、高精度に非接触変位計の位置を計測する。デジタルスケールの分解能は10マイクロメートル以下とする。
【0021】
データ収録装置は変位計からのたわみ量データと、変位計の位置計測のためのパルスカウントを同じ行う能力を有する必要がある。また2種類のデータを同時に50Hz以上のレートで収録する機能が必要である。
【実施例1】
【0022】
図3は本発明の試作機であり、無節木材試験体を配置したものである。この試作機では、非接触変位計4にはOPTEX社のレーザー変位計CD3−80N(分解能10μm、測定範囲65mm〜95mm)を使用した。この非接触変位計の出力は直流電流(4mA〜20mA)なので、エム・システム技研社の変換器(M5VS−A5−R/K)に接続して電圧に変換し、測定レンジ(30mm)が0V〜5Vになるようにした。非接触変位計の送り量測定装置7にはソニーマニュファクチュアリングシステムズ社のデジタルスケール(SL110)とデジルーラ(PL81)を利用した。分解能は10μmで、パルス信号を出力される。非接触変位計4の電圧出力と送り量測定装置7のパルス信号出力を収録するデータ収録装置8には、テクノウエーブ社の多機能I/Oユニット(USBX−I16)を使用した。電圧データ(5V)は10bitのデジタルデータにAD変換すると同時に、パルスカウント(32bit)も行われる。収録されたデータはUSBケーブルによってデータ解析装置(エプソンダイレクト社 NJ2100)。データのサンプリング間隔は約15m秒であった。ここでデータ収録装置8のAD変換が10bitであったので、非接触変位計4の分解能は10μmであったが、収録されるデータは分解能が29μmとなる。
【0023】
無節木材試験体には1800mm(長さ)×38mm(高さ)×19mm(幅)のSPF材を使用した。あらかじめ縦振動法で測定した動的ヤング率は9.0GPaであった。3点曲げのスパンを1500mmとし、無負荷の状態と5kgのおもりを中央部においた状態の無節木材試験体下面の形状を試作機によって測定した。非接触変位計の送り間隔が約15μm〜20μmになるように非接触変位計の送り量制御装置6を調整した。無負荷の状態とおもりを乗せた状態の差をたわみ形状とした。図4はそのたわみ形状(たわみ分布)である。3点曲げ中央部のたわみ量は4.89mmだったので、曲げヤング率は8.1GPaであった。
【0024】
図4のたわみ形状を次の式で回帰して、局所ヤング率分布を求めた。
y=−P/(4EI)・(x/3−l×x/4)
ここで、yはたわみ量、Pは荷重(5kgf)、lは曲げスパン長(1500mm)、Iは断面二次モーメント(19×38/12)であり、xは支点からの距離である。回帰する範囲は注目位置±25mmとし、50mm幅の平均ヤング率を局所ヤング率とした。図5は得られた無節試験体の局所ヤング率分布である。求められた局所ヤング率は平均8.2GPa、標準偏差0.1GPaであった。
【0025】
次に有節木材試験体による試験を行った。図6は有節木材試験体に含まれる節である。試験体中央付近にある節12と材縁にかかる節13があった。試験体中央付近にある節12のひとつ(上)は、片面では組織が不連続な死節で、反対側の面では組織が連続する生節となっていた。もうひとつ(下)は生節であった。材縁にかかる節13は死節であった。縦振動法で測定した動的ヤング率は12.5GPaであり、おもり(5kg)を載せた中央部のたわみ量から計算した曲げヤング率は11.3GPaであった。図7は無節木材試験体と同様の方法で求めた有節木材試験体の局所ヤング率の分布である。材縁にかかる節13は材縁からの距離が1100mmであるが、その周辺の局所ヤング率は10.8GPaであった。その他の部分は11GPaより大きく、左側は約12GPaであった。強度の低下に影響を及ぼすと思われる材縁にかかる死節では局所ヤング率が低下し、あまり強度に影響しないと思われる中央部の節では局所ヤング率が低下しないことが分かる。局ヤング率分布から欠点を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】 本発明の装置斜視図である。
【図2】 本発明の形状計測部概略図であり、上が上面、下が側面である。
【図3】 本発明の試作機と無節木材試験体
【図4】 無節木材試験体のたわみ形状
【図5】 無節木材試験体の局所ヤング率分布
【図6】 有節木材試験体に含まれる節
【図7】 有節木材試験体の局所ヤング率分布
【符号の説明】
【0027】
1 木材および単板積層材
2 荷重部
3 木材および単板積層材の支持部
4 非接触変位計
5 非接触変位計の送り装置(モーター、ベルトなど)
6 非接触変位計の送り量制御装置
7 非接触変位計の送り量測定装置
8 データ収録装置(データロガー)
9 データ解析装置(コンピュータ)
10 木材試験体(無節)
11 スケール(支点(支持部)からの距離)
12 試験体中央付近の節
13 材縁にかかる節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材および単板積層材の3点曲げ試験装置に組み込まれる欠点の検出装置であり、木材および単板積層材の下方に配置された移動可能な非接触変位計と、それを移動させる送り装置、その送り量を高分解能で計測するデジタルスケールを利用した送り量測定装置で構成される曲げたわみ形状測定装置とデータ収録装置とデータ解析装置からなる。この装置で計測した曲げたわみ形状を一定区間毎に解析することにより木材および単板積層材の欠点を検出することを目的とする。欠点としては木材の節、目切れや単板積層材の接着不良、過度のラップジョイントを含む。
【請求項2】
木材および単板積層材の3点曲げ試験装置に組み込まれる物性測定装置であり、上記曲げたわみ形状測定装置とデータ収録装置・データ解析装置からなる。この装置で計測した曲げたわみ形状を解析することにより、木材および単板積層材の曲げヤング率とせん断弾性率を同時に測定することを目的とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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