説明

木材への薬剤含浸方法および木材への薬剤含浸装置

【課題】 超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができる木材への薬剤含浸方法および木材への薬剤含浸装置を提供する。
【解決手段】 (1) 超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸方法において、木材の木口が障害物によって覆われており、これにより木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法、(2) 二酸化炭素導入手段および薬剤導入手段が接続され、且つ、圧力・温度調整手段が備えられた圧力容器の内部に、木材の木口が障害物によって覆われた状態で木材が収容されていることを特徴とする木材への薬剤含浸装置等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材への薬剤含浸方法および木材への薬剤含浸装置に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に材料に薬剤を含浸させる方法として、液体薬剤そのもの、または薬剤を水溶液あるいは有機溶媒溶液にしたものに対象材料を浸漬する方法がある(JIS A9002、特開昭59-158205 号公報)。また、水溶液や有機溶媒溶液の代わりに、液体に比べ高拡散力や低粘度であることを期待して超臨界状態の流体を使った含浸方法も提案されている(特開昭59-101311 号公報、米国特許6517907 号明細書、米国特許6623600 号明細書、特願2004-06296号)。
【0003】
これらの方法の中で、薬剤の含浸を促進させる方法として液体の圧入法や超臨界流体の密度変化を利用した方法が有効である(特開昭59-158205 号公報、特願2004-06296号)。
【0004】
しかしながら、上記方法を木材への薬剤の含浸に用いた場合には問題があり、改善する必要がある。この詳細を以下説明する。
【0005】
木材は元となる樹木の持つ性質として、生育方向とそれに直角方向の側面では流体の浸透性が異なることが知られている。一般に、生育方向は、根から吸い取った養分を樹木全体にいきわたらせるために浸透性が高くなっている。通常、住宅の柱や土台に使われる木材は、樹木から、この生育方向に縦長に切り取られている。これら木材に薬剤を含浸させようとすると、液体圧入法や超臨界流体の密度変化を利用した方法が有効ではあるが、浸透しやすい方向からの浸透性が高いため、それに対して直角方向の浸透性の低い方向からの薬剤の含浸が相対的に不十分になることが多かった。なお、本明細書においては、生育方向の断面に相当する薬剤の含浸しやすい部分を一般的な用語に従い木口と呼ぶことにする。それに対して直角の方向断面を側面と呼ぶことにする。
【0006】
ところで、住宅の柱や土台に使われる木材をシロアリや微生物から守るためには、シロアリや微生物が木材の表面から侵入することを防ぐため、木材の表面から10mm以上の深さに十分に防腐剤を含浸させておくことが必要とされている。しかしながら、上述したように木口と側面とでは薬剤の浸透性が異なり、薬剤は、木口から優先的に木材中に浸透するため、木材の中央部分では薬剤含浸が十分にいきわたるまでに長時間を費やし、逆に木口に近い方では必要以上に薬剤を含浸させなければならないという問題があった。
【0007】
このことを図で示せば図1のようになる。即ち、図1の(1) のように表面層に均一に薬剤が含浸することが理想的であるが、従来の特開昭59-158205 号公報や特開昭59-101311 号公報に記載の方法では、図1の(2) のようにA方向(木口の方向)からの方が薬剤が入りやすいために、B方向(側面方向)からの液の浸透が抑制され、中央部では、側面からの薬剤含浸深さが不十分になる。さらに含浸を進めて、図1の(3) のように中央部の表面層に必要量含浸させようとすると、木口付近には過剰な薬剤が注入されることになり効率が悪くなる。
【特許文献1】特開昭59-158205 号公報
【特許文献2】特開昭59-101311 号公報
【特許文献3】米国特許6517907 号明細書
【特許文献4】米国特許6623600 号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができる木材への薬剤含浸方法および木材への薬剤含浸装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0010】
このようにして完成されて上記目的を達成することができた本発明は、木材への薬剤含浸方法および木材への薬剤含浸装置に係わり、特許請求の範囲の請求項1〜6記載の木材への薬剤含浸方法(第1〜6発明に係る木材への薬剤含浸方法)、請求項7〜9記載の木材への薬剤含浸装置(第7〜9発明に係る木材への薬剤含浸装置)であり、それは次のような構成としたものである。
【0011】
即ち、請求項1記載の木材への薬剤含浸方法は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸方法において、木材の木口が障害物によって覆われており、これにより木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法である〔第1発明〕。
【0012】
請求項2記載の木材への薬剤含浸方法は、前記障害物が、硬化した後に超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶となる樹脂または接着剤を木材の木口に塗った後に硬化させることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法である〔第2発明〕。
【0013】
請求項3記載の木材への薬剤含浸方法は、前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な材料を硬化性の接着剤によって木材の木口に貼り付けることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法である〔第3発明〕。
【0014】
請求項4記載の木材への薬剤含浸方法は、前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を木材の木口に押しつけることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法である〔第4発明〕。
【0015】
請求項5記載の木材への薬剤含浸方法は、前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものを、その樹脂面側を木材の木口との接触面として木材の木口に押しつけることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法である〔第5発明〕。
【0016】
請求項6記載の木材への薬剤含浸方法は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素中に薬剤を混合したあとで、この二酸化炭素の圧力をより高い圧力に変化させる請求項1〜5のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法である〔第6発明〕。
【0017】
請求項7記載の木材への薬剤含浸装置は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸をさせるための木材への薬剤含浸装置であって、圧力容器と、この圧力容器内に二酸化炭素を導入する手段と、この圧力容器内に薬剤を導入する手段と、この圧力容器内の圧力および温度を調整する手段とを有し、この圧力容器内に木材の木口が障害物によって覆われた状態で木材が収容されていることを特徴とする木材への薬剤含浸装置である〔第7発明〕。
【0018】
請求項8記載の木材への薬剤含浸装置は、前記木材の一端側の木口と他端側の木口のそれぞれを覆う障害物が超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂板からなり、この両障害物の中、少なくとも一端側の木口を覆う障害物と圧力容器の内壁との間に弾性体が挿入され、この弾性体の弾性圧によって前記両障害物が木材の木口に押しつけられている請求項7記載の木材への薬剤含浸装置である〔第8発明〕。
【0019】
請求項9記載の木材への薬剤含浸装置は、前記両障害物の中の1種以上を、前記樹脂板に代えて、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものとすると共に、その樹脂面側を木材の木口との接触面としている請求項8記載の木材への薬剤含浸装置である〔第9発明〕。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法によれば、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができるようになる。
【0021】
本発明に係る木材への薬剤含浸装置によれば、このような木材への薬剤含浸方法を遂行することができる。ひいては、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは前述の目的を達成するために、鋭意実験および検討を加えた結果、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の木口部分を木口部分からの薬剤の浸透を抑制する障害物で覆っておき、この状態で薬剤含浸をすることにより、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができることを見出した。
【0023】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。このようにして完成された本発明に係る木材への薬剤含浸方法は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸方法において、木材の木口が障害物によって覆われており、これにより木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法である〔第1発明〕。この薬剤含浸方法によれば、前述の知見からわかるように、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができる。従って、木材の木口からの過剰な薬剤の含浸(無駄)を来すことなく、効率的に、木材の表面層に薬剤を含浸させることができ、必要な含浸用薬剤の量の低減がはかれる。
【0024】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法に関する原理や作用等について、以下、より詳しく説明する。
【0025】
表1に、2種類の木材について、木口と側面からの流体の浸透性の違いを調べた結果を示す。これは、容器に深さ5mmとなるように水を入れて、そこに、一辺が約20mmの立方体になるように切り取った木材片を、(a) 木口側2面と側面2面に2液型のエポキシ接着剤を塗って残った側面部分を下に向けて水に浸した場合と、(b) 側面側4面にエポキシ接着剤を塗って木口側を下に向けて水に浸した場合の一定時間後の重量増加量を比較するものである。表1から明らかなように、側面部分から液を浸透させる場合(a) と木口部分から液を浸透させる場合(b) は重量増加が大きく異なり、側面部分からの液の浸透が非常に困難であることがわかる。このことは、超臨界状態の二酸化炭素や亜臨界状態の二酸化炭素のような超臨界流体の持つ低粘度、高拡散性等の優れた性状あるいはそれを圧力変動等により密度差をつけて含浸させる方法を用いても、どうしても浸透しやすい木口からの薬剤浸透が優先してしまうことを示している。
【0026】
そこで、検討を重ねた結果、超臨界状態において薬剤を含浸する際に、浸透しやすい木口からの浸透を抑制するために障害物で木口を覆うことによって側面からの薬剤含浸が促進され、この際に、一般の液体では浸透の難しい側面部分であっても超臨界状態の二酸化炭素(超臨界CO2 )や亜臨界状態の二酸化炭素(亜臨界CO2 )の持つ低粘度および拡散性の高さが有効に活用されて側面からの薬剤含浸が可能であることを見出した。また、木口からの薬剤浸透を抑制すれば、原理的に残る側面部分についてはいずれの場所も薬剤の浸透しやすさが変わらないため均一な含浸が可能になる。木材をシロアリや微生物から守るためには、表面から10mm以上の深さまで薬剤を含浸させる必要があるといわれているが、逆に側面全体に均一に含浸させることができるので、木口からの薬剤浸透がある場合に比べて少量で必要かつ十分な量の薬剤含浸ができることになる。なお、薬剤は超臨界状態の二酸化炭素や亜臨界状態の二酸化炭素と共に木材の側面から進入(浸入)して含浸され、この後、装置内の圧力を大気圧に減圧すること等により、二酸化炭素は木材中から大気中等に速やかに揮散する。このとき、薬剤は木材中に含浸されたままで残る。
【0027】
木口からの薬剤含浸を抑制するために、障害物で覆うには、障害物としては木材の両木口(木材の一端側の木口と他端側の木口)全面を隙間無く覆うことのできるものを用いることが必要である。また、複数の木材を積み上げた時には、数mm程度の寸法の差があっても、全ての木材の木口を同時に覆うことができることが望ましい。また、障害物としては超臨界状態の二酸化炭素や亜臨界状態の二酸化炭素中において溶けないようなものを使う必要がある。
【0028】
このような障害物としては、例えば、硬化した後に超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶となる樹脂または接着剤を木材の木口に塗った後に硬化させることによって形成されたものを挙げることができる〔第2発明〕。
【0029】
上記接着剤としては、例えば、フェノール系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、反応形アクリル系接着剤などを挙げることができる。また、上記接着剤としては、例えば、加熱により硬化する熱硬化性樹脂を挙げることができ、この熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、けい素樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などを挙げることができる。
【0030】
上記樹脂や接着剤に代えて、水ガラスのような無機物を用いることもできる。即ち、水ガラスのように乾燥した後に固形物となり障害物としての機能を持ち、超臨界二酸化炭素に溶けないものであれば無機物でも使用可能である。
【0031】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法において、障害物としては上記の障害物の他、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な材料を硬化性の接着剤によって木材の木口に貼り付けることによって形成されたものを挙げることができる〔第3発明〕。このような不溶な材料としては、例えば、鉄板、アルミ板のような金属板、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、ポリスチレンあるいはポリイミド等のプラスチックやエンジニアリングプラスチックを板状にしたものを挙げることができる。これらを貼り付けるための硬化性の接着剤としては、種々のものを用いることができる。
【0032】
また、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を木材の木口に押しつけることによって形成されたものを障害物として用いる方法も挙げることができる〔第4発明〕。この場合、木口に樹脂製の板を押し付けることにより、樹脂の弾力性を利用して寸法の違いを吸収しつつ木口を封ずることが可能である。樹脂を木材の木口に押しつける手段としては、例えば、図2に示すようなバネなどの仕組みによるものを挙げることができる。なお、この図2において、符号の4Aは圧力容器(木材への薬剤含浸処理容器)、6Aは押さえ部分のついたふた(圧力容器のふた)、5Aは木材、7Aはバネを示すものである。図2の(A) は圧力容器内への木材収容の途中の段階の状態を示し、図2の(B) は圧力容器内への木材収容後の状態を示す。図2の(B) に示すように、樹脂が木材の木口に押しつけられて障害物となっている。
【0033】
超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものを、その樹脂面側を木材の木口との接触面として木材の木口に押しつけることによって形成されたものを障害物として用いる方法も挙げることができる〔第5発明〕。この場合、木材の木口に対し、樹脂をパッキンのようにして金属の板で押さえつけるようなことが可能である。
【0034】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法においては、前述のように、木材の木口が障害物によって覆われており、これにより木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させるので、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができる。このとき、薬剤は超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素と共に木材の側面から進入(浸入)して含浸され、この超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素は粘度が低く且つ拡散性に優れているので、一般の液体では浸透の難しい木材の側面部分であっても薬剤と共に浸透させることができ、このため木材側面からの薬剤含浸をすることができる。
【0035】
このように木材側面からの薬剤含有液体(超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素)の浸透をさせることができ、木材側面からの薬剤含浸をすることができるが、この浸透を加速するためには圧力を変動させるのが効果的である。より具体的には、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素中に薬剤を混合したあとで、この二酸化炭素の圧力をより高い圧力に変化させる〔第6発明〕。そうすると、木材側面からの薬剤含有液体の浸透を加速することができ、このため木材側面からの薬剤含浸を加速することができる。これは、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素はいずれも圧力によって密度が大きく変化する流体であるため、圧力を高くすることにより流体の体積が大きく変化し、その結果として物質移動(薬剤含有液体の浸透)が促進されるからである。なお、原理上、密度変化に伴う物質移動は、スケールアップした際には大きさに比例するため、本発明に係る木材表面への薬剤含浸のような場合、一定の割合に含浸させようとすれば、その比率の変化から条件を設定することができる。
【0036】
本発明に係る木材への薬剤含浸装置は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸をさせるための木材への薬剤含浸装置であって、圧力容器と、この圧力容器内に二酸化炭素を導入する手段(以下、二酸化炭素導入手段ともいう)と、この圧力容器内に薬剤を導入する手段(以下、薬剤導入手段ともいう)と、この圧力容器内の圧力および温度を調整する手段(以下、圧力・温度調整手段ともいう)とを有し、この圧力容器内に木材の木口が障害物によって覆われた状態で木材が収容されていることを特徴とする木材への薬剤含浸装置である〔第7発明〕。
【0037】
この薬剤含浸装置においては、上記のように、圧力容器内に木材の木口が障害物によって覆われた状態で木材が収容されている。この圧力容器内に、二酸化炭素導入手段により二酸化炭素を導入する。この圧力容器内の圧力および温度を圧力・温度調整手段により調整して、この圧力容器内の二酸化炭素を超臨界状態または亜臨界状態にする。この圧力容器内に、薬剤導入手段により薬剤を導入する。そうすると、木材の木口が障害物によって覆われた状態で、木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させることができる。即ち、本発明に係る木材への薬剤含浸方法を遂行することができる。
【0038】
従って、本発明に係る木材への薬剤含浸装置によれば、本発明に係る木材への薬剤含浸方法を遂行することができ、ひいては、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができる。
【0039】
本発明に係る木材への薬剤含浸装置において、木材の木口を覆う障害物としては、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶であると共に木材の木口を覆うことができるものであることが必要であるが、そのようなものであれば、その種類については特には限定されず、また、木材の木口を覆う方式についても特には限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、木材の一端側の木口と他端側の木口のそれぞれを覆う障害物が超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂板からなり、この両障害物の中、少なくとも一端側の木口を覆う障害物と圧力容器の内壁との間に弾性体が挿入され、この弾性体の弾性圧によって前記両障害物が木材の木口に押しつけられているものを用いることができる〔第8発明〕。この方式のものとしては、例えば、図2に示すものを挙げることができる。この図2において、符号の4Aは圧力容器(木材への薬剤含浸処理容器)、6Aは押さえ部分のついたふた(圧力容器のふた)、5Aは木材、7Aはバネを示すものである。図2の(A) は圧力容器内への木材収容の途中の段階の状態を示し、図2の(B) は圧力容器内への木材収容後の状態を示す。図2に示すものは、弾性体としてバネ7Aが用いられ、木材5Aの一端側の木口を覆う障害物と圧力容器4Aの底部内壁との間にバネ7Aが挿入され、他端側の木口を覆う障害物は圧力容器のふた6Aに当たり、バネ7Aのバネ圧によって両障害物が木材5Aの各木口に押しつけられている。
【0040】
上記第8発明に係る薬剤含浸装置においては、木材の一端側の木口と他端側の木口のそれぞれを覆う障害物(両障害物)として、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂板を用いているが、両障害物の中の1種以上を、樹脂板に代えて、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものを用い、その樹脂面側を木材の木口との接触面としたものとすることもできる〔第9発明〕。
【0041】
なお、本発明において、木材へ含浸させる薬剤としては、その種類は特に限定されるものではなく、木材への含浸の目的に応じて種々のものを用いることができる。これらの薬剤の中には、超臨界状態や亜臨界状態の二酸化炭素に溶解する薬剤も、溶解しない薬剤(不溶の薬剤)もある。前者の薬剤の場合は、この薬剤を超臨界状態や亜臨界状態の二酸化炭素に混合して溶解し、この溶液を木材の側面に接触させ、浸透させて含浸させる。後者の薬剤(不溶の薬剤)の場合は、この薬剤を一旦相溶剤(薬剤が溶解することができ、且つ、超臨界状態や亜臨界状態の二酸化炭素に溶解することができる性質を有する溶剤)に溶解した後、これを超臨界状態や亜臨界状態の二酸化炭素に混合して溶解し、この溶液を木材の側面に接触させ、浸透させて含浸させる。この場合、薬剤は相溶剤に溶解し、これが超臨界状態や亜臨界状態の二酸化炭素に溶解している。いずれの場合も、これら含浸の後、装置内の圧力を大気圧に減圧すること等により、二酸化炭素は木材中から大気中等に速やかに揮散する。このとき、薬剤は木材中に含浸されたままで残る。上記のことから、本発明において、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸方法は、薬剤が溶解した状態で含有される超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を木材に浸透させて含浸させ、これにより木材に薬剤を含浸する方法ということができる。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
〔試験方法〕
まず、用いた試験片(木材)、薬剤、試験方法を説明する。
【0044】
(1) 試験片
試験片の木材としては、ツガから切り出したものを用いた。いずれのものも、幹の成長方向に100mm 、それに垂直な方向に20mm〜55mmとなるように切り出した。
【0045】
(2) 薬剤
薬剤としては、金属石鹸の一種であるバーサチック酸亜鉛を用いた。薬剤の含浸状態については、試験後の木材を断面方向に切断し、その断面にピリジルアゾナフトールを塗布して赤色の発色により確認した。表面から赤く発色した領域の深さを測定し、含浸状況の指標とした。
【0046】
(3) 試験方法
図3に試験に用いた装置フロー図を示す。この図3を用いて試験方法を以下説明する。まず、高圧容器(木材への薬剤含浸処理容器)5の中に試験片の木材6を入れる。高圧容器5はヒータまたは恒温槽8によって所定の温度に保たれている。CO2 (二酸化炭素)ボンベ1からCO2 ポンプ3によってCO2 を高圧容器5に投入する。このとき、圧力調整バルブ7の設定圧力を所定の圧力P1に設定する。バルブ7は圧力調整バルブであり、系内を設定した所定圧力に保つようにバルブが自動的に開閉する。
【0047】
本発明の実施例および比較例では、圧力を変動させる方法を用いるが、以下の説明ではP1およびP2は圧力を示す記号で、P1<P2であるとの前提で説明する。上記のようにCO2 を高圧容器5に投入し、系内が所定圧力P1に到達した後、薬液タンク2から薬液ポンプ4によって、薬剤であるバーサチック酸亜鉛を相溶剤に溶解した状態で系内に導入する。そのまま、所定時間例えば10分間、圧力P1の下に保ったあと、圧力調整バルブ7の設定圧力をP2に設定する。そうすると、系内の圧力はP1からP2へ変化する。系内が所定圧力P2に到達した後、所定時間例えば30分間その状態を保持する。この後、圧力調整バルブ7の設定圧力をP1に戻し、系内の圧力をP1に戻す。このような圧力P1→P2→P1を圧力変動1サイクルとして1回以上繰り返す。最後に薬液ポンプ4を止め、圧力調整バルブ7の設定を0MPa として、系を減圧し、試験片の木材6を取り出す。なお、上記の圧力P1からP2に昇圧する過程すなわち超臨界状態における薬剤混合相が低密度から高密度に変化する工程が重要である。
【0048】
〔実施例〕
実施例では、木口断面を一辺が20mmの正方形で長さ100mm の大きさに加工したツガの木材片の木口部分に2液型のエポキシ接着剤(アラルダイト社製の市販品)を塗布し硬化させて、木口部分のシール処理をした。このエポキシ接着剤(樹脂)が十分硬化したあと、この木材を試験片6として高圧容器5の中に入れた。しかる後、前述の試験方法により、高圧容器5へのCO2 投入から高圧容器5からの試験片(木材)6の取り出しに至るまでの処理(超臨界処理)を行なった。このとき、相溶剤すなわちCO2 に薬剤(バーサチック酸亜鉛)を溶かす相溶剤としてエタノールを用いた。P1=7〜15 MPa、P2=19MPa とした。圧力P1→P2→P1の圧力変動は1回とした(1サイクルのみとした)。なお、実施例1〜3でのP1及びP2は後述の表2に示す通りである。
【0049】
〔比較例〕
比較例では、木口断面を一辺が20mmの正方形で長さ100mm の大きさに加工したツガの木材片を、そのまま(木口部分のシール処理をすることなく)、試験片6として高圧容器5の中に入れた。しかる後、実施例の場合と同様の処理(超臨界処理)をした。なお、比較例1〜2でのP1及びP2は後述の表2に示す通りである。
【0050】
〔結果〕
上記処理(超臨界処理)の後、薬剤(バーサチック酸亜鉛)の含浸状態を調べた。この調査については、前述のように、超臨界処理後の木材を断面方向に切断し、その断面にピリジルアゾナフトールを塗布して赤色の発色により確認した。表面から赤く発色した領域の深さを測定し、薬剤の含浸状況の指標とした。
【0051】
実施例に係る処理後の木材片の薬剤の含浸状態を図4に示す。図4において、1は実施例1、2は実施例2、3は実施例3の場合の結果を示し、aは木口近傍(上側木口から15mm)の断面、bは中央部(木口から50mm)の断面、cは木口近傍(下側木口から15mm)の断面での薬剤含浸状態を示すものである。図は、わかりやすいように、断面を写真に撮影した後、赤く着色した部分をトレースして黒く塗りつぶしている。図の無色の部分は本来は茶色〜黄色の色をしていて赤く発色しなかった部分である。着色した部分が薬剤の含浸した領域である。それぞれの処理条件(実施例1〜3)では、観察した場所に関係なく、表面層から深さ方向に一定の割合で着色部分が形成されていることがわかる。これは、木材の表面層に均一に薬剤が含浸されていることを示しており、本発明の効果がよく現れている。また、圧力幅(P1とP2の差)が大きいほど、薬剤の含浸深さは深くなっており、本発明の効果がよく現れている。
【0052】
木材はサンプルの種類によるばらつきがあるため定量的に表現することは難しいが、表2には、着色領域の表面層からの距離と木材の断面の一辺の長さとの割合を評価結果として示した。即ち、下記式より求められる薬剤の含浸割合(%)を表2に示した。全領域に薬剤が含浸しているときは、薬剤の含浸割合=50%となる。
【0053】
薬剤の含浸割合(%)=(薬剤含浸領域の表面からの深さ/断面一辺の長さ)×100
【0054】
また、標準的な105 角(木口断面:105 ×105 mmの正方形)の木材に対して必要十分な薬剤含浸距離10mmを基準にして、その比率との比較から過剰度を定義して表2中に表示した。即ち、下記式より求められる過剰度(%)を表2に示した。薬剤の含浸距離が木材の側面から10mmのときは、過剰度=100 %となる。
【0055】
過剰度(%)=薬剤の含浸割合/(10/105)
【0056】
次に、比較例に係る処理後の木材片の薬剤の含浸状態を図5に示す。図5において、1は比較例1、2は比較例2の場合の結果を示し、a、b、cは図4の場合と同様のそれぞれの断面での薬剤含浸状態を示すものである。図5の見方は図4の場合と同様であり、黒く塗りつぶしている部分が着色領域すなわち薬剤含浸領域である。比較例では、木材末端の木口付近の断面ではほぼ全面に着色領域が形成されている。中央部分も圧力変動幅が大きいほど着色領域が増すが、木口近傍と中央部分でその含浸深さが異なる。この方法で薬剤含浸は不可能ではないが、中央部分に所定量の薬剤含浸をさせるためには、木口近傍には過剰に薬剤を含浸させる必要があることがわかる。
【0057】
比較例の場合の薬剤の含浸割合(%)および過剰度を表2に示した。なお、表2の木口処理の欄において、シールありは、木材の木口部分に接着剤(樹脂)を塗布し硬化させるという木口のシール処理をしたことを示し、シール無しは、かかる木口のシール処理をしなかったことを示すものである。
【0058】
以上より、実施例の場合のように、木口からの流体進入を抑制する障害物を設けてから超臨界二酸化炭素により薬剤を含浸させると、比較例の場合のように、木口からの流体進入を抑制する障害物を設けずに超臨界二酸化炭素により薬剤を含浸させた場合に比べ、より効率的に木材の側面全体に均一に薬剤を含浸させることができることがわかる。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る木材への薬剤含浸方法は、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いて木材への薬剤含浸をするに際し、木材の表面層に均一に薬剤を含浸させることができるので、木材の表面層に防腐剤を含浸させる場合のように木材の表面層に薬剤を含浸させる場合に好適に用いることができて有用である。即ち、木材の木口からの過剰な薬剤の含浸を来すことなく(無駄がなくて効率的に)、木材の表面層に薬剤を含浸させることができ、必要な含浸用薬剤の量の低減がはかれて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】木材への薬剤含浸状態を示す模式図であって、図1の(1) は木材表面層に均一に薬剤が含浸した理想的な薬剤含浸状態、図1の(2) は木材の中央部の側面からの薬剤含浸深さが不十分な薬剤含浸状態、図1の(3) は木材の木口からの薬剤含浸深さが過剰な薬剤含浸状態を示すものである。
【図2】圧力容器内へ木材を収容する際に樹脂を木材の木口に押しつける手段の一例を示す模式図であって、図2の(A) は圧力容器内への木材収容の途中の段階の状態(一方の木口に樹脂を押しつけた状態)、図2の(B) は圧力容器内への木材収容後の状態(両方の木口に樹脂を押しつけた状態)を示すものである。
【図3】実施例に係る木材への薬剤含浸処理に用いた装置の概要を示す模式図である。
【図4】実施例に係る処理後の木材の薬剤含浸状態を示す断面図であって、薬剤が含浸した部分を黒く塗りつぶして示したものである。
【図5】比較例に係る処理後の木材の薬剤含浸状態を示す断面図であって、薬剤が含浸した部分を黒く塗りつぶして示したものである。
【符号の説明】
【0063】
1-- CO2ボンベ、2--薬液タンク、3-- CO2ポンプ、4--薬液ポンプ、5--高圧容器、6--試験片(木材)、7--圧力調整バルブ、8--ヒータまたは恒温槽、
4A--圧力容器、5A--木材、6A--圧力容器のふた、7A--バネ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸方法において、木材の木口が障害物によって覆われており、これにより木材の木口からの薬剤の進入を抑制しながら、木材の側面から薬剤を含浸させることを特徴とする木材への薬剤含浸方法。
【請求項2】
前記障害物が、硬化した後に超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶となる樹脂または接着剤を木材の木口に塗った後に硬化させることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項3】
前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な材料を硬化性の接着剤によって木材の木口に貼り付けることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項4】
前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を木材の木口に押しつけることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項5】
前記障害物が、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものを、その樹脂面側を木材の木口との接触面として木材の木口に押しつけることによって形成されている請求項1記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項6】
超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素中に薬剤を混合したあとで、この二酸化炭素の圧力をより高い圧力に変化させる請求項1〜5のいずれかに記載の木材への薬剤含浸方法。
【請求項7】
超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を用いた木材への薬剤含浸をさせるための木材への薬剤含浸装置であって、圧力容器と、この圧力容器内に二酸化炭素を導入する手段と、この圧力容器内に薬剤を導入する手段と、この圧力容器内の圧力および温度を調整する手段とを有し、この圧力容器内に木材の木口が障害物によって覆われた状態で木材が収容されていることを特徴とする木材への薬剤含浸装置。
【請求項8】
前記木材の一端側の木口と他端側の木口のそれぞれを覆う障害物が超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂板からなり、この両障害物の中、少なくとも一端側の木口を覆う障害物と圧力容器の内壁との間に弾性体が挿入され、この弾性体の弾性圧によって前記両障害物が木材の木口に押しつけられている請求項7記載の木材への薬剤含浸装置。
【請求項9】
前記両障害物の中の1種以上を、前記樹脂板に代えて、超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な樹脂を超臨界状態および亜臨界状態の二酸化炭素に不溶な接着剤によって金属板に貼り付けたものとすると共に、その樹脂面側を木材の木口との接触面としている請求項8記載の木材への薬剤含浸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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