説明

木材保存処理方法

【課題】 安全性は高いが木材保存剤として製剤化して木材に適用することが非常に困難であった2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールを、確実に木材に付与することができる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 炭素数10〜28の脂肪酸と2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールとの混合溶液で木材を処理することを特徴とする木材保存処理方法により、上記課題を解決する。2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールが有する木材保存効果を十分に発揮させることができるとともに、木材に寸法安定性および撥水性を付与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木材保存処理方法に関する。さらに詳しくは、安全性の高い木材保存剤である2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールを木材に付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は軽量でありながら強度が大きく、加工が容易で、人体にやさしいなど、その優れた特質により様々な分野で重用されている。しかしながら、生物系材料であるために避けられない幾つかの欠点、すなわち燃え易い、寸法が狂い易い、腐り易い、虫に食われ易い、変色し易い、割れ易いなどの性質を併せもっている。これらの欠点、特に木材腐朽菌による腐朽やシロアリなどによる虫害を防ぐことは、木材の供用期間の延長や木材製品の信頼性向上のために必要不可欠であり、これらの欠点が克服されれば、資源としての木材をより一層有効に利用でき、ひいては地球環境の保全に大きく寄与できる。
【0003】
このような点に鑑み、木材腐朽菌、虫害およびかびを防除する防腐剤、防蟻剤および防かび剤などの種々の薬剤が提案され、実用化されており、近年は特に、安全性の高い薬剤が望まれている。2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾール(以下、「TBZ」という。)は、木材保存剤として知られており、木材保存剤以外の用途でも、防かび剤として塗料、合成樹脂、紙製品に使用されたり、農薬、動物用駆虫薬、柑橘類やバナナの防かび目的で使用する食品添加物としても知られ、アレルギー性も特になく安全性の高い化合物である(非特許文献1)。しかしながら、TBZは水に対する溶解度が0.003%(室温)であり、アセトン、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒にも難溶であることから、木材保存剤として製剤化することが非常に困難であった。
【0004】
一方、炭素数が6〜12の脂肪酸のうちの少なくとも1種を有効成分とする木材害虫防除剤(特許文献1)が提案されている。しかしながら、木材にTBZを付与するにあたり炭素数10〜28の脂肪酸を媒体とすることは知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−67607号公報
【非特許文献1】防菌防黴剤事典、日本防菌防黴学会、1986年8月22日、第1版第1刷、155頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、安全性は高いが木材保存剤として製剤化して木材に適用することが非常に困難であったTBZを、確実に木材に付与することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の発明者らは鋭意研究した結果、木材にTBZを付与するにあたり、炭素数10〜28の脂肪酸を媒体とすることでTBZを確実に木材に付与でき、TBZが有する木材保存効果を十分に発揮させることができることを見出した。さらに、炭素数10〜28の脂肪酸とTBZとの混合溶液で木材を処理することによって、木材に寸法安定性、撥水性も付与できる事実を見出し、この発明を完成するに到った。
【0008】
かくしてこの発明によれば、炭素数10〜28の脂肪酸とTBZとの混合溶液で木材を処理することを特徴とする木材保存処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
この発明の木材保存処理方法によって、安全性の高い木材保存剤として公知であるが、製剤化が困難であるために木材に適用されることが少なかったTBZを、確実に木材に付与することができ、TBZが有する木材保存効果を十分に発揮させることができる。さらに、木材に寸法安定性および撥水性を付与できることから、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明において、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾール(TBZ)は、木材保存剤として市販されているものを好適に用いることができる。
【0011】
またこの発明において、炭素数10〜28の脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、飽和脂肪酸を用いるのが好ましい。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などが挙げられ、いずれも市販のものを好適に用いることができる。このうち、安全性および取扱性の点からステアリン酸を用いるのが好ましい。
【0012】
この発明において、炭素数10〜28の脂肪酸とTBZとの混合溶液で木材を処理する方法としては、木材処理用の減圧・加圧可能な注入缶、薬液貯蔵・回収用タンクおよびこれらを接続する配管から構成される木材注入処理系内で、木材を常法により処理する方法や、塗布、浸漬、噴霧などの通常の木材処理方法を適用することができる。処理時間は、 処理方法に応じて適宜決定すればよく、加圧注入処理を行なう場合は短くすることができる。
【0013】
また、炭素数10〜28の脂肪酸とTBZとの混合溶液を調製する際に、脂肪酸を30〜200℃、好ましくは60〜150℃に加温するのが好ましい実施態様である。特に、常温で固体の脂肪酸を使用して混合溶液を調製する場合には、加温する必要が生じる。加温する場合の温度設定については、脂肪酸とTBZとの混合溶液を木材に加圧注入処理する場合には低くすることができるので、使用する脂肪酸の融点および処理方法に応じて、適宜設定すればよい。
【0014】
この発明において、木材に注入されるべきTBZの量は、処理される木材の種類や用途、形状によっても左右されるが、通常、木材1m当たり、約0.1〜1kgである。また、混合溶液中のTBZの濃度は0.001〜1重量%とすると都合がよい。
【0015】
この発明の方法においては、炭素数10〜28の脂肪酸およびTBZの混合溶液に、さらに既存の木材防腐・防蟻・防カビ剤、顔料、各種染料、紫外線吸収剤を混合して木材を処理することもできる。混合できる木材防腐剤としては、例えばヒノキチオール(別名:β−ツヤプリシン)、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン、β−ドラブリン、ノートカチンなどのトロポロン系化合物、4−クロルフェニル−3−ヨードプロパギルフォルマール、3−エトキシカルビニルオキシ−1−ブロム−1,2−ヨードプロペン、3−ヨード−2−ユーピロベニルブチルカーバメートなどの有機ヨード系化合物類、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛などのナフテン酸金属塩類、N−ニトロン−シクロヘキシルヒドロキシルアミンアルミニウムなどのヒドロキシルアミン系化合物類、モノクロルナフタリンなどのナフタリン系化合物類、N−メトキシ−N−シクロヘキシル−4−(2,5−ジメイルフラン)カルバリニドなどのアニリド系化合物類、N,N−ジメチル−N’−フェニル−N’(ジクロフルオロメチルチオ)スルファミドなどのハロアルキルチオ系化合物類、テトラクロルイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物類、クレオソート油などのタール系化合物類、ジニトロフェノール、ジニトロクレゾール、クロロニトロフェノール、2,5−ジクロロ−4−ブロモフェノールなどのフェノール類、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、N−アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩類、ホルマリン、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、TBTO、トリブチルスズフタレートなどの有機スズ類、エタノール、イソプロパノール、プロパノールなどのアルコール類、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、またはそれらの金属塩などのイソチアゾロン系化合物類、その他パーメスリン、テブコナゾール、シプロコナゾール、プロピコナゾール、アザコナゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどの有機化合物類、ヒ素化合物、五酸化二ヒ素、ヒ酸水素ナトリウム、ヒ酸、クロム化合物、三酸化クロム、二クロム酸カリウム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸アンモニウム、銅化合物、酸化第二銅、硫酸銅、硝酸銀、ふっ化ナトリウム、けいふっ化銅、けいふっ化亜鉛、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、酸化アンチモンなどの無機化合物類などが挙げられる。
【0016】
また、混合できる木材防蟻剤としては、例えばヒノキチオールなどのトロポロン系化合物、ヒバ油、中性ヒバ油などの精油、デカン酸などのアルキルカルボン酸誘導体、デカン酸などを含むヤシ油誘導体、ホキシム、クロルホピリス、ピリダフェンチオン、テトラクロルビンホス、フェニトロチオン、プロペンタンホスなどの有機リン系化合物類、ペルメトリン、トラロメスリン、アレスリンなどのピレスロイド系化合物類、シラフルオフェン、エントフェンブロックスなどのピレスロイド様化合物類、プロボクサル、バッサなどのカーバメート系化合物類、トリプロピルイソシアヌレートなどのトリアジン系化合物類、モノクロルナフタリンなどのナフタリン系化合物類、オクタクロロジプロピルエーテルなどの塩素化ジアルキルエーテル添加系化合物類、イミダクロプリドなどのクロルニコチニル化合物類などが挙げられる。
【0017】
混合できる顔料としては、例えばイエローオーカー、バーントシェンナ、ラピスラズリ、珊瑚末などの天然無機顔料、コバルトブルー、ビリジャン、カドミウムイエロー、ウルトラマリーン、ミネラルバイオレット、シルバーホワイト、金粉、アイボリーブラック、プルシャンブルーなどの合成無機顔料、マダーレーキ、コチニール、ビチューメンなどの天然有機顔料、アリザリンレーキ、レーキレッドC、ファーストイエロー、クロモフタルイエロー、ニッケルアゾイエロー、フタロシアニンブルー、チオインジゴ、蛍光顔料などの合成有機顔料が挙げられる。
【0018】
また、混合できる紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系などが挙げられる。
【0019】
また、この発明の方法は、一般に建築用、土木工事用、および紙・パルプなど工業製品製造用繊維原料用の木材を処理対象とするが、特に環境、種々の条件などにより木材腐朽菌が発生しやすいアカマツ、スギおよびブナなどに好適に用いることができる。
【0020】
この発明の方法は、木材に寸法安定性および撥水性を付与することができるが、処理された木材を、浸透性・造膜性を有する硬化型合成樹脂塗料でさらに全面塗装処理すれば、処理済みの木材を屋外で使用してもTBZの揮発や溶脱が抑制されて木材保存効果がより一層補強され、屋外での長期使用にも十分耐え得る性能を付与することができる。そのような硬化型合成樹脂塗料としては、例えばポリウレタン樹脂塗料などが挙げられる。
【実施例】
【0021】
この発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
試験例1(TBZ溶解試験)
ステアリン酸およびステアリルアルコールに対するTBZの溶解試験を行なった。すなわち、容量100mlのスクリュー缶に、ステアリン酸あるいはステアリルアルコールを入れ、さらにTBZを所定の濃度になるように添加し、105℃に設定した送風乾燥機内に15時間静置した後、外観を観察した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
試験例2(木材注入試験)
105℃で絶乾したスギ丸棒(直径100mm、長さ200mm、両木口をエポキシ樹脂でシール加工したもの)を試験木材とし、質量(A)を測定した。この試験木材を脱イオン水に浸漬し、前排気0.08MPa(30分間)→加圧0.98MPa(120分間)→後排気0.08MPa(30分間)の加圧注入処理を行ない、処理後の試験木材の質量(B)を測定した。さらに、ステアリン酸とTBZとの混合溶液(TBZの濃度:1重量%)を各供試温度に保ちながら、試験木材を120分間混合溶液に浸漬した後、105℃で絶乾し、質量(C)を測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果より、ステアリン酸を媒体とすることによって、TBZを木材に付与できていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜28の脂肪酸と2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールとの混合溶液で木材を処理することを特徴とする木材保存処理方法。
【請求項2】
炭素数10〜28の脂肪酸と2−(4−チアゾリル)−1H−ベンズイミダゾールとを混合するにあたり、30〜200℃に加温することを特徴とする請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
炭素数10〜28の脂肪酸がステアリン酸である請求項1または2に記載の処理方法。

【公開番号】特開2008−265202(P2008−265202A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113207(P2007−113207)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】