説明

木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラム

【課題】自然材を用いることなしに自然性に富む木目柄を得ることにある。
【解決手段】コンピュータに樹木の生長に関する条件を与えて、そのコンピュータ内で、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成し、その樹木モデルを任意の面で切断して、その樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄とすることを特徴とする木目柄の創成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木目柄を人工的に創生する方法および装置、並びにその装置に用いられるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然物の中でも、木材は我々に最も身近な素材の一つであり、その木目柄は、人に安らぎや暖かな柔らかい印象を与えるため、建築物、家具、インテリア製品、住宅や自動車の内装等、工業製品の意匠要素として幅広く用いられている。木目柄を意匠要素に用いる最も基本的な方法は、天然無垢材を製品に加工し、その木目を生かすことであるが、これでは使用する木材に相応のコストがかかってしまい、自然環境の保護の面からも問題がある。
【0003】
そこで自然材の木目柄を写真、スキャナー等により画像データ化し、これらをもとに画像処理をした後、印刷原稿として化工紙、フィルム等に印刷したものを、合板、チップ加工版等に貼付して建築材料等とすることが一般的となっている。この方法では、画像取得、画像処理等の段階でデザイン性を高め、当初の木目柄よりも多様性に富む模様とされている。このようにして意匠性を高めた木目柄は、建築材料に止まらず、家電、パソコン、IT機器の電機製品、二輪車、自動車、電車等の交通手段の加飾に、各種木材種の木目柄として用いられているが、これらもあくまで自然木に由来した木目柄が原点となっている。
【0004】
ところで近来の環境問題の顕在化により、自然材から得た木目柄の使用は困難の度が増し、その使用を極力避けるようになっている。このため新たな動向として、コンピュータ内での図形処理により、先ず、図1に示すように、垂直方向から見ると同心状に直径が異なる円筒を順次入れ込んだ形で年輪をシミュレーションした樹木モデルを構築し、この樹木モデルからさらに切断面の模様を求めることで、コンピュータ内創成によって所望の木目柄を得る手法が提案されている(特許文献1参照)。この創成過程では、年輪の変化に自然性を与えるためにフラクタル技術、自然性の周波数特性、有皺特性の皺状切断面による不規則性付与等が用いられている。
【0005】
コンピュータ内で意匠性の柄模様を創成する試みは、上記の木目柄の例に止まらず、本発明者等も、図2に概念図で示すように、フラクタル技術およびこれを用いた枝構造を基本としてコンピュータ内でシボを創成、シミュレーションする手法を開発している(非特許文献1参照)。この手法では、フラクタルを利用した基本枝構造の生成から、重ねあわせ、結合を進めて、自然性に富むシボの創成を試みている。
【特許文献1】特開平8−16794号公報
【非特許文献1】中塚暁志、青山英樹、印象の定量的制御を可能とするシボデザインシステムの開発、精密工学会春季大会後援論文集、2007-03
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの手法を用いて作成された柄模様の実用への展開は、これまでのところ知られていない。コンピュータ内での木目柄創成については上記の経緯があるが、円筒形状を木目と想定する制約のため、自然環境を反映した自然材の木目のような木目柄の創成は、不規則性を導入しても困難というのが実態であった。一方、シボ柄模様創成の場合は、枝構造および枝展開のパラメータ値を対話的に選択し、これを元としてコンピュータ内で模様を創成することにより、無限の柄模様展開を示すことが可能である。
【0007】
そこで本発明者は、当初の想定のように自然由来の木目柄を模倣する創成を行うのでなく、上記シボ模様の場合に鑑みて全く発想を転換し、コンピュータ内のソフトウェアに樹木の生長に関する条件を与え、そのコンピュータ内のソフトウェアで樹木の生成をシミュレートして自然性に富む樹木モデルを育成し、その樹木モデルから木目柄を切り出すという方向性に想い到り、本発明を為すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の木目柄の創成方法は、コンピュータに樹木の生長に関する条件を与えて、そのコンピュータ内で、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成し、その樹木モデルを任意の面で切断して、その樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄とすることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の木目柄の創成装置は、コンピュータにより構成される装置であって、樹木の生長に関する条件を与えられて、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成する樹木モデル生成手段と、前記樹木モデルを指示された面で切断する樹木モデル切断手段と、前記樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄として出力する木目柄出力手段と、を具えることを特徴とするものである。
【0010】
そして、本発明の木目柄の創成装置に用いられるプログラムは、前記コンピュータを、樹木の生長に関する条件を与えられて、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成する樹木モデル生成手段、前記樹木モデルを指示された面で切断する樹木モデル切断手段および、前記樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄として出力する木目柄出力手段として作動させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
かかる本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムによれば、コンピュータ内で、与えられた樹木の生長に関する条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成することから、その樹木モデルの内部構造は自然な樹木の内部構造に近い、自然性に富むものとなるので、その樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄とすることで、自然材を用いることなしに自然性に富む木目柄を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】コンピュータ内での図形処理により樹木モデルを構築する従来の方法を例示する説明図である。
【図2】(a)〜(d)は、コンピュータ内での図形処理によりジボを創成する従来の方法を例示する説明図である。
【図3】自然木の樹幹の構造を示す説明図である。
【図4】実際のズギの樹幹断面を示す写真である。
【図5】(a),(b),(c)は、光合成速度と照度、土壌含水率、温度との関係をそれぞれ示す関係線図である。
【図6】世界の主要な群系と気候との関係を示す説明図である。
【図7】群系分布を簡略に示す説明図である。
【図8】本発明の一実施例の木目柄の創成方法における樹幹生長シミュレーションの流れを示す説明図である。
【図9】上記実施例の木目柄の創成方法における生長期間の計算方法を示す説明図である。
【図9−1】スギの胸高直径の成長曲線である。
【図9−2】本発明の一実施例の木目柄の創成方法における、生産炭水化物量のうち肥大成長に炭水化物量の比率を表す図である。
【図10】(a),(b)は、自然木のアカマツとミズナラのあて材の切断面をそれぞれ示す写真である
【図11】傾斜地の樹幹にかかる重力成分を示す説明図である。
【図12】傾斜方向からの角度設定を示す説明図である。
【図13】偏心肥大成長率の特性を示す関係線図である。
【図14】偏心樹幹の構造を模式的に示す説明図である。
【図15】上記実施例の木目柄の創成方法における生育条件設定モジュールの概念を示す説明図である。
【図16】上記実施例の木目柄の創成方法における樹幹内部の座標軸設定を示す説明図である。
【図17】自然木としての杉の伐採材を示す写真である。
【図18】(a),(b)は、上記実施例の木目柄の創成方法に用いる心材・辺材、早材・晩材の着色アルゴリズムをそれぞれ示す説明図である。
【図19】上記実施例の木目柄の創成方法を実施するコンピュータ内の樹木生長シミュレーションプログラムの全体構成を示す構成図である。
【図20】(a),(b)は、上記実施例の方法で創生した樹木モデルの樹齢の違いを示す説明図であり、東京で傾斜なしで1950年から生長したとの条件で、(a)は25年後、(b)は50年後をそれぞれ示す。
【図21】(a),(b)は、上記実施例の方法で創生した樹木モデルの生育地の違いを示す説明図であり、傾斜なしで1950年から50年生長したとの条件で、(a)は東京、(b)は札幌のものをそれぞれ示す。
【図22】(a),(b)は、上記実施例の方法で創生した樹木モデルの傾斜の違いを示す説明図であり、東京で1950年から50年生長したとの条件で、(a)は傾斜30度、(b)は傾斜60度のものをそれぞれ示す。
【図23】(a),(b)は、上記実施例の方法で創生した樹木モデルの切断面による木目柄の違いを示す説明図であり、 (a)は直交方向切断面での切断、(b)は斜交方向切断面での切断によるものをそれぞれ示す。
【図24】上記実施例の木目柄の創成方法に用い得る肥大と伸長とを組み合わせた樹木モデルの縦断面を示す概念図である。
【図24−1】本発明の一実施例の木目柄創成方法による、ポプラの例における直径ごとの、樹高を表す図である。
【図25】一般の樹齢と樹高との関係を示す関係線図である。
【図26】(a),(b)は、上記実施例の木目柄の創成方法に用い得る枝を組み合わせた樹木モデルの二種類の縦断面をそれぞれ示す説明図である。
【図27】上記枝を組み合わせた樹木モデルを切断した節を持つ木目柄を示す説明図である。
【図28】上記実施例の木目柄の創成方法で樹木モデルを生成するシミュレーション処理を示すフローチャートである。
【図29】上記実施例の木目柄の創成方法を実施するコンピュータ内の樹木生長シミュレーションプログラムのうちの樹幹モデル構築モジュールの機能を示すフローチャートである。
【図30】上記実施例の木目柄の創成方法を実施するコンピュータ内の樹木生長シミュレーションプログラムのうちの表示・操作モジュールの機能を示すフローチャートである。
【図31】上記表示・操作モジュールによる木目柄生成の手順を示すフローチャートである。
【図32】樹幹の切断面の相違を示す説明図である。
【図33】(a),(b)は、自然木の、図32に示す二種類の切断面での木目柄を示す写真であり、(a)は柾目、(b)は板目をそれぞれ示す。
【図34】(a),(b)は、上記実施例の木目柄の創成方法で創生した、図32に示す二種類の切断面での木目柄を示す断面図であり、(a)は柾目、(b)は板目をそれぞれ示す。
【図35】(a)〜(f)は、上記実施例の木目柄の創成方法で創生した偏心肥大した針葉樹と広葉樹との樹幹モデルの切断面での木目柄を、それぞれ切断面の位置を変えて三種類示す断面図であり、(a)は針葉樹偏心肥大1、(b)は針葉樹偏心肥大2、(c)は針葉樹偏心肥大3、(d)は広葉樹偏心肥大1、(e)は広葉樹偏心肥大2、(f)は広葉樹偏心肥大3をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。本発明の木目柄の創成方法の以下の実施例は、通常のコンピュータをプログラム(ソフトウェア)によって動作させることで実行するものであり、その特徴は以下の通りである。
【0014】
[自然環境を考慮した樹木モデル生育]
本実施例の方法は、気温、降水量、受光量等の自然環境によって樹木が伸長生長、肥大生長するモデルを想定し、この生長過程に、年輪径を決める関係式、降水量、気温、日照時間を基とした光合成モデルにより生成される炭水化物量によって各年輪構断面積を決める関係式、年輪の着色関数等を導入して、生長する樹木モデルをコンピュータ内で生成し、それと同時に木目の生育を可能としている。そしてそのモデル構築に関連して、地面の傾斜により生じるあて材を針葉樹、広葉樹に分けてシミュレーションすること、枝分かれ、節の追加等による偏心肥大および、木目の変化を考慮することを可能としている。
【0015】
[樹木モデルの断面表示法]
本実施例の方法は、上述のように樹木モデルの断面内に年輪が育成されることを示す一方、平面のみならず球面その他の多様な曲面を用いて物体の3次元モデルを切断してその切断面を表示することを可能とするプログラム(ソフトウェア)を利用して、樹木モデルを任意の形状や向きの面で切断した時に示される木目柄模様をシミュレーション的に自在に示すことを可能としている。これによって、従来自然材の木目に依存して作成されていた建築材料用木目柄をコンピュータ内で創成することを可能としている。
【0016】
[断面表示法の自然樹木選定への効用]
本実施例の方法は上記のように、コンピュータ内で樹木モデルを生長させ、これを基に切断面作成ソフトウェアを用いて樹木モデルの切断面を作り、木目柄を創成する新たな手法を提示した。これにより、自然性を考慮した上で、コンピュータ内創成の特徴を発揮した木目柄創成を可能とする新たな機会を開拓した。この手法はコンピュータ内で操作が可能なシミュレーション手法であり、当該樹木モデルを対象に、切断面をどのようにも可視化することが可能である。従来、所与の木材から建築材料に適した木目柄を得ることは、木材の購入に始まり、切断面を何れに入れるかに至るまで、経験豊富な目利きの判断に頼っていた。また、装飾性を持つ木材種の選択には、木目柄の選択以前に適切な木材そのものを選択すること自体に経験を要していた。木目柄の選択には、木材種そのものの選択のみならず、外観から木目柄採取断面を想定して選択することが求められており、それには豊富な経験と才覚が求められていた。
【0017】
かかる従来の方法では、如何に目利きであろうと、実際に切断面を出してみて初めてその評価が可能となるのであり、実行してみて始めて結果が出る難しさを伴っていた。しかしながら本実施例の方法は、実在の樹木に対応できる樹木モデルの構成によって切断面の入れ方を多様に試行して最適な切断面の見当をつけることが可能であるので、自然材から木目柄を得る目利きの人に対しても判断の支援ができる手法を提示している。また、貴重な樹木資源を有効に生かすことにも寄与する。
【0018】
上述のように本実施例の方法によれば、木目柄を採取する目的をもって、樹木モデルをコンピュータ内で生長させる手法を示し、その後に、これに切断面を入れるソフトウェアを用いて木目柄を表示し、その結果に基づき、木目柄として適切な切断面を構成する過程を示した。本実施例の方法では切断面を求めるソフトウェアとして、3次元グラフィックスライブラリOpenGLを用い、C言語で木目切断面を多様に示せるソフトウェアを開発した。但し、通常のCAD(コンピュータ支援設計)ソフトウェアの同様の切断面表示機能を用いても良い。本実施例の方法は、全く独自の木目柄創成を可能とし、建築材料をはじめ、自動車、電気製品、通信機器の加飾に新たな展開を可能とした。
【0019】
[自然性由来の木目柄創成]
これまでの経過を考慮すると、コンピュータ内の創成でありながら感性に訴え評価される美観を備えた木目柄を創出できるようにすることは、大きな期待がある。また、建築材料用の木目柄の加飾がコンピュータ内の創成で可能になれば、意匠創案者が関わって装飾への多様な美観の付与が可能なこともさることながら、印刷技術の適用によって自然木材の利用を回避し、自然環境の保全にも寄与することができる。従って本実施例の方法は、環境保全の効用の促進にもつながる。
【0020】
[樹木生長に関する諸因子]
図3は、自然木の年輪を観察できる断面の構造を示す説明図である。心材は、生活細胞が死細胞化して成分が変わり、濃色に着色している。形成層では内側に向かって、各年の生育期間内で、生長が活発化して生成される早材部と生長が休止に向かう時期に生成される晩材部とが生じ、これらが年輪として観察される。本実施例の方法は、辺材および心材の生育過程のシミュレーションと着色手法の手法について構築する。図4は、スギの樹幹における実際の年輪の例を示す写真である。
【0021】
本実施例の方法では、年輪の生長とそれに伴う樹幹の生長並びにその着色、特に早材部および晩材部の着色、そして傾斜地では重力の影響による植物ホルモンの供給に影響されて偏心生長が生じ「あて材」と称される樹幹形状の偏在生長が生じることについて、モデルを提示している。年輪の成長では、光合成による炭水化物生成量が生長に影響することを基礎とし、光合成速度が日照、降雨量、温度により影響されること、各要因の基となる気象変化については、所轄部局の観測データを用いること、そして世界的な気候区分に基づく植物群系に基づきこれらの要因が変化することをパラメータとして、樹幹生長モデル(樹木モデル)を構築している。
【0022】
[自然環境条件付与による樹木生長シミュレーション]
樹木木目柄は、柾目、板目の断面に示されるように、年輪をもとに構成されているとしてよい。ここで年輪の生育は、樹木径が1年毎に幹径方向に肥大生長して実現されるといえる。これは肥大生長と呼ばれる。この肥大生長は(A)幹径肥大モデル、(B)光合成モデル、(C)偏心肥大モデルの3要素に基づいて表現できる。
【0023】
(A) 幹径肥大モデル
幹径の肥大成長は毎年付け加わる年輪の断面積が一定とできる特性となっており、年毎の増加は等差数列とできる。すなわち、
n年目の断面積をSn
n年目の樹幹半径をRn
1年間の肥大量をdS
とすると、dSは光合成によって生産される炭水化物量に依存して決まっているとされている。
その際、Sn, Rn, dSの間には、
Sn=S1+(n−1)dS ・・・(1)
Sn=πRn2 ・・・(2)
として、


という関係がある。
【0024】
(B) 光合成モデル
(A)に示した年輪の断面積増加量は、光合成によって生産される炭水化物量に依存するとされている。その際、光合成速度に影響を及ぼす要因には、光、水分、温度、CO2濃度、無機養分、葉齢、風等が挙げられる。この実施例では主要な要因として、光、水分、温度に注目し、モデル化をしている。図5は上記の3要因の影響を示す関係である。木材種により部分的に例外的な特性を示す例もあるが、主要な部分でそれぞれに特徴的な性質を示しているのがわかる。図5(a)は日射量、日照時間に依存し、照度との関係、図5(b)は降水量に依存し、土壌含水率との関係、図5(c)は平均気温に依存する関係である。
【0025】
(B1) 照度に対する光合成速度
図5(a) の関係、すなわち横軸照度(Klx)に対するn年目、m月の光合成の速度PRinsolnmは、

として表され、図中では赤線の特性で纏められる。ここでLnm

であり、定数A,Bは樹種固有のパラメータである。n年目m月の平均照度Lnmは、


により与えられる。照度の単位ルクス(lx) は可視光スペクトルの中間波長555 nmでは、1lxが1.46 mW/mm2に等しい。ワットはジュール毎秒(J/s) であり、日射量(MJ/m2)と日照時間(h) を用いて平均照度(Klx) が求められる。
【0026】
(B2) 降水量に対する光合成速度
図5(b) に示す水含有量に対するn年目m月の光合成の速度PRrainnmは、定数A,B,Cを樹種固有のパラメータとして、

ここで、図5(b)の横軸は土壌含水率であり、

と求められる。土壌水分には、降水量に加えて土壌保水力が大きく関係しており、これを考慮することが必要である。土壌含水率Wは簡単化して降水量に比例するとすると、n年目m月のWnmは、
Wnm=Dαnm ・・・(8)

と与えられる。定数Dは土壌保水力に関するパラメータであり、生育地の土壌固有に決められる。図中太線は、ロジスティック曲線(篠崎吉郎:生命の数理 生長の理論,別冊数理科学,Vol.1994,No.Oct.(1994),pp.19-27参照)を参考に、ヒノキ、スギについて、定式化している。
【0027】
(B3) 温度に対する光合成速度
生長に関する温度には、最低限界温度、最適温度、最高限界温度が主要なパラメータとして作用している。図5(c)はその特性を示すが、光合成速度が0となる温度を最低限界温度Tmin、特性を2次関数とみなして最大値を示す温度が最高限界温度Tmaxとして、定式化を行って特性曲線としている。これに基づき、n年目m月の温度と光合成速度の関係PRtempnmは、


と与えることができる。上記で、光合成速度に対する温度パラメータについては、以下の表1に示す諸数値を参考としている。
【0028】
【表1】

【0029】
(B4) 相乗効果
以上に光合成速度に関する3個の要因を示したが、これらの相互の関係の詳細が明らかにされているわけではない。しかし、何れか1個の機能が欠けても、光合成は正常には行われない。従って、3要因の影響による光合成速度は、上記の式(4),(6),(9)の積により効果がもたらされるとできる。一方、これらの要因の影響は対等ではなく、特に降水量の影響は他の2要因よりも強い効果があるとされている。そこで、降水量、気温、日射量がA:B:Cの割合で影響がある場合に対し、n年目m月の総合PRnm

により求めている。ここで、定数A,B,Cは各要因の光合成に対する影響率に関するパラメータである。
【0030】
[植物群系による区分]
上記には、樹木生長に関して関連するパラメータを特定し、モデルを設定した。植物種は気候条件によって植生が変化し、地域に適した群落となっており、これは植物群系と称されている。その内容を見ると、落葉針葉樹、常緑針葉樹、落葉広葉樹、照葉樹、熱帯雨林等と細かく群系に分かれている。その整理には、年平均降水量、年平均気温が要因とされることは、上述のモデル構築のパラメータに見たとおりである。図6には群系と気候の関係について整理の一例を示す。
【0031】
本実施例の方法がこれらを考慮して植物群系の判別をするに際しては、温量指数、乾湿指数に基づく判別を用いている。その場合に、温量指数をWI、乾湿指数をKとしてそれぞれ、

として与え、これらは生育地の気象データによりWI、Kを求めた後、図7により判別している(http://www.suiri.tsukuba.ac.jp/~tyam/physgeo/vgeo.pdf参照)。
【0032】
[生長のシミュレーション]
幹径方向の肥大生長に関して、基本的には毎年付け加わる新しい木材の断面積が一定であり、これが等差数列で表されること、光合成速度が密接に関係し、光量、水分、温度が主要な因子とできること、光量に関しては照度、水分に関しては、土壌含水率が関与することとして、これらの関係について記してきた。
【0033】
樹木年輪を作る形成層の活動は、温度低下の期間には休眠する。これを考慮して、当該年の生長期間は毎月の気温、日照時間によって決定している。樹幹の成長量は光合成速度から決まる当該年の炭水化物量に加えて、樹木内の貯蔵物質も関わるため、前年の炭水化物量を基に貯蔵炭水化物量を求めている。また、光合成速度は、生長期間中の日射量、日照時間、降水量、気温から求めている。上記の過程を基に、前年の貯蔵炭水化物量と当該年の炭水化物量によって、当該年の肥大生長量を決め、樹幹半径を求めている。さらに樹幹半径を用いて当該年の肥大生長率を導出する。この繰返しを全ての年の生育期間について行うことで樹幹の生育をシミュレーションすることが可能となる。
【0034】
この樹幹の生育をシミュレーションする要素とこれに基づく計算の流れとを図8にフローチャートで示している。生育は、図7に示す群系と図6および表1に示す気候データとを基に計算される。肥大生長量計算、樹幹半径計算の要因とこれを支配するパラメータについては、既に記してきたとおりである。図8では傾斜データの項がある。これについても以下に記述する。また、生長期間計算、炭水化物量計算については、これらを踏まえて以下に記す。
【0035】
(A) 生長期間の経過の反映
図9は年間の生育期間を考えた時に生育が活発な期間、鈍化する期間、休眠する期間を模式的に示している。これによって、樹幹組織は、発育、鈍化、休止を繰り返し、断面で見れば、図9中の下図に示したように、材質はこの循環に粗密となる。また発育、鈍化の期間に対して、早材、晩材と称されている。
【0036】
温度は形成層活動の開始、初期の形成層活動を活発にする要因であり、日長は早材から晩材への移行、形成層活動の休止を支配する因子となる。この特性に基づいてn年目の各月に日平均気温により、生長開始月Smonを決め、各月の日照時間より晩材への移行月Lmon、生長終了月Fmonを決定する。生長開始温度、晩材移行日照時間、生長終終了日照時間は樹種固有のパラメータである。これらのパラメータから、n年目の早材形成期間と晩材形成期間が求められる。早材形成期間Eperiod、晩材形成期間をLperiodとおくとn年目の晩材比Lraten

と表される。
【0037】
(B) 炭水化物量の導出
炭水化物は光合成で生産されるため、式(10)で求めたPRを用いて計算する。ここで、n年目m月に生産される炭水化物をCCnmとすると、CCMAXを最適環境で生産される1ヶ月の炭水化物量として

と表される。これは、樹種に固有に求められる光合成能力を示すパラメータである。晩材形成期間では、翌年への炭水化物の貯蔵を行うため、晩材移行月から生長終了月の炭水化物量CC’ nm は次式で求める。

定数Aは貯蔵率であり、樹種固有パラメータとする。
これらより、n年目に生産される総生産炭水化物量は次式で求められる。

【0038】
これらに対して、n年目m月の貯蔵炭水化物量SCC nmは、

と求められる。これより、n年目の総貯蔵炭水化物量は

により与えられ、これは翌年の生長に用いられる量となる。
以上から、n年目に生長に用いられる炭水化物量CCCnは、総消費炭水化物量をCCCnとして

により導出される。
【0039】
[肥大生長量]
式(1)に関して記した1年間の肥大量dSは断面積増加量でもあり、肥大生長量に当たっている。n年目の肥大生長量dSnは式(18) で求めた総消費炭水化物量を用いて、以下のように求められる。

ここでdSMAXは最適環境に於ける肥大生長量(最大肥大生長量)であり、樹種固有のパラメータである。また、CCCnMAXはn年目の最高総消費炭水化物量であり、式(13) で考えた早材形成期間Eperiodn, 晩材形成期間Lperiodnを用い、以下により求められる。

【0040】
[生産炭水化物分配率]
また、前述のように樹木の成長量は光合成により生産された炭水化物により大きな影響を受ける。しかし樹木の生長を見ると、発芽から3年程度の若い時期はあまり肥大成長が行われない。これは光合成により生産された炭水化物が、樹齢が若いほど、肥大成長よりも発芽や根、葉などの成長に多く割り当てられるためである。図9−1は実際のスギの胸高直径の成長曲線を表したものであり、発芽からの若い時期の成長速度が鈍く、その後高い成長を見せていることが見て取れる。
生産炭水化物量のうち、肥大成長に割り当てられる炭水化物量の比率CRateは、a、bを樹種による定数、tを年度とした式(20a)のロジスティック関数により算出する。

図9−2は、式(22a)においてa=50、b=1とし、グラフに示したものである。このとき、肥大成長に割り当てられる炭水化物量の比率CRateは、約10年程度で、ほぼ1となる。
【0041】
このように算出した配分比率CRateを、式(19)による1年間の肥大成長量dSの算出に式(20b)のとおり反映させることで、発芽後数年の肥大成長の鈍りを表現することができる。ここでdSmaxは樹種による最大肥大成長量を表している。

【0042】
[樹幹半径導出]
樹幹半径増加量は基本的に等差級数で表されるとした。その場合、初年度からn年目までの肥大生長量を用い、式(3)によりn年目の樹幹半径を計算する。しかし、気候の影響が加わるとその条件は満たされなくなり、以下のように求められる。

ここで、樹種固有のパラメータで、最適環境下に於ける初年度の断面積をSとすると、初年度の断面積S1は、

により与えられる。初年度を別にしているのは、光合成で得た炭水化物が発芽に回っていることを考慮している。
【0043】
[偏心肥大率導出]
(A) 肥大に関わる生長の速度(生長率)と範囲
山林地では樹木は傾斜地に植生しており、そこでは傾斜に起因して肥大生長に
偏心を生じる。また、枝は斜めの生長状態となるが上下方向に偏心して肥大生長する。偏心生長が促進された部分には、図10(a),(b)に示すようなあて材と称される通常でない組織が作られる。これは重力刺激に対する樹木の反応で生じる植物ホルモンの偏りが原因とされている。
n年目の樹幹半径Rn、最終年の樹幹半径RLast、傾斜角φを用い、n年目の生長率Raten、生長範囲Rangenは、定数A,Bを樹種固有のパラメータとして、次式

で求められる。
【0044】
傾斜方向を基軸として、何らかの理由によって基軸から角度変化した方向Directionで偏心が生じ、その周辺に範囲Rangeを持ちながら、正規分布によって生長率Rateが決まる特性で偏心肥大率が決まるとした導出を以下に記す。図11は傾斜地に植生した樹木の樹幹にかかる重力とその成分を記した説明図である。図12はこの方向を基軸として、その周辺角度方向θとする説明図である。図13はθを横軸として生長率の変化を正規分布の確率密度関数として設定したことを示す偏心肥大成長率の特性線図である。
正規分布の確率密度関数f(x)は

と示される。ここでμは分布方向座標値の平均値、σは分布範囲の分散である。偏心肥大率をETとして、θに対するn年目のETnを次式により定式化した。

【0045】
(B) 偏心肥大する樹幹モデル
樹幹モデルは、これまでに記した各種要因とこれらの影響の下で生長した年輪に沿うとする円筒を入れ込んだ形でモデルを構築する。各年の円筒半径は、樹幹年輪の半径に当たり、これまでに示してきた生長にかかわる要因、因子により求められる。図14はその概念を示す模式図である。
角度θに於けるn年目の樹幹半径は、n年目の偏心肥大率を用いて半径方向の生長率の関係により、

で与えるとしている。これにより、初年度から最終年までのすべての全角度の偏心肥大後の樹幹半径を求め、図14に示す形態を求めている。
以上によって、図15のフローチャートに示すように、生育地、樹齢、傾斜情報に対して、群系、生育期間の気象、傾斜に関するデータを基に、樹幹をコンピュータ内で生長させる諸要因を整えることを実現している。
【0046】
(C) 樹幹内部のデータ構築
樹幹の心材・辺材、年輪を生じる早材、晩材に関わる色をRGB値で表現して、樹幹の内部データとする。これによって作成された内部データは、樹幹モデルを任意の断面で切断した時に生成される木目模様表示の基データ、ソリッドテクスチャを構成する。
樹幹モデルに対し、図16のように中心にy軸をおく座標軸を設定し、樹幹モデル内部の任意の点を(i, j, k) とすると、その中心(0, 0, 0)からの距離r、z軸からの角度θは

により求められる。
この幾何学的な関係を基礎に、心材・辺材、早材・晩材の色定義を、桃井の方法に準拠して行った(桃井貞美:枝分かれを考慮した木目の表現手法,情報処理学会論文誌,Vol.35,No.3(1994),pp.461-467参照)。
【0047】
心材は生活細胞が全て死細胞化して成分が変わり、通常、濃色となる。図17は杉の伐採材を示す写真であり、ここでは杉の伐採材が太さを取り混ぜて並んでいるが、太さに拘らず心材が濃くなっていることが見て取れる(朝日新聞夕刊2008年2月4日記事、「1年間に植える木60000本」参照)。これをシミュレーションする一つの手法は上記の桃井によって示されており、本実施例の方法ではこれに準拠する。樹幹の色彩は、図18(a)に示すように、心材域、移行域、辺材域による色変化を想定した着色としている。点(i, j, k) が存在している領域の判別は、

によって行い、着色をしている。偏心肥大生長の場合も、式(27)に基づき、図18(a)の関係を考慮して進めることができる。
【0048】
[早材、晩材の色定義]
年輪は、図18(b)に示すように、1年間の間に早材から晩材への変化が生じ、この晩材混合比率をEとして以下の関係によって求め、これに基づいた色表現、すなわち、

としている。
しかし、桃井の定義法では、年輪間の幅は一定間隔、あるいは、一定の割合の変化とのみとしている。
【0049】
これに対し本実施例の方法では、年輪間隔を反映できる手法としている。
この場合、晩材混合比率Eは、注目点の中心からの距離r、n年目とその翌年の樹幹半径を基に、

と設定した。早材、晩材の比率を調整するパラメータAは生長過程で得られた当該年の晩材比Lratenを用いて、以下の経験式としている。

【0050】
以上に導出した晩材混合比率を用いて色定義を行うことを基本としている。本実施例の方法では、傾斜地に植生している樹幹が偏心生長した結果の樹幹があて材となることも考慮している。そのための色定義を考慮するため、移行域の色定義に偏心肥大率を用いている。その具体化のため、偏心肥大率ETのパラメータRaten,Rangenを色定義に合うように調整したパラメータRaten’,Rangen

で与え、これらを式(26)に用いた偏心肥大率を偏心変色率ET’とした。ここでC,Dは樹種固有のパラメータである。
【0051】
この偏心変色率ET’と晩材混合比率とを用いて以下の色定義をしている。なお、あて材では色変化が異なるため、ここでは針葉樹と広葉樹とを分けて定義している。

これらを樹幹内部の全ての座標(i, j, k) について行い、これらによって樹幹内部の全ての座標(i, j, k)に対し、RGB値による色定義を行い、木目を構成する樹幹内部データとした。
以上によって、コンピュータ内で樹木を育成する諸因子を求めることが可能となった。図19は、これに基づき全体を構成して実行するためのモジュールを示している。すなわち、生育条件設定モジュール1で樹幹モデルの生育条件を設定し、樹幹生長シミュレーションモジュール2で樹幹モデルの生長をシミュレーションし、樹幹モデル構築モジュール3でその成長した樹幹モデルの構造を構築し、そして表示・操作モジュール4でその生長した樹幹モデルおよびその切断面を表示するとともにそれらの表示を利用者が操作可能とする。
【0052】
[生長例]
図20(a),(b)、図21(a),(b)、図22(a),(b)は,生長期間、生長場所、傾斜の違いに対する樹幹生長の例を示している。それぞれの図に、効果が明示された結果が示されている。
【0053】
[切断面取得による木目柄表示手法]
本実施例の方法ではさらに、上記のよって生長させたコンピュータ内生長樹木モデルのデータ構造に対して切断面を作成するソフトウェアを構築し、これによって任意の切断面を作成し、切断面によって異なる木目柄の違いを多様に試行して視覚で把握することを可能としている。
従来は、実際の樹木に対しては経験を踏まえた感覚によって切断面位置を設定して切断し、木目柄を得ることがこれまでの実態であった。それゆえ経験によって実用に供せられる木目柄断面を的確に判断できる場合が、経験者の経験者たる所以とされてきた。しかし、実際には経験者といえども常に的確ではありえず、ある種の賭けとなるのが実態であった。
本実施例の方法による現段階の樹木モデルは単純化されており、直ちに実用の水準に達するのは困難であるにしても、実際の樹木に対応した仮想樹木を形成し、これに対し切断面を設定して視認することで、実際の樹木に対する予測を立てた切断面(木目柄)形成の可能性が開けたといえる。図23(a),(b)は、任意の切断面による切断とこれによる木目柄視認が可能なことを示す例である。なお、曲面による切断面も可能なようにソフトウェアを構築している。このソフトウェアについては後述する。
【0054】
[変形例]
(A) 伸長生長
上記実施例では樹幹の半径方向生長のモデルに注力して結果を導出しているが、樹木の生長は樹幹肥大の生長ばかりでなく、天空へ向かって高さ方法へも伸長生長するのが特徴である。そこで本発明では、樹幹肥大モデルにさらに伸長モデルを組み合わせて、図24に例示するように年毎に肥大しつつ伸長する樹木モデルをコンピュータ内で生成するようにしても良い。
伸長モデルには、n年目の樹高を求める関数の一例としてMitscherlich-Bertalanffy曲線、すなわち


による方法が知られており、W=400,k=0.9,λ=0.04を用いると、樹齢と樹高の関係が図25のように求められることが示されている。伸長成長と肥大成長との関係は、肥大生長に一定の割合を乗じて伸長生長としても良く、別途のパラメータを導入して伸長成長を求めるようにしても良い。
【0055】
すなわち、樹高と、樹木の肥大成長とが相関関係を有するものとしても良い。樹木は高くなるほど風の抵抗を受けるため、高くなるほどに樹幹を太らせて成長していくからである。
このような肥大成長との相関にある樹高を求める関数の一例には、拡張相対成長式(小川戻入:個体群の構造と機能,朝倉書店(1980),pp.221参照)、すなわち、

による方法が知られている。式(39)において、Hnはn年目の樹高、A、h、Hmaxは樹種により決まる定数を表し、2Rnは樹幹直径(式(3)参照、Rnは樹幹半径)を表す。
この式により、肥大成長と相関のある伸長成長量を求めることが出来る。
【0056】
〔幹・枝の先細りモデル導入〕
さらに、自然界に存在する樹木の枝や幹は、高さが増すほどに先細りする。つまり樹木の高さにより樹幹半径が異なる。この先細りをモデル化するに当り、ヘイユェルの式(南雲秀次郎,箕輪光博:測樹学,地球社,(1903),pp.16)を使うと、梢端からL(Lは通常、梢端から胸高までの長さを基本として%で表される)だけ離れたところの直径dLは、胸高直径をd1.3(=R(n,1.3))とすると、

と、表される。このときc,c´は樹種に特有の定数である。
式(40)において、n年目の樹高をHn、胸高直径をR(n,1.3)(=d1.3)、とすると、胸高からの高さh(m)における樹幹半径をR(n,h)は、

と表すことができる。この式により、ある樹木モデルにおける、樹幹直径を地上からの高さに関連付けることができる。
図24−1に示すのは、ヘイユェルが挙げるポプラの伸張成長例を式(41)で計算したものであって、ここではc=49.6、Hn=10(m)とした場合である。図24−1に表される曲線は、1つの変曲点ももたず、常に上に凸の形をしている。これは、本来の幹形とは若干異なるが、胸高以上の直径に適用すれば、その誤差は実用上問題にならない程度である。
【0057】
(B) 枝と節の成長
枝の生育については、図26(a),(b)に示すような樹幹からの成長モデルが既に知られており、この図26のモデルによれば、節の木目が図27のように示される。なお、根瘤についても同様の形成モデルが考えられる。
【0058】
上述の樹木モデルを生成するシミュレーション処理をまとめると、図28に示すフローチャートのようになる。ここで、気象データは、各国気象庁が発表している気象データベースの詳細な気象データを用いることができ、あるいはその一部を適宜変更して任意に設定することもできる。また生育条件も、実際の土地の向きや傾斜角等の条件を入力しても良く、あるいはその一部を適宜変更して任意に設定することもできる。
【0059】
最後に、上述したコンピュータ内生長樹木モデルのデータ構造に対して切断面を作成するソフトウェアについてさらに説明を加える。
[樹幹モデル構築モジュールの構成]
図29は樹木モデルとしての樹幹モデルの構築モジュールをフローチャートにして示したものである。樹幹生長シミュレーションモジュールにて導き出された樹幹生成データを用いて、成長した年数に応じた円筒モデルとして樹幹モデルを構築し、これを偏心肥大率に応じて変形させる。この樹幹モデルに従い着色データを計算・決定し、樹幹内部データを構築する。
【0060】
[表示・操作モジュールの構成]
図30は表示・操作モジュールをフローチャートにしたものである。樹幹モデル構築モジュールで構築された樹幹内部データを、3次元コンピュータグラフィックの記述言語であるOpenGLを用い、ディスプレイ上に表示する。表示された樹幹モデルに対しマウス操作等で設定画面を操作することにより、木目柄画像の出力を行う。
【0061】
[樹幹モデルの生育環境の設定]
シミュレーションの実行手順は、まず初期条件として、育成地・発芽年・樹齢・傾斜角度・傾斜方向を入力する。これを実行し、成長シミュレーションと樹幹モデル構築の計算処理を行う。前述したように初期条件入力値から、すでに構築された気象データベースより該当する気象データが取り出され反映される。計算結果は、実行結果画面として、樹幹モデルの3DCGによる立体画像表示が行われる。同時にこの画像をもとに、操作者がマウス操作で立体画像の切断面角度の調整・表示範囲の調整を行う操作画面が用意される。
【0062】
[樹幹モデルから木目模様を生成する手順]
操作画面は、カットモードとビューモードから成り立っている。カットモードでは樹幹モデルの切断面を設定するために、カット面の角度・前後位置の調整を行う。ビューモードでは樹幹モデルの表示角度・距離・範囲・照明の調整を行う。図31は木目柄生成の手順をフローチャートに示したものである。操作者は、前述の初期条件を入力・実行後、カットモードとビューモードを切り替えながら必要な設定を繰り返し行う。設定結果は実行結果画面としてリアルタイムに表示され、操作者が納得のいくまで設定を繰り返し行うことができる。設定の終了後、計算の実行を行うと、樹幹モデルの切断面が表示される。表示された計算結果画像は、印刷用木目柄としてそのまま利用できる。
【0063】
[生成された樹幹モデル]
先に示した図20(a),(b)〜図22(a),(b)は、生育条件設定モジュールにおいて、初期条件を様々な値に設定して与えた生育環境下で生長する樹幹モデルの例を示したものである。図20(a),(b)は、樹齢の違いによる生長の違いが現れている樹幹モデルである。図21(a),(b)は、地域性の違いを与えた結果による樹幹モデルである。気象庁のデータベースを利用しているため、設定期間の気象環境が反映されている。図22(a),(b)は、生育地の傾斜角度の違いによる樹幹モデルである。生育地の傾斜により発生するあて材の様子を得ることが出来ている。
【0064】
[樹木切断による切断面表情の変化]
一般的に一本の樹木から板材を切り出すと、切る位置・角度などにより様々な表情が現れる。大別すると柾目と板目があるが、前者は図32中のAの位置で切りだした場合であり、後者はBの位置で切り出した場合に相当する。実際に樹木をA・Bそれぞれの位置で切り出した結果の画像が図33(a),(b)であり、図33(a)が板目、図33(b)が柾目となる。この点を踏まえ、計算により得られた樹幹モデルを同じように切り出す操作を行った結果画像を示したのが図34(a),(b) であり、図34(a)が板目、図34(b)が柾目である。ここまでの樹幹モデルは、水平な土地を条件として生育した結果である。ここで生育地の傾きを考慮し、樹幹モデルを生成・切断することで、より自然な木目柄画像を得ることが出来る。その結果を示したのが図35(a)〜図35(f)である。
【0065】
従って、本実施例の方法を実行する上述コンピュータの機能のうち、樹木モデル(樹幹モデル)を生成するプログラム(ソフトウェア)による機能(生育条件設定モジュール1、樹幹生長シミュレーションモジュール2および樹幹モデル構築モジュール3)は樹木モデル生成手段に相当し、樹木モデル(樹幹モデル)を切断するプログラム(ソフトウェア)による機能(表示・操作モジュール4)は樹木モデル切断手段に相当し、樹木モデル(樹幹モデル)の切断面に現れる模様を木目柄として表示し、データとして出力するプログラム(ソフトウェア)による機能(表示・操作モジュール4)は木目柄出力手段に相当する。
【0066】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、樹木モデル(樹幹モデル)を生成するプログラム(ソフトウェア)を実行するコンピュータと、樹木モデル(樹幹モデル)を切断するプログラム(ソフトウェア)を実行するとともに、その樹木モデル(樹幹モデル)の切断面に現れる模様を木目柄として表示し、データとして出力するプログラム(ソフトウェア)を実行するコンピュータとを別個のものとしても良い。また、南方材で同じ気候であるにもかかわらず、ラワン材と紫檀系材のようにやわらかい材と硬い材ができる点に関して、植物ホルモンによって樹種の木質機能性の相違の変化が生じると推定されるので、樹木モデル(樹幹モデル)の生成にこの樹種の木質機能性の相違を加えても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
かくして、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムによれば、自然材を用いることなしに自然性に富む木目柄を得ることができる。
従って、自然木から木目柄を採取する機会を減じ、自然環境保護に寄与する一方、コンピュータ構築による独自の木目柄採取の可能性を開くことができ、また、木目柄採取が経験者の感覚によっていた手法にこれを支援する手段を供する一方、非熟練者にはコンピュータ援用の手法により、意匠性に富む新木目柄の作成の機会を付与することができる。
さらに、光合成および炭水化物量の推定により、CO2の吸収量およびO2の発生量との相関が取れ、自然樹木の保存と併せて、環境問題に上記の推定を効果的に用いることが可能となり、さらにはCO2削減に事業として貢献する量の定量的評価を可能とすることができる。
【0068】
なお、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記樹木の生長に関する条件は、一年毎の肥大生長量と樹齢とを含むものであると好ましい。
【0069】
また、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記一年毎の肥大生長量は、少なくとも一年毎の消費炭水化物量に基づいて求めるものであると好ましい。
【0070】
さらに、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記一年毎の消費炭水化物量は、照度と降水量と温度との少なくとも一つに基づく光合成モデルを用いて求めるものであると好ましい。
【0071】
さらに、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記消費炭水化物量が一年毎の生産炭水化物量のうちに占める割合は、樹齢に従い変化するものであると好ましい。
【0072】
さらに、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記一年毎の肥大生長量は、傾斜地での偏心肥大率を加味したものであると好ましい。
【0073】
さらに、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記一年毎の肥大生長量は、比較的細胞が大きい早材(春材ともいう)と、その早材より細胞が緻密な晩材(秋材ともいう)との肥大生長量を含み、前記年輪は、前記早材と前記晩材との色の相違により形成されるものであると好ましい。
【0074】
さらに、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、前記樹木モデルは、前記条件に基づき高さ方向への伸長成長もするものであると好ましい。
【0075】
そして、本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、算出された樹幹半径に相関するものであると好ましい。
【0076】
本発明の木目柄の創成方法および装置並びにその装置用プログラムにおいては、樹木モデルは、樹高モデルは、樹高が高くなるほど樹幹半径が小さくなる先細り形状を有するものとすると好ましい。
【符号の説明】
【0077】
1 生育条件設定モジュール
2 樹幹生長シミュレーションモジュール
3 樹幹モデル構築モジュール
4 表示・操作モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに樹木の生長に関する条件を与えて、そのコンピュータ内で、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成し、
その樹木モデルを任意の面で切断して、その樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄とすることを特徴とする木目柄の創成方法。
【請求項2】
前記樹木の生長に関する条件は、一年毎の肥大生長量と樹齢とを含むことを特徴とする、請求項1記載の木目柄の創成方法。
【請求項3】
前記一年毎の肥大生長量は、少なくとも一年毎の消費炭水化物量に基づいて求めることを特徴とする、請求項2記載の木目柄の創成方法。
【請求項4】
前記一年毎の消費炭水化物量は、照度と降水量と温度との少なくとも一つに基づく光合成モデルを用いて求めることを特徴とする、請求項3記載の木目柄の創成方法。
【請求項5】
前記消費炭水化物量が一年毎の生産炭水化物量のうちに占める割合は、樹齢に従い変化するものであることを特徴とする、請求項4記載の木目柄の創生方法。
【請求項6】
前記一年毎の肥大生長量は、傾斜地での偏心肥大率を加味したものであることを特徴とする、請求項2から5までの何れか記載の木目柄の創成方法。
【請求項7】
前記一年毎の肥大生長量は、早材とそれより細胞が緻密な晩材との肥大生長量を含み、
前記年輪は、前記早材と前記晩材との色の相違により形成されることを特徴とする、請求項2から5までの何れか記載の木目柄の創成方法。
【請求項8】
前記樹木モデルは、前記条件に基づき高さ方向への伸長成長もするものである、請求項1記載の木目柄の創成方法。
【請求項9】
前記高さ方向への伸張成長は、肥大成長に相関するものである、請求項8記載の木目柄創成方法。
【請求項10】
前記樹木モデルは、樹高が高くなるほど樹幹半径が小さくなる先細り形状を有するものとした請求項9記載の木目柄創成方法。
【請求項11】
コンピュータにより構成される木目柄の創成装置であって、
樹木の生長に関する条件を与えられて、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成する樹木モデル生成手段と、
前記樹木モデルを指示された面で切断する樹木モデル切断手段と、
前記樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄として出力する木目柄出力手段と、
を具えることを特徴とする木目柄の創成装置。
【請求項12】
前記コンピュータを、
樹木の生長に関する条件を与えられて、前記条件に基づき少なくとも幹径方向への肥大生長により年輪を持って生長する樹木モデルを生成する樹木モデル生成手段、
前記樹木モデルを指示された面で切断する樹木モデル切断手段、および
前記樹木モデルの切断面に現れる模様を木目柄として出力する木目柄出力手段、
として作動させることを特徴とする、請求項8記載の木目柄の創成装置に用いられるプログラム。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図24】
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【図24−1】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図2】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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