説明

木製部材の接合方法

【要 約】
【課 題】挿入孔に挿入した補強部材を接着して接合する接合方法において接合強度を従来の方法より高めるとともに、耐用期間を長期化することが可能な補強部材の接合方法を提供する。
【解決手段】 接合すべき複数の木製部材に亙るように設けられた挿入穴に複数の素線を束ねた束ね線もしくは複数の素線を撚った撚り線の補強部材を装填し、前記挿入穴と前記補強部材との隙間部分に接着剤を充填することにより、木製部材どうしを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製部材の接合方法に関するものであって、複数の木製部材に亙るように補強部材を設けることにより木材の部材接合の強度を高める木製部材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の部材同士を接合する場合、例えば柱と梁を接合する場合には、その接合強度を高めるために短冊金物や添鉄板などの部材を木製部材に当て、ボルトを用いて木製部材どうしを接合していた。これらの方法では、短冊金物や添鉄板に設けられたボルト孔とボルトとの間に隙間があるために、接合部に外力が掛かる場合には接合部に変位が発生し、接合耐力が低下するという不具合があった。また木製部材の接合部が露出する構造の建物の場合では、柱や梁の側面に短冊金物や添鉄板が取り付けられる結果、仕上げや外観の点で不都合があった。
【0003】
そこで上記の不具合を解消する方法として特公平7−81327号公報では2つの木製部材間に亙る孔を予め設けておいて、この孔にボルトを装填し、孔とボルトとの隙間にエポキシ系接着材を充填することにより木製部材の接合の剛性を高める接合方法を提案している。
【0004】
上記公報で提案されている方法では木製部材の接合の剛性を高めるためにボルトを2つの木製部材間に亙るように埋め込んで接合の剛性を高めている。このような強度を必要とする場所には鋼鉄製などの金属ボルトを使用するのが一般的であるが、木製部材は湿気を吸収する性質があるために木製部材内に埋め込んだ金属ボルトは腐食を起こす恐れがあり、その結果接合部の強度不足を引き起こすという不具合がある。
【0005】
また、最近では、地震対策のために古い木造家屋の耐震補強が話題となっているが、上記公報で提案されている方法では予め部材に鉄筋を通す挿入孔を設けておく必要があり、すでに建っている建物の補強工事に適用することはできない。
【0006】
さらに、鉄筋を挿入する孔は鉄筋などの補強材の外径より、ある程度大きくしておく必要があるが、この隙間が大きすぎると挿入する孔の内部における補強材の位置が一定せず補強材の剛性が有効に生かせないという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特公平7−81327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法によれば、金属ボルトを補強部材として使用するのが一般的であるが、金属ボルトは木製部材内では腐食の恐れがあるとともに、ねじ加工されている部分に繰り返し荷重がかかると強度的に問題があり、長期間の使用に耐えないという問題がある。
【0009】
上記の問題を解決するために、本発明は挿入孔に挿入した補強部材を接着して接合する接合方法において接合強度を従来の方法より高めるとともに、耐用期間を長期化することが可能な補強部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の解決手段の木製部材の接合方法は、接合すべき複数の木製部材に亙るように設けられた挿入穴に複数の素線を束ねた束ね線もしくは複数の素線を撚った撚り線の補強部材を装填し、前記挿入穴と前記補強部材との隙間部分に接着剤を充填することを特徴とする。
【0011】
上記の第1の解決手段によれば、複数の素線から成る補強部材を装填して挿入穴と前記補強部材との隙間部分に接着剤を充填するために、補強部材の表面積が単線の場合と比較して大きくなり接着剤との接着力が高められる結果、木製部材どうしを高い接合力でもって接合することができる。
【0012】
本発明の第2の解決手段は、第1の解決手段の木製部材の接合方法であって、前記補強部材の両端に、前記補強部材の外径を拡大する外径拡大部材を備えることを特徴としており、補強部材の両端部の外側の素線が挿入孔の壁に密着するので、木製部材どうしの接合力がより一層高められる。
【0013】
本発明の第3の解決手段は、第1又は第2の解決手段の木製部材の接合方法であって、前記補強部材は複数のカーボンファイバーロッドの素線でもって形成されることを特徴としており、高い強度が得られるとともに可撓性に優れ、かつ腐食する恐れがないために長期間に亙って安定した接合力が維持される。
【0014】
本発明の第4の解決手段は、第1又は第2の解決手段の木製部材の接合方法であって、前記接着剤はエポキシ系接着剤であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の解決手段は、第1又は第2の解決手段の木製部材の接合方法であって、接合すべき木製部材の接合部に、シアーリングを装填することを特徴としており、接合すべき木製部材の接合部の剪断耐力を確保すると共に、木製部材の接合部の隙間から接着剤が漏れることを防ぐことにより接合力を向上させている。
【発明の効果】
【0016】
上述したように本発明の木製部材の接合方法は、接合すべき複数の木製部材に亙るように設けられた挿入穴に複数の素線から成る補強部材を装填し、前記挿入穴と前記補強部材との隙間部分に接着剤を充填することにより木製部材どうしを接合する接合方法であり、木製部材に施す加工は僅かなものでありながら、木製部材どうしの接合力を格段に高める機能を有する。即ち木製部材の備える本来の性能および外観を損なうことなく木製部材どうしの接合性能を高めることができる。
【0017】
さらに補強部材の両端に外径拡大部材が設けられており、この外径拡大部材が補強部材の軸線方向に移動することにより補強部材の両端は挿入孔の内壁に密着する結果、木製部材同士の接合力を一層高める効果をもたらしている。また、補強部材に使用する素線はカーボンファイバーロッドであるので、腐食のおそれがなく長期間にわたって安定した接合力が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
【実施例】
【0019】
図をもって本発明の方法および装置について詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によって限定されるものではない。
【0020】
図1は本発明の第1の実施例を説明する説明図であり、2つの木製部材に亙る補強部材の挿入孔が設けられて、この挿入孔に補強部材が装填されている状態を示している。
【0021】
図1に示すように梁8に対して柱9が突き合わされており、柱9に設けられたほぞ9aが梁8に設けられたほぞ孔に嵌め込むことにより接合されている。この梁8と柱9との接合強度を高めるために、柱9から梁8に亙るような補強部材2を装填する挿入孔1を設けて、この挿入孔1に補強部材2を装填し、挿入孔1と補強部材2との間にエポキシ系の接着剤3を充填することにより固着する。
【0022】
梁8と柱9には、挿入孔11が挿入孔1の背面側に挿入方向を反対にして設けられている。挿入孔1と同様に補強部材2を装填しエポキシ系の接着剤3が充填されている。接合部にかかる外力の方向が左右いずれの方向からでも対応するように挿入孔1と挿入孔11のように方向を異にした補強部材を配置することが望ましい。
【0023】
挿入孔1、11に装填する補強部材2は複数の素線から成り、図2に複数の真直な素線を結束帯21により一体化した補強部材2の例を示す。図2では中央の素線2bと外側の6本の素線2aを結束することにより補強部材2を形成しているが、これに限るものではなく、素線の太さや挿入孔の径に応じて素線の数を選択することができる。
【0024】
一方、図3に示す補強部材2は、複数の素線を撚って撚り線状としたものであり、中央の素線2bと外側の6本の素線2aとが互いにからみつく構造であるために図2の真直な素線を用いる場合と異なり結束帯を必要としない。
【0025】
補強部材2としては、引張強度が高く、かつ補強部材2を撓める外力がかかったときに復元する可撓性を有する材質が望ましく、実施例では補強部材2を形成する素線としてカーボンファイバーロッドを用いているが、補強部材としての引張強度あるいは可撓性を有する材料であるならばこれに限るものではない。鋼線などの金属線を素線として用いてもよいが、防錆性能の点で問題があり、長期間の後に錆びて劣化し、所望の強度が維持できない恐れがあり、鋼線などの金属線を素線に用いる場合には、防錆対策を十分施して使用する必要がある。
【0026】
本発明の木製部材の接合方法は、既設の建物に組み込まれている柱と梁に対して適用することが可能であり、図1に示すように梁8と柱9に対してドリルなどの工具により挿入孔1を設けた後に補強部材2を挿入孔1に装填する。挿入孔1の入口からエポキシ系の接着剤3を充填することにより、木製部材の梁8および柱9と補強部材2とが一体化される。予め梁8と柱9との間は位置関係がずれないように鎹などの手段により固定されていることが望ましいが、鎹などの固定手段が設けられていない場合には、接着剤3が硬化するまでの間は別途固定手段を用意して梁8および柱9とを固定しておくものとする。
【0027】
図4に両端に外径拡大部材4を設けた構造の補強部材2を示す。図2に示す構成の補強部材2の中央の素線2bは他の外側の素線2aよりも短くしておき、中央部にテーパ部を備えた外径拡大部材4を補強部材2の両端に装填する構成とする。即ち外径拡大部材4を補強部材2の内部方向に移動させると外径拡大部材4のテーパ形状により補強部材2の外側の素線2aは補強部材2の外径方向に押し広げられるように動き、その結果補強部材2の端部の外径が拡大することになる。
【0028】
挿入孔1の入口側の外径拡大部材4に打撃を加えることにより、挿入孔1の底部側の外径拡大部材4にも力が伝わり、補強部材2の両端に設けられていた外径拡大部材4により補強部材2の両端部の素線2aは挿入孔1の内壁に密着するまで押し広げられる。この結果補強部材2の位置が挿入孔1内で安定し、梁8と柱9を接合する接合力が高まる効果を生む。
【0029】
上述の説明では、真直な素線を用いた例で説明したが、撚り線の場合も同様であり、撚り線の中央の線の両端を素線2bと同様に両端を短くしておき、そこに外径拡大部材4を装填する構成とすることにより同様の効果を生むことができる。
【0030】
図5は第2の実施例を示す説明図であり、予め梁8及び柱9にそれぞれに挿入孔12及び挿入孔13を設けておき建物を組み上げる際に補強部材2を装填する接合方法である。挿入孔12及び挿入孔13はそれぞれ梁8及び柱9の正確な位置に設けておくものとする。図5の場合では、梁8に補強部材2を装填し、次いで柱9を組み付ける。エポキシ系の接着剤3を梁8及び柱9にそれぞれ設けられている接着剤注入穴5から挿入孔12、13内に接着剤3を注入することにより挿入孔12、13内に接着剤3を充填する。なお外径拡大部材4を備えた補強部材2を用いる場合には、梁8と柱9を組み合わせた際に補強部材2の外径を拡大できるように挿入孔12、13の長さを適切に設けることが必要である。
【0031】
図5の場合においてエポキシ系の接着剤3を挿入孔12、13内に充填する際に、梁8と柱9との接合部分から接着剤3が漏れ出す恐れがある。図5には剪断耐力を高めるとともに梁8と柱9との突合せ部分から接着剤3が漏れ出さないようにリング状の形状をしたシアーリング6を設けた例を示している。
【0032】
梁8及び柱9には予め挿入孔12、13とシアーリング6用の溝を設けておき、梁8に補強部材2とシアーリング6を装填し、次いで柱9を組み付ける。エポキシ系の接着剤3を梁8及び柱9にそれぞれ設けられている接着剤注入穴5から挿入孔12、13内に接着剤3を充填するが、梁8と柱9との接合部分にエポキシ系の接着剤3が漏れ出しても、シアーリング6のところでせき止められ、漏れ出すことがない。
【0033】
以上の説明では、梁に対して柱が突き合わされている場合について説明してきたが、本発明の木製部材の接合方法はこれに限るものではなく、平行に並べた2つの部材の接合や、1本の柱に対して両側に梁を設ける場合についても適用することができる。さらに2個以上の木製部材に亙る接合も補強部材の強度が必要な強度を保証できる範囲であれば適用することは可能である。
【0034】
また、本発明では、補強部材として複数の素線を一体化した束ね線あるいは撚り線を用いているが、その結果同じ径の素線を用いた場合と比較して接着剤の接着面が広いために木製部材と補強部材の接合力が増大し、堅牢な接合が得られるという特徴がある。
【0035】
また、外径拡大部材4を用いることにより補強部材2の位置が安定し、挿入孔の内壁にしっかりと密着する結果、高い接合力を確保することができる。
【0036】
また、図1に示すようにすでに建っている建物の梁と柱であっても本発明の接合方法を適用することにより所謂耐震補強を施すことが可能であり、補強部材を装填できる挿入孔を設けることができる場所であるならば、2個あるいはそれ以上の木製部材の接合部分の接合強度を補強することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
補強部材を用いる従来の木製部材の接合方法では、金属ボルトなどの棒状の部材を用いており、挿入孔の隙間や接着強度の点で問題があった。また、補強部材として金属を用いることが一般的であったが、腐食を起こすことから長期間に亙って安定した接合強度を得ることが困難であった。
【0038】
これに対して本発明の木製部材の接合方法では、補強部材として複数の素線からなる束ね線あるいは撚り線を用いることにより接着剤との接着面が拡大するためにより高い接着強度が得られる結果、木製部材同士の接合力が向上する。また、補強部材の両端部に外径拡大部材を設けてあるので補強部材の両端は挿入孔の内壁と密着し補強部材の位置が安定するのでより一層高い接合力が得られる。
【0039】
さらに補強部材の素線にはカーボンファイバーロッドを用いているので引張強度および可撓性に優れるとともに腐食の恐れがなく、長期間に亙って安定した接合力を維持することが可能となる。
【0040】
したがって本発明の木製部材の接合方法は木製部材の接合に際して高い接合力を発揮するとともに長期間に亙って安定して接合力を保持することが可能である。また、新たに建設する建物に適用できることは言うまでもなく、すでに建設されている建物にも適用することが可能であり、近年問題となっている耐震補強への対応も含めて産業への寄与が大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の接合方法の第1の実施例を示す説明図である。
【図2】補強部材の構成を示す説明図である。
【図3】補強部材の別な例を示す説明図である。
【図4】外径拡大部材を備えた補強部材の例を示す説明図である。
【図5】本発明の接合方法の第2の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1、11 挿入孔
2 補強部材
2a 素線(外側)
2b 素線(中心)
3 接着剤
4 外径拡大部材
5 接着剤注入穴
6 シアーリング
8 梁
9 柱
12、13 挿入孔
21 結束帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合すべき複数の木製部材に亙るように設けられた挿入穴に複数の素線を束ねた束ね線もしくは複数の素線を撚った撚り線の補強部材を装填し、前記挿入穴と前記補強部材との隙間部分に接着剤を充填することを特徴とする木製部材の接合方法。
【請求項2】
前記補強部材の両端に、前記補強部材の外径を拡大する外径拡大部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の木製部材の接合方法。
【請求項3】
前記補強部材は複数のカーボンファイバーロッドの素線でもって形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木製部材の接合方法。
【請求項4】
前記接着剤はエポキシ系接着剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木製部材の接合方法。
【請求項5】
接合すべき木製部材の接合部に、シアーリングを装填することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木製部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−138454(P2009−138454A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316933(P2007−316933)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【出願人】(507403159)株式会社中田捷夫研究室 (1)
【出願人】(507403160)株式会社中東 (1)
【出願人】(507403562)株式会社スギヤマ (1)
【出願人】(397048287)株式会社エヌ・シー・エヌ (7)
【Fターム(参考)】