説明

木質系材料からなる成形体の製造方法

【課題】木質系材料を水蒸気に接触させた後に加熱しながら加圧して成形する成形体の製造方法において、木質系材料に接触させる水蒸気の温度をより低くする、あるいは、木質系材料を加熱加圧した際の流動化開始温度をより低くする。
【解決手段】流動化促進剤が添加された木質系材料に水蒸気を接触させた後に、乾燥、及び、加熱・加圧の各工程を経ることにより該木質系材料に流動性を発現させて、この流動性が発現された木質系材料を型面に沿わせて表面がプラスチック様の成形体を得ることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。前記流動化促進剤は、酢酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、無水酢酸、無水マレイン酸、及びグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系材料からなる成形体の製造方法に関する。より詳しくは、木質系材料を水蒸気に接触させた後に、乾燥、及び加熱・加圧の各工程を経ることにより流動性を発現させて、この流動性が発現された木質系材料を所定形状に成形して成形体を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックや金属などの代替材料として、木材を利用する試みがこれまでになされている。例えば、特許文献1には、樹木等の木質系材料に由来するリグニンとセルロースを含有する材料を水蒸気処理した後に加熱することによって可塑化して成形する方法が開示されている。この方法によれば、従来は金属やエンジニアリングプラスチック等により形成されていた歯車やシャフトなどの各種の機械部品を、木質系材料のみによって形成することができる。この技術を利用すれば、従来は廃棄処分されていた家屋や家具の解体廃材、新聞紙やダンボールなどの古紙、刈り草、落ち葉、刈り枝、間伐材、サトウキビの圧搾滓などを資源として再利用することが可能である。しかも、これらの木質系材料は、土壌中で生分解するので、プラスチックなどの石油化学製品よりも地球環境にとって優しい。また、近年、石油化学製品関連の分野ではCO排出量削減が大きな課題となっているが、石油化学製品の代替材料として木質系材料の利用がさらに普及することによって、このような課題をクリアできることが大きく期待されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−165844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の従来技術によれば、次のような問題がある。
すなわち、木質系材料はパサパサとして本来は流動性が低い材料であり、加熱加圧により流動性を発現させるためには、高い温度に加熱しながら加圧する必要がある。しかし、木質系材料をあまりに高い温度で加熱すると、それに含まれるリグニン、ヘミセルロースといった流動性に寄与する成分の変性や、成形体の表面における変色等を引き起こす場合がある。
このような問題を回避するために、木質系材料に接触させる水蒸気の温度を高くすることによって、該木質系材料の加熱加圧時における流動化開始温度を低下させる方法が考えられる。しかし、高い温度の水蒸気を供給するためには、大掛かりな設備や特殊な設備が必要であり、コストが高くなるという問題がある。また、高い温度の水蒸気を供給するためには、多大なエネルギーが必要であるために、地球環境にとって好ましくないという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、木質系材料を水蒸気に接触させた後に加熱しながら加圧して成形する成形体の製造方法において、木質系材料に接触させる水蒸気の温度をより低くできること、あるいは、木質系材料を加熱加圧した際の流動化開始温度をより低くできることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段は、以下の(1)〜(6)の発明である。
(1)流動化促進剤が添加された木質系材料に水蒸気を接触させた後に、乾燥、及び、加熱・加圧の各工程を経ることにより該木質系材料に流動性を発現させて、この流動性が発現された木質系材料を型面に沿わせて表面がプラスチック様の成形体を得ることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
(2)上記(1)に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は有機酸であることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
(3)上記(2)に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は、酢酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、無水酢酸、無水マレイン酸、及びグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸であることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
(4)上記(1)に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は過酸化水素及び/又はオゾンであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
(5)上記(1)に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤はポリエーテルであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
(6)上記(1)に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤はポリエチレングリコールであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、木質系材料を水蒸気に接触させた後に加熱しながら加圧して成形する成形体の製造方法において、木質系材料に接触させる水蒸気の温度をより低くし、木質系材料を水蒸気に接触させる工程において消費するエネルギーを削減することができる。また、木質系材料を加熱加圧した際の流動化開始温度をより低くし流動性を向上させることができ、より複雑な形状に成形することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、流動化促進剤が添加された木質系材料に水蒸気を接触させた後に、乾燥、及び、加熱・加圧の各工程を経ることにより該木質系材料に流動性を発現させて、この流動性が発現された木質系材料を型面に沿わせて表面がプラスチック様の成形体を得ることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法である。
【0009】
図1は、本発明に係る木質系材料の製造方法のフローシートである。図1に示すように、本発明は、流動化促進剤添加、水蒸気処理工程、乾燥工程、粉砕工程、及び加熱加圧工程、を備えている。
【0010】
[木質系材料について]
本発明における「木質系材料」とは、典型的には、リグニンとヘミセルロースとセルロースとを含有するリグノセルロース系材料のことである。「木質」という単語がその名称に付されているが、木材に限らず、草本類からも採取することが可能である。このような木質系材料は、例えば、スギ、ヒノキ、ブナなどの各種の樹木から採取することが可能である。また、ケナフ、トウモロコシ、サトウキビ、麻、イグサ、イネなどの草本類から採取することが可能である。あるいは、家屋解体物、家具解体物、木屑、間伐材、籾殻、木粉、古紙、剪定枝、刈り草、落ち葉、サトウキビの圧搾滓(バガス)などの廃棄物から採取することも可能である。さらに、木質系材料は、殆どリグニンを含まない上質紙の古紙と、パルピングの工程で廃棄物として排出されるリグニンとを混合することによって得ることも可能である。本発明では、このような木質系材料を2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0011】
本発明において、原料として使用する木質系材料は、細分化されているものを使用するのが好ましい。木質系材料が細分化されていると、流動化促進剤を均一に添加することが可能であるとともに、後述する水蒸気処理において水蒸気を均一に接触させることが可能になる。また、木質系材料を水蒸気に接触させる工程で必要とされる時間を短縮することが可能になる。したがって、木質系材料は、例えば、チップ状、フレーク状あるいは微粉状に加工されている木材などを使用するのが好ましい。木質系材料は、木材の裁断加工の際に生ずるかんな屑等をそのまま使用することも可能である。
【0012】
木質系材料は、水蒸気と接触させた後に加熱しながら加圧することによって、可塑性及び流動性を発現することが本発明者らによって見出されている(以下、水蒸気と接触させることを「水蒸気処理」と称する場合がある。また、加熱しながら加圧する処理ことを「加熱加圧」ないし「加熱・加圧」と省略する場合がある)。その理論的な根拠は必ずしも明らかではないが、木質系材料に含まれているリグニン、ヘミセルロース、セルロースなどの成分が、水蒸気処理により分解して、その分解後の成分が、加熱により溶融して組織中において流動化することが原因であると考えられる。木質系材料を可塑化・流動化させることによって、この木質系材料を射出成形等によって自由な形状に成形することが可能となる。また、木質系材料を可塑化・流動化させることによって、その木質系材料を金型等に流し込んで表面がプラスチック様の成形体を得ることが可能となる。
【0013】
[流動化促進剤について]
本発明に係る木質系材料からなる成形体の製造方法では、木質系材料を水蒸気に接触させる前の段階あるいはそれと同時に、木質系材料に対して「流動化促進剤」を添加する。この「流動化促進剤」とは、木質系材料を加熱加圧した際に流動性を発現し易くさせるための物質である。また、ここで言う「添加」とは、木質系材料に対して流動化促進剤を加える処理の他に、木質系材料に流動化促進剤を接触させる処理をも含む。
このような流動化促進剤としては、カルボン酸、オゾン、過酸化水素、ポリエーテル、ポリオールなどを使用することができる。
【0014】
前記有機酸とは、酸性を示す有機化合物の総称である。木質系材料に有機酸を添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現し易くなる。その理論的な根拠は必ずしも明らかではないが、有機酸が木質系材料に含まれるリグニン、ヘミセルロース、セルロースなどの成分の分解を促進することが原因であると考えられる。流動化促進剤としては、各種の有機酸を使用することができるが、特に、酢酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、などのカルボン酸、無水酢酸、無水マレイン酸などの酸無水物、あるいは、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)などのヒドロキシ酸は流動化促進効果が高く好ましい。また、流動化促進剤としては、アミノ酸を用いることもでき、グルタミン酸などの酸性アミノ酸は、流動化促進効果が高く好ましい。この中で特に好ましいのは、カルボン酸の一種であるマレイン酸である。
【0015】
また、流動化促進剤としては、オゾンや過酸化水素などの酸化剤を用いることができる。木質系材料にオゾンや過酸化水素を添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現し易くなる。その理論的な根拠は必ずしも明らかではないが、これらの酸化剤を木質系材料に接触させると、木質系材料に含まれるリグニンに作用し、リグニン分子の切断あるいは環状構造を開環することによって、水蒸気処理によるリグニンの分解を促進することが原因であると考えられる。
【0016】
また、流動化促進剤としては、ポリエーテルを用いることもできる。ポリエーテルとは、主鎖中にエーテル結合を持つ重合体である。木質系材料にポリエーテルを添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現し易くなる。その理論的な根拠については必ずしも明らかではないが、ポリエーテルを木質系材料に接触させると、木質系材料に含有される水分がポリエーテルに置き換わることが原因であると考えられる。ポリエーテルの中でも、両末端にヒドロキシル基を有するポリエチレングリコール(PEG)は、流動化促進効果が高いので好ましい。
また、流動化促進剤としては、グリセリン等の多価アルコールを用いることもできる。
【0017】
木質系材料に流動化促進剤を添加する方法は、特に限定されるものではない。例えば、流動化促進剤がオゾンのような常温で気体の物質であれば、木質系材料を投入したタンク内でオゾンを発生させて攪拌するなどして、該木質系材料に対して直接添加することができる。また、酢酸、乳酸、過酸化水素、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸等の流動化促進剤は、予め水に溶解させてから水溶液の状態で木質系材料に添加してもよいし、木質系材料に対してそのまま添加してもよい。
【0018】
具体的には、流動化促進剤としてマレイン酸等のカルボン酸やPEG等のポリエーテルを用いる場合は、流動化促進剤を予め水に溶解させて水溶液の状態で添加することができる。このとき、木質系材料乾物に対する流動化促進剤の添加量が1重量%以上30重量%以下となるように流動化促進剤の水溶液を添加するのが好ましい。より好ましくは、2重量%以上20重量%以下、更に好ましくは、5重量%以上20重量%以下である。
【0019】
流動化促進剤として過酸化水素を用いる場合は、流動化促進剤を予め水に溶解させて水溶液の状態で添加するのが好ましい。このとき、木質系材料乾物に対する過酸化水素の添加量が1重量%以上40重量%以下となるように過酸化水素の水溶液を添加するのが好ましい。より好ましくは、2重量%以上20重量%以下である。
【0020】
流動化促進剤としてオゾンを用いる場合は、オゾンを含む気相に木質系材料を暴露することにより該木質系材料にオゾンを添加することができる。このとき、気相中のオゾン濃度は100ppm以上が好ましい。より好ましくは、1000ppm以上である。また、オゾンは、水等に溶解させて木質系材料に添加することもできる。このとき、液相中のオゾン濃度は0.5ppm以上が好ましく、より好ましくは2ppm以上である。
【0021】
流動化促進剤を添加した後の木質系材料の含水率(=(木質系材料に含まれている水分の重量/木質系材料の絶乾状態の重量)×100(%)で表される数値)は、200%以下であることが好ましい。含水率が200%を超えると、水蒸気処理によって木質系材料中に生成する分解成分が流出しやすくなり、可塑化及び流動化に必要な成分が木質系材料中に保持されにくくなるからである。木質系材料の含水率は、より好ましくは、8%以上140%以下であり、さらに好ましくは、30%以上140%以下である。なお、木質系材料の含水率は、流動化促進剤を水溶液の状態で添加することによって調整することができる。また、オゾン等のように流動化促進剤を気相中で添加する場合は、流動化促進剤を添加した後に、木質系材料に水を添加して含水率を調整することができる。
【0022】
[水蒸気処理工程]
本発明では、木質系材料に流動化促進剤を添加した後、あるいはそれと同時に、該木質系材料に水蒸気を接触させる処理(水蒸気処理)を行う。
木質系材料に水蒸気を接触させるための方法は特に制限するものではない。例えば、耐圧容器内に木質系材料を投入して、この耐圧容器内にボイラー等の供給源から水蒸気を供給するなどの方法を用いることができる。
木質系材料を水蒸気に接触させることによって、該木質系材料に含まれるヘミセルロース、リグニン等の分解を行うことができる。これにより、木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現するようになる。
【0023】
木質系材料に接触させる水蒸気の温度は、木質系材料を加熱加圧した際の「流動性の発現し易さ」によって上下に調整するのが好ましい。すなわち、木質系材料を加熱加圧した際に流動性が容易に発現するのであれば、水蒸気処理における水蒸気の温度を低くすることができる。これとは反対に、木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現しにくいのであれば、水蒸気処理における水蒸気の温度を高くする必要がある。本発明では、木質系材料に流動化促進剤を添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現し易くなっている。したがって、水蒸気処理に使用する水蒸気の温度を低くすることが可能である。
【0024】
参考までに、木質系材料に対して流動化促進剤を添加しない場合の水蒸気の温度は、60℃以上250℃以下が好ましい。より好ましくは、110℃以上230℃以下であり、更に好ましくは、150℃以上230℃以下である。木質系材料をこのような温度範囲の水蒸気に接触させることによって、木質系材料に含まれるヘミセルロース、リグニン等の分解を行うことができる。一方、木質系材料に対して流動化促進剤を添加した場合は、流動化促進剤を添加しない場合よりも低い水蒸気の温度で、同等の流動性を発現させることができる。例えば、流動化促進剤として過酸化水素を用いた場合、水蒸気の温度は、流動化促進剤を添加しない場合と比べて20℃から30℃程度低くすることができる。また、流動化促進剤を添加した場合に、流動化促進剤を添加しない場合と同じ水蒸気の温度で水蒸気処理すれば、流動化促進剤を添加しない場合よりも、木質系材料の流動性を向上させることができる。
【0025】
水蒸気処理は、水蒸気を木質系材料に適当な時間(例えば数十秒から数十分間程度)接触させることによって完了することができる。水蒸気の圧力や温度が低い場合には、水蒸気と木質系材料との接触時間をより長くすることが好ましい。また、木質系材料が細分化されていない場合には、木質系材料の内部に水蒸気を十分に浸透させるために、木質系材料と水蒸気との接触時間をより長くすることが好ましい。
【0026】
水蒸気処理を終了するときには、木質系材料が収容されている耐圧容器等を解放して大気圧に戻せばよい。高圧の水蒸気の場合には、徐々に圧力を下げることもできるし、一気に大気圧まで解放することもできる。大気圧まで一気に開放する場合には、木質系材料の組織内部で水蒸気の体積が一気に膨張するので、該木質系材料を繊維状あるいは粉末状等に粉砕することができる(以下、高圧状態から一挙に圧力開放して木質系材料を粉砕することを、爆砕という)。爆砕によれば、木質系材料を水蒸気処理するのと同時に細分化することができる。木質系材料を爆砕によって細分化することによって、木質系材料をその後の工程において効率的に乾燥させることができる。
【0027】
[乾燥工程]
水蒸気処理を完了した後は、木質系材料を乾燥させる工程(乾燥工程)を実施する。木質系材料中に水分が多量に存在すると、木質系材料を加熱加圧して可塑化・流動化させる際に、木質系材料の内部から水分が気化して成形性あるいは流動性が損なわれる恐れがあるからである。また、水蒸気処理の後に速やかに水分を蒸発させることによって、水分とともに木質系材料に含まれる水溶性の成分が溶出してしまうことを防止することができるからである。乾燥工程は、木質系材料の含水率が28%以下となるまで実施することが好ましい。乾燥の手段は特に制限するものではないが、木質系材料に対して温風を吹き付ける等により積極的な乾燥を行うのが好ましい。
【0028】
[粉砕工程]
水蒸気処理を完了した木質系材料を乾燥させた後は、必要に応じてさらに微細状に粉砕する工程(粉砕工程)を実施するのが好ましい。木質系材料を粉砕してさらに微細化することによって、この木質系材料を加熱しながら加圧したときに流動性及び可塑性がさらに発現しやすくなる。粉砕した後の木質系材料の粒径は、押出し成形や射出成形のためのメルトフローを考慮すれば、好ましくは800μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下である。水蒸気処理した木質系材料を粉砕するためには、例えば、ウィレーミル、ボールミル、かいらい機、ミキサー等の粉砕手段を用いることができる。
【0029】
[加熱加圧工程]
木質系材料を水蒸気に接触させた後に、乾燥工程、及び、必要に応じて粉砕工程を経た後、この木質系材料を加熱しながら加圧する工程(加熱加圧工程)を実施する。これにより、木質系材料に可塑性及び流動性を発現させることができる。また、この可塑化した木質系材料を成形型の型面に沿わせることによって、表面がプラスチック様の成形体を得ることが可能となる。
木質系材料の加熱加圧の手段としては、例えば、一般的に使用されている圧縮成形機、トランスファ成形機、押出し成形機、射出成形機などを使用することができる。これらの成形機を使用することによって、木質系材料を加熱加圧するのと同時に、可塑化した木質系材料を成形型の内部で所定形状に成形することが可能である。
【0030】
木質系材料を加熱加圧する際の温度条件及び圧力条件は、木質系材料を加熱加圧した際の「流動性の発現し易さ」によって上下に調整するのが好ましい。すなわち、木質系材料を加熱加圧した際に流動性が容易に発現するのであれば、温度条件及び圧力条件をより低くすることができる。これとは反対に、木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現しにくいのであれば、温度条件及び圧力条件をより高くするか、あるいは、上述したように、水蒸気処理において供給する水蒸気の温度を高くする必要がある。本発明では、木質系材料に流動化促進剤を添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性が発現し易くなっている。したがって、加熱条件及び加圧条件をより低くすることが可能である。あるいは、水蒸気処理において供給する水蒸気の温度を低くすることが可能である。
【0031】
参考までに、木質系材料に対して流動化促進剤を添加しない場合の加熱条件は、好ましくは110℃以上230℃以下であり、より好ましくは約150℃以上180℃以下である。加圧条件は、好ましくは10MPa以上80MPa以下であり、より好ましくは25MPa以上60MPa以下である。つまり、水蒸気処理した後の木質系材料をこの範囲で加熱しながら加圧することによって、木質系材料を可塑化・流動化させるとともに形状を付与することができる。たとえば、木質系材料としてブナのかんな屑(厚さ0.5mm以下で2cm×2cm以下程度の細片)を使用した場合、200℃の水蒸気で20分間処理した後の木質系材料を180℃程度まで加熱することによって、可塑化・流動化させて成形することが可能である。なお、木質系材料の流動化開始温度は、細管式レオメーターによる押出し試験等によって確認することができる。
【0032】
可塑化・流動化した木質系材料は、押出し成形機や射出成形機によって成形することができる。あるいは、可塑化・流動化させた木質系材料を金型に流し込んで、この金型によって所望の形状に成形することが可能である。
本発明によれば、木質系材料の流動性が増すことにより、より複雑な形状の成形品を作製することが可能になる。例えば、カップ、皿などの日用品を作ることが可能である。また、ボードやパネルなどの建築用品を作ることが可能である。さらに、耐摩耗性や耐衝撃性など、ある程度の機械的強度が要求される部品を作ることも可能である。例えば、自動車部品、家電器機用の部品、OA機器用など、各種製品の部品を作ることが可能である。歯車やカムなどの機械要素を作ることも可能である。
本発明によって得られた成形品は、表面がプラスチック様で光沢があり、プラスチック製品の代替品として活用できる。
【0033】
本発明によれば、従来は金属やエンジニアリングプラスチック等によって形成されていた部品を、木質系材料からなる成形体によって代替させることができる。したがって、従来は廃棄処分されていた廃材や間伐材などの有効利用を促進することが可能であるとともに、木質系材料は土壌中で生分解するので、焼却処分が不要となり、CO排出量削減の効果も期待できる。また、本発明に係る木質系材料からなる成形体は、バインダとして合成樹脂を添加する必要がないので、燃焼させたときに有害物質を発生することがほとんどない。
【0034】
本発明によれば、広葉樹を原料とした成形体だけでなく、針葉樹を原料とした成形体の製造が可能になる。
すなわち、スギやヒノキなどの針葉樹は、ブナやイエローポプラなどの広葉樹と比較すると、加熱加圧した際に流動性が発現しにくいことが本発明者らによって確認されている。したがって、針葉樹を木質系材料として使用した場合には、加熱加圧の際に、高温・高圧の条件でなければ流動性を発現させることが極めて困難という問題があった。しかし、本発明によれば、木質系材料に流動化促進剤を添加することによって、該木質系材料を加熱加圧した際に流動性を容易に発現させることが可能である。したがって、広葉樹だけでなく、針葉樹を原料とした木質系材料であっても容易に成形が可能である。
【0035】
本発明によれば、木質系材料に接触させる水蒸気の温度を従来よりも低くすることができる。したがって、高温・高圧の水蒸気を供給するための大掛かりな設備が不要になるとともに、水蒸気発生のために使用するエネルギーの削減を図ることが可能である。また、木質系材料の流動性が向上することにより、木質系材料をより複雑な形状に成形することが可能となる。
【実施例1】
【0036】
実施例1では、木質系材料として、ブナ、イエローポプラ、及びスギのかんな屑を準備した。また、流動化促進剤として、4N酢酸、及び、5%過酸化水素水を準備した。まず、前記3種の木質系材料1.5kgに対して、4N酢酸1.2L、5%過酸化水素水2.52kgをそれぞれ添加したものを準備した。また、別途対照用に流動化促進剤に代えて水を添加したものを準備した。次いで、160℃、180℃、及び、200℃の各温度にて準備した木質系材料に20分間水蒸気処理を行った。水蒸気処理を行った木質系材料を乾燥、粉砕し、細管式レオメーターを用いて押出試験を行った。すなわち、各試料1.2gを、80℃に保持した加熱炉内に設置した面積1cmのシリンダ内に導入し、5分間予熱した後、ピストンにより荷重400kgf/cmで加圧し、初期温度を80℃とし5分間予熱した後、2℃/分で220℃まで昇温させて、直径1mm、厚さ1mmのノズルで流出状態を観察し、各木質系材料の流動化開始温度を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表1〜3に示す結果を見ればわかるように、4N酢酸水溶液あるいは5%過酸化水素水溶液を添加した場合には、同じ条件で流動化促進剤を添加しない場合と比較すると、流動化開始温度が低下することが判明した。このことは、木質系材料に流動化促進剤を添加することによって、木質系材料を加熱加圧した際に、該木質系材料の流動性が発現し易くなったことを意味している。
また、木質系材料に流動化促進剤を添加することによって、ブナやイエローポプラなどの広葉樹だけでなく、スギなどの針葉樹の流動化開始温度を低下させることができることが判明した。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、木質系材料として、ブナのかんな屑を準備した。また、流動化促進剤として、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、グルタミン酸、ポリエチレングリコール600(PEG600)、グリコール酸、及びクエン酸を準備した。準備した流動化促進剤を予め水溶液に調製し、流動化促進剤の濃度が20重量%、含水率が130%となるようにブナのかんな屑に対し添加した。また、対照試験用に、含水率が130%となるようにブナのかんな屑に対し水を添加した。そして、200℃の水蒸気にて20分間水蒸気処理を行った後に、乾燥及び粉砕を実施して試料を調製した。各試料について、実施例1と同様の方法にて流動化開始温度を測定した。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示す結果を見れば分かるように、ブナのかんな屑に流動化促進剤を添加することによって、流動化開始温度を低下させることができることが判明した。中でも、マレイン酸を添加したNo.2、及び、ポリエチレングリコールを添加したNo.6は特に流動化開始温度が低い結果となった。このことから、これら2種の物質は流動化促進剤として特に好ましいことが判明した。
【実施例3】
【0044】
実施例3では、木質系材料として、スギのかんな屑を準備した。また、流動化促進剤として、マレイン酸を準備し、予め水溶液を調製した。マレイン酸の水溶液をスギのかんな屑に添加し、含水率が130%、マレイン酸が5、10、20重量%の各濃度となるように調整した。また、対照試験用に、含水率が130%となるようにスギのかんな屑に対し水を添加した。そして、200℃の水蒸気にて20分間水蒸気処理を行った後に、乾燥及び粉砕を実施して試料を調製した。各試料について、実施例1と同様の方法にて流動化開始温度を測定した。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示す結果を見れば分かるように、スギのかんな屑にマレイン酸を添加することによって、流動化開始温度を低下させることができることが判明した。広葉樹であるブナにマレイン酸を添加することにより、流動化開始温度を低下させることができることは、上記実施例2の結果より明らかとなったが、それに加えて、本実施例においては、本来広葉樹より流動化開始温度が高く流動化しにくい針葉樹に対してもマレイン酸が流動化促進剤として有効に作用することが確認された。しかも、マレイン酸の濃度を5重量%となるように添加することにより、マレイン酸を添加しない場合(対照)と比べ、流動化開始温度を大幅に78℃も低下させることができ、マレイン酸が低濃度であっても効果的に作用することが判明した。また、マレイン酸の濃度を10重量%以上とすることにより、さらに流動化開始温度を低下させることが可能であることも判明した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】木質系材料からなる成形体の製造方法のフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動化促進剤が添加された木質系材料に水蒸気を接触させた後に、乾燥、及び、加熱・加圧の各工程を経ることにより該木質系材料に流動性を発現させて、この流動性が発現された木質系材料を型面に沿わせて表面がプラスチック様の成形体を得ることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は有機酸であることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は、酢酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、無水酢酸、無水マレイン酸、及びグルタミン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸であることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤は過酸化水素及び/又はオゾンであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤はポリエーテルであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の木質系材料からなる成形体の製造方法であって、
前記流動化促進剤はポリエチレングリコールであることを特徴とする、木質系材料からなる成形体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−261159(P2007−261159A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91004(P2006−91004)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】