説明

末梢血リンパ球増加剤

【課題】末梢血リンパ球増加剤の提供。
【解決手段】本発明は、グルタミン酸又はその塩を有効成分とするリンパ球増加剤、及び免疫賦活剤を提供する。グルタミン酸又はその塩は、みるべき毒性や副作用がないため安全で、食品の形態に供することもでき、高齢者や抵抗力の衰えたヒトへの適用にも適する。免疫力が増強される結果、全身状態が改善し、心身の活動が活性化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸又はその塩を有効成分とする免疫賦活剤、より詳しくは末梢血リンパ球数の増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ球は免疫系に作用する細胞であり、末梢血のリンパ球が急激に減少すると、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染を起こしやすくなり、反復感染症を起こしたり、通常は良性の感染因子にしばしば異常な反応をしたり、まれな微生物の感染を発現することが知られている。たとえば、ニューモシスチス−カリニ、サイトメガロウイルス、麻疹、寄生虫などの感染に罹患しやすくなり、これらの感染症による肺炎は、しばしば致命的になるため、体力の弱った高齢者、栄養不全者、癌患者等の治療上大きな問題となっている。
末梢血リンパ球の減少を伴う状態として、栄養失調、放射線療法、極度のストレス、免疫抑制療法、遺伝性リンパ球減少(無ガンマグロブリン血症、ディ・ジョージ奇形、ヴィスコット−オールドリッチ症候群、重症複合免疫不全症候群、毛細血管拡張性運動失調など)、ウイルス感染(HIV、肉芽腫感染、ホジキンリンパ腫など)、急性細菌・真菌感染、蛋白漏出性胃腸症、などが挙げられる。
東南アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国においては、いまなお慢性的な栄養失調状態の人々が多く暮らしており、これらの国々では感染症に対する防御力を如何に付けさせるかが公衆衛生学上、もっとも解決されるべき課題のひとつとして取り上げられている。また、HIV(Human Immunodeficiency Virus)感染率はこれら途上国で高く、抗ウイルス剤と併用して末梢リンパ球数の低下を遅らせる治療法の開発が求められている。
一方、先進国においては、医学の進歩がもたらした平均寿命の延長の恩恵を受ける一方で、介護施設・病院等に入居している高齢者の介護・治療上は慢性的な循環リンパ球数の低下に伴う、細菌・真菌・ウイルス感染から如何に守っていくことができるかが重要な問題となっている。また、放射線療法や抗がん剤治療中の癌患者や免疫抑制療法中の免疫疾患患者・移植患者も、循環リンパ球の低下による易感染に対しては、対症療法的なガンマグロブリン投与や無菌環境による感染防御措置がとられるにすぎず、循環リンパ球の数を改善する抜本的な予防法の開発に迫られている。
【0003】
このような免疫機能低下症状を治療ないし予防するために、リンパ球の活性化を促すことで免疫を増強するタイプの、免疫増強剤が種々知られている。このタイプの免疫増強物質としては、多糖類キノコ抽出物(クレスチン、レンチナンなど)とヤドリギの植物抽出物(ミスルトー)、ポリガンマグルタミン酸が知られている(特許文献1)。これらの免疫増強物質はマクロファージ、T細胞、NK細胞の活性を増加させると共に、インターフェロン、インターロイキン−2のような各種のサイトカインの産生を促進して免疫力を増強させる物質である。また、ほかに民間で伝統的に使用されている免疫力を増強させる物質としては、人参(紅参、仙参など)、ニンニク、竹塩、豆類食品、発酵食品、緑汁と各種野菜、有機ゲルマニウム、各種酵母食品、ニレの木の皮、各種海藻類などがある。これら全ての一般的な免疫増強物質は、末梢血リンパ球数を増加させるのではなく、リンパ球の活性化を促すことで免疫を増強する。
【0004】
他方、末梢血の血球成分を増加することによって免疫機能を増強する方法としては、骨髄移植や様々な造血因子の投与療法が用いられてきている。たとえば、好中球などの顆粒球に対するヒト顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、赤血球に対するエリスロポエチン(EPO)、血小板に対するトロンボポエチン(TPO)が挙げられる。末梢血リンパ球数を増加させる特異的な治療の試みとしては、種々のサイトカイン(インターロイキンやインターフェロンなど)を用いることが多いが、これらのサイトカインは造血作用だけでなく、同時に様々な生理作用が副作用として発現(悪寒、振戦、発熱、骨形成不全など)するため、利用に制限がかかると同時に、バイオ医薬品のため製造コストがかかり、高額の医療費を伴うものである。
【0005】
また、栄養素により、末梢リンパ球数を増加させる試みが、蛋白栄養改善や、アミノ酸であるグルタミンによりなされている(非特許文献1)。しかし、グルタミンは製造コストが高くまた、物性面(水溶液中で不安定)から製剤化等にも制限がかかるため、より、安価で安定で多方面の供給形態に対応可能な機能性本体の開発が求められていた。
非特許文献1におけるグルタミンのリンパ球増殖効果は、グルタミンがリンパ球増殖時のエネルギー源かつ核酸の原料となるなどの直接作用に起因し、生体内でグルタミンによるリンパ球増殖促進を期待するためには骨髄あるいはリンパ節等にグルタミンが到達する必要があると考えられている。しかし、グルタミンの加水分解物に相当するグルタミン酸を、リンパ球培養上清中に添加しても、グルタミンのような細胞増殖促進効果は知られていないこと、また、食事と共にグルタミン酸を経口摂取しても血中グルタミン酸及びグルタミン濃度は増加しないことが知られていること(非特許文献2)から、グルタミンの生理活性及び作用メカニズムから、グルタミン酸の末梢血リンパ球数増加作用は予測されていなかった。
【特許文献1】特開2005−187427号公報
【非特許文献1】Newsholme P, J Nutr. 2001 Sep;131(9 Suppl):2515S-22S
【非特許文献2】Glutamic acid: Advances in biochemistry and physiology, Edited by L. J. Filer et al., Raven Press (New York) 1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、末梢血中のリンパ球の数を増加させる、新規、かつ、安価で安定なリンパ球増加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討し、グルタミン酸又はその塩に、末梢血リンパ球を増加させる作用があり、免疫賦活剤として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の内容を包含する。
(1)グルタミン酸又はその塩を有効成分とする免疫賦活剤。
(2)免疫賦活が、末梢血中のリンパ球を増加する作用に基づくものである、上記(1)に記載の免疫賦活剤。
(3)グルタミン酸又はその塩の成人1日当たり摂取量が、グルタミン酸換算で、75〜10,000mg、好ましくは2,000〜10,000mgである、上記(1)又は(2)に記載の免疫賦活剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の免疫賦活剤を含有する医薬組成物。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の免疫賦活剤を含有する食品組成物。
(6)グルタミン酸又はその塩を有効成分とする、末梢血中のリンパ球増加剤。
(7)グルタミン酸又はその塩の成人1日当たり摂取量が、グルタミン酸換算で、75〜10,000mg、好ましくは2,000〜10,000mgである、上記(6)記載の末梢血中のリンパ球増加剤。
(8)食品が、特定保健用食品である、上記(5)に記載の食品組成物。
(9)上記(5)〜(8)のいずれか1に記載の食品組成物と、当該食品が免疫を賦活化する目的又は末梢血中のリンパ球を増加する目的で摂取されるものであること、及び摂取の方法に関する説明を記載した記載物を含む包装物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の末梢血リンパ球増加剤や免疫賦活剤の投与により、造血効果が奏され、低下した末梢血リンパ球数を増加させることができる。その結果、免疫を賦活化し、さらに、単に感染防御機能を増強させるだけでなく、心身の活力を回復させることで高齢者ないし患者のQOL全般を改善することができる。グルタミン酸又はその塩は、みるべき毒性がなく副作用がないため、病者及び高齢者に対しても、予防及び治療の目的で長期間投与が可能である。
グルタミン酸塩は水溶液中やある程度の加熱によっても長期安定であり、あらゆる供給形態に対応が可能であるため、前記非特許文献1に記載されたグルタミンに比較しても極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、グルタミン酸は、フリーの酸又はその塩のいずれであってもよい。塩は、無機塩、有機塩のいずれでもよく、無機塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、あるいはカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩が、また、有機塩としては、例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩、あるいはアルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸塩、さらに塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸塩、ギ酸、蓚酸、酢酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マロン酸、メタンスルホン酸等の有機酸塩、等が例示される。これらの塩は、特定の1種類を使用してもよく、又は2種以上を混合して使用してもよいが、入手の容易性、取り扱い性等の点から、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩又は有機アミン塩、塩基性アミノ酸塩が好ましい。
また、本発明において、グルタミン酸又はその塩は、水和物であってもよい。
【0010】
本発明において、「免疫賦活剤」は、医薬(医薬組成物)及び食品(食品組成物)の態様を包含する。さらに、本発明の食品組成物としては、栄養機能食品や特定保健用食品などの機能性食品を含み、また、免疫賦活剤の実施の態様として、本発明に係る医薬や食品とともに、当該医薬又は食品が免疫を賦活化する目的又は末梢血中のリンパ球を増加する目的で投与ないし摂取されるものであること、及び投与又は摂取方法に関する説明を記載した記載物を含む包装物とすることができる。
【0011】
本発明の免疫賦活剤は、薬学的な組成物の製造に通常使用する適切な賦形剤及び希釈剤等を添加し、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの固形及び液状経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射剤の形態に製剤化して用いることができる。
本発明の免疫賦活剤組成物に含まれていても良い担体、賦形剤、希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、澱粉、グリセリン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニールピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。
さらに、製剤化のために通常用いられる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調剤することもできる。
【0012】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、固形製剤は前記グルタミン酸またはその塩に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース又はラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤することができる。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウムやタルクのような潤滑剤も用いることができる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、頻繁に用いられる単純希釈剤である、水、流動パラフィン以外に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれていても良い。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水溶性製剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水溶性製剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、ハードファット(witepsol)、マクロゴール、Tween 61、カカオ脂、ラウリシルヴァ脂、グリセロゼラチンなどを用いることができる。
【0013】
グルタミン酸又はその塩は、免疫調節を目的として、一般食品類、病者用食品、栄養機能食品、特定保健用食品等の形態として製剤化することができる。このとき、食品中におけるグルタミン酸又はその塩の量は、グルタミン酸換算で食品の全重量に対し0.008〜30重量%とし、好ましくは0.4〜10重量%程度とするが、食品が飲料である場合は、溶解性等の理由から飲料100mLに対し0.008〜10g(0.008〜10重量%)程度であり、0.08〜2g程度が好ましい。食品の形態は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、クッキー、ゼリー、飲料、あるいは一般食品の形態が可能である。
【0014】
本発明の食品組成物には、一般の食品素材をベースとするほか、例えば、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、ミネラル、合成風味剤、天然風味剤、着色剤、充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ぺクチン酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール等を含んでも良い。
【0015】
食品が飲料である場合には、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料、穀類飲料、又は野菜飲料の製造のための果肉や穀物、また炭酸飲料に用いられる炭酸化剤を含んでも良い。また、グルタミン酸又はその塩以外の成分には特別な制限はなく、通常の飲料と同様に様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。天然炭水化物としては、例えば、モノサッカライド(ブドウ糖、果糖など)、ジサッカライド(マルトース、スクロースなど)及びポリサッカライド(デキストリン、シクロデキストリンなど)のような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。上述したもの以外の香味剤としては、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(レバウディオシド A)、グリシルリチンなど)及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用できる。
これらの素材や成分は独立に、又は組み合わせで用いることができる。このような添加物の割合は、限定的ではないが、本発明の飲料組成物全体の100重量%当り、約0.01〜20重量%の範囲で選択されることが一般的であり、そのうち、前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100mL当たり、一般に約1〜20g(1〜20重量%)、好ましくは、約5〜12gである。
【0016】
食品が、粉末、顆粒、錠剤、又はカプセルである場合は、医薬品について記載した添加剤と手法によって、製剤化することができる。
また、本発明の医薬組成物及び食品組成物は、当該医薬組成物又は食品組成物が、免疫を賦活化する目的又は末梢血中のリンパ球を増加する目的で服用ないし摂取されるものであること、及び服用ないし摂取の方法等に関する説明を記載した記載物を含む包装物とすることができる。
【0017】
本発明で用いられるグルタミン酸又はその塩は、ヒトのほか、免疫増強が必要な動物(例えば、牛、馬、羊、ヤギ、豚、犬、猫、家禽など)に有効量を投与することによって、動物の免疫を増強することができる。この場合、グルタミン酸又はその塩は必要量を飼料に添加し、飼料添加物として投与してもよい。グルタミン酸またはその塩は、感染性疾患に対する免疫力を増強させるために飼料組成物の全体重量に対し、グルタミン酸に換算して0.008〜95重量%、好ましくは、0.08〜80重量%の範囲内で飼料に添加されてもよい。
【0018】
本発明の医薬組成物又は食品組成物には、グルタミン酸又はその塩のほかに、グルタミンなど、他の末梢血リンパ球増加剤、又は、末梢血リンパ球数を増加させるものではないが、リンパ球の活性化を促すことで免疫を増強するタイプの、公知の免疫増強物質を併用してもよい。このタイプの免疫増強物質としては、多糖類キノコ抽出物(クレスチン、レンチナンなど)、ヤドリギの植物抽出物(ミスルトー)、ポリガンマグルタミン酸、人参(紅参、仙参など)、ニンニク、竹塩、豆類食品、発酵食品、緑汁と各種野菜、有機ゲルマニウム、各種酵母食品、ニレの木の皮、各種海藻類などが挙げられる。
これらの一般的な免疫増強物質と併用することで、相乗効果により強い体免疫の強化ができる。あるいは、副作用が問題となっているサイトカイン療法においては、グルタミン酸又はその塩を併用することによって、末梢血リンパ球数を増やすことで、用いるサイトカインの量を軽減し、副作用の発現を抑えることが可能となる。
【0019】
本発明において、グルタミン酸又はその塩の投与量ないし摂取量は、投与対象者の年齢、性別、体重、病態、投与経路によって変動し得るが、通常、グルタミン酸に換算して、成人1日当たり8〜300mg/kg、好ましくは40〜200mg/kgであり、これを、1回に又は数回に分けて投与することができる。1回の投与量ないし摂取量は0.4g〜3g程度が好ましい。
8mg/kgより少ないと末梢血総リンパ球数の増加作用が小さく、また、300mg/kgより多くしても、服用性やコスト上昇に見合うだけの効果の増強傾向が望めないため、適切でない。
本発明において、グルタミン酸又はその塩の成人1日当たり摂取量は、グルタミン酸換算で、好ましくは75〜10,000mg、さらに好ましくは2,000〜10,000mgである。
ただ、前記投与量は如何なる面からも本発明の範囲を限定するものではない。
本発明で用いられるグルタミン酸又はその塩そのものは毒性や副作用がほとんどないので、末梢血リンパ球数の低下の予防、感染症の予防等を目的として、長期間投与することができる。
【0020】
グルタミン酸又はその塩が投与される対象者は、末梢血総リンパ球数が低下し、感染症の発症が懸念される健常人及び高齢者・病者、或いは既に感染症を発症し治療を求められる病者である。末梢血リンパ球数の低下、感染症の発症等の原因には、栄養失調、放射線療法、極度のストレス、免疫抑制療法、遺伝性リンパ球減少(無ガンマグロブリン血症、ディ・ジョージ奇形、ヴィスコット−オールドリッチ症候群、重症複合免疫不全症候群、毛細血管拡張性運動失調など)、ウイルス感染(HIV、肉芽腫感染、ホジキンリンパ腫など)、急性細菌・真菌感染、蛋白漏出性胃腸症などが含まれるが、これらに限定されない。
末梢血総リンパ球数の正常値は、成人で1000〜4800/μLであり、血中総リンパ球はTリンパ球及びBリンパ球からなる。Tリンパ球の約65%がCD4+(ヘルパー)Tリンパ球であり、リンパ球減少症のほとんどの患者にTリンパ球の絶対数の減少、特にCD4+Tリンパ球数の減少がみられることが知られている。したがって、本発明においては、末梢血総リンパ球数が、これより低下した健常者及び患者を適用対象とするが、正常範囲内でも、低下傾向にある健常者及び患者、及びリンパ球数を低下させる可能性のある医療措置を受ける予定の患者や、強いストレスを受ける可能性のある健常者及び患者に対して、グルタミン酸又はその塩を予防的に使用することもできる。
【0021】
以下に、実施例及び製造例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
粥に0.5重量%となるようグルタミン酸一ナトリウム一水和物を添加したものを調製した。
入院高齢被験者(n=11(男2名、女9名)、平均年齢85.8±8.2、平均体重39.7±5.7kg)の病院給食において、このグルタミン酸添加粥を、2ヶ月間、経口で1日3回、1食あたり、グルタミン酸一ナトリウム一水和物として平均0.8gずつ継続摂取させた。
摂取開始前1ヶ月から摂取開始後2ヶ月までの間、喫食率(給食提供重量に対する喫食重量の割合)を測定した。摂取開始直前、摂取開始後1ヶ月、摂取開始後2ヶ月、摂取終了後1ヶ月に、早朝採血し血液指標を測定した。合わせて体重を測定した。
摂取開始前に比較して摂取開始後の喫食率は、グルタミン酸一ナトリウム一水和物を添加した主食の粥、副食ともに有意な差が見られなかった。これに伴い、エネルギー摂取量、及び栄養素別摂取量にも変化はなかった。血液指標については、アルブミン値には有意な変化は見られなかったが、末梢リンパ球数に有意な上昇が見られた(Friedman検定、p<0.05)(図1)。このときC反応性たんぱく質値については変化が見られなかった。
さらに、摂取終了後1ヶ月においては、摂取中に比べて有意に末梢リンパ球数が減少した(Friedman検定、p<0.05)(図1)。
この結果から、エネルギー摂取量及び栄養素別摂取量が同レベルであっても、グルタミン酸一ナトリウムを摂取すれば、末梢リンパ球数が有意に増加することが明らかとなった。
【実施例2】
【0023】
表1に、グルタミン酸添加経腸栄養剤(PEG剤)の、4,000g仕込み時の組成を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
5Lのステンレスバケツに調合水1,420gを計量し、70〜80℃に加温した。次いで、TKロボミックス(特殊機化工業(株))で3,000rpmの攪拌下、デキストリン、グラニュー糖、クエン酸第一鉄ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸三カリウム、グルコン酸ナトリウム、を投入し、溶解させた。次いでこれに、予め70〜80℃に加温した食用油脂と乳化剤を投入した。次いでこれに、乳たんぱく質源原料(フォンテラ社:カゼイン含量66.8重量%)、グルタミン酸一ナトリウム一水和物、ミネラル酵母Mix、香料をこの順で投入混合し、均一な溶解分散状態とした。次いでこれに、溶解した水溶性食物繊維、塩化マグネシウム、乳酸カルシウムを徐々に投入した。さらに、ビタミンMix、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムを投入し、分散溶解させた。これに全重量が4,000gとなるよう調合水で定量した後、均一な状態となるまで溶解分散させ、口栓付きアルミパウチに1包あたり150gとなるよう充填し、110℃、126℃の2段加熱殺菌法によるレトルト殺菌処理を行った。
入院被験者(64歳、男性)は誤嚥性肺炎を起こしたため、グルタミン酸を含まない胃瘻による経腸栄養(PEG)から中心静脈栄養に栄養摂取方法を切り替えたが、C反応性たんぱく質値が高く、発熱を繰り返した。その後症状が落ち着いたため、当該グルタミン酸添加PEG剤を併用することとした。そして当該グルタミン酸添加PEG剤を1日3回、胃内投与した。投与量の推移は図2に示す。
当該グルタミン酸添加PEG剤投与後の末梢リンパ球等の推移は図2に示すとおりであり、末梢リンパ球数は投与後直ちに上昇し、3週間の継続投与により顕著に増加した。このときC反応性たんぱく質値は低値を保ち、変動は見られなかった。
【実施例3】
【0026】
実施例1の試験において、グルタミン酸塩添加粥摂取開始直前と摂取開始後2ヶ月の間の被験者の全身状態の改善について、看護師・介護師による評定を行い、その結果を表2に示した。また摂取開始直前、摂取開始後2ヶ月に、被験者に対して、下記9項目にわたる新長谷川式認知症検査を行い、その結果を図3に示した。
1.年齢?、2.何年何月何日何曜日?、3.今いるところ?、4.3つの言葉の記憶、5.100から7を引き続ける、6.数字列を逆にいう、7.項目4の記憶読み出し、8.5つの品物の記憶、9.野菜の名前をいう。
表2から明らかなとおり、ほとんど全ての被験者で、発語の回復、感情の表出などの心身状態の改善傾向が見られ、新長谷川式認知症検査においては、特に発語の関与する項目について評点の上昇が見られた。
【0027】
【表2】

【0028】
高齢者の慢性的な免疫力低下は、単に感染症に対する防御力を弱めるだけでなく、心身の健康状態の低下にもつながるものであるところ、グルタミン酸又はその塩を服用した被験者は、実施例1に示したとおり末梢血リンパ球が増加して、免疫が増強される結果、心身の健康状態も改善されること、すなわち、QOLの改善がもたらされることが明らかとなった。
【0029】
[製造例]
60メッシュの篩を通過したグルタミン酸一ナトリウム一水和物380g粉末に、80メッシュ篩を通過した乳糖883g及び120メッシュ篩を通過したトウモロコシデンプンを添加し、V型混合機でよく混和する(A末)。他方、60メッシュ篩を通過させたヒドロキシプロピルセルロース16gに滅菌精製水を適宜加え90℃で分散させた後20℃に冷却する(B液)。このB液とA末を双軸練合機で練合し、次いで押し出し造粒機(円筒形0.5−1.0mm)で造粒する。これを60℃、50分間通気乾燥機で乾燥し乾燥顆粒を得ることができる。これをトーネードミルで整粒し、顆粒剤1500gを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、グルタミン酸一ナトリウムを配合した粥摂取時の末梢リンパ球数の変化を示す図である。
【図2】図2は、グルタミン酸一ナトリウムを配合したPEG剤の投与量の推移と、末梢リンパ球数、及びC反応性たんぱく質の変化を示す図である。
【図3】図3は、グルタミン酸一ナトリウムを配合した粥摂取開始前及び摂取開始後2ヵ月の新長谷川式認知症検査の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸又はその塩を有効成分とする免疫賦活剤。
【請求項2】
免疫賦活が、末梢血中のリンパ球を増加する作用に基づくものである、請求項1に記載の免疫賦活剤。
【請求項3】
グルタミン酸又はその塩の成人1日当たり摂取量が、グルタミン酸換算で、75〜10,000mgである、請求項1又は2に記載の免疫賦活剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫賦活剤を含有する医薬組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫賦活剤を含有する食品組成物。
【請求項6】
グルタミン酸又はその塩を有効成分とする、末梢血中のリンパ球増加剤。
【請求項7】
グルタミン酸又はその塩の成人1日当たり摂取量が、グルタミン酸換算で、75〜10,000mgである、請求項6記載の末梢血中のリンパ球増加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−133265(P2008−133265A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276071(P2007−276071)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月26日 特定非営利活動法人日本栄養改善学会により頒布された「栄養学雑誌第64巻5号特別付録 第53回日本栄養改善学会学術総会講演集」に発表
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】