説明

材料表面の処理方法及びその装置

【課題】
材料表面にWJPを適用するに際して、効率良くキャビテーションを発生させる残留応力改善方法及びこれに用いる装置を提供する。また、材料表面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された材料表面での腐食を抑制する残留応力改善方法及びこれに用いる装置を提供する。
【解決手段】
噴射ノズルから材料表面に磁化水を噴射し、磁化水に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により材料に圧縮残留応力を付与する。これにより、材料表面にWJPを適用するに際して、効率良くキャビテーションを発生させることができる。また、材料表面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された材料表面での腐食を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射することにより材料表面の残留応力改善方法及びその装置に係り、特に、磁気処理法(磁化水)を利用した材料表面の残留応力改善方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料表面の残留応力を改善する方法として、キャビテーション気泡を含む高圧水を利用するウォータージェットピーニング(以下「WJP」という。)法がある(特許文献1参照。)。WJP法は、金属材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射し、キャビテーション気泡が崩壊する際の衝撃圧を金属材料表面に与えることにより、金属材料表面の残留応力を改善し、応力腐食割れを防止する方法である。応力腐食割れは材料,応力,環境の因子が重畳した条件下で生ずるが、WJP法はこれら三因子の中から応力因子を取り除くことにより、応力腐食割れを防止する技術である。
【0003】
しかし、特許文献1記載の技術は、炭素鋼,鉄系鋳物及びフェライト系の低合金鋼等を対象とする場合には、施工条件によっては材料表面に形成された不動態皮膜を破壊し、不動態皮膜が破壊された部分と保護膜で覆われた部分で電池が形成されることにより、不動態皮膜が破壊された部分の腐食が生じる可能性がある。また、キャビテーション気泡の成分は大気の組成とほぼ同じであり、キャビテーション噴流衝突面は、酸素が生成するような腐食を加速する環境といえる。
【0004】
一方、炭素鋼,フェライト系の低合金鋼等の耐食性向上に関する技術として、キャビテーション気泡を含む液体を被加工物表面に衝当させてキャビテーション気泡を圧壊させる際に、当該液体がアルカリ性となるようにpHを調整するとともに、圧壊による被加工物表面の電位を上昇させることにより、被加工物表面に不動態層を生成させるものがある
(特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、特許文献2記載の技術は、施工環境がアルカリ性であり、施工後の液処理という環境の観点から問題がある。また、キャビテーション気泡の圧壊により被加工物表面の電位を上昇させ被加工物表面に不動態層の生成を期待した技術であり、防食の観点からは安定施工が懸念される。
【0006】
また、工業界においては、高効率で安定的な施工が求められるが、上記の特許文献1及び2に記載の発明には、キャビテーションを効率良く発生させる施工環境、特に水の条件については記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特許第3162104号公報
【特許文献2】特開2002−12990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、材料表面にWJPを適用するに際して、効率良くキャビテーションを発生させる残留応力改善方法及びこれに用いる装置を提供することを課題とする。また、材料表面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された材料表面の不動態皮膜部での腐食を抑制する残留応力改善方法及びこれに用いる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
噴射ノズルから材料表面に磁化水を噴射し、磁化水に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により材料に圧縮残留応力を付与する。
【発明の効果】
【0010】
材料表面にWJPを適用するに際して、効率良くキャビテーションを発生させることができる。また、材料表面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された材料表面の不動態皮膜部での腐食を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明者は、材料表面にWJPを適用するに際して、磁場を通過させて磁気を帯びた水
(以下「磁化水」という。)を用いることにより、WJPの施行効率が向上することを新たな知見として得た。この新たな知見である磁化水を用いたWJPの施工効率向上を確認するため、アルミニウムに対する壊食試験を実施したので、その実験方法と結果について以下に説明する。
【0012】
図1は、当該壊食試験を行ったWJPの装置を示している。液体を保持するタンク1,高圧水を被加工物14に噴射する噴射ノズル2,高圧ホース4を介して噴射ノズル2に高圧水を供給する液体供給装置90,タンク1内において被加工物14を保持する被加工物保持装置7,噴射ノズル2を被加工物に対しXYZ3軸に移動させる駆動装置8,液体供給装置90及び駆動装置8を制御する制御装置11から構成される。尚、液体供給装置
90は高圧ポンプ3,流量計5及び圧力計6から構成される。
【0013】
試験は、予め油性インクを塗布した被加工物14(アルミニウム平板)に対して高圧水を垂直に噴射し、インクの剥離面積を測定することにより実施した。被加工物14としては、板厚10mmのアルミニウム平板を用いた。また、高圧ポンプ3の圧力を70MPa,高圧水の流量を毎分8リットルとし、噴射ノズル2とアルミニウム平板14との距離を
55mm,高圧水の噴射時間を2分間とした。
【0014】
また、WJPで用いる水を磁化水とするため、噴射ノズル2として、図2に示すノズルを使用した。図2(1)は、磁石付き噴射ノズル2の構造図であり、噴射ノズルの外側にN極の磁石12とS極の磁石13を対向させて設置している。また、図2(2)は、(1)のA−A断面図を示している。噴射ノズルに磁石を設置することにより、ノズル内部が磁場環境下となり、噴流がノズルを通過する際に噴流は磁気を帯びるため、磁化水を用いたWJPの施工が可能となる。試験では、ノズル出口の径がΦ0.8 、先端の角度が90°の噴射ノズルを使用した。また、磁石12,13として1356mTの磁石を用いた。図2に示す噴射ノズル2を用いて、磁化水によるWJPを施工する場合には磁石12,13を取り付け、通常の水を用いる場合には磁石12,13を外してWJPを施工した。
【0015】
図3に試験結果を示す。横軸はWJPによりアルミニウム平板表面に塗布した油性インクが剥離した面積であり、中段(電気無し・磁気有り)は磁化水を用いた場合のインクの剥離面積、下段(電気無し・磁気無し)は通常の水を用いた場合のインクの剥離面積を示している。尚、上段(電気有り・磁気有り)及び“電気”に関する試験内容等については後述する。油性インクの剥離はWJPの高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、油性インクの剥離面積が大きいほど残留応力を改善できる範囲が広いといえる。図3に示すように、通常の水を用いた場合(磁石12,13を取り外した状態の噴射ノズル2を用いた場合)はインクの剥離面積は約600mm2であったが、磁化水を用いた場合(磁石12,13を取り付けた状態の噴射ノズル2を用いた場合)の剥離面積は約900mm2となった。
【0016】
以上の試験結果から、通常の水を用いたWJPに比べ、磁化水を用いてWJPを施工した場合には施工効率が1.5倍となり、従来のWJPに比し施工効率が大幅に改善されることが確認された。
【0017】
磁化水を用いた場合に、WJPの施工効率が改善される(キャビテーションの発生効率が上がる)メカニズムについては、以下のように考えられる。水の沸点は大気圧下では
100℃であるが、100℃という沸点は、水が水分子単独の集合体である場合に予想される沸点より高い沸点である。実際の水の沸点が100℃と高い値になっているのは、水分子が水素結合によりいくつか集まったクラスタ((H2O)n)を形成しているからと考えられる。ここで、水道水などの水のクラスタは12から18個の水分子でできているが、磁力が働いている磁場を通過した水(磁化水)は6個程度の小さなクラスタとなっている。一般に、沸点は分子量の大きい物質ほど高くなるため、磁化水は通常の水より沸点が低下し、より沸騰しやすい水となっていると考えられる。従って、常温においても沸騰現象が発生し、沸騰による気泡が核となりキャビテーションが誘発される結果、通常の水を用いたWJPに比し、磁化水を用いたWJPは高効率の施工を達成することができる。つまり、WJPを施行するに際して、ノズルから噴出する液体を通常の水のクラスタより小さなクラスタである磁化水とすることにより、キャビテーション気泡の発生を促進でき、高効率の施工を達成することができる。
【0018】
発明者は、材料表面にWJPを適用するに際して、磁化水の利用に加えて、被加工物
14を電気的に陰極とし、被加工物14に対して電流を流してWJPを施工することにより、施行効率がさらに向上することを新たな知見として得た。この新たな知見である磁化水の利用に加えて被加工物14に対して電流を流してWJPを施工した場合の施工効率向上を確認するため、アルミニウムに対する壊食試験を実施したので、その実験方法と結果について以下に説明する。
【0019】
図4は、当該壊食試験を行ったWJPの装置を示している。使用した装置は図1と同様なので詳細な説明は省略する。但し、被加工物14を電気的に陰極として被加工物14に対して電流を流すための直流電源9及び電極部10が設置されている。つまり、噴射ノズル2近傍に電極部10を設置するとともに、直流電源9を用いて、電極部から被加工物
14に対して電流を流す。また、制御装置11は液体供給装置90及び駆動装置8に加え被加工物14に流す電流も制御する。また、実験方法や使用した噴射ノズル2についても先の実験方法と同様であるので説明は省略する。
【0020】
図3に試験結果を示す。横軸はWJPによりアルミニウム平板表面に塗布した油性インクが剥離した面積であり、上段(電気有り・磁気有り)は磁化水を用いた場合のインクの剥離面積、下段(電気無し・磁気無し)は通常の水を用いた場合のインクの剥離面積を示している。油性インクの剥離はWJPの高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、油性インクの剥離面積が大きいほど残留応力を改善できる範囲が広いといえる。図3に示すように、油性インクの剥離面積は、磁化水及び電流を用いた場合(磁石12,13を取り付けた状態の噴射ノズル2を用い、且つ電極部10から被加工物14に対して電流を流した場合)は約1800mm2となり、通常の
WJPに比し約3倍の施行効率が得られた。
【0021】
電流を用いた場合に、WJPの施工効率が改善されるメカニズムは、以下のように考えられる。図5は、被加工物14に対して電流を流すことにより、高効率のWJPの施工ができるメカニズムを示す説明図である。図5に示すように、WJPの施工対象となる被加工物14を陰極にし、陽極の電極10から被加工物14に電流を流すことにより、被加工物14表面で水素気泡21が発生する。この気泡21が核となりキャビテーションの発生が誘発されるため、従来のWJPに比し高効率のWJPの施工が達成されると考えられる。
【0022】
さらに、水中でWJPを実施する場合の腐食のメカニズム及び電流を用いてWJPを施行する場合の耐食性に関する検討を行ったのでその内容について以下に記す。
【0023】
図6に炭素鋼,鉄系鋳物及びフェライト系の低合金鋼等を対象にWJPを施工する場合に、施工面に錆びが発生するメカニズム並びに電流による防食のメカニズムを示す。一般的に鉄鋼材料の表面は不動態皮膜15という保護膜で保護されているが、この表面にWJPによるキャビテーション気泡を含んだ高速ジェット流16が当たるとキャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧が作用しこの不動態皮膜15が破壊される(図6(1))。水中環境下では、不動態皮膜15が破壊された部分17は陽極(アノード部)となり、破壊されず保護膜で覆われた部分15が陰極(カソード)となり、この部分で電池が形成される(図6(2))。この電位の高低差により腐食電流18が流れ、不動態皮膜15が破壊された部分17では水と反応して鋼材がイオン化し、腐食が進行する。この腐食は電位の高低差により発生するので、これに打ち勝つだけの直流電流(防食電流19)を外部から強制的に流し込むことにより、電位の高低差をなくすことができる(図6(3))。電位の高低差をなくすことにより、イオン化が防止され、腐食の進行が抑制される。
【0024】
従って、磁化水のみならず電流をも使用してWJPを施行する場合には、施行効率が向上するのみならず、防食効果を得ることができる。
【0025】
次に、鉄鋼材料に対する耐食性についての確認試験を実施したのでその内容について図7から図12を用いて説明する。試験は、鉄鋼材料に対しWJPを実施し、材料表面に発生する錆びの状況を確認することにより行った。
【0026】
具体的な試験の条件は、下表の通りである。
【0027】

【0028】
試験装置は図1又は図4と同様の装置を用いたので詳細な説明は省略する。試験に使用したノズルは、図2に示す噴射ノズル2を用いた。従来のWJP(通常の水を使用した
WJP)を施工する場合は噴射ノズルに磁石を装着せず、磁化水を利用したWJPを施工する場合は噴射ノズルに磁石を取り付けて試験を実施した。また、被加工物14を電気的に陰極とし、水中に浸漬した陽極の電極(電極部10)から被加工物14に電流を流しながら試験を実施する場合は、陽極の電極としてSUS304材を使用し、電流値は60
mAとした。試験条件は、ポンプ圧力を70MPa,高圧水の流量を8リットル/分,高圧水の噴射時間を5分間一定とした。尚、図7から図9の試験ではノズルから被加工物間の距離を55mmとし、図10から図12の試験ではノズルから被加工物間の距離を10mmとした。
【0029】
図7は従来のWJPを実施した場合におけるWJP施行前後の被加工物の表面状況を示した写真である。図7(1)はWJP施工前の表面状況、図7(2)は施工後1日経過した表面状況、図7(3)は施工後19日経過した表面状況、図7(4)は(3)を拡大した写真である。図7(3)及び(4)の写真から、従来のWJPを行う場合、WJP施工後の被加工物表面には錆びが発生していることがわかる。
【0030】
図8は磁化水を用いてWJPを実施した場合におけるWJP施工後の表面状況を示した写真ある。図8(1)はWJP施工直後の表面状況、図8(2)は施工後19日経過した表面状況、図8(3)は(2)を拡大した写真である。図7(3)及び(4)と図8(2)及び(3)をそれぞれ比較すると、磁化水を用いることにより錆びの発生が減少していることがわかる。従って、磁化水を用いたWJPは施行効率のみならず防錆効果上も有効な手段ということができる。
【0031】
図9は磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながらWJPを施工した場合の表面状況を示した写真である。図9(1)はWJP施工直後の表面状況、図9(2)は施工後19日経過した表面状況、図9(3)は(2)を拡大した写真である。図7(3)及び
(4)と図9(2)及び(3)をそれぞれ比較すると、錆びの発生状況が改善されていることがわかる。従って、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながら施工したWJPは防錆効果上も有効な手段ということができる。また、図8(2)及び(3)と図9(2)及び(3)を比較すると、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながらWJPを施工した場合には被加工物表面には錆びが殆ど認められず、磁化水のみを用いた場合と比しても、施行効率のみならず防錆効果上も有効な手段であるということができる。
【0032】
図10は従来のWJPを実施した場合におけるWJP施行前後の被加工物の表面状況を示した写真である。図7との相違は、ノズルから被加工物間の距離を10mmとしたことである。図10(1)はWJP施工前の表面状況、図10(2)は施工後1日経過した表面状況、図10(3)は施工後19日経過した表面状況、図10(4)は(3)を拡大した写真である。図10(3)及び(4)から、従来のWJPを行う場合、WJP施工後の被加工物表面には錆びが発生していることがわかる。また、図10(2)から(4)より、WJP施工後の被加工物表面には一部壊食が認められた。
【0033】
図11は磁化水を用いてWJPを実施した場合におけるWJP施工後の表面状況を示した写真である。図8との相違は、ノズルから被加工物間の距離を10mmとしたことである。図11(1)はWJP施工直後の表面状況、図11(2)は施工後19日経過した表面状況、図11(3)は(2)を拡大した写真である。図10(3)及び(4)と図11
(2)及び(3)をそれぞれ比較すると、磁化水を用いることにより錆びの発生が減少していることがわかる。また、図11(2)及び(3)から、WJP施工後の被加工物表面には壊食が認められたが、壊食を生ずるような条件であっても磁化水を用いたWJPは防錆上有効な手段であるということができる。更に図10(3)及び(4)と図11(2)及び(3)におけるWJP施工後の被加工物表面の壊食状況を比較すると、磁化水を使用した場合は従来のWJPの場合に比して激しく且つ広範囲に壊食していることがわかる。従って、磁化水を使用したWJPは従来のWJPに比して、残留応力を改善するための被加工物に与える衝撃圧がより大きく且つ広くなっており、より高い施行効率を達成することができる。
【0034】
図12は磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながらWJPを施工した場合の表面状況を示した写真である。図9との相違は、ノズルから被加工物間の距離を10mmとしたことである。図12(1)はWJP施工直後の表面状況、図12(2)は施工後19日経過した表面状況、図12(3)は(2)を拡大した写真である。図10(3)及び(4)と図12(2)及び(3)をそれぞれ比較すると、錆びの発生状況が改善されていることがわかる。従って、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながら施工したWJPは防錆効果上も有効な手段ということができる。また、図11(2)及び(3)と図12の(2)及び(3)を比較すると、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながらWJPを施工した場合には、磁化水のみを用いた場合に比し、さらに錆の発生状況が改善されており、施行効率のみならず防錆効果上も有効な手段であるということができる。また、図12(2)及び(3)から、WJP施工後の被加工物表面には壊食が認められたが、壊食を生ずるような条件であっても防錆上有効な手段であるということができる。更に、図
10(3)及び(4)と図12(2)及び(3)におけるWJP施工後の被加工物表面の壊食状況を比較すると、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながらWJPを施工した場合は従来のWJPの場合に比して激しく且つ広範囲に壊食していることがわかる。従って、磁化水を用い且つ被加工物14に電流を流しながら施工したWJPは従来のWJPに比して、残留応力を改善するための被加工物に与える衝撃圧がより大きく且つ広くなっており、より高い施行効率を達成することができる。
【0035】
以上の結果から、材料表面にWJPを適用するに際して磁化水を用いることにより、効率良くキャビテーションを発生させて残留応力を改善することが新たな知見として確認された。また、材料表面にWJPを適用するに際して磁化水を用いることにより、材料表面での錆の発生を抑制することができることがわかった。また、磁化水に加えて、被加工物14に電流を流しながらWJPを施工することにより、より効率的な施工が可能であり、さらにキャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された金属表面の不動態皮膜部での腐食を防止し、材料表面での錆の発生をより抑制することができることが新たな知見として確認された。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の第1の実施例を図1を用いて説明する。本実施例は、被加工物に対して、磁化水を用いてWJPを施工し、被加工物表面の残留応力改善を図るものである。
【0037】
図1は、第1の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。液体を保持するタンク1,高圧水を噴射する噴射ノズル2,高圧ホース4を介して噴射ノズル2に高圧水を供給する液体供給装置90,タンク1内において被加工物14を保持する被加工物保持装置7,噴射ノズル2を被加工物に対しXYZ3軸に移動させる駆動装置8,液体供給装置
90及び駆動装置8を制御する制御装置11から構成される。尚、液体供給装置90は高圧ポンプ3,流量計5及び圧力計6から構成される。
【0038】
WJPで用いる水を磁化水とするため、噴射ノズル2として、図2に示すノズルを使用する。図2は、磁石付き噴射ノズル2の構造図であり、通常の噴射ノズルの外側にN極の磁石12とS極の磁石13を対向させて取り付けている。ノズルに磁石を取り付けることにより、噴射ノズル2から噴射される噴流が磁場を通過して磁気を帯びるため、磁化水を用いたWJPの施工が可能となる。噴射ノズル2としては、ノズル出口の径がΦ0.8 ,先端の角度が90°のノズルを用いることができる。また、磁石12,13としては1356mTの磁石を用いることができる。図2に示す磁気ノズルは最も簡単な構造を示したが、N極とS極の磁石を複数対ノズル軸芯に対し90°ずつずらして取り付ける構造の磁気ノズルもキャビテーションを効率良く発生させるのに有効である。
【0039】
以下、本実施例による被加工物14表面の残留応力改善の作業工程を説明する。まず、タンク1内に水を満たす。次に、被加工物14を被加工物保持装置7に保持させることにより、被加工物14を所定の位置に据え付ける。また、磁化水を発生させるために噴射ノズル2に磁石を取り付ける。尚、噴射ノズル2設置後に磁石を取り付ける代わりに、予め磁石を取り付けたキャビテーションノズル2を設置してもよい。その後、所定の施行条件で、被加工物14の表面にWJPを施行し、被加工物表面の残留応力の改善作業を実施する。被加工物14へのWJPの施行は、高圧ポンプ3を起動して、噴射ノズル2からキャビテーション気泡を含む磁化水を被加工物14に噴射することにより行う。WJP施行後、被加工物14を被加工物保持装置7から取り出して、本発明の第1の実施例における
WJPの作業工程を終了する。
【0040】
尚、被加工物表面の残留応力改善及び被加工物の疲労強度向上を目的とする場合、被加工物14表面に壊食が発生する条件で施工を行うと、疲労強度の向上の観点からは好ましくない。従って、壊食が発生しない条件でWJPを施工することがより好ましく、加工に使用する噴射ノズル2,噴射ノズル2と被加工物間の距離,高圧水の噴射時間,高圧水の噴射流量等の施工条件を予め確認試験により求めた後、条件設定を行う。
【0041】
第1の実施例によれば、磁化水を用いてWJPを施行しているため、通常の水を使用したWJPの施工に比し、効率良くキャビテーションを発生させて残留応力を改善することができる。また、施行効率のみならず防錆効果を得ることもできる。
【実施例2】
【0042】
以下、本発明の第2の実施例を図4を用いて説明する。本実施例は、被加工物に対して、磁化水を用い且つ被加工物に電流を流しながらWJPを施工することにより、被加工物表面の残留応力改善を図るものである。
【0043】
図4は、第2の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。使用する装置は、実施例1と同様であるので詳細な説明は省略する。但し、被加工物14を電気的に陰極として被加工物14に対して電流を流すための直流電源9及び電極部10が設置される。つまり、噴射ノズル2近傍に電極部10を設置するとともに、直流電源9を用いて、電極部
10から被加工物14に対して電流を流す。また、制御装置11は液体供給装置90及び駆動装置8に加え被加工物14に流す電流も制御する。また、噴射ノズル2についても実施例1と同様であるので説明は省略する。
【0044】
以下、本実施例による被加工物14表面の残留応力改善の作業工程についても実施例1と同様であるので詳細な説明は省略する。但し、WJPの施行に際しては、電極部10及び直流電源9を用いて、被加工物14を電気的に陰極として被加工物14に対して電流を流した状態でWJPを施行する。WJP施行後、被加工物14を被加工物保持装置7から取り出して、本発明の第2の実施例におけるWJPの作業工程を終了する。
【0045】
尚、本実施例では、電流を流してWJPを施行する際には、被加工物14を電気的に陰極として電流を流した。逆に、被加工物14を電気的に陽極として電流を流してWJPを施工すると、被加工物14は強制的に電気腐食を発生する。従って、被加工物14の表面が予め錆びているような場合には、その錆びを効率良く落とし、新たな新生面を得ることができる。また、最初に被加工物14を電気的に陽極としてWJPの施工を行い、その後被加工物14を電気的に陰極としてWJP施工を行うことにより、まず錆びた表面に対し効率良く錆び落としの施工を行うことができ、次に錆びが落ちた状態で防錆効果を得る表面改質施工を達成することができる。このように、目的に応じて、被加工物の電気状態を組合せることにより様々な施工が可能である。
【0046】
尚、本実施例では、タンク1内に電極部10を設置したが、絶縁処理や感電防止処置等施せば、タンク1を電極材として用いて、被加工物14に電流を流してWJPを施工することが可能である。また、長時間施工における電極材自身の腐食による消耗や、電極材が腐食しタンク1内の水環境が悪化することによる被加工部材表面の貰い錆び防止等を考慮すると、鉄鋼材料を被加工物として施工する場合は、電極材として鉄鋼材料に比し耐食性に優れた材料を選定することが好ましい。
【0047】
第2の実施例によれば、被加工物に対して、磁化水を用い且つ被加工物に電流を流しながらWJPを施工しているため、金属材料表面にWJPを適用するに際して、効率良くキャビテーションを発生させることができる。また、金属材料表面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡崩壊時の衝撃圧により破壊された金属表面の不動態皮膜部での腐食を防止することができ、防錆効果を得ることもできる。
【0048】
尚、上記各実施例では水中においてWJPを施行したが、気中環境において施工対象部を局部水中環境とする場合においても同様の効果を達成することができる。さらに、被加工物14とてして平板を用いたが、管内面や複雑形状部へ適用しても同様の効果を達成することができる。また、被加工物14は金属に限られず、非金属であっても応力改善効果等を奏することができる。
【0049】
尚、上記各実施例では、磁化水を利用するため噴流ノズルに磁石を設置した噴流ノズル2を用いたが、噴射ノズルの少なくとも一部を磁石で形成することでも、ノズル内部が磁場環境下となり、噴流がノズルを通過する際に噴流は磁気を帯び、磁化水を用いたWJPの施工が可能となる。つまり、噴射ノズル2内部を磁場環境下にすることができれば、磁化水によるWJPの施行が可能となる。また、噴射ノズル先端(流速が早くなる部分)を磁石で製作することにより、更にキャビテーション気泡を効率よく発生することができる。さらに、磁化水を用いてWJPを施工するためには噴射ノズル2に磁石を設置する場合等に限られず、予め製造した磁化水を液体供給装置に供給することにより、液体供給装置から磁化水を噴射ノズル2に供給することも可能である。また、液体供給装置から噴射ノズルまでの間に液体供給装置から供給された液体を磁化水とすることにより、当該磁化水を噴射ノズル2に供給することも可能である。ここで、上記のように磁化水を噴射ノズル2に供給するため、磁化水を発生させる磁化水発生装置を設置することができる。尚、噴射ノズル内部を磁場環境下にする噴射ノズル2の使用と、磁化水供給装置の使用を併用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】磁化水を用いたWJPを施行する装置の構成図。
【図2】磁化水を用いたWJPを施工するための噴射ノズルの構造図。
【図3】通常のWJP,磁化水を用いたWJP並びに磁化水及び電流を用いたWJPにおける施行効率を示す図。
【図4】磁化水及び電流を用いたWJPを施行する装置の構成図。
【図5】電流を用いたWJPにおける施行効率向上のメカニズムを示す図。
【図6】電流を用いたWJPにおける腐食及び防食のメカニズムを示す図。
【図7】通常のWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【図8】磁化水を用いたWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【図9】磁化水及び電流を用いたWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【図10】通常のWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【図11】磁化水を用いたWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【図12】磁化水及び電流を用いたWJPを施行した場合の表面変化を示す図。
【符号の説明】
【0051】
2…噴射ノズル、9…直流電源、10…電極部、11…制御装置、12,13…磁石、14…被加工物、90…液体供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズルから材料表面に磁化水を噴射し、前記磁化水に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記材料に圧縮残留応力を付与する残留応力改善方法。
【請求項2】
噴射ノズルから材料表面に磁化水を噴射して、前記磁化水に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記材料に圧縮残留応力を付与し、
前記キャビテーション気泡の崩壊による前記材料への衝撃圧の付与は、前記材料表面に電流を流しながら行う残留応力改善方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記磁化水は磁場環境下にある前記噴射ノズルの内部を通過することにより生成される残留応力改善方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、前記噴射ノズルには磁石が設置されている及び/又は前記噴射ノズルの少なくとも一部が磁石で形成されている残留応力改善方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、前記磁化水は磁化水生成装置で生成された後、前記噴射ノズルに供給される残留応力改善方法。
【請求項6】
請求項2において、前記材料表面に前記電流が流れている際は、前記材料表面は電気的に陰極である残留応力改善方法。
【請求項7】
請求項2において、前記材料表面に前記電流が流れている際は、前記材料表面は電気的に陽極でありその後前記材料表面を電気的に陰極とする残留応力改善方法。
【請求項8】
請求項2において、前記材料表面に前記電流が流れている際は、前記材料表面は電気的に陰極と陽極を繰り返す残留応力改善方法。
【請求項9】
磁化水を生成する磁化水生成装置と、
キャビテーション気泡を同伴した前記磁化水を材料に噴射する噴射ノズルと、
前記磁化水を前記噴射ノズルに供給する液体供給装置と、
前記液体供給装置を制御する制御装置とを具備する残留応力改善装置。
【請求項10】
供給された液体を磁化水とし、キャビテーション気泡を同伴した前記磁化水を材料に噴射する噴射ノズルと、
前記液体を前記噴射ノズルに供給する液体供給装置と、
前記液体供給装置を制御する制御装置とを具備する残留応力改善装置。
【請求項11】
請求項9において、前記磁化水生成装置から前記液体供給装置に前記磁化水が供給される残留応力改善装置。
【請求項12】
請求項9乃至11の何れかにおいて、前記噴射ノズルの内部は磁場環境下にあることを特徴とする残留応力改善方法。
【請求項13】
請求項9乃至12の何れかにおいて、前記噴射ノズルには磁石が設置されている及び/又は前記噴射ノズルの少なくとも一部が磁石で形成されている残留応力改善装置。
【請求項14】
請求項9乃至13の何れかにおいて、前記材料表面に電流を流すための電源及び電極部を具備する残留応力改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−297569(P2006−297569A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125857(P2005−125857)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】