説明

材料試験機の軸心調整装置

【課題】 全高を小さくしてもつかみ具の位置および角度を容易に調整することができ、また、負荷枠に貫通孔等を形成することなく取付が可能な材料試験機の軸心調整装置を提供する。
【解決手段】 球面状に形成された当接面を備えクロスヘッド23に連結された固定側ベース部30と、固定側ベース部30に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた固定側ナット部70と、球面状に形成された当接面を備えロードセル13を介して上つかみ具に連結された移動側ベース部50と、移動側ベース部50に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた移動側ナット部80と、固定側ナット部70および移動側ナット部80を介して固定側ベース部30と移動側ベース部50とを連結する連結軸90と、連結軸90の軸心の角度と軸心の位置とを調整する調心機構40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片を把持するつかみ具の軸心を調整するための、負荷枠に固定された材料試験機の軸心調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような軸心調整装置が適用される材料試験機は、上つかみ具および下つかみ具によりその両端を把持した試験片に対して負荷を与えながら、ロードセルと変位検出器によりそのときの試験力と変位とを測定することにより、試験片の試験力−変位特性や、S−N線図を求める構成となっている。このような材料試験機においては、上つかみ具と下つかみ具との軸心が整合していないと、正確な材料試験を実行することができない。このため、このような材料試験機においては、上つかみ具と下つかみ具との軸心を調整するための軸心調整装置が配設されている。
【0003】
図11は、このような従来の軸心調整装置113の概要図である。
【0004】
この軸心調整装置113は、クロスヘッド23と上つかみ具111との間に介在されるものであり、クロスヘッド23と上つかみ具111とを連結する連結軸131と、この連結軸131の中央部に固定された枠部材139と、枠部材139の内部で連結軸131の外周部に配設され、クロスヘッド23に固定された角度調整用カラー部材134と、枠部材139の内部で連結軸131の外周部に配設され、上つかみ具111に固定された位置調整用カラー部材135とを備える。
【0005】
連結軸131は、角度調整用カラー部材134、枠部材139および位置調整用カラー部材135を貫通するとともに、連結軸131の上端部は取付板132と螺合しており、連結軸131の下端部は上つかみ具111と螺合している。また、取付板132は、一対のジャッキボルト133を介してクロスヘッド23と連結されている。このため、一対のジャッキボルト133を利用して取付板132をクロスヘッド23に対して上方に移動させることにより、上つかみ具111を所定の力でクロスヘッド23に対して締結することができる。
【0006】
枠部材139は、連結軸131に螺合して固定された支持部137と、連結軸131の周囲を囲う矩形状の枠部136とから構成される。支持部137の上面には、半球状の凸部138が形成されており、角度調整用カラー部材134の下面にはこの凸部138と対応する形状を有する半球状の凹部が形成されている。また、支持部137の下面は平面状となっており、平面状の位置調整用カラー部材135の上面と当接している。
【0007】
図12は、従来の軸心調整装置113における角度調整用カラー部材134付近の平面概要図である。
【0008】
この角度調整用カラー部材134は、平面視において矩形状、あるいは円形等の形状のを有し、その外周面は、枠部材139における枠部136と螺合する4本のネジ141、142、143、144の先端部と当接している。このため、4本のネジ141、142、143、144を調整することにより、枠部材139を連結軸131とともに傾斜させて上つかみ具111の角度を調整することが可能となる。すなわち、4本のネジ141、142、143、144のうち、互いに対向する2本のネジの一方を緩め一方を締めた状態で、枠部材139の半球状の凸部138を角度調整用カラー部材134の半球状の凹部に沿って移動させることにより、枠部材139を連結軸131とともに傾斜させることが可能となる。そして、この連結軸131の傾斜に伴って、上つかみ具111が傾斜する。
【0009】
図13は、従来の軸心調整装置113における位置調整用カラー部材135付近の平面概要図である。
【0010】
この位置調整用カラー部材135は、平面視において矩形状、あるいは円形等の形状を有し、その外周面は、枠部材139における枠部136と螺合する4本のネジ151、152、153、154の先端部と当接している。このため、4本のネジ151、152、153、154を調整することにより、枠部材139を連結軸131とともに移動させて上つかみ具111の位置を調整することが可能となる。すなわち、4本のネジ151、152、153、154のうち、互いに対向する2本のネジの一方を緩め一方を締めた状態で、枠部材139を位置調整用カラー部材135の上面に沿って移動させることにより、枠部材139を連結軸131とともに位置調整用カラー部材135に対して相対的に移動させることが可能となる。そして、この連結軸131の相対的な移動に伴って、上つかみ具111が移動する。
【0011】
この従来の軸心調整装置113においては、枠部材139における支持部137の上面に半球状の凸部138を形成するとともに、支持部137の下面を平面状としているが、半球状の凸部138を形成するには製作コストが高額となることを考慮し、枠部材139の上下両面に円筒状曲面から成る凹部を形成するとともに、その上下に円筒状曲面から成る凸部を形成した一対のカラー部材を配設した軸心調整装置も提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された軸心調整装置においても、上述した4本のネジ141、142、143、144および4本のネジ151、152、153、154に相当するネジを調整することにより、連結軸に連結された上つかみ具の位置および角度が調整可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3849331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の軸心調整装置においては、試験片に試験力が作用した場合にも上つかみ具111の軸心が変化しないように、一対のジャッキボルト133を利用して取付板132をクロスヘッド23に対して上方に移動させることにより、連結軸131に対して大きな引張力を作用させ、上つかみ具111を所定の力でクロスヘッド23に対して締結しておく必要がある。そして、この連結軸131の長さを一定以上とすることにより、上つかみ具111の位置および角度調整を容易に実行できるようにしている。
【0014】
しかしながら、従来の軸心調整装置は、クロスヘッド23を貫通する連結軸131を使用する構成であることから、既存の材料試験機にこの軸心調整装置を追加することは困難である。また、従来の軸心調整装置は、連結軸131の長さを利用してその変形抵抗を減らすことにより、上つかみ具111の位置および角度調整を容易に実行できるようにしたものであることから、軸心調整装置の全高が大きくなってしまい、材料試験機における有効試験空間が小さくなるという問題が生ずる。
【0015】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その全高を小さなものとした場合においてもつかみ具の位置および角度を容易に調整することができ、また、負荷枠に貫通孔等を形成することなく取付が可能な材料試験機の軸心調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、試験片を把持するつかみ具の軸心を調整するための、負荷枠に固定された材料試験機の軸心調整装置であって、球面状に形成された当接面を備え、前記負荷枠に連結された固定側ベース部と、前記固定側ベース部に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた固定側ナット部と、球面状に形成された当接面を備え、前記つかみ具に連結された移動側ベース部と、前記移動側ベース部に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた移動側ナット部と、その両端に前記固定側ナット部および前記移動側ナット部と螺合するネジ部が形成され、前記固定側ナット部および前記移動側ナット部を介して前記固定側ベース部と前記移動側ベース部とを連結する連結軸と、前記連結軸の外周部における前記固定側ベース部と前記移動側ベース部との間の位置に配置され、前記連結軸の軸心の角度と軸心の位置とを調整する調心機構とを備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記調心機構は、前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の一方側に、その中心が前記つかみ具側を向く球面状の当接面が形成され、前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の他方側に、平面状の当接面が形成された調心部材と、その軸心が前記連結軸の軸心に向かう方向を向き、その先端が前記調心部材の外周面と当接する状態で、前記固定側ベース部に配設された複数の調整ネジと、その軸心が前記連結軸の軸心に向かう方向を向き、その先端が前記調心部材の外周面と当接する状態で、前記移動側ベース部に配設された複数の調整ネジと、を備え、前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の一方には、前記調心部材における球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面が形成されるとともに、前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の他方には、前記調心部材における平面状の当接面と対応する形状を有する平面状の当接面が形成される。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記固定側ベース部は、球面状の当接面が形成された当接部材と固定側ベースフランジとを有するとともに、前記移動側ベース部は、球面状の当接面が形成された当接部材と移動側ベースフランジとを有する。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記固定側ベース部における当接部材と固定側ベースフランジの間、または、前記移動側ベース部における当接部材と移動側ベースフランジの間に、前記固定側ベース部における当接部材と固定側ベースフランジの間隔、または、前記移動側ベース部における当接部材と移動側ベースフランジの間隔を変更するためのくさび部材を備える。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記固定側ベース部および前記移動側ベース部は、前記調心部材における球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面が形成された球面ライナー、または、前記調心部材における平面状の当接面と対応する形状を有する平面状の当接面が形成された平面ライナーを備える。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、固定側ベース部と固定側ナット部とに形成された球面状の当接面と、移動側ベース部と移動側ナット部とに形成された球面状の当接面との作用により、その全高を小さなものとした場合においてもつかみ具の位置および角度を容易に調整することが可能となる。このとき、従来のような負荷枠を貫通する連結軸が不要となることから、既存の材料試験機にこの発明に係る軸心調整装置を追加することが可能となる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、固定側ベース部および移動側ベース部と調心部材とに形成された球面状および平面状の当接面の作用により、複数の調整ネジを利用して連結軸の軸心の角度と軸心の位置とを容易に調整することが可能となる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、各当接部材と固定側および移動側のベースフランジを別々の部材とすることにより、機能に適した材質を選択することができるとともに、その加工性を向上させることが可能となる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、くさび部材の作用により連結軸に対して必要な引張力を付与することが可能となる。このため、くさび部材の位置を調整することにより連結軸に対して必要な引張力を付与することができ、また、軸心調整装置を負荷枠やロードセル等に連結した後においても引張力を調整することが可能となる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、固定側ベース部および移動側ベース部に球面ライナーおよび平面ライナーを設けることにより、機能に適した材質を選択することができるとともに、その加工性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明を適用する材料試験機の概要図である。
【図2】この発明に係る材料試験機の軸心調整装置20の縦断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面矢視図である。
【図4】図2におけるB−B断面矢視図である。
【図5】固定側ナット部70を下側から見た斜視図である。
【図6】当接部材32の斜視図である。
【図7】移動側ナット部80の斜視図である。
【図8】当接部材53の斜視図である。
【図9】くさび部材52の斜視図である。
【図10】調心部材41の斜視図である。
【図11】従来の軸心調整装置113の概要図である。
【図12】従来の軸心調整装置113における角度調整用カラー部材134付近の平面概要図である。
【図13】従来の軸心調整装置113における位置調整用カラー部材135付近の平面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明を適用する材料試験機の概要図である。
【0028】
この材料試験機は、基台16と、この基台16上に立設された左右一対のねじ棹17と、左右一対のねじ棹17と螺合するナット部を備え、ねじ棹17に対して昇降するクロスヘッド23とを備える。これらの基台16、一対のねじ棹17およびクロスヘッド23は、試験片10に負荷を付与するための負荷枠を構成する。クロスヘッド23には、上つかみ具11が、この発明に係る軸心調整装置20およびロードセル13を介して付設されている。また、基台16には下つかみ具12が付設されている。試験片10は、その両端をこれらの上つかみ具11および下つかみ具12により把持される。
【0029】
一対のねじ棹17の下端部には、各々、同期ベルト22と係合する同期プーリー21が配設されている。また、この同期ベルト22は、モータ18の駆動により回転する同期プーリー19とも係合している。このため、一対のねじ棹17は、モータ18の駆動により同期して回転する。そして、一対のねじ棹17が同期して回転することにより、クロスヘッド23は、一対のねじ棹17の軸心方向に昇降する。
【0030】
試験片10に負荷される試験力は、ロードセル13により検出される。また、試験片10の上下の標点間の変位量は、変位計14により検出される。ロードセル13および変位計14からの信号は図示しない制御回路に入力される。この制御回路は、ロードセル13および変位計14からの信号に基づいて、モータ18の駆動制御信号を作成する。これにより、モータ18の回転が制御され、引張や圧縮等の各種材料試験が行われる。
【0031】
図2は、この発明に係る材料試験機の軸心調整装置20の縦断面図である。また、図3は、図2におけるA−A断面矢視図であり、図4は、図2におけるB−B断面矢視図である。
【0032】
この軸心調整装置20は、上つかみ具11の軸心の位置と角度とを調整することにより、上つかみ具11と下つかみ具12との軸心を整合させるためのものであり、負荷枠を構成するクロスヘッド23に固定された固定側ベース部30と、この固定側ベース部30に当接する固定側ナット部70と、上つかみ具11にロードセル13を介して連結された移動側ベース部50と、この移動側ベース部50と当接する移動側ナット部80と、固定側ナット部70と移動側ナット部80とを連結する連結軸90と、この連結軸90の外周部における固定側ベース部30と移動側ベース部50との間の位置に配置され、連結軸90の軸心の角度と軸心の位置とを調整する調心機構40とを備える。
【0033】
図5は、固定側ナット部70を下側から見た斜視図である。
【0034】
この固定側ナット部70は、その一方の面に、後述する固定側ベース部30における当接部材32に形成された球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面73を有する。この固定側ナット部70の中央には、連結軸90の上端に形成された雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されたネジ穴72が穿設されている。また、この固定側ナット70の外周面には、固定側ベース部30に配設されたキー固定ネジ37の先端と係合する複数の凹部71が形成されている。
【0035】
再度、図2を参照して、固定側ベース部30は、固定側ベースフランジ31と、当接部材32と、球面ライナー33とを備える。
【0036】
図6は、当接部材32の斜視図である。
【0037】
この当接部材32は、固定側ベースフランジ31に形成された凹部内に配設されるものである。この当接部材32は、その一方の面に上述した固定側ナット部70の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面38を有する。この当接部材32は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、当接部材32の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔39が形成されている。
【0038】
球面ライナー33は、固定側ベースフランジ31の当接部材32とは逆側に形成された凹部内に配設されるものである。この球面ライナー33は、その一方の面に後述する調心部材41に形成された球面状の当接面45と対応する形状を有する球面状の当接面を有する。この球面ライナー33は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、球面ライナー33の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔が形成されている。
【0039】
一対の凹部内に当接部材32と球面ライナー33とを収納した固定側ベースフランジ31は、複数の固定ネジ35により取り付け部材34に固定されており、この取り付け部材34は、複数の固定ネジ36によりクロスヘッド23に取り付けられている。なお、固定側ベースフランジ31を、直接、クロスヘッド23に固定してもよい。
【0040】
図7は、移動側ナット部80の斜視図である。
【0041】
この移動側ナット部80は、その一方の面に後述する移動側ベース部50における当接部材53に形成された球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面81を有する。この移動側ナット部80は、適度の強度を有する材質から構成されている。この移動側ナット部80の中央には、連結軸90の下端に形成された雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が形成されたネジ穴82が穿設されている。
【0042】
再度、図2を参照して、移動側ベース部50は、移動側ベースフランジ51と、くさび部材52と、当接部材53と、平面ライナー54と、押さえライナー64とを備える。
【0043】
図8は、当接部材53の斜視図である。
【0044】
図8に示す当接部材53は、移動側ベースフランジ51に形成された凹部内に配設されるものである。この当接部材53は、その一方の面に上述した移動側ナット部80の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を有する。また、この当接部材53は、その他方の面に、後述するくさび部材52におけるテーパー状の当接面と当接する平面状の4つの当接面61を備える。この当接部材53は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、当接部材53の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔62が形成されている。
【0045】
図9は、くさび部材52の斜視図である。
【0046】
このくさび部材52は、移動側ベースフランジ51に形成された凹部内において、当接部材53と押さえライナー64との間に、連結軸90を中心として4個配設されるものである。これらのくさび部材52は、各々、一対の支持ネジ57により移動側ベースフランジ51に支持されている。また、これらのくさび部材52の両端部は、移動側ベースフランジ51に配設されたキー固定ネジ55の先端と当接している。これらのくさび部材52は、その一方の面に、押さえライナー64と当接する平面状の当接面59を有する。また、これらのくさび部材52は、その他方の面に、当接部材53の当接面61と当接するテーパー状の当接面を有する。このくさび部材52は、適度の強度を有する材質から構成されている。
【0047】
図9に示すように、このくさび部材52の側面には、上述した支持ネジ57と係合する一対のネジ穴58が形成されており、このネジ穴58の間には、座グリ部67が形成されている。一方、図2および図3に示すように、移動側ベースフランジ51には位置調整ネジ56が配設されている。この位置調整ネジ56の軸心は、連結軸90の軸心に向かう方向を向き、その先端部はくさび部材52に形成された座グリ部67と当接している。このため、この位置調整ネジ56を回転させることにより、くさび部材52の連結軸90に対する位置を調整することができる。そして、各くさび部材52の位置を調整することにより、押さえライナー64と当接部材53との距離、即ち、移動側ベース部50における当接部材53と移動側ベースフランジ51の間隔を変更することができる。
【0048】
再度、図2を参照して、押さえライナー64は、移動側ベースフランジ51に形成された凹部内の最上部に配設されるものである。この押さえライナー64は、その一方の面にくさび部材52の当接面59と当接する平面状の当接面を有する。この押さえライナー64は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、押さえライナー64の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔が形成されている。
【0049】
平面ライナー54は、移動側ベースフランジ51の押さえライナー64とは逆側に形成された凹部内に配設されるものである。この平面ライナー54は、その一方の面に後述する調心部材41に形成された平面状の当接面と当接する平面状の当接面を有する。この平面ライナー54は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、平面ライナー54の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔が形成されている。
【0050】
図2に示すように、一方の凹部内に当接部材53と、4個のくさび部材52と、押さえライナー64とを収納し、他方の凹部内に平面ライナー54を収納した移動側ベースフランジ51には、複数の固定ネジ66により図2において仮想線で示すロードセル13が固定されている。そして、図1に示すように、このロードセル13に対して上つかみ具11が固定されている。
【0051】
上述した連結軸90の外周部における固定側ベース部30と移動側ベース部50との間の位置には、調心部材41と、4本の傾斜調整ネジ42と、4本の水平位置調整ネジ43とから構成され、連結軸90の軸心の角度と軸心の位置とを調整する調心機構40が配設されている。
【0052】
図10は、調心部材41の斜視図である。
【0053】
この調心部材41の固定側ベース部30側には、その中心が上つかみ具11側を向く球面状の当接面45が形成されている。この当接面45は、上述した球面ライナー33における球面状の当接面と対応する形状を有する。また、この調心部材41の移動側ベース部50側には、平面状の当接面が形成されている。この調心部材41は、適度の強度を有する材質から構成されている。また、調心部材41の中央には、連結軸90が貫通する貫通孔44が形成されている。
【0054】
調心部材41の側面における傾斜調整ネジ42の先端部に当接する位置には座グリ部46が形成されており、水平位置調整ネジ43の先端部に当接する位置には、座グリ部47が形成されている。傾斜調整ネジ42は、その軸心が連結軸90の軸心に向かう方向を向き、その先端が調心部材41の外周面に形成された座グリ部46と当接する状態で、固定側ベース部30における固定側ベースフランジ31に配設されている。一方、水平位置調整ネジ43は、その軸心が連結軸90の軸心に向かう方向を向き、その先端が調心部材41の外周面に形成された座グリ部47と当接する状態で、移動側ベース部50における移動側ベースフランジ51に配設されている。これらの傾斜調整ネジ42と水平位置調整ネジ43とは、平面視において、90度の角度位置ごとに4本、配設されている。
【0055】
なお、上述した固定側ナット部70の当接面73、当接部材32の当接面38、球面ライナー33の当接面、移動側ナット部80の当接面81、当接部材53の球面状の当接面および平面状の当接面61、くさび部材52の平面状の当接面59およびテーパー状の当接面、押さえライナー64の当接面、平面ライナー54の当接面、調心部材41の球面状の当接面45および平面状の当接面における必要な部分には、耐摩耗性の向上と摩擦低減のため、DLC(ダイヤモンドライクカーボン/Diamond−like Carbon)コーティングがなされている。
【0056】
以上のような構成を有する材料試験機の軸心調整装置20を組み立てる場合においては、最初に、連結軸90の下端部に移動側ナット部80を螺合させる。そして、連結軸90の外周部に、当接部材53、くさび部材52、押さえライナー64、移動側ベースフランジ51、平面ライナー54、調心部材41、球面ライナー33固定側ベースフランジ31および当接部材32を順次積層した上で、連結軸90の上端部に固定側ナット部70を螺号させることにより、これらの部材を一体化する。また、キー固定ネジ37、傾斜調整ネジ42、水平位置調整ネジ43、位置調整ネジ56およびキー固定ネジ55を必要位置に設置する。
【0057】
そして、移動側ベースフランジ51にロードセル13を介して上つかみ具11を取り付ける。また、固定側ベースフランジ31を複数の固定ネジ35により取り付け部材34に固定するとともに、この取り付け部材34を複数の固定ネジ36によりクロスヘッド23に取り付ける。また、基台16には下つかみ具12を取り付けておく。
【0058】
この状態において、この発明に係る軸心調整装置20を利用して、上つかみ具11の軸心の位置と角度とを調整することにより、上つかみ具11と下つかみ具12との軸心を整合させる。この場合には、例えば特開昭64−31033号公報に記載されたように、複数の歪みゲージを取り付けた試験片の両端部を上つかみ具11と下つかみ具12とにより把持した状態で下つかみ具12の軸心の位置と角度とを調整し、そのときの歪みゲージの検出値に基づいて軸心の整合性を確認する作業が実行される。
【0059】
この調整時においては、傾斜調整ネジ42を回転させることにより、連結軸90の軸心の角度を調整するとともに、水平位置調整ネジ43を回転させることにより、連結軸90の軸心の位置を調整する。即ち、4本の傾斜調整ネジ42を所定の方向に回転させることにより、固定側ベースフランジ31と調心部材41との間に一定方向の力を発生させる。これにより、固定側ベース部30における球面ライナー33の球面状の当接面と調心部材41における球面状の当接面45とが当接した状態で、固定側ベース部30と調心部材41とが相対的に移動することになり、連結軸90の軸心の角度が変更される。また、4本の水平位置調整ネジ43を所定の方向に回転させることにより、移動側ベースフランジ51と調心部材41との間に一定方向の力を発生させる。これにより、移動側ベース部50における平面ライナー54の平面状の当接面と調心部材41における平面状の当接面とが当接した状態で、移動側ベース部50と調心部材41とが相対的に移動することになり、連結軸90の軸心の水平方向の位置が変更される。
【0060】
この場合においては、固定側ベース部30における当接部材32の球面状の当接部38と連結軸90の端部に螺合された固定側ナット部70における球面状の当接部73とが当接するとともに、移動側ベース部50における当接部材53の球面状の当接部と連結軸90の端部に螺合された移動側ナット部80における球面状の当接部81とが当接した状態で、連結軸90が変形してその軸心の角度と位置とが変動する構成であることから、連結軸90が比較的短い場合においても、比較的小さな力で連結軸90の軸心の角度と位置を調整することが可能となる。このため、軸心調整装置20の全高を小さなものとした場合においても上つかみ具11の位置および角度を容易に調整することが可能となる。このとき、従来のようなクロスヘッド23を貫通する連結軸が不要となることから、既存の材料試験機にこの軸心調整装置20を追加することが可能となる。
【0061】
連結軸90(すなわち上つかみ具11)の軸心の角度と位置が調整できれば、連結軸90に予め付与されている引張力を必要に応じて調整することにより、軸心調整装置20全体の締付力を適切なものとする。この場合においては、位置調整ネジ56を回転させることにより、4個のくさび部材52を連結軸90の軸心方向に移動させる。これにより、押さえライナー64と当接部材53との距離、即ち、移動側ベース部50における当接部材53と移動側ベースフランジ51の間隔が広がることになり、連結軸90に対して必要な引張力が付与されることになる。
【0062】
この軸心調整装置20においては、くさび部材52の位置を調整することにより連結軸90に対して必要な引張力を付与することができる。このとき、引張力の調整操作を軸心調整装置20の横方向の位置から実行することが可能であることから、軸心調整装置20をコンパクトなものとすることができるばかりではなく、この軸心調整装置20をクロスヘッド23等の負荷枠やロードセル13に連結した後においても、引張力を調整することが可能となる。このため、既存の材料試験機にこの軸心調整装置20を追加する場合に、さらに好適なものとなる。
【0063】
なお、上述した実施形態においては、固定側ナット部70および移動側ナット部80として、単一のナット状の部材を使用している。しかしながら、通常の形状を有する市販のナットとその一方の面が球面となった球面ワッシャとを組み合わせて、これらの固定側ナット部70および移動側ナット部80を構成してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態においては、固定側ベース部30が球面状の当接面38が形成された当接部材32と固定側ベースフランジ31とを備え、移動側ベース部50が球面状の当接面が形成された当接部材53と移動側ベースフランジ51とを備えている。これにより、各当接部材32、53を強度の強い材質で構成するとともに、固定側ベースフランジ31と移動側ベースフランジ51とを、加工性のよい材質で構成することができる。しかしながら、固定側ベースフランジ31と移動側ベースフランジ51に対して直接加工を行うことにより、これらの固定側ベースフランジ31および移動側ベースフランジ51自体に、球面状の当接面を形成してもよい。
【0065】
また、上述した実施形態においては、移動側ベース部50における当接部材53と移動側ベースフランジ51の間に、これらの当接部材53と移動側ベースフランジ51の間隔を変更するためのくさび部材52を配設しているが、固定側ベース部30における当接部材32と固定側ベースフランジ31の間に、これらの当接部材32と移動側ベースフランジ31の間隔を変更するためのくさび部材を配設してもよい。
【0066】
さらに、上述した実施形態においては、この発明に係る軸心調整装置を、一対のねじ棹17の回転により昇降するクロスヘッド23の作用で試験片10に試験力を付与する材料試験機に適用する場合について説明したが、この発明を油圧サーボ式、電磁式あるいはエア式の疲労、耐久試験機に適用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 試験片
11 上つかみ具
12 下つかみ具
13 ロードセル
14 変位計
17 ねじ棹
18 モータ
20 軸心調整装置
23 クロスヘッド
30 固定側ベース部
31 固定側ベースフランジ
32 当接部材
33 球面ライナー
34 取り付け部材
40 調心機構
41 調心部材
42 傾斜調整ネジ
43 水平位置調整ネジ
50 移動側ベース部
51 移動側ベースフランジ
52 くさび部材
53 当接部材
54 平面ライナー
56 位置調整ネジ
64 押さえライナー
70 固定側ナット部
80 移動側ナット部
90 連結軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片を把持するつかみ具の軸心を調整するための、負荷枠に固定された材料試験機の軸心調整装置であって、
球面状に形成された当接面を備え、前記負荷枠に連結された固定側ベース部と、
前記固定側ベース部に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた固定側ナット部と、
球面状に形成された当接面を備え、前記つかみ具に連結された移動側ベース部と、
前記移動側ベース部に形成された当接面と対応する形状を有する球面状の当接面を備えた移動側ナット部と、
その両端に前記固定側ナット部および前記移動側ナット部と螺合するネジ部が形成され、前記固定側ナット部および前記移動側ナット部を介して前記固定側ベース部と前記移動側ベース部とを連結する連結軸と、
前記連結軸の外周部における前記固定側ベース部と前記移動側ベース部との間の位置に配置され、前記連結軸の軸心の角度と軸心の位置とを調整する調心機構と、
を備えたことを特徴とする材料試験機の軸心調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記調心機構は、
前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の一方側に、その中心が前記つかみ具側を向く球面状の当接面が形成され、前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の他方側に、平面状の当接面が形成された調心部材と、
その軸心が前記連結軸の軸心に向かう方向を向き、その先端が前記調心部材の外周面と当接する状態で、前記固定側ベース部に配設された複数の調整ネジと、
その軸心が前記連結軸の軸心に向かう方向を向き、その先端が前記調心部材の外周面と当接する状態で、前記移動側ベース部に配設された複数の調整ネジと、
を備え、
前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の一方には、前記調心部材における球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面が形成されるとともに、
前記固定側ベース部または前記移動側ベース部の他方には、前記調心部材における平面状の当接面と対応する形状を有する平面状の当接面が形成される材料試験機の軸心調整装置。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記固定側ベース部は、球面状の当接面が形成された当接部材と固定側ベースフランジとを有するとともに、
前記移動側ベース部は、球面状の当接面が形成された当接部材と移動側ベースフランジとを有する材料試験機の軸心調整装置。
【請求項4】
請求項3に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記固定側ベース部における当接部材と固定側ベースフランジの間、または、前記移動側ベース部における当接部材と移動側ベースフランジの間に、前記固定側ベース部における当接部材と固定側ベースフランジの間隔、または、前記移動側ベース部における当接部材と移動側ベースフランジの間隔を変更するためのくさび部材を備える材料試験機の軸心調整装置。
【請求項5】
請求項3に記載の材料試験機の軸心調整装置において、
前記固定側ベース部および前記移動側ベース部は、前記調心部材における球面状の当接面と対応する形状を有する球面状の当接面が形成された球面ライナー、または、前記調心部材における平面状の当接面と対応する形状を有する平面状の当接面が形成された平面ライナーを備える材料試験機の軸心調整装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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