説明

材料試験機

【課題】 複数の交流アンプを使用する場合においても、干渉の影響を防止することが可能な材料試験機を提供する。
【解決手段】 基準となる周波数をω0とし、nおよびmを互いに異なる自然数としたときに、ロードセル用アンプのキャリア周波数ωAは、nω0に設定されている。また、変位計用アンプのキャリア周波数ωBは、mω0に設定されている。ロードセル用アンプについてはn周期の検波結果の平均値を出力値とし、変位計用アンプについてはm周期の検波結果の平均値を出力値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片に対して試験力を付与することにより材料試験を実行する材料試験機に関し、特に、複数の交流アンプを備えた材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような材料試験機は、例えば、テーブル上に一対のねじ棹を互いに同期して回転自在に支持するとともに、それらのねじ棹にナットを介してクロスヘッドの両端部を支持した構成を有する。そして、モータの回転により一対のねじ棹を互いに同期して回転させることにより、クロスヘッドを一対のねじ棹に沿って移動させる。クロスヘッドとテーブルとには、それぞれつかみ具などの治具が連結されている。そして、これら一対のつかみ具などの治具により試験片の両端を把持した状態で、クロスヘッドを移動させることにより、試験片に対して試験力を加えるように構成されている。
【0003】
このような材料試験機においては、試験片に作用する試験力はロードセル等によって検出される。また、試験片における標点間の距離の変位量は、変位計により測定される。変位計により測定された変位量のデータは、サンプリング部によりサンプリングされ、試験片の変位データが試験片に対する試験力などのデータとともに取り込まれる。ここで、変位計は、変位計アンプを介して材料試験機に接続されている(特許文献1参照)。また、同様に、ロードセルもロードセル用のアンプを介して材料試験機に接続されている。これらのアンプとして、交流アンプが使用される場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−331256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、材料試験機においては、同時に複数の交流アンプが使用される。このように、複数の交流アンプを使用するときには、互いの信号が干渉するのを防止するために、各アンプのキャリア周波数を異なる値に設定することが好ましい。しかしながら、各交流アンプのキャリア周波数をどの程度異ならせればよいかは明確ではない。また、周波数が異なれば、干渉の影響を小さくすることは可能ではあるが、干渉をゼロとすることは不可能である。特に、LVDT(Linear Variable Differential Transformer)式とも呼称される差動トランス式変位計を使用する場合においては、キャリア周波数に起因する磁界が外部に漏れやすいことから、干渉が特に問題となる。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、複数の交流アンプを使用する場合においても、干渉の影響を防止することが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、複数の交流アンプを備えた材料試験機において、基準となる周波数をω0とし、nおよびmを互いに異なる自然数としたときに、前記複数の交流アンプのうちの一つの交流アンプである第1交流アンプのキャリア周波数ωAをnω0とし、前記複数の交流アンプのうちの他の一つの交流アンプである第2交流アンプのキャリア周波数ωBをmω0とするとともに、前記第1交流アンプについては、n周期の検波結果の平均値を出力値とし、前記第2交流アンプについては、m周期の検波結果の平均値を出力値とすることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1交流アンプの信号に対して、n周期の検波結果の平均値を出力値とする第1検波回路と、前記第2交流アンプの信号に対して、m周期の検波結果の平均値を出力値とする第2検波回路とを備える。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記第1検波回路は、前記第1交流アンプの信号に対して当該第1交流アンプのキャリア周波数と同一の周波数の検波信号を乗算する検波信号乗算手段と、この乗算結果をn周期分積分する積分手段と、この積分結果に1/nを乗算する平均手段とを備えるとともに、前記第2検波回路は、前記第2交流アンプの信号に対して当該第2交流アンプのキャリア周波数と同一の周波数の検波信号を乗算する検波信号乗算手段と、この乗算結果をm周期分積分する積分手段と、この積分結果に1/mを乗算する平均手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
請求項1乃至請求項3に記載の発明によれば、複数の交流アンプを使用する場合においても、干渉の影響を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
【図2】ロードセル用アンプユニット25および変位計用アンプユニット24の概要図である。
【図3】ロードセル用アンプユニット25におけるアンプコントローラ29の要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
【0013】
この材料試験機は、テーブル16と、このテーブル16上に鉛直方向を向く状態で回転可能に立設された一対のねじ棹11、12と、これらのねじ棹11、12に沿って移動可能なクロスヘッド13と、このクロスヘッド13を移動させて試験片10に対して試験力を付与するための負荷機構30とを備える。
【0014】
クロスヘッド13は、一対のねじ棹11、12に対して、図示を省略したナットを介して連結されている。各ねじ棹11、12の下端部には、負荷機構30におけるウォーム減速機32、33が連結されている。このウォーム減速機32、33は、負荷機構30の駆動源であるサーボモータ31と連結されており、サーボモータ31の回転がウォーム減速機32、33を介して、一対のねじ棹11、12に伝達される構成となっている。サーボモータ31の回転によって、一対のねじ棹11、12が同期して回転することにより、クロスヘッド13は、これらのねじ棹11、12に沿って昇降する。
【0015】
クロスヘッド13には、試験片10の上端部を把持するための上つかみ具21が付設されている。一方、テーブル16には、試験片10の下端部を把持するための下つかみ具22が付設されている。引っ張り試験を行う場合には、試験片10の両端部をこれらの上つかみ具21および下つかみ具22により把持した状態で、クロスヘッド13を上昇させることにより、試験片10に試験力(引張荷重)を負荷する。
【0016】
このときに、試験片10に作用する試験力はロードセル14によって検出され、ロードセル用アンプユニット25を介して演算制御部23に入力される。また、試験片10における標点間の距離の変位量は、変位計15により測定され、変位計用アンプユニット24を介して、演算制御部23に入力される。
【0017】
演算制御部23はコンピュータやシーケンサーおよびこれらの周辺機器によって構成されており、ロードセル14および変位計15からの試験力データおよび変位量データを取り込んでデータ処理を実行する。また、サーボモータ31は、この演算制御部23により、フィードバック制御される。
【0018】
図2は、上述したロードセル用アンプユニット25および変位計用アンプユニット24の概要図である。
【0019】
図2(a)に示すロードセル用アンプユニット25は、ロードセル用アンプ28と、アンプコントローラ29とを備える。同様に、図2(b)に示す変位計用アンプユニット24は、変位計用アンプ26と、アンプコントローラ27とを備える。ここで、基準となる周波数をω0とし、nおよびmを互いに異なる自然数としたときに、ロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAは、nω0に設定されている。また、変位計用アンプ26のキャリア周波数ωBは、mω0に設定されている。
【0020】
図3は、上述したロードセル用アンプユニット25におけるアンプコントローラ29の要部を示すブロック図である。このアンプコントローラ29は、検波回路40と、回転行列回路50と、キャリブレーション回路60と、デジタルフィルタ70とを備える。
【0021】
検波回路40は、ロードセル用アンプ28からの信号を検波、すなわち、復調するためのものである。
【0022】
この検波回路40は、ロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAを示すアドレス情報が入力されることにより、このキャリア周波数ωAと同じ周波数の余弦波を検波信号として出力するための波形メモリ41を備える。ロードセル用アンプ28からのx成分(実数成分)の信号と、この検波信号とは乗算される。この乗算結果は、n周期積分回路42によりn周期分積分される。そして、この積分結果は、1/n平均化回路43において1/nが乗算されることにより平均化される。
【0023】
また、この検波回路40は、ロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAを示すアドレス情報が入力されることにより、このキャリア周波数ωAと同じ周波数の正弦波を検波信号として出力するための波形メモリ44を備える。ロードセル用アンプ28からのy成分(虚数成分)の信号と、この検波信号とは乗算される。この乗算結果は、n周期積分回路45によりn周期分積分される。そして、この積分結果は、1/n平均化回路46において1/nが乗算されることにより平均化される。
【0024】
回転行列回路50においては、回転行列定数設定部51の作用により、検波回路40により検波されたx成分(実数成分)の信号と回転行列定数aとが乗算されるとともに、回転行列定数設定部52の作用により、検波回路40により検波されたy成分(虚数成分)の信号と回転行列定数bとが乗算された後、これらの信号が加算される。これにより、検出信号と試験片10の変位の座標系の整合がなされる。なお、この回転行列回路50については、例えば、特開2008−76299号公報に開示されている。
【0025】
しかる後、キャリブレーション回路60におけるオフセット調整部61の作用により、オフセットが調整されるとともに、キャリブレーション回路60におけるゲイン調整部62の作用により、ゲインが調整された後、デジタルフィルタ70を介して、図1に示す演算制御部23に出力信号が出力される。
【0026】
なお、変位計用アンプユニット24におけるアンプコントローラ27は、上述したロードセル用アンプユニット25におけるアンプコントローラ29と同様の構成を有する。但し、一対の波形メモリには、変位計用アンプ26のキャリア周波数ωBを示すアドレス情報が入力される。また、n周期分の積分を実行するn周期積分回路42、45にかえて、m周期分の積分を実行するm周期積分回路が使用されるとともに、1/nを乗算する1/n平均化回路43、46にかえて、1/mを乗算する1/m平均化回路が使用される。
【0027】
次に、以上のような構成を有する材料試験機のロードセル用アンプユニット25および変位計用アンプユニット24の干渉状態について検討する。
【0028】
上述したように、ここで、基準となる周波数をω0とし、nおよびmを互いに異なる自然数としたときに、ロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAと変位計用アンプ26のキャリア周波数ωBとは、下記の数式1で表される。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、干渉がない場合において、ロードセル用アンプ28において検出される信号は、下記の数式2となる。
【0031】
【数2】

【0032】
この信号をejωt で検波する。f(t)のフーリエ変換をF(ω)とした場合には、下記の数式3が成立する。
【0033】
【数3】

【0034】
ここで、f(t)の座標を(x,y)とした場合には、下記の数式4が成立する。
【0035】
【数4】

【0036】
さらに演算をすすめると、下記の数式5および数式6が成立する。
【0037】
【数5】

【0038】
【数6】

【0039】
次に、干渉が生じた場合について考察する。数式2に示す条件の下、これに変位計用アンプユニット24の信号が干渉する場合には、ロードセル用アンプ28において検出される信号は、下記の数式7となる。
【0040】
【数7】

【0041】
この数式7において、フーリエ変換をロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAのn周期分だけ実行する。すなわち、ロードセル用アンプ28の出力に対して、n周期の検波結果の平均値を演算する。ロードセル用アンプ28において検出される信号g(t)のフーリエ変換をG(ω)とした場合には、下記の数式8が成立する。
【0042】
【数8】

【0043】
この数式8における(x,y)は、下記の数式9で求められる。
【0044】
【数9】

【0045】
この数式9に、上述した数式1および数式7を代入する。x成分(実数成分)については下記の数式10が成立し、y成分(虚数成分)については下記の数式11が成立する。
【0046】
【数10】

【0047】
【数11】

【0048】
この数式10および数式11に、再度、数式1を代入すると、下記の数式12となる。
【0049】
【数12】

【0050】
この数式12は、上述した数式5および数式6の計算結果と同じ値となっている。すなわち、数式1のように、ロードセル用アンプ28のキャリア周波数ωAと変位計用アンプ26のキャリア周波数ωBとを決定するとともに、ロードセル用アンプ28についてはn周期の検波結果の平均値を出力値とし、変位計用アンプ26についてはm周期の検波結果の平均値を出力値とすることにより、ロードセル用アンプ28と変位計用アンプ26との間の相互干渉を完全にキャンセルすることが可能となる。
【0051】
なお、上述した実施形態においては、ロードセル用アンプ28と変位計用アンプ26との2個の交流アンプ間での相互干渉を防止しているが、3個以上の交流アンプ間の相互干渉も同様に防止することができる。この場合においては、各アンプ間において、上述した数式1の関係が成立するようにすればよい。
【符号の説明】
【0052】
10 試験片
11 ねじ棹
12 ねじ棹
13 クロスヘッド
14 ロードセル
15 変位計
16 テーブル
21 上つかみ具
22 下つかみ具
23 演算制御部
24 変位計用アンプユニット
25 ロードセル用アンプユニット
26 変位計用アンプ
27 アンプコントローラ
28 ロードセル用アンプ
29 アンプコントローラ
30 負荷機構
31 サーボモータ
40 検波回路
41 波形メモリ
42 n周期積分回路
43 1/n平均化回路
44 波形メモリ
45 n周期積分回路
46 1/n平均化回路
50 回転行列回路
60 キャリブレーション回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の交流アンプを備えた材料試験機において、
基準となる周波数をω0とし、nおよびmを互いに異なる自然数としたときに、
前記複数の交流アンプのうちの一つの交流アンプである第1交流アンプのキャリア周波数ωAをnω0とし、前記複数の交流アンプのうちの他の一つの交流アンプである第2交流アンプのキャリア周波数ωBをmω0とするとともに、
前記第1交流アンプについては、n周期の検波結果の平均値を出力値とし、前記第2交流アンプについては、m周期の検波結果の平均値を出力値とすることを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記第1交流アンプの信号に対して、n周期の検波結果の平均値を出力値とする第1検波回路と、
前記第2交流アンプの信号に対して、m周期の検波結果の平均値を出力値とする第2検波回路と、
を備える材料試験機。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機において、
前記第1検波回路は、前記第1交流アンプの信号に対して当該第1交流アンプのキャリア周波数と同一の周波数の検波信号を乗算する検波信号乗算手段と、この乗算結果をn周期分積分する積分手段と、この積分結果に1/nを乗算する平均手段とを備えるとともに、
前記第2検波回路は、前記第2交流アンプの信号に対して当該第2交流アンプのキャリア周波数と同一の周波数の検波信号を乗算する検波信号乗算手段と、この乗算結果をm周期分積分する積分手段と、この積分結果に1/mを乗算する平均手段とを備える材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−227008(P2011−227008A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99321(P2010−99321)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】