説明

材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品

【課題】 塗装を行うこと無く、塗装と同等の外観、質感を有する樹脂成形品を得ることができる材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 材着樹脂成形用の樹脂材料は、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が50%以上で、且つ入光角(12)60度、受光角(14)62度で測定した光沢値が80以上であるベース樹脂に、染料、無機顔料、有機顔料のうちの少なくとも1種の着色材を添加するとともに、ガラスフレーク、マイカ、酸化金属系コーティングガラスフレーク、アルミ粉のうちの少なくとも1種の光輝材を0.1〜2.0wt%添加することを特徴とする。樹脂成形品は、この樹脂材料を用いて成形したものであって、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が4.0%以下で、且つ入光角(12)60度、受光角(14)62度で測定した光沢値が80以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品には、色の深み感やキラ感のある外観、質感を付与するために、塗装が行なわれている。しかしながら、塗装は、複雑な工程や高価な設備、塗料を必要とするため、コストアップの要因となっている。また、塗装による環境負荷物質の大気中への放出も指摘されている。
【0003】
一方、樹脂材料に予め着色材や光輝材等を直接添加して成形することにより、成形後の塗装を行うこと無く、着色や光輝性を与えることが可能ないわゆる材着法がある。例えば、特開2002−125535号公報には、無色または顔料または染料で着色された透過率80%以上の透明ベース樹脂に、金属粉またはガラス粉の光輝材を添加することが記載されている。また、特許第2910579号公報や特開平11−244173号公報には、透明性を有する樹脂に銀等の金属で被覆したガラス粉状体をメタリック顔料として添加使用することが記載されている。
【特許文献1】特開2002−125535号公報
【特許文献2】特許第2910579号公報
【特許文献3】特開平11−244173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような材着法による樹脂製品は、塗装を行わなくて良い分、コスト的に有利だが、外観の点では、塗装に対して劣るという問題がある。特開2002−125535号公報に記載されているようなベース樹脂選定や光輝材選定による材料設計では、塗装と同等の色合いや色の深みが表現できず、塗装品に比べ、外観や質感が低下する。特許第2910579号公報や特開平11−244173号公報の技術も同様で、メタリック顔料を添加する樹脂の制限をおこなっていないため、塗装と同等の色の深み感は表現できず、塗装品に比べ、外観や質感が低下する。よって、高級感の不可欠な商品などに対しては、塗装せざる得ない部品が必要となる。
【0005】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、塗装を行うこと無く、塗装と同等の外観、質感を有する樹脂成形品を得ることができる材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る材着樹脂成形用の樹脂材料は、ベース樹脂に着色材および光輝材を添加した材着樹脂成形用の樹脂材料であって、前記ベース樹脂は、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が50%以上で、且つ入光角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上であり、前記着色材は、染料、無機顔料、有機顔料のうちの少なくとも1種であり、前記光輝材は、ガラスフレーク、マイカ、酸化金属系コーティングガラスフレーク、アルミ粉のうちの少なくとも1種で、且つ前記光輝材の添加量が0.1wt%〜2.0wt%であることを特徴とするものである。
【0007】
このように、ベース樹脂として、全光線透過率および独自の方法で測定した光沢値が所定の条件を満たすものを使用するとともに、着色材および光輝材を所定の配合にすることで、従来の材着樹脂成形品では得ることができなかった色の深み感およびキラ感を与えることができる。したがって、無塗装であっても塗装と同等の外観、質感を有する材着樹脂成形品を得ることができる。
【0008】
前記着色材として無機顔料を用いる場合、該無機顔料の屈折率は前記ベース樹脂の屈折率と略同等であることが好ましい。これによって、より塗装と同等の色の深み感を有する質感を与えることができる。
【0009】
また、本発明は、別の態様として、前記の樹脂材料を用いて成形した樹脂成形品であって、該樹脂成形品は、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が4.0%以下で、且つ入光角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上であることを特徴とするものである。このように樹脂成形品の全光線透過率および独自の方法で測定した光沢値が所定の条件を満たす場合、一般的な自動車用の樹脂部品の肉厚2〜4mmで、光が透過せず、且つ塗装と同等の色の深み感およびキラ感を有する外観、質感を与えることができる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、塗装を行うこと無く、塗装と同等の外観、質感を有する樹脂成形品を得ることができる材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品を提供できる。したがって、樹脂部品の品質を低下させずに、塗装品を無塗装の材料着色品へ代替して、コストダウンを図ることができる。また、樹脂部品への塗装を廃止することにより、環境負荷物質の大気中への放出量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る材着樹脂成形用の樹脂材料およびその樹脂成形品の一実施形態について説明する。先ず、本発明に係る樹脂材料は、ベース樹脂に光輝材と着色材を添加したものである。
【0012】
ベース樹脂としては、試験片の肉厚が3mmで、D65光源を用いた全光線透過率が50%以上であり、且つ入光角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上である樹脂を使用する必要がある。全光線透過率が50%未満では、着色後の色相が白濁する(くすみ)又は色の鮮鋭さが失われるという問題がある。また、光沢値が80未満では、色の深み感が得られないという問題がある。より好ましい範囲は、全光線透過率が60〜100%で、光沢値が85〜150である。このような条件を満たし得る樹脂として、例えば、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン(AES)樹脂や、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)等がある。
【0013】
入光角60度、受光角62度で測定するという本発明独自の測定方法による光沢値を用いることにより、一般的な光沢値の測定方法(JIS K7105では、入光角、受光角ともに60度で測定する)では評価できなかった色の深み感やキラ感の評価を行うことができる。これは、数多くの測定結果と試行錯誤の末、入光角60度、受光角62度での光沢値が、目視評価における色の深み感およびキラ感と一致することを見出したことによるものである。
【0014】
2度の変更角度が目視評価と一致する理由を、図1を参照して説明する。図1(b)に示すように、一般的な測定方法では、樹脂10の表面で反射する光量を測定している。一方、図1(a)に示すように、入射角12と受光角14の角度を2度変えることで、樹脂10の内部の光輝材で反射する光量、すなわち色の深みを測定することできるためであると推測している。
【0015】
光輝材としては、ガラスフレーク、マイカ、酸化金属系コーティングガラスフレーク、アルミ粉を使用する必要がある。これらの所定の材料を使用することで、塗装と同様の光輝感を得ることができる。光輝材の粒径は20〜120μmの範囲が好ましい。この範囲にすることでウエルドラインの発生を抑制することができる。より好ましい範囲は40〜90μmである。
【0016】
光輝材の添加量は、0.1wt%〜2.0wt%とする必要がある。添加量が0.1wt%未満では、光輝(キラ)感が出せず、塗装と同様レベルにすることができない。一方、2.0wt%を超えると、部品として必要な物性の確保が不可能となる。また、光輝材の添加量が増加すると複合材料の価格が上昇するため、塗装部品代替の目的のひとつであるコストダウン効果の点からも、極力少なくするのが好ましい。より好ましい範囲は、0.1〜1.0wt%である。
【0017】
着色材としては、染料、無機顔料、有機顔料を使用する必要がある。染料としては、例えば、アンソラキノン系等が好ましい。無機顔料としては、群青やカーボン等が好ましい。有機顔料としては、フタロシアニン系やペリレン系等が好ましい。一方、白色顔料である酸化チタン(TiO2)の使用は極力避ける。さらに、無機顔料を使用する場合は、ベース樹脂の屈折率と略同等のものを選定して、着色を行なうことが好ましい。例えば、ポリカーボネート(屈折率:1.58)をベース樹脂とし、群青(屈折率:1.50〜1.54)を無機顔料とする組み合わせのように、屈折率の差を0.1以下にすることが好ましい。
【0018】
着色材の添加量は、0.05〜2.00wt%が好ましい。添加量をこの範囲内にすることで、安価かつ物性低下の小さい材料とすることができる。より好ましい範囲は0.05〜1.00wt%である。
【0019】
そして、上記の樹脂材料を用いて成形を行うことで、本発明に係る樹脂成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、上記の所定の原料を所定の配合比で混合し、造粒した後、射出成形法や圧縮成形法等の樹脂製部品を成形する一般的な方法によって、所定の形状の部品に成形することができる。
【0020】
これにより得られた樹脂成形品は、試験片の肉厚が3mmでD65光源を用いた全光線透過率が4.0%以下で、且つ入射角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上の物性を有するものである。全光線透過率が4.0%を超えると、成形品肉厚が2.0〜4.0mmの二輪車カウリングなどに採用した場合に、ヘッドライトの点灯により透けが発生し、部品として成立しなくなる。また、光沢値が80以下では、塗装と同等の色の深みがなくなり、塗装品に比べ、外観、質感が低下する。より好ましい全光線透過率の範囲は0.1〜3.0%である。また、より好ましい光沢値の範囲は85〜150である。
【0021】
本発明で得られる樹脂成形品は、例えばホイールキャップやカウルなどの自動車や自動二輪等の外装部品として適用可能であり、本発明の樹脂成形品を適用することにより、塗装部品よりも、はるかに安いコストで、塗装部品と同等の外観を与えることができ、商品価値の向上に多大に貢献することが可能である。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
ベース樹脂として、全光線透過率50.5%で光沢値83であった市販のAES樹脂を使用し、光輝材として、粒径90μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを0.2wt%添加し、着色材として染料を1.2wt%添加し、射出成形により赤色を呈する樹脂成形品Aを作製した。
【0023】
この樹脂成形品Aの全光線透過率および光沢値を測定したところ、全光線透過率は2.34%、光沢値は82.9であった。また、この樹脂材料Aの外観、質感を目視により評価したところ、塗装と同等の色の深み感とキラ感を有していた。なお、全光線透過率は、スガ試験機株式会社製の分光光度計HZ−2を使用し、JIS K7361−1に準拠して、試験片の肉厚を3mmとし、D65光源を使用して測定した。また、光沢値は、スガ試験機株式会社製のデジタル変角光沢計UGV−5Dを使用し、JIS K7105に準拠したが、入光角60度に対して、受光角62度として測定した。全光線透過率の試験環境は、温度23±2℃で、湿度50±5%の室内(JIS K7361−1に準ずる)で、光沢値の試験環境は、温度23±5℃で、湿度50±20%の室内(JIS K7105に準ずる)で行った。以下の実施例においても同様の条件で測定を行った。
【0024】
(実施例2)
ベース樹脂として、全光線透過率50.5%で光沢値83であった市販のAES樹脂を使用し、光輝材として、粒径90μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを1.5wt%添加し、着色材として染料を1.2wt%添加し、射出成形により赤色を呈する樹脂成形品Bを作製した。この樹脂成形品Bの全光線透過率は1.99%で、光沢値は85.5であった。また、外観、質感の目視評価は塗装と同等であった。
【0025】
(実施例3)
ベース樹脂として、全光線透過率61.9%で光沢値88であった市販のAES樹脂を使用し、光輝材として、粒径90μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを0.2wt%添加し、着色材として、染料を0.8wt%とカーボンブラックを0.03wt%添加し、射出成形により赤色を呈する樹脂成形品Cを作製した。この樹脂成形品Cの全光線透過率は2.3%で、光沢値は83であった。また、外観、質感の目視評価は塗装と同等であった。
【0026】
(実施例4)
ベース樹脂として、全光線透過率50.5%で光沢値83であった市販のAES樹脂を使用し、光輝材として、粒径90μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを0.2wt%添加し、着色材として染料を1.4wt%添加し、射出成形により緑色を呈する樹脂成形品Dを作製した。この樹脂成形品Dの全光線透過率は0.32%で、光沢値は87.1であった。また、外観、質感の目視評価は塗装と同等であった。
【0027】
(実施例5)
ベース樹脂として、全光線透過率50.5%で光沢値83であった市販のAES樹脂を使用し、光輝材として、粒径30μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを1.5wt%添加し、着色材として染料を1.4wt%添加し、射出成形により緑色を呈する樹脂成形品Eを作製した。この樹脂成形品Eの全光線透過率は0.13%で、光沢値は82.3であった。また、外観、質感の目視評価は塗装と同等であった。
【0028】
(実施例6)
ベース樹脂として、全光線透過率80%で光沢値155であった市販のPC樹脂を使用し、光輝材として、粒径90μmの酸化金属系コーティングガラスフレークを0.2wt%添加し、着色材として染料を0.2wt%添加し、射出成形により黒色を呈する樹脂成形品Fを作製した。この樹脂成形品Fの全光線透過率は0.10%で、光沢値は93であった。また、外観、質感の目視評価は塗装と同等であった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】光沢値測定における入射角と受光角を示す模式図であって、(a)が本発明の測定法であり、(b)がJIS K7105で規定する測定法である。
【符号の説明】
【0030】
10 試験片
12 入射角
14 受光角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂に着色材および光輝材を添加した材着樹脂成形用の樹脂材料において、前記ベース樹脂は、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が50%以上で、且つ入光角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上であり、前記着色材は、染料、無機顔料、有機顔料のうちの少なくとも1種であり、前記光輝材は、ガラスフレーク、マイカ、酸化金属系コーティングガラスフレーク、アルミ粉のうちの少なくとも1種で、且つ前記光輝材の添加量が0.1wt%〜2.0wt%である材着樹脂成形用の樹脂材料。
【請求項2】
前記着色材として無機顔料を用いる場合、該無機顔料の屈折率が前記ベース樹脂の屈折率と略同等であることを特徴とする請求項1に記載の材着樹脂成形用の樹脂材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂材料を用いて成形した樹脂成形品であって、該樹脂成形品は、試験片肉厚3mmでD65光源の全光線透過率が4.0%以下で、且つ入光角60度、受光角62度で測定した光沢値が80以上であることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84721(P2007−84721A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276368(P2005−276368)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】