説明

杭圧入工法及び杭圧入引抜機

【課題】オーガケーシングの重量を増大させずに鋼矢板を圧入,引抜することができるとともに、鋼矢板の土砂による閉塞を抑えて効率良く施工することが可能な杭圧入工法及び杭圧入引抜機を提供することを目的とする。
【解決手段】オーガ16による掘削と杭圧入引抜シリンダ10の併用により鋼矢板17を地盤内に圧入,引抜する杭圧入引抜機において、前記杭掴み装置11内に挿通されたオーガケーシング12の相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板13を固着し、鋼矢板17の凹型に形成された中央部17aをオーガケーシング12の外周部に近接配置するとともに該鋼矢板17の継手部17bを固定板13に接する位置に配置し、チャック機構14により継手部17bを固定板13に強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得るようにした杭圧入工法と杭圧入引抜機を基本手段としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設の鋼矢板上に定置して該鋼矢板の反力に基づいてオーガによる掘削と杭圧入引抜機の圧入引抜シリンダの併用により新たな鋼矢板を地盤内に圧入,引抜する工法において、オーガケーシングの重量を増大させることなく効率よく杭圧入引抜作業を施工することができるとともに、現場への搬入を容易にした杭圧入工法及び杭圧入引抜機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の土木基礎工事において、例えば鋼矢板は大きな支持力が得られるとともに経済性に優れているため、永久構造物の外にも護岸工事及び山留め工事、締切り工事等の仮設工事の支持杭として広く採用されている。従来からこれらの鋼矢板の地盤への圧入,引抜工事は、例えば上空制限のない場所ではバイブロハンマとかディーゼルハンマもしくは中堀式などの工法や、静荷重型杭圧入引抜機が用いられており、特に上空制限のある場所とか作業現場が手狭で住宅に隣接している場所では、主として静荷重型杭圧入引抜機が採用されている。
【0003】
この静荷重型杭圧入引抜機とは、既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数の反力掴み装置(クランプ)を設けて、この反力掴み装置により既設杭をクランプすることによって反力を取っており、硬質地盤ではオーガによる掘削と杭圧入引抜機の圧入引抜シリンダの併用により、鋼矢板、H鋼杭、その他の超長尺、超大径の鋼矢板及び鋼管杭の圧入と引抜操作が実施される。中でも鋼矢板は護岸工事及び山留工事、締切り工事等の仮設工事の支持杭として広く採用されている。
【0004】
特許文献1には、剛性が強く、安定して高精度で施工することができるとともに作業時間の短縮化及びコスト削減をはかることができるZ形鋼矢板用圧入装置及びZ形鋼矢板の圧入方法を提供することを目的として、両端部に継手部を有するZ形鋼矢板を掴んで圧入する圧入手段を備えたZ形鋼矢板用圧入装置であって、前記圧入手段は、Z形鋼矢板をその継手部を互いに接合した状態で、二枚ずつ順次圧入するようにしたZ形鋼矢板用圧入装置と圧入方法が記載されている。
【0005】
図7は従来のオーガ併用タイプの静荷重型杭圧入引抜機におけるチャック機構14の一般的な構造を示す要部平断面図であり、このチャック機構14は、鋼矢板17の凹型に形成された中央部17aがチューブ状に形成されたオーガケーシング12の外周部に近接配置され、このオーガケーシング12に建込杭である鋼矢板17を重ね合わせた状態で挟持させる構造が用いられている。チャック機構14には2個の固定側チャック爪18,19と、該固定側チャック爪18,19と対向する位置に可動側チャック爪20,21とが配置されていて、可動側チャック爪20,21に内蔵されたチャックシリンダ22,23の押圧力により可動側チャック爪20,21を用いて鋼矢板17の中央部17aを固定側チャック爪18,19方向に押動してオーガケーシング12に対して鋼矢板17を強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得て、該オーガケーシング12内に挿通されたオーガによる掘削と図外の杭圧入引抜シリンダの併用により鋼矢板17の地盤内への圧入と引抜動作を行う。
【特許文献1】特開2005−127053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の杭掴み装置におけるチャック機構14は、建込用鋼矢板の凹型に形成された中央部をオーガケーシング12の外周部に近接配置し、チャックシリンダ22,23の押圧力によって鋼矢板17をオーガケーシング12側に押動して強固にチャックしているため、チャックシリンダ22,23の過大な押圧力によってオーガケーシング12が不規則に変形して、オーガ掘削機とオーガの動作不良を惹起しやすいという課題がある。また、オーガケーシング12の変形を防止するため、該オーガケーシング12を構成するチューブの肉厚を大きくすると、オーガケーシング12自体の重量増大を招来して製作コストも高騰化してしまうという問題が生じる。
【0007】
特に杭圧入引抜機で施工する建設現場は手狭であるケースが多く、併用されるオーガ掘削機のケーシングの重量が大きくなると、杭圧入引抜機の現場への搬入には大型のクレーンを用いるかもしくは分割して搬入し、現場で組立を行うという作業が必要であり、鋼矢板の大型化と形状の変化にも伴って施工効率の低下を招来して施工計画がスムーズに進行しないケースが生じるという問題がある。
【0008】
そこで本発明はこのような従来の杭圧入引抜機と杭圧入工法が有している課題を解消して、オーガケーシングの重量を増大させずに鋼矢板を圧入,引抜することができるとともに、鋼矢板の土砂による閉塞を抑えて効率良く施工することが可能な杭圧入工法及び杭圧入引抜機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置と、該杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングをチャックするチャック機構とを具備してなり、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダの併用により鋼矢板を地盤内に圧入,引抜する杭圧入引抜機において、前記杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングの相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板を固着し、鋼矢板の凹型に形成された中央部をオーガケーシングの外周部に近接配置するとともに該鋼矢板の継手部を固定板に接する位置に配置し、チャック機構により継手部を固定板に強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得るようにした杭圧入工法と杭圧入引抜機を基本手段としている。
【0010】
前記固定板は、オーガケーシングの断面中心位置から所定寸法だけオフセットさせた位置に固着してある。更に杭掴み装置内のチャック機構に、固定側チャック爪と該固定側チャック爪と対向する位置にあってチャックシリンダの押圧力により建込用鋼矢板の継手部を固定板方向に押動する可動側チャック爪を配置してある。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる杭圧入工法及び杭圧入引抜機によれば、オーガケーシング自体が直接チャックシリンダの過大な押圧力によって強固にチャックされることがないため、該オーガケーシングが不規則に変形したりオーガの動作不良を引き起こす惧れはなく、操作時における鋼矢板の土砂による閉塞を抑えて効率良く施工することが可能な杭圧入工法及び杭圧入引抜機を提供することができる。
【0012】
また、オーガケーシングの変形が生じないことで、該オーガケーシングを構成するチューブの肉厚を小さくすることが可能であり、オーガケーシング自体の重量を軽減して製作コストが低廉化されるとともに、チューブの内径部分に入るオーガスクリュー羽根の直径を大きくして施工効率をより高めることができる。更にオーガケーシングの重量軽減に伴って施工現場が手狭であってもオーガ掘削機とオーガケーシングの現場への搬入も容易であり、鋼矢板の大型化と形状の変化があっても施工効率の低下を招来せずに施工計画をスムーズに進行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面に基づいて本発明にかかる杭圧入工法及び杭圧入引抜機の最良の実施形態を説明する。図1は本発明を適用した圧入引抜機本体1を全体的に示す側面図、図2は同平面図であり、2は台座、3,3は台座2の下部に配設されて既設の鋼矢板をクランプする反力掴み装置である。Fは圧入引抜機本体1の進行方向を示す。台座2上には圧入引抜機本体1の進行方向Fに沿って摺動自在にスライドベース4が配備されており、このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され、この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は、一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ8の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0014】
上記ガイドフレーム7には昇降体9が昇降自在に装着されている。該昇降体9の両側には左右一対の杭圧入引抜シリンダ10,10が取り付けられていて、この杭圧入引抜シリンダ10,10の一端が前記軸受部6に軸支されており、昇降体9を上下駆動するように構成されている。
【0015】
11は杭掴み装置であり、この杭掴み装置11は昇降体9の下方にあって該昇降体9に対して旋回自在に配備されている。図3は施工時の状態を示す側面図であり、上記昇降体9の内方にオーガケーシング12と該オーガケーシング12の外周部に固着された固定板13,13とが挿通されて、チャック機構14により該固定板13,13が昇降体9に強固に支持固定されている。15はオーガ掘削機、16はオーガであり、オーガ掘削機15の起動時にオーガ16が回動して地盤の掘削を行う。
【0016】
図4は杭掴み装置11によるオーガケーシング12の固定構造を示す要部平断面図であり、図3のA−A線に沿って切断した図である。前記チャック機構14内に形成された空間部内に挿通されたオーガケーシング12の相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板13,13が固着されている。
【0017】
17は地盤内に圧入,引抜すべき鋼矢板であり、この鋼矢板17の凹型に形成された中央部17aが前記オーガケーシング12の外周部に近接配置され、該鋼矢板17の継手部17b,17bが前記固定板13,13に接する位置に配置されている。チャック機構14には2個の固定側チャック爪18,19と、該固定側チャック爪18,19と対向する位置に可動側チャック爪20,21とが配置されていて、可動側チャック爪20,21に内蔵されたチャックシリンダ22,23の押圧力により可動側チャック爪20,21を用いて鋼矢板17の継手部17b,17bを固定側チャック爪18,19方向に押動して該鋼矢板17の継手部17b,17bを固定板13,13に強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得てから、オーガ16による掘削と前記杭圧入引抜シリンダ10,10の併用により鋼矢板17の地盤内への圧入と引抜動作を行うように構成されている。
【0018】
かかる構成によれば、建込用の鋼矢板17を地盤に圧入する際の基本操作として、先ず反力掴み装置3に内蔵されたクランプシリンダを用いて既設の鋼矢板をクランプしてから杭掴み装置11に内蔵されたチャックシリンダ22,23により可動側チャック爪20,21を固定側チャック爪18,19方向に押動して、鋼矢板17の継手部17b,17bを2箇所で固定板13,13に強固にチャックすることでオーガ掘削時の回転反力を得ることができる。そしてオーガ掘削機15を起動するとともに杭圧入引抜シリンダ10,10を駆動して、オーガ16による掘削と杭圧入引抜シリンダ10,10の併用により新たな鋼矢板17の地盤への圧入を行う。
【0019】
杭圧入引抜シリンダ10,10のストローク分だけ圧入すると、反力掴み装置3に内蔵のクランプシリンダを開放し、圧入引抜機本体1を搭載しているスライドベース4に摺動自在に配備されている台座2を進行方向Fに沿ってスライドさせ、再度クランプシリンダを用いて既設の鋼矢板をクランプしてから杭掴み装置11のチャックシリンダ22,23によるチャックを解き、圧入引抜機本体1をスライドさせてから杭掴み装置11に新たな鋼矢板17をセットして前記と同様の操作を繰り返して継続的に杭圧入引抜作業を実施する。
【0020】
図5は本発明の他の実施例を示す要部平断面図であり、杭掴み装置11によるオーガケーシング12のチャック手段は前記図4に示すチャック手段と基本的に一致しているため、同一の符号を付して表示してある。図4と図5の実施例では、鋼矢板17の高さ寸法Lが相違しており、両実施例ともに固定板13,13がオーガケーシング12の断面中心位置から寸法aだけオフセットさせた位置にある。また、高さ寸法Lの異なる2種類の鋼矢板17の凹型に形成された中央部17aに近接してオーガケーシング12を配置することができる。図6は本発明を適用した圧入引抜機本体1に、オーガ掘削機15駆動用の油圧ホース巻取装置25を配置した側面図である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上詳細に説明したように、本発明によればオーガによる掘削と杭圧入引抜機の圧入引抜シリンダの併用により鋼矢板を地盤内に圧入,引抜する工法に用いられるオーガケーシング自体が直接チャックシリンダの過大な押圧力によって強固にチャックされることがないため、該オーガケーシングの不規則な変形とかオーガの動作不良を引き起こす惧れがなく、操作時における鋼矢板の土砂による閉塞を抑えて効率良く施工することができるので、当該杭圧入引抜機を利用した永久構造物の外、特に硬質地盤でのオーガによる掘削と圧入引抜シリンダの併用により、鋼矢板、H鋼杭、その他の超長尺、超大径の鋼矢板及び鋼管杭の圧入,引き抜き工事とか護岸工事及び山留め工事、締切り工事等の仮設工事の支持杭としても広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した圧入引抜機本体を全体的に示す側面図。
【図2】図1の平面図。
【図3】施工時の状態を示す側面図。
【図4】オーガケーシングの固定構造を示す要部平断面図。
【図5】本発明の他の実施例を示す要部平断面図。
【図6】本発明を適用した圧入引抜機本体にオーガ掘削機駆動用の油圧ホース巻取装置を配置した側面図。
【図7】従来のオーガ併用タイプの杭圧入引抜機におけるチャック機構の構造を示す要部平断面図。
【符号の説明】
【0023】
1…圧入引抜機本体
2…台座
3…反力掴み装置
4…スライドベース
5…支持アーム
6…軸受部
7…ガイドフレーム
8…傾動シリンダ
9…昇降体
10…杭圧入引抜シリンダ
11…杭掴み装置
12…オーガケーシング
13…固定板
14…チャック機構
15…オーガ掘削機
16…オーガ
17…鋼矢板
17a…中央部
17b…継手部
18,19…固定側チャック爪
20,21…可動側チャック爪
22,23…チャックシリンダ
25…油圧ホース巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置と、該杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングをチャックするチャック機構とを具備してなり、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダの併用により鋼矢板を地盤内に圧入,引抜する杭圧入引抜機において、
前記杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングの相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板を固着し、鋼矢板の凹型に形成された中央部をオーガケーシングの外周部に近接配置するとともに該鋼矢板の継手部を固定板に接する位置に配置し、チャック機構により継手部を固定板に強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得ることを特徴とする杭圧入工法。
【請求項2】
下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置と、該杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングをチャックするチャック機構とを具備してなり、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダの併用により鋼矢板を地盤内に圧入,引抜する杭圧入引抜機において、
前記杭掴み装置内に挿通されたオーガケーシングの相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板を固着し、チャック機構により鋼矢板の継手部を固定板に強固にチャックしてオーガ掘削時の回転反力を得ることを特徴とする杭圧入引抜機。
【請求項3】
前記固定板をオーガケーシングの断面中心位置から所定寸法だけオフセットさせた位置に固着した請求項2記載の杭圧入引抜機。
【請求項4】
杭掴み装置内のチャック機構に、固定側チャック爪と該固定側チャック爪と対向する位置にあってチャックシリンダの押圧力により建込用鋼矢板の継手部を固定板方向に押動する可動側チャック爪を配置した請求項2記載の杭圧入引抜機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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