説明

杭式係留装置

【課題】メンテナンスが容易に行え、また、潮位や海水流の変化に対して全方位に追従できるようにする。
【解決手段】一方が海底に固定され、他方が海水面上に突出する複数個の管状杭1からなる杭式係留装置である。これら各杭1の内部には、軸方向への移動が自在なように抵抗体2を内装すると共に、各杭1の側壁には軸方向に縦スリット1aを設ける。これら抵抗体2と海水面に浮かぶ浮体構造物4とを、縦スリット1aを通して係留索3で繋ぎ、抵抗体2が浮体構造物4の上下動に追従して杭1の内部を移動するように構成する。
【効果】大きな動揺範囲の変化に対しても追従できる。また、浮体構造物の左右揺れや横揺れに対しても、減衰力を促進することができる。さらに、海洋生物の付着も効果的に防止され、メンテナンスが不要になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば浮き桟橋やポンツーン等の浮体構造物の動揺を低減するために用いられる杭式係留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記浮体構造物では、波浪中の動揺を低減させる場合、ロール(横揺れ)、ピッチ(縦揺れ)、ヒーブ(上下揺れ)、スウェイ(左右揺れ)、サージ(前後揺れ)とヨー(船首揺れ)の6モードの動揺をいかに抑えるかが問題である。
【0003】
しかしながら、浮体の構造のみによって全方向の波に対する動揺を低減させることは難しく、たとえば横揺れを低減させることができても、前後方向と上下方向の動揺低減効果が得られないなどの問題があった。したがって、浮体の構造だけでなく、係留系を用いて動揺を低減させることが有効である。
【0004】
この係留系のうち杭方式の係留装置として、水中土面側に引張り力をかけながら浮き桟橋を水中土面に係留する緩衝器を有したものが特許文献1で開示されている。
【特許文献1】特開平6−146236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1で開示された杭式係留装置は、緩衝器が海中にあるので、緩衝器内に侵入した海中生物や汚物や砂の除去といった緩衝器のメンテナンスが困難である。このメンテナンスを行わなければ、緩衝器内に設けられた移動体の上下方向の移動がしにくくなり、係留としての機能が低下する。
【0006】
また、前記特許文献1で開示された杭式係留装置は、緩衝器の上下方向長さによって水位の変動に対応すべきストロークが決定されるが、高潮や津波を考慮して緩衝器12のストロークを長くすると、図8(a)のように干潮時の最低水深に対応できずに浮き桟橋11が海水面上に乗り上げることになる。反対に緩衝器12のストロークを短くすると、図8(b)のように高潮や津波発生時に浮き桟橋11が水没してしまうことになる。
【0007】
さらに、前記特許文献1で開示された杭式係留装置は、前記構成に加えてワイヤー12aで浮き桟橋11を繋いだものであることから、引張りに対しては効果が期待できるが、縮みに対しては効果が期待できない。したがって、図9に示すように、流れの進行方向に対する漂流および浮き桟橋11の水平方向の応答(左右揺れ)、回転方向の応答(横揺れ)の対応が難しい。
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1で開示された杭式係留装置の場合、緩衝器のメンテナンスが困難で、また、上下方向、水平方向、回転方向の応答に対する対応が難しいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の杭式係留装置は、
メンテナンスが容易に行え、また、潮位や海水流の変化に対して全方位に追従できるようにするために、
一方が海底に固定され、他方が海水面上に突出する複数個の管状杭からなり、
これら各杭の内部には、軸方向への移動が自在なように抵抗体を内装すると共に、各杭の側壁には軸方向に縦スリットを設け、
これら抵抗体と海水面に浮かぶ浮体構造物とを、前記縦スリットを通して係留索で繋ぎ、
前記抵抗体が浮体構造物の上下動に追従して杭の内部を移動するように構成したことを最も主要な特徴としている。
【0010】
本発明の杭式係留装置における前記縦スリット部に、ゴム製のリップを設置した場合には、係留索がリップと接触することにより発生する摩擦抵抗によって抵抗体と浮体構造物の動揺を抑えることができるようになる。
【0011】
本発明の杭式係留装置に使用する係留索としては、チェーン、ワイヤー、テンションロッド、弾性体、剛体リンクの何れかを採用することが望ましい。
また、同様に使用する抵抗体としては、球体、楕円体、円柱体の何れかの外形を有するものを採用することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、杭の側壁に軸方向の縦スリットを設けて抵抗体の杭の軸方向への移動に対して、係留索の変位範囲を確保しているので、図6に示すように、大きな動揺範囲の変化に対しても追従できる。
【0013】
また、浮体構造物の左右揺れや横揺れに対しても、抵抗体の動きが、図5に示すように上下方向の動揺に変換されるので、減衰力を促進することができる。
さらに、縦スリットの存在により、図7に示すように、杭内の海水が流動して海水が交換し、海洋生物の付着も効果的に防止されるので、メンテナンスが不要になる。
【0014】
また、縦スリット部にゴム製のリップを設置すれば、係留索とリップとの摩擦抵抗によって抵抗体と浮体構造物の動揺をより効果的に抑えることができる。その際、リップを取り外し可能にしておけば、リップを変更することで摩擦抵抗の調整が容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための各種の形態と最良の形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
図1〜図5は本発明の各種の例について説明する概略図である。
【0016】
図1において、1は一方が海底に固定され、他方が海水面上に突出する管状杭であり、その側壁には軸方向に縦スリット1aが設けられ、その内部には杭1の軸方向への移動が自在なように抵抗体2が内装されている。なお、前記縦スリット1aの幅L(図1(c)参照)は、後述する係留索3の断面の大きさによって決定されるが、強い抵抗力を必要とする場合は若干狭くなるように設定する。
【0017】
この杭1の内部に挿入される抵抗体2は、杭1の内部を軸方向に移動できるものであれば、どのような形状でもかまわないが、たとえば図2(a)に示す球体、(b)に示す楕円体、(c)(d)に示す円柱体の外形を有するものを使用する。なお、図2(d)は円柱体の両側に面取りを施したものである。
【0018】
これら抵抗体2には流体抵抗と摩擦抵抗が作用し、杭1の内面との隙間が大きいほど減衰力が小さく、小さいほど減衰力が大きくなるが、円柱体の方が球体や楕円体よりも大きな作用力を得ることができる。
【0019】
3は前記抵抗体2と海水面に浮かぶ浮体構造物4とを、前記縦スリット1aを介して繋ぐ係留索であり、たとえば図3(a)に示すチェーン、(b)に示す鋼製の素線を撚り合わせたワイヤー、(c)(d)に示すテンションロッド、(e)に示す鉄芯の入ったゴム棒などの弾性体、(f)に示す複数個のリンクを回転又はスライド自在に連結した剛体リンクを使用する。
【0020】
テンションロッドを使用する場合には、テンションロッドの浮体構造物4側端部は、図3(c)に示すように、球面ジョイント5を介して浮体構造物4に取り付けておくことが望ましいが、図3(d)に示すように、鎖のように円環を繋いで結合しても良い。
【0021】
また、前記弾性体を使用する場合は、浮体構造物4との接続部も固定となって可動部がなくなるが、弾性体がばねとなって浮体構造物4の揺動を抑制する効果を奏することが特徴となる。
【0022】
このような構成の本発明の杭式係留装置では、浮体構造物4の減衰力の調整は、抵抗体2の大きさと杭1の内径によって調整される。たとえば抵抗体2が球形の場合は、杭1の内径と球体の直径、楕円体の場合は杭1の内径と楕円体の横断面の径、円柱体の場合は杭1の内径と横断面の直径によって調整される。
【0023】
また、係留索3としてフレキシブルな弾性体やチェーン、ワイヤーなどを使用する場合は、特に違いはないが、テンションロッドや剛体リンクを使用する場合は、それら自体が剛体であるので、抵抗体2からのモーメントや慣性力の影響を受けると予想される。
【0024】
したがって、係留索3にテンションロッドや剛体リンクを使用する場合は、抵抗体2が球体、楕円体、円柱体の違いによって、初期の設置位置、すなわちテンションロッドや剛体リンクの抵抗体2に対する設置角度を変化する必要がある。
【0025】
また、牽引索3に弾性体を使用する場合は、図2(d)に示すように、水面に向かって凸湾曲状となすことにより、強い摩擦抵抗を得ることができる。
【0026】
さらに、杭1の縦スリット1aの外周面部に、図4に示すように、ゴム製のリップ6を設置した場合には、このリップ6によって縦スリット1aの開口部が狭くなる。したがって、係留索3がこのリップ6と接触して摩擦抵抗が発生し、抵抗体2の動揺を抑える働きを大きくして、浮体構造物4の動揺をより効果的に抑えることができる。また、ごみの侵入防止の働きも行なう。
【0027】
本発明の杭式係留装置は、たとえば図1(b)に示すように、浮体構造物4の周囲4箇所に設置して、浮体構造物4を係留するものである。図1(b)の例では、船舶が接岸し易いように、紙面上方の接岸面には杭1を配置していない。
【0028】
このような本発明の杭式係留装置では、波浪や潮位の変動によって浮体構造物4が上昇(又は下降)すると、縦スリット1aの作用によって、抵抗体2は何ら遮られることなく浮体構造物4の上昇に伴って上昇(又は下降)できるので、浮体構造物4は水位の変動に対して十分に追従することができる。
【0029】
また、浮体構造物4が波の進行方向によって、水平方向と回転方向に移動した場合は、図5に示すように、波の進行方向に位置する抵抗体2は押されて下降する一方、波の進行より離反する位置の抵抗体2は引っ張られて上昇する。これにより、従来の係留装置に比べて浮体構造物4の動揺を低減することができる。
【0030】
したがって、本発明の杭式係留装置では、潮位や海水流の変化に対して、全方位に追従できるようになる。
【0031】
本発明は、前記の例に限るものではなく、請求項に記載の技術的思想の範囲内において、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の杭式係留装置の例を説明する概略図であり、(a)は断面図、(b)は平面図、(c)は杭の斜視図である。
【図2】本発明の杭式係留装置を構成する抵抗体の外形例を説明する図で、(a)は球体、(b)は楕円体、(c)(d)は円柱体の抵抗体を示す。
【図3】本発明の杭式係留装置を構成する係留索の例を説明する図で、(a)はチェーン、(b)はワイヤー、(c)(d)はテンションロッド、(e)は弾性体、(f)は剛体リンクの例を示す。
【図4】本発明の杭式係留装置の杭の縦スリットに設置するリップの説明図である。
【図5】浮体構造物が波の進行によって水平方向と回転方向に移動した場合の本発明の杭式係留装置の作用を説明する図である。
【図6】浮体構造物の上下方向の動揺範囲における本発明の杭式係留装置の優位性を説明する図である。
【図7】メンテナンスにおける本発明の杭式係留装置の優位性を説明する図である。
【図8】浮体構造物の上下方向の動揺範囲における従来の杭式係留装置の問題点を説明する図である。
【図9】浮体構造物が波の進行によって水平方向と回転方向に移動した場合の従来の杭式係留装置の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 杭
2 抵抗体
3 係留索
4 浮体構造物
6 リップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が海底に固定され、他方が海水面上に突出する複数個の管状杭からなり、
これら各杭の内部には、軸方向への移動が自在なように抵抗体を内装すると共に、各杭の側壁には軸方向に縦スリットを設け、
これら抵抗体と海水面に浮かぶ浮体構造物とを、前記縦スリットを通して係留索で繋ぎ、
前記抵抗体が浮体構造物の上下動に追従して杭の内部を移動するように構成したことを特徴とする杭式係留装置。
【請求項2】
前記縦スリット部にゴム製のリップを設置したことを特徴とする請求項1に記載の杭式係留装置。
【請求項3】
前記係留索は、チェーン、ワイヤー、テンションロッド、弾性体、剛体リンクの何れかからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の杭式係留装置。
【請求項4】
前記抵抗体は、球体、楕円体、円柱体の何れかの外形を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の杭式係留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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