説明

杭引き抜き装置

【課題】 小型で持ち運びが可能で作業現場で職務経験のない作業者でも容易に操作することができ、杭抜きの作業効率を向上することができる小型の杭の引き抜き装置の提供を目的とする。
【解決手段】 狂態1に立設した杭が嵌入可能な溝部12を有する本体部1と、杭を挟持可能な杭保持部材と、本体部1の内部に設けられ杭保持部材をその上面33a、33bに載置して押し上げ可能な油圧ジャッキとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭引き抜き装置に関し、特に小型で操作が容易な杭引き抜き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中に埋め込まれたH形鋼や鋼矢板等の大型の杭を引き抜くための引き抜き装置として、クレーンに吊られたバイブロハンマーを杭の頭部に接続させ、そのバイブロハンマーによって発生する上下運動を利用して引き抜く方法、或いは、クレーンに吊り下げられた滑車に杭の頭部を接続させ、反力板を落下させることによる反力を利用して杭を引き抜く方法、杭周囲を削孔した後、杭を切断、或いは引き抜く方法などが知られている。また、トラクタ等の土木建築作業車に搭載する油圧式のチャックで杭を挟み、油圧により上下動するようにする方法もある。
【0003】
また、杭を囲むように配置された架台フレームの四隅に設けられた支柱に載置された反力フレームを引き抜きジャッキで上昇させて、比較的狭いスペースでも引抜が行える引き抜き装置が報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−31976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来の杭引き抜き装置は、大型の杭を引き抜くための装置であって、建設現場での仮囲いなどに使用される比較的小型の杭の引抜には、建設機械の用途外使用が禁止されているため、従来は手作業に頼ることが多く、そのために、多くの作業工数を要しているという問題があった。
【0006】
本発明は、この問題を解決して、小型で持ち運びが可能で作業現場で職務経験のない作業者でも容易に操作することができ、杭抜きの作業効率を向上することができる小型の杭の引き抜き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の杭引き抜き装置は、立設した杭が嵌入可能な溝部を有する本体部と、前記杭を挟持可能な杭保持部材と、前記本体部内部に設けられ前記杭保持部材を上面に載置して押し上げ可能な油圧ジャッキと、を備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記油圧ジャッキは、前記本体部の前記溝部の左右に1対、独立に操作可能に設けられている構成としても良い。
【0009】
また、前記杭保持部材は、その中央に前記杭を挟持する穴部を有する腕部と、この穴部で挟持された前記杭を締着する締着手段とを備える構成とすることができる。
【0010】
さらに、前記杭保持部材の前記腕部は、その中央で蝶番によって回動可能に支持されて、この回動によって前記穴部で前記杭を挟持可能に構成されていても良い。
【0011】
ここで、前記杭保持部材は、その下面に前記油圧ジャッキの上面を受け入れる凹部を有するようにすることもできる。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の杭引き抜き方法は、立設した杭が嵌入可能な溝部を有する本体部と、前記杭を挟持可能な杭保持部材と、前記本体部内部に設けられ前記杭保持部材を上面に載置して押し上げ可能な油圧ジャッキとを備えた杭引き抜き装置を用いた杭引き抜き方法において、地表から立設した前記杭を前記溝部に嵌入させる杭嵌入工程と、その杭の前記溝部よりも上方の部分に前記杭保持部材を挟着させる保持部材挟着工程と、前記油圧ジャッキを用いて前記杭保持部材を押し上げる押し上げ工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明の杭引き抜き装置は、立設した杭が嵌入可能な溝部を有する本体部と、前記杭を挟持可能な杭保持部材と、前記本体部内部に設けられ前記杭保持部材を上面に載置して押し上げ可能な油圧ジャッキとを備えるように構成したので、簡単な操作で、経験のない作業者でも、少ない力で短い時間に多くの杭を抜くことができる。また、装置は比較的小型で軽量なので、持ち運びも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、いわゆる仮囲いなどに用いられる小型の杭を引き抜く杭引き抜き装置に関するものである。
仮囲いは、建物を建設する際や解体する際、あるいは建物にペンキなどの塗装を行う際などに行われ、通常、周囲100mくらいの囲いに対して75本の杭が必要になる。
このような杭は、その直径は、48.6mmであって、長さが1mの場合は60cm程度、長さが1.5mの場合は1m程度が地中に埋設されている。仮に、75本の杭を手作業で抜くとすると、建設現場によって条件は変わるが、数人で作業したとしてもほぼ1日(8時間)の作業工数が掛かる。これは、たとえ作業機械を流用したとしてもさほど工数を短縮することができず、且つ、コストアップにつながることになる。
【0015】
ことに、杭を打ち込んでからの日数が1ヵ月後、1年後、2年後と長くなるにつれて、また、雨によって、杭を打ち込んだ周辺の地面が固まるにつれ、抜けにくくなって作業工数が増えることになる。また、打ち込んだ地面が、土かアスファルトであるかによっても異なってくる。
本発明は、このような問題を解決して、このような小型の杭を、経験のない作業者でも容易に効率よく、短い工数で抜くことが可能な杭引き抜き装置を提供する。
【0016】
以下、本発明を図面に沿って詳細に説明する。
図1は、本発明の杭引き抜き装置の一実施形態の本体部1の斜視図、図2は、図1に示す実施形態の本体部1の正面側斜視図、図3は、図1に示す実施形態の本体部1の裏面側斜視図、図4は、図1に示す実施形態の本体部1の側面側斜視図である。
さらに、図5は、本実施形態の杭引き抜き装置の杭保持部材2を含めた上面図、図6は、本実施形態の杭引き抜き装置の側面断面図である。
【0017】
図1乃至図6に示したように、本体部1は、正面側に立設する杭4を案内する溝部12を備え、左右の側面に取手13を有する筐体11で構成されている。この筐体11の内部の溝部12の左右には1対の油圧ジャッキ3a、3bが収納されている。
【0018】
油圧ジャッキ3a、3bには、それぞれハンドル31a、31bと圧抜きコック32a、32bが設けられており、圧抜きコック32a、32bを閉じた状態でハンドル31a、31bを上下することによって、油圧ジャッキ3a、3bのそれぞれのジャッキ上面33a、33bを、独立に、油圧によって押し上げることができる。なお、ハンドル31a、31bはその基部がねじ状になっていて、搬送時などには取り外して収納し邪魔にならないようにすることができる。
【0019】
一方、図5及び図6に示すように、杭保持部材2は、その中央に穴部23を有する腕部21で構成され、その穴部23の一方側は蝶番22によって回動可能に保持され、穴部23の他方側には、ねじによって穴部23の径を締めて穴部23に挿入された杭4を固定する締着手段24が設けられている。
このような構成であるので、締着手段24を緩めた後、蝶番22を軸に腕部21を開いて穴部23で杭4を挟み込んでから、締着手段24を締めることによって、杭保持部材2で杭4を挟持することができる。
【0020】
この杭引き抜き装置によって杭4を引き抜く方法について説明する。
まず、引き抜きたい杭4のそばに本実施形態の杭引き抜き装置の本体部1を運んで、溝部12に杭4をはめ込む(杭嵌入工程)。このとき、油圧ジャッキ3a、3bの圧抜きコック32a、32bは開いた状態にしておく。本体部1は、比較的小型、軽量で、両側面に取手13が設けられているので、杭4のそばまでの持ち運びや、溝部12への杭4の嵌入は比較的容易である。また、溝部12には、その上下に杭4の側面に当接させる案内が設けられているので、溝部12に杭4を当ててはめ込むだけで、その中心点を決めることができ、杭4の引き抜きの際に位置がずれて引き抜きに失敗するような虞はない。
【0021】
この状態で、杭4の溝部12より上に出た上部に杭保持部材2を挟着させる(保持部材挟着工程)。
杭保持部材2の挟着は、締着手段24を緩めた後、蝶番22を軸に腕部21を開いて穴部23に杭4を挟み込んでから、締着手段24を締めることによって簡単に行うことができ、これによって杭保持部材2を杭4に固定することができる。
なお、杭保持部材2の下の面に油圧ジャッキ3a、3bのジャッキ上面33a、33bを受け入れる凹部を設けておくことで、杭保持部材2の位置決めを容易にするとともに、油圧ジャッキ3a、3bの操作の際にずれを防ぐことができる。
【0022】
杭保持部材2による杭4の挟着が終わったら、圧抜きコック32a、32bを閉じてからハンドル31a、31bを操作して油圧ジャッキ3a、3bによって杭保持部材2を押し上げ、杭保持部材2に挟着された杭4を抜く作業を行う(押し上げ工程)。
このとき、油圧ジャッキ3a、3bは別々に操作することができるので、地面が傾斜していて杭4の立っている方向が地面に対して傾いているような場合には、一方側の油圧ジャッキ3を予め操作して、溝部12の方向が杭4の立設方向とほぼ一致するようにしてから、溝部12に杭4を嵌入させ、その後に、杭保持部材2を杭4に直角な水平方向に挟着させ、締着手段24を閉めて固定する。
【0023】
杭保持部材2を杭4に固定した後、油圧ジャッキ3a、3bを同時に、あるいは交互に操作して、ジャッキ上面33a、33bに積載されている杭保持部材2を押し上げて、杭保持部材2に固定されている杭4を引き抜く。
杭4を引き抜くに際しては、杭4の地中に埋まっている部分をすべて抜く必要はなく、5〜10cm程度引き抜けば、後は手で容易に引き抜くことができる。
【0024】
杭4を油圧ジャッキ3a、3bのジャッキ上面33a、33bで多少押し上げて、地面に埋まっていた部分が多少上がってきた後は、締着手段24を緩め、杭保持部材2を杭4からはずして、以降は手作業で杭4を引き抜く。
杭引き抜き装置の方は、圧抜きコック32a、32bを緩めて、油圧ジャッキ3a、3bのジャッキ上面33a、33bを下げて次に備えておく。
【0025】
このような方法で引き抜き作業を繰り返すことによって、建設現場での職務経験が少ない作業者でも、手作業の場合の1/3ぐらいの作業時間で効率的に杭の引抜を行うことができる。さらに、杭保持部材2を複数用意しておいて、予め複数の杭4にこの杭保持部材2を取り付け、杭引き抜き装置の本体部1を順次移動して引き抜き作業を行うようにすると、さらに作業時間を短縮することもできる。
【0026】
以上、本発明を一実施の形態に沿って説明したが、本発明は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が考えられる。
例えば、以上の実施形態では杭保持部材2は中心で開閉可能な腕部21を有する形状として示したが、輪状、板状に構成されてもよく、その締着手段24も、実施形態ではねじによって締める型のものについて述べたが、ばねによって締めるように形成しても、杭4に設けられた段差や凹部に勘合するようなものであっても、引き抜き時に杭4を充分に保持できるものであればどのようなものであっても差し支えない。
【0027】
また、本体部1の形状も、杭4を充分に案内でき、油圧ジャッキ3a、3bを杭4の両側に設置でき、杭4を固定した杭保持部材2を押し上げることが可能な小型で持ち運びが可能な形状であれば、どのような形状でも差し支えない。
【0028】
本発明は、以上のように構成され機能するので、杭4を挟んだ杭保持部材2を油圧式のジャッキ3a、3bで押し上げることで、地面に打ち込まれた杭4を少ない力と短い時間で効率的に抜くことができる。さらに、複数の杭保持部材2を用意して予め複数の杭4に固定しておくことでいっそう効率を上げることができる。ここで杭4を押し上げる高さはせいぜい5〜10cm程度で充分である。この装置では溝部12に杭4を当てるだけで中心点を決定することができ、位置決めが容易である。左右の油圧ジャッキ3a、3bをそれぞれ単独に作動させることができるので、斜面に打ち込まれた杭4にも容易に対応することができる。また、経験の少ない作業者によっても簡単に使用することができる。小型、軽量で、杭保持部材2やハンドル31a、31bを別にすることができるので持ち運びが容易である。などの特徴を有している。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、以上に述べたように小型の杭の引き抜きを効率的に行うことができるので、仮囲いが必要なあらゆる建設現場で広く利用することができ、建築、建設産業の広範囲な分野で広範に利用される可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の杭引き抜き装置の一実施形態の本体部の斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態の本体部の正面側斜視図である。
【図3】図1に示す実施形態の本体部の裏面側斜視図である。
【図4】図1に示す実施形態の本体部の側面側斜視図である。
【図5】図1に示す実施形態の杭保持部材を含めた上面図である。
【図6】図1に示す実施形態の杭保持部材を含めた側面断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 本体部
2 杭保持部材
3a、3b 油圧ジャッキ
4 杭
11 筐体
12 溝部
13 取手
21 腕部
22 蝶番
23 穴部
24 締着手段
25 凹部
31a、31b ハンドル
32a、32b 圧抜きコック
33a、33b ジャッキ上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立設した杭が嵌入可能な溝部を有する本体部と、
前記杭を挟持可能な杭保持部材と、
前記本体部内部に設けられ前記杭保持部材を上面に載置して押し上げ可能な油圧ジャッキと、
を備えたことを特徴とする杭引き抜き装置。
【請求項2】
前記油圧ジャッキは、前記本体部の前記溝部の左右に1対、独立に操作可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の杭引き抜き装置。
【請求項3】
前記杭保持部材は、その中央に前記杭を挟持する穴部を有する腕部と、この穴部で挟持された前記杭を締着する締着手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の杭引き抜き装置。
【請求項4】
前記腕部は、その中央で蝶番によって回動可能に支持されて、この回動によって前記穴部で前記杭を挟持可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の杭引き抜き装置。
【請求項5】
前記杭保持部材は、その下面に前記油圧ジャッキの上面を受け入れる凹部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の杭引き抜き装置。
【請求項6】
立設した杭が嵌入可能な溝部を有する本体部と、前記杭を挟持可能な杭保持部材と、前記本体部内部に設けられ前記杭保持部材を上面に載置して押し上げ可能な油圧ジャッキとを備えた杭引き抜き装置を用いた杭引き抜き方法において、
地表から立設した前記杭を前記溝部に嵌入させる杭嵌入工程と、
その杭の前記溝部よりも上方の部分に前記杭保持部材を挟着させる保持部材挟着工程と、
前記油圧ジャッキを用いて前記杭保持部材を押し上げる押し上げ工程と、
を有することを特徴とする杭引き抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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