説明

杭引抜機

【課題】杭の引抜作業を、大型のクレーンを要することなく、能率良く安全に行なうことができる杭引抜機を提供する。
【解決手段】杭20を囲むように地中にケーシング3を建て込むケーシングドライバを有する。第1、第2の吊下部材16、17を有する作業機を有する。第1、第2の吊下部材16,17に支持されてケーシング3内に挿入される杭切断機4を有する。第2の吊下部材17を巻き上げることにより第1の液圧シリンダ23を伸長させる。すると第2の液圧シリンダ26が作動してバケット26を閉じ方向に作動し、切断刃25が杭20に食込む。そしてケーシング3をケーシングドライバにより回転または揺動させて動力伝達手段30、31を介して杭切断機4を回転または揺動させることにより地中の杭20を切断する。吊下部材16、17を巻き上げることにより、切断した杭を地上に引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設されている古い杭を上部から順に切断して引き抜く杭引抜機に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化したコンクリート建造物を壊して新たな建造物を構築する場合、杭の耐用年数やコンクリート建造物との適応性との関係上、地中に埋設されている基礎杭(木杭、PC杭、PHC杭、場所打杭)は引き抜く必要がある。このような埋設された杭の引抜を行なう場合、従来、杭を囲むように円筒形のケーシングをケーシングドライバなどにより建て込んだ後、ケーシング内に固定でき、かつ下部にスクリューオーガを有する掘削機を吊り込み、スクリューオーガの回転により杭の上部を破砕し、所定量の破砕を行なった後、掘削機と共に杭の破砕屑と土砂を引き上げて地上に排土するという作業を繰り返すものがある。
【0003】
杭を引き抜く別の従来技術として、ケーシングの下部に、地上から供給する油圧によりケーシングの内方に突出するカッタを設け、杭を囲むようにケーシングを建て込んだ後、ケーシング下部のカッタを油圧により内方に突出させてこのカッタをケーシングと共にケーシングドライバにより回転させ、これにより杭の下部の内部の鉄筋を切断し、この切断部分より上部の杭の部分(杭の大部分)を除去するものがある(特許文献1参照)。この杭の除去は、杭にワイヤを掛け、クレーンにより引き上げる必要がある。ケーシング内の底部に残った杭はハンマーグラブにより土砂と共に除去する。
【0004】
杭を引き抜くさらに別の従来技術として、ケーシング内に、地上から供給される高圧水を噴出するノズルを取付けたノズルホルダをケリーバにより垂下し、ケリーバを回転させて障害物(杭)を輪切りにし、次にこのノズルホルダを引き上げ、その後、ノイズホルダの代わりにハンマーグラブをケーシング内に挿入して輪切りにしたものを引き上げるものがある(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−120670号公報
【特許文献2】特開平7−305351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、ケーシング内の杭を、スクリューオーガにより全断面破砕する場合、杭の破砕に多大のエネルギーを必要とし、エネルギーロスが大きく、かつスクリューオーガを引き上げて排土するので、破砕した杭や土砂がケーシング内に残り、排土効率が悪いという問題点がある。
【0007】
また、特許文献1に記載のように、杭の下部を切断し、ワイヤを杭に掛けて引き上げる場合には、杭の大部分をクレーンによって引き上げる必要があるので、大型のクレーンが必要となる上、ワイヤ掛けして引き上げるため、安全性に問題がある。また、杭の残部はハンマーグラブにより排土する必要があるので、多種の排土機械を必要とするという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2に記載のように、高圧水のノズルからの噴出によって杭を輪切りにしてハンマーグラブにより排土する場合には、ノズルホルダとハンマーグラブを交互に取り替えて輪切りと排土を繰り返す必要があるので、作業能率が悪いという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、杭の引抜作業を、大型のクレーンを要することなく、能率良く安全に行なうことができる杭引抜機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の杭引抜機は、下端に掘削爪を有する円筒形のケーシングと、
地上に設置されて前記ケーシングを回転または揺動させて前記ケーシングを地中に建て込むケーシングドライバと、
地上に設置され、それぞれ異なるウインチにより第1、第2の吊下部材を巻き取り繰り出し可能に設けた作業機と、
前記ケーシングに挿入される杭切断機とを備え、
前記杭切断機は、前記第1の吊下部材に接続されて吊り下げられる杭切断機本体と、
前記杭切断機本体にロッド側またはチューブ側のいずれか一方が接続され、そのいずれか他方が前記第2の吊下部材に接続される第1の液圧シリンダと、
前記ケーシングの回転力を前記杭切断機に伝達する動力伝達手段と、
前記杭切断機本体の下部に開閉可能に取付けられ、下部に杭の切断刃を有するバケットと、
前記杭切断機本体と前記バケットとの間に設けられ、前記第1の液圧シリンダとの間で閉じた液圧回路により接続された第2の液圧シリンダとを備え、
地中に建て込まれた前記ケーシング内の下部に、前記第1、第2の吊下部材を繰り出して杭切断機を挿入し、前記第2の吊下部材を巻き上げることにより前記第1の液圧シリンダを伸長させ、もって前記第2の液圧シリンダを伸長または収縮させて前記バケットを閉じ方向に作動させて前記切断刃を杭に食込ませ、前記ケーシングを前記ケーシングドライバにより回転または揺動させて前記動力伝達手段を介して前記杭切断機を回転または揺動させることにより地中の杭を切断し、前記第1、第2の吊下部材を巻き上げることにより、切断した杭を地上に引き上げる
ことを特徴とする。
【0011】
請求項2の杭引抜機は、請求項1において、
前記動力伝達手段は、前記第1の液圧シリンダの伸長により伸長する液圧シリンダおよびその液圧シリンダの伸長によりケーシングの内壁に係合する係合部材からなる
ことを特徴とする。
【0012】
請求項3の杭引抜機は、請求項1または2において、
前記杭切断機本体に、杭に係合して杭切断機の中心を杭の頂部に固定する芯出し装置を備えた
ことを特徴とする。
【0013】
請求項4の杭引抜機は、請求項1から3までのいずれかにおいて、
前記バケットは、バケット内に収容される土砂がバケットの外部に通過可能な構造を有する
ことを特徴とする。
【0014】
請求項5の杭引抜機は、請求項1から4までのいずれかにおいて、
前記第1の液圧シリンダを収縮させる方向に作用する錘を備えた
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、杭切断機により所定のサイズごとに切断して杭切断機で引き上げるので、杭の大部分を一度に引き上げる場合のように大型のクレーンを要することなく杭の引き抜きが可能になる。また、杭をバケットにより把持した状態で引き上げることができるので、杭の引き上げを安全に行なうことができる。また、杭の切断後、同じ杭切断機を使用してその切断された杭を引き上げることができるので、能率良く杭の引抜を行なうことができる。また、いかなる深さの杭であっても、ハンマーバケット等を用いることなく、同じ杭切断機を用いて杭を分断しながら杭の引上を行なうことができ、使用する機械が少なくてすむ。
【0016】
また、杭切断機の引き上げ力を用いてバケットの切断刃の刃先に杭の切断に要する食込み力を得ているので、杭への食込みのための油圧源等の他の液圧源を必要とせず、装置構成が簡略化できる上、内部循環式液圧回路を使用しているので、バケットの刃先に大きな食込み力を得ることができる。また、バケットを開閉する液圧回路に外部供給回路が不要になるので、エネルギロスが少なく、エネルギ効率が良い。
【0017】
請求項2の発明によれば、前記第1の液圧シリンダの伸長により伸長する液圧シリンダおよびその液圧シリンダの伸長によりケーシングの内壁に係合する係合部材によりケーシングの回転力を杭切断機に伝達する動力伝達手段を構成したので、杭切断機をケーシングと同時に回転させるための液圧源や電源を要しない。このため、操作が簡単になる上、地上装置の煩雑さを軽減することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、前記杭切断機本体に、杭に対して杭切断機の中心を固定して芯出しを行なう装置を備えたので、杭切断機のバケットの回転に伴いバケットが杭に対して振れることなく、杭を確実に切断することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、前記バケットが、バケット内に収容される土砂をバケット外部に通過させて排出可能な構造を有するため、バケットが閉じる際に、バケット内の土砂がバケットの閉じ動作の妨げになることがなく、円滑なバケットの閉じ動作が行なわれる。
【0020】
請求項5の発明によれば、前記第1の液圧シリンダを収縮させる方向に作用する錘を備えたので、第2の吊下部材の張力を無くすることにより、前記錘により第1の液圧シリンダを収縮させて第2の液圧シリンダを作動させ、バケットを開くことができる。このため、バケットに設けた切断刃の損傷等により杭の切断ができなくなったような事故が発生した場合、第2の吊下部材を緩めてバケットを開き、杭切断機を地上に引き上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明による杭引抜機に一実施の形態を作業状態で示す側面図である。1は地上(コンクリート建造物の底盤を含む。)に設置されるケーシングドライバ、2はこのケーシングドライバ1に随伴してケーシング3の吊り込み、引き抜きを行なう作業機であり、本実施の形態ではこの作業機2がクレーンである場合について示す。4は作業機2により吊下げられる杭切断機である。
【0022】
ケーシングドライバ1としては公知のものを用いることができる。このケーシングドライバ1は、水平調整手段を有するベースフレーム5にガイド6を設置し、このガイド6に沿って液圧シリンダ等により昇降可能に昇降フレーム7を設け、この昇降フレーム7に、モータにより水平回動可能な回転体(図示せず)を設置し、その回転体に、ケーシング3を貫挿して把持するチャッキング装置(図示せず)を設けたものである。
【0023】
作業機2は、走行体9上に旋回装置10を介して旋回体11を設置し、その旋回体11上に第1のウインチ12、第2のウインチ13等の複数台のウインチを設置すると共に、起伏装置14によりブーム15を起伏可能に取付け、前記第1のウインチ12、第2のウインチ13によりそれぞれ巻き取り繰り出しされる第1のロープ(以下第1の吊下部材と称す。)16および第2のロープ(以下第2の吊下部材と称す。)17をブーム15の頂部から垂下する。
【0024】
ケーシングドライバ1は、作業機2により所定の長さの分割ケーシング3aを吊り込み、ケーシング3をチャック装置によりチャックし、昇降フレーム7を下降させながら回転体を回転または揺動させることにより、最下端の分割ケーシング3aに設けた掘削爪3b(図2参照)により、ケーシング3を建て込み、1個の分割ケーシング3a分の掘進が終わると、再度作業機2の第1のウインチ12(または第2のウインチ13)および第1の吊下部材17(または第2の吊下部材17)を用いて新たな分割ケーシングを吊り上げて既設の分割ケーシング3aの上部に継ぎ足し、前記と同様にケーシング3の建て込みを行なう。杭20の無い通常の掘削においては、ケーシング3の内部の土砂はハンマーグラブを用いて中堀を行なう。
【0025】
杭20の引き抜きを行なう場合は、コンクリート建造物の底盤を他の掘削作業機により除去して杭20の頭部を露出させた後、杭20の中心がケーシング3の中心に合致するようにケーシングドライバ1を設置してケーシング3の建て込みを行ない、後述のように作業機2により杭切断機4をケーシング3内に吊り込み、杭20の上部切断と引き上げを行ない、その後、ケーシング3の建て込みと、杭切断機4の上部切断の繰り返しを行なう。
【0026】
次にこの杭20の切断、引き抜きを行なう杭切断機4の詳細を、図2ないし図4により説明する。杭切断機4は、図2および図3(A)に示すように前記第1の吊下部材17に接続されて吊り下げられる杭切断機本体21と、この杭切断機本体21に下端が接続され、上端が前記第2の吊下部材17に接続される第1の液圧シリンダ23(なお本例ではチューブ側が杭切断機本体21に接続され、ロッド側が第2の吊下部材17に接続されているが、ロッド側を杭切断機本体21に接続し、チューブ側を第2の吊下部材17に接続してもよい。)と、図2および図3(B)に示すように、杭切断機本体21の下部に軸24を中心に開閉可能に取付けられ、下部に切断刃25を有するバケット26と、第1の液圧シリンダ23のロッド室とボトム室との作動液の供給量と排出量とを各室の断面積に適合したものとするためのダミーの液圧シリンダ29とを備える。図3(C)に示すように、バケット26は、開口部26aを設ける等の構造により、バケット26内に収容される土砂を通過できる構造とする。
【0027】
30はケーシング3の回動力を杭切断機4に伝達するためにケーシング3の下部、すなわち最下部の分割ケーシング3aの内面に設けた伝達部材、31は杭切断機本体21に設けた伝達受部材であり、伝達受部材31は図3(A)に示すように、伝達部材30に嵌合する構造を有する。図2、図3(D)に示すように、伝達部材30は下部に伝達受部材31を受けて杭切断機21の抜け落ちを防止するストッパ32を有する。
【0028】
前記第1の液圧シリンダ23は直接に杭切断機本体21と第2の吊下部材17に接続してもよいが、本実施の形態においては、この第1の液圧シリンダ23の保護のために第1の液圧シリンダ23を伸縮筒式保護筒33に収容して取付けることにより、第1の液圧シリンダ23の上部は保護筒33を介して第2の吊下部材17に間接的に接続している。この保護筒33は下部内筒33aが杭切断機本体21の下部に接続され、上部外筒33bが前記第2の吊下部材17に接続される。そして第1の液圧シリンダ23の下端が下部内筒33aに接続され、上端が上部外筒33bに接続される。
【0029】
35は杭切断機本体21の中央に下方に突出させて形成した芯出し装置であり、先端を杭20の上面に食込ませて杭20に対して杭切断機本体21の中心を固定するものである。
【0030】
次にこの杭引抜機を用いて杭の引き抜きを行なう場合の作業について説明する。前述のように、まず杭20がケーシング3の中心となるように、ケーシング3を前述の手順によりケーシングドライバ1によって地中に建て込む。この場合のケーシング3の建て込み深さは、芯出し装置35が杭20の頂部に接した時にケーシング3内の伝達部材30が杭切断機本体21の伝達受部材31に係合できる程度の深さとする。
【0031】
次に作業機2の第1、第2の吊下部材16、17をそれぞれ杭切断機本体21と保護筒33に接続し、第2の吊下部材17を弛ませた状態で吊下げ、第1のウインチ12および第2のウインチ13を、吊下部材16、17の繰り出し速度が同速度になるように繰り出して図5(A)(なお、図5、図6では保護筒33の図示を省略している。)に示すように杭切断機4をケーシング3内に挿入する。そして、図5(B)に示すように杭切断機本体21の伝達受部材31をケーシング3の伝達部材30に嵌合すると同時に、杭20の上面に芯出し装置35を、杭切断機4の重みにより食込ませる。
【0032】
次に図5(C)に示すように第2の吊下部材17を巻き上げる。すると図4(A)に示すように、第1の液圧シリンダ23が伸長する。これにより、第1の液圧シリンダ23のロッド室aの液圧が上昇し、この上昇した圧液が回路bを通して第2の液圧シリンダ27のボトム室cに入り、第2の液圧シリンダ27が伸長する。これにより第2の液圧シリンダ27のロッド室dの圧液が回路eを通してダミーの液圧シリンダ29のロッド室fに入り、そのボトム室gの圧液が第1の液圧シリンダ23のボトム室iに入る。
【0033】
このような圧液の流れにより、第2の液圧シリンダ27が伸長すると、バケット26が閉じ方向に動く。これによりバケット26に設けた切断刃25が杭20に食込む。この時、図3(C)に示すように、バケット26は開口部26aを有するため、バケット26、26間に収容される土砂はバケット26の外側に排出される。このため、杭20の周囲にあってバケット26が閉じることによりバケット26内に取り込まれる土砂がバケット26の閉じ動作を妨げることがない。
【0034】
このように、第2の吊下部材17に張力を付加したままでケーシング3をケーシングドライバ1により回転または揺動させると、杭20を切断することができる。例えば最も一般的な鉄筋入りのコンクリート杭の場合、鉄筋は杭の外周側に同心状に内蔵されているので、切断刃25が鉄筋を切断することによって杭の切断が十分可能である。他の種類の場合はさらに切断が容易となる。図4(B)はバケット26が閉じた状態を示す。この閉じた状態では、第1、2の液圧シリンダ23、27は伸長状態、ダミーの液圧シリンダ29は収縮状態となる。
【0035】
次に、第2の吊下部材17に張力をかけたまま、図6(A)に示すように第1、第2の吊下部材16、17を第1のウインチ12と第2のウインチ13を同時に作動させて巻き上げることにより、図6(B)に示すように切断した杭の上部の部分20aを地上(36は地面を示す。)に引き上げる。次に図6(C)に示すように、杭切断機4を地上に吊上げた状態で第2の吊下部材17を緩めると、バケット26に把持されている杭20aの重みでバケット26が開き、同時に第1、2の液圧シリンダ23、27が縮み、切断された杭の一部20aは地面36に落下する。
【0036】
このように切断した杭の一部を引き上げた後、分割ケーシング3aを作業機2の第1の吊下部材16または第2の吊下部材17等を用いて吊り、既設のケーシング3上に継ぎ足し、ケーシングドライバ1を作動させてケーシング3を掘進させる。このようにして1本あるいは複数本の分割ケーシング3aを継ぎ足して建て込んだ後、杭切断機4を再度ケーシング3内に吊り込んで杭20の切断、引き上げを行なう。
【0037】
このように、本発明の杭引抜機によれば、杭20を、杭切断機4のサイズにより決まる所定の長さごとに切断して引き上げるので、杭20の大部分を一度に引き上げる場合のように大型のクレーンを要することなく杭の引抜が可能になる。また、杭20をバケット26により把持した状態で引き上げることができるので、杭20の引き上げを安全に行なうことができる。また、杭の切断後、同じ杭切断機4を使用してその切断された杭の一部20aを引き上げることができるので、能率良く杭20の引抜を行なうことができる。また、いかなる深さの杭であっても、ハンマーバケット等を用いることなく、同じ杭切断機4を用いて杭を分断しながら杭20の引上を行なうことができ、引抜に要する機械の台数が少なくてすむ。
【0038】
また、杭切断機4の引き上げ力を用いてバケット26の切断刃25の刃先に杭20の切断に要する食込み力を得ているので、杭20への食込みのための油圧源等の他の液圧源を必要とせず、装置構成が簡略化できる上、内部循環式液圧回路を使用しているので、バケット26の切断刃25の刃先に大きな食込み力を得ることができる。また、バケット26を開閉する液圧回路に外部供給回路が不要になるので、エネルギロスが少なく、エネルギ効率が良い。
【0039】
また本実施の形態においては、杭切断機本体21に、杭20に対して杭切断機4の中心を固定して芯出しを行なう装置35を備えたので、杭切断機4のバケット26の回転に伴いバケット26が杭20に対して振れることなく、杭20を確実に切断することができる。
【0040】
また本実施の形態においては、バケット26が、バケット26内に収容される土砂を外部に通過させて排出可能な構造を有するため、バケット26が閉じる際に、バケット26内の土砂をバケット26外に排出させることができ、バケット26内の土砂が閉じ動作の妨げになることがなく、円滑なバケット26の閉じ動作が行なわれる。
【0041】
図7は本発明による杭切断機の他の実施の形態を示す側面図、図8はその液圧回路図である。この実施の形態においては、前記杭切断機本体21の側面に、ケーシング3との係合部材37aを有する伸縮筒37と、その伸縮筒37に内蔵した液圧シリンダ39とを備えたものである。図8に示すように、伸縮筒37に内蔵した液圧シリンダ39は収縮方向にピストンを押圧するスプリング40を有する。この液圧シリンダ39のピストンロッド41は前記伸縮筒37に固着された係合部材37aに連結される。この液圧シリンダ39は、そのボトム室kが前記第1の液圧シリンダ23のロッド室aに回路b、jを通して接続され、ロッド室mが回路o、pを介してダミーの液圧シリンダ29のロッド室fに接続される。
【0042】
この実施の形態において、第2の吊下部材17を巻き上げて第1の液圧シリンダ23を伸長させると、第1の液圧シリンダ23のロッド室aの圧液は回路b、jを通して液圧シリンダ39のボトム室kに入り、液圧シリンダ39がスプリング40の力に抗して伸長する。これにより液圧シリンダ39のロッド室mの圧液は回路o、pを通してダミーの液圧シリンダ29のロッド室fに入り、その液圧シリンダ29のボトム室gの圧液は第1の液圧シリンダ23のボトム室iに入る。これにより、伸縮筒37が伸長し、係合部材37aがケーシング3の内壁に圧接するので、杭切断機本体21がケーシング3に固定される。
【0043】
一方、第1の液圧シリンダ23の伸長により図4(A)で説明したように第2の液圧シリンダ27が伸長してバケット26が閉じ方向に作動する。この後ケーシング3を回転または揺動させると、係合部材37aがケーシング3に圧接して杭切断機4がケーシング3に固定されているので、杭切断機4がケーシング3とともに回転または揺動して杭20を切断することができる。地中で杭20を切断した後、第1の液圧シリンダ23を若干緩めると、動力伝達手段としての液圧シリンダ39がスプリング40の力により第2の液圧シリンダ27より先行して収縮し、係合部材37aが第2の液圧シリンダ27が収縮する前にケーシング3の内壁から離れるので、その第1の液圧シリンダ23の収縮を止めて第1の吊下部材16と第2の吊下部材17を当時に引き上げることにより、バケット26と共に切断した杭の一部20aを引き上げることができる。
【0044】
このように、本実施の形態においては、液圧シリンダ39およびその液圧シリンダ39の伸長によりケーシング3の内壁に係合する係合部材37aにより、ケーシング3の回転力を杭切断機4に伝達する動力伝達手段を構成したので、杭切断機4をケーシング3と同時に回転させるための液圧源や電源を要することなく、このための地上装置の煩雑さを軽減することができる。
【0045】
図9は本発明の杭切断機の他の実施の形態を示す側面図である。この実施の形態は、第1の液圧シリンダ23に収縮力を付与するための錘42を設けたもので、本実施の形態では第1の液圧シリンダ23が保護筒33により覆われているの、保護筒33に錘42を取付けた例を示している。
【0046】
この実施の形態においては、第1の液圧シリンダ23を収縮させる方向に作用する錘42を備えたので、第2の吊下部材17の張力を無くすることにより、第1の液圧シリンダ23を収縮させて第2の液圧シリンダ27を収縮させ、バケット26を開くことができる。このため、バケット26に設けた切断刃25の損傷等の事故により杭20の切断が途中でできなくなったような事故が発生した場合等において、第2の吊下部材17を緩めることにより、錘42の力で第1の液圧シリンダ23を収縮させ、もって第2の液圧シリンダ27を収縮させてバケット26を開き、杭切断機4を地上に引き上げることができる。
【0047】
図10は本発明の他の実施の形態であり、この実施の形態は、ケーシング3の下端の掘削爪3cの内側への突出幅を大きくしてケーシング3の内側の杭20との間に溝51を形成できるような構造(例えばケーシング3の掘削爪3cをケーシング3の内側まで張り出す、またはケーシング3の内側に掘削刃3cとは別の掘削刃を1つまたは複数設ける等)にして、ケーシング3の内周に形成される溝51の幅が、例えば杭20とケーシング3との間の幅の例えば半分以上となるようにし、これにより、杭20の周囲に残留する土砂50を少なくして、バケット26による杭20の切断の際に、杭20の周囲の土砂50が開口部26a等から矢印sで示すように円滑に溝51に落下させるようにしたものである。この構造により、杭20の切断がさらに容易となる。
【0048】
図11は本発明の他の実施の形態であり、この実施の形態は、前記バケット26の開口部26aを塞ぐ蓋52を、例えばボルト53によりバケット26に着脱自在に取付けたものである。この実施の形態においては、蓋52により開口部26aを塞いだ状態で杭20の周囲の土砂50を掘削し、バケット26を地上に引き上げて排土し、続いて蓋52を取外して再度バケット26を地中に下ろし、前記した方法で周囲の土砂50が除去された状態の杭20の切断を行なう。このような手順を採用することにより、杭20の切断が確実に行なえる。
【0049】
本発明を実施する場合、杭切断機本体21に搭載する機器による重量の偏りや第1の吊下部材16と第2の吊下部材17の吊下げ位置の偏りによる杭切断機本体21の傾きを防止したり、芯出し装置35による杭20に対する固定力を得る等の目的等により、杭切断機本体21に錘を付加してもよい。
【0050】
また、本発明を実施する場合、第1の液圧シリンダ23が伸長すると第2の液圧シリンダ27が収縮してバケット26が閉じるように構成することもでき、この場合にはダミーの液圧シリンダ29を省略することができる。
【0051】
また、作業機2としてアースドリルを用い、第1の吊下部材16としてケリーバを用い、第2の吊下部材17としてアースドリルの補助ロープを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による杭引抜機の一実施の形態示す側面図である。
【図2】図1の杭切断機の一例を示す側面図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ図2のE−E断面図およびF−F断面図、(C)はそのバケットを内面側から見た図、(D)伝達受部材を内側から見た図である。
【図4】(A)、(B)はこの実施の形態における液圧シリンダの作用を説明する液圧回路図である。
【図5】(A)、(B)、(C)は本実施の形態の作業手順の一部を説明する工程図である。
【図6】(A)、(B)、(C)は本実施の形態の作業手順の残部を説明する工程図である。
【図7】本発明の杭切断機の他の実施の形態を示す側面図である。
【図8】図7の杭切断機の液圧回路図である。
【図9】本発明の杭切断機の他の実施の形態を示す側面図である。
【図10】本発明の杭切断機の他の実施の形態を示す側面断面図である。
【図11】本発明の杭切断機の他の実施の形態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1:ケーシングドライバ、2:作業機、3:ケーシング、3a:分割ケーシング、3b:掘削爪、4:杭切断機、5:ベースフレーム、6:ガイド、7:昇降フレーム、9:走行体、10:切削装置、11:旋回体、12:第1のウインチ、13:第2のウインチ、14:起伏装置、15:ブーム、16:第1の吊下部材、17:第2の吊下部材、20:杭、20a:切断された杭の一部、21:杭切断機本体、23:第1の液圧シリンダ、24:軸、25:切断刃、26:バケット、27:第2の液圧シリンダ、29:ダミーの液圧シリンダ、30:伝達部材、31:伝達受部材、32:ストッパ、33:保護筒、35:芯出し装置、36:地面、37:伸縮筒、37a:係合部材、39:液圧シリンダ、40:スプリング、41:ピストンロッド、50:土砂、51:溝、52:蓋、53:ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に掘削爪を有する円筒形のケーシングと、
地上に設置されて前記ケーシングを回転または揺動させて前記ケーシングを地中に建て込むケーシングドライバと、
地上に設置され、それぞれ異なるウインチにより第1、第2の吊下部材を巻き取り繰り出し可能に設けた作業機と、
前記ケーシングに挿入される杭切断機とを備え、
前記杭切断機は、前記第1の吊下部材に接続されて吊り下げられる杭切断機本体と、
前記杭切断機本体にロッド側またはチューブ側のいずれか一方が接続され、そのいずれか他方が前記第2の吊下部材に接続される第1の液圧シリンダと、
前記ケーシングの回転力を前記杭切断機に伝達する動力伝達手段と、
前記杭切断機本体の下部に開閉可能に取付けられ、下部に杭の切断刃を有するバケットと、
前記杭切断機本体と前記バケットとの間に設けられ、前記第1の液圧シリンダとの間で閉じた液圧回路により接続された第2の液圧シリンダとを備え、
地中に建て込まれた前記ケーシング内の下部に、前記第1、第2の吊下部材を繰り出して杭切断機を挿入し、前記第2の吊下部材を巻き上げることにより前記第1の液圧シリンダを伸長させ、もって前記第2の液圧シリンダを伸長または収縮させて前記バケットを閉じ方向に作動させて前記切断刃を杭に食込ませ、前記ケーシングを前記ケーシングドライバにより回転または揺動させて前記動力伝達手段を介して前記杭切断機を回転または揺動させることにより地中の杭を切断し、前記第1、第2の吊下部材を巻き上げることにより、切断した杭を地上に引き上げる
ことを特徴とする杭引抜機。
【請求項2】
請求項1に記載の杭引抜機において、
前記動力伝達手段は、前記第1の液圧シリンダの伸長により伸長する液圧シリンダおよびその液圧シリンダの伸長によりケーシングの内壁に係合する係合部材からなる
ことを特徴とする杭引抜機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の杭引抜機において、
前記杭切断機本体に、杭に係合して杭切断機の中心を杭の頂部に固定する芯出し装置を備えた
ことを特徴とする杭引抜機。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の杭引抜機において、
前記バケットは、バケット内に収容される土砂がバケットの外部に通過可能な構造を有する
ことを特徴とする杭引抜機。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の杭引抜機において、
前記第1の液圧シリンダを収縮させる方向に作用する錘を備えた
ことを特徴とする杭引抜機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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